説明

置換フェナントレン化合物を有効成分とするがんを予防および/または治療するための医薬組成物

【課題】がんの予防および/または治療に有効な化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、フェナントレンが、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される1〜9個の置換基、ならびにカルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される1〜3個の親水基で置換されている置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体を有効成分として含む、がんを予防および/または治療するための医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換フェナントレン化合物を有効成分とするがんを予防および/または治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発がん機構の分子機構の解明の進展に伴い、発がん機構に密接に関与している分子、なかでもシグナル伝達分子を標的とした、いわゆる分子標的薬剤の開発が近年盛んに行われている。分子標的薬剤の標的となりうるシグナル伝達分子は、正常細胞では発現がほとんど認められないのに対して、がん細胞では発現が亢進しており、かつ、がん細胞の増殖過程に必須の役割を果たしている。現在までに開発されている分子標的薬剤は、このような条件を満たしている増殖因子レセプターそのものあるいはその下流に位置するチロシン・キナーゼを標的としている。
【0003】
本発明者らのグループは、マウス肝がん発症モデルでの遺伝子発現パターンを解析し、正常の肝臓組織では発現が認められないセリン/スレオニン・キナーゼ活性を保有する原がん遺伝子であるPim-3の発現が、マウスの肝臓での前がん病変以降の段階で亢進していて、ヒト肝がん病変でも同様のPim-3の発現亢進が認められることを明らかにした(非特許文献1)。さらに、ヒト肝がん細胞株でのPim-3の発現をRNAiにて抑制すると、アポトーシスの亢進を伴う細胞周期進行が遅延することから、Pim-3が肝がん細胞株での細胞増殖過程に関与している可能性を想定するに至った。この際、それまで決定されていなかったヒトPim-3 cDNAの全塩基配列も決定された。
【0004】
肝臓と同様に内胚葉由来の臓器であるヒト膵臓・大腸・胃においても正常ではPim-3蛋白が検出されないにも関わらず、大腸がん・胃がん・肝がんの約50%の症例で、膵がんの全症例で、Pim-3蛋白の発現が亢進しており、これらのがん細胞株においても、Pim-3の発現を抑制すると、アポトーシスの亢進を伴って細胞周期進行が遅延することも見出された(非特許文献2、3)。以上の結果は、Pim-3が内胚葉由来臓器がん、なかでも膵がんの発がん過程にも関与していて、これらのがんに対する治療における標的分子であることを示唆している。Pim-3が好アポトーシス分子であるBadの第112番目のセリン残基を選択的にリン酸化して、不活化することによってアポトーシスを抑制していることも明らかとなった(非特許文献2、3)。
【0005】
PimファミリーとしてはPim-1・Pim-2の存在が報告されており、両者ともにBadの第112番目のセリン残基をリン酸化することが報告されている。さらにPim-1は活性中心を含めてPim-3と高い相同性を示すことも、cDNAの全塩基配列の解析から明らかになっている。しかし、Pim-1は造血系臓器の悪性腫瘍、Pim-2は前立腺がんでの発現亢進が報告されているが、内胚葉由来臓器がん、なかでも膵がんにおいて、Pim-1・Pim-2の発現が亢進しているという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Int. J. Cancer 114: 209-218, 2005
【非特許文献2】Cancer Res. 66: 6741-6747, 2006
【非特許文献3】Cancer Sci. 98 : 321-328, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、がんの予防および/または治療に有効な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、候補化合物のPim-1、Pim-2およびPim-3活性への影響を酵素免疫学的方法にて検討したところ、これらの活性を有意に阻害する化合物を見出し、さらにそれらががん細胞株のvitroでの増殖も抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)フェナントレンが、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される1〜9個の置換基、ならびにカルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される1〜3個の親水基で置換されている置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体を有効成分として含む、がんを予防および/または治療するための医薬組成物。
(2)置換フェナントレン化合物が、式I:
【化1】

[式中、
R1およびR2は、独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される置換基であり、
R3は、カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される親水基であり、
nおよびmは、独立に、0〜4であり、ただし、n + mは1〜8であり、
pは、1または2である]
で表される化合物である、(1)記載の医薬組成物。
(3)置換フェナントレン化合物が、式II:
【化2】

[式中、
R1、R2およびR3は、(2)で定義したとおりであり、
nおよびmは、独立に、1または2であり、ただし、n + mは3である]
で表される化合物である、(2)記載の医薬組成物。
(4)置換フェナントレン化合物が、式IIa、IIbまたはIIc:
【化3】

[式中、R1、R2およびR3は、(2)で定義したとおりである]
で表される化合物である、(3)記載の医薬組成物。
(5)R1およびR2が、独立に、C1-6アルコキシ基であり、R3がカルボキシ基である、(2)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)置換フェナントレン化合物が、以下:
【化4】

