説明

缶用下地処理方法

【課題】従来の化成処理方法に比して、ラミネート皮膜等に対して高い密着性を付与できるノンクロム系の缶用下地処理方法を提供する。
【解決手段】1ppm以上1000ppm以下の有効フッ素イオン、10ppm以上10000ppm以下のジルコニウムイオン、10ppm以上2000ppm以下のアルミニウムイオン、及び、50ppm以上10000ppm以下のポリイタコン酸を含むpHが2以上5以下の金属表面処理組成物を用いて金属の表面を処理した後、この処理面上に接着層を形成することにより、ラミネート皮膜等に対して高い密着性を付与できるノンクロム系の缶用下地処理方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属の缶用下地処理方法に関し、特に、アルミニウム系の缶用下地処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム系金属の表面処理に用いられる化成処理剤として、クロメート化成処理剤が知られている。クロメート化成処理剤により形成されるクロメート化成皮膜は、各種塗料を塗装した後の耐食性、密着性に優れるため、その用途は、建材、家電、フィン材、カーエバポレータ、飲料缶等、広範囲に及ぶ(特許文献1)。しかしながら、クロメート化成処理剤では、有害なクロム金属を使用するため廃液処理に難がある。このため、環境に配慮したノンクロム系金属表面処理組成物が近年開発されつつある。
【0003】
例えば、特許文献2には、少なくとも1種のバナジウム化合物(A)と、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びリチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物(B)とを含有し、更に、水溶性高分子及び/又は水系エマルション樹脂を含んでも良いとする金属表面処理剤で金属材料表面を処理することで、金属を素材としたシートコイル、成形品の表面に優れた耐食性及び耐アルカリ性を付与し、更には塗装又はラミネートにより形成した樹脂層及び金属素材との層間密着性に優れ、かつクロムを含まない皮膜を形成させる金属表面処理方法等が開示されている。
【特許文献1】特開平5−125555号公報
【特許文献2】特開2004−183015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示されたノンクロム系金属表面処理組成物では、ラミネート加工後の耐食性が未だ十分であるとはいえず、また、アルミニウムに適用した場合のアルミニウムスラッジ発生を抑制できない問題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の化成処理方法に比して、ラミネート皮膜等に対して高い密着性を付与し、かつ、アルミニウムスラッジの発生を抑制できるノンクロム系の缶用下地処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、所定量のフッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、ポリイタコン酸を含む金属表面処理組成物を用いて金属の表面を処理した後、この処理面上に接着層を形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 金属の表面を金属表面処理組成物で処理して化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜上に接着層を形成する工程を含む缶用下地処理方法であって、前記金属表面処理組成物を、1ppm以上1000ppm以下の有効フッ素イオン、10ppm以上10000ppm以下のジルコニウムイオン、10ppm以上2000ppm以下のアルミニウムイオン、及び、50ppm以上10000ppm以下のポリイタコン酸を含むpHが2以上5以下の金属表面処理組成物とする缶用下地処理方法。
【0008】
(2) 前記接着層を、カチオン性基含有樹脂及び水性樹脂を含む後処理剤で処理して形成する(1)記載の缶用下地処理方法。
【0009】
(3) 前記カチオン性基含有樹脂を、樹脂固形分中にカチオン性基を5.0meq/g以上有するものとする(2)記載の缶用下地処理方法。
【0010】
本発明における「カチオン性基」は、具体的には、アミノ基、イミノ基、グアニジン基、及びビグアニド基からなる群から選択される少なくとも1種を意味する。
【0011】
(4) 前記カチオン性基含有樹脂を、ポリアリルアミン及び/又はポリリジンとする(2)又は(3)記載の缶用下地処理方法。
【0012】
(5) 前記水性樹脂を、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含む樹脂とする(2)から(4)いずれか記載の缶用下地処理方法。
【0013】
(6) 前記アクリル樹脂を、1分子中に少なくとも2つのオキサゾリン基を含有するオキサゾリン基含有アクリル樹脂とする(5)記載の缶用下地処理方法。
