説明

置換されたリン酸金属リチウムマンガン

本発明は、Mは、Sn、Pb、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Co、Ti及びCdの群から選択される二価金属であり、x<1、y<0.3及びx+y<1である、式LiFexMn1-x-yyPO4の置換されたリン酸金属リチウムマンガン、それを製造するための方法、及びリチウムイオン二次電池における陽極材料としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な置換されたリン酸金属リチウムマンガン、その製造方法、リチウムイオン二次電池における正極としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Goodenoughなどによる公報(J. Electrochem. Soc., 144, 1188-1194, 1997)以降、充電式リチウムイオン二次電池における陽極材料としてリン酸鉄リチウムを用いることに特に大きな関心があった。リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物及びリチウムニッケル酸化物のような従来のスピネルまたは層状酸化物に基づくリチウム化合物と比べて、リン酸鉄リチウムは、今後、電気自動車、電動工具などにおける電池の使用に特に要求されるような脱リチウム状態においてより高い安全特性を提供する。
【0003】
カーボンで被覆された材料の増加された可逆容量が室温で達成された(160mAH/g)ので、純リン酸鉄リチウム材料は、いわゆる“カーボンコーティング”(Ravet et al., Meeting of Electrochemical Society, Honolulu, 17-31 October 1999, EP 1 084 182 B1)により改善された。
【0004】
普通の固相合成(US5,910,382C1またはUS6,514,640C1)に加えて、リン酸鉄リチウム粒子の大きさ及び形態を制御する可能性のあるリン酸鉄リチウムの水熱合成は、WO2005/051840に開示されている。
【0005】
リン酸鉄リチウムの欠点は、特に、例えばLiCoO2における酸化還元対Co3+/Co4+(Li/Li+に対して3.9V)よりも、Li/Li+に対するはるかに低い酸化還元電位(Li/Li+に対して3.45V)を有する酸化還元対Fe3+/Fe2+である。
【0006】
特に、リン酸マンガンリチウムLiMnPO4は、Li/Li+に対してより高い酸化還元対Mn2+/Mn3+(4.1V)を考慮すると価値がある。LiMnPO4もまた、GoodenoughらによるUS5,910,382にすでに開示されている。
【0007】
しかしながら、電気化学的に活性で、特にカーボンで被覆されたLiMnPO4の製造は、非常に難しいことがわかった。
【0008】
リン酸マンガンリチウムの電気的特性は、マンガンサイトの鉄置換により向上される。
【0009】
HerleらのNature Materials, Vol. 3, pp. 147-151 (2004)には、ジルコニウムがドープされたリン酸鉄リチウム及びリン酸ニッケルリチウムが開示されている。Morganらは、Electrochem中に開示している。Solid State Lett. 7 (2), A30-A32 (2004)には、LixMPO4(M=Mn、Fe、Co、Ni)オリビンにおける固有のリチウムイオンの伝導率が開示されている。YamadaらのChem. Mater. 18, pp. 804-813, 2004は、Lix(MnyFe1-y)PO4の電気化学的な、磁性で、構造的な特徴を扱っており、このことは、例えばWO2009/009758にも開示されている。Lix(MnyFe1-y)PO4の構造的な変化、すなわちリシオフィライト−トリフィライト系は、Loseyらにより開示されている。The Canadian Mineralogist, Vol. 42, pp. 1105-1115 (2004)もある。Lix(MnyFe1-y)PO4正極材料におけるデインターカレーションの拡散メカニズムに関する後者の研究の実用的効果は、MolendaらのSolid State Ionics 177, 2617-2624 (2006)で見出された。
【0010】
