説明

缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物

【課題】加工密着性と耐レトルト性に優れた塗膜を形成できる缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物を提供することる。
【解決手段】3級カルボキシル基を有するジオール、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等の2,2−ビス(ヒドロキシメチル)アルカン酸を含有するジオール成分(a1)とジカルボン酸成分(a2)を用いて得られる、酸価10〜80mgKOH/g、水酸基価5〜50mgKOH/g、数平均分子量2,200〜15,000のポリエステル樹脂(A)、好ましくは酸価15〜40mgKOH/g、水酸基価7〜28mgKOH/g、数平均分子量3,000〜8,000のポリエステル樹脂の塩基性化合物による中和物と、硬化剤(B)、好ましくはアミノ樹脂が、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散している缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工密着性、耐レトルト性等に優れた塗膜性能を持つ缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶は、飲料、食品類等の包装容器の一種として広く用いられている。これらの缶の外面は、缶材の腐食を防止し、美的商品価値を高め、かつ内容物の殺菌処理時の熱処理工程に耐え得る塗膜で被覆される。近年、このような被覆に用いる塗料としては、環境衛生、省資源の点から水性塗料が種々実用化されている。
【0003】
また、近年、飲料、食品類等の商品価値を高めるためにボトル形状加工やネジ加工などの意匠を施した金属缶の需要が高まっている。このような缶を被覆する塗膜としては、従来からポリエステル樹脂系塗料が一般に用いられており、例えば、酸価30〜50、水酸基価160〜250、数平均分子量1,000〜2,000であって、ポリオール成分の1種として2−エチル−2−n−ブチル−1,3−ジヒドロキシプロパンを含有するポリエステル樹脂(A)の塩基性化合物による中和物とアミノプラスト樹脂とを含有する缶外面塗料用水性塗料が知られており(例えば、特許文献1参照。)、加工性、耐レトルト性、密着性に優れた塗膜を形成でき、かつウエットインク適性にも優れるとの記載がある。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された缶外面塗料用水性塗料は、ボトル形状加工やネジ加工等のように加工形状が複雑もしくは変形度が大きい加工を行う金属缶用として用いるには、加工性、特に加工密着性(加工後の塗膜密着性)が実用上満足しうるものではなく、金属缶のボトル形状加工やネジ加工等により塗膜に亀裂や剥離が発生しやすいという問題がある。しかも、耐レトルト性も必ずしも十分とは言えず、さらなる向上が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−157984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、加工密着性と耐レトルト性に優れた塗膜を形成できる缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、ポリエステル樹脂として、3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a1)を用いて得られる、酸価10〜80mgKOH/g、水酸基価5〜50mgKOH/g、数平均分子量2,200〜15,000のポリエステル樹脂(A)を用いてなるポリエステル樹脂系水性塗料組成物は、缶外面用として加工密着性と耐レトルト性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a11)とジカルボン酸成分(a2)を用いて得られる、酸価10〜80mgKOH/g、水酸基価5〜50mgKOH/g、数平均分子量2,200〜15,000のポリエステル樹脂(A)の塩基性化合物による中和物と、硬化剤(B)が、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散していることを特徴とする缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物は、ボトル形状加工後や及びネジ加工後において加工密着性に優れた塗膜を形成し、且つ耐レトルト性に優れるという性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)は、3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a1)とジカルボン酸成分(a2)を用いて得られるポリエステル樹脂であり、酸価が10〜80mgKOH/g、水酸基価が5〜50mgKOH/g、数平均分子量が2,200〜15,000であることが必須である。
【0011】
ポリエステル樹脂(A)は、酸価が10〜80mgKOH/gであり、中でも酸価が15〜40mgKOH/gであることが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満では、水性媒体中に溶解および/または分散することができず、また酸価が80mgKOH/gを超えると、耐レトルト性に優れた塗膜が得られなくなるため、いずれも好ましくない。
【0012】
なお、ポリエステル樹脂(A)の酸価は、樹脂試料1.0gをトルエン/メタノール混合溶液に溶解し、フェノールフタレインを指示薬に用いて0.1mol/l水酸化カリウム/エタノール溶液で中和滴定を行って求めた。
