説明

缶用塗料組成物

【課題】塗膜外観、絞りしごき加工性、耐レトルト性、香味保持性、衛生性等の塗膜性能に優れ、プレコート方式用として好適な缶用塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(A)エチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、(B)ブチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、並びに(C)該微粒子(A)に対する溶解度及び該微粒子(B)に対する溶解度が、いずれも、40℃以下では5質量%未満であり180℃以上では99質量%以上である有機溶剤を含有し、該微粒子(A)と該微粒子(B)との割合が、これらの合計に基づいて、前者が95〜30質量%で、後者が5〜70質量%であり、且つ、有機溶剤(C)の含有量が、該微粒子(A)及び該微粒子(B)の合計100質量部に対して50〜500質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品用缶等の缶の内面及び外面には、通常、塗膜が形成されている。従来、缶用塗料組成物としては、エポキシ樹脂/フェノール樹脂系塗料、エポキシ樹脂/アミノ樹脂系塗料等が使用されているが、これらのエポキシ樹脂系塗料は、塗膜の耐食性、密着性等に優れるものの、環境ホルモンの疑いのあるビスフェノールAが溶出する懸念がある。
【0003】
近年、工程短縮による製造コスト削減及び成形加工後のプレスオイル処理に伴う環境問題の解消の観点から、金属板を缶状に成形加工してから塗装を行うポストコート方式から、予め塗装が施された金属板を缶状に成形加工するプレコート方式に替わってきている。プレコート方式の場合、缶特に缶内面に形成された塗膜には、絞りしごき加工性(以下、D&I(Draw and Ironing)加工性ということがある)、耐レトルト性、香味保持性、衛生性等の塗膜性能に優れることが要求されるが、これらの全てを満足させることは容易ではない。
【0004】
プレコート方式と同様の目的で、金属板にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼付し、得られた樹脂被覆金属板を成形加工して缶体を得るフィルムラミネート方式が開示されている(特許文献1参照)。しかし、フィルムラミネート方式では新たな設備が必要となること、フィルム膜厚を薄膜に制御することが困難な為、フィルムラミネート方式は厚膜での使用となり、塗装して塗膜を形成するプレコート方法に比べてコスト的に割高となる。さらに、PETフィルムの製造上、分解生成物であるアセトアルデヒドをはじめ、残存モノマー類や環状オリゴマー類などの低分子成分が含有されており、衛生性面からも改良が必要であった。
【0005】
そこで、ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた缶用塗料組成物が注目されているが、PETの結晶性の高さから一般的に用いられている有機溶剤には溶解し難いため、プレコート用塗料として十分な特性を発揮せしめることは容易ではなかった。
【0006】
例えば、プレコート方式に使用し得る缶用塗料組成物として、非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を溶剤に溶解後、徐冷して得られる、結晶性ポリエステル樹脂を分散状態で含有する缶被覆用樹脂組成物が公知である(特許文献2参照)。しかし、この缶被覆用樹脂組成物を金属板に塗装した樹脂被覆金属板は、D&I加工性が不十分であった。
【0007】
また、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂を有機溶剤中に加熱、溶解させた後、該樹脂溶液を結晶性ポリエステル樹脂の昇温結晶開始温度以上の温度から結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度以下の温度まで急冷して得られる、ポリエステル樹脂分散液を缶用塗料組成物として使用することが公知である(特許文献3及び4参照)。しかし、この様な缶用塗料組成物を、プレコート方式で使用した場合、塗膜平滑性及びD&I加工性のいずれかが十分ではない場合があった。
【特許文献1】特開平5−147647号公報
【特許文献2】特開2001−234115号公報
【特許文献3】特開2004−2671号公報
【特許文献4】特開2004−292467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、塗膜外観、絞りしごき加工性、耐レトルト性、香味保持性、衛生性等の塗膜性能に優れ、プレコート方式用として好適な缶用塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を行った結果、エチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)、ブチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)、及び該微粒子(A)と該微粒子(B)に対する溶解度が特定範囲にある有機溶剤(C)を、それぞれ特定の割合で含有する缶用塗料組成物によれば、塗膜外観、D&I加工性、耐レトルト性、香味保持性及び衛生性に優れる塗膜が得られ、プレコート方式用として好適であること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の缶用塗料組成物を提供するものである。
【0011】
1.(A)エチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、
(B)ブチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、並びに
(C)該微粒子(A)に対する溶解度及び該微粒子(B)に対する溶解度が、いずれも、40℃以下では5質量%未満であり170℃以上では99質量%以上である有機溶剤を含有し、
該微粒子(A)と該微粒子(B)との割合が、これらの合計に基づいて、前者が95〜30質量%で、後者が5〜70質量%であり、且つ、有機溶剤(C)の含有量が、該微粒子(A)及び該微粒子(B)の合計100質量部に対して40〜800質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物。
【0012】
2.結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)が、樹脂固有粘度0.4〜1.4dl/g、ガラス転移温度(Tg)55〜130℃、及び融点(Tm)160〜260℃のものである上記項1に記載の缶用塗料組成物。
