説明

置換ジオキソピペリジニルフタルイミド誘導体

本発明は、新規の置換ジオキソピペリジニルフタルイミド誘導体およびその薬学的に許容される酸付加塩に関する。本発明はまた、本発明の化合物を含む組成物、ならびに免疫調節剤によって有利に治療される疾患および状態を治療する方法におけるこのような組成物の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年11月14日に出願された米国仮出願第61/114,989号の恩典および優先権を主張し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
多くの現在の薬は、不十分な吸収、分布、代謝および/または排泄(ADME)特性に苦しめられており、このために、それらのより広範囲の使用が妨げられる。不十分なADME特性はまた、臨床試験における薬物候補の不成功の主な原因である。製剤技術およびプロドラッグ戦略が、ある特定のADME特性を改善するために場合により使用され得るが、これらのアプローチは、多くの薬物および薬物候補について存在する根本的なADME問題にしばしば取り組んでいない。1つのこのような問題は、そうでなければ疾患の治療において非常に有効であろう多数の薬物を体外へ非常に急速に排出させる、急速な代謝である。急速な薬物クリアランスの可能性のある解決方法は、十分に高い血漿薬物濃度を得るための頻繁なまたは高濃度の投薬である。しかし、これは、投薬レジメンの不十分な患者コンプライアンス、より高い用量でより急性となる副作用、および治療費の増加などの、多数の潜在的な治療問題をもたらす。
【0003】
いくつかの選択された場合において、代謝阻害剤が、非常に急速に排出される薬物と共に共投与される。このようなことは、HIV感染症を治療するために使用されるプロテアーゼ阻害剤クラスの薬物について当てはまる。FDAは、これらの薬物が、典型的にそれらの代謝を担う酵素、シトクロムP450酵素3A4(CYP3A4)の阻害剤、リトナビルと共投薬されることを推奨している(非特許文献1/Kempf, D.J. et al., Antimicrobial agents and chemotherapy, 1997, 41(3): 654-60を参照のこと)。しかし、リトナビルは、有害効果を引き起こし、異なる薬物の組み合わせを既に摂取しなければならないHIV患者について丸剤負担を増やす。同様に、CYP2D6阻害剤キニジンは、偽性球麻痺情動の治療においてデキストロメトルファンの急速なCYP2D6代謝を減らす目的で、デキストロメトルファンへ添加されてきた。しかし、キニジンは望ましくない副作用を有し、このために、潜在的な併用療法におけるその使用が大幅に制限される(非特許文献2/Wang, L et al., Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1994, 56(6 Pt 1): 659-67;および www .accessdata.fda.govでのキニジンについてのFDAラベルを参照のこと)。
【0004】
一般的に、薬物とシトクロムP450阻害剤とを組み合わせることは、薬物クリアランスを減少させることについて満足な戦略ではない。CYP酵素活性の阻害は、その同一の酵素によって代謝される他の薬物の代謝およびクリアランスに影響を与え得る。CYP阻害は、他の薬物を毒性レベルまで体内に蓄積させ得る。
【0005】
薬物の代謝特性を改善するための潜在的に魅力的な戦略は、重水素修飾である。このアプローチにおいて、1つまたは複数の水素原子を重水素原子で置き換えることによって薬物のCYP媒介代謝を遅らせようとする。重水素は、水素の安全で安定な非放射性同位体である。水素と比較して、重水素は、炭素とより強い結合を形成する。選択されたケースにおいて、重水素によって与えられた結合強度の増加は、薬物のADME特性によい影響を与え得、薬効、安全性、および/または許容性の改善の可能性が生じる。同時に、重水素のサイズおよび形状は水素のそれらと本質的に同一であるので、重水素による水素の置き換えは、水素のみを含有するもとの化学物質と比較して、薬物の生化学的効力および選択性に影響を与えないと予想される。
【0006】
過去35年にわたって、代謝速度に対する重水素置換の効果が、承認薬のうちのごく僅かな割合について報告された(例えば、非特許文献3/Blake, MI et al, J Pharm Sci, 1975, 64:367-91;非特許文献4/Foster, AB, Adv Drug Res 1985, 14:1-40(「Foster」);非特許文献5/Kushner, DJ et al, Can J Physiol Pharmacol 1999, 79-88;非特許文献6/Fisher, MB et al, Curr Opin Drug Discov Devel, 2006, 9:101-09(「Fisher」)を参照のこと)。結果は、可変かつ予測不能であった。いくつかの化合物について、重水素化は、インビボで代謝クリアランスを減少させた。他のものについては、代謝の変化は存在しなかった。さらに他のものは、代謝クリアランスの増加を示した。重水素効果の可変性のためにまた、専門家は、有害な代謝を阻害するための実行可能な薬物設計戦略として重水素修飾を疑ったかまたは捨てた(Foster第35頁およびFisher第101頁を参照のこと)。
【0007】
薬物の代謝特性に対する重水素修飾の効果は、重水素原子が公知の代謝部位で組み入れられる場合でさえ、予想可能でない。重水素化薬物を実際に作製および試験することによってのみ、代謝速度がその非重水素化相当物のそれと異なるかどうかおよびどのように異なるかを測定することができる。例えば、Fukuto et al. (非特許文献7/J. Med. Chem. 1991, 34, 2871-76) を参照のこと。多くの薬物は、代謝が可能である多数の部位を有する。重水素置換が必要とされる部位、および、たとえあるとしても、代謝に対する効果を見るために必要な重水素化の程度は、各薬物について異なる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kempf, D.J. et al., Antimicrobial agents and chemotherapy, 1997, 41(3): 654-60
【非特許文献2】Wang, L et al., Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1994, 56(6 Pt 1): 659-67
【非特許文献3】Blake, MI et al, J Pharm Sci, 1975, 64:367-91
【非特許文献4】Foster, AB, Adv Drug Res 1985, 14:1-40(「Foster」)
【非特許文献5】Kushner, DJ et al, Can J Physiol Pharmacol 1999, 79-88
【非特許文献6】Fisher, MB et al, Curr Opin Drug Discov Devel, 2006, 9:101-09(「Fisher」)
【非特許文献7】Fukuto et al. (J. Med. Chem. 1991, 34, 2871-76)
【発明の概要】
【0009】
本発明は、新規の置換ジオキソピペリジニルフタルイミド誘導体およびその薬学的に許容される塩に関する。本発明はまた、本発明の化合物を含む組成物、ならびに免疫調節剤によって有利に治療される疾患および状態を治療する方法におけるこのような組成物の使用を提供する。
【0010】
3-(4-アミノ-1,3-ジヒドロ-1-オキソ-2H-イソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオンまたは3-(4-アミノ-1-オキソ1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンのいずれかとして化学的に公知の、レナリドマイド、およびその薬学的に許容される塩は、免疫調節剤として開示されている。レナリドマイドは、動物およびヒトにおいて、腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの炎症促進性サイトカインの分泌を阻害し、抗炎症性サイトカインの分泌を増加させることが示された。TNF-αレベルを減少させることは、多くの炎症性、感染性、免疫学的、および悪性疾患の治療について価値のある治療戦略である(PCT出願公開第WO 98/03502号)。レナリドマイドは、欠失5q染色体異常(deletion 5q cytogenic abnormality)に関連する骨髄異形成症候群に起因する貧血の治療において、ならびにデキサメタゾンと併用して使用される場合の多発性骨髄腫の治療において、有用であることが示された。
(http://www.fda.gov/cder/foi/label/2006/02188OsOO1.pdf)。
【0011】
レナリドマイドはまた、非ホジキンリンパ腫;乳頭状および濾胞状甲状腺癌;前立腺癌;慢性リンパ性白血病、アミロイドーシス、複合性局所疼痛症候群I型、悪性黒色腫、神経根障害、骨髄線維症、神経膠芽腫、神経膠肉腫、悪性神経膠腫、骨髄性白血病、難治性形質細胞新生物、慢性骨髄単球性白血病、濾胞性リンパ腫、毛様体慢性黒色腫、虹彩黒色腫、再発性眼球内黒色腫(recurrent interocular melanoma)、眼球外伸展黒色腫(extraocular extension melanoma)、充実性腫瘍、T細胞リンパ腫、赤血球リンパ腫(erythroid lymphoma)、単芽球性および単球性白血病;骨髄性白血病、脳腫瘍、髄膜腫、脊髄腫瘍、甲状腺癌、マントル細胞リンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨髄線維症、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型リンパ腫、およびワルデンシュトレームマクログロブリン血症の治療について、単独でまたは他の治療剤と併用して、臨床試験中である。
【0012】
レナリドマイドは、ヒトの出生時欠損症;好中球減少症;血小板減少症;深部静脈血栓症;および肺動脈塞栓症を含む、著しい潜在的な毒性を伴う。(http://www.fda.gov/cder/foi/label/2006/021880s001.pdf)を参照のこと。レナリドマイドを摂取した患者の大部分は、血液毒性に起因して、臨床試験の間、投薬延期または減少を必要とした。曝露と安全性との関係を評価するための臨床試験は行われなかった。
【0013】
レナリドマイドの有利な活性にもかかわらず、上述の疾患および状態を治療するための新規の化合物についての継続した必要性が存在する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
用語「改善する」および「治療する」は、交換可能に使用され、治療的処置および予防的処置の両方を含む。両方の用語とも、疾患(例えば、本明細書に記載される疾患または障害)の発症または進行を減少させる、抑制する、弱める、少なくする、阻止する、または安定させること、疾患の重篤度を小さくすること、または、疾患と関連する症状を改善することを意味する。
【0015】
「疾患」は、細胞、組織、または器官の正常な機能を損傷するまたはこれらに干渉する任意の状態または障害を意味する。
【0016】
合成に使用された化学物質の起源に依存して、合成された化合物中に、天然同位体存在度のいくらかの変動が生じることが認識される。従って、レナリドマイドの作製は、少量の重水素化アイソトポログ(isotopologue)を本質的に含有する。この変動にもかかわらず、天然に豊富で安定な水素同位体の濃度は、本発明の化合物の安定な同位体置換の程度と比較して、小さく、取るに足らない。例えば、Wada, E and Hanba, Y, Seikagaku 1994, 66: 15;Ganes LZ et al, Comp Biochem Physiol Mol Integr Physiol 1998, 119:725を参照のこと。
【0017】
本発明の化合物において、特定の同位体と明確に指定されていない原子は、その原子の安定な同位体を示すように意図される。特に記載されない限り、ある位置が「H」または「水素」と明確に指定される場合、その位置は、その天然存在度同位体組成で水素を有すると理解される。さらに、特に記載されない限り、ある位置が「D」または「重水素」と明確に指定される場合、その位置は、0.015%である重水素の天然存在度よりも少なくとも3340倍高い存在度で重水素を有すると理解される(即ち、重水素の少なくとも50.1%組み込み)。
【0018】
用語「同位体濃縮係数」は、本明細書において使用される場合、特定の同位体の同位体存在度および天然存在度の比率を意味する。
【0019】
他の態様において、本発明の化合物は、各々の指定される重水素原子について、少なくとも3500(各々の指定される重水素原子で52.5%重水素組み込み)、少なくとも4000(60%重水素組み込み)、少なくとも4500(67.5%重水素組み込み)、少なくとも5000(75%重水素)、少なくとも5500(82.5%重水素組み込み)、少なくとも6000(90%重水素組み込み)、少なくとも6333.3(95%重水素組み込み)、少なくとも6466.7(97%重水素組み込み)、少なくとも6600(99%重水素組み込み)、または少なくとも6633.3(99.5%重水素組み込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0020】
用語「アイソトポログ」は、その同位体組成のみが本発明の特定の化合物と相違する種類を指す。
【0021】
用語「化合物」は、本発明の化合物を参照する場合、分子の構成原子間に同位体変動が存在し得ることを除いては、同一の化学構造を有する分子のコレクションを指す。従って、示される重水素原子を含有する特定の化学構造によって示される化合物はまた、その構造中における1つまたは複数の指定される重水素位置で水素原子を有するより少ない量のアイソトポログを含むことが、当業者に明らかである。本発明の化合物中のこのようなアイソトポログの相対量は、化合物を作製するために使用される重水素化試薬の同位体純度、および化合物を作製するために使用される種々の合成工程における重水素の組み込み効率を含む多数の因子に依存する。しかし、上述したように、このようなアイソトポログの相対量は、全体として、化合物の49.9%未満である。他の態様において、このようなアイソトポログの相対量は、全体として、化合物の47.5%未満、40%未満、32.5%未満、25%未満、17.5%未満、10%未満、5%未満、3%未満、1%未満、または0.5%未満である。
【0022】
本発明はまた、本発明の化合物の塩を提供する。
【0023】
本発明の化合物の塩は、酸と化合物の塩基性基、例えば、アミノ官能基との間で、または、塩基と化合物の酸性基、例えば、カルボキシル官能基との間で、形成される。別の好ましい態様によれば、化合物は、薬学的に許容される酸付加塩である。
【0024】
用語「薬学的に許容される」は、本明細書において使用される場合、正しい医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴わずにヒトおよび他の哺乳動物の組織と接触しての使用に好適であり、かつ、合理的な利益/リスク比に釣り合う成分を指す。「薬学的に許容される塩」は、レシピエントへ投与されると、本発明の化合物を直接的にまたは間接的に提供することができる任意の非毒性塩を意味する。「薬学的に許容される対イオン」は、レシピエントへ投与され、塩から放出される際に、毒性のない塩のイオン部分である。
【0025】
薬学的に許容される塩を形成するために一般的に使用される酸としては、無機酸、例えば、二硫化水素、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸およびリン酸、ならびに有機酸、例えば、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、二酒石酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、ギ酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸、ならびに関連する無機酸および有機酸が挙げられる。従って、このような薬学的に許容される塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキシン-1,6-ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩などの塩が挙げられる。好ましい薬学的に許容される酸付加塩としては、塩酸および臭化水素酸などの鉱酸を用いて形成されるもの、および特に、マレイン酸などの有機酸を用いて形成されるものが挙げられる。
【0026】
本発明の化合物は、1つまたは複数の不斉炭素原子を含有する。従って、本発明の化合物は、個々のエナンチオマーならびにエナンチオマーの混合物として存在し得る。従って、本発明の化合物は、ラセミ混合物だけでなく、他のエナンチオマーを実質的に含まない個々のそれぞれのエナンチオマーも含む。用語「他のエナンチオマーを実質的に含まない」は、本明細書において使用される場合、他のエナンチオマーが25%未満、好ましくは、他のエナンチオマーが10%未満、より好ましくは、他のエナンチオマーが5%未満、最も好ましくは、他のエナンチオマーが2%未満存在することを意味する。エナンチオマーを得るまたは合成する方法は、当技術分野において公知であり、最終化合物または出発材料または中間体へ、実行可能な場合、適用され得る。
【0027】
特に記載されない限り、開示される化合物が、立体化学を明記することなく、構造によって表されるかまたは命名され、かつ、1つまたは複数のキラル中心を有する場合、化合物の全ての可能性のある立体異性体を示すことが理解される。
【0028】
用語「安定な化合物」は、本明細書において使用される場合、製造を可能にするに十分な安定性を有し、かつ、本明細書において詳述される目的(例えば、治療製品への製剤化、治療化合物の製造における使用のための中間体、単離可能なまたは保存可能な中間体化合物、治療剤に対して応答性の疾患または状態の治療)について有用であるに十分な期間の間、化合物の完全性を維持する、化合物を指す。
【0029】
「D」は、重水素を指す。「立体異性体」は、エナンチオマーおよびジアステレオマーの両方を指す。「tert」、「t」、および「t-」は、各々、第3級を指す。「US」は、アメリカ合衆国を指す。
【0030】
本明細書にわたって、用語「各Y」、「各Z」、および「各W」は、それぞれ、全ての「Y」基(例えば、Y1およびY2)、全ての「Z」基(例えば、Z1、Z2、Z3、Z4およびZ5)、ならびに全ての「W」基(例えば、W1、W2、W3およびW4)を意味する。
【0031】
治療化合物
一態様によれば、本発明は、式Iの化合物:

またはその塩を提供し、式中:
各Wは、水素および重水素より独立して選択され;
各Yは、水素および重水素より独立して選択され;
各Zは、水素および重水素より独立して選択され;かつ
少なくとも1つのW、1つのY、または1つのZが重水素である。
【0032】
一態様において、Z5は重水素である。
【0033】
別の態様において、W1、W2およびW3は同一である。この態様の一局面において、W1、W2およびW3は同時に重水素である。この態様の別の局面において、W1、W2およびW3は同時に水素である。
【0034】
別の態様において、共通の炭素原子へ結合された各Z(例えば、Z1およびZ2;またはZ3およびZ4)は同一である。この態様の一局面において、共通の炭素原子へ結合されたZの少なくとも1つの対の各メンバーは、重水素である。この態様の別の局面において、Z1、Z2、Z3およびZ4は同時に重水素である。この態様の別の局面において、Z1、Z2、Z3、Z4およびZ5は同時に重水素である。さらに別の局面において、Z1、Z2、Z3、Z4およびZ5は同時に重水素であり、W1、W2およびW3は同時に水素である。
【0035】
さらに別の態様において、各Yは同時に重水素である。
【0036】
別の態様において、化合物は、下記の化合物ならびにその薬学的に許容される塩いずれか1つより選択される:


【0037】
レナリドマイドは、単一のキラル中心を有するラセミ化合物である。レナリドマイドのキラル中心、ならびにアクチミド(ポマリドマイド)およびサロミド(サリドマイド)などのIMiDクラスの構造関連薬物のそれらは、生理学的な条件下でエピマー化を受ける。例えば、このような条件下で、構造的に類似しているアクチミド(ポマリドマイド)の単一のエナンチオマーは、1〜2時間でラセミ化合物へ変換されることが公知である。Teo, SK, et. al., Chirality, 2003, 15(4): 348-351を参照のこと。レナリドマイドの(S)-エナンチオマーは最も大きな免疫調節効果を有するエナンチオマーであるので、レナリドマイドの(S)-エナンチオマーと類似するがより遅い速度でエピマー化する化合物を提供することが有利である。そのために、Z5が重水素である式Iの化合物は、Z5が水素である化合物よりも遅い速度でエピマー化すると予想される。特定の化合物についてのエピマー化のより遅い速度は、例えば、最も大きな免疫調節効果を有するエナンチオマーの濃度を最大にすることによって、有利となり得る。
【0038】
従って、別の態様において、本発明は、式IaまたはIbの化合物である式Iの化合物を提供する:

式中、W、Y、およびZは上記に定義される通りである。
【0039】
レナリドマイドの対応のエナンチオマーと比べての、式IaまたはIbの化合物についてのエピマー化の速度は、当業者に周知の技術を使用して容易に測定され得る。例えば、式IaおよびIbの化合物の純粋なサンプルならびにレナリドマイドの各エナンチオマーの純粋なサンプルは、キラルHPLCを使用して単離および分析され得る。これらの純粋なサンプルは、好適な生理緩衝液または体液またはその模倣物中に好適な濃度で溶解され得、エピマー化の速度を評価するために、キラルHPLCを使用して経時的に(例えば、およそ5分ごとに)モニタリングされ得る。
【0040】
さらなる態様において、化合物は、下記の化合物ならびにその薬学的に許容される塩のいずれか1つより選択される:

【0041】
態様の別のセットにおいて、上述の態様において重水素と指定されていない原子は、その天然同位体存在度で存在する。
【0042】
本明細書に開示の化合物の合成は、本明細書に開示される例示的な合成および実施例を参照することによって、通常の技術を有する合成化学者によって容易に達成され得る。関連する手順および中間体は、例えば、Muller, GW et al., Bioorg Med Chem Lett, 1999, 9(11): 1625に加えて、米国特許第5,635,517号および米国特許出願第2006052609号に開示されている。
【0043】
このような方法は、本明細書に記載の化合物を合成するために、対応の重水素化された、任意で、他の同位体を含有する試薬および/または中間体を利用して、または化学構造へ同位体元素を導入するために、当技術分野において公知の標準的な合成プロトコルを用いて、行われ得る。
【0044】
例示的な合成
式Iの化合物を合成するための好都合な方法をスキーム1および2に示す。
【0045】
スキーム1.適切に重水素化された3-アミノピペリジン-2,6-ジオン(13)の合成

【0046】
スキーム1に示されるように、適切に重水素化されたd,l-グルタミン10をCbz-クロリドと反応させ、カルバメート11を得、次いで、これを1,1'-カルボニルジイミダゾール(CDI)で環化し、12を得る。次いで、カルバメート保護基を水素化分解によって12から除去し、適切に重水素化された3-アミノピペリジン-2,6-ジオン13を得る。次いで、このアミンをスキーム2に示されるように使用し、式Iの化合物を生成する。
【0047】
スキーム2.式Iの化合物の合成