からなる群から選択される化合物である、(4)記載の医薬組成物。
(7)がんは、膵臓がん、胃がん、大腸がん、腎臓がん、肝臓がん、骨髄がん、副腎がん、皮膚がん、メラノーマ、肺がん、小腸がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、乳がんまたは卵巣がんである、(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)がんは膵臓がんである、(7)記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、がんの予防および/または治療に有効な化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の置換フェナントレン化合物(T19)のPim-1、Pim-2およびPim-3阻害活性を示すグラフである。
【図2】本発明の置換フェナントレン化合物(T19-1)のPim-1、Pim-2およびPim-3阻害活性を示すグラフである。
【図3】本発明の置換フェナントレン化合物(T19-2)のPim-1、Pim-2およびPim-3阻害活性を示すグラフである。
【図4】本発明の置換フェナントレン化合物(T19)のヒト膵癌細胞株(PCI55, MiaPaCa-2, PANC-1)増殖抑制活性を示すグラフである。
【図5】本発明の置換フェナントレン化合物(T19-1)のヒト膵癌細胞株(PCI55, MiaPaCa-2, PANC-1)増殖抑制活性を示すグラフである。
【図6】本発明の置換フェナントレン化合物(T19-2)のヒト膵癌細胞株(PCI55, MiaPaCa-2, PANC-1)増殖抑制活性を示すグラフである。
【図7】本発明の置換フェナントレン化合物(T19-1)のヒト胎児腎細胞株(HEK293)増殖抑制活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、フェナントレンが、
ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される1〜9個、好ましくは2〜4個、より好ましくは3個の置換基(好ましくはC1-6アルコキシ基、より好ましくはC1-3アルコキシ基、特にメトキシ基)、ならびに
カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される1〜3個、好ましくは1もしくは2個の親水基(好ましくはカルボキシ基)
で置換されている置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体を有効成分として含む、がんを予防および/または治療するための医薬組成物に関する。ここで、上記置換基及び親水基は、好ましくはフェナントレン環上の異なる位置に存在する。以下、この置換フェナントレン化合物を、本発明の置換フェナントレン化合物または本発明の化合物と称する場合がある。
【0013】
本発明の置換フェナントレン化合物は、好ましくは、式I:
【化5】

で表され、式中、
R1およびR2は、独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択され、より好ましくはC1-3アルコキシ基、特にメトキシ基であり、
R3は、カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される親水基、好ましくはカルボキシ基であり、
nおよびmは、独立に、0〜4、好ましくは1〜3、より好ましくは1もしくは2であり、ただし、n + mは1〜8、好ましくは2〜5、より好ましくは3もしくは4であり、
pは、1または2、好ましくは1である。
【0014】
より好ましくは置換フェナントレン化合物は、式II:
【化6】

[式中、R1、R2およびR3は、式Iについて記載したとおりであり、
nおよびmは、独立に、0〜4、好ましくは1〜3、より好ましくは1もしくは2であり、ただし、n + mは1〜8、好ましくは2〜5、より好ましくは3もしくは4である]
で表される化合物である。
【0015】
式Iおよび式IIにおいて、R1およびR2がそれぞれ複数存在する場合、好ましくはフェナントレン環上の異なる位置に存在する。
【0016】
さらに好ましくは置換フェナントレン化合物は、式IIa、IIbまたはIIc:
【化7】

[式中、R1、R2およびR3は、式Iについて記載したとおりである]
で表される化合物である。
【0017】
本発明における置換フェナントレン化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる:
【化8】