【0013】
3.結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)が、エチレンテレフタレート単位含有率が80モル%以上のポリエステル樹脂からなるものである上記項1又は2に記載の缶用塗料組成物。
【0014】
4.結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)が、樹脂固有粘度0.4〜1.4dl/g、ガラス転移温度(Tg)0〜40℃、及び融点(Tm)130〜250℃のものである上記項1〜3のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0015】
5.結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)が、ブチレンテレフタレート単位含有率が90モル%以上のポリエステル樹脂からなるものである上記項1〜4のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0016】
6.更に、非結晶性ポリエステル樹脂(D)を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜100質量部含有してなる上記項1〜5のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0017】
7.非結晶性ポリエステル樹脂(D)が、ガラス転移温度(Tg)55〜150℃のものである上記項6に記載の缶用塗料組成物。
【0018】
8.更に、分散剤(E)を含有してなる上記項1〜7のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0019】
9.分散剤(E)が、一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数6〜18の脂肪族もしくは芳香族炭化水素、又は−C2mOC2n+1を示す。ここで、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、かつm+nが6以上の整数である。)で表されるリン酸系化合物である上記項8に記載の缶用塗料組成物。
【0022】
10.更に、レゾール型フェノール樹脂を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなる上記項1〜9のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0023】
11.更に、エポキシ樹脂を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部含有してなる上記項1〜10のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【0024】
12.上記項1〜11のいずれかに記載の缶用塗料組成物を、金属板の少なくとも片面に塗装し、焼付けて得られた塗装金属板。
【0025】
13.上記項12に記載の塗装金属板の塗装面が缶内面となる様に、絞り加工又は絞りしごき加工して得られた缶体。
【0026】
本明細書において、ポリエステル樹脂の特性である樹脂固有粘度、ガラス転移温度、融点及び平均粒子径は、以下の様にして測定したものである。
【0027】
(1)樹脂固有粘度:JIS Z 8803に規定の方法に従い、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)の混合溶液を用いて、25℃で測定して求める。
【0028】
(2)ガラス転移温度:JIS K 7121 9.3(1987)に規定の方法によって求められる値である。
【0029】
(3)融点:示査走査型熱量計を用いて、測定した値である。示査走査型熱量計の市販品としては、例えば、「DSC−60A」(商品名、島津製作所社(株)製)を使用できる。
【0030】
(4)体積平均粒子径:レーザー散乱式粒度分布測定器を用いて、測定した値である。この様な粒度分布測定器の市販品としては、例えば、「MICROTRAC HRA model 9320−X100」(商品名、日機装(株)製)を使用できる。
【0031】
以下、本発明の缶用塗料組成物について、詳細に説明する。
【0032】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)
本発明における結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)は、エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂の微粒子である。結晶性とは、示査走査型熱量計による測定において、明確な融点を示すことを意味する。エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとの重縮合反応によって得られるが、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルの一部をイソフタル酸、アジピン酸等のその他の多塩基酸又はその低級アルキルエステルで置き換えたり、エチレングリコールの一部をプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のその他の多価アルコールで置き換えてもよい。
【0033】
エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂としては、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとに基づくエチレンテレフタレート単位の含有率が80モル%以上のポリエステル樹脂であるのが、香味保持性に優れる観点から、好ましい。エチレンテレフタレート単位の含有率が80モル%以上である限りにおいて、例えば、エチレンテレフタレート単位含有率が100モル%のポリエチレンテレフタレート(PET)であっても、エチレンテレフタレート単位とエチレンイソフタレート単位等のその他の単位との共重合体であってもよい。また、ゴム状ポリエステル構造(例えば、ガラス転移温度の低いポリエーテルからなる鎖状セグメント)を有しているものも包含される。
【0034】
該微粒子(A)を得るための結晶性ポリエステル樹脂の微粒子化方法としては、例えば、粉砕方法、溶解冷却法、スプレードライ法等が挙げられるが、塗膜外観の面から有機溶剤によって加熱溶解した後に冷却させる溶解冷却法によって得た結晶性ポリエステル樹脂微粒子を用いることが好ましい。
【0035】
