説明

置局設計方法、置局設計プログラムおよび置局設計装置

【課題】1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いてセルを構成し、複数の当該セルを用いて面的なサービスエリアを構成する置局設計方法、装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置を設置可能な建造物であるアンテナ装置設置建造物の地理的情報に基づいて、所要の通信品質を満たすセルを構成するアンテナ装置設置建造物の組合せを生成し、当該組合せにより構成される候補セルのDBを生成し、候補セルDBから候補セルを選択する際に、選択した当該候補セルによりカバーされる追加カバーエリアの面積が最大となる候補セルの選択を繰り返し、当該追加カバーエリアの面積の増加分が一定量を超えない場合に当該候補セルの選択を終了し、選択した候補セルの各々について収容設計を満足しない候補セルがある場合は、当該候補セルを候補セルDBから削除して候補セル選択処理に戻り、収容設計を満足しない候補セルがなくなるまで繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルを用いて面的にサービスエリアを構築する無線通信システムにおいて、基地局(アンテナ装置)の設置可能な場所を地理的情報から取得した後に置局設計を行う置局設計方法、置局設計プログラムおよび置局設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の基地局を配置し、各基地局の通信エリア(セル)によって連続的な通信サービスエリアを構築する無線通信システムにおいて、基地局の置局設計を行う技術として、特許文献1では、建物密集地域内またはその近辺などトラヒックの多いエリアに置局場所候補を決定する手法がある。
【0003】
一方、設置した基地局を用いた通信方法の1つとして、同一の周波数帯で1つのセルを構築する際に、一定の所要通信品質を確保しつつエリアを拡大するため、特許文献2にあるように、同一の周波数帯を用いる2つ以上のアンテナ装置を用いて空間ダイバーシチ効果を利用する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−49492号公報
【特許文献2】特開2007−325079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来の置局設計技術では、端末局の分布やトラヒック量の偏りが大きい場合に当該エリアに基地局数が増加する問題がある。また、置局場所候補を決定しても実際に基地局を設置できるとは限らず、例えばその用地の確保や基地局設置にかかる期間と費用が大きくなる問題がある。
【0006】
本発明は、ある一定の条件を満たす既存の建造物をまず先に選出し、選出した建造物に設置するための置局設計方法、置局設計プログラムおよび置局設計装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、当該建造物に設置した1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いて空間ダイバーシチ効果を利用してセルを構成するときに、1つのセルを構成するアンテナ装置の数を調整してセルサイズを変更可能とし、サービスエリアをカバーしつつ、各セルに収容するトラヒックの均一化を図って、できるだけ少ないセルでサービス提供を可能とする置局設計方法、置局設計プログラムおよび置局設計装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いてセルを構成し、複数の当該セルを用いて面的なサービスエリアを構成する無線通信システムにおいて、アンテナ装置を設置することができる建造物であるアンテナ装置設置建造物の地理的情報に基づいて、所要の通信品質を満たすセルを構成するアンテナ装置設置建造物の組合せを生成し、当該組合せにより構成される候補セルのデータベースを生成する候補セルデータベース生成ステップと、候補セルデータベースから候補セルを選出する際に、選出した当該候補セルによりカバーされる追加カバーエリアの面積が最大となる候補セルの選出を繰り返し、当該追加カバーエリアの面積の増加分が一定量を超えない場合に当該候補セルの選出を終了する候補セル選出ステップと、選出した候補セルの各々について収容設計を満足するか否かを判定し、収容設計を満足しない候補セルがある場合は、当該候補セルを候補セルデータベースから削除して候補セル選出ステップに戻ることを、収容設計を満たさない候補セルがなくなるまで繰り返す候補セル削除ステップとを有する。
【0009】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル削除ステップは、候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出ステップに戻る場合に、削除した当該候補セルよりも前に選出された候補セルについて、追加カバーエリアの面積を計算することなく当該候補セルを選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う。