【0014】
(7) 前記金属をアルミニウム系金属とする(1)から(6)いずれか記載の缶用下地処理方法。
【0015】
(8) ジルコニウムを金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下含有し、かつ、ポリイタコン酸をポリイタコン酸に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下含有する化成皮膜、及び全有機炭素量換算の乾燥皮膜量が2mg/m以上200mg/m以下である接着層を有する、(1)から(7)いずれか記載の缶用下地処理方法により得られる缶用下地。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の化成処理方法に比して、ラミネート皮膜等に対して高い密着性を付与できるノンクロム系の缶用下地処理方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
<金属表面処理組成物>
本実施形態に係る缶用下地処理方法は、金属表面処理組成物で金属を表面処理した後、この処理面上に接着層を形成する工程を含むことを特徴とする。本実施形態で用いられる金属表面処理組成物は、所定量の有効フッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、ポリイタコン酸を含有している。
【0019】
本実施形態に係る缶用下地処理方法でアルミニウム材の表面を処理した場合、フッ素イオンによりアルミニウムが溶解して、その結果pHが上昇するため、ジルコニウム化合物が析出する。このときに、アルミニウム化合物及びポリイタコン酸も共に析出して皮膜化するものと考えられる。
【0020】
このようにして、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ポリイタコン酸により形成される化成皮膜は、ポリイタコン酸に基づくカルボキシル基を有するため、優れた密着性を発現することができる。また、ポリイタコン酸がアルミニウムイオンと相互作用することにより、スラッジの発生を大幅に抑制することが可能になる。
【0021】
金属表面処理組成物の製造方法は特に限定されず、後述するような有効フッ素イオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、ポリイタコン酸を配合した後、pHを調整して得られる。
【0022】
[有効フッ素イオン]
金属表面処理組成物中の有効フッ素イオンは、1ppm以上1000ppm以下であり、好ましくは5ppm以上100ppm以下である。ここで、「有効フッ素イオン」とは、処理浴中で遊離状態にあるフッ素イオンを意味し、有効フッ素イオン濃度はフッ素イオン電極を有する機器で処理浴を測定することにより求められる。有効フッ素イオン濃度が1ppmより少ない場合には、エッチングが不足して十分なジルコニウム皮膜量が得られないため、密着性及び耐食性が低下する。1000ppmより多い場合には、エッチングが過多のためジルコニウム皮膜が析出せず、密着性及び耐食性が低下する。フッ素イオン源としては、フッ化ジルコニウム酸化合物の他、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸ナトリウム等が挙げられ、これらを併用することによって、有効フッ素イオン濃度を調整できる。
【0023】
[ジルコニウムイオン]
金属表面処理組成物中のジルコニウムイオンの含有量は、10ppm以上10000ppm以下であり、好ましくは50ppm以上1000ppm以下である。ジルコニウムイオンの含有量が10ppmより少ない場合には、化成皮膜中のジルコニウムイオン含有量が少ないため、密着性及び耐食性が低下する。10000ppmより多い場合には、性能アップは望めず、コスト面で不利である。ジルコニウムイオン源としては、フルオロジルコニウム酸又はそのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩や、フッ化ジルコニウム等が挙げられる。また、酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物を、フッ化水素酸等のフッ化物水溶液に溶解させることによって得ることもできる。
【0024】
[アルミニウムイオン]
金属表面処理組成物中のアルミニウムイオンの含有量は、10ppm以上2000ppm以下であり、好ましくは50ppm以上1000ppm以下である。アルミニムイオンの含有量が、10ppmより少ない場合には、ポリイタコン酸の析出量が減少して十分な密着性が得られない。2000ppmより多い場合には、化成反応を阻害し化成処理浴中にスラッジが発生してしまう。アルミニウムイオン源としては、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム等が挙げられる。
【0025】
[ポリイタコン酸]