本発明に使用できる結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)の特性としては、樹脂固有粘度が0.4〜1.4dl/g程度であるのが好ましく、0.7〜1.2dl/g程度であるのがより好ましい。また、ガラス転移温度が55〜130℃程度であるのが好ましく、融点が160〜260℃程度であるのが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)の体積平均粒子径は、通常、0.1〜25μm程度、特に0.1〜10μm程度の範囲内である。
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、「PA−200」(商品名、三菱レイヨン(株)製)、「J125」(商品名、三井化学(株)製)、「J135」(商品名、三井化学(株)製)、「TN8756」(商品名、帝人化成(株)製)などが挙げられる。
【0037】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)
本発明における結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)は、ブチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂の微粒子である。結晶性とは、示査走査型熱量計による測定において、明確な融点を示すことを意味する。ブチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルと1,4−ブタンジオールとの重縮合反応によって得られるが、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルの一部をイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等のその他の多塩基酸又はその低級アルキルエステルで置き換えたり、1,4−ブタンジオールの一部を1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等のその他の多価アルコールで置き換えてもよい。
【0038】
ブチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂としては、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルと1,4−ブタンジオールとに基づくブチレンテレフタレート単位の含有率が90モル%以上のポリエステル樹脂であるのが好ましい。ブチレンテレフタレート単位の含有率が90モル%以上である限りにおいて、例えば、ブチレンテレフタレート単位含有率が100モル%のポリブチレンテレフタレート(PBT)であっても、ブチレンテレフタレート単位とブチレンイソフタレート単位等のその他の単位との共重合体であってもよい。また、ゴム状ポリエステル構造(例えば、ガラス転移温度の低いポリエーテルからなる鎖状セグメント)を有しているものも包含される。
【0039】
該微粒子(B)を得るための結晶性ポリエステル樹脂の微粒子化方法としては、例えば、粉砕方法、溶解冷却法、スプレードライ法等が挙げられるが、塗膜形成性の面から有機溶剤によって加熱溶解した後に冷却させる溶解冷却法によって得た結晶性ポリエステル樹脂微粒子を用いることが好ましい。
【0040】
本発明に使用できる結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の特性としては、樹脂固有粘度が0.4〜1.4dl/g程度であるのが好ましく、0.7〜1.2dl/g程度であるのがより好ましい。また、ガラス転移温度が0〜40℃程度であるのが好ましく、融点が130〜250℃程度であるのが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の体積平均粒子径は、通常、0.1〜25μm程度、特に0.1〜7μm程度の範囲内である。
【0041】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、「N−1000」(商品名、三菱レイヨン(株)製)等が挙げられる。
【0042】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との割合
本発明の缶用塗料組成物における、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との使用割合は、これらの微粒子の合計に基づいて、前者が95〜30質量%で、後者が5〜70質量%である。これらの微粒子が有機溶剤中に分散した状態の場合は、微粒子(A)と微粒子(B)の固形分当たりでこの割合となる様に混合使用する。
【0043】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)の割合が95質量%を超えると、塗膜の絞りしごき加工性(D&I加工性)が低下する。また、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)の割合が5質量%未満となると、塗膜の香味保持性を低下させるため好ましくない。
【0044】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との使用割合は、これらの微粒子の合計に基づいて、前者が90〜40質量%で、後者が10〜60質量%であるのが好ましく、前者が80〜50質量%で、後者が20〜50質量%であるのがより好ましい。
【0045】
有機溶剤(C)
有機溶剤(C)は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)に対する溶解度及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)に対する溶解度が、いずれも、40℃以下では5質量%未満であり、170℃以上では99質量%以上である有機溶剤である。有機溶剤(C)が、このような溶解度であることにより、本発明塗料組成物は、常温では流動性に優れた分散状態であり、塗膜形成のための加熱時には微粒子(A)及び微粒子(B)が共に溶融して均一塗膜を形成する。
【0046】
有機溶剤(C)としては、具体的には、例えば、アジピン酸ジメチルとグルタール酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合溶剤(沸点範囲170〜205℃程度)、N−メチル−2−ピロリドン、イソホロン等が挙げられる。このアジピン酸ジメチルとグルタール酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合溶剤としては、市販品を使用できる。市販品としては、例えば「DBE」(商品名、デュポン社製)等を挙げることができる。
