説明

置換基脱離化合物および有機半導体材料およびその膜およびそれを用いた有機トランジスタ

【課題】より合成が簡便で有機溶媒に対する高い溶解性を有し、外部エネルギーの印加に対して高効率で置換基脱離が可能な新規な置換基脱離化合物、そして該化合物に対して熱などの外部刺激を加えることで、化学的に不安定な末端オレフィン基を生成することなく、高効率で得られる化合物を含む有機半導体材料、また該置換基脱離化合物を有機半導体前駆体として用いて製膜した後に、熱等により有機半導体へと変換することで得られる膜を用いた有機電子デバイス(特に有機薄膜トランジスタ)の提供。
【解決手段】下式Iで示される部分構造を有する置換基脱離化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成が簡便で溶解性に富み、外部エネルギーの印加に対して高効率での置換基脱離が可能な置換基脱離化合物、それを用いて製造された化合物を含む有機半導体およびそれを含む膜、そしてその膜を用いた有機電子デバイスに関する。本発明の置換基脱離化合物および有機半導体は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の有機電子デバイスを溶液プロセスを用いて作製可能であるため有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機薄膜トランジスタの研究開発が盛んである。
これまでに、低分子誘導体の有機半導体材料として、ペンタセン等のアセン系材料が報告されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
このペンタセンを有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらアセン系材料は汎用溶媒に対しきわめて溶解性が低く、それを有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層として薄膜化する際には、真空蒸着工程を経る必要がある。ゆえに、前述したような塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0003】
さらに、ペンタセンと同様のアセン系材料の一つとして、ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンの誘導体である下記式(1)の構造の2,7−ジフェニル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(特許文献2、非特許文献2参照)は、オクタデシルトリクロロシランで処理した基板上に蒸着することにより、ペンタセンに匹敵する移動度(約2.0cm/V・s程度)を示し、また大気下での長期安定性も有する。
しかしながら、これは、ペンタセン同様真空蒸着工程を経る必要があり、塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0004】
ところで、有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法、インクジェット法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタと比し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。
これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスが軽量化や低コスト化できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
【0005】
そこで、液晶性を有し、かつ高い溶媒溶解性を有し、スピンコート、キャストなどで塗布可能であり、液晶相温度(100℃程度)以下の熱処理により、同じくペンタセンに匹敵する移動度(約2.0cm/V・s程度)を示す同じ誘導体である下記式(2)の構造の2,7−ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンを塗工法により用いることが提案(特許文献2、非特許文献3参照)されている。
しかしながら、この場合は液晶相を発現する温度が100℃程度と比較的低く、製膜後も熱処理により膜構造の変化が生じ得るため、有機半導体デバイス作製におけるプロセス適応性に問題がある。
【0006】
【化1】

【0007】
そこで、近年、溶媒溶解性の高い低分子化合物を半導体前駆体とし、これを溶剤などに溶解し塗布プロセスで膜を形成し、そののち半導体に変換して有機半導体膜を得、電界効果トランジスタを作製する方法が近年報告されている。
例えば、レトロディールスアルダー反応を利用して、ペンタセンやポルフィリン系化合物、フタロシアニン系化合物へと変換する方法が精力的に研究されている。(例えば、特許文献3〜5、非特許文献4〜7参照)。
【0008】
非特許文献4に記載されるように、有機半導体材料における電荷移動性(charge
mobility)は、有機材料被膜の規則的な分子配列性(結晶化等のordering)に依存するので、蒸着法によれば膜中の材料の分子配列性を確保することはできるが、他方、分子配列性を持つ有機材料は一般的に有機溶媒可溶性が低い。つまり、有機材料膜の半導体特性と膜成形容易性(塗工法による)とは一般的に相容れ難い。
したがって、双方を両立させるには、唯一、可溶性基を有する半導体前駆体を用いた塗工液により塗膜を形成後、塗膜中の前駆体を有機半導体材料に変換することが考えられる。これら文献の開示するところをそのような意味のものまで演繹して思考解釈すると、これら文献の貢献度は低くない。
【0009】
しかし、これらの例のうちペンタセン前駆体からはテトラクロロベンゼン分子等が脱離するが、テトラクロロベンゼンは、沸点が高く反応系外に取り除くことが難しいことに加え、その毒性が懸念される。
また、ポルフィリン、フタロシアニンについてはいずれも煩雑な合成を必要とするため適用範囲が狭く、より簡便に合成可能な置換基化合物の開発が必要とされている。
【0010】
また、スルホン酸エステル系置換基を有する溶媒溶解性の高い前駆体に外部刺激を与えることで、置換基を脱離し、水素原子に置き換えることで、フタロシアニンへと変換する方法が提案されている(例えば特許文献6参照)
しかし、この方法はスルホン酸エステルの極性が高いため非極性の有機溶媒への溶解性が充分ではなく、脱離成分であるスルホン酸の沸点が高く、系外への除去が困難であった。加えて、前駆体からの変換に要する温度も少なくとも250℃〜300℃以上と比較的高いことが問題であった。
【0011】
また、ニトロエステルに熱刺激を与えることで、置換基を脱離し、ナフタレン誘導体へと変換する方法が提案されている(例えば、非特許文献8参照)。しかし、ニトログリセリン、ニトロセルロースなどに代表されるニトロエステル類は、不安定で爆発性があるため、化合物の長期保存性に問題があった。
【0012】
また、オリゴチオフェンの分子末端β位にアルキル鎖を有するカルボン酸エステルを導入することで可溶化し、これに熱を加えて脱離させることでオレフィン置換オリゴチオフェンやオレフィン置換[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献7、8、非特許文献7参照)。
この方法は150℃〜250℃程度の加熱で脱離が起こるが、変換後の分子末端にオレフィン基(ビニル基、プロペニル基等)が生成し、これが熱や光によりシスートランスの異性化を伴うため、材料の純度の低下および結晶性が損なわれるという問題があった。
また、反応性の高い末端オレフィン基の存在は、酸素や水分に対する安定性が低下すること、加えて高温下においてオレフィン基同士が熱重合反応を起こしてしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した従来化合物においては前駆体の溶解性、脱離成分の安全性、変換温度、変換後の化合物の安定性に問題があり、また合成上においても所望の中間体を得ることが難しかった。
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、より合成が簡便で、保存性が良く、有機溶媒に対する高い溶解性を有し、外部エネルギーの印加に対して高効率で置換基脱離が可能な新規な置換基脱離化合物、そして該化合物に対して熱などの外部刺激を加えることで、化学的に不安定な末端オレフィン基を生成することなく、高効率で得られる化合物を含む有機半導体材料、また本発明の置換基脱離化合物を有機半導体前駆体として用いて製膜した後に、熱等により有機半導体へと変換することで、溶液プロセスにおいても難溶性の有機半導体材料の連続した膜を得ることができ、該膜を用いた有機電子デバイス(特に有機薄膜トランジスタ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
(1)「下記一般式(I)で示される部分構造を有する置換基脱離化合物。
【0015】
【化2】

(ここで、(X,X)、(Y,Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともにハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X,X)または(Y,Y)の一対の前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ結合して環状の前記アシルオキシ基を形成していてもよい。R乃至Rは水素原子または置換基である。Q、Qは水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、それぞれ結合して環を形成していてもよい。)」、
(2)「前記一般式(I)が下記一般式(III)で示される部分構造を有する置換基脱離化合物。
【0016】
【化3】

(Q乃至Qは水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、(Q,Q)、(Q,Q)、(Q,Q)はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)」、
(3)「前記一般式(III)で示される化合物が下記一般式(IV)、(V)で表わされる部分構造であることを特徴とする前記第(1)項又は第(2)項に記載の置換脱離化合物。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

(ここで、nは1以上の整数であり、n=2以上の時括弧内の置換基は同一であっても異なっていてもよい。Arは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基である。ここで、一般式(IV)および(V)は、Arがシクロヘキセン誘導体骨格と共有結合を介して結合しているか、縮環していることを表わす。)」、
(4)「前記Arが
(i)1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環同士が縮環された化合物、
及び
(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、
からなる群から少なくとも1つ以上選択される化合物であることを特徴とする前記第(3)項に記載の置換脱離化合物」、
(5)「前記芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環は、ベンゼン環およびチオフェン環であることを特徴とする前記第(4)項に記載の置換基脱離化合物」、
(6)「前記Arがハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基およびアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい下記構造式、
【0019】
【化6】