金属表面処理組成物中のポリイタコン酸の含有量は、50ppm以上10000ppm以下であり、好ましくは100ppm以上1000ppm以下である。ポリイタコン酸の含有量が50ppmより少ない場合には、化成皮膜中のポリイタコン酸の含有量が少ないため、密着性が低下する。10000ppmより多い場合には、性能アップは望めずコスト面で不利である。
【0026】
好ましいポリイタコン酸の具体例としては、ポリイタコン酸、ポリイタコン酸のアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩が挙げられる。更に、必要に応じて、イタコン酸セグメントを有するポリイタコン酸−ポリマレイン酸共重合体、ポリイタコン酸−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリイタコン酸−スルホン酸共重合体等のポリイタコン酸共重合体、並びに、これらのアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩も使用可能である。上記ポリイタコン酸の分子量は、例えば、260〜1000000であり、好ましくは、1000〜70000である。
【0027】
前記ポリイタコン酸が共重合体である場合、その共重合体におけるイタコン酸セグメントの含有量が有効成分とみなされる。例えば、ポリイタコン酸−ポリマレイン酸共重合体が200ppm含有されており、この共重合体におけるイタコン酸とマレイン酸との質量比が1/1である場合、ポリイタコン酸の量は、200ppm×1/2=100ppmとみなされる。
【0028】
前記ポリイタコン酸が共重合体である場合、その共重合体におけるイタコン酸セグメントの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。
【0029】
[pH]
金属表面処理組成物のpHは、2以上5以下であり、好ましくは3以上4.5以下である。pHが2より小さい場合には、エッチング過多となり、5より大きい場合には、エッチング不足となる。pHの調整は、pHが高い場合には硝酸を添加し、pHが低い場合にはアンモニア、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムを添加することにより行われる。
【0030】
[添加剤]
金属表面処理組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で各種添加剤を所定量添加したものであっても良い。例えば、マンガン、亜鉛、カルシウム、鉄、マグネシウム、モリブテン、バナジウム、チタン、ケイ素等の金属イオン;アニオン界面活性剤やノニオン界面活性剤等の界面活性剤;クエン酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、ホスホン酸等のその他のキレート剤を添加しても良い。
【0031】
[処理方法]
本実施形態に係る缶用下地処理方法において、対象とする缶材は、本発明の効果が得られやすい観点からアルミニウム系金属を含んでいるものが好ましい。前記アルミニウム系金属とは、アルミニウム、アルミニウム合金及びこれらが混合したものを意味する。金属表面処理組成物を適用する方法としては特に限定されず、例えばスプレー処理、浸漬処理等による方法が挙げられる。必要に応じて脱脂処理やエッチング処理を施した後に、金属表面処理組成物を適用しても良い。
【0032】
[化成皮膜]
上記の金属表面処理組成物により形成された化成皮膜は、ジルコニウムを金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下含有していることが好ましい。更に好ましくは10mg/m以上25mg/m以下である。2mg/m未満では適切な耐食性を得ることができず、また、100mg/mを超えても密着性と耐食性はそれに連れて向上せず、コスト高となる。また、化成皮膜に含まれるポリイタコン酸の量は、ポリイタコン酸に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下であることが好ましい。更に好ましくは1mg/m以上10mg/m以下である。0.5mg/m未満では適切な密着性を得ることができず、また20mg/mを超えても密着性と耐食性はそれに連れて向上せず、コスト高となる。
【0033】
<後処理剤>
本実施形態に係る缶用下地処理方法では、金属表面処理組成物による処理を施した後、後処理剤を用いて接着層を形成する。後処理剤は、カチオン性基含有樹脂及び水性樹脂を含み、この後処理剤を用いて形成された接着層は、金属表面処理組成物による処理で得られた化成皮膜と高い密着性を有する。
【0034】
[カチオン性基含有樹脂]
後処理剤中に含まれるカチオン性基含有樹脂は、樹脂固形分中にカチオン性基を5.0meq/g以上有するものであり、好ましくは、7.0meq/g以上有するものである。カチオン性基が5.0meq/gより少ない場合には、接着効果が弱いため密着性が低下する。カチオン性基含有樹脂の好ましい含有量は、50ppm以上8000ppm以下である。カチオン性基含有樹脂の含有量が50ppmより少ない場合には、カチオン性基含有樹脂の含有量が十分でないため密着性が低下する。8000ppmより多い場合には、膜厚が厚くなり密着性が低下する。カチオン性基含有樹脂の具体例としては、ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられ、これらのうち、1級アミノ基を有するポリアリルアミン及び/又はポリリジンが好ましく用いられる。