【0048】
式Iの化合物の作製についてスキーム2に示されるように、適切に重水素化された1-ブロモ-2-メチルベンゼン14を、n-ブチルリチウムでリチオ化し、続いてクロロギ酸メチルと反応させ、エステル16を得る。あるいは、エステル16は、適切に重水素化された2-メチル安息香酸を塩化スルホニルでメタノール中において処理することによって得ることができる。エステル16を、インジウム触媒を含むジクロロエタン中において硝酸でニトロ化し、ニトロ化合物17を得、次いでこれをN-ブロモスクシンイミドでの処理によってベンジリックハライド18へ変換する。トリエチルアミンおよび熱の存在下でベンジリックハライド18と適切に重水素化された3-アミノピペリジン-2,6-ジオン13とを反応させることによって、環化ニトロ化合物19を得、次いでこれを、Pd/C触媒を使用する水素化によって式Iの化合物へ変換する。必要に応じて、IMiDクラスの薬物における関連化合物について公知のものと同様の様式で、式Iの化合物のRおよびSエナンチオマーをキラルHPLCによって次いで分離し得る。このタイプのキラルHPLCエナンチオマー分離の例は、Sembongi, K. et al., Biological & Pharmaceutical Bulletin, 2008, 31(3): 497-500;Murphy-Poulton, S.F. et al., Journal of Chromatography, B: Analytical Technologies in the Biomedical and Life Sciences, 2006, 831(1-2): 48-56;Eriksson, T. et al., Journal of Pharmacy and Pharmacology, 2000, 52(7): 807-817;Eriksson, T. et al., Chirality, 1998, 10(3): 223-228;Reepmeyer, J.C. et al., Chirality, 1996, 8(1): 11-17;Aboul-Enein, H. Y. et al., Journal of Liquid Chromatography, 1991, 14(4): 667-73;およびTeo, S.K. et al., Chirality, 2003, 15(4): 348-351において見られる。
【0049】
上記に示される具体的なアプローチおよび化合物は、限定的であるようには意図されない。本明細書におけるスキーム中の化学構造は、同一の変数名(即ち、R1、R2、R3など)によって同定されるか否かにかかわらず、本明細書中における化合物式中の対応の位置の化学基定義(部分、原子など)と同一基準で本明細書において定義される変数を表す。別の化合物の合成における使用についての化合物構造中の化学基の適合性は、当業者の知識内にある。
【0050】
本明細書におけるスキーム中に明示的には示されていない経路内のものを含む、本明細書中の式の化合物およびそれらの合成前駆体を合成するさらなる方法は、当技術分野における通常の技術の化学者の手段内にある。適用可能な化合物の合成に有用な合成化学変換および保護基方法論(保護および脱保護)は、当技術分野において公知であり、これらとしては、例えば、R. Larock, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers (1989); T.W. Greene and P.G.M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Ed., John Wiley and Sons (1999);L. Fieser and M. Fieser, Fieser and Fieser's Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1994);およびL. Paquette, ed., Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1995) ならびにそれらの続版に記載されるものが挙げられる。
【0051】
本発明によって想定される置換基および変数の組み合わせは、安定な化合物を形成させるもののみである。
【0052】
組成物
本発明はまた、有効量の式I(例えば、本明細書中の式のいずれをも含む)の化合物またはその薬学的に許容される塩;および許容される担体を含む、パイロジェンフリーの薬学的組成物を提供する。製剤の他の成分と適合性であり、かつ、薬学的に許容される担体の場合は、医薬中に典型的に使用される量でそのレシピエントに有害でないという意味で、担体は「許容」されなければならない。
【0053】
本発明の薬学的組成物中に使用され得る薬学的に許容される担体、アジュバントおよびビヒクルとしては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
必要であれば、薬学的組成物中における本発明の化合物の溶解性およびバイオアベイラビリティーは、当技術分野において周知の方法によって高められ得る。1つの方法としては、製剤中における脂質賦形剤の使用が挙げられる。“Oral Lipid-Based Formulations: Enhancing the Bioavailability of Poorly Water-Soluble Drugs (Drugs and the Pharmaceutical Sciences),” David J. Hauss, ed. Informa Healthcare, 2007;および“Role of Lipid Excipients in Modifying Oral and Parenteral Drug Delivery: Basic Principles and Biological Examples,” Kishor M. Wasan, ed. Wiley-Interscience, 2006を参照のこと。
【0055】
バイオアベイラビリティーを高める別の公知の方法は、ポロキサマー、例えば、LUTROL(商標)およびPLURONIC(商標)(BASF Corporation)、またはエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーと共に任意で製剤化される本発明の化合物のアモルファス形態の使用である。米国特許第7,014,866号;ならびに米国特許出願公開第20060094744号および第20060079502号を参照のこと。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、経口、経直腸、経鼻、局所(頬および舌下を含む)、経膣または非経口(皮下、筋内、静脈内および皮内を含む)投与に好適なものを含む。ある態様において、本明細書における式の化合物は、(例えば、経皮パッチまたはイオン導入技術を使用して)経皮投与される。他の製剤は、好都合なことに、単位投薬形態、例えば、錠剤および徐放性カプセル剤、ならびにリポソームで提供され得、薬学の技術分野において周知の任意の方法によって作製され得る。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD (20th ed. 2000)を参照のこと。
【0057】
このような作製方法は、1つまたは複数の副成分を構成する担体などの成分を、投与される分子と合わせる工程を含む。一般的に、組成物は、有効成分を、液体担体、リポソーム、もしくは微粉化固体担体、または両方と一様にかつ密接に合わせ、次いで、必要に応じて、製品を成形することによって、作製される。
【0058】
ある好ましい態様において、化合物は経口投与される。経口投与に好適な本発明の組成物は、分離した単位、例えば、各々が所定量の有効成分を含有する、カプセル剤、サシェ剤または錠剤として;散剤または顆粒剤として;水性液体または非水性液体中の液剤または懸濁剤として;水中油型液体エマルジョンまたは油中水型液体エマルジョンとして、またはリポソーム中に封入された状態で;およびボーラスなどとして提供され得る。軟ゼラチンカプセル剤が、このような懸濁剤の含有のために有用であり得、これは、化合物吸収速度を有利に増加させ得る。
【0059】
経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体としては、ラクトースおよびコーンスターチが挙げられる。滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムがまた、典型的に添加される。カプセル剤形態での経口投与について、有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥コーンスターチが挙げられる。水性懸濁剤が経口投与される場合、有効成分は、乳化剤および懸濁化剤と合わせられる。必要に応じて、ある甘味剤および/または矯味矯臭剤および/または着色剤が添加され得る。
【0060】
経口投与に好適な組成物としては、風味付けされた基剤、通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に前記成分を含むロゼンジ;ならびに、不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシア中に有効成分を含む香錠が挙げられる。
【0061】
非経口投与に好適な組成物としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および意図されるレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有し得る、水性および非水性滅菌注射液剤;ならびに、懸濁化剤および増粘剤を含み得る、水性および非水性滅菌懸濁剤が挙げられる。製剤は、単位用量または複数回用量容器中に、例えば、密封アンプルおよびバイアル中に提供され得、使用の直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件において保存され得る。即席の注射液剤および懸濁剤は、滅菌した散剤、顆粒剤および錠剤から作製され得る。
【0062】
このような注射液剤は、例えば、滅菌した注射可能な水性または油性懸濁剤の形態であり得る。この懸濁剤は、好適な分散剤または湿潤剤(例えば、Tween 80)および懸濁化剤を使用して、当技術分野において公知の技術に従って製剤化され得る。滅菌した注射可能な調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌した注射可能な液剤または懸濁剤、例えば、1,3-ブタンジオール中の液剤であり得る。使用され得る許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、マンニトール、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌固定油が、溶媒または懸濁化媒体として通常使用される。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激性の固定油が使用され得る。脂肪酸、例えば、オレイン酸およびそのグリセリド誘導体は、注射可能物の作製に有用であり、何故ならば、特にそれらのポリオキシエチル化バージョンの、オリーブ油またはヒマシ油などの、天然の薬学的に許容される油であるためである。これらの油液剤または懸濁剤はまた、長鎖アルコール希釈剤または分散剤を含有し得る。
【0063】
本発明の薬学的組成物は、経直腸投与用の坐剤の形態で投与され得る。これらの組成物は、本発明の化合物と、室温では固体であるが直腸温度では液体であり従って直腸中において融解し活性成分を放出する好適な非刺激性賦形剤とを混合することによって、作製され得る。このような材料としては、カカオバター、蜜ろうおよびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明の薬学的組成物は、経鼻エアロゾルまたは吸入によって投与され得る。このような組成物は、薬学的製剤の技術分野において周知の技術に従って作製され、ベンジルアルコールまたは他の好適な防腐剤、バイオアベイラビリティーを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または当技術分野において公知の他の可溶化剤もしくは分散剤を使用して、食塩水中の液剤として作製され得る。このような投与は、勃起障害薬で有効であることが公知である:Alexza Molecular Delivery Corporationへ譲渡された、Rabinowitz JDおよびZaffaroni AC、米国特許第6,803,031号。
【0065】
本発明の薬学的組成物の局所投与は、所望の治療が局所適用によって容易にアクセス可能な領域または器官に関係する場合、特に有用である。皮膚への局所適用について、薬学的組成物は、担体中に懸濁化または溶解された活性成分を含有する、好適な軟膏剤で製剤化されるべきである。本発明の化合物の局所投与のための担体としては、鉱油、液体石油、白色石油、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう、および水が挙げられるが、これらに限定されない。または、薬学的組成物は、担体中に懸濁化または溶解された活性化合物を含有する、好適なローションまたはクリームで製剤化され得る。好適な担体としては、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬学的組成物はまた、経直腸坐剤製剤によってまたは好適な浣腸製剤で、下部腸管へ局所的に適用され得る。局所的経皮パッチおよびイオン導入投与もまた、本発明中に含まれる。
