説明

缶胴溶接部の検査方法

【課題】溶接部の長手方向端部の良否を精度良く且つ高速に検査することができる缶胴溶接部の検査方法を提供する。
【解決手段】缶胴の溶接部の長手方向に沿った基準波形Aを生成する波形生成工程と、基準波形Aに基づいて複数の判定領域B,C,Dを設定する判定領域設定工程と、各判定領域B,C,Dにおいて上限値hと下限値iとからなる許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、溶接部の温度を測定する温度測定工程と、測定温度が判定領域において許容範囲内にあるとき良と判定し、許容範囲外にあるとき不良と判定する良否判定工程とを備える。波形生成工程は、溶接部の端部の基準波形Aとして、上昇変化部A−1と温度安定部A−2と下降変化部A−3とを含む波形を生成する。判定領域設定工程は、溶接部の端部の判定領域Bを温度安定部A−2に対応する位置に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶胴の溶接部の良否を検査する缶胴溶接部の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、3ピース缶と言われる飲料等を内容物とする缶体は、円筒状の缶胴の両端開口に缶蓋を巻き締めることにより製造される。この缶体に用いられる缶胴は、矩形状の缶胴ブランクを円筒状としてその両端を重合させ、この重合部分を溶接することによって形成される。
【0003】
缶胴の溶接に際しては、前記重合部分を一対の電極ロールで挟み込み、両電極ロールによる電気抵抗溶接を行いつつ両電極ロールの回転により缶胴をその軸線方向に送り出す。そして缶胴には、その全長にわたって前記重合部分の重合幅に相当する幅寸法の溶接部が形成される。なお、飲料等を内容物とする缶体に採用される缶胴の多くは溶接幅が0.5mmとされている。
【0004】
また、両電極ロール間に複数の缶胴を連続して投入することにより複数の缶胴の溶接が連続して行われる。このとき、隣接する缶胴の間には、缶胴同士が接触しないように間隔が設けられる。この間隔は、両電極ロール同士の接触を避け、両電極ロール間に過大な短絡電流が流れることのないように、適度に小さく設定されている。そして、両電極ロールの回転速度を増加させることにより溶接作業を高速化することができ、短時間で多くの缶胴を製造することができるようになっている。
【0005】
ところで、缶胴の溶接部は、缶胴ブランクの角折れ、重合部分への塵埃(塗料かす、金属小片等)の噛み込み、重合部分の食い違い、或いは、重合部分に切欠き等が生じていると溶接不良となり、缶蓋の巻締不良や内容物の漏洩を招くおそれがある。そこで、缶胴の溶接部の良否を検査し、溶接部が不良とされた缶胴を排除することが必要となる。
【0006】
従来、缶胴の溶接部の良否を検査する方法として、電極ロールによる缶胴の送出側近傍に設けた赤外線温度センサ等の放射温度センサにより、溶接部の温度変化を測定し、この測定値が基準となる温度変化に基づく上下限値(許容範囲)内にあるか否かにより溶接部の良否を判定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
溶接部が不良であるときには、溶接直後の溶接部の温度に極度な温度変化が生じる。従って、予め正常な温度変化を基準として上下限値を定め、測定された温度が上下限値内にあるとき良とし、それ以外を不良とすることで、溶接部の良否を判定することができる。
【0008】
しかし、溶接直後の溶接部の温度変化は、缶胴の長手方向中央部において比較的安定(温度の高低差が少ない)しているが、溶接部の長手方向の端部(缶胴の開口端縁に位置する部分)は、缶胴の中央部に比べて温度が大きく変化する。即ち、溶接部の端部においては缶胴の中央部に比べて熱の拡散が円滑に行われないために、溶接部の端部では温度の急激な上昇が生じる。このため、溶接部の中央部(端部を除く部分)においては、基準とする温度変化に基づく上限値と下限値とを、溶接部の中央部の比較的長い距離にわたって略一定温度で連続するように設定することができて、溶接不良に伴う温度変化を容易に検出することができるが、溶接部の端部においては、急激に上下する温度変化を基準として設定なければならないために上限値及び下限値の変化が極めて大きく、変化の大きな上下限値から溶接不良を判定することは困難である。
【0009】