【0035】
[水性樹脂]
後処理剤中に含まれる水性樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含む樹脂である。このうち、アクリル樹脂は樹脂1分子中に少なくとも2つのオキサゾリン基を含有するオキサゾリン基含有アクリル樹脂であることが好ましい。オキサゾリン基含有アクリル樹脂に含まれるオキサゾリン基は、例えばカルボキシル基やフェノール性水酸基等の、酸性基と反応して、架橋構造を形成することができる。オキサゾリン基含有アクリル樹脂としては、市販のものを用いることができ、例えば、「エポクロスWS500」(商品名、日本触媒社製)、「エポクロスWS700」(商品名、日本触媒社製)、及び「NK Linker FX」(商品名、新中村化学工業社製)を用いることができる。なお、オキサゾリン基含有樹脂のオキサゾリン価は、100〜240であることが好ましい。これらの範囲外では、目的とする効果が得られないおそれがある。水性樹脂の好ましい含有量は、30ppm以上4000ppm以下である。水性樹脂の好ましい含有量が30ppmより少ない場合には、水性樹脂の含有量が充分でないため密着性が低下する。4000ppmより多い場合には、膜厚が厚くなり密着性が低下する。
【0036】
[乾燥皮膜量]
上記のカチオン性基含有樹脂及び水性樹脂を含む後処理剤により形成される接着層の全有機炭素量換算の乾燥皮膜量は、2mg/m以上200mg/m以下であることが好ましい。全有機炭素量換算の乾燥皮膜量が2mg/mより少ない場合には、樹脂量(官能基量)が少ないため密着性が低下する。200mg/mより多い場合には、膜厚が厚くなり密着性が低下する。ここで、「全有機炭素量換算の乾燥皮膜量」とは、当該乾燥皮膜中に含まれる全有機炭素量を意味する。なお、全有機炭素量は市販の全有機炭素自動分析装置等を用いて測定することができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
[金属表面処理]
アルミニウム系金属としてアルミニウム合金(5182材)を準備し、日本ペイント社製の脱脂剤「SCL420N−2」(商品名)の2%水溶液中(65℃)に7秒間浸漬して脱脂処理を行った。脱脂処理後、水洗してから、2%硫酸水溶液中(50℃)に3秒間浸漬して酸洗浄を行った。酸洗浄後、水洗してから、実施例及び比較例に示す各金属表面処理組成物をそれぞれ用いてスプレー処理した。次いで、水洗してからロール絞りで脱水を行った後、80℃×60秒間の条件下で乾燥させた。
【0039】
<実施例1>
フルオロジルコニウム酸、水酸化アルミニウム、フッ化水素酸、及びアルミニウムイオン捕捉剤としてのポリイタコン酸(磐田化学工業社製、「PIA−728」、商品名、分子量約3000)を、それぞれ、ジルコニウムイオン50ppm、アルミニウムイオン10ppm、有効フッ素イオン1ppm、ポリイタコン酸200ppmとなるように配合し、アンモニアを添加してpHを3.5に調整して、金属表面処理組成物を得た。
【0040】
<実施例2〜17>
実施例1と同様にして、各成分の配合量を表1に示すように変化させたものを実施例2〜17とした。
【表1】

【0041】
<比較例1>
ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、及び、有効フッ素イオンをいずれも配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例1とした。
【0042】
<比較例2>
ポリイタコン酸を配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例2とした。
【0043】
<比較例3>
アルミニウムイオンを配合しない以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例3とした。
【0044】
<比較例4>
ポリイタコン酸の代わりに、フェノール樹脂(昭和高分子社製、「ショーノールBRL−141B」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例4とした。
【0045】
<比較例5>
ポリイタコン酸の代わりに、ポリアクリル酸(日本純薬社製、「ジュリマーAC10L」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例5とした。
【0046】
<比較例6>
ポリイタコン酸の代わりに、ポリメタクリル酸(日本純薬社製、「AC30H」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例6とした。