しかしながら、平坦域のような(plateau-like)領域は、リチウムに対して3.5ボルトでの放電曲線で生じ(鉄の平坦域)、その長さは、純LiMnPO4に比べて、鉄含有量が増加すると増加し、その結果、エネルギー密度の損失が生じる(上述したYamadaらの公報を参照)。特に、y>0.8のLix(MnyFe1-y)PO4の遅い動力学(充電及び放電動力学)により、これまでのところ、電池用途のためのこれらの化合物の使用を概して不可能にしてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、正極材料として用いる場合に高いエネルギー密度が可能な、適したリン酸マンガンリチウム誘導体を提供することと、充電及び放電プロセスの点では急速な動力学を有する高い酸化還元電位を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、化学式LiFexMn1-x-yyPO4の置換されたリン酸金属リチウムマンガンにより達成される。ただし、化学式において、Mは、Sn、Pb、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Co、Ti及びCdからなる群から選択される1種の二価金属であり、x<1、y<0.3及びx+y<1である。
【0013】
二価金属として、Mは、ZnまたはCa、またはそれらの組み合わせであることが好ましく、Znであることが特に好ましい。本発明の構想内では、驚くことに、電極として用いられたときに、これらの電気的に不活性な置換元素により、特に高いエネルギー密度を有する材料の供給を可能にすることが示された。
【0014】
本発明の置換されたリン酸金属リチウムマンガンLiFexMn1-x-yyPO4の場合、yの値は0.07以上0.20以下の範囲であり、好ましくは0.1である。
【0015】
本発明にしたがった材料のエネルギー密度に関しては電気化学的に不活性な二価金属カチオンによる置換(またはドーピング)は、x=0.1でy=0.1〜0.15、好ましくは0.1〜0.13、特に好ましくは0.11±0.1の値で最もよい結果を実現させるようである。マグネシウムのドーピング(LiMn1-x-yMgyPO4)にとって、ZnとCaとの値はわずかに異なっていることが見出された。ここで、0.01≦x≦0.11、0.07<y<20であり、0.075≦y≦15、x+y<0.2が好ましい。このことは、相対的に低い鉄の含有量及び相対的に高いマグネシウムの含有量を有する高いマンガン含有量は、エネルギー密度に関して、特に驚くべきことには電気的に不活性なマグネシウムの特性の観点において、最もよい結果を実現させることを意味する。LiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4、LiMn0.80Fe0.10Zn0.10POy及びLiMn0.80Fe0.10Ca0.10PO4のような本発明にしたがった化合物にとって、合成温度が650℃未満であるとき、C/10での放電容量は140mAh/gよりも大きい。
【0016】
本発明のさらに好ましい実施形態において、本発明にしたがった混合されたリン酸金属リチウムにおける化学式LiFexMn1-x-yyPO4のxの値は、0.01〜0.4であり、特に好ましくは0.5〜0.2であり、非常に好ましくは0.15±0.3である。特に、この値は、上述した特に好ましいyの値とともに、本発明にしたがった材料のエネルギー密度と通電容量との間の最も好ましい譲歩を与える。これは、M=ZnまたはCaで、x=0.33及びy=0.10の化合物LiFexMn1-x-yyPO4は、最高水準のLiFePO4(例えばズード−ケミーから入手可能)のそれと同程度の放電中に20C以下の放電容量を有するが、それに加えて、エネルギー密度も増加する((チタンリチウム(Li4Ti512)陰極に対して測定される)LiFePO4に対して約20%)。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態において、置換されたリン酸金属リチウムマンガンは、カーボンも含む。カーボンは、置換されたリン酸金属リチウムマンガン全体に均一に分布していることが特に好ましい。言い換えると、カーボンは、本発明にしたがったリン酸金属リチウムマンガンが埋め込まれた一種のマトリックスを形成する。ここで用いられる「マトリックス」という用語の意味は重要ではなく、例えば、カーボン粒子は、本発明にしたがったLiFexMn1-x-yyPO4にとって「核形成部位」として働くかどうか、すなわち、これらがカーボンを固定するかどうか、つまり、本発明の特に好ましい発展において見られるように、置換されたリン酸金属リチウムマンガンの個々の粒子がカーボン内に覆われている(すなわち、被覆されている、あるいは別の言葉ではコートされている)かどうかは、重要ではない。両方の変形は本発明にしたがった均等物と考えられ、上述した定義に入る。
【0018】
