説明

置換ジフェニルメタン酸誘導体を含有する医薬組成物

【課題】
本発明は、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防のための医薬の提供、並びに、該医薬を使用した治療及び/又は予防方法の提供を目的とする。
【解決手段】
一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。


[式中、XおよびYは同一または相異なって炭素数1から6の直鎖または枝分かれ状のアルキル基、またはXとYが連結して構成される炭素数3から8の環状炭化水素を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化疾患の予防、又は治療をするための医薬組成物又は医薬、並びに、線維化疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の線維化は、炎症などによって損傷を受けた組織が治癒する過程において、組織修復が異常に誘導される結果引き起こされる。このような組織の線維化は、様々な臓器において生じる可能性があり、線維化の結果、さらなる重篤な疾患が発症する危険性を有している。主な線維化疾患としては、心筋線維化、肺線維症、肝硬変、糸球体硬化症、全身性強皮症、全身性硬化症、皮膚瘢痕化などが知られている。線維化疾患患者は、国内で数十万人にのぼるが、未だ有効な治療法は存在せず、組織の線維化は、重要な薬剤開発課題として早急に解決されるべき対象となっている。線維化疾患の主要原因は、TGFβ/Smad経路の異常亢進であると考えられている。TGFβが細胞膜上のレセプターに結合すると、細胞内セカンドメッセンジャーであるSmad2/3がリン酸化され、さらに、Smad4と複合体を形成した、核内へと移行する。リン酸化されたSmad複合体は、転写補助因子として核内において機能し、標的遺伝子(例えば、I型コラーゲン遺伝子、平滑筋アクチン遺伝子、フィブロネクチン遺伝子など)の転写を介して細胞外マトリクス産生を促進する。従って、組織の線維化疾患の治療方法として、異常亢進したTGFβ/Smad経路をTGFβ阻害剤等により抑制することが考えられている。
【0003】
TGFβの阻害剤として、例えば、アンチセンス核酸(AP−12009、AP−11014)(特許文献1)、抗TGFβレセプター抗体(Lerdelimumab、Metelimumab、GC−1008)などが報告されており、さらに、線維症の治療剤として、受容体キナーゼ阻害剤、TGFβ活性化阻害ペプチド(特許文献2)、線維化抑制剤(特許文献3)、シンナモイル化合物(例えば、特許文献4、5)、含複素環化合物(特許文献6)、シクロプロパンカルボン酸アミド化合物(特許文献7)などが報告されている。
【0004】
TGFβ阻害剤に対しては、線維症に関する治療効果が期待される反面、TGFβの下流の経路を全て抑制してしまうため、副作用の危険性が指摘されている。そこで、TGFβよりも下流で、線維化関連遺伝子を直接転写活性化するSmadの活性を阻害することによって、線維症の治療ができないか検討が行われつつある。例えば、核内受容体がリガンド依存的にSmadを分解することに着目し、エストロゲン受容体リガンド、グルココルチコイド受容体リガンド、ビタミンD受容体リガンド、プロゲステロン受容体リガンド、レチノイン酸受容体リガンド等により、Smadのユビキチン化及び分解を誘導する方法が開示された(特許文献8)。TGFβの下流で機能するSmadを直接の標的とするため、TGFβ刺激入力から線維症に関与する経路以外への情報伝達経路によって誘導される副作用の抑制が期待されるが、こうした核内受容体のリガンドを利用する場合には、Smadへの関与以外の、本来、該リガンドが有する生理的機能に起因した副次的作用が生じ得るため、Smad活性を阻害する全ての核内受容体リガンドが線維症の治療に利用できるとは限らない点において、依然として未解決の問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO02005/084712号
【特許文献2】特開2008−247900
【特許文献3】特許第3700854号
【特許文献4】特開2006−104062
【特許文献5】特開2006−273847
【特許文献6】特開2007−308441
【特許文献7】特開2004− 35475
【特許文献8】特開2008−174463
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Luz E.他 「日経サイエンス」438号 p68−76 日本経済新聞出版社 2008年
【非特許文献2】Xiaoyue Tan他 J.Am Soc Nephrol 17:3382−3393 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み、Smadの活性を阻害し、且つ自身の有する生理的機能による副作用の生じにくい化合物の探索につき鋭意研究を行った結果、核内受容体の一種であるビタミンD受容体(VitaminD Receptor:VDR、以下VDRとする)のアゴニストとして同定された置換ジフェニルメタン酸誘導体の、VDRアゴニスト活性に対する相対的なTGFβ転写活性の抑制作用が、他のVDRアゴニスト(例えば、活性型ビタミンD3(1,25ジヒドロキシビタミンD3など)に比べて強いことを見出し、本発明を完成させた。
従って、本発明は、VDRアゴニスト活性に比べて相対的に高いTGFβ抑制活性を示す化合物を含有する、線維化抑制のための医薬又は医薬組成物の提供を目的とする。
また、該医薬又は医薬組成物を用いた組織の線維化の抑制及び/又は予防方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
VDRは、核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性の転写因子であり、標的遺伝子の転写をリガンド依存的に誘導する。すなわち、VDRは細胞質または核内にあり、リガンドがVDRに結合すると、VDRは標的遺伝子のプロモーター領域に存在するビタミンD応答配列(VitaminD responsive element:VDRE)に結合し、標的遺伝子の転写が誘導される。VDRはこうした標的遺伝子の転写誘導を通じて、体内カルシウムの調節や骨代謝の制御に関与し、丈夫で健康な骨を作る働きを担っている。これに加えてVDRは発ガン抑制や、免疫系の制御にも影響を与えている(非特許文献1)。かかる生理的機能により、VDRアゴニストに対し、血中カルシウム濃度の上昇作用を利用して、低カルシウム血症や副甲状腺機能低下症に対する治療薬等の用途が期待されている。その反面、既存のアゴニストの中には、その強力なアゴニスト活性に基づく副作用(例えば、高カルシウム血症、肝機能障害、腎臓障害など)を誘発する可能性も示唆されている。
【0009】
上記の生理的機能以外に、VDRアゴニストはTGFβ受容体を介した情報伝達経路を抑制することで、閉塞性ネフロパシーにおける間質性線維症を軽減することが報告されている(非特許文献2)。これを踏まえて本発明者らは、VDRアゴニスト依存的にSmadの分解が活性化されることに着目し、副作用を誘発する恐れのあるVDRアゴニスト活性に比して相対的に高いSmad分解能を介したTGFβ情報伝達系の抑制活性を示す化合物を見出すことを目的として研究を進めた結果、一般式(1)に示す化合物が、VDRアゴニスト活性に相対して高いTGFβ転写抑制活性を示すことを見出した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。
一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物である。
【化1】