【0010】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル選出ステップは、追加カバーエリア面積が一定量を下回る候補セルを候補セルデータベースから削除する。
さらに、候補セル削除ステップは、候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出ステップに戻る場合に、当該収容設計を満たさないために削除された候補セル以外の候補セルであって、候補セルデータベースから削除された他の候補セルを元に戻して、かつ、当該収容設計を満たさないために削除された候補セルよりも前に選出された候補セルについて、追加カバーエリアの面積を計算することなく選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う。
【0011】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル削除ステップは、選出済みの候補セルの中で、当該候補セルを除外しても他の全ての選出済み候補セルのカバーエリア面積の合計が一定以上減少せず、かつ、当該候補セルを削除しても当該候補セルを除く候補セルの収容設計が満たされる場合に、当該候補セルを削除する。
さらに、候補セルを候補セルデータベースから削除した後に、候補セル選出ステップに戻る。
【0012】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル選出ステップに先立って、候補セルデータベースの各候補セルのカバーエリア面積、あるいは、収容端末数が一定量に満たない候補セルを候補セルデータベースから削除する。
【0013】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル選出ステップに先立って、候補セルデータベースの各候補セルの収容端末数が一定量を上回る候補セルを候補セルデータベースから削除する。
【0014】
第1の発明の置局設計方法において、候補セル選出ステップは、各アンテナ装置設置可能建造物に対して設置可能なアンテナ装置数を設定しておき、候補セルを選出する度に当該候補セルを構成するアンテナ装置設置可能建造物のアンテナ装置数をカウントダウンし、その値が0になったら、それ以降は当該建造物を選択しない。
【0015】
第2の発明の置局設計プログラムは、第1の発明の置局設計方法の各処理ステップをコンピュータに実行させて候補セルの生成、選出、削除を行うことを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いてセルを構成し、複数の当該セルを用いて面的なサービスエリアを構成する無線通信システムにおいて、アンテナ装置を設置することができる建造物であるアンテナ装置設置建造物の地理的情報に基づいて、所要の通信品質を満たすセルを構成するアンテナ装置設置建造物の組合せを生成し、当該組合せにより構成される候補セルのデータベースを生成する候補セルデータベース生成手段と、候補セルデータベースから候補セルを選出する際に、選出した当該候補セルによりカバーされる追加カバーエリアの面積が最大となる候補セルの選出を繰り返し、当該追加カバーエリアの面積の増加分が一定量を超えない場合に当該候補セルの選出を終了する候補セル選出手段と、選出した候補セルの各々について収容設計を満足するか否かを判定し、収容設計を満足しない候補セルがある場合は、当該候補セルを候補セルデータベースから削除して候補セル選出手段に戻ることを、収容設計を満たさない候補セルがなくなるまで繰り返す候補セル削除手段とを備える。
【0017】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル削除手段は、候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出手段に戻る場合に、削除した当該候補セルよりも前に選出された候補セルについて、追加カバーエリアの面積を計算することなく当該候補セルを選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う。
【0018】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル選出手段は、追加カバーエリア面積が一定量を下回る候補セルを候補セルデータベースから削除する。
さらに、候補セル削除手段は、候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出手段に戻る場合に、当該収容設計を満たさないために削除された候補セル以外の候補セルであって、候補セルデータベースから削除された他の候補セルを元に戻して、かつ、当該収容設計を満たさないために削除された候補セルよりも前に選出された候補セルについて、追加カバーエリアの面積を計算することなく選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う。