そこで、溶接部の端部における急激な温度変化に対応させるため、測定した温度変化のピーク値を溶接部の端縁とみなして、ピーク値を基準となる温度変化を示す波形の始端(検査開始点)に合致させるように補正することが提案されている(特許文献2参照)。或いは、溶接部の端部から測定した温度変化を示す波形が、基準となる温度変化を示す波形の上下限値から外れたとき、両波形を相対的に移動させて再度判定を行うことが提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
しかし、これらの方法は、何れも、溶接部から測定した温度変化や基準となる温度変化に対して測定後に補正処理を行うものであり、この処理時間が遅れとなって高速化が望めない。しかも、溶接部の端部において基準とする温度変化を示す波形が急激に上下する傾斜により構成されており、ピーク値の前後の上昇傾斜と下降傾斜との間隔も極めて狭い。このため、溶接部の端部に設定される上下限値は、缶胴の中央部に位置する溶接部に設定された上下限値と同等の精度を有する値に設定することが困難であり、依然として溶接部の端部の良否を高精度に判定するまでには至っていないために、溶接部の端部に対する良否の誤判定が生じていた。
【特許文献1】特許第2568432号公報
【特許文献2】特許第3978990号公報
【特許文献3】特開2007−118034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の点に鑑み、溶接部の長手方向端部の良否を精度良く且つ高速に検査することができる缶胴溶接部の検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、筒状の缶胴の軸線方向に沿って形成された所定幅の溶接部を、溶接直後の温度に基づいて検査する缶胴溶接部の検査方法において、溶接部の長手方向に沿った温度変化に対応する基準波形を生成する波形生成工程と、該波形生成工程によって生成された基準波形に基づいて、溶接部の長手方向に沿って複数の判定領域を設定する判定領域設定工程と、該判定領域設定工程により設定された判定領域において上限値と下限値とからなる許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、溶接部の温度を該溶接部の長手方向に沿って測定する温度測定工程と、該温度測定工程により測定された温度が前記判定領域において許容範囲内にあるとき良と判定し、許容範囲外にあるとき不良と判定する良否判定工程とを備え、前記波形生成工程は、溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内の基準波形として、該溶接部の長手方向の端縁を起点として上昇する温度変化を示す上昇変化部と、該上昇変化部に連続し該上昇変化部より小さい温度変化を示す温度安定部と、該温度安定部に連続し該温度安定部から大きく下降する温度変化を示す下降変化部とを含む波形を生成し、前記判定領域設定工程は、溶接部の長手方向の端縁から前記所定寸法内における判定領域を前記温度安定部に対応する位置に設定することを特徴とする。
【0013】
本発明者は、正常に溶接された多数の缶胴及び溶接不良となった多数の缶胴に対して、溶接直後の溶接部の温度を長手方向(缶胴の軸線方向)に沿って所定間隔毎に測定すると共に各種試験により溶接部の長手方向に沿った温度変化についての詳細なデータを採取した。この結果、前記溶接部の長手方向の端部(溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内の部分)における溶接直後の温度は、正常に溶接されている場合に、その他の溶接部の温度に比べて高くなるだけでなく、その高温部分においては、最高温度(ピーク値)を含む前後の略一定の領域(溶接部の長手方向端部の一部領域)に温度変化が小さくなって安定する部分が存在することを知見した。更に発明者は、前記溶接部の長手方向の端部に溶接不良が生じている場合に、高温で安定する部分に対応する領域に影響を与えることを知見した。この知見に基づけば、溶接部の長手方向に沿って溶接直後の温度を測定したとき、正常に溶接された溶接部の端部における溶接直後の温度変化は、缶胴の開口端縁から急激に上昇して高温状態で安定し、その後溶接部の中央部に向かって下降する。そして更に、上昇部分と下降部分とを含む溶接部端部の変化領域に溶接不良が生じていると、高温状態での安定が得られないものとなる。