【0018】
本発明における置換フェナントレン化合物は、例えば、Pande, H.; Bhakuni, D, S. J. C. S. Perkin I 1976, 2197、ならびにBremmer, M. L.; Khatri. N. A.: Weinreb, S. M. J. Org. Chem. 1983, 48, 3661に記載される方法により合成することができる。
【0019】
本明細書において「アルキル基」とは、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基をさす。「アルキル」の例としては、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、n-ペンチルが挙げられる。
【0020】
原子(炭素原子など)の数は、例えば「Cx-y アルキル基」と表され、例えば、「C1-6アルキル基」は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基をさす。
【0021】
本明細書において「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素をさす。
本明細書において「アルコキシ基」という用語は「-OR'」基をさし、ここでR'は上記のとおりのアルキル基である。
【0022】
本明細書において「C1-6アルコキシ-C1-6アルキル基」という用語は、C1-6アルコキシ基で置換されたC1-6アルキル基であり、例えば、-CH2-O-CH3が挙げられる。
本明細書において「ヒドロキシC1-6アルキル基」という用語は、ヒドロキシ基で置換されたC1-6アルキル基である。
【0023】
本明細書において「アミド基」とは、置換または非置換アミド基、すなわち「-C(O)NR'R''」基をさし、ここでR'およびR''は独立に、H、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-6シクロアルキル基を表す。「アミド基」の例としては-C(O)NH2、-C(O)NH(CH3)、-C(O)N(CH3)2などの基が挙げられる。
【0024】
本明細書において「アルケニル基」とは、1以上の炭素−炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖の脂肪族炭化水素基をさす。例としては、限定するものではないが、ビニル、アリルなどが挙げられる。
【0025】
本明細書において「アルキニル基」とは、1以上の炭素−炭素三重結合を有する直鎖または分枝鎖の脂肪族炭化水素基をさす。例としては、限定するものではないが、エチニルなどが挙げられる。
【0026】
本明細書において「シクロアルキル基」とは、非芳香族炭化水素環基をさす。「シクロアルキル基」としては、限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロヘプチルが挙げられる。
【0027】
本明細書において「エチレンオキシド基」とは、「-(OCH2CH2)xH」基をさし、ここでxは、2〜6、好ましくは3〜4である。本明細書において「プロピレンオキシド基」とは、「-(OCH2CH2CH2)yH」基をさし、ここでyは、2〜6、好ましくは3〜4である。
【0028】
本発明の置換フェナントレン化合物は、1以上の形態で結晶化する(これは多型として知られる)ことがあり、かかる多型形態は本発明の範囲内にある。多型は一般に、温度、圧力またはその両方の変化に応じて生じる。多型は、当技術分野で既知の物理的特性、例えばX線回折パターン、溶解性、および融点により識別することができる。
【0029】
本発明の置換フェナントレン化合物は、1以上のキラル中心を有する、または多数の立体異性体として存在することができる。本発明の範囲は、異性体(例えば、立体異性体、位置異性体、幾何異性体又は光学異性体)の混合物ならびに精製された異性体を包含する。
【0030】
本発明の置換フェナントレン化合物の塩は、通常、製薬上許容される塩である。「製薬上許容される塩」とは、本発明の化合物の無毒性の塩をさす。本発明の化合物の塩には、酸付加塩が含まれる。代表的な塩としては、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、エデト酸カルシウム塩、カンシル酸塩、クラブラン酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、マレイン酸一カリウム塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、カリウム塩、サリチル酸塩、ナトリウム塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、トシル酸塩、三ヨウ化エチル塩、トリメチルアンモニウム塩、および吉草酸塩が挙げられる。
【0031】
本明細書において「溶媒和物」とは、溶質(本発明の置換フェナントレン化合物、またはその塩もしくは生理学的に機能性の誘導体)および溶媒により形成される錯体をさす。溶媒の例としては、限定するものではないが、水、メタノール、エタノール、および酢酸が挙げられる。
【0032】
本明細書において「生理学的に機能性の誘導体」とは、哺乳動物への投与時に、本発明の置換フェナントレン化合物またはその活性な代謝産物を(直接または間接的に)提供することのできる本発明の置換フェナントレン化合物のあらゆる製薬上許容される誘導体を言う。かかる誘導体、例えばエステルおよびアミド類は、過度の実験を要することなく当業者には自明である(Burger's Medicinal Chemistry And Drug Discovery, 第5版, Vol 1: Principles and Practice)。
【0033】
本発明の置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体は、がんの予防および/または治療において有効である。本発明の置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体の有効量をそれを必要とする患者に投与することにより、がんを予防および/または治療することができる。
【0034】
「有効量」とは、例えば研究者または臨床医の望む、組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発する化合物の量を意味する。本発明の置換フェナントレン化合物の有効量は、例えば、患者の年齢、体重、重症度、製剤の性質、および投与経路に依存する。哺乳動物、特にヒトの治療のための式Iの化合物の有効量は、通常、0.1〜100 mg/kg/日、例えば0.1〜10 mg/kg/日の範囲である。
【0035】
本発明において、がんには、膵臓がん、胃がん、大腸がん、腎臓がん、肝臓がん、骨髄がん、副腎がん、皮膚がん、メラノーマ、肺がん、小腸がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、乳がんまたは卵巣がんが包含される。本発明のがんを予防および/または治療するための医薬組成物は、特に膵臓がんの予防および/または治療に有効である。本発明の置換フェナントレン化合物は、Pim-1、Pim-2およびPim-3、特にPim-3活性を阻害する作用を有することから、本発明のがんを予防および/または治療するための医薬組成物は、Pim-1、Pim-2および/またはPim-3、特にPim-3の発現亢進が認められるがんにおいて特に有効である。本発明の置換フェナントレン化合物は、Pim-1、Pim-2およびPim-3の活性阻害剤、特にPim-3活性阻害剤としても使用できる。
【0036】
本発明において疾患の予防には、疾患の発症を抑えることおよび遅延させることが含まれ、疾患になる前の予防だけではなく、治療後の疾患の再発に対する予防も含まれる。本発明において疾患の治療には、疾患を治癒すること、症状を改善することおよび症状の進行を抑えることが包含される。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与対象は、好ましくは、哺乳動物である。本明細書において哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒトおよびサルなどの霊長類、マウス、ラットおよびウサギなどの齧歯類、イヌおよびネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマおよびブタなどの家畜が挙げられる。本発明の医薬組成物は、霊長類、特にヒトへの投与に好適である。
【0038】
本発明の医薬組成物は、式Iで表される化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体と、1以上の製薬上許容される担体を含む。製薬上許容される担体とは、一般的に、本発明の有効成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料等をいい、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、植物性油などの溶媒または分散媒体などが挙げられる。
【0039】
本発明の医薬組成物は、経口により、非経口により、例えば、皮膚に、皮下に、粘膜に、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、膣内に、肺に、脳内に、眼に、および鼻腔内に投与される。経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ペレット剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤および吸入剤などが挙げられる。非経口投与製剤としては、坐剤、保持型浣腸剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、ペッサリー剤、注射剤、口腔洗浄剤ならびに軟膏、クリーム剤、ゲル剤、制御放出パッチ剤および貼付剤などの皮膚外用剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物は、徐放性皮下インプラントの形態で、または標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェア)の形態で、非経口で投与してもよい。
【0040】
本発明の医薬組成物はさらに医薬分野において慣用の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤などがあり、必要に応じて使用できる。長時間作用できるように徐放化するためには、既知の遅延剤等でコーティングすることもできる。賦形剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、軽質無水ケイ酸、ゼラチン、結晶セルロース、ソルビトール、タルク、デキストリン、デンプン、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム等が使用できる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、エタノール、エチルセルロース、カゼインナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、精製水、ゼラチン、デンプン、トラガント、乳糖、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類等が挙げられる。抗酸化剤としては、トコフェロール、没食子酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸等が挙げられる。必要に応じてその他の添加剤や薬剤、例えば制酸剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト等)、胃粘膜保護剤(合成ケイ酸アルミニウム、スクラルファート、銅クロロフィリンナトリウム等)を加えてもよい。
【実施例】
【0041】
(実施例1)2,3,6-トリメトキシフェナントレン-9-カルボン酸(T19)の合成
【化9】