であることを特徴とする前記第(3)項乃至第(5)項に記載の置換脱離化合物」、
(7)「前記第(1)項乃至第(6)項に記載の置換基脱離化合物から前記一般式(IIa)、(IIb)で示されるハロゲン化水素またはカルボン酸誘導体を脱離させることにより得られる化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料」、
(8)「前記第(7)項に記載の有機半導体材料を含む有機半導体膜」、
(9)「前記第(8)項に記載の有機半導体膜を用いることを特徴とする有機電子デバイス」、
(10)「前記有機電子デバイスが有機薄膜トランジスタであることを特徴とする前記第(9)項に記載の有機電子デバイス」、
(11)「前記有機薄膜トランジスタが、有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極と第2の電極と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極を具備していることを特徴とする前記第(10)項に記載の有機薄膜トランジスタ」、
(12)「前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする前記第(11)項に記載の有機薄膜トランジスタ」。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より合成が簡便で溶解性に富む置換基脱離化合物、該置換基脱離化合物の置換基脱離反応により不安定な末端置換基が存在しない構造の有機半導体材料を提供することが可能である。
また、有機半導体前駆体として前記置換基脱離化合物の溶液を塗布し、同様の脱離反応を行なうことにより有機半導体膜を得、そして前記膜を用いた有機電子デバイス、特に有機薄膜トランジスタを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】化合物11のIRスペクトルである(横軸は波数であり、縦軸は透過率である。上段から、加熱前、170℃、180℃、220℃、230℃、240℃、260℃で加熱処理した化合物11、化合物17のIRスペクトル。)
【図2】TG−DTA(化合物11)(横軸は温度[℃],縦軸左は重量変化[mg],縦軸右は示差熱[mV]である。)
【図3】本発明の化合物の膜の偏光顕微鏡写真である。
【図4】有機薄膜トランジスタの概略図である。
【図5】本発明の有機薄膜トランジスタの電流―電圧特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を示して、説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0023】
[1.置換基脱離化合物および脱離反応により得られる化合物]
本発明の置換基脱離化合物は、特定の溶媒可溶性置換基を有することが特徴であり、該化合物に外部刺激を加え特定の置換基を脱離させることにより、目的とする化合物を製造することが可能である。
特定の溶媒可溶性置換基は下記一般式(I)、(III)、(IV)で示されるハロゲン原子またはアシルオキシ置換シクロヘキセン構造である。これに外部刺激を加えることにより、溶媒可溶性置換基は特定の脱離性置換基(X,X)および(Y,Y)を一般式(IIa)および(IIb)で表わされる形で脱離し、代わりにシクロヘキセン構造部位がベンゼン環に置き換わった一般式(Ia)、(IIIa)、(IVa)で示される構造へと変換され、それに対応する化合物が得られる。
【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
(上記一般式中、(X,X)、(Y,Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともにハロゲン原子、炭素数1以上の置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基である。また、(X,X)または(Y,Y)の一対のアシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに環状のアシルオキシ基を形成していてもよい。
乃至Rは水素原子、ハロゲン原子、有機基である。Q乃至Qは1価の有機基であり、(Q,Q)、(Q,Q)、(Q,Q)、(Q,Q)の組で結合して環を形成していてもよい。)
【0027】
(X,X)および(Y,Y)で示される置換基の例としては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上の置換もしくは無置換のアシルオキシ基が挙げられる。
【0028】
置換もしくは無置換のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、炭素数2以上のハロゲン原子を含んでいてもよい直鎖または環状の脂肪族カルボン酸および炭酸ハーフエステル、炭素数4以上の芳香族カルボン酸等のカルボン酸および炭酸ハーフエステル由来のアシルオキシ基が挙げられる。
具体的には、例えばホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、クロロアセトキシ基、フルオロアセトキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピオニルオキシ基、ペンタフルオロプロピオニルオキシ基、シクロプロパノイルオキシ基、シクロブタノイルオキシ基、シクロヘキサノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
加えて、上記例示したアシルオキシ基のカルボニル基とアルキル基あるいはアリール基の間に酸素原子を挿入した構造に対応する炭酸ハーフエステル由来の炭酸エステル構造も挙げることができる。
【0029】
また、本発明における置換基R乃至RおよびQ乃至Qで示される一価の有機基の例としては、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基[直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルキル基を表わす。これらは、アルキル基(好ましくは置換または無置換の炭素数1以上のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基)、シクロアルキル基(好ましくは置換または無置換の炭素数3以上のアルキル基であり、例えばシクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基)が含まれる。以下に説明する置換基においても、アルキル基は上記概念のアルキル基を示す。]
【0030】
アルケニル基[直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルケニル基を表わす。それらは、アルケニル基(好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルケニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものがあげられる。例えばエテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1,1,1−トリフルオロ−2−ブテニル基)、シクロアルケニル基(上記した炭素数2以上のシクロアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものがあげられる。例えば、1−シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、2−シクロヘプテニル基、3−シクロヘプテニル基、4−シクロヘプテニル基、3−フルオロ−1−シクロヘキセニル基等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス(E)体及びシス(Z)体等の立体異性体が存在する場合は、その何れであってもよく、またそれらの任意の割合の混合物であってもよい)。]
【0031】
アルキニル基(好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルキニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上三重結合としたものがあげられる。例えば、エチニル基、プロパギル基、トリメチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基が挙げられる。)
【0032】
アリール基(好ましくは置換または無置換の炭素数6以上のアリール基であり、例えば、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、p−クロロフェニル、p−フルオロフェニル、p−トリフルオロフェニル、ナフチル等が挙げられる。)
【0033】
ヘテロアリール基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物であり、例えば、2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−チエノチエニル、−2−ベンゾチエニル2−ピリミジル等が挙げられる。)
【0034】
アルコキシル基およびチオアルコキシル基(好ましくは置換または無置換のアルコキシル基およびチオアルコキシル基であり、上記に例示したアルキル基およびアルケニル基およびアルキニル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。)
【0035】
アリールオキシ基およびチオアリールオキシ基[好ましくは置換または無置換のアリールオキシ基およびアリールチオオキシ基であり、上記に例示したアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアリールオキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。]
【0036】
ヘテロアリールオキシ基およびヘテロチオアリールオキシ基(好ましくは置換または無置換のヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオオキシ基であり、上記に例示したヘテロアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してヘテロアリールオキシ基あるいはヘテロアリールチオアリールオキシ基としたものが具体例として挙げられる)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、
アミノ基[好ましくは、アミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)等が挙げられる)]が挙げられる。
【0037】
前記Q乃至Qで表わされる一価の有機基としては、前記R乃至Rと同様の範囲で表わすことが可能であるが、好ましくは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基であり、QとQで該環を形成していることがより好ましい。
とQが形成する環の形式の一例としては下記のような構造が挙げられる。
【0038】
【化9】

乃至Qについても同様の範囲を取ることが可能であるが、下記一般式(IV)、(V)に示されるようにQ乃至Qのうち一つ以上が前記アリール基またはヘテロアリール基であるか、またはQとQ、QとQ、QとQのうち一つ以上の組が前記アリール基またはヘテロアリール基からなる環を形成していることが好ましい。
【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

前記Arは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基であるが、それらは具体的にはベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環が好ましく、より好ましくは、
(i)1つ以上の前記アリール基およびヘテロアリール基、または前記環同士が縮環された化合物、
(ii)(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、
上記(i)および(ii)より形成される群から少なくとも一つ以上選択される組み合わせで選ばれるπ共役系化合物が好ましく、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び共有結合を介した連結による相互作用によって縮環または連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。
ここでの共有結合とは、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、オキシエーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられるが、好ましくは前記単結合、二重結合、三重結合のいずれかである。
【0041】
縮環または共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は2以上が好ましく、具体的には、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、クリセン、ピレン(下記一般式Ar3)、ペンタセン、チエノチオフェン(下記一般式Ar1)、チエノジチオフェン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、ベンゾチオフェン(下記一般式Ar2)、ベンゾジチオフェン、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(BTBT、(下記一般式Ar4)、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f][3,2−b]チエノチオフェン(DNTT)、ベンゾジチエノチオフェン(TTPTT、下記一般式Ar5)、ナフトジチエノチオフェン(TTNTT、Ar6、7)などの縮合多環化合物、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェンなどのような芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環のオリゴマー、フタロシアニン類、ポルフィリン類などが挙げられる。
【0042】
【化12】