本発明の目的のために重要なことは、単に、カーボンが、本発明にしたがった置換されたリン酸金属リチウムマンガンLiFexMn1-x-yyPO4に均一に分布して、1種の(3次元の)マトリックスを形成することである。本発明の有利な発展において、本発明にしたがったLiFexMn1-x-yyPO4を電極材料として用いるとき、カーボンまたはカーボンのマトリックスの存在により、さらなる電気的な導電性添加剤は付加されない。
【0019】
置換されたリン酸金属リチウムマンガンに対するカーボンの割合は、4wt%以下であり、他の実施形態では2.5wt%未満であり、さらに他の実施形態では2.2wt%未満であり、さらに異なる実施形態では2.0wt%未満である。本発明によれば、本発明にしたがった材料の最もよいエネルギー密度が達成される。
【0020】
本発明にしたがった置換されたリン酸金属リチウムマンガンLiFexMn1-x-yyPO4は、リチウムイオン二次電池の陽極における活性材料として含有されることが好ましい。本発明にしたがったカーボンを含有するLiFexMn1-x-yyPO4とカーボンを含有しないLiFexMn1-x-yyPO4との両方の場合において、この陽極は、例えば導電性のカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどのようなさらなる導電性材料をさらに添加されず(換言すると、添加された導電性添加剤がない)、本発明にしたがったLiFexMn1-x-yyPO4を含有し得る。
【0021】
さらに好ましい実施形態において、本発明にしたがった陽極は、リチウム−金属−酸素化合物をさらに含有する。単独の活性材料として本発明にしたがったLiFexMn1-x-yyPO4のみ含有する陽極と比較して、この添加により、最大約10〜15%までの量によって、さらに混合されたリチウム金属化合物の種類によって、エネルギー密度を増加する。
【0022】
さらにリチウム−金属−酸素化合物は、置換または非置換LiCoO2、LiMn24、Li(Ni,Mn,Co)O2、Li(Ni,Co,Al)O2、LiNiO2、Li(Fe,Mn)PO4及びその混合物から選択されることが好ましい。
【0023】
課題は、以下の工程を備える本発明にしたがった混合されたリン酸金属リチウムマンガンを製造するための方法により達成される。つまり、方法は、
a.出発化合物Li、出発化合物Mn、出発化合物Fe、出発化合物M2+及び出発化合物PO43-を含有する混合物を作製する工程と、
b.450〜850℃の温度で該混合物を加熱する工程と、
c.LiFexMn1-x-yyPO4を絶縁する工程とを備え、
x及びyは上述した意味を有する。
【0024】
本発明にしたがったプロセス(方法)は、特に、XRDの手段で測定される不純物がない相純LiFexMn1-x-yyPO4の作製を可能にする。
【0025】
したがって、本発明のさらなる局面は、本発明にしたがったプロセスの手段により得られるLiFexMn1-x-yyPO4の供給である。
【0026】
加熱(焼結)後、本発明にしたがって得られたLiFexMn1-x-yyPO4は絶縁され、本発明の好ましい発展においては、例えば空気ジェットミルで研磨することにより解凝集される(disagglomerated)。
【0027】
本発明にしたがったプロセスの発展において、カーボンを含有する材料は、工程aまたは工程cの後に添加される。これは、例えばグラファイト、アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのような純カーボン、または、炭素が熱に曝されたとき、糊、ゼラチン、多価アルコール、セルロース、マンノースのような砂糖、果糖、ショ糖、ラクトース、ガラクトース、例えばポリアクリル酸塩などのような部分的に水溶性高分子などに分解するカーボンを含有する前駆体化合物であってもよい。
【0028】
あるいは、合成後得られるLiFexMn1-x-yyPO4は、上記のように定義されたカーボンを含有する材料で混合されることもでき、または、同様の水溶液で含浸されてもよい。これは、LiFexMn1-x-yyPO4の絶縁後すぐに、あるいは、乾燥または解凝集された後に、生じる。
【0029】
例えば、LiFexMn1-x-yyPO4及びカーボン前駆体化合物(例えばプロセス中に添加された)、または、カーボン前駆体化合物で含浸されたLiFexMn1-x-yyPO4は、乾燥され、500℃〜850℃の温度で加熱され、カーボン前駆体化合物は熱分解され、その後、層として、LiFexMn1-x-yyPO4粒子を全体的にあるいは少なくとも一部覆う。
【0030】
熱分解は、通常、研磨または解凝集処理により生じる。
【0031】
本発明にしたがって得られたLiFexMn1-x-yyPO4は、好ましくは窒素、空気中など保護ガスの元、または真空下で、熱分解されることが好ましい。