【0047】
有機溶剤(C)の含有量としては、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、40〜800質量部程度であるのが、これらの微粒子の分散性と塗装作業性の面からよい。有機溶剤(C)の含有量は、該微粒子(A)と該微粒子(B)の合計100質量部に対して、50〜500質量部程度であるのが好ましい。
【0048】
非結晶性ポリエステル樹脂(D)
非結晶性ポリエステル樹脂(D)は、示査走査型熱量計による測定において明確な融点を示さないものであり、常温で有機溶剤に溶解しやすい樹脂で、塗膜形成時において溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との親和性や相溶性が高い樹脂、又は溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)と反応して連続層を形成するような樹脂が挙げられる。このような性質によって、該ポリエステル樹脂(D)は塗料組成物の塗膜外観の向上に寄与する。
【0049】
非結晶性ポリエステル樹脂(D)のガラス転移温度(Tg)は、55〜150℃程度であるのが好ましく、60〜120℃程度であるのがより好ましく、65〜110℃程度であるのが更に好ましい。
【0050】
非結晶性ポリエステル樹脂(D)は、多塩基酸成分と多価アルコール成分を反応させることにより得られる。
【0051】
多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などから選ばれる1種以上の二塩基酸及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物;無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが用いられ、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用することができる。
【0052】
多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの二価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール等を用いることができる。
【0053】
非結晶性ポリエステル樹脂(D)としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、「UE−3201」、「UE−3203」、「XA−0653」(商品名、以上ユニチカ(株)製)、「GK−640」、「GK−880」、(商品名、以上東洋紡績(株)製)などが挙げられる。
【0054】
本発明の缶用塗料組成物において、非結晶性ポリエステル樹脂(D)は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜100質量部程度配合することにより、塗膜外観を向上せしめることができる。該樹脂(D)の配合量は、該微粒子(A)と該微粒子(B)の合計100質量部に対して、5〜100質量部程度であるのが好ましい。
【0055】
分散剤(E)
分散剤(E)は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の有機溶剤(C)中の分散性を向上させるために用いることができる。
【0056】
分散剤(E)としては、例えば、主鎖の片末端又は両末端に、微粒子(A)及び(B)と親和性のある基を有する直鎖状の高分子系分散剤を使用できる。該親和性基としては、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、窒素原子を有する複素環基等が挙げられ、直鎖状の高分子としては、例えば、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエステル等が挙げられる。また、このような複素環基としては、例えば、ピロール基、イミダゾール基、ピリジニル基、ピリミジニル基等が挙げられる。
【0057】
このような高分子系の分散剤として、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、「BYK−160」、「BYK−161」、「BYK−162」、「BYK−180」、「BYK−181」、「BYK−182」[商品名、以上BYK Chemie(ビックケミー)社製]、「ソルスパース20000」(商品名、ゼネカ社製)等を使用することができる。
【0058】
また、分散剤(E)としては、下記一般式(1)
【0059】
【化2】

【0060】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数6〜18の脂肪族もしくは芳香族炭化水素、又は−C2mOC2n+1を示す。ここで、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、かつm+nが6以上の整数である。)で表されるリン酸系化合物を使用することも、好ましい。
【0061】
一般式(1)のリン酸系化合物としては、具体的には、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等を挙げることができる。
【0062】
これらの分散剤(E)は、いずれか1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
分散剤(E)の配合量は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の分散性を向上させる観点から、該樹脂微粒子(A)と樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部程度が好ましく、0.5〜5質量部程度がより好ましい。
【0064】
その他の成分
本発明の缶用塗料組成物には、必要に応じて、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂などのポリエステル樹脂以外の樹脂を配合することができる。これらの中でもレゾール型フェノール樹脂やエポキシ樹脂が、金属板との塗膜密着性を向上せしめる点から、好ましい。
【0065】
レゾール型フェノール樹脂は、特にフェノール成分とホルムアルデヒド類とを反応触媒の存在下で加熱して縮合反応させてメチロール基を導入して得られるメチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルコールでアルキルエーテル化してなるものが好ましい。
【0066】