【0066】
本治療薬の適用は、関心対象の部位で投与されるように、局所的であり得る。関心対象の部位で本組成物を提供するために、注射、カテーテル、トロカール、投射物、プルロニックゲル、ステント、持続的薬物放出ポリマー、または内部アクセスを提供する他のデバイスの使用などの、種々の技術が使用され得る。
【0067】
従って、なお別の態様によれば、本発明の化合物は、プロテーゼ、人工弁、血管グラフト、ステント、またはカテーテルなどの移植可能な医療デバイスをコーティングするための組成物中へ混合され得る。好適なコーティング、およびコーティングされた移植可能なデバイスの一般的な作製は、当技術分野において公知であり、米国特許第6,099,562号;第5,886,026号;および第5,304,121号に例示されている。コーティングは、典型的に、生体適合性ポリマー材料、例えば、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレンビニルアセテート、およびそれらの混合物である。コーティングは、組成物に制御放出特徴を与えるために、フルオロシリコーン、多糖類、ポリエチレングリコール、リン脂質またはそれらの組み合わせの好適なトップコートによって任意でさらに覆われ得る。侵襲性デバイスについてのコーティングは、それらの用語が本明細書中において使用されるように、薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルの定義内に含まれる。1つの好ましい態様において、式Iの化合物は、米国特許出願公開第US2005074497号に記載されるように、眼への送達用のヒドロゲルに処方される。
【0068】
別の態様によれば、本発明は、移植可能な医療デバイスをコーティングする方法であって、該デバイスと上述のコーティング組成物とを接触させる工程を含む方法を提供する。デバイスのコーティングが哺乳動物への移植の前に行われることが、当業者に明らかである。
【0069】
別の態様によれば、本発明は、移植可能な薬物放出デバイスを含浸する方法であって、該薬物放出デバイスと本発明の化合物または組成物とを接触させる工程を含む方法を提供する。移植可能な薬物放出デバイスとしては、生分解性ポリマーカプセルまたはブレット、非分解性拡散性ポリマーカプセル、および生分解性ポリマーウエハーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
別の態様によれば、本発明は、該化合物が治療的に活性となるように、本発明の化合物または化合物を含む組成物でコーティングされた移植可能な医療デバイスを提供する。
【0071】
別の態様によれば、本発明は、該化合物が該デバイスから放出され、治療的に活性となるように、本発明の化合物または化合物を含む組成物で含浸されたかまたはこれを含有する移植可能な薬物放出デバイスを提供する。
【0072】
器官または組織が患者からの摘出に起因してアクセス可能である場合、このような器官または組織が、本発明の組成物を含有する媒体中に浸され得るか、本発明の組成物が、器官上へ塗布され得るか、または、本発明の組成物が、任意の他の好都合な様式で適用され得る。
【0073】
別の態様において、本発明の組成物は、第2治療剤をさらに含む。第2治療剤は、免疫調節薬、抗血管新生薬または抗腫瘍薬と共に投与されると有利な特性を有することが公知であるかまたは有利な特性を示す任意の化合物または治療剤を含む。このような薬剤は、米国特許第5,635,517号、ならびにPCT特許出願公開第WO2005097125号、第WO2005055929号、第WO2004041190号、第WO2006060507号、第WO2006058008号、第WO2006053160号、第WO2005044178号、第WO2004100953号、第WO2006089150号、第WO2006036892号、第WO2006018182号、第WO2005082415号、第WO2005048942号、第WO2005042558号、第WO2005035714号および第WO2005027842号;ならびに米国特許出願公開第US2005100529号、第US2006030594号、第US2005143344号および第US2006079461号に詳細に記載されており、これらの前述のものの各々は、レナリドマイドと組合され得る第2治療剤を記載している。
【0074】
一態様において、第2治療剤は、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫;乳頭状および濾胞状甲状腺癌;前立腺癌;慢性リンパ性白血病、アミロイドーシス、複合性局所疼痛症候群I型、悪性黒色腫、神経根障害、骨髄線維症、神経膠芽腫、神経膠肉腫、悪性神経膠腫、骨髄性白血病、難治性形質細胞新生物、慢性骨髄単球性白血病、濾胞性リンパ腫、毛様体慢性黒色腫、虹彩黒色腫、再発性眼球内黒色腫、眼球外伸展黒色腫、充実性腫瘍、T細胞リンパ腫、赤血球リンパ腫、単芽球性および単球性白血病;骨髄性白血病、脳腫瘍、髄膜腫、脊髄腫瘍、甲状腺癌、マントル細胞リンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨髄線維症、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型リンパ腫、またはワルデンシュトレームマクログロブリン血症より選択される疾患または状態の治療または予防において有用な薬剤である。
【0075】
別の態様において、第2治療剤は、睡眠機能障害、ヘモグロビン異常症、貧血、黄斑変性、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、疼痛、免疫不全症、CNS損傷および関連症状、CNS障害、寄生虫症、またはアスベスト関連疾患より選択される疾患または状態の治療または予防において有用な薬剤である。
【0076】
なおより好ましくは、本発明の化合物と同時処方される第2治療剤は、骨髄異形成症候群または多発性骨髄腫の治療において有用な薬剤である。
【0077】
別の好ましい態様において、第2治療剤は、アルデスロイキン;US2006079461に開示されるようなp38 MAPキナーゼ阻害剤;WO2006036892に開示されるような24-水酸化酵素阻害剤;WO2006018182に開示されるようなアミノプテリジノン(aminopteridinone);WO2005082415に開示されるようなIGF-R阻害剤;WO2005048942に開示されるようなCOX-2阻害剤;WO2005042558に開示されるような核酸塩基オリゴマー;WO2005027842に開示されるようなクロルプロマジン化合物より選択される。
【0078】
さらに別の好ましい態様において、第2治療剤は、ペメトレキセド、トポテカン、ドキソルビシン、ボルテゾミブ、ゲムシタビン、ダカルバジン、デキサメタゾン、ビアキシン、ドキシル、ビンクリスチン、デカドロン、アザシチジン、リツキシマブ、プレドニゾン、ドセタキセル、メルファラン、またはそれらの組み合わせより選択される。
【0079】
別の態様において、本発明は、互いに結び付けられている、本発明の化合物と第2治療剤との分離した投薬形態を提供する。用語「互いに結び付けられている」は、本明細書において使用される場合、分離した投薬形態が一緒に販売および投与(互いに24時間未満内に、連続的に、または同時に)されるように意図されることが容易に明らかであるように、分離した投薬形態が、一緒にパッケージングされているかまたはそうでなければ互いに結合されていることを意味する。
【0080】
本発明の薬学的組成物中において、本発明の化合物は、有効量で存在する。本明細書において使用される場合、用語「有効量」は、適切な投薬レジメンで投与された場合、治療される障害の重篤度、持続または進行を減らすまたは改善する、治療される障害の前進を予防する、治療される障害の後退を生じさせる、または、別の療法の予防的または治療的効果を高めるまたは改善するに十分である量を指す。
【0081】
動物およびヒトについての投薬量(ミリグラム/体表面の平方メートルに基づく)の相互関係は、Freireich et al., 1966, Cancer Chemother. Rep, 50: 219に記載されている。体表面積は、患者の身長および体重から近似的に決定され得る。例えば、Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardsley, N. Y., 1970, 537を参照のこと。本発明の化合物の有効量は、約0.005 mg/kg〜約200 mg/kg、より好ましくは0.01 mg/kg〜約100 mg/kg、より好ましくは0.05 mg/kg〜約60 mg/kgの範囲にあり得る。
【0082】
有効用量はまた、当業者によって認識されるように、治療される疾患、疾患の重篤度、投与経路、患者の性別、年齢および全般的な健康状態、賦形剤使用、他の薬剤の使用などの他の治療的処置との共使用の可能性、ならびに治療する医師の判断に依存して、変化する。例えば、有効用量を選択するためのガイダンスは、レナリドマイドについての処方情報を参照することによって決定され得る。
【0083】
第2治療剤を含む薬学的組成物について、第2治療剤の有効量は、その薬剤だけを使用する単剤療法レジメにおいて通常使用される投薬量の約20%〜100%である。好ましくは、有効量は、通常の単剤療法用量の約70%〜100%である。これらの第2治療剤の通常の単剤療法投薬量は、当技術分野において周知である。例えば、Wells et al, eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)を参照のこと;これらの参考文献の各々は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0084】
上記で参照された第2治療剤のいくつかは本発明の化合物と相乗的に作用することが予想される。これが生じる場合、それによって、第2治療剤および/または本発明の化合物の有効投薬量が、単剤療法において必要とされるものよりも減すことが可能となる。これは、第2治療剤または本発明の化合物のいずれかの中毒性副作用の最小化、効能の相乗的改善、投与もしくは使用の改善された容易さ、および/または化合物作製もしくは製剤化の低下した全体的な費用という利点を有する。
【0085】
治療方法
別の態様によれば、本発明は、その必要がある患者においてレナリドマイドによって有利に治療される疾患を治療する方法であって、有効量の本発明の化合物または組成物を患者へ投与する工程を含む方法を提供する。このような疾患は、当技術分野において周知であり、米国特許第5,635,517号、ならびにPCT特許出願公開第WO2005097125号、第WO2005055929号、第WO2004041190号、第WO2006060507号、第WO2006058008号、第WO2006053160号、第WO2005044178号、第WO2004100953号、第WO2006089150号、第WO2006036892号、第WO2006018182号、第WO2005082415号、第WO2005048942号、第WO2005042558号、第WO2005035714号および第WO2005027842号;ならびに米国特許出願公開第US2005100529号、第US2006030594号、第US2005143344号および第US2006079461号に開示されている。
【0086】
1つの好ましい態様において、疾患または状態は、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫;乳頭状および濾胞状甲状腺癌;前立腺癌;慢性リンパ性白血病、アミロイドーシス、複合性局所疼痛症候群I型、悪性黒色腫、神経根障害、骨髄線維症、神経膠芽腫、神経膠肉腫、悪性神経膠腫、骨髄性白血病、難治性形質細胞新生物、慢性骨髄単球性白血病、濾胞性リンパ腫、毛様体慢性黒色腫、虹彩黒色腫、再発性眼球内黒色腫、眼球外伸展黒色腫、充実性腫瘍、T細胞リンパ腫、赤血球リンパ腫、単芽球性および単球性白血病;骨髄性白血病、脳腫瘍、髄膜腫、脊髄腫瘍、甲状腺癌、マントル細胞リンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨髄線維症、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型リンパ腫、またはワルデンシュトレームマクログロブリン血症より選択される。
【0087】
別の態様において、疾患は、骨髄異形成症候群または多発性骨髄腫より選択される。
【0088】
このような治療の必要がある患者を確認することは、患者または医療専門家の判断内にあり得、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、テストまたは診断法によって測定可能)であり得る。
【0089】
別の態様において、上記の治療方法は、1つまたは複数の第2治療剤を患者へ共投与する工程をさらに含む。第2治療剤は、レナリドマイドとの共投与について有用であることが公知である任意の第2治療剤より選択され得る。第2治療剤の選択はまた、治療される特定の疾患または状態に依存する。本発明の方法において使用され得る第2治療剤の例は、本発明の化合物と第2治療剤とを含む組み合わせ組成物中における使用について上述したものである。
【0090】
一態様において、第2治療剤、および第2治療剤が本発明の化合物と共投与される対応の疾患を、下記の表1に記載する。
【0091】
(表1)様々な疾患または状態についての第2治療剤

