説明

缶巻締め部のX線検査装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、缶詰容器として使用される金属缶の巻締め部を、X線を利用して検査する缶巻締め部のX線検査装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】缶詰容器として使用される金属缶の缶胴と缶蓋の巻締め部(缶巻締め部)の寸法管理は、缶内容物の品質を保持するための重要なポイントの1つである。
【0003】上記缶の巻締め部は、缶蓋のカール部が缶胴のフランジの下に曲げ込まれ、次いで巻締めロールにより外部から強く押圧されて形成される。
【0004】ところでこの巻締め部の密封状態の良否を点検する方法の1つに、上記巻締め部のボデーフックBHとカバーフックCHとの重合部分OLの長さをみる方法がある。この方法においては、重合部分OLが充分な長さを有しないと、缶内容物を腐敗させるなどの問題を生じさせるとする。
【0005】そこで巻締め部の検査を定期的に行うことになるが、従来の巻締め部検査は、糸鋸などで巻締め部を缶軸方向に切断して巻締め部内部を目視可能にし、目視又は前記ボデーフックBH、カバーフックCH、重合部分OL各部の長さを測定するなどにより行っていた。
【0006】しかしこのように缶巻締め部を実際に切断して検査する方法(破壊検査方法)では、検査のために多大な手間と時間を要する上に、缶材料を無駄にするという問題があった。
【0007】そこで近年、缶を切断せずに検査する方法としてX線を用いた下記(1),(2)の検査方法が出現した。
【0008】(1)特開昭63―274851号公報に記載のように、X線源にはファインフォーカスX線管を用い、これとX線情報入力手段との間に検査対象缶を配置し、この缶の巻締め部の一部に、缶蓋平面に対し所定の傾斜角をもってX線を投射することにより、缶巻締め部正面のX線透視情報を上記X線情報入力手段に入力し、このX線透視情報を用いて缶巻締め部の検査を行うものである。
【0009】なおこの場合、X線情報入力手段(X線カメラ、一般的にはX線ビジコンと考えられる。)は、巻締め部にできるだけ近づけ、画像のボケをなくすようにしている。
【0010】この方法で得られる像は、缶巻締め部の断面像ではなく、缶巻締め部内部で幾重にも重なった板の数に応じた明暗の帯状の画像(図6参照)となる。これは、前記破壊検査方法(巻締め部の一部を切断して巻締め部断面を実際に見る検査方法)による視認される、又は拡大投影機で投影される、断面像とは極めて異なった画像となり、検査者に違和感を与える。
【0011】なお図6において、BHはボディフック、CHはカバーフック、OLは重合部分、Wは缶巻締め幅である。
【0012】(2)特開昭63―274808号公報に記載のように、検査対象缶の巻締め部に対してX線を接線方向に投射し、上記缶巻締め部を透過したX線をX線カメラに入力することにより缶巻締め部断面のX線透視情報を得、更にこのX線透視情報を画像処理して巻締め部の巻締め部の断層像を得、この画像に基づいて缶巻締め部の断面形状を検査するものである。
【0013】この方法で得られる像は、前記破壊検査方法による断面像と近似の画像となり、検査者に違和感を与えることはない。
【0014】しかしこの方法では、X線源にファインフォーカスX線管を用い、X線情報入力手段にX線カメラとして一般的なX線ビジコンを用いて検査したとき、缶胴と缶蓋の材質が、例えばアルミ材とアルミ材、鉄材とアルミ材、鉄材と鉄材の組合せのうち、少なくとも一方に鉄材を含んだ組合せのものの画像は不鮮明になる。その理由としては、鉄材のX線吸収率が高いことと、X線ビジコンの感度が低いことが考えられる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、従来の検査方法(1)は、破壊検査方法とは極めて異なった画像となり、検査者に違和感を与えるという問題点があった。
【0016】上記従来の検査方法(2)は、破壊検査方法による断面像と近似の画像となり、検査者に違和感を与えることはないが、缶胴と缶蓋の材質のうち、少なくとも一方に鉄材を含んだ組合せのものの画像は不鮮明になるという問題点があった。本発明は、缶胴と缶蓋の材質が、アルミ材とアルミ材、鉄材とアルミ材、鉄材と鉄材など、いずれの組合せでも、破壊検査方法による断面像と近似の缶巻締め部断面像が得られ、検査者に違和感を与えることはなく円滑に検査でき、またその拡大像も簡単に得られ、検査の信頼性も容易に高めることのできる缶巻締め部のX線検査装置を提供することを目的とする。