【0019】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル削除手段は、選出済みの候補セルの中で、当該候補セルを除外しても他の全ての選出済み候補セルのカバーエリア面積の合計が一定以上減少せず、かつ、当該候補セルを削除しても当該候補セルを除く候補セルの収容設計が満たされる場合に、当該候補セルを削除する。
さらに、候補セルを候補セルデータベースから削除した後に、候補セル選出手段に戻る。
【0020】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル選出手段は、候補セルの選出に先立って、候補セルデータベースの各候補セルのカバーエリア面積、あるいは、収容端末数が一定量に満たない候補セルを候補セルデータベースから削除する。
【0021】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル選出手段は、候補セルの選出に先立って、候補セルデータベースの各候補セルの収容端末数が一定量を上回る候補セルを候補セルデータベースから削除する。
【0022】
第3の発明の置局設計装置において、候補セル選出手段は、各アンテナ装置設置可能建造物に対して設置可能なアンテナ装置数を設定しておき、候補セルを選出する度に当該候補セルを構成するアンテナ装置設置可能建造物のアンテナ装置数をカウントダウンし、その値が0になったら、それ以降は当該建造物を選択しない。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、既存の建造物にアンテナ装置を設置してサービスエリアを構築することで、設置場所の用地確保や設置にかかる期間と費用を削減することが可能になる。また、1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いて空間ダイバーシチ効果を利用してセルを構成するため、1つのセルを構成するアンテナ装置の数を調整することで柔軟なセルサイズの変更を可能とする。そのため、サービスエリアをカバーしつつ、各セルに収容するトラヒックの均一化を図って、できるだけ少ないセルでサービス提供が可能になる。
【0024】
また、本発明は、アンテナ装置を設置できる建造物を絞り込んだ上で効率的にサービスエリアをカバーするための手法を提供するために、当該建築物により構成されるセルの候補を抽出し、抽出されたセルの組合せを用いてサービスエリアをカバーできる組合せを算出する。ここで、当該組合せの算出には膨大な演算量がかかることから、これを最適化するための手法として、(1) すでに選出したセルの組合せに対して次に選出するセルにより追加されるサービスエリアの面積が最大となるセルを選出する、(2) 新たなセルの追加による面積の増加分が一定量を下回るときに選出を終了する、(3) 最終的に選出されたセル候補の各々の収容端末数が収容設計を満たす場合には処理を終了し、1つでも満たさない場合には満たさないセル候補を削除してセル候補の選出から再計算する。このように、追加される面積が最も大きいものを選出することにより、少ない基地局でサービスエリアをカバーすることができる。
【0025】
また、選出したセル候補について収容端末数が一定の範囲内にあることを確定の要件とすることにより、トラヒック(端末数)の偏りも生じない。また、全ての組合せを総当り的に計算する手法でないため、計算量を少なくできる。
【0026】
さらに、(1) 収容設計を満たさない場合に、削除するセルの直前までに選出したセルの組合せは次回の選出において自動的に選出すること、(2) 追加によるカバーエリアの増加が一定量を下回るものは次回の選出において選出しないこと、(3) 所定の基準を満たさないセル候補を選出対象から予め取り除くことにより、計算量を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の置局設計装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の置局設計方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。
【図3】ステップS1の詳細な処理フローを示すフローチャートである。
【図4】ステップS2の詳細な処理フローを示すフローチャートである。
【図5】ステップS3,S4の詳細な処理フローを示すフローチャートである。
【図6】ステップS5の詳細な処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の置局設計装置の構成例を示す。