【0014】
そこで、本発明においては、波形生成工程により基準波形を生成するとき、先ず、溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内の基準波形を、前述した発明者の知見による温度変化に基づいて生成する。即ち、当該基準波形を、前記上昇変化部と、前記温度安定部と、前記下降変化部とを含むように生成する。
【0015】
次いで、判定領域設定工程により溶接部の長手方向に沿って複数の判定領域を設定するとき、溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内における判定領域については、前記基準波形における温度安定部に対応する位置に設定する。温度安定部は溶接部の端部において高温で安定する部分であり、この位置(溶接部の長手方向端部の一部の寸法範囲)に判定領域の一つを設定することにより、許容範囲設定工程により設定する許容範囲の上限値と下限値とは、当該判定領域の全長にわたり傾斜が無いか或いは傾斜の極めて少ない直線として設定することができる。
【0016】
そして、温度測定工程により検査対象となる缶胴の溶接部の温度を該溶接部の長手方向に沿って測定し、測定された温度から、良否判定工程により良否の判定を行う。このとき、溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内における判定領域においては、前記基準波形の温度安定部に基づく許容範囲が、略一定の上限値と下限値とにより設定されている。これにより、検査対象となる缶胴の溶接部の端部(長手方向の端縁から所定寸法内)に溶接不良による温度変化が生じれていれば、本来高温で安定する部分に乱れが生じて許容範囲から外れ、確実に溶接不良と判定できる。
【0017】
このように、本発明によれば、溶接部の長手方向端部の良否を精度良く検査することができるだけでなく、検査対象となる缶胴の溶接部の温度を測定した後に測定温度や基準波形を補正することも不要なので、溶接部の長手方向端部の良否を高速に検査することができる。
【0018】
また、前記波形生成工程においては、予め正常に溶接された多数の缶胴から測定された溶接部の長手方向に沿った温度変化に基づいて前記基準波形を生成することで、当該基準波形に対する上下限値の精度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の前記温度測定工程においては、缶胴に非接触状態で溶接部の温度を測定するために、放射温度センサを用いることが好ましい。そして、放射温度センサを用いることにより、移動する缶胴の溶接部に対して溶接部の長手方向に沿ってその全長にわたる温度を測定できるので有利である。
【0020】
ところで、放射温度センサは赤外線放射等を捕らえるレンズ部を缶胴の溶接部に向けることで溶接部の温度を計測するが、レンズ部の計測視野は円形とされているのが一般的である。そして、レンズ部の計測視野が円形の場合、移動する缶胴の溶接部を視野内に確実に収めるために、溶接部の幅寸法より大きな直径の計測視野を有している。即ち、缶胴が周方向(缶胴の軸線回り)に位置ずれしたときであっても、溶接部を視野内に確実に収めるために、溶接部の幅寸法より大きな計測視野が必要となる。
【0021】
しかし、レンズ部の計測視野が円形の場合、その直径を大きくすると、溶接部の長手方向に対しても視野が広くなり、小さな部位の温度異常を捕らえることが困難になる。また、缶胴が周方向に位置ずれすると、レンズ部の計測視野内を占める溶接部の面積が変動するため温度計測精度が低下する。
【0022】
特に、溶接部の長手方向の始端(端縁)がレンズ部の計測視野に侵入するときには、缶胴の移動により溶接部が計測視野の直径を覆うことで溶接部の端部に対する温度計測が可能になるが、計測視野の直径を覆うまでに時間がかかり、溶接部の端部からの正確な温度計測が困難となる。
【0023】
そこで、本発明の前記温度測定工程においては、前記温度測定工程は、溶接部の幅寸法よりも長い長辺が溶接部の長手方向に直行する長方形状の計測視野を有するレンズ部を具備して溶接部の一部の放射温度を計測する放射温度センサを用い、該放射温度センサのレンズ部に対する溶接部の長手方向への移動により該溶接部の全長にわたる温度を測定することが好ましい。
【0024】