また、上記一般式中、nは1以上の整数であり、Arに対する溶解性置換基の置換数を表わす。一般式(IV)においては、Arに対して共有結合を介して結合している置換基の数を示す。また、一般式(V)においては、Arに対して溶解性置換基が縮環構造を取って結合している数を示す。
当然これらはいずれも、Ar上の置換あるいは縮環可能な原子の数に依存する。例えば、無置換のベンゼン環においては、最大で6つの置換位置で共有結合を介して結合が可能であり、最大6カ所で縮環可能である。しかしながら、Ar自体の分子の大きさ、溶解性に応じた置換数、分子の対称性、合成の容易さを考慮すると、下限としてnは2以上がより好ましい。
nがあまりに大きいと、溶解性置換基同士が立体的に混みいりすぎるため好ましくない上に脱離反応前後の体積収縮が大きくなることがあるため、上限としては、分子の対称性、合成の容易さ、溶解性に応じた充分な置換数を考慮すると4以下が好ましい。
【0043】
前記アシルオキシ基(X,X)または(Y,Y)は下記一般式(VI)で表わされる構造を有することが好ましい。
【0044】
【化13】

n=1の時は下記一般式(VI−1)のような構造となり、(X,X)または(Y,Y)は環を形成しておらず、それぞれ独立している。
【0045】
【化14】

n=2の時は下記一般式(VI−2)のような構造となり、(X,X)または(Y,Y)の位置で置換され、環を形成している。
【0046】
【化15】

前記Rの範囲は前述のとおりであるが、その中においても水素原子(一般式(V)でn=2のときは除く)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアルコキシル基、置換または無置換のチオアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基、シアノ基が特に好ましく、より好ましくは水素原子(一般式(V)でn=2のときは除く)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシル基、置換または無置換のチオアルキル基である。最も好ましくは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシル基のときである。
【0047】
脱離成分X−YおよびX−Yとしてはハロゲン原子の他に、前記アシルオキシ基を構成する置換基の−O−結合部位を切断し末端に水素を置換した対応するカルボン酸および炭酸ハーフエステルが挙げられる(例えば、ギ酸、酢酸、ピルビン酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、モノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、2,2−ジフルオロプロピオン酸、トリフルオロ酢酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロプロピオン酸、シクロプロパン酸、シクロブタン酸、シクロヘキサン酸、安息香酸、p−メトキシ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、メチルハイドロゲンカーボネート、エチルハイドロゲンカーボネート、イソプロピルハイドロゲンカーボネート、ヘキシルハイドロゲンカーボネートなどが挙げられる。これら炭酸ハーフエステル類は通常不安定であるため、対応するアルコール(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ヘキサノール)と二酸化炭素まで分解されることがある。)
【0048】
上記一般式(V)における置換基Rには特に制限はないが、溶媒可溶性や成膜製という観点からは、置換基としてある程度分子間相互作用を減少し、溶媒との親和性を高めるようなものであることが有利になってくるが、置換基の脱離前後における体積変化があまりに著しいと脱離反応における薄膜の均一性に問題が生じることが懸念されるため、適度な溶解性を維持しつつできるだけ小さい置換基である方が好ましい。また、未だ定かではないが、Rはカルボニル酸素の負の分極の度合いが大きくなるような電子吸引性の置換基(たとえばハロゲンを有するアルキル基や、シアノ基を有する基)であることが脱離反応の効率化という点好ましいと考えられる。
【0049】
本発明の置換基脱離化合物は、上述のとおり脱離性の溶媒可溶性置換基を有し、これにより溶媒可溶化することが特徴である。
本発明において、「溶媒可溶性」とは、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.05wt%以上の溶解度を有することをいう。好ましくは0.1wt%以上であり、より好ましくは0.5wt%であり、最も好ましくは1.0wt%以上である。
また、置換基AおよびBの組み合わせによっては、π共役化合物A−(C)nの溶媒に対する溶解性が変わってくる。
ここで、「溶媒不溶化」とは、前記溶媒可溶性の状態よりも1桁以上溶解度を低下させることをいう。具体的には、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で、0.05wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.005wt質量%以下に溶解度を低下させることが好ましく、0.1wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.01wt%以下に溶解度を低下させることがより好ましく、0.5wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.05wt%未満に溶解度を低下させることが特に好ましい、さらに最も好ましくは1.0wt%以上の溶解度から0.1wt%未満に低下させることが好ましい。そして、「溶媒不溶性」とは、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.01wt%未満の溶解度を有することをいい、0.005wt%以下であることが好ましく、0.001wt%以下であることがより好ましい。
【0050】
上記「溶媒可溶性」及び「溶媒不溶性」の程度を規定するときの溶媒の種類は特に限定されず、実際に用いる溶媒及び温度により定めてもよいが、例えばTHFやトルエンあるいはクロロホルム、メタノールに対する溶解度(25℃)として特定することができる。
ただし、本発明に用いられる溶媒がこれによって限定されるものではない。
脱離反応による変換の前後で溶解性が大きく変化することで、続けて異なる膜を積層する際においてもその際に用いる溶媒に侵されにくくなるため、有機薄膜トランジスタ、有機EL、有機太陽電池などのような有機電子デバイスの製造工程において有用である。
【0051】
本発明の置換基脱離化合物の具体的な構造として下記の化合物群を例示するが、本発明における置換基脱離化合物はこれらに限定されるものではない。また、溶媒可溶性置換基にはアシルオキシ基の立体配置の異なる立体異性体が複数存在することが容易に推察でき、下記化合物はそれらの混合物であることも推察される。
【0052】
【化16】

【0053】
【化17】

【0054】
【化18】

【0055】
前記置換基脱離化合物に熱などのエネルギーを印加することにより、後述の脱離反応を起こし、特定の置換基を脱離することで、特定化合物を得ることができる。
以下に、前記具体例に示した置換基脱離化合物から製造される特定化合物を以下に例示するが、本発明における特定化合物はこれらに限定されるものではない。
【0056】
【化19】

【0057】
【化20】

【0058】
[2.置換基脱離化合物の脱離反応による特定化合物の製造方法]
前記脱離反応について詳細に説明する。
下記一般式(I)に示すシクロヘキセン環構造を有する化合物から一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離成分を脱離し、一般式(II)に示す構造の特定化合物へと変換する。
【0059】
【化21】

一般式(I)で示される化合物には置換基の立体的な配置が異なる異性体が複数存在するが、いずれも一般式(II)で示される特定化合物へと変換され、脱離成分は同一であることに変わりはない。しかし、中でもXとYおよびXとYがシクロヘキサン環平面に対して同一の側にある状態すなわちcis構造を取っていることが、脱離反応の効率、変換温度、反応収率の観点からより好ましい。
【0060】
化合物(I)から脱離する基である(X,X)、(Y,Y)は脱離性基と定義され、X−YおよびX−Yは脱離成分と定義される。脱離成分は固体、液体、気体の3態を取りえるが、系外への除去を考えると、脱離成分が液体または気体であることが好ましく、特に好ましくは常温で気体であることまたは、脱離反応を行なう温度において気体となることである。
前記沸点としては大気圧(1013hPa)において、500℃以下であることが好ましく、系外への除去の容易さと生成するπ共役化合物の分解・昇華温度を考えると、400℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは300℃以下である。
以下に(X,X)が同一のアシルオキシ基、(Y,Y)およびR乃至Rが水素原子、Rが置換又は無置換のアルキル基および置換または無置換のアルコキシ基である場合を一例として下記に示すが、本発明の置換基脱離化合物は必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0061】
【化22】

【0062】
【化23】

上記の例の場合、一般式(VII)で示されるシクロヘキセン環構造から、脱離成分として一般式(IX)で示されるアルキル鎖を有するカルボン酸2分子が脱離し、一般式(VIII)で示されるベンゼン環を含む構造に変換される。また、Rが置換または無置換のアルコキシ基の場合は、炭酸ハーフエステル(IX)が不安定であるため、以下に示すようにアルコール(IX−1)と二酸化炭素(IX−2)にまで分解されることがある。上記一般式(VII)で示される化合物から脱離成分が脱離する機構について以下に概略を示す。
【0063】
【化24】

