説明

置換フェニルプロピオン酸誘導体を含有する医薬組成物

【課題】
本発明は、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防のための医薬の提供、該医薬を使用した治療及び/又は予防方法の提供を目的とする。
【解決手段】
一般式(1)で表されるα−置換フェニルプロピオン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。


[式中、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基を表し、R2は水素原子又はハロゲン原子を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、ベンジルオキシ基を表し、R4は炭素数1〜6の低級アルキル基を表し、R5は水素原子又はハロゲン原子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化疾患の予防、又は治療をするための医薬又は医薬組成物、並びに、線維化疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の線維化は、炎症などによって損傷を受けた組織が治癒する過程において、組織修復が異常に誘導される結果引き起こされる。このような組織の線維化は、様々な臓器において生じる可能性があり、線維化の結果、さらなる重篤な疾患が発症する危険性を有している。主な線維化疾患としては、心筋線維化、肺線維症、肝硬変、糸球体硬化症、全身性強皮症、全身性硬化症、皮膚瘢痕化などが知られている。線維化疾患患者は、国内で数十万人にのぼるが、未だ有効な治療法は存在せず、組織の線維化は、重要な薬剤開発課題として早急に解決されるべき対象となっている。線維化疾患の主要原因は、TGFβ/Smad経路の異常亢進であると考えられている。TGFβが細胞膜上のレセプターに結合すると、細胞内セカンドメッセンジャーであるSmad2/3がリン酸化され、さらに、Smad4と複合体を形成し、核内へと移行する。リン酸化されたSmad複合体は、転写補助因子として核内において機能し、標的遺伝子(例えば、I型コラーゲン遺伝子、平滑筋アクチン遺伝子、フィブロネクチン遺伝子など)の転写を介して細胞外マトリクス産生を促進する。従って、組織の線維化疾患の治療方法として、異常亢進したTGFβ/Smad経路をTGFβ阻害剤等により抑制することが考えられている。
【0003】
TGFβの阻害剤として、例えば、アンチセンス核酸(AP−12009、AP−11014)(特許文献1)、抗TGFβレセプター抗体(Lerdelimumab、Metelimumab、GC−1008)などが報告されており、さらに、線維症の治療剤として、受容体キナーゼ阻害剤、TGFβ活性化阻害ペプチド(特許文献2)、線維化抑制剤(特許文献3)、シンナモイル化合物(例えば、特許文献4、5)、含複素環化合物(特許文献6)、シクロプロパンカルボン酸アミド化合物(特許文献7)などが報告されている。
【0004】
TGFβ阻害剤に対しては、線維症に関する治療効果が期待される反面、TGFβの下流の経路を全て抑制してしまうため、副作用の危険性が指摘されている。そこで、TGFβよりも下流で、線維化関連遺伝子を直接転写活性化するSmadの活性を阻害することによって、線維症の治療ができないか検討が行われつつある。例えば、核内受容体がリガンド依存的にSmadを分解することに着目し、エストロゲン受容体リガンド、グルココルチコイド受容体リガンド、ビタミンD受容体リガンド、プロゲステロン受容体リガンド、レチノイン酸受容体リガンド等により、Smadのユビキチン化及び分解を誘導する方法が開示されている(特許文献8)。TGFβの下流で機能するSmadを直接標的とすれば、TGFβ刺激入力から線維症に関与する経路以外への情報伝達経路によって誘導される副作用の抑制が期待されるが、こうした核内受容体のリガンドを利用する場合には、Smadへの関与以外の、該リガンドが本来有する生理的機能に起因した副次的作用が生じ得るため、Smad活性を阻害する全ての核内受容体リガンドが線維症の治療に利用できるとは限らない点において、依然として未解決の問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO02005/084712号
【特許文献2】特開2008−247900
【特許文献3】特許第3700854号
【特許文献4】特開2006−104062
【特許文献5】特開2006−273847
【特許文献6】特開2007−308441
【特許文献7】特開2004− 35475
【特許文献8】特開2008−174463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、Smadの活性を阻害し、且つ自身の有する生理的機能による副作用の生じにくい化合物の探索につき鋭意研究を行った結果、核内受容体の一種であるペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome proliferator−activated receptor:PPAR、以下PPARとする)のアゴニストとして同定された置換フェニルプロピオン酸誘導体の、PPARアゴニスト活性に対する相対的TGFβ転写抑制活性が、他のPPARアゴニスト(例えば、ロシグリタゾンなど)に比べて高いことを見出し、本発明を完成させた。
従って、本発明は、PPARアゴニスト活性に比べて相対的に高いTGFβ抑制活性を示す化合物を含有する、線維化抑制のための医薬又は医薬組成物の提供を目的とする。
また、該医薬又は医薬組成物を用いた組織の線維化の抑制及び/又は予防方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
PPARは、核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性の転写因子であり、標的遺伝子の転写をリガンド依存的に誘導する。すなわち、リガンドがPPARに結合すると、PPARは標的遺伝子のプロモーター領域に存在するPPAR応答配列(PPAR responsive element:PPRE)に結合し、標的遺伝子の転写が誘導される。PPARには、α、δ、γのアイソフォームが存在し、標的遺伝子の転写誘導を通じて、血中中性脂肪の低下、HDLコレステロールの増加、体重の減少、血管新生の促進(以上α)、骨格筋における脂肪燃焼、エネルギー代謝の増大(以上δ)、脂肪細胞の新生、インスリン抵抗性の改善、血管新生の亢進等(以上γ)などの生理的機能を担っている。このような生理的機能を有するPPARアゴニストに対し、いわゆるメタボリックシンドロームに対する治療薬等の用途が期待されているが、その反面、既存のアゴニストの中には、その強力なアゴニスト活性に基づく副作用(例えば、肝機能障害、浮腫、体重増加など)を誘発する物も報告されている(特開2007−314464明細書などを参照)。
【0008】
本発明者らは、核内受容体依存的にSmadの分解が活性化されることに着目し、副作用を誘発する恐れのあるPPARアゴニストとしての生理活性に比して、相対的に高いSmad分解能を介したTGFβ転写抑制活性を示す化合物を見出すことを目的として研究を進めた結果、一般式(1)に示す化合物が、PPARアゴニスト活性に相対して高いTGFβ転写抑制活性を示すことを見出した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるα−置換フェニルプロピオン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物である。
【化1】