レゾール型フェノール樹脂の製造において用いられるフェノール化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどを挙げることができる。これらのフェノール化合物は1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0067】
レゾール型フェノール樹脂の製造に用いられるホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0068】
メチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜4個の1価アルコールを好適に使用することができる。好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどを挙げることができる。
【0069】
レゾール型フェノール樹脂の配合量は、塗膜外観とD&I加工性とのバランスの観点から、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部程度が好ましく、0.5〜5質量部程度が、より好ましい。
【0070】
上記エポキシ樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び/又は結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)であるポリエステル樹脂がカルボキシル基を有している場合には、その架橋剤として有効に作用するが、該ポリエステル樹脂がカルボキシル基を持っていない場合にもポリエステル樹脂の補強材又は上記レゾール型フェノール樹脂と架橋することによる造膜成分として有効に作用する。
【0071】
エポキシ樹脂を添加することで、硬度、密着性、耐レトルト性などの塗膜性能が向上するが、中でもノボラック型エポキシ樹脂が環境ホルモンの疑いをもたれているビスフェノールAを含有していないため好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、分子内に多数のエポキシ基を有するフェノールグリオキザール型エポキシ樹脂などの各種のノボラック型エポキシ樹脂を挙げることができる。なかでも塗膜性能のバランスを取り易いフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好適である。
【0072】
エポキシ樹脂の配合量は、塗膜外観とD&I加工性とのバランスの観点から、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との合計100質量部に対して、0.5〜20質量部程度が好ましく、2〜10質量部程度がより好ましい。
【0073】
本発明缶用塗料組成物には、さらに必要に応じて、その他の有機樹脂、ワックス、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、着色顔料、光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料、有機溶剤(C)以外の有機溶剤等を添加使用できる。
【0074】
上記ワックスは、缶用塗料組成物の塗膜の動摩擦係数を調整するために添加され、該組成物を塗装した金属板の搬送及び成形加工時において引っ掻き傷等の発生を抑えるために有用である。ワックスとしては、軟化点30℃以上のものが好ましく、33〜150℃程度のものがより好ましく、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリオレフィンワックス、動物系ワックス、植物系ワックスなどを挙げることができる。
【0075】
上記脂肪酸エステルワックスの原料となるポリオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ジ又はそれ以上のポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどを挙げることができる。これらのうち、1分子中に3個以上の水酸基を有するポリオール化合物が好ましく、この中でもポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好適である。
【0076】
上記脂肪酸エステルワックスのもう一方の原料となる脂肪酸としては、飽和又は不飽和の脂肪酸を挙げることができ、炭素原子数6〜32の脂肪酸であることが好ましい。好適な脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などの飽和脂肪酸;カプロレイン酸、ウンデシレン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リカン酸、リシノール酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸を挙げることができる。
【0077】
脂肪酸エステルワックスとしては、上記ポリオール化合物の水酸基数の少なくとも1/3が脂肪酸でエステル化されたものが好ましい。
【0078】
シリコン系ワックスとしては、市販品が使用できる。市販品としては、例えば、「BYK−300」、「BYK−320」、「BYK−330」[商品名、以上BYK Chemie(ビックケミー)社製]、「シルウェットL−77」、「シルウェットL−720」、「シルウェットL−7602」[商品名、以上日本コニカー(株)製]、「ペインタッド29」、「ペインタッド32」、「ペインタッドM」[商品名、以上ダウコーニング社製]、「信越シリコーンKF−96」[商品名、信越化学(株)製]等が挙げられ、また、フッ素系ワックスとしては、例えば、「シャムロックワックスSST−1MG」、「シャムロックワックスSST−3」、「シャムロックワックスフルオロスリップ231」[商品名、以上、シャムロックケミカルズ社製]、「POLYFLUO(ポリフルオ)120」、「POLYFLUO150」、「POLYFLUO400」[商品名、以上マイクロパウダーズ社]等が挙げられる。
【0079】
ポリオレフィンワックスとしては、市販品が使用できる。市販品としては、例えば、「シャムロックワックスS−394」、「シャムロックワックスS−395」[商品名、以上シャムロックケミカルズ社製]、「ヘキストワックスPE−520」、「ヘキストワックスPE−521」[商品名、以上ヘキスト社製]、「三井ハイワックス」[商品名、三井化学(株)製]等が挙げられる。
【0080】
さらに、動物系ワックスとしては、例えば、ラノリンワックス、蜜ろう等が挙げられ、植物系ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、水ろう等が挙げられる。
【0081】
上記ワックスは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