【0092】
用語「共投与される」は、本明細書において使用される場合、第2治療剤が、単一の投薬形態(例えば、本発明の化合物と上述の第2治療剤とを含む本発明の組成物)の一部としてまたは分離した複数の投薬形態として、本発明の化合物と一緒に投与され得ることを意味する。あるいは、追加の薬剤は、本発明の化合物の投与前、同時、または後に投与され得る。このような併用療法治療において、本発明の化合物および第2治療剤の両方は、通常の方法によって投与される。患者への、本発明の化合物と第2治療剤との両方を含む本発明の組成物の投与は、治療過程の間の別の時点での該患者への、同一の治療剤、任意の他の第2治療剤、または任意の本発明の化合物の別の投与を排除しない。
【0093】
これらの第2治療剤の有効量は、当業者に周知であり、投薬についてのガイダンスは、本明細書において参照される特許および公開特許出願において、ならびにWells et al, eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)、および他の医学書において見られ得る。しかし、第2治療剤の最適な有効量範囲を決定することは、十分に当業者の権限内にある。
【0094】
第2治療剤が患者へ投与される、本発明の一態様において、本発明の化合物の有効量は、第2治療剤が投与されない場合のその有効量よりも少ない。別の態様において、第2治療剤の有効量は、本発明の化合物が投与されない場合のその有効量よりも少ない。このようにして、高用量のいずれかの薬剤に関連する望ましくない副作用が、最小化され得る。他の可能性のある利点(非限定的に、投薬レジメンの改善および/または薬剤費の低下を含む)は、当業者に明らかである。
【0095】
なお別の局面において、本発明は、上述の疾患、障害または症状の患者における治療または予防用の、単一組成物としてのまたは分離した投薬形態としての、医薬の製造における、式Iの化合物単独の、または1つまたは複数の上述の第2治療剤と一緒の使用を提供する。
【0096】
本発明の別の局面は、本明細書に記載される疾患、障害またはその症状の患者における治療または予防における使用のための式Iの化合物である。
【実施例】
【0097】
実施例
実施例1.(S)-3-(アミノ-d2)(ピペリジン-1,3,4,4,5,5-d6)-2,6-ジオン塩化重水素塩(24)の合成
中間体24を下記のスキーム3に概説されるように作製した。合成の詳細が続く。
【0098】
スキーム3.中間体24の作製