【0013】
ポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、5〜50mgKOH/gであり、中でも水酸基価が7〜28mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が5mgKOH/g未満では、耐レトルト性に優れた塗膜が得られなくなり、また水酸基価が50mgKOH/gを超えると、加工密着性に優れた塗膜を得られなくなるため、いずれも好ましくない。
【0014】
ポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、樹脂試料10.0gに無水酢酸/ピリジン溶液25mlを加えて加熱して1時間反応を行った後に、フェノールフタレインを指示薬に用い0.5mol/l水酸化カリウム/エタノール溶液で中和滴定を行って求めた。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、2,200〜15,000であり、中でも数平均分子量が3,000〜8,000であることが好ましい。数平均分子量が2,200未満では、加工密着性が低下するため、数平均分子量が15,000を超えると、硬化剤(B)との相溶性が低下し、また塗料粘度の増大等の不具合が生じるため、いずれも好ましくない。
【0016】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、加工密着性に優れた塗膜が得られることから、3,000〜70,000であることが好ましく、なかでも4,500〜35,000であることがより好ましい。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量と重量平均分子量の測定は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフを用い、下記の条件でポリスチレン換算により求めた。
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製 ガードカラムHXL−H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理; 東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件 ; カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ; ポリスチレン
試料 ; 樹脂固形分換算で0.4重量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、特に限定されないが、塗膜の硬度と可撓性が適当な範囲でバランスが取れることから、−20〜60℃であることが好ましい。このため、ポリエステル樹脂(A)の合成に際しては、ガラス転移温度が−20〜60℃となるように、ジオール成分(a1)、ジカルボン酸成分(a2)等の原料成分を適宜選択し組み合わせることが好ましい。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度はJIS−K−7121に準じて示差走査熱量(DSC)測定により求めた。
測定装置; TAインスツルメント製 DSCQ−100
容器 ; アルミ製オープンセル
昇温速度; 20℃/分
【0020】
ポリエステル樹脂(A)は、3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a1)とジカルボン酸成分(a2)を必須成分とし、更に必要によりジオール以外のポリオールやジカルボン酸以外のポリカルボン酸を併用しての重縮合反応(エステル化反応)により合成することができる。この反応は、常圧下、減圧下の何れで行ってもよく、また、分子量の調節は各成分の仕込比、例えばジオール成分(a1)とジカルボン酸成分(a2)の仕込比等を適宜調整することによって行うことができる。さらに、ジオール以外のポリオールやジカルボン酸以外のポリカルボン酸の量を調整することによりポリエステル樹脂(A)の分岐度や分子量を制御することができる。なお、ポリエステル樹脂(A)の合成に際して、水酸基またはカルボキシル基を1個有する化合物を併用することもできるが、通常の場合、これらは併用しないことが好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)の製造に用いるジオール成分(a1)としては、3級カルボキシル基を有するジオールを含有するものであることが必須であり、その含有率は特に限定されないが、通常はジオール成分(a1)中の3〜40重量%であり、中でも耐レトルト性に優れる塗膜が得られることから5〜20重量%であることが好ましく、所望する樹脂酸価に応じてこの範囲で使用されるものである。
【0022】
ここで用いる3級カルボキシル基を有するジオールは、3級カルボキシル基と共に2個以上のアルコール性水酸基を有するものであれば限定されないが、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)アルカン酸が好ましく、中でもジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸がより好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)を得るのに用いるジオール成分(a1)中の他のジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、キシレングリコール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。また、ジオール以外のポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上のポリオールが挙げられる。