【0032】
本発明にしたがったプロセスの構想内では、Li+源、鉄源、即ちFe2+またはFe3+、Mn2+源及びM2+源は、固体状で用いられることが好ましく、PO43-源は、固体状、即ちリン酸塩、リン酸水素塩、または二水素リン酸塩またはP25で用いられることが好ましい。
【0033】
本発明によれば、リチウム源として、Li2O、LiOH、Li2CO3、シュウ酸リチウムまたは酢酸リチウムが用いられ、好ましくはLiOHまたはLi2CO3が用いられる。
【0034】
鉄源は、好ましくはFe2+化合物であり、特に好ましくは、FeSO4、FeCl2、Fe(NO32、Fe3(PO42またはFeオルガニル塩であり、例えばシュウ酸鉄または酢酸鉄である。他の実施形態において、鉄源は、Fe3+化合物であり、特に好ましくは、FePO4、Fe23、混合酸化段階を含む化合物、またはFe34のような化合物から選択される。しかしながら、3価の鉄塩が使用される場合、本発明にしたがったプロセスの工程aにおいて、グラファイト、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのような形態のカーボンのような、上述したカーボンを含有する化合物は添加されなければならない。これにより、本発明にしたがったプロセス中、三価の鉄を二価の鉄に還元(いわゆる炭素熱還元)する。プロセスを実施した後、カーボンが過剰に用いられる場合には、最終生産物はカーボンをまだ含有し(典型的には生産物に均等に分布される)、化学量論の添加の場合には、もはやカーボンは含有されない。さらなる変形例において、上述したようなカーボン被覆は、その後さらに可能である。
【0035】
全ての適した二価または三価のマンガン化合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などのようなもので、これらは、MnSO4、MnCl2、MnCO3、MnO、MnHPO4、シュウ酸マンガン、酢酸マンガンのようなもの、またはMn3+塩のようなもので、Mn3+塩は、MnPO4、Mn23、または、Mn34のような混合酸化段階を含むマンガン化合物から選択され、マンガン源として考慮される。鉄の場合に上述したように、三価のマンガン化合物が用いられるならば、三価のマンガンに対する化学量論または超化学量論の量の中で工程aでの混合においてカーボンを含有する還元剤が必要である。
【0036】
プロセスの変形性のように、本発明によれば、二価のマンガン及び二価の鉄化合物、または三価の鉄化合物及び二価のマンガン化合物、さらに二価の鉄化合物及び三価のマンガン化合物、または他の三価の鉄及び三価のマンガン化合物を用いることも可能である。少なくとも三価の鉄またはマンガン化合物が用いられる場合、少なくともそれに対して化学量論または超化学量論で、必然的なカーボンの量(つまりカーボンを含有する化合物の対応する量)は、本発明にしたがったプロセスの工程aにおける混合において含有されなければならない。
【0037】
本発明にしたがって、金属リン酸塩、リン酸水素または二水素リン酸塩、例えばLiH2PO4、LiPO3、FePO4、MnPO4のようなもの、すなわち、対応する鉄及びマンガン化合物、または上に定義されるような二価金属の対応する合成物は、PO43-源として用いられることが好ましい。P25も本発明にしたがって用いることができる。
【0038】
特に、すでに述べたように、対応するリン酸塩、炭酸塩、酸化物、硫酸塩、特にMg、Zn及びCa、または対応する酢酸塩、カルボン酸塩(シュウ酸塩及び酢酸塩のようなもの)は、二価金属陽イオンの原料として考慮される。
【0039】
本発明は、実施例及び図面を用いて、以下に詳細に説明されるが、制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によるLiMn0.80Fe0.10Zn0.10PO4のXRD図。
【図2】最高水準によるリン酸鉄リチウムマンガンLiMn0.80Fe0.20PO4のC/10及び1Cでの放電曲線。
【図3】本発明によるLiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4のC/10及び1Cでの放電曲線。
【図4】本発明によるLiMn0.56Fe0.33Zn0.1PO4のC/10及び1Cでの放電曲線。
【図5】最高水準によるリン酸鉄リチウムマンガン(LiMn0.66Fe0.33PO4)に対して本発明にしたがったLiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4金属の時効後の1Cの電圧プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0041】