[式中、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基を表し、R2は水素原子又はハロゲン原子を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、ベンジルオキシ基を表し、R4は炭素数1〜6の低級アルキル基を表し、R5は水素原子又はハロゲン原子を表す。]
また、本発明は上記医薬を用いた組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、線維症、及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防に極めて有効であり、かつ、副作用が少ない医薬の提供が可能となる。
【0010】
また、本発明により、線維症、及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防において極めて有効であり、かつ、副作用が少ない方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ロシグリタゾン、化合物1及び化合物2を片側尿管結紮マウスに投与した場合の線維化タンパク質の存在量への影響。A、B及びCは、各々、ロシグリタゾン、化合物1及び化合物2を投与した後、腎組織中に存在するタイプIコラーゲンの量を定量した結果である。A、B及びC各々の左側のパネルは、異なる4個体に由来する腎組織中のタイプIコラーゲンとGAPDHに対するウェスタンブロットの結果である。右側のパネルは、ブロットの結果を定量化し、GAPDHの量に対する相対値としてタイプIコラーゲンの量を示した。
【図2】ロシグリタゾン、化合物1及び化合物2を片側尿管結紮マウスに投与した場合の腎組織の線維化への影響。A、B及びCは、各々、ロシグリタゾン、化合物1及び化合物2を投与した後、腎組織における線維化の進行を組織観察により検討した結果である。腎組織は、PAS又はMasson Trichromeで染色した後顕微鏡にて観察を行った。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般式(1)において、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基のいずれであってもよいが、これらのうち、フェニル基又はアダマンチル基であることが好ましい。置換位置は2位、3位、4位いずれも挙げられるが、特に4位が好ましい。
一般式(1)において、R2で表される水素原子、ハロゲン原子において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、これらのうち水素原子が好ましい。
【0013】
一般式(1)において、R3で表される炭素数1〜10のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ヘキシロキシ基等の炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルコキシ基が挙げられるが、これらのうちn−プロポキシ基、n−ブトキシ基又はn−ヘキシロキシ基が好ましい。
一般式(1)において、R4で表される炭素数1〜6の低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が挙げられるが、これらのうちエチル基が好ましい。
一般式(1)において、R5で表される水素原子、ハロゲン原子において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、これらのうち水素原子が好ましい。
【0014】
一般式(1)で表される置換フェニルプロピオン酸誘導体の薬剤上許容される塩は特に限定されるものではなく、慣用の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等の金属塩が挙げられる。
一般式(1)で表される置換フェニルプロピオン酸誘導体には、プロピオン酸部分に基づく光学異性体が含まれるが、そのような光学異性体及びそれらの混合物はすべて本発明の範囲内に含まれるものである。
【0015】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる(スキーム1)。
【化2】