【0042】
(E)-3-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-2-(4-メトキシフェニル)アクリル酸(化合物3)の合成
4-メトキシフェニル酢酸 (8.38 g, 50.5 mmol) のテトラヒドロフラン(50 ml)溶液にカリウムtert-ブトキシド (5.76 g, 51.4 mmol) を加え、混合物を室温で3 時間撹拌し化合物1を調製した。溶媒 (テトラヒドロフラン) を留去し、2-ブロモ-4,5-ジメトキシベンズアルデヒド (化合物2) と酢酸無水物 (60 ml) を加え、混合物を 105 ℃で15 時間加熱した。熱水 (120 ml) を加え、混合物を室温で一晩撹拌し、結晶をろ取した。ろ液をクロロホルムで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、乾燥したのち溶媒を留去した。残さと結晶を合わせ、エタノール/ヘキサンから再結晶すると化合物 3 (12.92 g, 70%) が得られた。Mp 183-185 ℃ (ヘキサン/AcOEt); IR (CHCl3) ν1685 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 3.27 (3H, s), 3.79 (3H, s), 3.85 (3H, s), 6.37 (1H, s), 6.88 (1H, dd, J = 8.7, 2.4 Hz), 6.89 (1H, dd, J = 8.7, 2.5 Hz), 7.01 (1H, s), 7.16 (1H, dd, J = 8.7, 2.4 Hz), 7.17 (1H, dd, J = 8.7, 2.5 Hz), 8.11 (1H, s); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 55.2, 55.3, 56.1, 113.4, 114.1, 115.0, 117.5, 126.6, 127.1, 131.2, 131.4, 140.6, 147.3, 150.1, 159.3, 173.1. C18H17BrO5の理論値: C, 54.98; H, 4.36. 実測値: C, 54.58; H, 4.61.
【0043】
メチル(E)-3-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-2-(4-メトキシフェニル)アクリレート (化合物4)の合成
化合物 3 (12.22 g, 31.0 mmol) のアセトニトリル (95 ml) 溶液に1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン (7.5 ml, 50.2 mmol) とヨードメタン (9.5 ml, 153.0 mmol)を室温で加え、混合物を室温で 3時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で薄め、エチルエーテルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、乾燥後、溶媒を留去した。残さをヘキサン/酢酸エチルで再結晶すると化合物 4 (12.33 g, 97%) が得られた。Mp 106-107.5 ℃ (ヘキサン/AcOEt); IR (CHCl3) ν 1710 cm-1; 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 3.27 (3H, s), 3.78 (3H, s), 3.82 (3H, s), 3.84 (3H, s), 6.32 (1H, s), 6.86 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 6.87 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.00 (1H, s), 7.12 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.13 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.95 (1H, s); 13C-NMR (68 MHz, CDCl3) δ52.9, 55.7, 56.5, 114.0, 114.6, 115.5, 117.4, 127.5, 128.1, 132.0, 132.7, 139.1, 147.8, 150.3, 159.7, 168.7. C19H19BrO5の理論値: C, 56.03; H, 4.70. 実測値: C, 55.94; H, 4.76.
【0044】
メチル2,3,6-トリメトキシフェナントレン-9-カルボキシレート (化合物5)の合成
化合物 4 (5.96 g, 14.6 mmol) の還流トルエン (110 ml) 溶液に、水素化トリブチルスズ (6.0 ml, 22.3 mmol) と1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (2.16 g, 8.84 mmol) のトルエン (70 ml) 溶液を1時間かけて滴下した。混合物を更に3時間加熱還流したのち、溶媒を留去し、残さを10%のフッ化カリウムを含むシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると化合物5 (3.53 g, 74%)が得られた。Mp 165.5-167.5 ℃ (ベンゼン/石油エーテル) [lit.1 Mp 165-166℃ (ベンゼン/石油エーテル)]; IR (CHCl3) ν1710 cm-1; 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 3.99 (3H, s), 4.00 (3H, s,), 4.01 (3H, s), 4.09 (3H, s), 7.19 (1H, s), 7.25 (1H, dd, J = 9.2, 2.4 Hz), 7.76 (1H, s), 7.80 (1H, d, J = 2.7 Hz), 8.24 (1H, s), 8.92 (1H, d, J = 8.9 Hz); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 52.0, 55.4, 55.9, 55.9, 103.0, 104.2, 109.1, 115.6, 123.2, 123.6, 125.5, 126.6, 128.3, 129.5, 131.6, 149.6, 150.8, 157.9, 168.1. C19H18O5の理論値: C, 69.93; H, 5.56. 実測値: C, 69.79; H, 5.61.
【0045】
2,3,6-トリメトキシフェナントレン-9-カルボン酸 (化合物6) の合成
化合物 5 (275 mg, 0.675 mmol) を メタノール (4.4 ml) とテトラヒドロフラン (11 ml) に溶解し、10%水酸化ナトリウム水溶液 (2.2 ml) を加え、60 ℃ で1時間撹拌した。放冷後、反応液に 10% 塩酸を加え酸性とし、塩化メチレンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、乾燥し、溶媒を留去した。残渣をヘキサン/酢酸エチルから再結晶すると化合物6 (252 mg. 96%) が得られた。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 3.99 (3H, s), 4.02 (3H, s), 4.09 (3H, s), 7.22 (1H, d, J = 9.3 Hz), 7.40 (1H, s), 7.98 (2H, s), 8.31 (1H, s), 8.86 (1H, d, J = 9.3 Hz)
【0046】
(実施例2)2,3,6-トリメトキシフェナントレン-10-カルボン酸(T19-1)の合成
【化10】