上記一般式(VII)に示すように、六員環状の遷移状態を取ることで、β−炭素上の水素原子がカルボニルの酸素原子上へと1,5−転位することで協奏的な脱離反応が起こり、カルボン酸が脱離し、シクロヘキセン環構造から一般式(VIII)に示されるようなベンゼン環構造へと変換される。複数の立体異性体が存在する場合においても、反応の速度は違えど、上記反応は進行する。
しかし、中でもアシルオキシ基と水素原子がシクロヘキサン環平面に対して同一の側にある状態すなわちcis構造を取っていることが、脱離反応の効率、変換温度、反応収率の観点からより好ましい
【0064】
β炭素上の水素原子の引き抜き、転移が反応の第一段階であるため、酸素原子の負の分極の度合いが強いほど反応は起こりやすい。その度合いは例えば側のアルキル鎖によっても変わってくるし、酸素原子を同じく第16族の元素であるセレン、テルル、ポロニウムなどのカルコゲン原子などに変えることによっても変化する。
【0065】
この脱離反応を行なうために印加するエネルギーとしては、熱、光、電磁波が挙げられるが、反応性および収率、後処理の観点から、熱エネルギーあるいは光エネルギーが好ましく、特に熱エネルギーが好ましい。また、熱および光を共に用いることも可能である。共に用いる場合、それらは同時であっても、前後して用いてもよい。また、酸または塩基の存在下で上記エネルギーを印加してもよい。
【0066】
通常、上記脱離反応には、官能基の構造に依存するが、反応速度および反応率の観点から加熱が必要となることが多い。
脱離反応を行なうための加熱の方法には、支持体上で加熱する方法、オーブン内で加熱する方法、マイクロ波の照射による方法、レーザーを用いて光を熱に変換して加熱する方法、光熱変換層を用いる等種々の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
脱離反応を行なうための加熱温度については、室温(およそ25℃)〜500℃の範囲を用いることが可能であり、下限温度は材料の熱安定性および脱離成分の沸点を考え、上限温度ではエネルギー効率や、未変換分子の存在率、変換後のπ電子共役化合物の分解等を考慮すると、40〜500℃の範囲が好ましく、さらに前駆体の合成の熱安定性および変換後のπ電子共役化合物の分解および昇華温度を考慮するとより好ましくは80℃〜400℃の範囲であり、特に好ましくは80℃〜300℃である。
ここで、昇華温度とは、例えばTG−DTAにおいて初期重量から5%の重量、好ましくは3%以下、より好ましくは1.0%の重量減少が観測された温度と定義することが可能である。
上記加熱の時間については、高温であるほど反応時間は短く、低温であるほど脱離反応に必要な時間は長くなる。また、置換基脱離化合物の反応性、量にもよるが、通常0.5〜120分、好ましくは1〜60分、特に好ましくは1分〜30分である。
【0068】
光を外部刺激として用いる場合は、赤外線ランプや、化合物が吸収する波長の光を照射すること(例えば405nm以下の波長に露光)等を利用してもよい。その際に半導体レーザーを用いてもよい。例えば、近赤外域のレーザー光(通常は780nm付近の波長のレーザー光)、可視レーザー光(通常は、630nm〜680nmの範囲の波長のレーザー光)、波長390〜440nmのレーザー光が挙げられる。特に好ましくは波長390〜440nmのレーザー光であり、440nm以下の範囲の発振波長を有する半導体レーザー光が好適に用いられる。中でも好ましい光源としては、390〜440(更に好ましくは390〜415nm)の範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光、中心発振波長850nmの赤外半導体レーザー光を光導波路素子を使って半分の波長にした中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザー光を挙げることができる。
【0069】
上述の酸または塩基は脱離反応の触媒として働き、より低温での変換が可能となる。これらの使用方法は特に限定はされないが、置換基脱離化合物に対してそのまま添加してもよいし、任意の溶媒に溶解させ溶液にして添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で加熱処理を行なってもよいし、光酸発生剤および光塩基発生剤等を添加し、光照射によって系内で酸および塩基を得てもよい。
【0070】
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸、蟻酸、リン酸等、2−ブチルオクタン酸等を用いることができる。
【0071】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のイオン性発生剤とイオン性光酸発生剤イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジスルホニルジアゾメタン、ニトロベンジルスルホネート等の非イオン性発生剤を挙げることができる。
【0072】
また塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
【0073】
光塩基発生剤としては、カルバマート類、アシルオキシム類、アンモニウム塩等を挙げることができる。
中でも揮発性の酸または塩基の雰囲気中に行なうのが、反応後の酸塩基の系外への除去の容易さを考えると好ましい。
【0074】
脱離反応を行なう際の雰囲気については、上記触媒の有無に関わらず大気下においても行なうことが可能であるが、酸化等の副反応および水分の影響を除くため、加えて脱離した成分の系外への排除を促すために、不活性ガス雰囲気下また減圧下で行なうことが望ましい。上記脱離性基としては、上記例示したカルボン酸エステル以外に、ハロゲン原子、炭酸エステル、キサントゲン酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステルに代表されるエステル類およびβ水素を有するアミンオキシドおよびスルホキシドおよびセレノキシド等も挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0075】
上記した脱離性基の形成方法については、後述のアルコールとカルボン酸クロライドもしくはカルボン酸無水物を反応させるまたはハロゲン原子とカルボン酸銀もしくはカルボン酸−4級アンモニウム塩の交換反応によってカルボン酸エステルを得る方法以外にも、ホスゲンとアルコールを反応させるまたは、アルコールとクロロギ酸アルキルなどの炭酸ハーフエステル類とを反応させることにより、炭酸エステルを得る方法、アルコールに二硫化炭素を加えた後、ヨウ化アルキルを反応させキサントゲン酸エステルを得る方法、三級アミンと過酸化水素あるいはカルボン酸を反応させアミンオキシドを得る方法、アルコールにオルトセレノシアノニトロベンゼンを反応させセレノキシドを得る方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
[3.置換基脱離化合物の製造方法]
本発明の置換基脱離化合物は、シクロヘキセン骨格とアシルオキシ基を有していることが特徴である(この構造部位は溶解性置換基という)が、この部分が剛直ではなくまた立体的に嵩高いため、結晶性が悪くこの構造を有する分子は溶解性が良好でかつ、溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定形の膜が得られやすい性質を有することが多い。
次に、溶解性置換基のシクロヘキセン骨格におけるハロゲン基およびアシルオキシ基の形成方法について詳細に述べる。
【0077】
下記一般式(X)に示すようなシクロヘキセン骨格を有する化合物から誘導が可能であり、これは従来公知の方法で製造し原料として用いることが可能であるが、本発明の脱離反応の形式から考えると1、4位または2、3位にそれぞれ一つ以上の水素原子を有していることが好ましい。
【0078】
【化25】

(式中R−Rは前記したものと同一の範囲である。)
【0079】
続けて、一般式(XI)に示すように、臭素化剤を用いて1、4位または2、3位を選択的にハロゲン化するが、後の工程の反応性からヨウ素原子、臭素原子、塩素原子が好ましく、特に好ましくは臭素原子である。臭素化剤としては、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N−クロロスクシンイミドなどが挙げられ、これらとアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルなどのラジカル開始剤を共存して行なうことが好ましい。
溶媒は必ずしも必要ではないが、種々の有機溶媒を用いることができ、特にベンゼン、四塩化炭素などが好適である。
反応温度は室温から溶媒の還流温度までを好適に用いることができる。ここで得られたハロゲン体も置換基脱離化合物として用いることができる。
【0080】
【化26】

【0081】
続けて、一般式(XII)に示すように、上記反応で得られたジハロゲン体に、2等量のカルボン酸銀またはカルボン酸四級アンモニウム塩を作用させることで、1、4位または2、3位がアシルオキシ化された目的物を得ることができる。
また、異なるカルボン酸銀またはカルボン酸四級アンモニウム塩をそれぞれ交互に1等量ずつ作用させることで非対称の化合物も得ることができる。
しかしながら、前記脱離反応における反応速度が大きく異なる可能性もあるため、用いるカルボン酸は同一であることが好ましい。
また、反応条件や用いるカルボン酸の構造によっては、複数の立体異性体が生成する可能性がある。具体的にはシクロヘキセン環と結合したアシルオキシ基の立体配置により、ラセミ混合物と、メソ体が任意の割合で得られることがある。1、4位と2、3位のアシルオキシ基および水素原子の立体構造によっては、脱離反応が著しく遅くなる場合がある。そのため、できるだけ反応が進行しやすい構造が好ましい。すなわち、1位および2位又は、3位および4位の置換基の位置関係がシクロヘキセン平面の同じ面にあるシス型となることが好ましい。一方、トランス型でも反応は進行するがきわめて遅いため有用性は低くなる。
これらは再結晶あるいは光学活性な固定層を用いたクロマトグラフィー等で分離することができる。カルボン酸銀塩としては、酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸銀などが挙げられ、カルボン酸4級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム5水和物と前述のカルボン酸(例えば酢酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸、ピバル酸、カプロン酸、ステアリン酸、トリフルオロ酢酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸)との塩が挙げられる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジチメルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエンなど種々の有機溶媒を用いることができるが、反応速度の観点や副反応を防ぐために、溶媒は脱水されたものを用いることが好ましい。
反応温度は室温から溶媒還流温度までを用いることが可能ではあるが、脱離反応などの副反応を防ぐためにもできるだけ50℃以下が好ましく、最も好ましくは室温(25℃)以下で行なうことである。
【0082】
【化27】