図1において、地図DB1は、地図についてのデータベースであり、標高や河川等の地形情報を含む。建造物DB2は、建造物についてのデータベースであり、建造物の位置と高さや面積などの形状情報に加えて所有者や築年数、耐震強度等の情報を含む。
【0029】
アンテナ装置設置建造物選出部3は、地図DB1および建造物DB2の情報を用い、アンテナ装置の設置が可能な所定の条件(建造物の高さ、標高、建造物の面積、周囲の建造物状況、所有者など)を満たす複数の建造物を選択する。
【0030】
候補セル構成部4は、アンテナ装置設置建造物選出部3で選出されたアンテナ装置の設置が可能な建造物の地理的情報(場所、アンテナ装置高など)を用いて、伝搬条件を考慮して得られる候補セルを構成する。たとえば、アンテナ装置が複数のセクタアンテナにより構成されている場合に、選出された複数の建造物からそれぞれ1つのセクタアンテナを選択し、それぞれが同一の周波数で同一の信号を送信することにより、連続的なサービスエリアが構成される場合には(サイトセル)、選択されたセクタアンテナにより候補セルを構成することが可能となる。すなわち、各セクタアンテナからの電波が届く範囲として、地理的な領域を連続的に構成していることが条件となる。このとき、複数の建造物により1つの候補セルが構成される。すなわち、候補セルは、複数の建造物の組合せと等価であり、たとえば、ある候補セルを選択することは当該候補セルを構成する建造物を選択することと等価である。
【0031】
通信品質判定部5は、候補セル構成部4で構成された候補セルの通信品質を判定して、所要の通信品質(セル内接続率、セル内PER、セル内平均受信電力など)を確保できるか否かを確認し、所要の通信品質が確保できる候補セルを候補セルDB6に出力する。たとえば、複数のセクタアンテナにより構成されたセル内において、所定の受信電力が得られる場所率が、閾値を超えるか否かにより所要の通信品質を確保できるか否かが判定される。
【0032】
候補セルDB6は、候補セル構成部4で構成された候補セルのうち、通信品質判定部5で判定された所要の通信品質を確保可能な候補セルの情報を保持するデータベースである。
【0033】
端末情報DB7は、サービスエリアを候補セルのセルサイズに対して十分に小さなメッシュに分割し、各メッシュ内の端末数を集計して保持するデータベースである。なお、オプションとして設けられる候補セル整理部16は端末情報DB7を参照し、例えば収容端末数が一定量を超えない候補セルを候補セルDB6から事前に削除し、その後の計算処理量を削減するようにしてもよい。詳しくは後述する。
【0034】
カバーエリア面積記憶部8は、候補セル選出処理部10で選出された候補セルによってカバーされる全カバーエリア面積を記憶する。追加カバーエリア面積演算部9は、カバーエリア面積記憶部8に記憶されているカバーエリア面積に対して、候補セルDB6に記憶されている未選出候補セル(まだ選出されていない候補セル)を選出して追加した場合の追加カバーエリア面積を未選出候補セルごとに算出する。候補セル選出処理部10は、追加カバーエリア面積演算部9で算出した追加カバーエリア面積の中で最大であり、かつ、当該追加カバーエリア面積が一定量を上回る未選出候補セルを抽出し、カバーエリア面積記憶部8の情報をアップデートする。すなわち、追加カバーエリア面積が最大となる未選出候補セルの抽出、追加を繰り返すことにより、必要な候補セルの集合体を生成する。選出候補セル記憶部11は、候補セル選出処理部10で選出された候補セルを記憶する。当該繰り返し処理は、終了条件(選出された候補セルによる追加カバーエリア面積が閾値を下回ること)が満たされるまで行う。
【0035】
収容端末数演算部12は、候補セル選出処理部10で候補セルの選出の終了条件が満たされたときに、端末情報DB7を参照して、選出候補セル記憶部11に記憶された候補セルの収容端末数を算出する。収容設計超過候補セル削除処理部13は、収容端末数演算部12で算出された収容端末数が収容設計を満足しない候補セルを候補セルDB6から削除する。すなわち、収容端末数が収容可能な端末数を超過している場合には、当該候補セルではカバーできないことになるため、当該候補セルを候補セルDB6から削除し、これまでの処理をやり直す。
【0036】
重複カバーエリア面積演算部14は、選出候補セル記憶部11に記憶された候補セルの中で、削除しても全候補セルのカバーエリア面積が一定量以上減少しない候補セルを抽出する。重複候補セル削除処理部15は、重複カバーエリア面積演算部14で抽出された候補セルを削除しても当該候補セルを除く全候補セルの収容設計を満足できる場合に、選出候補セル記憶部11から当該候補セルの情報を削除することを判定し、削除を実行する。
【0037】
図2は、本発明の置局設計方法の処理手順の概要を示す。