【0099】
(S)-5-アミノ-(2-ベンジルオキシカルボニルアミノ)-5-オキソ-(2,3,3,4,4-d5)ペンタン酸(22)の合成
酸化ジュウテリウム(Cambridge Isotopes、99原子%D、2.5 mL)を、テトラヒドロフラン(150 mL)中のL-グルタミン-2,3,3,4,4-d5 20(CDN Isotopes、99.2原子%D、2.58 g、17.09 mmol、1.0当量)の懸濁液へ添加し、懸濁液を0.25時間(h)撹拌した。N-(ベンジルオキシカルボニルオキシ)スクシンイミド21(8.93 g、35.88 mmol、2.1当量)を一度に添加し、得られた混合物を室温で42時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮し、テトラヒドロフランの大部分を除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30 mL)を、残りの油状固体へ添加した。混合物を水(10 mL)で希釈し、酢酸エチル(50 mL)で洗浄した。有機相を捨てた。水相を濃塩酸および氷の混合物でpH 1〜2へ酸性化した。混合物を酢酸エチル(5×50 mL)で抽出した。合わせた有機相を鹹水(50 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、ゲル様残渣を得た。残渣をメタノール(30 mL)に溶解し、溶液をトルエン(30 mL)で希釈し、混合物を減圧下で濃縮した。残渣をメタノール(30 mL)に再溶解し、得られた溶液をトルエン(30 mL)で希釈し、次いで濃縮前に接種した。混合物を室温にて減圧下で濃縮し、白色固体が得られた。固体を1:1トルエン/ヘプタン(60 mL)に懸濁し、減圧下で濃縮した。得られた白色固体を、高真空下で1.75時間乾燥し、22が3.80 g(78%)得られた。
【0100】
(S)-ベンジル2,6-ジオキソ(ピペリジン-3,4,4,5,5-d5)-3-イルカルバメート(23)の合成
テトラヒドロフラン(75 mL)中の22(3.27 g、11.47 mmol、1.0当量)およびN,N'-カルボニルジイミダゾール「CDI」(3.60 g、13.72 mmol、1.2当量)の混合物を、8.5時間、加熱還流した。透明溶液が約0.75時間後に形成し、黄色が、反応の間に徐々に現れた。反応混合物を室温へ冷却し、一晩撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、テトラヒドロフランの大部分を除去し、残りの黄色オイルを酢酸エチル(150 mL)および1N塩酸(100 mL)に分配した。有機相を鹹水(75 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、無色オイルが得られ、これは徐々に結晶化した。25−67%酢酸エチル/ヘプタンの勾配で溶出するAnalogix自動クロマトグラフィーシステムにおいて、粗生成物を精製した。生成物含有フラクションを減圧下で濃縮し、白色固体として23が2.41 g(79%)得られた。
【0101】
(S)-3-(アミノ-d2)(ピペリジン-1,3,4,4,5,5-d6)-2,6-ジオン、塩化重水素塩(24)の合成
23およびメタノール-d1(Cambridge Isotopes、99原子%D、10 mL)の混合物を、全ての固体が溶解するまで加温し、次いで、室温へ冷却し、減圧下で濃縮した。残りの固体を、メタノール-d1(10 mL)およびテトラヒドロフラン(10 mL)の混合物に再溶解し、10% Pd-C(50 mg)を添加した。混合物を、35〜40 psi水素圧で、2.75時間、水素化へ供した。混合物をセライトのパッドで濾過し、これをメタノール-d1(40 mL)で洗浄した。酸化ジュウテリウム(Aldrich、99.5原子%D、0.75 mL)中の35%塩化重水素塩の溶液を、合わせた濾液へ添加した。数分後、少量の白色固体が形成された。次いで、混合物を減圧下で濃縮し、湿った固体が得られた。湿った固体を、減圧下でトルエン(4×25 mL)と共に濃縮することによって、共沸乾燥した。得られた白色固体を、高真空下にて室温で1.5時間さらに乾燥し、24が0.58 g(103%)得られた。
【0102】
実施例2.メチル2-(ブロモメチル-d2)-3-ニトロベンゾアート(27)の合成
中間体27を下記のスキーム4に概説されるように作製した。合成の詳細は以下の通りである。
【0103】
スキーム4.中間体27の作製