(式中、Acyはアシル基を示す。式中R〜Rは前記したものと同一の範囲である。)
【0083】
また、炭酸エステル構造を合成するには、原料の関係上、クロロギ酸アルキル等を用いるのが簡便である。その場合、下記一般式(XV)で示されるように上記アシルオキシ化合物を塩基等で加水分解したジオールへと変換することが好ましい。ここで用いるアシル基は加水分解されやすい酢酸エステルやプロピオン酸エステルなどが好ましい。
【0084】
【化28】

【0085】
上記、溶媒としては、アルコールやアセトン、ジメチルホルムアミド等が好ましい。塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどの強塩基を用いることが好ましい。反応温度は、副反応を防ぐために、0℃から室温程度が好ましい。
【0086】
続けて、下記一般式(XVI)に示すように水酸基をアシル化する。
【0087】
【化29】

【0088】
上記溶媒としては、クロロギ酸アルキルと反応しないもので、基質をよく溶かすものであれば特に限定されないが、例えばテトラヒドロフラン、ピリジン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンなどが挙げられ、十分に脱水されたものが好ましい。
また、反応の際に発生する塩化水素を補足するために塩基は添加することが好ましい。
塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。これらを溶媒として用いることも可能であり、複数組み合わせて用いても良い。第一選択としては、ピリジンまたはトリエチルアミンと、N,N−ジメチルアミノピリジンの組み合わせが好ましい。
クロロギ酸アルキルとしては、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸プロピル、クロロギ酸イソプロピル、クロロギ酸イソブチルなどが挙げられる。
反応温度は、0℃〜室温程度が反応性、選択性の点で好ましい。
このようにして、炭酸エステル構造を形成することができる。
【0089】
こうして得られた溶解性置換基は種々の従来公知の方法で縮環させることで、置換基脱離化合物を合成することができる。これを有機半導体前駆体化合物として用いる場合、例えばヘテロアセン類の場合は、J.Am.Chem.Soc.2007,129,pp2224−2225等に記載の方法に準じて下記のようなスキームで行なうことができる。
【0090】
原料の1,4−ジアシルオキシ−6−ヨード−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンは本発明の合成例に従って合成が可能である。
第一段階として、ヨウ素原子とグリニア試薬とのグリニア交換反応を行なう。極低温でかつヨウ素の反応性が高いため、選択的にグリニア交換反応が起こりグリニア試薬が得られる。
このグリニア試薬にジメチルホルムアミドやモルホリンなどのホルミル化剤を加えることでホルミル化を行なう。
第二段階はホルミル基のオルトリチオ化である。同時に加えるアミンとリチウムとホルミル基が錯体を形成するため、他の官能基を損なうことなく選択的にオルト位(テトラヒドロナフタレンの7位)がリチオ化される。これを同様にジメチルスルフィドを加えることで、SMe化される。
続けて、第三段階ではホルミル基同士のマクマリーカップリング反応を行なう。亜鉛、四塩化チタンの存在下で反応を行なう。これにより、ホルミル基同士がカップリングし、オレフィン構造が形成される。
最終段階では、ヨウ素による閉環反応を行なう。ヨウ素が二重結合部位に付加し、続けて、SMe基と反応し、MeIの形で脱離することにより、チオフェン環が二つ形成され、目的の縮環化合物を得ることができる。
【0091】
【化30】

【0092】
また、ペンタセンの場合は、J.Am.ChemSoc.,129,2007,pp.15752に記載の方法に準じて行なうことができ、フタロシアニン類の場合の環形成反応は、白井汪芳,小林長夫編・著「フタロシアニン−化学と機能−」(アイピーシー社,1997年刊)の第1〜62頁、廣橋亮,坂本恵一,奥村映子編「機能性色素としてのフタロシアニン」(アイピーシー社,2004年刊)の第29〜77頁に準じて同様に行なうことが可能であり、ポルフィリン類の場合は、特開2009−105336号公報等に記載の方法に準じて行なうことが可能である。
【0093】
また、本発明の置換基化合物において、溶媒可溶性置換基(下記一般式中のB)の他の骨格との共有結合による連結方法としては、Suzukiカップリング反応による方法、Stilleカップリング反応による方法、Kumadaカップリング反応、Negishiカップリング反応による方法、Hiyamaカップリング反応による方法、Sonogashira反応による方法、Heck反応による方法、Wittig反応による方法、などに代表される種々のカップリング反応を用いて行なう、公知の方法が例示される。
これらのうち、Suzukiカップリング反応またはStilleカップリング反応を用いる方法が、中間体の誘導体化が容易であるのと、反応性、収率の観点から特に好ましい。炭素−炭素二重結合の形成に置いては、上記に加えHeck反応による方法、Wittig反応なども好ましい。炭素−炭素三重結合の形成においては、上記に加え、Sonogashira反応が特に好ましい。
以下に、炭素−炭素結合をSuzukiカップリング反応およびStilleカップリング反応によって連結する例を以下に挙げる。
下記一般式(XIII)、(XIV)で表わされるハロゲン体およびトリフルオロトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体の組み合わせで反応を行なう。ただし、一般式(XV)、(XVI)で示される化合物がともにハロゲン体およびトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体である場合はカップリング反応が起こらないため除外する。
そして、上記混合物にさらにSuzukiカップリング反応の場合においてのみ塩基を追加し、パラジウム触媒の存在下で、反応させることにより製造される。
【0094】
【化31】

(上記式(XIII)中、Arは前述のアリール基またはヘテロアリール基であり、Aはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表わす)、トリフラート(トリフルオロメタンスルホニル)基または、ボロン酸またはそのエステルもしくは有機スズ官能基を示す。lは1以上の整数である。)
【0095】
【化32】