図1および図2において、アンテナ装置設置候補建造物選出部3、候補セル構成部4および通信品質判定部5は、地図DB1および建造物DB2を用いて候補セルDB6を作成する(S1)。次に、カバーエリア面積記憶部8、追加カバーエリア面積演算部9、候補セル選出処理部10および選出済み候補セル記憶部11は、サービスエリアを少ないセル数でカバー可能な候補セルの選出を行う(S2)。ただし、この時点では、候補セルによりカバーされる地理的な領域のみを考慮し、選出された候補セルの収容設計(各セルがカバーする領域において存在する端末数と当該セルが実際に収容可能な端末数に基づく設計)については考慮されていない。そのため、選出された候補セルの収容端末数が収容設計(収容可能な端末数)を上回り、セル内の伝送容量を超える可能性がある。この場合、データ損失や伝送遅延が発生してしまう。
【0038】
そこで、収容端末数演算部12および収容設計超過セル削除処理部13は、端末情報DB7を用いて、ステップS2で選出された候補セルの収容端末数が収容設計(収容可能な端末数≧収容端末数)を満足しているか否かを判断する(S3)。ここで、収容設計を満足しない候補セルがある場合は、ステップS1で作成した候補セルDB6から当該候補セルの情報を削除し(S4)、ステップS2に戻って選出される全ての候補セルが収容設計を満たすまで繰り返す。このステップS3,S4の処理が終了した時点では、少ないセル数でサービスエリアをカバーしつつ、選出された全候補セルが収容設計を満たすことになる。
【0039】
ただし、ステップS2による候補セルの選出方法では必ずしも候補セル数が最小になっていない可能性がある。そのため、重複カバーエリア面積演算部14および重複セル削除処理部15を用いて、選出された候補セルの中で削除してもカバーエリア面積が一定量以上減ることのない重複した部分の大きい候補セルを抽出し、当該候補セルを削除しても収容設計を満足できる候補セルを削除する(S5)。
【0040】
図3は、図2に示すステップS1の詳細な処理フローを示す。
図1および図3において、最初にアンテナ装置設置建造物選出部3が地図DB1および建造物DB2を用いて、アンテナ装置が設置可能な建造物の選出を行う(S11)。次に、候補セル構成部4はステップS11で選出された建造物から1つないし複数の建造物を選択して、当該建造物にアンテナ装置を設置したと仮定した場合に構成可能な候補セルを抽出し、当該候補セルについて通信品質判定部5が伝搬特性等を考慮して所定の通信品質を満たす候補セルを判定して候補セルDB6を作成する(S12)。
【0041】
ただし、この時点では、候補セルDB6内にある候補セルの数は莫大なものであるため、この後の計算量を削減するための処理を行ってもよい。候補セル整理部16は、端末情報DB7を参照して候補セルDB6の候補セルに内包されるメッシュ内の端末数を集計し、セル面積または収容端末数が一定量を超えない候補セル、例えばセル半径が小さすぎてコスト的に採算の取れる可能性が低い候補セルを候補セルDB6から削除する処理を行う(S13)。さらに、収容端末数が収容設計を大きく上回る候補セルを候補セルDB6から削除する処理を行う(S14)。
【0042】
以上の処理により、所定の通信品質を満たすセルのみが候補セルとして候補セルDB6に登録され、さらに対応する端末情報DB7が生成されることになる。なお、この時点では、収容設計は個別のセルごとになされており、重複したエリアについては考慮されていない。
【0043】
図4は、図2に示すステップS2の詳細な処理フローを示す。
図1および図4において、追加カバーエリア面積演算部9は、それまでに選出された候補セルによるカバーエリア面積が記憶されているカバーエリア面積記憶部8の情報を用いて、まだ選出されていない候補セルである未選出候補セルをそれぞれ選出して追加することで増える追加カバーエリア面積を算出する(S21)。次に、候補セル選出処理部10は、ステップS21で算出された追加カバーエリア面積が最大となる候補セルを次に追加する候補セルとして選出する(S22)。このとき、候補セル選出処理部10では追加カバーエリア面積が一定量を超えるか否かを判定し(S23)、追加カバーエリア面積が一定量を下回る場合は候補セル選出を終了する(S23:No)。一方、追加カバーエリア面積が一定量を上回る場合には、カバーエリア面積記憶部8に記憶されているカバーエリア面積に追加カバーエリア面積を追加し、当該候補セル情報を選出済み候補セル記憶部11に追加する(S24)。
【0044】
このとき、選出済み候補セル記憶部11が候補セルの選出順序を記憶すれば(S25)、後述するステップS3のオプション処理で利用することが可能である。
【0045】
また、ステップS21で未選出候補セルの数を減らして計算量を削減するために、ステップS21で算出した追加カバーエリア面積が一定量を下回ることによってステップS22で選出されない候補セルを予め候補セルDB6から削除してもよい(S26)。すなわち、追加カバーエリア面積演算部9は、ステップS21において追加カバーエリア面積が一定量を下回ると判定された候補セルについては、再度の計算を行う必要がないことから、当該候補セルを候補セルDB6から削除することにより、再度の計算を回避する。なお、ステップS26は、ステップS21の次に行ってもよい。