[式中、XおよびYは同一または相異なって炭素数1から6の直鎖または枝分かれ状のアルキル基、またはXとYが連結して構成される炭素数3から8の環状炭化水素を表す。]
また、本発明は上記医薬を用いた組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、線維症、及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防に極めて有効であり、かつ、副作用が少ない医薬の提供が可能となる。
【0011】
また、本発明により、線維症、及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防において極めて有効であり、かつ、副作用が少ない方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般式(1)において、X及びYは同一又は相異なって炭素数1から6の直鎖及び枝分かれ状のアルキル基、又はXとYが連結して構成される炭素数3から8の環状炭化水素を表し、これらのうち、特に、メチル基が好ましい。
【0013】
一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体の薬剤上許容される塩は特に限定されるものではなく、慣用の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等の金属塩が挙げられる。
一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体には、光学異性体が含まれるが、そのような光学異性体及びそれらの混合物はすべて本発明の範囲内に含まれるものである。
【0014】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【化2】


すなわち、一般式(1)で示される化合物
【化3】


[式中、X及びYは同一又は相異なって炭素数1から6の直鎖または枝分かれ状のアルキル基、又はXとYが連結して構成される炭素数3から8の環状炭化水素を表す。]は
フェノールとX−CO−Yで示されるケトンとをメタンスルホン酸中で反応させ、得られたビスフェノール誘導体に対し、1−クロロピナコロンを反応させフェノール性水酸基の一方をアルキル化し、もう一方の水酸基を光学活性グルシドールでアルキル化したあとカルボニル基を還元し、得られたジアステレオマー混合物を、キラルカラムを用いたHPLCにて各エナンチオマーに分離することにより合成することができる。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(1)で表される置換フェニルプロピオン酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防のための医薬又は医薬組成物が提供される。本発明において、「線維化」の対象となる組織は、特定に限定されるものではなく、臨床上「線維化」として認められる現象が生じている組織であれば、全ての組織が本発明の対象となる。限定はしないが、あえて例を挙げるとすれば、血管、心臓組織、肺の組織、腎組織、皮膚組織、肝臓の組織などが典型的な「線維化」の対象となる組織である。また、組織の線維化によって引き起こされる疾患についても、組織の線維化に起因することが臨床上認められ、該組織化を抑制又は阻止することで当該疾患が治癒せしめることができる疾患の全てが、本発明の対象となる疾患に含まれる。あえて例を挙げるとすれば、動脈硬化、心筋梗塞、肺線維症、腎糸球体硬化症、間質性腎炎、糖尿病性腎症、全身性強皮症、全身性硬化症、皮膚瘢痕化などがある。
【0016】
本発明の医薬の有効成分としては、上記一般式(1)で表される化合物のほか、生理学的に許容されるその塩を用いてもよい。塩としては、例えば、酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ− ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。塩基性基が存在する場合には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などを挙げることができる。
さらに、本発明の医薬の有効成分として、一般式(1)で表される化合物又はその塩の溶媒和物若しくは水和物を用いることもできる。
【0017】
本発明の医薬は、有効成分である一般式(1)で表される化合物及び薬理学的に許容されるその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物自体を投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記物質と1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態で投与することが望ましい。本発明の医薬の有効成分としては、上記の物質の2種以上を組み合わせて用いることができ、上記医薬組成物には、組織の線維症又は線維症によって引き起こされる疾患に対する他の既知の有効成分を配合することも可能である。
【0018】
医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。また、高分子などで被覆した徐放製剤を脳内に直接投与することも可能である。
【0019】
医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、或いは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0020】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0021】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのp H 調整剤、塩化ナトリウム、ぶどう糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80 、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0022】
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0023】
皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とする。
【0024】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、或いは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0025】
本発明の医薬は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0026】
本発明の医薬は、医薬組成物としてキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0027】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0028】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、或いは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0029】
さらに、本発明には、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患が発症又はこれに罹患した哺乳動物の該線維化又は該疾患に対する治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患に罹患した哺乳動物において、該線維化又は該疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって該線維化又は該疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
また、「予防」とは、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患に罹患するおそれがある哺乳動物について、該線維化又は該疾患の発症又は罹患を予め阻止することを意味し、これによって該線維化又は該疾患の諸症状等の発症を予め阻止することを目的とする予防的処置の意味として使用される。
【0030】
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【実施例】
【0031】
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【0032】
本実施例においては、以下のスキームにより、置換時フェニルメタン酸誘導体の4つの光学活性体を製造した。
【化4】

【0033】
(S,R)体
【化5】


HRMS(FAB,M+)calcd for C2842,458.3032,
found 458.3031.
HPLC:Chiralpak AD−H(4.6 X 250 mm),
IPA/hexane=1:3,0.50mL/min,t =14.8 min.
【0034】
(S,S)体
【化6】


HRMS(FAB,M+)calcd for C2842,458.3032,
found 458.3042.
HPLC:Chiralpak AD−H(4.6 X 250 mm),
IPA/hexane=1:3,0.50mL/min,t=16.2min.
【0035】
(R,S)体
【化7】


HRMS(FAB,M+)calcd for C2842,458.3032,
found 458.3042.
HPLC:Chiralpak AD−H (4.6 X 250 mm),
IPA/hexane=1:3,0.50mL/min,t=10.4min.
【0036】
(R,R)体
【化8】


HRMS(FAB,M+)calcd for C2842,458.3032,
found 458.3025.
HPLC:Chiralpak AD−H (4.6 X 250 mm),
IPA/hexane=1:3,0.50mL/min,t=9.5 min.
【0037】
〔実験例1〕VDR活性及び TGFβ抑制活性の評価
上記の合成化合物のうち、(S,R)体及び(S,S)体について、インビトロにおけるVDR比活性及びTGFβ抑制比活性を定法により測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】


ロシグリタゾン、並びに、本発明の置換ジフェニルメタン酸誘導体のうち、(S,R)体と(S,S)体のVDR比活性及びTGF−β抑制比活性を測定し、前者に対する後者の比を有効性比率として表1に示す。この結果から、(S,R)体、(S,S)体共に、ロシグリタゾンよりも高い有効性比率を示し、VDR活性に起因する副次的作用が少ないことが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、組織の線維化及び線維化によって発症する各種疾患を治療するための薬剤又は医薬を提供するもので、その利用価値が高く、また、さらなる高い効果を示す化合物及びそれを含有する医薬の開発に大きく貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される置換ジフェニルメタン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。
【化1】


[式中、XおよびYは同一または相異なって炭素数1から6の直鎖または枝分かれ状のアルキル基、またはXとYが連結して構成される炭素数3から8の環状炭化水素を表す。]
【請求項2】
前記X及びYがメチル基である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記置換ジフェニルメタン酸誘導体が下記の光学異性体のいずれかであり、これらの1又はその組合せを有効成分として含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【化9】


【公開番号】特開2010−208997(P2010−208997A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57265(P2009−57265)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省科学技術試験研究委託事業「核内レセプターの新規機能解析と構造情報に基づいた線維化疾患治療法の開発」、産業技術強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】