【0024】
前記ポリエステル樹脂(A)の製造に用いるジカルボン酸成分(a2)としては、ジカルボン酸の無水物であってもよく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸等の芳香族ジカルボン酸;テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;(無水)コハク酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ハイミック酸等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。更にジカルボン酸以外のポリカルボン酸としては、例えば、(無水)トリメリット酸、トリメシン酸、(無水)ピロメリット酸等が挙げられる。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)の塩基性化合物による中和物〔以下、「ポリエステル樹脂(A)の中和物」と略す。〕としては、ポリエステル樹脂(A)を合成した後にカルボキシル基の全部または一部を塩基性化合物で中和したものが好ましいが、予めポリエステル樹脂(A)の合成に用いる各種カルボン酸および3級カルボキシル基を有するジオール中のカルボキシル基の全部または一部を予め塩基性化合物で中和したものを用いて合成したものであってもよい。
【0026】
ここでポリエステル樹脂(A)の中和に用いる塩基性化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルルアミン、ジプロピルルアミントリプロピルルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール、N−メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の多価アミン等の有機アミン、および、アンモニア(水)が挙げられる。
【0027】
本発明で用いる硬化剤(B)としては、前記ポリエステル樹脂(A)が有する水酸基および/またはカルボキシル基と反応するものが良く、水酸基と反応する硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、フェノール樹脂等が挙げられ、カルボキシル基と反応する硬化剤としては、例えば、エポキシ化合物等が挙げられる。これらの中でも水酸基と反応する硬化剤が好ましく、通常はアミノ樹脂が用いられる。また、アミノ樹脂と併用してブロックポリイソシアネート化合物を使用しても良い。
【0028】
ここで用いられるアミノ樹脂としては、例えば、メラミン、ベンゾグアナミン、尿素、2−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド、は3−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド、4−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド等のアミノ化合物の単独または混合物と、ホルムアルデヒドと、メタノール、1−ブタノール、2−ブタノール等の低級アルコールの付加縮合物が挙げられる。ここで例に挙げた2−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド、3−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド、4−(4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−ベンゾイックアシッド等のカルボキシル基含有のアミノ化合物を用いて得られるアミノ樹脂は、塩基性化合物で中和して用いることができ、中和に用いる塩基性化合物としては、前記したポリエステル樹脂(A)の中和に用いる塩基性化合物と同様のものが挙げられる。
【0029】
前記ポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)の重量比(A/B)としては、中でも加工密着性とレトルト性に優れる水性塗料が得られることから、通常固形分比で90/10〜30/70であることが好ましく、80/20〜50/50であることがより好ましい。
【0030】
本発明の缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物は、前記ポリエステル樹脂(A)の中和物と、硬化剤(B)が、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散しているものであれば良く、ポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)のいずれか一方、もしくは両方の一部が溶解し、一部が分散したものであっても良い。水性媒体としては、通常イオン交換水と水混和性有機溶剤との混合物が用いられる。
【0031】