【0046】
ステップS21からS26は、ステップS23で追加カバーエリア面積が一定量を下回るまで繰り返す。以上の処理により、所望のエリアをカバーするために必要な候補セルのみが抽出されたことになる。
【0047】
ただし、上記の処理はこの時点では必ずしも終了しておらず、以下に説明するように、収容設計を満足しない候補セルが削除され、当該候補セルを削除した集合をもって、再びステップS21以降の処理を行う場合がある。
【0048】
図5は、図2に示すステップS3,S4の詳細な処理フローを示す。
図1および図5において、収容端末数演算部12は、選出済み候補セル記憶部11に記憶されている全ての候補セルに対して、収容端末数を端末情報DB7を参照して算出する(S31)。このとき、端末情報DB7の作成の際に用いたメッシュ内の端末数を集計するが、複数の候補セルが重複するメッシュでは、端末は重複する各候補セルに等分に割り当てられることとして算出する。次に、収容設計超過候補セル削除処理部13は、各候補セルの収容端末数が収容設計を満たしているか否かを判定し(S32)、選出済みの全ての候補セルが収容設計を満足すれば終了する(S32:Yes)。一方、収容設計を満足しない、すなわち収容端末数が収容可能な端末数よりも多い候補セルがある場合は、当該候補セルの情報を候補セルDB6から削除し(S33)、図2のステップS2(図4のステップS21)に戻って候補セル選出を再度実施する。
【0049】
このとき、追加カバーエリア面積演算部9(ステップS21)の計算量を削減するために、候補セルを1つも選出していない最初の状態まで戻るのではなく、ステップS25で記憶した候補セル選出順序情報を用いて、ステップS33で削除した候補セルの中で最も早く選出された候補セルを追加する直前の状態まで戻すのがよい(S34)。すなわち、カバーエリア面積を計算することなく、直前までに選出していた候補セルを自動的に選出すると同時に、追加カバーエリア面積演算部9がステップS26で削除した候補セルを候補セルDB6に戻すのがよい(S35)。以上の処理により、重複したエリアを考慮して収容設計を再計算することとなるため、より精度が高く、かつ、少ないセル数での置局設計が可能となる。
【0050】
図6は、図2で示したステップS5の詳細な処理フローを示す。
図1および図6において、重複カバーエリア面積演算部14は、選出候補セル記憶部11に記憶されている各候補セルに対して、他の選出候補セルと重複していないエリアの面積を算出する(S51)。次に、重複セル削除処理部15は、重複カバーエリア面積演算部14で算出した面積が一定量を上回るか否かを判定し(S52)、全ての候補セルに対して当該面積が上回っている場合には終了する。一方、当該面積が一定量を下回っている場合は、重複セル削除処理部15は収容端末数演算部12を用いて、当該候補セルを削除した場合に選出候補セルの中に収容設計を満足しない候補セルが生じるか否かを判定する(S53)。収容設計を満足しない候補セルが生じる場合はそのまま終了するが、当該候補セルを削除しても他の選出候補セルが収容設計を満たす場合は当該候補セルを削除し(S54)、終了する。
【0051】
なお、収容設計を満足しない選出候補セルが生じる場合にそのまま終了せず、当該候補セルを候補セルDB6から削除した後に、ステップS21に戻って再度候補セル選出からやり直してもよい。以上の処理により、重複した領域の大きい候補セルであって、当該セルを除外しても他のセルの収容設計が満たさなくなることが生じないものを除外することによって、セル数を最小化することが可能となる。
【0052】
また、ステップS11で選出されたアンテナ装置設置可能建造物には、その大きさや耐荷重性能などから設置可能なアンテナ装置数が制限されることも考えられる。そのため、データベース上で、各アンテナ装置設置可能建造物に対して設置可能なアンテナ装置数を設定しておき、ステップS22の候補セルの選出において、候補セルを選出する度に当該候補セルを構成するアンテナ装置設置可能建造物のアンテナ装置数をカウントダウンし、その値が0になったら、それ以降は当該建造物を選択しないことにする。すなわち、追加カバーエリア面積に加えて、アンテナ装置数のカウント値を候補セルの選出条件として追加するようにしてもよい。
【0053】
以上説明した各処理ステップは、コンピュータを置局設計装置として機能させるコンピュータプログラムにより実現することができる。このコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、またはネットワーク経由で配布が可能なものである。
【符号の説明】
【0054】
1 地図DB
2 建造物DB
3 アンテナ装置設置建造物選出部
4 候補セル構成部
5 通信品質判定部
6 候補セルDB
7 端末情報DB
8 カバーエリア面積記憶部
9 追加カバーエリア面積演算部
10 候補セル選出処理部
11 選出候補セル記憶部
12 収容端末数演算部
13 収容設計超過候補セル削除処理部