実施例
1.粒子径分布の測定
混合物またはけん濁液、及び製造された材料の粒子径の分布は、商業上慣習の装置を使用した光散乱法を用いて測定される。この方法は、それ自体、当業者に知られており、より特定的にはJP2002−151082及びWO02/083555に言及されている。この場合には、粒子径の分布は、レーザー回折法装置(Malvern Instruments社(ドイツ、ヘレンベルグ)製のMastersizer S)及びその製造者のソフトウエア(バージョン2.19)を使用し、測定装置としてMalvern Small Volume Sample Dispersion Unit(DIF 2002)を用いて測定された。測定条件は、圧縮範囲(compressed range)、有効ビーム長2.4mm、測定範囲:300RF、0.05〜900μm、を選択した。試料の作製及び測定は、このメーカーのマニュアルにしたがって行った。
【0042】
90値は、測定された試料の粒子の90%が、ある直径以下のときの、その直径値である。したがって、D50値及びD10値のそれぞれは、測定された試料の粒子の50%及び10%が、ある直径以下のときの、その直径値である。
【0043】
本発明にしたがった特に好ましい実施形態によれば、本明細書で呼ばれる値は、総体積に対する各粒子の体積比に関連して、D10値、D50値、D90値、及びD90値とD10値との差に適用される。したがって、本発明にしたがった本実施形態によれば、ここで呼ばれるD10、D50及びD90値は、測定された試料における粒子の10体積%、50体積%、及び90体積%が、ある直径以下のときの値である。これらの値が保存されれば、本発明にしたがって特に有利な材料が提供され、比較的粗い粒子(比較的大きな体積比)のプロセス可能性及び電気化学製品の特性への悪影響が避けられる。特に好ましくは、本発明で呼ばれる値は、粒子の割合及び体積%に関連して、D10値、D50値、D90値、及びD90値とD10値との差に適用される。
【0044】
本発明にしたがった二価金属カチオンで置換されたリン酸鉄リチウムマンガンが添加され、さらなる成分を含有する組成物(例えば電極材料)にとって、より特定的にはカーボンを含有する組成物にとって、LiFexMn1-x-yyPO4粒子は、添加(例えばカーボン含有)材料によってより広い塊を形成するように結合されるので、上述した光散乱法は、誤った結果を導き得る。しかしながら、本発明にしたがった材料の粒子径分布は、SEM写真を用いてこのような組成物のために以下のように測定され得る。
【0045】
少量の粉末試料はアセトン中でけん濁され、超音波で10分間分散される。その後すぐに、数滴のけん濁液が走査型電子顕微鏡(SEM)の試料プレートに滴下される。粉末粒子が他のものを覆い隠すことを防止するために、粉末粒子(ドイツの用語"Partikel"及び"Teilchen"は、"particle"を意味する同意語として用いられる)の単層の大部分は、支持を形成するように、けん濁液の固体濃度及び滴数は測定される。
【0046】
沈殿の結果、大きさによって粒子が分離される前に、滴は急速に添加される。空気中で乾燥された後、試料はSEMの測定チャンバ内に設置される。本実施例においては、1.5kVの励起電圧及び4mmの試料間の間隔で電解放出電極を作動するLEO1530装置である。拡大係数20,000で、試料の少なくとも20のランダムな拡大断面が撮影される。これらは、挿入された拡大基準とともにDIN A4シート上にそれぞれ印刷される。少なくとも20シートのそれぞれの上で、可能なら本発明にしたがった材料の少なくとも10の見える粒子(粉末粒子がカーボン被覆材料とともに形成される)は、任意に選択され、本発明にしたがった材料の粒子の境界は、固定の直接のブリッジの欠如により区画されている。他方、カーボン材料により形成されるブリッジは、粒子境界に含まれている。これらの選択された粒子のそれぞれのうち、射出で最長及び最短の軸を有するものは、それぞれの場合において物差しで長さを測定され、縮尺割合を用いて実際の粒子次元に変換される。それぞれ測定されたLiFexMn1-x-yyPO4粒子にとって、最長及び最短の軸からの算術平均は、粒子径で画定される。測定されたLiFexMn1-x-yyPO4粒子は、その後、光散乱測定で大きさの階級に類似のものに分類される。粒子の数に関する差異の粒子径の分布は、大きさの階級に対するそれぞれの場合において、関連する粒子の数をプロットすることにより得られる。D10、D50及びD90が大きさの軸上で直接読まれることができる累積的な粒子径の分布は、粒子数を粒子の階級を小さいものから大きいものへ連続して合計することにより得られる。
【0047】