本発明の缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、(1)ポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)を、水混和性有機溶剤に溶解させて溶液とした後、水と混合して、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散させる方法、(2)ポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)を、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体に溶解させて溶液とする方法、(3)ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)を水混和性有機溶剤に溶解させて溶液とした後、塩基性化合物によるポリエステル樹脂(A)の中和を行い、得られたポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)の水混和性有機溶剤溶液を水と混合して、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散させる方法、(5)ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)を水混和性有機溶剤に溶解させて溶液とした後、得られたポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)の水混和性有機溶剤溶液を、塩基性化合物を含有する水と混合して、塩基性化合物によるポリエステル樹脂(A)の中和を行うと共に、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中にポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)を溶解および/または分散させる方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、ポリエステル樹脂(A)やその中和物と硬化剤(B)を水混和性有機溶剤に溶解させてから、水と混合して水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散させる前記(1)や(3)の方法が好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)やその中和物と硬化剤(B)の水混和性有機溶剤への溶解は、同時に行う必要はなく、例えば、ポリエステル樹脂(A)やその中和物を水混和性有機溶剤に溶解した後、硬化剤(B)と混合して硬化剤(B)を溶解させる方法であっても良い。また、前記(1)〜(4)の方法において、硬化剤(B)を用いずに、ポリエステル樹脂(A)の中和物を水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散させた後、硬化剤(B)またはその水混和性有機溶剤溶液を混合する方法であっても良い。さらに、このようにしてポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)の溶解および/または分散物を得た後、必要に応じて水混和性有機溶剤の一部乃至全部を除去してもよいし、逆に水混和性有機溶剤を加えてもよい。
【0032】
ポリエステル樹脂(A)やその中和物と硬化剤(B)の溶解に用いる水混和性有機溶剤としては、水と分離することなく混和する有機溶剤であればよく、中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0033】
前記水混和性有機溶剤には、更に必要に応じて他の有機溶剤を併用することができ、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。
【0034】
本発明の缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物中における水混和性有機溶剤と水の使用比率は、ポリエステル樹脂(A)の中和物との相溶性、塗料化した後の外観などの性能に応じて、適宜選択することができるが、通常は、水混和性有機溶剤/水(重量比)が5/95〜90/10となる範囲であり、中でも25/75〜85/15となる範囲が好ましく、50/50〜80/20となる範囲が最も好ましい。また、本発明の缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物中におけるポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)の固形分含有率としては、粘度が適当で塗料としての取扱いが容易な水性塗料が得られることから、20〜70重量%であることが好ましく、30〜60重量%であることがより好ましい。
【0035】
本発明の缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物には、ポリエステル樹脂(A)の中和物と硬化剤(B)以外の成分として、必要に応じてエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、硬化触媒、レベリング剤等の通常塗料に用いられる各種樹脂や各種添加剤を配合することができる。
【0036】
このようにして得られる本発明の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物は、例えば、金属板上にロールコーターで塗装され、150〜230℃の温度で5秒〜15分間の加熱乾燥を施されることにより加工密着性、耐レトルト性に優れる塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、合成例、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、各例中の部および%は重量基準である。
【0038】
合成例1〔ポリエステル樹脂(A−1)の中和物の合成〕