14 重複カバーエリア面積演算部
15 重複候補セル削除処理部
16 候補セル整理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いてセルを構成し、複数の当該セルを用いて面的なサービスエリアを構成する無線通信システムにおいて、
前記アンテナ装置を設置することができる建造物であるアンテナ装置設置建造物の地理的情報に基づいて、所要の通信品質を満たすセルを構成するアンテナ装置設置建造物の組合せを生成し、当該組合せにより構成される候補セルのデータベースを生成する候補セルデータベース生成ステップと、
前記候補セルデータベースから候補セルを選出する際に、選出した当該候補セルによりカバーされる追加カバーエリアの面積が最大となる候補セルの選出を繰り返し、当該追加カバーエリアの面積の増加分が一定量を超えない場合に当該候補セルの選出を終了する候補セル選出ステップと、
選出した前記候補セルの各々について収容設計を満足するか否かを判定し、収容設計を満足しない候補セルがある場合は、当該候補セルを前記候補セルデータベースから削除して前記候補セル選出ステップに戻ることを、収容設計を満たさない候補セルがなくなるまで繰り返す候補セル削除ステップと
を有することを特徴とする置局設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル削除ステップは、前記候補セルの選出順序を記憶しておき、前記候補セル選出ステップに戻る場合に、削除した当該候補セルよりも前に選出された候補セルについて、前記追加カバーエリアの面積を計算することなく当該候補セルを選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項3】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル選出ステップは、追加カバーエリア面積が一定量を下回る候補セルを前記候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項4】
請求項3に記載の置局設計方法において、
前記候補セル削除ステップは、前記候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出ステップに戻る場合に、当該収容設計を満たさないために削除された候補セル以外の候補セルであって、前記候補セルデータベースから削除された他の候補セルを元に戻して、かつ、当該収容設計を満たさないために削除された候補セルよりも前に選出された候補セルについて、前記追加カバーエリアの面積を計算することなく選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項5】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル削除ステップは、選出済みの候補セルの中で、当該候補セルを除外しても他の全ての選出済み候補セルのカバーエリア面積の合計が一定以上減少せず、かつ、当該候補セルを削除しても当該候補セルを除く候補セルの収容設計が満たされる場合に、当該候補セルを削除する
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項6】
請求項5に記載の置局設計方法において、
前記候補セルを候補セルデータベースから削除した後に、前記候補セル選出ステップに戻る
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項7】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル選出ステップに先立って、前記候補セルデータベースの各候補セルのカバーエリア面積、あるいは、収容端末数が一定量に満たない候補セルを候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項8】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル選出ステップに先立って、前記候補セルデータベースの各候補セルの収容端末数が一定量を上回る候補セルを候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項9】
請求項1に記載の置局設計方法において、
前記候補セル選出ステップは、各アンテナ装置設置可能建造物に対して設置可能なアンテナ装置数を設定しておき、候補セルを選出する度に当該候補セルを構成するアンテナ装置設置可能建造物のアンテナ装置数をカウントダウンし、その値が0になったら、それ以降は当該建造物を選択しない
ことを特徴とする置局設計方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の各処理ステップをコンピュータに実行させて前記候補セルの生成、選出、削除を行うことを特徴とする置局設計プログラム。
【請求項11】