これらワックスの添加量は、塗料安定性に優れかつ被膜の絞りしごき加工に耐え得る加工性の面から、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との合計100質量部に対して、5質量部以下であるのが好ましく、0.5〜2.5質量部程度であるのがより好ましい。
【0083】
前記の有機溶剤(C)以外の有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素類;メチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0084】
前記の硬化触媒としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、燐酸などの酸触媒又はこれらの酸のアミン中和物などを具体例として挙げることができる。
【0085】
塗料組成物の調製方法
本発明の缶用塗料組成物は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)及び有機溶剤(C)の各必須成分、必要に応じて、非結晶性ポリエステル樹脂(D)及び分散剤(E)の各任意成分並びに前記その他の成分を、公知の方法に従って、混合することにより、調製することができる。
【0086】
得られる本発明の塗料組成物は、通常、有機溶剤型塗料組成物であり、塗料組成物の固形分含量は、通常、5〜50質量%程度とするのがよい。
【0087】
本発明の缶用塗料組成物においては、その固形分合計に対して、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)と結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)との固形分合計を50質量%以上程度に調整することが、塗膜のD&I加工性を十分とする点から、好ましい。
【0088】
塗料組成物の適用
本発明の缶用塗料組成物は、飲食品用缶の金属板を缶状に成形加工してから塗装を行うポストコート方式にも使用できるが、特に、該金属板に予め塗装して得られた塗装金属板を缶状に成形加工するプレコート方式に好適に使用できる。
【0089】
本発明の缶用塗料組成物は、塗膜外観、D&I加工性等に優れることから、プレコート方式用として、特に適している。また、衛生性、香味保持性等に優れることから缶内面用の塗料として適している。
【0090】
本発明の缶用塗料組成物を、プレコート用として用いる場合には、先ず、金属板の少なくとも片面に塗装し、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び(B)の融点以上の温度に加熱し、焼き付けることにより、塗装金属板を得る。この焼き付け後の塗装金属板は、急冷して、ポリエステル樹脂をアモルファス化することが、D&I加工性の向上の観点から、好ましい。
【0091】
上記被塗物である金属板としては、飲食用缶等の各種缶用に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、冷延鋼板、錫メッキ鋼板、亜鉛メッキ鋼板、クロムメッキ鋼板、アルミニウム板などを挙げることができる。これらの金属板は、無処理のままで用いることもできるが、リン酸塩処理、ジルコニウム塩処理、クロメート処理などの表面処理を行ったものも用いることができる。また、金属板の形状としては、板状であってもよいし、コイル状に巻いた金属帯であってもよい。金属板の厚さは、通常0.15〜0.4mm程度であり、縦及び横の長さは任意である。また、金属帯は、通常、厚さ0.15〜0.4mm程度で、幅1m前後の帯状の金属板を巻き取ったものが適当である。
【0092】
金属板への塗料組成物の塗装方法は、特に限定されるものではなく、例えばスプレー塗装、ロールコーター塗装、カーテンフローコーター塗装、バーコーター塗装などにより行うことができるが、金属板への効率的な塗装方法としては、ロールコーター塗装が適している。
【0093】
本発明の缶用塗料組成物を、缶体用被膜とした場合の塗布量は、缶の内面及び/又は外面に、加工前の乾燥塗布量で10〜300mg/100cm程度、特に50〜200mg/100cm程度、乾燥膜厚で1〜30μm程度、好ましくは5〜20μm程度の範囲がよい。缶蓋用被膜とした場合の塗布量は、乾燥塗布量で10〜200mg/100cm程度、好ましくは50〜150mg/100cm程度の範囲がよい。
【0094】
被膜の焼付け温度は、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び(B)の融点以上の温度であることがよく、該融点より30〜100℃程度高い温度であることが好ましい。具体的な焼付け温度としては、通常、180℃〜300℃程度が好ましく、200〜280℃程度がより好ましい。また、焼付け時間としては、通常、1〜180秒間程度、好ましくは5〜60秒間程度、被塗物の金属板表面温度が、上記温度に保持されることが望ましい。次に、焼付け後の被膜は、冷風や大量の冷却水を吹き付けたり、冷却された水中に浸漬するなどの方法等で急冷することが望ましい。冷却速度としては、40℃以下程度となるまで、5秒以内程度に、冷却することが、D&I加工性に優れる塗膜を得るために好ましい。
【0095】
次いで、上記で得られた塗装金属板の塗装面が缶内面となる様に、絞り加工又は絞りしごき加工して缶体を得る。勿論、塗装金属板が、両面に塗装されたものである場合は、いずれの面が缶内面になってもよい。
【0096】
上記絞り加工又は絞りしごき加工は、塗装金属板を、適宜切断後、絞り加工又は絞りしごき加工して、缶胴又は缶蓋を製造するものである。缶体を構成する缶胴及び缶蓋は、衛生性、香味保持性等に優れ、かつ塗膜外観、密着性、防食性等の塗膜性能にも優れたものである。
【0097】
尚、本発明の缶用塗料組成物を缶内面側に塗装し、公知の缶用塗料組成物を缶外面側に塗装してもよい。
【発明の効果】
【0098】
本発明の缶用塗料組成物によれば、本発明特定の結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)及び有機溶剤(C)を、それぞれ特定の割合で含有することにより、以下の如き格別顕著な効果が奏される。
【0099】
(1) 本発明の缶用塗料組成物は、塗膜外観、絞りしごき加工性、耐レトルト性、香味保持性、衛生性、密着性、防食性等の塗膜性能に優れている。従って、飲食品用缶等の缶の内面用及び外面用として、極めて好適に使用できる。
【0100】
(2) また、本発明の缶用塗料組成物は、塗膜外観、絞りしごき加工性等の塗膜性能に優れる点に基づいて、特に、金属板に予め塗装して得られた塗装金属板を缶状に成形加工するプレコート方式に好適に使用できる。