こうすることにより、溶接部の長手方向に対してのみ計測視野が狭くなり、小さな部位の温度異常を捕らえることが可能となる。また、溶接部の幅方向に対する計測視野が広いので、移動中の缶胴が周方向に位置ずれしても溶接部が計測視野から外れ難い。更に、計測視野が長方形状であることにより、移動中の缶胴が周方向に位置ずれしても計測視野内に占める溶接部の面積の変動も抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態の検査方法に用いる装置の概要構成を示す説明図、図2は本実施形態において採用する放射温度センサの要部を示す説明的斜視図、図3は放射温度センサの計測視野を示す説明図、図4は本実施形態における計測視野と従来の計測視野とを対比するための説明図、図5は検査制御装置の機能的構成を示すブロック図、図6は溶接部に対する検査領域を示す説明図、図7は溶接部の全長にわたる良否判定時の基準波形と判定領域を示す図、図8は溶接部の端部の基準波形及び判定領域を示す図である。
【0026】
図1において、1は缶胴、2は赤外線温度センサ等の放射温度センサ、3は検査制御装置を示している。缶胴1は、一対の電極ロール(外部電極ロール4、内部電極ロール5)を備える溶接機Yにより溶接が行われる。溶接機Yは、両電極ロール4,5により缶胴1をその軸線方向に送りながら溶接を行う。即ち、缶胴1は、電極ロール4,5の上流側において、矩形状の缶胴ブランクから円筒状にプレ加工されることにより端部同士が未溶接状態で重合されており、図示しないコンベアにより搬送されて、重合部分が両電極ロール4,5間に投入される。両電極ロール4,5間に挟まれた缶胴1の重合部は、両電極ロール4,5により電気抵抗溶接が施されると共に、両電極ロール4,5の回転によって缶胴1が下流に送り出される。そして、缶胴1には、両電極ロール4,5により溶接された溶接部6が缶胴1の軸線方向全長にわたって所定幅(約0.5mm幅)に形成される。また、缶胴1は、図示するように複数連続して両電極ロール4,5に投入されるが、各缶胴1の間で両電極ロール4,5が接触して過大な短絡電流が発生しないように、軸線方向に所定間隔(0.7mm〜1.0mm)を存して両電極ロール4,5間に投入される。
【0027】
前記放射温度センサ2は、レンズ部7を備え、該レンズ部7は外部電極ロール4の下流近傍に位置決めされている。これにより、放射温度センサ2は両電極ロール4,5により形成された溶接部6の温度を、その溶接直後に計測する。レンズ部7は、内蔵された対物レンズの前面に、図2に示すように、長方形状の受光窓8aが形成されたマスク8が取り付けられている。これにより、レンズ部7は、図3に示すように、溶接部6の幅方向に長い長方形状の計測視野9を有して、該計測視野9の温度を計測する。該計測視野9は、その長辺が溶接部6の幅寸法より長く設定されている。そして、両電極ロール4,5により缶胴1が下流に送り出されている際に、放射温度センサ2がレンズ部7の前記計測視野9による温度計測を行うことにより、缶胴1の軸線方向に沿った溶接部6の長手方向の全長に沿って温度測定が行われる。
【0028】
ここで、本実施形態のレンズ部7の計測視野9が有利である点を、比較例として挙げる従来のレンズ部の計測視野9´と対比して説明する。図4に示すように、比較例として挙げた計測視野9´は円形とされており、その直径は、本実施形態の長方形状の計測視野9の長辺と同じとされている。図4において、第1段階では、夫々の測定視野9,9´に溶接部6の始端が到達し、第2段階で溶接部6が測定視野9,9´内に侵入する。そして、第3段階で、溶接部6の始端が夫々の測定視野9,9´の終端に到達する。第1段階〜第3段階の夫々の測定視野9,9´内に占める溶接部6を比較して明らかなように、溶接部6の送り速度(缶胴1の送り速度)が同一であるとき、溶接部6が測定視野9,9´を覆う時間は、本実施形態の長方形状の計測視野9が従来の計測視野9´のように円形である場合よりも短い。
【0029】
このように、レンズ部7の計測視野9を長方形状としたことにより、溶接部6の長手方向に対してのみ計測視野9が狭くなり、小さな部位の温度異常を捕らえることが可能となる。なお、以上は溶接部6の始端について述べたが、溶接部6の終端においても同様であることは言うまでもない。
【0030】
更に、図4に示すように、溶接部6に対して測定視野9,9´に位置ズレが生じた場合には、円形の測定視野9´では溶接部の面積が変動するため温度計測精度が低下するが、計測視野9を長方形状とすることにより、溶接部の幅方向に対する計測視野が広く、溶接部の面積の変動も抑えることができて計測精度が向上する。
