説明

置換デカリン−6−オール−1−オン誘導体の製造方法

【課題】置換デカリン−6−オール−1−オン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】式(I)(式中、R、R、R、Rは互いに独立して、水素、C〜Cアルキル、またはアリールである)の化合物の製造方法であって、式(II)(式中、R、R、R、Rは上記の意味を有する)の化合物を、1〜50重量%の式(II)の化合物の溶液中、触媒の存在下で環化させ、これによって生成する反応混合物を場合により蒸留によって処理することを特徴とする方法を記述する。農薬、薬理活性成分、香料および芳香物質、香味剤、化粧品、ならびにポリマーの製造におけるこれらの使用も同様に特許請求する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下で、特定の濃度で存在する前駆体を環化させることによる置換デカリン−6−オール−1−オン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デカリン−6−オール−1−オン誘導体は、農薬、薬理活性成分、または化粧品分野での活性成分を製造するための有用な出発物質である。
【0003】
置換デカリン誘導体の合成は、多様な反応によるものが文献に記載されている。ディールス−アルダー(Diels−Alder)反応は、様々なデカリン誘導体の合成を可能にする。しかしながら、ディールス−アルダーは、10位が置換されているデカリン誘導体の合成に対して、満足のいく、工業的に適用できる解決策を全く提供しない。6−メトキシ−1−テトラロールのバーチ(Birch)還元、引き続くオッペンナウアー(Oppenhauer)酸化によりエノールエーテルケトンが生成し、これを、ジメチルリチウムキュプレートとの反応によって10−メチルデカリン誘導体に変換することができる。この合成ルートは、段階の数が多く、中間体のクロマトグラフィー精製が必要であるという欠点を有する。さらに、バーチ還元を実施するときに、液体アンモニア中の化学量論量のナトリウム溶液を使用しなければならず、これは工業的に実用的ではない。
【0004】
さらに、置換デカリンが、高度に希釈した溶液中、過剰の過塩素酸の存在下でのカチオン環化によっても得られることは(非特許文献1)から公知である。工業的規模では、大量の過塩素酸の取り扱いは、高い安全性リスクとの関連で回避するべきである。反応溶液の高希釈は、(非特許文献2)に記載されているように、分子内閉環にとって非常に重要である。しかし、かかる反応手順は、空時収率が大きく低下し、かつ、大量の溶媒の使用を必要とするためプロセスが非実用的になるので、大規模な工業的プロセスには非常に不利である。反応混合物のカラムクロマトグラフィー処理(work-up)が必要であることが、この方法の大規模な工業的使用の決定的な妨げとなっている。
【非特許文献1】Tetrahedron Letters 1977、38、3321頁
【非特許文献2】K.ピーター(K.Peter)、C.ボルハルト(C.Vollhardt)、ネイル E.ショア(Neil E.Schore)、「有機化学(Organische Chemie[Organic Chemistry])」、第4版、バインハイム(Weinheim)、Wiley−VCH Verlag社、2005年、56〜57頁および403頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デカリン誘導体は極めて重要であるため、上述した欠点を回避する製造方法の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(I):
【0007】
【化1】