【0047】
<比較例7>
ポリイタコン酸の代わりに、タンニン酸(大日本住友製薬社製、「Nタンニン酸」、商品名)を200ppm配合した以外は、実施例1と同様に配合・調製して比較例7とした。
【0048】
<比較例8>
クロム系表面処理組成物のリン酸クロメート(日本ペイント社製、「アルサーフ407/47」、商品名)を比較例8とした。
【0049】
【表2】

【0050】
<スラッジ性>
金属表面処理組成物1L当たり、0.1mのアルミニウム合金(5182材)を処理した後、金属表面処理組成物中の濁りを目視観察した。評価基準は次の通りとした。結果を表1及び表2に示した。
○:濁りなし。
×:濁りあり。
【0051】
[評価]
<化成皮膜中含有量の測定>
作成した化成皮膜のジルコニウム付着量は、蛍光X線分析装置(島津製作所社製、「XRF1700」、商品名)を用いて測定した。また、アルミニウムイオン捕捉剤付着量は、アルミニウムイオン捕捉剤に由来する有機炭素量として、全有機炭素測定装置(LECO社製、「RC−412」、商品名)を用いて測定した。それぞれの測定量を表1及び表2に示した。
【0052】
[後処理]
<実施例18>
表3に示す通り、実施例1で調製した金属表面処理組成物で処理した金属について、ポリアリルアミン(日東紡績社製、「PAA−10C」、商品名、カチオン性基含有量17.5meq/g)を700ppm、フェノール樹脂(昭和高分子社製、「BRL141B」、商品名)を300ppm含有する後処理剤を、バーコーターにより乾燥皮膜量が20mg/mとなるように塗布した後、80℃×60秒間乾燥させて、缶用下地を得た。全有機炭素換算の乾燥皮膜量は全有機炭素測定装置(LECO社製、「RC−412」、商品名)を用いて測定した。
【0053】
<実施例19〜34>
金属表面処理組成物で処理した金属を、実施例2〜17で調製した金属表面処理組成物で処理して得られたものにそれぞれ変えた以外は、実施例18と同様にして、缶用下地を得た。
【0054】
<実施例35、36>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、ポリアリルアミンに濃塩酸を添加して含有するカチオン性基を部分的にブロックすることにより、カチオン性基含有量をそれぞれ、5.0meq/g、4.0meq/gとした点以外は、実施例18と同様にして缶用下地を得た。
【0055】
<実施例37>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、フェノール樹脂の代わりにポリアクリル酸(ジョンソンポリマー社製、「ジョンクリル70」、商品名)を用いた点以外は、実施例18と同様に処理したものを実施例37とした。
【0056】
<実施例38>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、フェノール樹脂の代わりにポリウレタン(第一工業製薬社製、「SF820」、商品名)を用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例38とした。
【0057】
<実施例39>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、フェノール樹脂の代わりにポリエステル(東洋紡績社製、「バイロナールMD−1480」、商品名)を用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例39とした。
【0058】
<実施例40>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、フェノール樹脂の代わりにエポキシ樹脂(日立化成工業社製「ヒタロイド7800−J21」、商品名)を用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例40とした。
【0059】
<実施例41>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、ポリアリルアミンの代わりにポリリジン(チッソ社製「ポリリジン」、商品名、カチオン性基含有量7.8meq/g)を用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例41とした。
【0060】
<実施例42>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、ポリアリルアミンの代わりにポリリジン(チッソ社製「ポリリジン」、商品名、カチオン性基含有量7.8meq/g)を、フェノール樹脂の代わりにポリアクリル酸(ジョンソンポリマー社製、「ジョンクリル70」、商品名)用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例42とした。
【0061】
<実施例43>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、フェノール樹脂の代わりにオキサゾリン基含有アクリル樹脂(日本触媒社製、「エポクロスWS700」、商品名)を用いた以外は実施例18と同様に処理したものを実施例43とした。