【0031】
また、図1に示すように、放射温度センサ2は、前述のレンズ部7と、ファイバー10と、該ファイバー10を介してレンズ部7に接続された温度電圧変換器11とを備えている。温度電圧変換器11はレンズ部7から入射した赤外線エネルギーを電圧に変換して検査制御装置3に出力する。
【0032】
該検査制御装置3には、溶接機Y本体に設けられた基準パルス発生器12が接続されている。基準パルス発生器12は、溶接時の缶胴1の送りタイミングに応じて1個の缶胴1に対して1つの基準パルスを発生する。溶接時には缶胴1が連続して等間隔で送られることにより、各缶胴1毎に等時間間隔の基準パルスが得られる。更に、検査制御装置3には、後述する基準波形等を表示すると共に各種の設定操作を行う操作パネルとして機能するディスプレイ装置13や、溶接不良の缶胴1を正常な缶胴1から振り分け排出する排出手段14が接続されている。
【0033】
検査制御装置3は、マイクロコンピュータにより構成されており、本発明の検査方法を実現するための機能を備えている。即ち、検査制御装置3は、本発明の検査方法に係る機能的構成として、図5に示すように、基準波形生成部15、判定領域設定部16、許容範囲設定部17、良否判定部18、及び記憶部19を備えている。該記憶部19には、後述の基準波形及び設定値が記憶される。
【0034】
以上の構成による本実施装置を用い缶胴1を検査するときには、予め、正常に溶接された多数の缶胴1の溶接部6の温度を採取しておくと共に、溶接不良である多数の缶胴1の溶接部6の温度を採取しておく。正常に溶接された溶接部6から採取した温度は後述の基準波形を形成する際に用い、溶接不良の溶接部6から採取した温度は後述の許容範囲の上下限値に用いる。更に、基準パルス発生器12から基準パルスが発生した時点から、溶接部6の長手方向の始端が放射温度センサ2のレンズ部7の計測視野9に到達するまでの時間(後述の遅れ時間t)を、正常に溶接された多数の缶胴1から採取しておく。
【0035】
そして、図6に示すように、溶接部6を3つの区域L,M,Nに分け、正常な溶接部6の温度変化を採取する。なお、以下の説明においては、溶接部6のうち図1示の缶胴1の送り出し方向先端側を溶接部6の先端部区域Lとし、その反対側を溶接部6の後端部区域Nとし、更に、先端部区域Lと後端部区域Nとの間を中央部区域Mとする。溶接部6の長手方向の端縁は、先端部区域Lと後端部区域Nとに存在する。ここで、正常な溶接部6から採取した温度変化によれば、溶接部6の両端5mmの範囲に高温となる部分が存在することにより、先端部区域Lと後端部区域Nとを夫々5mmに設定する。
【0036】
また、溶接部6の長手方向の始端は、次のようにして検出する。前述の通り、基準パルス発生器12は、溶接時の缶胴1の送りタイミングに応じて1個の缶胴1に対して1つの基準パルスを発生する。基準パルスは、溶接機Yの両電極ロール4,5間から送り出された溶接部6の始端が放射温度センサ2のレンズ部7による温度計測位置に到達するより早い時期に発生する。そこで、基準パルス発生時から溶接部6の始端が温度計測位置に到達するまでの時間を、図7に示すように、一定の遅れ時間tとして設定する。これにより、基準パルス発生時から遅れ時間tが経過した時にレンズ部7が計測した温度が溶接部6の長手方向の始端の温度となる。
【0037】
なお、遅れ時間tにおける計測間隔を極めて小さくすることにより計測開始点の位置のバラツキを抑えて設定できる。具体的には、例えば、製缶速度が毎分600缶であるときに遅れ時間tが約10msの場合、遅れ時間tにおける計測間隔を0.1msにして計測する。こうすることで、従来のような溶接部6の基準となる温度変化に対して測定後に補正処理を行うことが不要となる。
【0038】
そして、基準波形生成部15が、図7に示すように、溶接部6の全長(3つの区域L,M,N)にわたって測定された温度変化に基づいて、温度変化に対応する基準波形Aを生成し(波形生成工程)、記憶部19に記録する。このとき、先端部区域Lと後端部区域Nとにおいて、約0.1mm毎に温度を測定し、先端部区域Lは前記遅れ時間設定工程における基準パルス発生時からの遅れ時間tに基づいてその始端(溶接部6の長手方向の始端縁に対応している)を設定する。また、中央部区域Mでは、約1.0mm毎に温度を測定する。これにより、先端部区域Lと後端部区域Nとは、溶接部6の両端5mmの範囲で各々約50箇所の測定点毎に温度が測定され、比較的小さな間隔で温度が測定される。