攪拌機、精留管、コンデンサー、デカンター、窒素導入管および温度計を具備した2リットルの反応器に、イソフタル酸451.8部、アジピン酸132.5部、2−メチル−1,3−プロパンジオール216.2部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール164.8部、トリメチロールプロパン8.7部、ジメチロールプロピオン酸26.1部(ジオール成分中における含有率6.4%)およびジブチルスズオキサイド1部を仕込み、160℃まで加熱して内容物を溶融させた後、縮合水を系外に溜去しながら、3時間を要して240℃まで昇温した。同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価が16mgKOH/gに達したところで80℃まで冷却してからエチレングリコールモノブチルエーテル444.5部を加えて、ポリエステル樹脂(A−1)の溶液を得た。次いで、この溶液にジメチルエタノールアミン22.1部を加えて中和を行い、ポリエステル樹脂(A−1)の中和物の溶液を得た。このポリエステル樹脂(A−1)の中和物の溶液の不揮発分は65.1%、樹脂固形分の水酸基価は15mgKOH/g、酸価は16mgKOH/g、数平均分子量は7,500であった。
【0039】
合成例2〔ポリエステル樹脂(A−2)の中和物の合成〕
攪拌機、精留管、コンデンサー、デカンター、窒素導入管および温度計を具備した2リットルの反応器に、イソフタル酸446.0部、アジピン酸130.8部、2−メチル−1,3−プロパンジオール208.0部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール158.5部、トリメチロールプロパン4.4部、ジメチロールプロピオン酸52.3部(ジオール成分中における含有率12.5%)およびジブチルスズオキサイド1部を仕込み、160℃まで加熱して内容物を溶融させた後、縮合水を系外に溜去しながら、3時間を要して240℃まで昇温した。同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価が30mgKOH/gに達したところで80℃まで冷却してからエチレングリコールモノブチルエーテル428.2部を加えて、ポリエステル樹脂(A−2)の溶液を得た。次いで、この溶液にジメチルエタノールアミン41.5部を加えて中和を行い、ポリエステル樹脂(A−2)の中和物の溶液を得た。このポリエステル樹脂(A−2)の中和物の溶液の不揮発分は65.0%、樹脂固形分の水酸基価は25mgKOH/g、酸価は30mgKOH/g、数平均分子量は4,000であった。
【0040】
合成例3〔ポリエステル樹脂(A−3)の中和物の合成〕
攪拌機、精留管、コンデンサー、デカンター、窒素導入管および温度計を具備した2リットルの反応器に、イソフタル酸444.0部、アジピン酸130.2部、2−メチル−1,3−プロパンジオール207.0部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール157.7部、トリメチロールプロパン4.4部、ジメチロールブタン酸56.7部(ジオール成分中における含有率13.5%)およびジブチルスズオキサイド1部を仕込み、160℃まで加熱して内容物を溶融させた後、縮合水を系外に溜去しながら、3時間を要して240℃まで昇温した。同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価が30mgKOH/gに達したところで80℃まで冷却してからエチレングリコールモノブチルエーテル424.4部を加えて、ポリエステル樹脂(A−3)の溶液を得た。次いで、この溶液にジメチルエタノールアミン41.6部を加えて中和を行い、ポリエステル樹脂(A−3)の中和物の溶液を得た。このポリエステル樹脂(A−3)の中和物の溶液の不揮発分は65.2%、樹脂固形分の水酸基価は25mgKOH/g、酸価は30mgKOH/g、数平均分子量は4,000であった。
【0041】
合成例4〔比較用のポリエステル樹脂(A−1′)の中和物の合成〕
攪拌機、精留管、コンデンサー、デカンター、窒素導入管および温度計を具備した2リットルの反応器に、イソフタル酸463.3部、アジピン酸35.8部、2−メチル−1,3−プロパンジオール212.7部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール162.0部、ペンタエリスリトール26.2部およびジブチルスズオキサイド1部を仕込み、160℃まで加熱して内容物を溶融させた後、縮合水を系外に溜去しながら、3時間を要して240℃まで昇温した。同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価3mgKOH/gに達したところで160℃まで冷却した。次いで、アジピン酸100.0部を加えてから240℃まで昇温を行い、同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価が20mgKOH/gに達したところで80℃まで冷却してからエチレングリコールモノブチルエーテル441.7部を加えて、ポリエステル樹脂(A−1′)の溶液を得た。次いで、この溶液にジメチルエタノールアミン27.7部を加えて中和を行い、ポリエステル樹脂(A−1′)の中和物の溶液を得た。このポリエステル樹脂(A−1′)の中和物の溶液の不揮発分は65.0%、樹脂固形分の水酸基価は25mgKOH/g、酸価は20mgKOH/g、数平均分子量は5,500であった。
【0042】
合成例5〔比較用のポリエステル樹脂(A−2′)の中和物の合成〕
攪拌機、精留管、コンデンサー、デカンター、窒素導入管および温度計を具備した2リットルの反応器に、イソフタル酸438.4部、アジピン酸128.5部、2−メチル−1,3−プロパンジオール222.5部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール169.6部、ペンタエリスリトール14.9部およびジブチルスズオキサイド1部を仕込み、160℃まで加熱して内容物を溶融させた後、縮合水を系外に溜去しながら、3時間を要して240℃まで昇温した。同温度で更に脱水縮合反応を続け、酸価3mgKOH/gに達したところで160℃まで冷却した。次いで、無水トリメリット酸26.2部を加えてから180℃まで昇温を行い、同温度で2時間付加反応を続け、酸価が30mgKOH/gであることを確認した。この樹脂溶液を80℃まで冷却してからエチレングリコールモノブチルエーテル440.8部を加えて、ポリエステル樹脂(A−2′)の溶液を得た。次いで、この溶液にジメチルエタノールアミン27.7部を加えて中和を行い、ポリエステル樹脂(A−2′)の中和物の溶液を得た。このポリエステル樹脂(A−2′)の中和物の溶液の不揮発分は65.1%、樹脂固形分の水酸基価は23mgKOH/g、酸価は20mgKOH/g、数平均分子量は5,500であった。