【0016】
すなわち、一般式(1):
【化3】


[式中、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基を表し、R2は水素原子又はハロゲン原子を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R4は炭素数1〜6の低級アルキル基を表し、R5は水素原子又はハロゲン原子を表す。]
で表される化合物は、一般式(2):
【化4】


[式中、R3、R4及びR5は前記と同義であり、R6は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基を表す。]で表される公知の化合物(例えばWO01/92201号参照)と、一般式(4):
【化5】


[式中、R1及びR2は前記と同義である。]で表される化合物と反応させ(第一工程)、得られた一般式(3):
【化6】


[式中、 R1、R2、R3、R4、R5及びR6は前記と同義である。]で表される化合物のCOOR6部位を加水分解する(第2工程)ことにより製造することができる。
第1工程の反応は、一般式(1)で表される化合物が有するカルボキシル基の反応性をそのまま利用するか、又は当該カルボキシル基を反応性誘導基に変換し、その反応性を利用して実施することができる。
【0017】
「カルボキシル基の反応性誘導基」としては、例えば、酸塩化物、酸臭化物、酸無水物、カルボニルイミダゾール等が挙げられる。カルボキシル基の反応性誘導基の反応性を利用した反応は、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、塩基(例えば、水素化ナトリウム等のアルカリ金属水素化物;水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基)の存在下又は非存在下で実施することができる。この際の反応温度は通常−20〜150℃、好ましくは0〜60℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。また、一般式(4)で表される化合物の添加量は、一般式(2)で表される化合物に対して通常0.5〜3モル当量、好ましくは1〜2モル当量である。
【0018】
カルボキシル基の反応性をそのまま利用した反応は、塩化メチレン、クロロホルム、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、縮合剤の存在下、塩基の存在下又は非存在下、添加剤の存在下又は非存在下で実施することができる。縮合剤としては、例えば、N,N−ジメチルイミゾリニウムクロライド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、シアノリン酸ジエチル、ジフェニルリン酸アジド、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基等が挙げられる。添加剤としては、例えば、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、 N−ヒドロキシスクシンイミド、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン等が挙げられる。この際の反応温度は通常−20〜100℃、好ましくは0〜50℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。
【0019】
第2工程の加水分解反応はアルカリ性条件下で実施することができる。アルカリ性条件は、通常pH8〜14、好ましくはpH9〜13であり、アルカリ性条件の調整には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。この際の反応温度は通常0〜80℃、好ましくは室温〜60℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは3〜24時間である。
【0020】
また一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる(スキーム2)。
【化7】

【0021】
すなわち、一般式(1):
【化8】


[式中、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基を表し、を表し、R2は水素原子又はハロゲン原子を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R4は炭素数1〜6の低級アルキル基を表し、R5は水素原子又はハロゲン原子を表す。]
で表される化合物は、一般式(5):
【化9】


[式中、R3、R4、R5及びR6前記と同義である。]で表される公知の化合物(WO01/92201号参照)と、一般式(6):
【化10】


[式中、R1及びR2は前記と同義である。]で表される化合物と反応させ(第3工程)、得られた一般式(3):
【化11】


[式中、 R1、R2、R3、R4、R5及びR6は前記と同義である。]で表される化合物のCOOR6部位を加水分解する(第4工程)ことにより製造することができる。
【0022】
第3工程の反応は、トルエン、ベンゼン、アセトニトリル、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、酸(例えば、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸)の存在下、還元剤としてトリエチルシランの存在下で実施することができる。この際の反応温度は通常−20〜150℃、好ましくは0〜100℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。
第4工程の加水分解反応はアルカリ性条件下で実施することができる。アルカリ性条件は、通常pH8〜14、好ましくはpH9〜13であり、アルカリ性条件の調整には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。この際の反応温度は通常0〜80℃、好ましくは室温〜60℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは3〜24時間である。
【0023】
一般式(1)で表される化合物のうち、R4がSの立体配置を示す一般式(1c)で表される光学活性な化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる(スキーム3)。
【化12】