【0039】
次いで、判定領域設定部16が、各区域L,M,Nに対して、この基準波形Aに基づく判定領域(第1の判定領域B、第2の判定領域C、第3の判定領域D)を設定し(判定領域設定工程)、許容範囲設定部17がこれらの判定領域B,C,Dにおいて上限値と下限値とからなる許容範囲を設定する(許容範囲設定工程)。その後、良否判定部18が、検査対象となる缶胴1の溶接部6から温度を測定し、測定された温度が各判定領域B,C,Dの許容範囲内にあるとき良と判定し、許容範囲外にあるとき不良と判定する(良否判定工程)。このとき、不良と判定された缶胴1は、前記排出手段14により排出される。具体的には、図7に示すように、先端部区域Lに溶接不良があるときには、破線eで示すように検査対象となる缶胴1の溶接部6の測定温度が第1の判定領域Bにおいて許容範囲から外れるので、容易に不良の判定が行える。また、中央部区域Mに溶接不良があるときには、破線fで示すように検査対象となる缶胴1の溶接部6の測定温度が第2の判定領域Cにおいて許容範囲から外れるので、容易に不良の判定が行える。
【0040】
ここで、各判定領域B,C,Dと許容範囲の設定手順を説明する。先端部区域Lと後端部区域Nとにおいては、溶接時の熱の拡散が溶接部6の端縁で阻止されるために中央部区域Mに比べて高温となる。そこで、第1の判定領域B及び第3の判定領域Dとその許容範囲は、詳しくは後述するように、中央部区域Mの第2の判定領域Cとその許容範囲とは異なる方法で設定する。第2の判定領域Cは、図7に示すように、温度の高低差の少ない比較的安定した基準波形Aを得ることができるので、中央部区域Mの全長にわたって、約1.0mm毎の温度を基準として+30℃〜+50℃を上限値hとし、−30℃〜−50℃を下限値iとする許容範囲が設定される。
【0041】
一方、先端部区域Lにおいては、次のようにして第1の判定領域B及びその許容範囲が設定される。即ち、検査制御装置3は、先端部区域Lにおいて、約0.1mm毎に、前記放射温度センサ2により温度を測定する。このとき、先端部区域Lにおいては、溶接時の熱の拡散が溶接部6の端縁において阻止されるために高温となるので、先端部区域Lの温度変化を示す波形(溶接部6の長手方向の端縁から所定寸法内の基準波形A)は、図8に示すように、上昇する温度変化を示す上昇変化部A−1と、該上昇変化部より小さい温度変化を示す温度安定部A−2と、該温度安定部から大きく下降する温度変化を示す下降変化部A−3を含んだものとなる。前記基準波形生成部15は、この波形を先端部区域Lにおける基準波形Aとして記憶部19に記録すると共にディスプレイ装置13に表示させる。
【0042】
次いで、前記判定領域設定部16により、先端部区域Lにおける基準波形Aのうち温度安定部A−2にのみ第1の判定領域Bを設定する。判定領域設定部16は、缶胴1の端縁から第1の判定領域Bの開始点までの時間を設定し、該時間に基づいて温度安定部A−2の区間内に第1の判定領域Bの開始点と終了点とを設定する。なお、缶胴1の端縁は前述の遅れ時間tに基づいて設定されたものである。
【0043】
続いて、前記許容範囲設定部17により、第1の判定領域Bにおいて上限値hと下限値iとからなる許容範囲を設定する。上限値hと下限値iとは、溶接不良の溶接部6から採取した温度に基づいて設定され、温度安定部A−2における最高温度に対して30℃〜50℃の差を有するように設定される。即ち、第1の判定領域Bの温度安定部A−2において、約0.1mm毎の温度を基準として+30℃〜+50℃を上限値hとし、−30℃〜−50℃を下限値iとする許容範囲が設定される。また、温度安定部A−2においては、概ね平坦な波形であることにより、許容範囲の上限値hと下限値iとは夫々直線状に設定することができる。
【0044】
そして、以上のようにして先端部区域Lに設定された第1の判定領域Bの許容範囲を用いて缶胴1の先端部区域Lの良否判定を行えば、温度安定部A−2に対応する位置に不良が生じている場合には勿論、上昇変化部A−1や下降変化部A−3に対応する位置に不良が生じていても、例えば、図7の破線eで示すように温度安定部A−2に対応する位置の測定温度に影響して、第1の判定領域Bの許容範囲から外れ、確実に良否判定を行うことができる。なお、後端部区域Nにおいても、図7に示すように、先端部区域Lと同様にして温度安定部A−2に対応する第3の判定領域Dの許容範囲を設定することができるのでその説明を省略する。