【0017】

【課題を解決するための手段】上記目的は、検査対象缶の缶巻締め部の一部に向けてX線を照射するマイクロフォーカスX線管と、缶巻締め部のX線透視情報が入力可能なX線蛍光増倍管又はラインセンサから成るX線情報入力手段と、このX線情報入力手段に入力されたX線透視情報を画像表示する画像表示装置と、X線の出力を制御するX線出力制御機能及び缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分の材質に応じてX線管のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能を有する制御部とを備える。そして、缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分との材質が異なる場合にあっては、X線照射条件設定機能が当該各材質に応じたX線照射条件を各々設定し、X線出力制御機能が当該各設定条件に基づいたX線を各々出力することにより達成される。また、検査対象缶の缶巻締め部の一部に向けてX線を照射するマイクロフォーカスX線管と、缶巻締め部のX線透視情報が入力可能なX線蛍光増倍管又はラインセンサから成るX線情報入力手段と、このX線情報入力手段に入力されたX線透視情報を画像表示する画像表示装置と、X線の出力を制御するX線出力制御機能及び缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分の材質に応じてX線管のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能を有する制御部と、X線管と検査対象缶との距離と,X線管とX線情報入力手段との距離を各々調整する距離調整手段とを備えることにより達成される。
【0018】
【作用】X線管にマイクロフォーカスX線管を使用すると、その焦点が極めて小さいので得られる画像に半影を生ずることはなく、非常に鮮鋭度(解像力,コントラスト)の高い画像が得られる。加えて、X線情報入力手段に使用されるX線蛍光増倍管又はX線ラインセンサは、その感度が高い。
【0019】これにより、缶胴と缶蓋の材質が、アルミ材とアルミ材、鉄材とアルミ材、鉄材と鉄材など、いずれの組合せでも、破壊検査方法による断面像と近似の缶巻締め部断面像が得られ、検査者に違和感を与えることはなく円滑に検査できるようになる。
【0020】また特に、マイクロフォーカスX線管を使用することによって、上記のように、得られる画像に半影が生じないので、X線管及び缶の距離と、X線管及びX線情報入力手段の距離とで定まる幾何学的拡大率を大きくとることができる。この場合、検査対象缶をX線管により近づけて配置することにより鮮鋭度の高い画像が得られ、検査の信頼性が高められる。この際の幾何学的拡大率の調整は、前述した距離調整手段を用いて上記各距離の調整を図るという簡単な作業で済むことになる。
【0021】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0022】図1は、本発明による缶巻締め部のX線検査装置の一例を示すブロック図、図2は図1の主要部分を上方から示した図で、幾何学的拡大率を説明するものである。
【0023】図1において、1はX線管としてのマイクロフォーカスX線管(焦点1aが0.01〜0.001mmφ程度)、2は検査対象缶、20は缶2の巻締め部である。3はX線情報入力手段としてのX線蛍光増倍管(イメージ・インテンシファイア)である。
【0024】上記構成部分の位置関係は、図2から分るように、巻締め部20の断面形状の画像(前記破壊検査方法による断面像と近似の缶巻締め部断面像)が得られるよう、X線を巻締め部20の接線方向に投射する配置となっている。
【0025】また図2に示すように、マイクロフォーカスX線管1の焦点1aと検査対象缶2の巻締め部20との距離をl、同焦点1aとX線蛍光増倍管3の入力面3aとの距離をLとし、幾何学的拡大率をMとすると、M=L/lが充分大きくなるように配置されており、拡大X線透視像が得られるようになされている。この際の幾何学的拡大率Mの調整は、本装置に備えられた距離調整手段を用いて行われ、例えば検査対象缶2の載置部をマイクロフォーカスX線管1の近傍に移動して配設することによって行われる。尚、この場合の幾何学的拡大率Mの調整は、マイクロフォーカスX線管1を移動してもよく、X線蛍光増倍管3を移動してもよい。
【0026】すなわち、マイクロフォーカスX線管1は缶2の巻締め部20に対し接線方向に投射し、X線蛍光増倍管3は入射したX線像を可視像に変換する。
【0027】4はカメラヘッド、5はカメラコントローラで、カメラヘッド4はX線蛍光増倍管3の出力像を撮像し、カメラコントローラ5はX線カメラヘッド4からの信号を映像信号に変換する。
【0028】6は画像処理装置で、カメラコントローラ5からの映像信号に対して各種処理、例えば雑音減少のための平均化処理もしくは積分処理、あるいは画像を見やすくするための輪郭強調、階調変換、コントラスト調整などを行う。
【0029】7は画像表示装置で、画像処理装置6からの画像信号が与えられて図3に示すような画像を表示する。すなわち、巻締め部20の拡大断面形状が表示され、巻締め部20の管理に必要な缶胴21、缶蓋22の巻締め状態のボディフックBH、カバーフックCH、重合部分OL、缶巻締め幅Wが及び缶巻締め厚Tが映像化される。
【0030】この画像表示装置7には、X線蛍光増倍管3の拡大動作(ズーム)を含めると、現状のX線ビジコンを用いた場合の20倍以上の大きさの画像が表示可能である。
【0031】検査者は、このように画像表示装置7に表示された、破壊検査方法による断面像と近似の缶巻締め部断面像の拡大像をみて検査するもので、違和感を与えることなく円滑に検査できる。その拡大率も前記M=L/lの設定により簡単に変えられ、検査の信頼性も容易に高められる。
【0032】上述本装置によれば、缶胴と缶蓋の材質が、アルミ材とアルミ材、鉄材とアルミ材、鉄材と鉄材のいずれの組合せであっても、鮮鋭に表示され、より一層高精度な検査を行うことができる。
【0033】本発明では、X線エネルギは、缶胴21、缶蓋22の材質により、例えば下表1に示す条件に設定するのが望ましい。また、幾何学的拡大率Mも下表に示す値が望ましい。なお、鉄材とアルミ材との組合せでは、材質の透過エネルギが違うため2回のX線投射を行う必要がある。具体的には、本装置にはX線の出力を制御する図示しない制御部が備えられており、この制御部は、X線の出力を制御するX線出力制御機能と、缶巻締め部の缶胴21と缶蓋22の材質に応じてマイクロフォーカスX線管1のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能とを有している。そして、鉄材とアルミ材との組合せの場合にあっては、X線照射条件設定機能が下表1に示すように各材質に応じた2種類のX線照射条件を設定し、この各設定条件に基づいてX線出力制御機能がその2種類(2回)のX線を出力する。
【0034】
【表1】