(上記式(XIV)中、Bは前述の溶媒可溶性置換基、Cはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表わす)、トリフラート(トリフルオロメタンスルホニル)基または、ボロン酸またはそのエステルもしくは有機スズ官能基を示す。kは1以上の整数である。)
【0096】
Suzukiカップリング、Stilleカップリング反応による合成方法において、前記一般式(XIII)および(XIV)中のハロゲン体またはトリフラート体の中でも、ヨウ素体あるいは臭素体もしくはトリフラート体が反応性の観点から好ましい。
【0097】
前記一般式(XIII)および(XIV)中の有機スズ官能基としては、SnMe基やSnBu基などのアルキルスズ基を有する誘導体を用いることができる。これらは所望の位置の水素やハロゲン原子をn−ブチルリチウム等の有機金属試薬を用いてリチウムやグリニア試薬に置き換え、その後トリメチルスズクロライドやトリブチルスズクロライドなどでクエンチすることで容易に得られる。
また、ボロン酸誘導体としては、ボロン酸のほか、熱的に安定で空気中で容易に扱えるビス(ピナコラト)ジボロンを用いハロゲン化誘導体から合成される、またはボロン酸をピナコール等のジオールで保護することによって合成されるボロン酸エステル誘導体を用いてもよい。
【0098】
上述のとおり、置換基ArまたはBのどちらがハロゲンおよびトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体であっても構わないが、誘導体化の容易さや副反応を減らすという意味では、置換基Aの方をボロン酸誘導体および有機スズ誘導体とした方がよい場合が多い。
【0099】
Stilleカップリング反応においては、特に塩基は不要であるが、Suzukiカップリング反応においては塩基が必ず必要となり、NaCO、NaHCOなどの比較的弱い塩基が良好な結果を与える。立体障害等の影響を受ける場合には、Ba(OH)やKPO、NaOHなどの強塩基が有効である。その他、苛性カリ、金属アルコシド等、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシドなども用いることができる。トリエチルアミン等の有機塩基も用いることができる。
【0100】
パラジウム触媒としては例えばパラジウムブロマイド、パラジウムクロライド、パラジウムヨージド、パラジウムシアニド、パラジウムアセテート、パラジウムトリフルオロアセテート、パラジウムアセチルアセトナト[Pd(acac)2]、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(OAc)2(PPh3)2]、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)4]、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム[Pd(CH3 CN)2 Cl2]、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム[Pd(PhCN)2 Cl2]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2]、ジクロロ[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム[Pd(dppf)Cl2]、ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム〔Pd[P(C6 H1 1)3]2 Cl2〕、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)2 Cl2]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム[Pd2(dba)3]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(dba)2]、等が挙げられるが、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)4]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)2 Cl2]等のホスフィン系触媒が好ましい。
【0101】
上記の他にパラジウム触媒として、反応系中においてパラジウム錯体と配位子の反応により合成されるパラジウム触媒を用いることができる。配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリス(n−ブチル)ホスフィン、トリス(tert−ブチル)ホスフィン、ビス(tert−ブチル)メチルホスフィン、トリス(i−プロピル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(o−トリル)ホスフィン、トリス(2−フリル)ホスフィン、2−ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−メチルビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピル−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−ジフェニルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−メチルビフェニル、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノエチレン、ジフェニルホスフィノフェロセン、エチレンジアミン、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチルエチレンジアミン、2,2’−ビピリジル、1,3−ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデンが挙げられ、これらの配位子のいずれかが配位したパラジウム触媒をクロスカップリング触媒として用いることができる。
【0102】
反応溶媒としては、原料と反応し得るような官能基を有さず、かつ原料を適度に溶解させられることができるようなものが望ましく、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のアルコールおよびエーテル系、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の他、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等をあげることができる。これらの溶媒は単独で用いても、二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。またこれらの溶媒はあらかじめ乾燥、脱気処理を行なうことが望ましい。
【0103】
上記反応の温度は、用いる原料の反応性、また、反応溶媒により適宜設定され、通常0
℃〜200℃の範囲で行なうことが可能であるが、いずれの場合も上限としては溶媒の沸点以下に抑えることが好ましい。加えて脱離反応が起こる温度以下に抑えることが収率の観点から好ましい。
下限としては、溶媒の融点までで行なうことができるが、あまりに低温にしすぎても反応速度が著しく低下し好ましくない。以上の観点から具体的には0℃〜150℃の範囲が好ましく、特に好ましくは0℃〜100℃の範囲が好ましく、もっとも好ましくは室温〜80℃である。
上記反応における反応時間は、用いる原料の反応性において適宜設定することができ、1〜72時間が好適であり、さらには、1〜24時間がより好ましい。
【0104】
以上のようにして得られるAr−(B)m(mは1以上の整数)で示される置換基脱離化合物は、反応に使用した触媒、未反応の原料、又反応時に副生するボロン酸塩、有機スズ誘導体等の不純物を除去して使用される。これらの精製は再沈澱法、カラムクロマト法、吸着法、抽出法(ソックスレー抽出法を含む)、限外濾過法、透析法、触媒を除くためのスカベンジャーの使用等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。このように本発明の化合物のように、溶解性に優れた材料では、これら精製方法の制約が少なくなり、結果的にデバイス特性にも好影響を与える。
【0105】
上記した製造方法により得られる置換基脱離化合物を薄膜とするには、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、真空蒸着、スパッタ等の公知の製膜方法を用いることができる。これにより、クラックのない、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能である。さらに前記の製膜方法により塗布した本発明の置換基脱離化合物の膜に外部刺激を加えることによって、溶解性の置換基を脱離し、有機半導体膜を形成することも可能であり、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子用材料として好適に用いることができる。
【0106】
[4.置換基脱離化合物のデバイスへの応用]
本発明の置換基脱離化合物から製造した有機半導体化合物は、例えば、電子デバイスに用いることができる。電子デバイスの例を挙げると、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置などが挙げられる。また、例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子などが挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
現在シリコン等の無機半導体で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等の光素子も挙げることができる。
【0107】
本発明の置換基脱離化合物およびそれから製造した有機半導体化合物を適用するのに好適な電子デバイスの例としては、有機薄膜トランジスタすなわち、有機電界効果トランジスタ(OFET)が挙げられる。以下、このFETについて詳細に説明する。
【0108】
「トランジスタ構造」
図4の(A)〜(D)は本発明に係わる有機薄膜トランジスタの概略構造である。本発明に係わる有機薄膜トランジスタの有機半導体層(1)は、本発明の有機半導体化合物を含有する。本発明の有機薄膜トランジスタには、空間的に分離された第一の電極(ソース電極(2))、第二の電極(ドレイン電極(3))および図示しない支持体(基質)上に第三の電極(ゲート電極(4))が設けられており、ゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁膜(5)が設けられていてもよい。有機薄膜トランジスタはゲート電極への電圧の印加により、ソース電極2とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされるが、スイッチング素子としては、ゲート電極(4)による電圧の印加状態により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)との間に流れる電流量が大きく変調できることが重要である。これはトランジスタの駆動状態で大きな電流が流れ、非駆動状態では、電流が流れないことを意味する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0109】
「製膜方法:有機半導体層」
加えて、本発明の置換基脱離化合物を有機半導体前駆体として用い、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解して、支持体上に塗布することによって有機半導体前駆体からなる薄膜を形成した後、この膜に対してエネルギーを印加し、有機半導体膜に変換することによっても形成することができる。
本発明の置換基脱離化合物は、シクロヘキセン構造とアシルオキシ基を有しており、この部分が立体的に嵩高いため、結晶性が悪くこの構造を有する分子は溶解性が良好でかつ、溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定形の膜が得られやすい性質を有する。
これら薄膜の作製方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンス法、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法などのソフトリソグラフィーの手法等が挙げられ、更にはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。 そして、材料に応じて、適した上記製膜方法と、上記溶媒から適切な溶媒が選択される。また、熱変換後の有機半導体材料自体は、真空蒸着法等の気相製膜が可能である。
【0110】
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。
有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜100nmが好ましい。本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、上記化合物を成分として形成される有機半導体層は、ソース電極、ドレイン電極及び絶縁膜に接して形成される。
【0111】
「製膜方法:有機半導体膜の後処理」
上記した前駆体薄膜より変換した有機半導体膜は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、製膜中に生じた膜中のゆがみを緩和することができ、これが結晶性の向上に繋がり、特性の向上や安定化を図ることができる。また、有機溶媒(例えば、トルエン、クロロホルムなど)雰囲気中に置くことにより、加熱処理と同様に膜中のゆがみを緩和し、さらに結晶性を高めることも可能である。
さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
【0112】
「電極」
本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるゲート電極、ソース電極、ゲート電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。
【0113】
ソース電極及びドレイン電極は、上記導電性の中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。
【0114】
「絶縁膜」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0115】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
【0116】
さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0117】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0118】
「有機半導体/絶縁膜および電極界面修飾」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜および電極と有機半導体層の接着性を向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けてもよい。有機薄膜は有機半導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
【0119】
有機分子膜としては、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン、フェニルトリクロロシランや、ベンゼンチオール、トリフルオロベンゼンチオール、パーフルオロベンゼンチオール、ペーフルオロデカンチオールなどを具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよい。
【0120】
「保護層」
本発明の有機薄膜トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0121】
「応用デバイス」
上述した本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミック、電気泳動等の、従来公知の各種表示画像素子を駆動するための素子として好適に利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。
【0122】
本発明のディスプレイ装置は、例えば、液晶表示装置では液晶表示素子、EL表示装置では有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動表示装置では電気泳動表示素子などの表示素子を1表示画素として、該表示素子をX方向及びY方向にマトリックス状に複数配列して構成される。前記表示素子は、該表示素子に対して電圧の印加又は電流の供給を行なうためのスイッチング素子として、本発明の有機薄膜トランジスタを備えている。本発明のディスプレイ装置としては、前記スイッチング素子が前記表示素子の数、即ち表示画素数に対応して複数備えられる。
【0123】
前記表示素子は、前記スイッチング素子の他に、例えば、基板、透明電極等の電極、偏光板、カラーフィルタなどの構成部材を備えるが、これらの構成部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、従来から公知のものを使用することができる。
【0124】
前記ディスプレイ装置が、所定の画像を形成する場合には、例えば、マトリックス状に配置されたスイッチング素子の中から任意に選択された前記スイッチング素子が、対応する前記表示素子に電圧の印加又は電流を供給する時のみスイッチがON又はOFFとなり、その他の時間はOFF又はONとなるように構成することにより、高速、高コントラストで、前記ディスプレイ装置の表示を行なうことができる。なお、前記ディスプレイ装置における画像の表示動作としては、従来から公知の表示動作により画像等が表示される。
例えば、前記液晶表示素子の場合には、液晶に対して電圧を印加することにより、該液晶の分子配列を制御して画像等の表示が行なわれる。また、前記有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子の場合には、有機若しくは無機膜で形成された発光ダイオードに電流を供給して該有機若しくは無機膜を発光させることにより画像等の表示が行なわれる。また、前記電気泳動表示素子の場合には、例えば、異なる極性に帯電された白及び黒色の着色粒子に電圧を印加して、電極間で前記粒子を所定方向に電気的に泳動させて画像等の表示が行なわれる。
【0125】
前記ディスプレイ装置は、前記スイッチング素子を塗工、印刷等の簡易なプロセスにより作製可能であり、プラスチック基板、紙等の高温処理に耐えない基板を用いることができるとともに、大面積のディスプレイであっても、省エネルギー、低コストで前記スイッチング素子を作製可能となる。
また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0126】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
下記、実施例における化合物の同定は、NMRスペクトル(JNM−ECX(商品名) 500MHz、日本電子製),質量分析(GCMS−QP2010 Plus(商品名)、島津製作所製)、元素分析(CHN)(CHNレコーダーMT−2、柳本製作所製)、元素分析(硫黄)(イオンクロマトグラフィー→・アニオン分析システムDX320(商品名)、ダイオネクス製)を用いて行なった。化合物の純度測定は、質量分析(GCMS−QP2010 Plus(商品名)、島津製作所製)または、LCMS(LCT PremireおよびAlliance(商品名)、Waters社製)を用いて、ピーク面積比より算出した。
【0127】
[合成例1]
[特定化合物中間体の合成1]
・化合物2の合成
【0128】
【化33】