【0045】
以上のように、本実施形態においては、溶接部6を3つの区域L,M,Nに分け、先端部区域L及び後端部区域Nにおいては、基準波形Aのうちの温度安定部A−2に対応する位置でのみ判定領域B,Dとその許容範囲を設定する。これにより、従来のような基準波形Aに沿って溶接部6の全長にわたる上限値と下限値とを許容範囲として設定する場合に比べ、特に溶接部6の端部(先端部区域L及び後端部区域N)の良否判定精度が高い。しかも、溶接部6の測定温度や基準波形の補正が不要であるので、高速に検査することができる。
【0046】
なお、本実施形態において説明に用いた溶接部6の寸法や計測間隔、各判定領域B,C,Dにおける許容範囲の上下限温度等は、これに限るものではなく、缶胴1の大きさや、製缶速度等に応じて適宜設定されるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の検査方法に用いる一実施形態の装置の概要構成を示す説明図。
【図2】放射温度センサのレンズ部を示す説明的斜視図。
【図3】放射温度センサの計測視野を示す説明図。
【図4】本発明における計測視野と従来の計測視野とを対比するための説明図。
【図5】検査制御装置の機能的構成を示すブロック図。
【図6】溶接部に対する検査対象の区域を示す説明図。
【図7】溶接部の全長にわたる良否判定時の基準波形と判定領域を示す図。
【図8】溶接部の端部の基準波形及び判定領域を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1…缶胴、2…放射温度センサ、6…溶接部、7…レンズ部、9…計測視野、A…基準波形、A−1…上昇変化部、A−2…温度安定部、A−3…下降変化部、B,C,D…判定領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の缶胴の軸線方向に沿って形成された所定幅の溶接部を、溶接直後の温度に基づいて検査する缶胴溶接部の検査方法において、
溶接部の長手方向に沿った温度変化に対応する基準波形を生成する波形生成工程と、
該波形生成工程によって生成された基準波形に基づいて、溶接部の長手方向に沿って複数の判定領域を設定する判定領域設定工程と、
該判定領域設定工程により設定された判定領域において上限値と下限値とからなる許容範囲を設定する許容範囲設定工程と、
溶接部の温度を該溶接部の長手方向に沿って測定する温度測定工程と、
該温度測定工程により測定された温度が前記判定領域において許容範囲内にあるとき良と判定し、許容範囲外にあるとき不良と判定する良否判定工程とを備え、
前記波形生成工程は、溶接部の長手方向の端縁から所定寸法内の基準波形として、該溶接部の長手方向の端縁を起点として上昇する温度変化を示す上昇変化部と、該上昇変化部に連続し該上昇変化部より小さい温度変化を示す温度安定部と、該温度安定部に連続し該温度安定部から大きく下降する温度変化を示す下降変化部とを含む波形を生成し、
前記判定領域設定工程は、溶接部の長手方向の端縁から前記所定寸法内における判定領域を前記温度安定部に対応する位置に設定することを特徴とする缶胴溶接部の検査方法。
【請求項2】
前記波形生成工程は、予め良好な溶接部を備える複数の缶胴から測定された溶接部の長手方向に沿った温度変化に基づいて前記基準波形を生成することを特徴とする請求項1記載の缶胴溶接部の検査方法。
【請求項3】
前記温度測定工程は、溶接部の幅寸法よりも長い長辺が溶接部の長手方向に直行する長方形状の計測視野を有するレンズ部を具備して溶接部の一部の放射温度を計測する放射温度センサを用い、該放射温度センサのレンズ部に対する溶接部の長手方向への移動により該溶接部の全長にわたる温度を測定することを特徴とする請求項1又は2記載の缶胴溶接部の検査方法。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−19738(P2010−19738A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181589(P2008−181589)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(505440295)北海製罐株式会社 (58)
【Fターム(参考)】