【0062】
<実施例44>
実施例1で調製した金属表面処理組成物の代わりに実施例3で調製した金属表面処理組成物を用い、ポリアリルアミンの量及びフェノール樹脂の量を300ppmに変更し、オキサゾリン基含有アクリル樹脂(日本触媒社製、「エポクロスWS700」、商品名)を400ppmを追加した点以外は、実施例18と同様に処理したものを実施例44とした。
【0063】
<実施例45〜48>
実施例18における後処理剤の組成及び組成比は同一とし、濃度のみを変化させて、接着層の全有機炭素量換算の乾燥皮膜量を2mg/m、50mg/m、100mg/m、及び200mg/mに変えたものをそれぞれ実施例43〜48とした。
【0064】
【表3】

【0065】
<比較例9>
実施例3で調製した金属表面処理組成物で処理した金属を用い、後処理工程を施さなかったものを比較例9とした。
【0066】
<比較例10>
金属を脱脂洗浄した後、金属表面処理組成物による処理を施さずに乾燥させた金属に変えた点以外は、実施例18と同様に処理したものを比較例10とした。
【0067】
<比較例11〜16>
表4に示す通り、比較例1〜3、5、6、8で調製した各種金属表面処理組成物で処理した各金属について、各種後処理剤を実施例18と同様に塗布、乾燥させたものを比較例11〜16とした。
【0068】
<比較例17〜21>
表4に示す通り、実施例3で調製した各種金属表面処理組成物で処理した各金属について、水性樹脂のみからなる各種後処理剤を実施例18と同様に塗布、乾燥させたものを比較例17〜21とした。
【0069】
【表4】

【0070】
<密着性:Tピール試験>
実施例及び比較例で得られた各金属の試験片(5mm×15mm)2枚の間にPETフィルムを挟み込み、ホットプレス(240℃×5秒間、10kgf/cm)で熱圧着した。次いで、各試験片を5mm幅に切断して125℃×30分の高温高湿テストを行った後、オリエンテック社製テンシロン試験機「UTM−II−20R」にて剥離強度測定(引き剥がし速度:40mm/min)を実施した。測定により得られた引張強度(kgf/5mm)により、ラミネート密着性の評価を行った。なお、評価基準は以下の通りとした。結果を表3及び表4に示した。
◎:引張り強度1.5以上。
○:引張り強度1.0以上1.5未満。
△:引張り強度0.5以上1.0未満。
×:引張り強度0.5未満。
【0071】
表に示す通り、本実施例のスラッジ性には問題はなかった。また、ラミネート皮膜の密着性は、比較例9〜15及び比較例17〜21に比べて良好であり、かつリン酸クロメートを用いた比較例16よりも優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面を金属表面処理組成物で処理して化成皮膜を形成し、次いで、前記化成皮膜上に接着層を形成する工程を含む缶用下地処理方法であって、
前記金属表面処理組成物を、1ppm以上1000ppm以下の有効フッ素イオン、10ppm以上10000ppm以下のジルコニウムイオン、10ppm以上2000ppm以下のアルミニウムイオン、及び、50ppm以上10000ppm以下のポリイタコン酸を含むpHが2以上5以下の金属表面処理組成物とする缶用下地処理方法。
【請求項2】
前記接着層を、カチオン性基含有樹脂及び水性樹脂を含む後処理剤で処理して形成する請求項1記載の缶用下地処理方法。
【請求項3】
前記カチオン性基含有樹脂を、樹脂固形分中にカチオン性基を5.0meq/g以上有するものとする請求項2記載の缶用下地処理方法。
【請求項4】
前記カチオン性基含有樹脂を、ポリアリルアミン及び/又はポリリジンとする請求項2又は3記載の缶用下地処理方法。
【請求項5】
前記水性樹脂を、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含む樹脂とする請求項2から4いずれか記載の缶用下地処理方法。
【請求項6】
前記アクリル樹脂を、1分子中に少なくとも2つのオキサゾリン基を含有するオキサゾリン基含有アクリル樹脂とする請求項5記載の缶用下地処理方法。
【請求項7】
前記金属をアルミニウム系金属とする請求項1から6いずれか記載の缶用下地処理方法。
【請求項8】
ジルコニウムを金属元素換算で2mg/m以上100mg/m以下含有し、かつ、ポリイタコン酸をポリイタコン酸に由来する有機炭素量換算で0.5mg/m以上20mg/m以下含有する化成皮膜、及び全有機炭素量換算の乾燥皮膜量が2mg/m以上200mg/m以下である接着層を有する、請求項1から7いずれか記載の缶用下地処理方法により得られる缶用下地。

【公開番号】特開2008−297595(P2008−297595A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144581(P2007−144581)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】