【0024】
すなわち、一般式(1c):
【化13】


[式中、R1は、R2、R3、R4及びR5は前記と同義である。]で表される化合物は、一般式(8):
【化14】


[式中、R3、R4、R5及びR6前記と同義である。]で表される化合物(WO00/75103号参照)と、一般式(7):
【化15】


[式中、R1及びR2は前記と同義である。]で表される化合物と反応させ(第5工程)、得られた一般式(9):
【化16】


[式中、 R1、R2、R3、R4、R5及びR6は前記と同義である。]で表される化合物のCOOR6部位を加水分解する(第6工程)ことにより製造することができる。
第5工程の反応は、一般式(8)で表される化合物が有するカルボキシル基の反応性をそのまま利用するか、又は当該カルボキシル基を反応性誘導基に変換し、その反応性を利用して実施することができる。
【0025】
「カルボキシル基の反応性誘導基」としては、例えば、酸塩化物、酸臭化物、酸無水物、カルボニルイミダゾール等が挙げられる。カルボキシル基の反応性誘導基の反応性を利用した反応は、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、塩基(例えば、水素化ナトリウム等のアルカリ金属水素化物;水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基)の存在下又は非存在下で実施することができる。この際の反応温度は通常−20〜150℃、好ましくは0〜60℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。また、一般式(7)で表される化合物の添加量は、一般式(8)で表される化合物に対して通常0.5〜3モル当量、好ましくは1〜2モル当量である。
【0026】
カルボキシル基の反応性をそのまま利用した反応は、塩化メチレン、クロロホルム、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、縮合剤の存在下、塩基の存在下又は非存在下、添加剤の存在下又は非存在下で実施することができる。縮合剤としては、例えば、N,N−ジメチルイミゾリニウムクロライド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、シアノリン酸ジエチル、ジフェニルリン酸アジド、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基等が挙げられる。添加剤としては、例えば、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、 N−ヒドロキシスクシンイミド、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン等が挙げられる。この際の反応温度は通常−20〜100℃、好ましくは0〜50℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは6〜24時間である。
【0027】
第6工程の加水分解反応はアルカリ性条件下で実施することができる。アルカリ性条件は、通常pH8〜14、好ましくはpH9〜13であり、アルカリ性条件の調整には、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。この際の反応温度は通常0〜80℃、好ましくは室温〜60℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは3〜24時間である。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(1)で表される置換フェニルプロピオン酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防のための医薬又は医薬組成物が提供される。本発明において、「線維化」の対象となる組織は、特定に限定されるものではなく、臨床上「線維化」として認められる現象が生じている組織であれば、全ての組織が本発明の対象となる。限定はしないが、あえて例を挙げるとすれば、血管、心臓組織、肺の組織、腎組織、皮膚組織、肝臓の組織などが典型的な「線維化」の対象となる組織である。また、組織の線維化によって引き起こされる疾患についても、組織の線維化に起因することが臨床上認められ、該組織化を抑制又は阻止することで当該疾患が治癒せしめることができる疾患の全てが、本発明の対象となる疾患に含まれる。あえて例を挙げるとすれば、動脈硬化、心筋梗塞、肺線維症、腎糸球体硬化症、間質性腎炎、糖尿病性腎症、全身性強皮症、全身性硬化症、皮膚瘢痕化などがある。
【0029】
本発明の医薬又は医薬組成物の有効成分としては、上記一般式(1)で表される化合物のほか、生理学的に許容されるその塩を用いてもよい。塩としては、例えば、酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ− ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。塩基性基が存在する場合には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などを挙げることができる。
さらに、本発明の医薬又は医薬組成物の有効成分として、一般式(1)で表される化合物又はその塩の溶媒和物若しくは水和物を用いることもできる。
【0030】
本発明の医薬又は医薬組成物は、有効成分である一般式(1)で表される化合物及び薬理学的に許容されるその塩、又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物自体を投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記物質と1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬又は医薬組成物の形態で投与することが望ましい。本発明の医薬又は医薬組成物の有効成分としては、上記の物質の2種以上を組み合わせて用いることができ、上記医薬又は医薬組成物には、組織の線維症又は線維症によって引き起こされる疾患に対する他の既知の有効成分を配合することも可能である。
【0031】
医薬又は医薬組成物の種類は特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。また、高分子などで被覆した徐放製剤を脳内に直接投与することも可能である。
【0032】
医薬又は医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、又は医薬組成物の製造方法は、組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機又は有機物質、或いは固体又は液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0033】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸− メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0034】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH 調整剤、塩化ナトリウム、ぶどう糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80 、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
【0035】
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
【0036】
皮膚用外用剤を製造するには、有効成分を白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどに加えて必要ならば加湿して練合し軟膏剤とするか、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体などの粘着剤と練合した後ポリアルキルなどの不織布に展延してテープ剤とする。
【0037】
本発明の医薬又は医薬組成物の投与量及び投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、或いは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0038】
本発明の医薬又は医薬組成物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。例えば、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0039】
本発明の医薬は、医薬組成物としてキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0040】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0041】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、或いは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0042】
さらに、本発明には、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患が発症又はこれに罹患した哺乳動物の該線維化又は該疾患に対する治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患に罹患した哺乳動物において、該線維化又は該疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって該線維化又は該疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
また、「予防」とは、組織の線維化又は組織の線維化によって引き起こされる疾患に罹患するおそれがある哺乳動物について、該線維化又は該疾患の発症又は罹患を予め阻止することを意味し、これによって該線維化又は該疾患の諸症状等の発症を予め阻止することを目的とする予防的処置の意味として使用される。
【0043】
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【実施例】
【0044】
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【0045】
〔化合物1〕2−エチル−3−[4−n−ヘキシロキシ−3−[N−(4−フェニル)ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸
【化17】