【0043】
合成例6〔アミノ樹脂(B−1)の合成〕
攪拌機、温度計および還流冷却器を具備した1リットルの反応器に、メタノール171.1部、92%パラホルムアルデヒド61.0部およびベンゾグアナミン100.0部を仕込み、25%NaOHでpH10.0に調整した後、70℃に昇温した。同温度を2時間保持してメチロール化反応を行い、引き続いて50%HSOでpH3.0に調整し、同温度で4時間エーテル化反応を行った。次いで、25%NaOHでpH7.0に調整し、減圧下でメタノール、ホルムアルデヒドおよび水を溜去した。そして、エチレングリコールモノブチルエーテル43.6部を加えて溶液とし、析出した塩類を濾別して、不揮発分75.0%のアミノ樹脂(メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂)(B−1)の溶液を得た。
【0044】
実施例1〜3および比較例1、2
合成例1〜3で得られたポリエステル樹脂(A−1)〜(A−3)の中和物の溶液または合成例4、5で得られたポリエステル樹脂(A−1′)、(A−2′)の中和物の溶液と、合成例6で得られたアミノ樹脂(B−1)の溶液とを、第1表に示した樹脂固形分重量比で配合し、これにp−トルエンスルホン酸を樹脂固形分100部に対して0.1部、シリコーン系レベリング剤を樹脂固形分100部に対して0.3部添加混合すると共に、樹脂固形分が40.0%で、有機溶剤含有量が20.0%となるようにエチレングリコールモノブチルエーテルと水を加え、クリア塗料を調製した。
【0045】
得られたクリア塗料を厚さ0.3mmのアルミ板上に乾燥後膜厚が5μmになるようにロールコーターを用いて塗装し、乾燥機中で200℃で2分間の焼付乾燥を行い、試験塗装板を作製した。各試験塗装板を用い、下記のように鉛筆硬度試験、加工密着性試験、耐レトルト性試験を行うことによりクリア塗料の塗膜性能を評価した。結果を第1表に示す。
【0046】
・鉛筆硬度試験:試験塗装板の塗装板面をJIS−S−6006に規定された高級鉛筆を用い、JIS−K−5400に準じて傷がつかない硬さを調べた。
【0047】
・加工密着性試験:ボトル形状加工を代用するため、試験塗装板を直径25mm×高さ17mmのキャップ形状に打抜き加工した後、30分間煮沸処理を行い、塗膜の亀裂と剥離の程度を下記基準により目視で判定した。
◎:亀裂無し。
○:0.5mm未満の亀裂があるが実用範囲。
△:0.5mm以上の亀裂がある。
×:剥離がある。
【0048】
・耐レトルト性試験:加圧容器中で試験塗装板に130℃30分間のスチーム処理を行った後、塗膜の白化状態を下記基準により目視評価した。
◎:白化が見られない。
○:わずかに白化するが実用範囲。
△:部分的に白化する。
×:全面が白化する。
【0049】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a1)とジカルボン酸成分(a2)を用いて得られる、酸価10〜80mgKOH/g、水酸基価5〜50mgKOH/g、数平均分子量2,200〜15,000のポリエステル樹脂(A)の塩基性化合物による中和物と、硬化剤(B)が、水混和性有機溶剤を含有する水性媒体中に溶解および/または分散していることを特徴とする缶外面塗料用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)が酸価15〜40mgKOH/g、水酸基価7〜28mgKOH/g、数平均分子量3,000〜8,000のポリエステル樹脂である請求項1に記載の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。
【請求項3】
3級カルボキシル基を有するジオールを含有するジオール成分(a1)中における3級カルボキシル基を有するジオールの含有率が3〜40重量%である請求項2に記載の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。
【請求項4】
3級カルボキシル基を有するジオールが2,2−ビス(ヒドロキシメチル)アルカン酸である請求項2に記載の缶外面用水性塗料組成物。
【請求項5】
硬化剤(B)がアミノ樹脂を含有するものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(A)の塩基性化合物による中和物と硬化剤(B)の重量比(A/B)が90/10〜30/70である請求項5に記載の缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料組成物。
【請求項7】
水混和性有機溶剤を含有する水性媒体が、水混和性有機溶剤と水の重量比(水混和性有機溶剤/水)が5/95〜90/10の水性媒体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の缶外面用水性塗料組成物。


【公開番号】特開2008−7627(P2008−7627A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179422(P2006−179422)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】