【0035】なお上述実施例では、X線情報入力手段としてのX線蛍光増倍管を用いたが、図4に示すようにX線ラインセンサ8を用いてもよい。
【0036】また本発明においても、図5に示すようにX線管(マイクロフォーカスX線管1)とX線情報入力手段(X線蛍光増倍管3)との間に検査対象缶2を配置し、この缶2の巻締め部20の一部に、缶蓋22平面に対し所定の傾斜角θをもってX線を投射し、図6に示すように缶巻締め部20の内部で幾重にも重なった板の数に応じた明暗の帯状の画像を得る手法も採ることができる。ただし本発明では、X線管はマイクロフォーカスX線管1であり、X線情報入力手段はX線蛍光増倍管3又はX線ラインセンサ8であることは勿論である。
【0037】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、缶巻締め部のX線検査装置において、X線管としてマイクロフォーカスX線管を用い、X線情報入力手段としてX線蛍光増倍管又はX線ラインセンサを用いたので、缶胴と缶蓋の材質が、アルミ材とアルミ材、鉄材とアルミ材、鉄材と鉄材など、いずれの組合せでも、破壊検査方法による断面像と近似の缶巻締め部断面像が得られ、検査者に違和感を与えることはなく円滑に検査でき、またその拡大像も簡単に得られ、検査の信頼性も容易に高めることのできるという効果がある。具体的には、本装置はX線の出力を制御する制御部を備え、この制御部は、X線の出力を制御するX線出力制御機能と、缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分の材質に応じてマイクロフォーカスX線管のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能とを有する。そして、鉄材とアルミ材との組合せの場合にあっては、X線照射条件設定機能が各材質に応じたX線照射条件を各々設定し、X線出力制御機能がこの各設定条件に基づいたX線を各々出力する。この為、前述した従来例にて不鮮明であった少なくとも一方に鉄材を有する缶巻締め部のX線透視像を鮮明に表示することができる。
【0038】また、検査対象缶の巻締め部の一部に、缶蓋平面に対し所定の傾斜角をもってX線を投射する場合にも、缶胴と缶蓋の材質のうちの一方又は両方が鉄材であっても鮮明なX線透視像が得られるという効果もある。更には、距離調整手段を備えることによって、画像の幾何学的拡大率を容易に調節することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図1の主要部分を上方から示した図である。
【図3】図1中の画像表示装置に表示される缶巻締め部の断面形状を示す図である。
【図4】本発明に係る装置の他の例を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る装置の他の例の説明図である。
【図6】図5に示す例での検査時に画像表示装置に表示される缶巻締め部のX線透視像を示す図である。