【0047】
(E)-2-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)アクリル酸(化合物9)の合成
p-アニスアルデヒド (19.9 ml, 0.164 mol) (7) と 2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル酢酸 (8) (45.05 g, 0.164 mol) を無水酢酸 (82 ml) とトリエチルアミン (30 ml) の混液に室温で加え、混合物を 110 ℃ で 9 時間加熱した。 水 (100 ml) を加え、混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物をクロロホルムで抽出し、有機層を乾燥させ、溶媒を留去した。残さを 10% 水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、エチルエーテルで抽出した。水層を 10% 塩酸で酸性にし、クロロホルムで抽出した。有機層を乾燥させ、溶媒を留去すると化合物 9 (37.01 g, 57%) が得られた。Mp 224.5-225.5 ℃ (AcOEt,); IR (CHCl3) ν 1680cm-1; 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 3.77 (3H, s), 3.78 (3H, s), 3.93 (3H, s), 6.68 (1H, s), 6.74 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 6.76 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.04 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.05 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.15 (1H, s), 7.93 (1H, s); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 55.3, 56.1, 56.2, 113.4, 114.1, 114.6, 115.7, 126.7, 127.8, 128.8, 132.6, 143.1, 149.0, 149.4, 161.1, 172.3. C18H17BrO5の理論値: C, 54.98; H, 4.36. 実測値: C, 54.76; H, 4.36.
【0048】
メチル(E)-2-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)アクリレート (化合物10)の合成
化合物 9 (37.01 g, 0.094 mol) のアセトニトリル (130 ml) 溶液に1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン (28.1 ml, 0.189 mol) とヨードメタン (39.3 ml, 0.631 mol) を室温で加え、混合物を室温で 3時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で薄め、酢酸エチルで抽出した。有機層を乾燥したのち、溶媒を留去した。残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル, 3:1→2:1) を通したのち、溶媒を留去し、ヘキサン/酢酸エチルで再結晶すると化合物 10 (28.37 g, 75%)が得られた。Mp 115.0-115.5 ℃ (ヘキサン/AcOEt); IR (CHCl3) ν 1700cm-1; 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 3.75 (3H, s), 3.76 (3H, s), 3.79 (3H, s), 3.93 (3H, s), 6.65 (1H, s), 6.72 (1H, dd, J = 10.0, 2.4 Hz), 6.73 (1H, dd, J = 10.0, 2.4 Hz), 7.01 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.02 (1H, dd, J = 9.8, 2.4 Hz), 7.14 (1H, s), 7.83 (1H, s); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ52.3, 55.2, 56.0, 56.1, 113.4, 113.9, 114.5, 115.6, 126.8, 128.7, 129.3, 132.2, 141.1, 148.8, 149.2, 160.6, 167.7. C19H19BrO5の理論値: C, 56.03; H, 4.70. 実測値: C, 55.83; H, 4.69.
【0049】
メチル2,3,6-トリメトキシフェナントレン-10-カルボキシレート (化合物11)の合成
化合物 10 (8.00 g, 19.65 mmol) と1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (4.80 g, 19.64 mmol) の還流クロロベンゼン (110 ml) 溶液に、水素化トリブチルスズ (7.9 ml, 29.4 mmol) と1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (4.80 g, 19.64 mmol) のクロロベンゼン(70 ml) 溶液を2時間かけて滴下した。混合物を更に1時間加熱還流したのち、溶媒を留去し、残さを10%のフッ化カリウムを含むシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル, 1:1) で精製すると化合物11 (3.55 g, 56%)が得られた。Mp 152.5-153.5 ℃ (MeOH) (lit.2 mp 151-152 ℃); 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 3.99 (3H, s), 4.00 (3H, s), 4.07 (3H, s), 4.07 (3H, s), 7.16 (1H, dd, J = 8.8, 2.2 Hz), 7.71 (1H, d, J = 2.2 Hz), 7.77 (1H, s), 7.78 (1H, d, J = 8.8 Hz), 8.37(1H, s), 8.61(1H, s); 13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 51.9, 55.4, 55.8, 103.1, 103.5, 106.8, 115.9, 121.5, 124.1, 124.8, 125.0, 131.2, 133.3, 148.7, 149.8, 160.1, 168.1.
【0050】
2,3,6-トリメトキシフェナントレン-10-カルボン酸 (化合物12)の合成
化合物 11 (76 mg, 0.232 mmol)をメタノール (1.2 ml) とテトラヒドロフラン (3.0 ml) に溶解し、10%水酸化ナトリウム水溶液 (0.6 ml) を加え、60 ℃ で1時間撹拌した。放冷後、反応液に 10% 塩酸を加え酸性とし、塩化メチレンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、乾燥し、溶媒を留去した。残渣をヘキサン/酢酸エチルから再結晶すると化合物12 (60.0 mg. 83%) が得られた。1H NMR (270 MHz, (CD3)2CO) δ 3.97 (3H, s), 4.06 (3H, s), 4.08 (3H, s), 7.28 (1H, d, J = 6.4 Hz), 8.01 (1H, d, J =8.7 Hz), 8.11 (1H, s), 8.18 (1H, s), 8.57 (1H, s), 8.77 (1H, s)
【0051】
(実施例3)2,3,8-トリメトキシフェナントレン-10-カルボン酸(T19-2)の合成
【化11】