(式中、R、R、R、Rは互いに独立して、水素、C〜Cアルキル、またはアリールである)
の化合物の製造方法であって、式(II):
【0008】
【化2】

(式中、R、R、R、Rは上記の意味を有する)
の化合物を、1.0〜50重量%の式(II)の化合物を含む溶液中で触媒の存在下に環化させ、これによって生成する反応混合物を場合により蒸留によって処理することを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
、R、R、RのためのアルキルとしてC〜Cアルキルが、あるいは、R、R、R、Rがアリールである場合フェニルもしくはアリールが好適である。
【0010】
特に好ましくは、R、R、Rは水素であり、Rはメチルである。
【0011】
本発明による方法は、触媒の存在下で実施する。触媒は、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸、および共役ブレンステッド−ルイス酸である。好ましいブレンステッド酸は、ハメット(Hammett)酸性度関数が−12未満、好ましくは−12〜−20、特に好ましくは−12〜−15、非常に特に好ましくは−12〜−13である化合物、イオンまたは基である。挙げることができる例は、過塩素酸、ハロスルホン酸(特に、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸など)、パーフルオロアルカンスルホン酸(特に、トリフルオロメタンスルホン酸など)である。
【0012】
好ましいルイス酸は、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、アンチモン、スズ、タンタル、チタン、亜鉛、ニオブ、および他の遷移金属のハロゲン化物、好ましくはフッ化物または塩化物である。これらの化合物は、本明細書において、例えばこれらのエーテル、アルコールもしくはアミン付加体として、またはその他相当するハロゲン化水素酸(halohydric acid)との付加体としての、錯体を形成した形態でも使用することができる。
【0013】
好ましい共役ブレンステッド−ルイス酸は、その酸性度がルイス酸との組み合わせによって高められるプロトン性強酸である。挙げることができる例は、含酸素ブレンステッド酸(例えば、硫酸、フルオロスルホン酸など)、パーフルオロアルカンスルホン酸(特に、トリフルオロメタンスルホン酸など)の、ルイス酸(例えば、三酸化硫黄、ならびにホウ素、アルミニウム、ガリウム、アンチモン、スズ、タンタル、チタン、亜鉛、ヒ素、ニオブおよび他の遷移金属のフッ化物または塩化物など)との組み合わせである。
【0014】
触媒は、式(II)の出発物質を基準として、例えば、0.001〜50モル%、好ましくは0.001〜25モル%、特に好ましくは0.5〜10モル%の量で本発明による方法に使用する。
【0015】
使用する触媒は好ましくは、出発物質を基準として、例えば1〜10モル%の濃度での過塩素酸である。
【0016】
本発明による方法のための反応温度は、例えば、−100〜200℃、好ましくは−20〜100℃であってよい。反応は、特に好ましくは室温(25℃)で実施する。
【0017】
本発明による方法のための反応圧力は、例えば、1hPa〜20MPa、好ましくは100hPa〜2MPaであってよく、反応圧力は特に好ましくは周囲圧力である。
【0018】
本発明による方法は溶媒中で実施することができる。好適な溶媒は、例えば、カルボカチオンを捕捉し、これらを、安定な中間体である、水、カルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水マレイン酸、無水酪酸、および無水プロピオン酸など)、カルボン酸塩化物、カルボン酸(例えば、酢酸、ギ酸、酪酸、およびプロピオン酸など)、アルカノール、アミン、芳香族アルコール、アルデヒド、およびケトンなどに変換することができるものである。溶媒混合物中で反応を実施することもまた可能である。溶媒混合物としては、例えば、前述の反応性溶媒の1つと、不活性溶媒〔例えば、カルボン酸のエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジルなど);芳香族および/または脂肪族の場合によりハロゲン化された炭化水素(例えば、ベンジン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、またはテトラクロロメタンなど);エーテル(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、メチル第三ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、またはエチレングリコールのジメチルエーテルもしくはジエチルエーテルなど);ニトリル(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、またはベンゾニトリルなど);アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドン、またはヘキサメチルホスホルアミドなど);硫黄化合物(例えば、スルホランなど)〕との混合物が挙げられる。好ましい溶媒は、カルボン酸無水物およびこれらとカルボン酸との混合物、特に好ましくは無水酢酸である。
【0019】
溶媒を添加することなく反応を実施することもできる。これは特に、式(II)の出発物質が反応条件下で液体である場合に当てはまる。
【0020】
反応溶液中の好ましい出発物質濃度は、1重量%〜50重量%、特に好ましくは5〜20重量%、非常に特に好ましくは8〜15重量%である。
【0021】
反応を実施するために、本手順は、例えば、場合により溶媒を添加して先ず式(II)の化合物を導入する工程と、触媒(場合により溶媒中の触媒溶液)を加える工程とを含む。あるいは、触媒、場合により溶媒中の触媒を最初に装入し、これに続けて、溶媒と共にあるいは溶媒なしで出発物質を添加することもできる。出発物質および触媒の同時の計量供給添加も同様に可能である。
【0022】
反応混合物を、塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウムまたはセシウムなどの金属の、例えば、水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩など)で触媒を中和することによって処理する。アルカリ金属の水酸化物、特に好ましくは水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
得られる粗溶液を、精製のために0.1Pa〜100kPaの真空で蒸留することができる。好ましくは、圧力は1Pa〜50kPa、特に好ましくは1Pa〜1kPaの範囲である。
【0024】
本発明による方法では、所望のデカリン−6−オール−1−オン誘導体が、単一段階で、簡単な処理後に高い化学収率で得られる。
【0025】
本発明に従って製造することができる式(I)の化合物は、農薬、薬理活性成分、香料および芳香物質、香味剤、化粧品分野での、およびポリマーでの活性成分の製造方法に用いるのに特に好適である。
【実施例】
【0026】
激しく撹拌しながら、水中の70%過塩素酸溶液(0.32g、3モル%)を無水酢酸(250ml)に加えた。次いで、出発物質(14.8g)を、無水酢酸(100ml)に撹拌しながら滴下添加した。室温で4時間後に、出発物質はもはや反応混合物中で検出できなかった。反応混合物を200mlの1N・NaOHの上へ注ぎ、次に45%NaOHでpH7〜8に調整し、メチル第三ブチルエーテル(2×120ml)で抽出した。合わせた有機層を2×40mlの蒸留水で抽出し、NaSO上で乾燥させた。溶媒を次に真空で留去した。残った油状残渣を10%濃度のNaOH(200ml)のメタノール溶液中で1時間沸騰させた。反応混合物を200mlの水で希釈し、DCM(2×200ml)で抽出した。合わせた有機相を2×100mlの水で抽出し、有機相中の溶媒を真空で除去した。125℃および1Paでの真空蒸留により、透明な淡黄色オイルの形態で生成物が得られる。
【0027】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R、R、R、Rは互いに独立して、水素、C〜Cアルキル、またはアリールである)
の化合物の製造方法であって、式(II):
【化2】

(式中、R、R、R、Rは上記の意味を有する)
の化合物を、1〜50重量%の式(II)の化合物を含む溶液中、触媒の存在下で環化させ、これによって生成する反応混合物を場合により蒸留によって処理することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記触媒が、ブレンステッド酸、ルイス酸、および/または共役ブレンステッド−ルイス酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、ハメット酸性度関数によれば−12未満の値を有するブレンステッド酸であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、アンチモン、スズ、タンタル、チタン、亜鉛、ヒ素またはニオブのハロゲン化物自体、またはこれらのエーテル、アルコール、アミン付加体もしくは相当するハロゲン化水素酸の付加体としての錯体の群からのルイス酸であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒を、式(II)の化合物を基準として、0.001〜50重量%の量で用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応を、5〜20重量%の式(II)の化合物の溶液中で実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応混合物の蒸留処理を、0.1Pa〜100kPaの真空蒸留によって実施することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒を、最初に溶媒としてのカルボン酸無水物に導入し、式(II)の化合物を滴下により計量供給することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
農薬、薬理活性成分、香料および芳香物質、香味剤、化粧品、ならびにポリマーの製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法に従って製造した式(I)の化合物の使用。

【公開番号】特開2009−137963(P2009−137963A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309880(P2008−309880)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(506207853)サルティゴ・ゲーエムベーハー (35)
【Fターム(参考)】