上述したプロセスは、本発明にしたがった材料を含有する電池の電極にも適用される。しかしながら、この場合、粉末試料の代わりに、電極の切り立てまたは破断面は、試料のホルダーに固定され、SEMの下で測定される。
【0048】
実施例1:本発明のプロセスにしたがったLiMn0.56Fe0.33Mg0.1PO4の製造
92.9gのLi2CO3は、47.02gのFePO4、H2O、47.02gのMnCO3及び4.92gのMg(OH)2及び5wt%の酢酸セルロース(他の試薬の全体的な質量に対して)とともに、イソプロパノール(Retsch PM400,500mLのビーカー、100*10mmのボール、380rpm)中で湿式粉砕された。溶剤は蒸発され、その後、乾燥した混合物は750℃11時間で保護ガス炉(Linn KS 80-S)中で焼結された。このように得られた製品は、その後、高速のローター・ミル(Pulverisette 14, Fritsche, 80 mm screen)で粉砕された。
【0049】
実施例2:LiMn0.56Fe0.33Zn0.10PO4の製造
Mg(OH)2の代わりに、8.38gのZn(OH)2が分子量に応じて出発材料として使用された点以外は実施例1と同様に合成が実施された。
【0050】
実施例3:本発明のプロセスにしたがったLiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4の製造
77.17gのMnCO3、14.25gのFePO4、H2O、4.92gのMg(OH)2が分子量に応じて出発材料として使用された点以外は、実施例1と同様に合成が実施された。
【0051】
実施例4:本発明のプロセスにしたがったLiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4の製造(熱炭素の変形)
FePO4・7H2Oの代わりに、対応する分子量のFe23及びグラファイトが使用された点以外は、実施例1と同様に合成が実施された。
【0052】
実施例5:本発明のプロセスにしたがったLiMn0.80Fe0.10Mg0.1PO4の製造(熱炭素の変形)
対応する分子量のFe23及び2倍の化学量論の量のグラファイトがFePO4・H2Oの代わりに使用された点を除き、実施例1及び5において同様に合成が実施された。得られたカーボンを含有するLiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4複合材料は、材料中に均一に分散されたカーボンを含有していた。
【0053】
実施例6:得られた材料のカーボンコーティング(変形1)
実施例1〜3において得られた材料は、水中で24gのラクトーゼの溶液に含浸され、その後、窒素の下で、750℃で3時間、か焼された。
【0054】
ラクトーゼの量によるが、本発明にしたがった製品中のカーボンの割合は、0.2〜0.4wt%であった。
【0055】
典型的には、実施例1及び2からの1kgの乾燥した製品は、112gのラクトース一水和物及び220gの純水と密接に混合され、3%の残部の湿気に対して、105℃及び100mbar未満で真空乾燥オーブン内で1晩乾燥された。脆弱な製品は、手で割られ、ディスク間の1mmのスペースを有するディスク・ミル(Fritsch Pulverisette 13)において粗く粉砕され、保護ガスチャンバー炉(Linn KS 80-S)の高級スチールカップに移動された。後者は、200l/hの窒素流で750℃で加熱され、この温度で3時間維持され、3時間かけて室温まで冷却された。炭素を含有している製品は、ジェットミル(Hosokawa)内で細粒にされた。
【0056】
粒子径の分布のSEM分析は、次の値を示した。D50<2μm、D90及びD10の差の値<5μm。
【0057】
実施例7:本発明にしたがった材料のカーボンコーティング(変形2)
本発明にしたがった材料の合成は、20gのラクトースが出発材料の混合物に添加された点以外は、実施例1〜4と同様に実施された。最終製品は、約2.3wt%のカーボンを含有していた。
【0058】
実施例8:電極の製造
例えばAndersonなどのElectrochem. and Solid State Letters 3 (2) 2000、66〜68ページに開示されているような薄膜電極が製造された。電極の組成物は、通常、90重量部の活性材料と、5重量部のSuper P carbonと、バーンダーとしての5%のポリフッ化ビニリデンとからなり、または、80重量部の活性材料と、15wt%のSuper P carbonと、5重量部のポリフッ化ビニリデンとからなり、または、95重量部の活性材料と、5重量部のポリフッ化ビニリデンとからなる。
【0059】