【0052】
(E)-2-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-3-(2-メトキシフェニル)アクリル酸 (化合物14)の合成
o-アニスアルデヒド (0.725 ml, 6.00 mmol) (化合物13)と 2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル酢酸 (化合物8) (1.65 g, 6.00 mmol) を無水酢酸 (6.0 m) とトリエチルアミン (3.0 ml) の混液に室温で加え、混合物を 110 ℃ で 4 時間加熱した。 水 (20 ml) を加え、混合物を50 ℃で1時間撹拌した。反応混合物を塩化メチレンで抽出し、有機層を乾燥させ、溶媒を留去した。残さを 10% 水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、エチルエーテルで抽出した。水層を 10% 塩酸で酸性にし、塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥させ、溶媒を留去した。残さをヘキサン/酢酸エチルで再結晶すると化合物 14 (997 mg, 42%) が得られた。
【0053】
メチル(E)-2-(2-ブロモ-4,5-ジメトキシフェニル)-3-(2-メトキシフェニル)アクリレート (化合物15)の合成
化合物 14 (997 mg, 2.54 mmol) のアセトニトリル (7.0 ml) 溶液に1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン (0.570 ml, 3.81 mmol)とヨードメタン (0.791 ml, 12.7 mmol) を室温で加え、混合物を室温で 1時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、エチルエーテルで抽出した。有機層を乾燥したのち、溶媒を留去した。残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル, 3:1) を通したのち、溶媒を留去し、ヘキサン/酢酸エチルで再結晶すると化合物 15 (737 mg, 72%)が得られた。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 3.67 (3H, s), 3.81 (3H, s), 3.87 (3H, s), 3.90 (3H, s), 6.57 (1H, s), 6.64 (1H, t, J = 7.6 Hz), 6.72 (1H, d, J = 6.3 Hz), 6.85 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.10 (1H, s), 7.21 (1H, t, J = 7.6 Hz), 8.22 (1H, s)
【0054】
メチル2,3,8-トリメトキシフェナントレン-10-カルボキシレート (化合物16)の合成
化合物 15 (737 mg, 1.81 mmol) と1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (442 mg, 1.81 mmol) の還流クロロベンゼン (10 ml) 溶液に、水素化トリブチルスズ (0.732 ml, 2.72 mmol) と1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (442 mg, 1.81 mmol) のクロロベンゼン(5.0 ml) 溶液を3時間かけて滴下した。溶媒を留去し、残さを10%のフッ化カリウムを含むシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル) に通し、ヘキサン/酢酸エチルで再結晶すると化合物16 (230 mg, 39 %)が得られた。1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 4.03 (3H, s), 4.06 (3H, s), 4.09 (3H, s), 4.12 (3H, s), 6.94 (1H, d, J = 7.9 Hz), 7.62 (1H, t, J = 8.2 Hz), 7.98 (1H, s), 8.09 (1H, d, J = 8.4 Hz), 8.62 (1H, s)
【0055】
2,3,8-トリメトキシフェナントレン-10-カルボン酸 (化合物17)の合成
化合物 16 (180 mg, 0.552 mmol)をメタノール (2.8 ml)とテトラヒドロフラン (7.0 ml)に溶解し、10%水酸化ナトリウム水溶液 (1.4 ml)を加え、60 ℃ で1時間撹拌した。放冷後、反応液に 10% 塩酸を加え酸性とし、塩化メチレンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、乾燥し、溶媒を留去した。残渣をヘキサン/酢酸エチルから再結晶すると 17 (130 mg, 76%)が得られた。1H NMR (270 MHz, (CD3)2CO) δ 3.96 (3H, s), 4.09 (6H, s), 7.12 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.68 (1H, t, J = 8.2 Hz), 8.21 (1H, s), 8.32 (1H, d, J = 8.1 Hz), 8.72 (1H, s), 9.05 (1H, s)
【0056】
(実施例4)インビトロアッセイ