【特許請求の範囲】

【請求項1】
検査対象缶の缶巻締め部の一部に向けてX線を照射するマイクロフォーカスX線管と、前記缶巻締め部のX線透視情報が入力可能なX線蛍光増倍管又はラインセンサから成るX線情報入力手段と、このX線情報入力手段に入力されたX線透視情報を画像表示する画像表示装置と、前記X線の出力を制御するX線出力制御機能及び前記缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分の材質に応じて前記X線管のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能を有する制御部と、を備え、前記缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分との材質が異なる場合にあっては、前記X線照射条件設定機能が当該各材質に応じた前記X線照射条件を各々設定し、前記X線出力制御機能が当該各設定条件に基づいたX線を各々出力することを特徴とした缶巻締め部のX線検査装置。

【請求項2】
検査対象缶の缶巻締め部の一部に向けてX線を照射するマイクロフォーカスX線管と、前記缶巻締め部のX線透視情報が入力可能なX線蛍光増倍管又はラインセンサから成るX線情報入力手段と、このX線情報入力手段に入力されたX線透視情報を画像表示する画像表示装置と、前記X線の出力を制御するX線出力制御機能及び前記缶巻締め部の缶胴部分と缶蓋部分の材質に応じて前記X線管のX線エネルギたるX線照射条件を設定するX線照射条件設定機能を有する制御部と、前記X線管と検査対象缶との距離と、前記X線管とX線情報入力手段との距離を各々調整する距離調整手段と、を備えることを特徴とした缶巻締め部のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3197568号(P3197568)
【登録日】平成13年6月8日(2001.6.8)
【発行日】平成13年8月13日(2001.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−26009
【出願日】平成3年2月20日(1991.2.20)
【公開番号】特開平4−265808
【公開日】平成4年9月22日(1992.9.22)
【審査請求日】平成10年2月5日(1998.2.5)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【参考文献】
【文献】特開 平2−138854(JP,A)
【文献】特開 昭63−274851(JP,A)
【文献】実開 昭60−42951(JP,U)