【0101】
(3) 更に、本発明の缶用塗料組成物は、塗料の安定性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0102】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらによって限定されない。各例において、「部」及び「%」はいずれも質量基準による。
【0103】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び(B)の製造
製造例1
多塩基酸成分を、テレフタル酸/イソフタル酸=85モル%/15モル%の原料組成とし、又多価アルコール成分を、エチレングリコールを100モル%の原料組成として得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を、常法によりジェットミルで冷却粉砕し、分級を繰り返して、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂微粒子(PET-No.1という)を得た。
【0104】
製造例2
表1に示す原料組成のポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、該樹脂を「DBE」(商品名、デュポン社製、アジピン酸ジメチル、グルタール酸ジメチル、コハク酸ジメチルの混合溶剤、沸点205℃)400部と共に攪拌しながら加熱溶解し、500部のシクロヘキサノン(沸点155℃)を投入して結晶微粒子を冷却析出させた後、濾過及び減圧乾燥して、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂微粒子(PET-No.2という)を得た。
【0105】
製造例3
表1に示す原料組成のポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、溶解溶剤をN−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)に変更する以外は、製造例2と同様にして、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂微粒子(PET-No.3という)を得た。
【0106】
製造例4
表1に示す原料組成のポリブチレンテレフタレート樹脂を用い、該樹脂を「DBE」(商品名、デュポン社製、アジピン酸ジメチル、グルタール酸ジメチル、コハク酸ジメチルの混合溶剤、沸点205℃)400部と共に攪拌しながら加熱溶解し、500部のシクロヘキサノン(沸点155℃)を投入して結晶微粒子を冷却析出させた後、濾過及び減圧乾燥して、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂微粒子(PBT-No.1という)を得た。
【0107】
製造例5
表1に示す原料組成のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる以外は、製造例4と同様にして、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂微粒子(PBT-No.1という)を得た。
【0108】
表1に、製造例1〜5で得た結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂微粒子及び結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂微粒子の原料組成、並びに樹脂固有粘度、ガラス転移温度、融点及び体積平均粒子径を示す。
【0109】
【表1】

【0110】
実施例1 缶用塗料組成物No.1の製造
表1に示したPET−No.1を50部、PBT−No.1を50部、「DBE」(商品名、デュポン社製)を500部、「BYK−161」(注1)を5部(固形分)、及び「ショーノールCKS394」(注2)を2部(固形分)、ペイントシェーカーで60分間混合分散し、シクロヘキサノン/メチルエチルケトン(50/50の質量比)にて固形分を調整し、固形分12%の本発明缶用塗料組成物No.1を得た。(注1)及び(注2)は、下記のものを示す。
【0111】
(注1)「BYK−161」:商品名、BYK Chemie(ビックケミー)社製、アミン価11mgKOH/gのポリウレタン樹脂である分散剤。
【0112】
(注2)「ショーノールCKS394」:商品名、昭和高分子(株)製、レゾール型フェノール樹脂。
【0113】
実施例2〜8 缶用塗料組成物No.2〜No.8の製造
表2の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、固形分12%の本発明缶用塗料組成物No.2〜No.8を得た。
【0114】
【表2】

【0115】
表2において、樹脂(D)及び分散剤(E)の配合割合は固形分(部)を示す。また、「GK−640」(注3)は、下記のものを示す。
【0116】
(注3)「GK−640」:商品名、東洋紡績社製、ガラス転移温度79℃の非結晶性ポリエステル樹脂。
【0117】
比較例1〜3 缶用塗料組成物No.9〜No.11の製造
表3の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、固形分12%の比較缶用塗料組成物No.9〜No.11を得た。
【0118】
【表3】

【0119】
塗膜性能試験
実施例1〜8及び比較例1〜3で得られた缶用塗料組成物No.1〜No.11について、塗膜性能試験を行った。
【0120】
試験は、リン酸亜鉛で表面処理された厚さ0.32mmのアルミニウム板(200mm×300mm)に、缶用塗料組成物を乾燥膜厚が100mg/100cmになるようにバーコート塗装し、280℃で17秒間の焼付けを行って試験板を調製し、この試験板を用いて、塗膜外観、D&I加工性、耐レトルト性、香味吸着性及び衛生性の塗膜性能試験を、下記方法に従って行った。
【0121】
塗膜外観:得られた各塗装アルミニウム板の塗膜外観を、目視により、下記基準で評価した。
【0122】
◎は、透明で均一な平滑性に優れた塗膜である、
○は、透明で均一だが、塗膜の平滑性がやや劣る、
△は、塗膜が不透明で塗膜の平滑性が著しく劣る、
×は、著しい凹凸やヒビワレ等が見られ、塗膜外観が不連続である。
【0123】
D&I加工性:各被覆アルミニウム板の樹脂被覆面が加工後に缶内面となる様にして、エリクセン社製の金属薄板深絞り試験機142型を用いて、ブランク径82mmから以下の表4に示す5段階の処理を順次行い、最終的に絞り率=約37%、しごき率=約60%の「絞りしごき缶」を作成した。
【0124】
【表4】

【0125】
得られた絞りしごき缶を切り開いて加工面を以下の基準で評価した。