500mLのビーカーに1,2,3,4−tetrahydro−6−iodo naphthalene(上記式1の化合物、10g,65.3mmol)と15%HCl(60mL)を入れ、氷冷却下5℃以下を維持しながら、亜硝酸ナトリウム水溶液(5.41g,78.36mmol in Water 23mL)を徐々に滴下した。
滴下終了後、そのままの温度で1時間攪拌し、ヨウ化カリウム水溶液(13.0g,78.36mmol in Water 50mL)を一度に加え、氷浴を外し3時間攪拌し、その後60℃で窒素の発生が収まるまで1時間加熱した。
室温まで冷却した後、反応溶液をジエチルエーテルで3回抽出した。有機層を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(100mL×3回)で洗浄し、さらに飽和食塩水(100mL×2回)で洗浄した。さらに、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾液を濃縮することで赤色のオイルを得た。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン)にて精製することにより、無色のオイルとして化合物2を得た。(収量12.0g,収率71.2%)
以下に化合物2の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.73−1.81(m,4H),2.70(quint,4H,J=4.85Hz),6.80(d,1H,J=8.0Hz),7.38(dd,1H,J=8.0Hz J=1.75Hz),7.41(s,1H)
質量分析:GC−MSm/z=258(M+)
【0129】
・化合物3の合成
J.Org.Chem.1999,64,9365−9373に記載の方法を応用して、目的化合物の合成を行なった。
【0130】
【化34】

100mLの丸底フラスコに化合物2(3.1g,12mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(59mg,0.36mmol)、四塩化炭素(50mL)、N−ブロモスクシンイミド(4.7g,26.4mmol)を入れ、アルゴンガスで置換を行なった後、穏やかに80℃に加熱し、そのまま1時間攪拌し、室温まで冷却した。沈殿を濾過し、濾液を減圧下で濃縮することで、薄黄色の固体として化合物3を得た。(収量4.99g,収率100%)
これ以上精製することなく次の反応に用いた。
以下に化合物3の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.31−2.41(m,2H),2.70−2.79(m,2H),5.65(t,2H,J=2.0Hz),7.24−7.28(m,2H),7.31−7.34(m,2H)
質量分析:GC−MSm/z=413(M+)
【0131】
・化合物4の合成
1,4−dibromo−1,2,3,4−tetrahydronaphthaleneは化合物3と同様、J.Org.Chem.1999,64,9365−9373に記載の方法で合成したものを原料として用いた。
【0132】
【化35】

100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g,20mmol)、酢酸(1.21g,20mmol)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)(30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、1,4−dibromo−1,2,3,4−tetrahydronaphthalene(2.90g,10mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、薄い褐色の固体を得た。これをヘキサンで洗浄し、無色の固体として化合物4を得た。(収量1.50g,収率60.6%、ラセミ体とメソ体の5:6の混合物)
ヘキサンから再結晶することで、ラセミ体とメソ体をそれぞれ分離した。
以下に化合物4の分析結果を示す。
[ラセミ体]
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.96−1.99(m,2H),2.07(s,6H),2.27−2.30(m,2H),6.05(t,2H,J=2.3Hz),7.34(br,4H)
[メソ体]
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.09−2.12(m,4H),2.13(s,6H),5.96−5.98(m,2H),7.32(br,4H)
質量分析:GC−MS m/z=248(M+)
【0133】
・化合物5の合成
【0134】
【化36】

100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g,20mmol)、カプロン酸(2.51mL,20mmol)、DMF(30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3(4.16g,10mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、オレンジ色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン→酢酸エチル/トルエン(5/95,v/v))にて精製することにより、無色のオイルとして化合物5を得た。(収量2.44g,収率50.2%)
以下に化合物5の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.87−0.90(m,6H),1.24−1.34(m,8H),1.60−1.67(m,4H),1.90−1.94(m,2H),2.23−2.34(m,6H),5.98(d,2H,J=3.5Hz),7.06(d,2H,J=8.0Hz),7.63−7.66(m,2H)
質量分析:GC−MS m/z=486(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物5の構造と矛盾がないことを確認した。
【0135】
・化合物6の合成
【0136】
【化37】

100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g,20mmol)、ピバル酸(2.04g,20mmol)、DMF(30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3(4.16g,10mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、薄いオレンジ色の固体を得た。これをエタノールから再結晶(繰り返し2回)することで、薄黄色の結晶として化合物6を得た。(収量1.93g,収率42.0%)
以下に化合物6の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.18(s,18H),1.20(s,18H),1.87−1.92(m,4H),2.21−2.24(m,4H),5.94(d,4H,J=2.3Hz),7.02(d,2H,J=8.0Hz),7.62−7.63(m,2H),7.64−7.65(m,2H)
質量分析:GC−MS m/z=458(M+)
融点:114.0−115.5℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物6の構造と矛盾がないことを確認した。
【0137】
・化合物7の合成
【0138】
【化38】

100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g,20mmol)、3,3,3−トリフルオロプロパン酸(2.56g,20mmol)、DMF(30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3(4.16g,10mmol)を加え、さらに室温で48時間攪拌した。
反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、褐色の液体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン(1/2,v/v)+2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、淡黄色のオイルを得た。(収量2.44g)
さらにリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製、LC−9104)にて精製することにより、無色のオイルとして化合物7を得た(収量1.2g,収率25%)
【0139】
以下に化合物7の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.99−2.31(m,4H,H2,H3),3.14−3.30(m,4H,−CH2CF3),5.96−6.08(m,2H,H1,H4),7.05−7.10(m,1H,ArH),7.66−7.71(m,2H,ArH)質量分析:GC−MS m/z=510(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物7の構造と矛盾がないことを確認した。
【0140】
[合成例2]
[化合物中間体の合成2]
・化合物8の合成
【0141】
【化39】

充分に乾燥させた200mLの丸底フラスコに、チエノ[3,2−b]チオフェン(2.81g,20.0mmol)を入れ、アルゴン置換を行なった後、脱水テトラヒドロフラン(以下THF)(50mL)を加え、アセトン−ドライアイス浴で−78℃まで冷却し、n−ブチルリチウム(2.2eq,28.1mL(1.6Mヘキサン溶液),44mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行なった。再び−78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド(2.5eq,50mL(1.0Mヘキサン溶液),50mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行なった。
水(80mL)を加えて、クエンチし、酢酸エチルを加えて有機層を分離した。有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行ない、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。これをアセトニトリルから再結晶(繰り返し3回)することにより、無色の結晶として化合物8を得た。(収量5.0g,54.1%)
以下に化合物8の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.38(s,18H),7.23(s,2H)
質量分析:GC−MS m/z=466(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物8の構造と矛盾がないことを確認した。
【0142】
・化合物9の合成
ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンは、特願2009−061749と同様にJ.Org.Chem.,2005,70(25),pp10569−10571およびOrg.Lett.2009,11(11),pp2473−2475に記載の方法に従って合成したものを原料として用いた。
【0143】
【化40】

充分に乾燥させた200mLの丸底フラスコに、ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(3.81g,20.0mmol)を入れ、アルゴン置換を行なった後、脱水THF(50mL)を加え、アセトン−ドライアイス浴で−78℃まで冷却し、n−ブチルリチウム(2.2eq,28.1mL(1.6Mヘキサン溶液),44mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行なった。再び−78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド(2.5eq,50mL(1.0Mヘキサン溶液),50mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行なった。
水(80mL)を加えて、クエンチし、酢酸エチルを加えて有機層を分離した。有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行ない、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。これをアセトニトリルから再結晶(繰り返し3回)することにより、薄黄色の結晶として化合物9を得た。(収量7.48g,72.5%)
【0144】
以下に化合物9の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.44(s,18H),7.41(s,2H),8.27(s,2H)
質量分析:GC−MS m/z=518(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物9の構造と矛盾がないことを確認した。
【0145】
・化合物10の合成
2,7−ジヨード[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンはZh.Org.Khim.,16,2,383(1980)およびJ.Am.Chem.Soc.128,12604(2006)を参考にして合成したものを原料として用いた。
【0146】
【化41】