【0104】
メチル2-(メチル-d3)-3-ニトロベンゾアート(26)の合成
ナトリウム(0.27 g、11.7 mmol、11.7 mol%)を、メタノール-d1(Aldrich、99.5原子%D、250 mL)に溶解した。メチル2-メチル-3-ニトロベンゾアート25(19.5 g、100 mmol)を添加し、混合物を25時間加熱還流した。反応混合物のアリコートを取り出し、窒素流下で濃縮した。残りの固体の1H NMRは、2-メチル基での約88%重水素組み込みを示した。混合物をさらに18時間加熱還流した。アリコートの1H NMRは、約92%重水素組み込みを示した。混合物を室温へ冷却し、減圧下で濃縮し、褐色固体が得られた。この固体を前のバッチ由来の物質約1.6 g(約95%D)と合わせ、全ての固体を新たなメタノール-d1(200 mL)に溶解した。メタノール-d1(15 mL)中のナトリウム(0.27 g、11.7 mmol)の溶液を添加し、混合物を24時間加熱還流した。アリコートの1H NMRは、約99%重水素組み込みを示した。混合物を室温へ冷却し、減圧下で濃縮し、褐色固体が得られた。固体をメチルtert-ブチルエーテル(600 mL)に溶解し、溶液を水(100 mL)で洗浄した。有機相を分離し、水(200 mL)、鹹水(100 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、オフ白色固体として26が19.3 g(合わせた収率88%)得られた。
【0105】
メチル2-(ブロモメチル-d2)-3-ニトロベンゾアート(27)の合成
過酸化ベンゾイル(25%水)(1.6 g、4.5 mmol、5 mol%)を、四塩化炭素(350 mL)中の26(17.8 g、90 mmol、1.0当量)およびN-ブロモスクシンイミド(17.8 g、99 mmol、1.1当量)の懸濁液へ添加した。反応混合物を22.5時間加熱還流し、次いで室温へ冷却した。N-ブロモスクシンイミド(5.3 g、30 mmol、0.33当量)および過酸化ベンゾイル(25%水)(0.5 g)を添加し、反応混合物を8時間加熱還流し、室温へ冷却し、一晩撹拌した。黄色有機懸濁液を飽和チオ硫酸ナトリウム溶液(250 mL)、水(200 mL)、鹹水(200 mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、部分的に結晶化した粗生成物が27.9 g得られた。粗生成物を、最少量のジクロロメタンに溶解し、シリカゲルへ吸着させた。吸着された物質を、ヘプタン中にパッキングされたシリカゲル(400 g)のカラム上へ乾燥充填した。カラムをヘプタン(2 L)、5%メチルtert-ブチルエーテル/ヘプタン(2 L)、10%メチルtert-ブチルエーテル/ヘプタン(2 L)および20%メチルtert-ブチルエーテル/ヘプタン(3.5 L)で溶出した。生成物含有フラクションを減圧下で濃縮し、得られた固体をヘキサン(約100 mL)で粉砕し、濾過し、乾燥し、淡黄色固体として27が20.2 g(81%)得られた。
【0106】
実施例3.3-(4-アミノ-1-オキソ-2,2-d2-イソインドリン-2-イル)(ピペリジン-3,4,4,5,5-d5)-2,6-ジオン(104)の合成
化合物104を下記のスキーム5に概説されるように作製した。合成の詳細を下記に示す。
【0107】
スキーム5.化合物104の作製