その後、電極懸濁液は、コーティングナイフで約150μmの厚みに塗布された。乾燥された電極は、20〜25μmの厚みが得られるまで、数回ローラで延ばされ、または適した圧力で押された。比容量及び通電容量の対応する測定は、最高水準及びマグネシウム及び亜鉛で置換された本発明に従った材料のLiMn0.80Fe0.20PO4及びLiMn0.66Fe0.33PO4で実行される。
【0060】
図1は、本発明によるプロセスにしたがったLiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4のX線の粉末回折図を示す。この材料の相純度はこのように確認された。
【0061】
図2は、最高水準のLiMn0.80Fe0.20PO4のためにC/10、および1Cでの放電曲線を示す。平坦域の長さはC/10でおよそ60mAh/gであり、非常に高い極性化は鉄及びマンガンの平坦域で1Cの放電率で常に確認された。
【0062】
その一方、材料中のマンガンの含有量は、最高水準の材料と同じであったにもかかわらず、本発明(図3)にしたがったマグネシウムで置換されたLiMn0.80Fe0.10Mg0.10PO4材料は、驚くほどはるかに長いマンガン平坦域(>100mAh/g)を示した。それに加えて、1Cの放電率での極性化は、0〜60mAh/gの範囲において低かった。同様に、本発明(図4)にしたがったマグネシウムで置換されたLiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4材料は、マンガン及び鉄の平坦域でバッテリーの非常に低い極性化を示した。
【0063】
図5は、1.2g/cm3の電極密度及び20μmの厚みを有する最高水準のLiMn0.66Fe0.33PO4材料のエージング(1Cで20サイクル)後の1Cでの放電曲線を示す。比較のために、発明にしたがったマグネシウムで置換されたLiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4材料の同様のエージング(1Cで20のサイクル)後の1Cでの放電曲線は、図5に示される。驚くべきことに、本発明にしたがった材料のマンガン含有量は低かったにも関わらず、LiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4材料中のマンガン平坦部の長さは、最高水準の材料であるLiMn0.66Fe0.33PO4よりも大きいことがわかる。両方の材料に対する比容量が類似しているが、LiMn0.56Fe0.33Mg0.10PO4材料は、最高水準の材料よりもバッテリーにおけるエージング後の良好なエネルギー密度を示す。
【0064】
要約すると、現在の発明は、混合された二価金属イオンと置換されたリン酸鉄リチウム−マンガン材料に利用可能であり、固体プロセスの手段により製造され得る。室温での比放電容量は、10%の電気的に不活性な二価の金属イオンでの置換にもかかわらず、140mAh/gを超える。非常によい放電率は、すべての置換された材料のために測定された。
【0065】
置換されていないLiMn0.80Fe0.20PO4と比較して、何回かの充電及び放電サイクルの後でさえ、本発明にしたがった二価の新規材料によって、1Dでの放電電圧プロフィールは、特にマグネシウム平坦域(4V領域)の場合、(電気的に不活性な)二価の材料で置換されていないリン酸金属リチウムマンガンと異なり、容量において非常に小さい低下であった。マグネシウム平坦域の長さも、変わっていない。
【0066】
エネルギー密度に関して、カルシウム、銅、チタン及びニッケルと比較して、マグネシウムまたは亜鉛での置換は、最も良い結果をもたらすことが見出された。さらによい結果は、マグネシウム及びカルシウムで得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式LiFexMn1-x-yyPO4のリン酸金属リチウムマンガンにおいて、
Mは、Sn、Pb、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Co、Ti及びCdの群から選択される二価金属であり、
x<1、y<0.3及びx+y<1であることを特徴とする、リン酸金属リチウムマンガン。
【請求項2】
Mは、ZnまたはCaである、請求項1に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項3】
0<y<0.15である、請求項1または2に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項4】
0<x<0.35である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項5】