H−NMR(500MHz,CDCl);d7.82(d,J=8.3Hz,2H),7.62(d,J=8.3Hz,2H),7.59(d,J=7.5Hz,2H),7.45(t,J=7.5Hz,2H),7.38(t,J=7.5Hz,1H),7.18(d,J=2.1Hz,1H),7.07(dd,J=8.5,2.1Hz,1H),6.79(m,2H),4.62(d,J=5.6Hz,2H),4.00(t,J=6.4Hz,2H),2.89(dd,J=13.7,8.5Hz,1H),2.71(dd,J=13.7,6.4Hz,1H),2.57(m,1H),1.81(m,2H),1.66(m,1H),1.59(m,1H),1.47(m,2H),1.31(m,4H),0.95(t,J=7.3Hz,3H),0.88(t,J=6.8Hz,3H)
MS(FAB);488(M+H)
【0046】
〔化合物1a〕(S)−2−エチル−3−[4−n−ヘキシロキシ−3−[N−(4−フェニル)ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸 ジシクロヘキシルアミン塩
【化18】


融点92−93℃
元素分析値
3137NO・C1223N (分子量668.96)
計算値 C 77.21% H 9.04% N 4.19%
実測値 C 76.99% H 9.10% N 4.14%
【0047】
〔化合物2〕2−エチル−3−[4−n−ヘキシロキシ−3−[N−[4−(1−アダマンチル)]ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸
【化19】


H−NMR(500MHz,CDCl);d7.69(d,J=8.3Hz,2H),7.39(d,J=8.3Hz,2H),7.16(d,J=2.1Hz,1H),7.05(dd,J=8.1,2.1Hz,1H),6.77(d,J=8.1Hz,1H),6.73(s,1H),4.59(d,J=5.1Hz,2H),3.98(t,J=6.4Hz,2H),2.87(dd,J=13.7,8.5Hz,1H),2.70(dd,J=13.7,6.4Hz,1H),2.56(m,1H),2.10(s,3H),1.90(d,J=2.1Hz,6H),1.83−1.73(m,8H),1.66(m,1H),1.57(m,1H),1.45(m,2H),1.31(m,4H),0.95(t,J=7.3Hz,3H),0.88(t,J=6.8Hz,3H)
MS(FAB);546(M+H)
【0048】
〔化合物3〕(S)−2−エチル−3−[4−n―プロポキシ−3−[N−[4−(1−アダマンチル)]ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸
【化20】


融点105−107℃
元素分析値
3241NO(分子量503.68)
計算値 C 76.31% H 8.20% N 2.78%
実測値 C 76.02% H 8.32% N 2.72%
【0049】
〔化合物3a〕(S)−2−エチル−3−[4−n―プロポキシ−3−[N−[4−(1−アダマンチル)]ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸 ジシクロヘキシルアミン塩
【化21】


融点152−154℃
元素分析値
3241NO・C1223N (分子量685.00)
計算値 C 77.15% H 9.42% N 4.09%
実測値 C 76.85% H 9.39% N 4.02%
【0050】
〔化合物4〕(S)−2−エチル−3−[4−n―ブトキシ−3−[N−[4−(1−アダマンチル)]ベンゾイルアミノ]メチル]フェニルプロピオン酸
【化22】