【0108】
3-(4-ニトロ-1-オキソ-3,3-d2-イソインドリン-2-イル)(ピペリジン-3,4,4,5,5-d5)-2,6-ジオン(28)の合成。トリエチルアミン(1.05 g、1.45 mL、10.4 mmol、2.1当量)を、無水N,N-ジメチルアセトアミド(15 mL)中の24(0.86 g、4.97 mmol、1.0当量)および27(1.37 g、4.37 mmol、1.0当量)の撹拌懸濁液へ注射器によって滴下した。反応混合物を約85℃へ1.5時間加熱した。反応混合物は加熱で暗青色になり、懸濁液が再形成された。反応混合物をrtへ冷却し、酸化ジュウテリウム(Cambridge Isotopes、99原子%D、10 mL)を反応混合物へ徐々に添加した。混合物を10分間撹拌し、次いで、固体を濾過し、酸化ジュウテリウム(20 mL)次いでメタノール-d1(Cambridge Isotopes、99原子%D、20 mL)で洗浄し、乾燥し、淡灰色固体として28が1.01 g得られた。1H NMRによって、28は、ピペリジンジオン環の3位にHを約7〜8%およびイソインドリノン環の3位にHを約6〜7%含有することが示された。次いで、粗生成物28の一部(500 mg)をアセトニトリル(40 mL)中に懸濁し、酸化ジュウテリウム(Cambridge Isotopes、99.8原子%D、4 mL)、続いてトリエチルアミン(0.23 mL、1.68mmol)を添加した。懸濁液を8時間加熱還流し、rtへ冷却し、一晩撹拌した。固体を濾過し、アセトニトリル(5 mL)で洗浄し、乾燥し、オフ白色固体が371 mg得られた。1H NMRによって、回収した28は、ピペリジンジオン環の3位にHを約3%およびイソインドリノン環の3位にHを約2%含有することが示された。
【0109】
3-(4-アミノ-1-オキソ-3,3-d2-イソインドリン-2-イル)(ピペリジン-3,4,4,5,5-d5)-2,6-ジオン(104)の合成。約10 mgの10%炭素担持パラジウム(酸化ジュウテリウムで約50%湿潤)を、メタノール-d1(Cambridge Isotopes、99原子%D、350 mL)中の28(350 mg)の懸濁液へ添加し、混合物を重水素ガス(約50 psi)の雰囲気へ5時間供した。混合物をセライトのパッドで濾過し、パッドをメタノール-d1(100 mL)で洗浄した。濾液を減圧下で濃縮し、いくらかのゴム状物質が存在する白色固体が得られた。粗生成物を熱酢酸エチル(約20 mL)で粉砕し、加温しながら濾過し、薄い黄褐色の固体として104が261 mg得られた。

HPLC(方法:Zorbax 4.6x50 mm SB-Aq 3.5μmカラム − 勾配法 ESIポジティブモードにてMSDで6.0分にわたって2-98%ACN+0.1%ギ酸;0.63 mL/分;波長:254 nm):保持時間:3.99分;98.6%純度;MS (M+H): 267.0。
【0110】
実施例4.化合物104のキラル分離
化合物104のエナンチオマーを、下記に記載のようにキラルクロマトグラフィーによって分離した。

【0111】
HPLC機器中への注入のための104のバッチ(25 mg/バッチ)を、音波処理によってメタノール-D(Cambridge Isotopes、99原子%D、15〜17 mL/バッチ)に溶解した。1注入当たり104溶液約1400μLで、Daicel ChiralPak ADカラム(20×250 mm、10μm)において、36回の注入にて、分離を行った。下記表2に示すイソプロパノール/ヘキサン溶媒系で、各ランを溶出した。
【0112】
(表2)キラルHPLC分離のための溶媒系

【0113】
第1溶出エナンチオマーを含有するフラクションをプールし、濃縮し、オフ白色固体として34.2 mgが得られた。キラルHPLC分析によって、第1溶出エナンチオマーは>99% eeであることが示された。HPLC分析によって、サンプルは95.8%純粋であることが示された。1H NMRによって、第1溶出エナンチオマーは、ピペリジンジオン環の3位にHを約2%およびイソインドリノン環の3位にHを約2%含有することが示された。

HPLC(方法:Zorbax 4.6x50 mm SB-Aq 3.5μmカラム − 勾配法 ESIポジティブモードにてMSDで6.0分にわたって2-98%ACN+0.1%ギ酸;0.63 mL/分;波長:254 nm):保持時間:3.91分;95.8%純度;キラルHPLC(方法:Chiralpak AD 25 cmカラム − 無勾配法 50%ヘキサン/50%イソプロパノール、45分間、0.600 mL/分で;波長:210 nm):保持時間:12.08分;>99%ee。MS (M+H): 267.3。
【0114】
第2溶出エナンチオマーを含有するフラクションをプールし、濃縮し、淡黄褐色固体として29.1 mgが得られた。キラルHPLC分析によって、第2溶出エナンチオマーは>99% eeであることが示された。HPLC分析によって、サンプルは>99%純粋であることが示された。1H NMRによって、第2溶出エナンチオマーは、ピペリジンジオン環の3位にHを約2%およびイソインドリノン環の3位にHを約2%含有することが示された。

HPLC(方法:Zorbax 4.6x50 mm SB-Aq 3.5μmカラム− 勾配法 ESIポジティブモードにてMSDで6.0分にわたって2-98%ACN+0.1%ギ酸;0.63 mL/分;波長:254 nm):保持時間:3.91分;99.6%純度;キラルHPLC(方法:Chiralpak AD 25 cmカラム − 無勾配法50%ヘキサン/50%イソプロパノール、45分間、0.600 mL/分で;波長:210 nm):保持時間:14.75分;99.3%ee。MS (M+H): 267.3。
【0115】
さらに説明はしないが、当業者は、前述の説明および例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を製造および使用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。前述の議論および実施例は、ある好ましい態様の詳細な説明を示すにすぎないことが理解されるべきである。本発明の精神および範囲を逸脱することなく、種々の改変物および等価物が作製され得ることが、当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:

またはその薬学的に許容される塩:
式中、
各Wは、水素または重水素より独立して選択され;
各Yは、水素または重水素より独立して選択され;
各Zは、水素または重水素より独立して選択され;かつ
少なくとも1つのW、1つのY、または1つのZが重水素である。
【請求項2】
Z5が重水素である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
W1、W2およびW3が同一である、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
W1、W2およびW3が同時に水素である、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
Z1、Z2、Z3およびZ4が同一である、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Z1、Z2、Z3、Z4およびZ5が同時に重水素である、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
各Yが同時に重水素である、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
化合物が、



およびその薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1記載の化合物。
【請求項9】
重水素と指定されていない原子が、その天然同位体存在度で存在する、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
式IaまたはIbの化合物:

またはその薬学的に許容される塩である、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
化合物が、

およびその薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
請求項1記載の化合物、および薬学的に許容される担体を含む、パイロジェンフリーの薬学的組成物。
【請求項13】
ペメトレキセド、トポテカン、ドキソルビシン、ボルテゾミブ、ゲムシタビン、ダカルバジン、デキサメタゾン、ビアキシン、ドキシル、ビンクリスチン、デカドロン、アザシチジン、リツキシマブ、プレドニゾン、ドセタキセル、メルファラン、およびそれらの組み合わせより選択される第2治療剤をさらに含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
患者における、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫;乳頭状および濾胞状甲状腺癌;前立腺癌;慢性リンパ性白血病、アミロイドーシス、複合性局所疼痛症候群I型、悪性黒色腫、神経根障害、骨髄線維症、神経膠芽腫、神経膠肉腫、悪性神経膠腫、骨髄性白血病、難治性形質細胞新生物、慢性骨髄単球性白血病、濾胞性リンパ腫、毛様体慢性黒色腫、虹彩黒色腫、再発性眼球内黒色腫(recurrent interocular melanoma)、眼球外伸展黒色腫(extraocular extension melanoma)、充実性腫瘍、T細胞リンパ腫、赤血球リンパ腫(erythroid lymphoma)、単芽球性および単球性白血病;骨髄性白血病、脳腫瘍、髄膜腫、脊髄腫瘍、甲状腺癌、マントル細胞リンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨髄線維症、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、大細胞型リンパ腫、またはワルデンシュトレームマクログロブリン血症より選択される疾患または状態を治療する方法であって、請求項12記載の組成物をその治療の必要がある該患者へ投与する工程を含む、前記方法。
【請求項15】
疾患が、骨髄異形成症候群または多発性骨髄腫より選択される、請求項14記載の方法。

【公表番号】特表2012−508738(P2012−508738A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536328(P2011−536328)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/006105
【国際公開番号】WO2010/056344
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(509049012)コンサート ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】