Mは、Mgである、請求項1に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項6】
0.01≦x≦0.11、0.07<y≦0.20及びx+y<0.2である、請求項5に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項7】
カーボンをさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項8】
カーボンは、置換されたリン酸金属リチウムマンガン中に均一に分布されている請求項7に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項9】
カーボンは、混合されたリン酸金属リチウムマンガンの個々の粒子を覆う、請求項7または8に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項10】
置換されたリン酸金属リチウムマンガンに対するカーボンの割合が4wt%以下である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のリン酸金属リチウムマンガン。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリン酸金属リチウムマンガンを含有する、リチウムイオン二次電池の陽極。
【請求項12】
リチウム金属酸素化合物をさらに含有する、請求項11に記載の陽極。
【請求項13】
さらに、リチウム金属酸素化合物は、リチウム−金属−酸素化合物は、LiCoO2及びLiNiO2、LiFePO4、LiMnPO4及びLiMnFePO4、及びこれらの混合物から選択される、請求項12に記載の陽極。
【請求項14】
導電剤が添加されていない、請求項11〜13のいずれか1項に記載の陽極。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリン酸金属リチウムマンガンを製造するための方法であって、
a.出発化合物としてのLi、出発化合物としてのMn、出発化合物としてのFe、出発化合物としてのM2+及び出発化合物としてのPO43-を少なくとも含有する混合物を生成する工程と、
b.450〜850℃の温度で該混合物を加熱する工程と、
c.リン酸金属リチウムマンガンLiFexMn1-x-yyPO4を絶縁する工程とを備える、方法。
【請求項16】
工程a)において、さらに、カーボンを含有する成分が添加される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程c)において得られるLiFexMn1-x-yyPO4は、カーボンを含有する成分と混合される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
LiOH、Li2O、シュウ酸リチウム、酢酸リチウムまたはLi2CO3が、リチウム源として用いられる、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
Fe源として、FeSO4、FeCl2、Fe3(PO42、FeO、FeHPO4または鉄−オルガニル塩から選択されるFe2+塩、または、FePO4、Fe23、FeCl3またはFe34のような混合Fe塩から選択されるFe3+塩が用いられる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
Mn源として、MnSO4、MnCl2、MnO、MnHPO4、 シュウ酸マンガン、酢酸マンガンから選択されるMn2+塩、または、MnPO4、Mn23、MnCl3、またはMn34のような混合マンガン塩から選択されるMn3+塩が用いられる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
PO43-源として、リン酸、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素、またはP25が用いられる、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−518023(P2013−518023A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550453(P2012−550453)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051189
【国際公開番号】WO2011/092275
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】