3343NO (分子量517.71)
計算値 C 76.56% H 8.37% N 2.71%
実測値 C 76.33% H 8.39% N 2.68%
【0051】
〔実験例1〕PPARγ転写活性及び TGFβ抑制活性の評価
上記の合成化合物1〜4について、インビトロにおけるPPARγ転写活性及びTGFβ転写活性を定法により測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】


ロシグリタゾン、並びに、本発明の本発明の化合物1〜4のPPARγ相対転写活性及びTGF−β相対転写抑制活性を測定し、前者に対する後者の比を選択性比率として表1に示す。この結果から、本発明の本発明の化合物は、ロシグリタゾンよりも高い選択性比率を示し、PPARγ転写活性に起因する副次的作用が少ないことが予想される。
【0052】
〔実験例2〕in vivoモデル動物を用いた本発明の化合物の評価
線維化モデルマウスの作製
片側尿管結紮マウスを作製し(作製方につき、Tanら,J Am Soc Nephrol 17:3382−3393,2006などを参照のこと)、当該モデルマウスを用いて、本発明の化合物による線維化の抑制の効果を検討した。
具体的には、Jcl:ICR系統の4週齢の雄のマウス(日本クレア株式会社)に対し、4日間の馴化期間の後、薬剤の投与を開始した。薬剤投与は、体重測定後、腹腔内への投与により行った。投与量は、コーンオイル(コントロール)を5ml/kg、ロシグリタゾン、化合物1及び化合物2を、各々、30mg/5ml/kgとして行った。投与開始後3日目に、片側尿管結紮処理群に対し、ネンブタールで麻酔を行った後、開腹し、右腎臓尿管の2箇所にて結紮処理を行った。無処理群に対しては、結紮処理以外は、処理群と同じ処置を施した。結紮処理から7日目に、ジエチルエーテル麻酔の後、開腹し、腎臓の採取を行った。無処理群からも同様に腎臓を採取した。採取した腎臓組織を使用して、腎組織における線維化タンパク質の存在量及び線維化の程度について検討を行った。
【0053】
線維化タンパク質の存在量への影響
採取した腎組織からの抽出物中に存在する、線維化タンパク質の一つであるタイプIコラーゲンの量をウェイスタンブロットにより定量した。定量したタイプIコラーゲンの量は、GAPDHの量に対する相対値で示した(図1)。ロシグリタゾン投与と比較して、本発明の化合物1、2を投与した場合には、タイプIコラーゲンの存在量が減少していた(図AとB及びCを比較のこと)。
【0054】
線維化モデルマウスの腎組織の線維化に対する影響
PPARγのアゴニストとして既知のロシグリタゾンをポジティブコントロールとして、腎組織の線維化に対する化合物1及び3の抑制効果について検討した。
その結果、コントロール(コーンオイル投与)の場合には、組織の線維化が進んでいるのに対し(図2中、白っぽく見える部分)、本発明の化合物1又は2を投与した場合には、ロシグリタゾン投与の場合と同様に、組織の線維化が抑えられている明らかとなった(図2)。なお、線維化の評価については、投与薬剤を知らされていない2名の病理医によって判断が行われた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、組織の線維化及び線維化によって発症する各種疾患を治療するための薬剤又は医薬又は医薬組成物を提供するもので、その利用価値は高く、また、さらなる高い効果を示す化合物及びそれを含有する医薬等の開発に大きく貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるα−置換フェニルプロピオン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物若しくはそれらの水和物を有効成分として含む、組織の線維化及び組織の線維化によって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。
【化1】


[式中、R1はトリフルオロメチル基、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、炭素数4から8の環状アルキル基、無置換又は置換基を有していても良いアダマンチル基、カルボラニル基又はダイアマンチル基を表し、R2は水素原子又はハロゲン原子を表し、R3は炭素数1〜10のアルコキシ基、ベンジルオキシ基を表し、R4は炭素数1〜6の低級アルキル基を表し、R5は水素原子又はハロゲン原子を表す。]
【請求項2】
R1がフェニル基、アダマンチル基のいずれかである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R2が水素原子である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
R3がn−プロポキシ基、n−ブトキシ、n−ヘキシロキシからなるグループより選択されるものである請求項1ないし3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
R4がエチル基である請求項1ないし4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
R5が水素原子である請求項1ないし5のいずれかに記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−208996(P2010−208996A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57264(P2009−57264)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省科学技術試験研究委託事業「核内レセプターの新規機能解析と構造情報に基づいた線維化疾患治療法の開発」、産業技術強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(501083643)学校法人慈恵大学 (20)
【Fターム(参考)】