1つないし複数の同一周波数帯を用いたアンテナ装置を用いてセルを構成し、複数の当該セルを用いて面的なサービスエリアを構成する無線通信システムにおいて、
前記アンテナ装置を設置することができる建造物であるアンテナ装置設置建造物の地理的情報に基づいて、所要の通信品質を満たすセルを構成するアンテナ装置設置建造物の組合せを生成し、当該組合せにより構成される候補セルのデータベースを生成する候補セルデータベース生成手段と、
前記候補セルデータベースから候補セルを選出する際に、選出した当該候補セルによりカバーされる追加カバーエリアの面積が最大となる候補セルの選出を繰り返し、当該追加カバーエリアの面積の増加分が一定量を超えない場合に当該候補セルの選出を終了する候補セル選出手段と、
選出した前記候補セルの各々について収容設計を満足するか否かを判定し、収容設計を満足しない候補セルがある場合は、当該候補セルを前記候補セルデータベースから削除して前記候補セル選出手段に戻ることを、収容設計を満たさない候補セルがなくなるまで繰り返す候補セル削除手段と
を備えたことを特徴とする置局設計装置。
【請求項12】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル削除手段は、前記候補セルの選出順序を記憶しておき、前記候補セル選出手段に戻る場合に、削除した当該候補セルよりも前に選出された候補セルについて、前記追加カバーエリアの面積を計算することなく当該候補セルを選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項13】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル選出手段は、追加カバーエリア面積が一定量を下回る候補セルを前記候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項14】
請求項13に記載の置局設計装置において、
前記候補セル削除手段は、前記候補セルの選出順序を記憶しておき、候補セル選出手段に戻る場合に、当該収容設計を満たさないために削除された候補セル以外の候補セルであって、前記候補セルデータベースから削除された他の候補セルを元に戻して、かつ、当該収容設計を満たさないために削除された候補セルよりも前に選出された候補セルについて、前記追加カバーエリアの面積を計算することなく選出して、それ以外の候補セルについて追加カバーエリアの面積の演算処理を行う
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項15】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル削除手段は、選出済みの候補セルの中で、当該候補セルを除外しても他の全ての選出済み候補セルのカバーエリア面積の合計が一定以上減少せず、かつ、当該候補セルを削除しても当該候補セルを除く候補セルの収容設計が満たされる場合に、当該候補セルを削除する
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項16】
請求項15に記載の置局設計装置において、
前記候補セルを候補セルデータベースから削除した後に、前記候補セル選出手段に戻る ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項17】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル選出手段は、前記候補セルの選出に先立って、前記候補セルデータベースの各候補セルのカバーエリア面積、あるいは、収容端末数が一定量に満たない候補セルを候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項18】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル選出手段は、前記候補セルの選出に先立って、前記候補セルデータベースの各候補セルの収容端末数が一定量を上回る候補セルを候補セルデータベースから削除する
ことを特徴とする置局設計装置。
【請求項19】
請求項11に記載の置局設計装置において、
前記候補セル選択手段は、各アンテナ装置設置可能建造物に対して設置可能なアンテナ装置数を設定しておき、候補セルを選択する度に当該候補セルを構成するアンテナ装置設置可能建造物のアンテナ装置数をカウントダウンし、その値が0になったら、それ以降は当該建造物を選択しない
ことを特徴とする置局設計装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−46362(P2013−46362A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184944(P2011−184944)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】