96穴マイクロプレート(Nunc-ImmunoTMPlate, NUNC Brand Products, Nalge Nunc International, Denmark)にカーボネートバッファー(pH 9.6)[15 μmol/L Na2CO3(和光)、35 μmol/L NaHCO3(和光)、0.02% (w/v) NaN3(和光)pH 9.6]で希釈したHis-Badタンパク質溶液(3 μg/mL)を100μL/穴で加え、一晩4℃でコーティングした。翌日プレートを3回洗い、1% BSA/PBS(-)溶液を150 μL/穴で加え、37℃で1時間ブロッキングし、3回洗浄した。処理されたプレートに19.2 nmol/L チオレドキシン-ヘキサヒスチジン-Pim(Pim-1、Pim-2又はPim-3)融合タンパク質、10 μmol/L ATP(Cell Signaling)、上記実施例で合成した化合物T19、T19-1、T19-2をそれぞれ各種濃度で含むキナーゼバッファー[25 mmol/L Tris-HCl (pH 7.5)、10 mmol/L MgCl2、0.1 mmol/L Na3VO4、2 mmol/L ジチオスレイトール (DTT)、5 mmol/L s-グリセロホスフェート](Cell Signaling)を40 μL/穴で加えた。30℃で1時間反応後、5回洗浄を行い、1,000倍希釈した抗pBadser112ウサギ抗体(Cell Signaling)を100 μL/穴で加え、37℃で1時間反応させた。5回洗浄後、10,000倍希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ウサギ免疫グロブリン抗体を100 μL/穴で加え、さらに37℃で1時間反応させた。10回洗浄後、基質溶液(pH 9.8)[0.1% パラニトロフェニルリン酸(和光)、1 mol/L ジエタノールアミン(和光)]を100 μL/穴で加え、室温で20〜30分反応後、反応停止液[3N NaOH(和光)]を100 μL/穴で加え、反応を終結させた。このプレートをマイクロプレートリーダー(モデル550、バイオ・ラッド)にて波長405nmの吸光度を測定した。なお、洗浄バッファーとして0.05% Tween/PBS(-) を使用し、マイクロプレートウォッシャー(モデル1575 ImmunoWash、バイオ・ラッド)にて洗浄した。
結果を図1〜3に示す。化合物T19、T19-1及びT19-2はいずれもPim-1、Pim-2及びPim-3の活性を濃度依存的に抑制することが示された。
【0057】
(実施例5)細胞増殖アッセイ(膵癌細胞)
96穴細胞培養用マイクロテストプレート(Becton Dickinson)に各穴細胞数3,000のヒト膵癌細胞株(PCI55, MiaPaCa-2, PANC-1)を培地量100 μLで分注した。16〜18時間培養後培地を除き、被検化合物を含む培地[0.1% DMSO, T19(50, 75, 100, 125μM)、T19-1(25, 50, 75, 100μM)、T19-2(50, 75, 100, 125μM)]を100 μL/穴で加えた。0、24、48、72、96時間培養を続け、経過後、被検化合物含有培地を除き、10% WST-1(Roche)培地を100 μL/穴で加えた。さらに1時間培養後、マイクロプレートリーダー(モデル550、バイオ・ラッド)にて波長450nmの吸光度を測定した。なお培地としては、RPMI-1640培地(SIGMA)を用い、10% 仔牛血清(Invitrogen)、50 U/mL ペニシリンG(SIGMA)、50 μg/mL ストレプトマイシン(SIGMA)を加えた上で使用した。細胞株は、37℃、二酸化炭素濃度5%の炭酸ガス細胞培養装置(ESPEC)内で培養した。
結果を図4〜6に示す。化合物T19、T19-1及びT19-2は、試験したすべてのヒト膵癌細胞株(PCI55, MiaPaCa-2, PANC-1)の増殖を抑制することが示された。
【0058】
(実施例6)細胞増殖アッセイ(腎がん細胞)
96穴細胞培養用マイクロテストプレート(Becton Dickinson)にヒト胎児腎細胞株(HEK293、各穴細胞数4000)を培地量100 μLで分注した。16〜18時間培養後培地を除き、被検化合物を含む培地[0.1% DMSO, T19-1(25, 50, 75, 100μM)]を100 μL/穴で加えた。0、24、48、72、96時間培養を続け、経過後、被検化合物含有培地を除き、10% WST-1(Roche)培地を100 μL/穴で加えた。さらに1時間培養後、マイクロプレートリーダー(モデル550、バイオ・ラッド)にて波長450nmの吸光度を測定した。なお培地としてはRPMI-1640培地(SIGMA)を用い、いずれの培地にも10% 仔牛血清(Invitrogen)、50 U/mL ペニシリンG(SIGMA)、50 μg/mL ストレプトマイシン(SIGMA)を加えた上で使用した。細胞株は、37℃、二酸化炭素濃度5%の炭酸ガス細胞培養装置(ESPEC)内で培養した。
結果を図7に示す。T19-1は、ヒト胎児腎細胞株(HEK293)の増殖を抑制することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェナントレンが、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される1〜9個の置換基、ならびにカルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される1〜3個の親水基で置換されている置換フェナントレン化合物、またはその塩、溶媒和物、もしくは生理学的に機能性の誘導体を有効成分として含む、がんを予防および/または治療するための医薬組成物。
【請求項2】
置換フェナントレン化合物が、式I:
【化1】