【0126】
◎は、被膜にクラック等の欠陥が無く、かなり平滑な加工面である、
○は、被膜にクラック等の欠陥が無く、平滑な加工面である、
△は、被膜にクラック等の欠陥が見られる、
×は、加工中に被膜の剥離や脱落が起こり、加工できない。
【0127】
耐レトルト性:試験塗板を水に浸漬し、オートクレーブ中で、125℃で30分間処理した塗膜の白化状態を下記基準により評価した。
【0128】
◎は、全く白化が認められない、
○は、ごくわずかに白化が認められる、
△は、少し白化が認められる、
×は、著しく白化が認められる。
【0129】
香味保持性:各試験板を、脱イオン水中にd−リモネン(香料)30mg/lを加えて「S−1170」(商品名、三菱化学(株)製、ショ糖脂肪酸エステル)1g/lで分散した液に、35℃で1ヶ月浸漬して貯蔵した。貯蔵後、塗膜に収着したd−リモネン(香料)を測定する為に、ジエチルエーテルに20℃で1週間浸漬後抽出し、抽出されたd−リモネン(香料)をガスクロマトグラフィーによって測定し、以下の基準で評価した。
【0130】
○は、抽出されたd−リモネンが、塗膜重量120mg当たり0.6mg未満、
△は、抽出されたd−リモネンが塗膜重量120mg当たり0.6mg以上で、かつ1.6mg未満、
×は、抽出されたd−リモネンが塗膜重量120mg当たり1.6mg以上。
【0131】
衛生性:各試験塗板を、塗装面積1cmに対して活性炭処理した水道水の量が1mlとなる比率となるように、活性炭処理した水道水を満たした耐熱ガラス製ボトルに浸漬し、蓋をしたオートクレーブ中にて125℃で30分間処理を行った。処理後の内溶液について食品衛生法記載の試験法に準じて、過マンガン酸カリウムの消費量(ppm)に基づいて衛生性を評価した。
【0132】
◎は、消費量が2ppm未満、
○は、消費量が2ppm以上5ppm未満、
△は、消費量が5ppm以上10ppm未満、
×は、消費量が10ppm以上。
【0133】
塗膜性能試験の結果を表5に示す。
【0134】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、
(B)ブチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性ポリエステル樹脂微粒子、並びに
(C)該微粒子(A)に対する溶解度及び該微粒子(B)に対する溶解度が、いずれも、40℃以下では5質量%未満であり170℃以上では99質量%以上である有機溶剤を含有し、
該微粒子(A)と該微粒子(B)との割合が、これらの合計に基づいて、前者が95〜30質量%で、後者が5〜70質量%であり、且つ、有機溶剤(C)の含有量が、該微粒子(A)及び該微粒子(B)の合計100質量部に対して40〜800質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物。
【請求項2】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)が、樹脂固有粘度0.4〜1.4dl/g、ガラス転移温度(Tg)55〜130℃、及び融点(Tm)160〜260℃のものである請求項1に記載の缶用塗料組成物。
【請求項3】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)が、エチレンテレフタレート単位含有率が80モル%以上のポリエステル樹脂からなるものである請求項1又は2に記載の缶用塗料組成物。
【請求項4】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)が、樹脂固有粘度0.4〜1.4dl/g、ガラス転移温度(Tg)0〜40℃、及び融点(Tm)130〜250℃のものである請求項1〜3のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項5】
結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)が、ブチレンテレフタレート単位含有率が90モル%以上のポリエステル樹脂からなるものである請求項1〜4のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項6】
更に、非結晶性ポリエステル樹脂(D)を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜100質量部含有してなる請求項1〜5のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項7】
非結晶性ポリエステル樹脂(D)が、ガラス転移温度(Tg)55〜150℃のものである請求項6に記載の缶用塗料組成物。
【請求項8】
更に、分散剤(E)を含有してなる請求項1〜7のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項9】
分散剤(E)が、一般式(1)
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数6〜18の脂肪族もしくは芳香族炭化水素、又は−C2mOC2n+1を示す。ここで、m及びnは、それぞれ1以上の整数であって、かつm+nが6以上の整数である。)で表されるリン酸系化合物である請求項8に記載の缶用塗料組成物。
【請求項10】
更に、レゾール型フェノール樹脂を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなる請求項1〜9のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項11】
更に、エポキシ樹脂を、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(A)及び結晶性ポリエステル樹脂微粒子(B)の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部含有してなる請求項1〜10のいずれかに記載の缶用塗料組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の缶用塗料組成物を、金属板の少なくとも片面に塗装し、焼付けて得られた塗装金属板。
【請求項13】
請求項12に記載の塗装金属板の塗装面が缶内面となる様に、絞り加工又は絞りしごき加工して得られた缶体。

【公開番号】特開2007−246603(P2007−246603A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69082(P2006−69082)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】