[式中、
R1およびR2は、独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン、C1-6アルコキシ基、およびC1-6アルコキシ-C1-6アルキル基からなる群から選択される置換基であり、
R3は、カルボキシ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシC1-6アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、およびアンモニウム基からなる群から選択される親水基であり、
nおよびmは、独立に、0〜4であり、ただし、n + mは1〜8であり、
pは、1または2である]
で表される化合物である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
置換フェナントレン化合物が、式II:
【化2】

[式中、
R1、R2およびR3は、請求項2で定義したとおりであり、
nおよびmは、独立に、1または2であり、ただし、n + mは3である]
で表される化合物である、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
置換フェナントレン化合物が、式IIa、IIbまたはIIc:
【化3】

[式中、R1、R2およびR3は、請求項2で定義したとおりである]
で表される化合物である、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
R1およびR2が、独立に、C1-6アルコキシ基であり、R3がカルボキシ基である、請求項2〜4のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
置換フェナントレン化合物が、以下:
【化4】

からなる群から選択される化合物である、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
がんは、膵臓がん、胃がん、大腸がん、腎臓がん、肝臓がん、骨髄がん、副腎がん、皮膚がん、メラノーマ、肺がん、小腸がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、乳がんまたは卵巣がんである、請求項1〜6のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項8】
がんは膵臓がんである、請求項7記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−16754(P2011−16754A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162000(P2009−162000)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】