充分に乾燥させた300mLの丸底フラスコに、2,7−ジヨード[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(4.92g,10.0mmol)を入れ、アルゴン置換を行なった後、脱水THF(150mL)を加え、アセトン−ドライアイス浴で−78℃まで冷却し、n−ブチルリチウム(2.2eq,14.1mL(1.6Mヘキサン溶液),22mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行なった。再び−78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド(2.5eq,25mL(1.0Mヘキサン溶液),25mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行なった。
水(80mL)を加えて、クエンチし、クロロホルムを加えて有機層を分離した。有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行ない、濾液を濃縮し褐色の固体を得た。これをトルエン、続けてアセトニトリルから再結晶することにより、薄褐色の結晶として化合物10を得た。(収量3.40g,60.0%)
以下に化合物10の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.37(s,18H),7.55(d,2H,J=8.6Hz),7.87(d,2H,J=7.5Hz),8.04(s,2H)
質量分析:GC−MS m/z=566(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物10の構造と矛盾がないことを確認した。
【0147】
[合成例3]
[前駆体分子の合成]
・化合物11の合成
【0148】
【化42】

【0149】
100mLの丸底フラスコに、化合物5(973mg,2.0mmol)、化合物8(466mg,1mmol)、DMF(10mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg,0.02mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(24.4mg,0.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で20時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで3回抽出を行ない、合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、赤色の液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10wt%フッ化カリウム,溶媒:ヘキサン/酢酸エチル,9/1→8/2,v/v)にて精製することにより、黄色の固体を得た。これをヘキサン/エタノールから再結晶することにより、黄色の固体として化合物11を得た。(収量680mg,収率79.3%)
以下に化合物の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.87−0.89(m,12H),1.28−1.33(m,16H),1.61−1.69(m,8H),1.96−2.01(m,4H),2.28−2.36(m,12H),6.08(d,4H,J=12.1Hz),7.37(d,2H,J=8.6Hz),7.48(s,2H),7.57−7.59(m,4H)
元素分析(C5064):C,69.92;H,7.67;O,14.85;S,7.44(実測値)、C,70.06;H,7.53;O,14.93;S,7.48(理論値)
融点:113.7−114.7℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物11の構造と矛盾がないことを確認した。
【0150】
・化合物12の合成
【0151】
【化43】

100mLの丸底フラスコに、化合物6(2.0mmol,917mg)、化合物8(466mg,1mmol)、DMF(10mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg,0.02mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(24.4mg,0.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で24時間、続けて50℃で3時間攪拌した。反応溶液をトルエンで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はトルエンで抽出を行なった。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し得られた固体をヘキサンで洗浄することにより、黄色の固体として化合物を得た。(収量320mg,収率40.0%)
以下に化合物12の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.21(s,18H),1.24(s,18H),1.90−1.96(m,4H),2.30(dt,4H,J=9.2Hz,J=2.3Hz),6.03(d,4H,J=13.2Hz),7.32(d,2H,J=8.0Hz7.46(s,2H),7.53(d,2H,J=1.7Hz),7.58(dd,2H,J=8.0Hz,J=2.3Hz)
元素分析(C4656):C,68.87;H,6.95;O,16.08;S,8.10(実測値)、C,68.97;H,7.05;O,15.98;S,8.01(理論値)
分解点:275.2℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物12の構造と矛盾がないことを確認した。
【0152】
・化合物13の合成
【0153】
【化44】

100mLの丸底フラスコに、化合物7(1020mg,2.0mmol)、化合物8(466mg,1mmol)、DMF(10mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg,0.02mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(24.4mg,0.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で16時間、続けて80℃で8時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチルで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチルで抽出を行なった。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10wt%フッ化カリウム,溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(2/1,v/v)+2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
さらにリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製,LC−9104,溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物13を得た(収量200mg,収率22.1%)
以下に化合物13の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.06−2.35(m,8H,H2,H3 of Tetralin),3.16−3.3.33(m,8H,−CH2CF3),6.07−6.18(m,4H,H1,H4 of Tetralin),7.36−7.41(m,2H,ArH),7.50(d,2H,J=6.9Hz,ArH),7.57−7.64(m,4H,ArH)
元素分析(C382812):C,50.65;H,3.02;O,14.00;S,7.19(実測値)、C,50.45;H,3.12;O,14.15;S,7.09(理論値)
分解点:197.5℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物13の構造と矛盾がないことを確認した。
【0154】
・化合物14の合成
【0155】
【化45】

100mLの丸底フラスコに、化合物7(1887mg,3.7mmol)、化合物9 (929mg,1.8mmol)、DMF(25mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(32.9mg,0.036mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(43.9mg,0.144mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80℃で4時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行なった。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。
これをリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製,LC−9104,溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物14を得た(収量340mg,収率20.0%)
以下に化合物14の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.08−2.37(m,8H,H2,H3 of Tetralin),3.20−3.3.34(m,8H,−CH2CF3),6.09−6.6.21(m,4H,H1,H4 of Tetralin),7.40−7.47(m,2H,ArH),7.60(d,2H,J=7.5Hz,ArH),7.68−7.75(m,4H,ArH),8.22(s,2H)
元素分析(C423012):C,52.74;H,3.28;O,13.70;S,6.52(実測値)、C,52.83;H,3.17;O,13.41;S,6.72(理論値)
分解点:231℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物14の構造と矛盾がないことを確認した。
【0156】
・化合物15の合成
【0157】
【化46】

100mLの丸底フラスコに、化合物5(1020mg,2.1mmol)、化合物10(492mg,1.0mmol)、DMF/トルエン(25mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(32.9mg,0.036mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(43.9mg,0.144mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80℃で12時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行なった。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10wt%フッ化カリウム,溶媒:ジクロロメタン/酢酸エチル(3/1,v/v)+2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
続けてリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製,LC−9104,溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物15を得た(収量210mg,収率42.7%)
以下に化合物15の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.85−0.91(m,12H),1.29−1.33(m,16H),1.63−1.69(m,8H),1.99−2.04(m,4H),2.32−2.37(m,12H),6.15(d,4H,J=18.9Hz),7.46(d,2H,J=8.0Hz),7.65−7.69(m,6H),7.95(d,2H,J=8.0Hz),8.11(d,2H,J=1.2Hz)
元素分析(C5868):C,72.50;H,7.43;O,13.57;S,6.49(実測値)、C,72.77;H,7.16;O,13.37;S,6.70(理論値)
融点:179.0℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物15の構造と矛盾がないことを確認した。
【0158】
・化合物16の合成
【0159】
【化47】

100mLの丸底フラスコに、化合物7(1020mg,2.1mmol)、化合物10(492mg,1.0mmol)、DMF/トルエン(25mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(18.3mg,0.02mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン(24.4mg,0.08mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80℃で8時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行なった。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10wt%フッ化カリウム,溶媒:ジクロロメタン/酢酸エチル(3/1,v/v)+2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
続けて、リサイクル分取HPLC(日本分析工業社製,LC−9104,溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物16を得た(収量180mg,収率36.5%)
以下に化合物16の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.08−2.38(m,8H,H2,H3 of Tetralin),3.19−3.33(m,8H,−CH2CF3),6.12−6.25(m,4H,H1,H4 of Tetralin),7.48−7.50(m,2H,ArH),7.65−7.73(m,6H,ArH),7.97(d,2H,J=8.6Hz,ArH),8.12(d,2H,J=1.2Hz,ArH)
元素分析(C463212):C,55.17;H,3.41;O,12.95;S,6.07(理論値)、C,54.98;H,3.21;O,12.74;S,6.38(理論値)
分解点:218℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物16の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例1】
【0160】
[置換基脱離化合物4を用いたナフタレンの合成]
【0161】
【化48】

合成例1で合成した化合物4(100mg)を丸底フラスコに入れ、内温180℃のまま1時間攪拌した。続けて、フラスコに氷による冷却部を備えたガラス管を置き、フラスコ内を減圧(40mmHg)し、内温80℃のまま加熱を続けることにより昇華精製を行ない、ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量51.5mg,収率99.8%)
この結晶の下記に示す分析を行なったところ
H NMR(500MHz、CDCl、TMS,δ):7.48(d,4H,J=6.8Hz),7.84(d,4H、J=8.3Hz)
元素分析値(C10):C,93.46;H,6.44(実測値)C,93.71;H,6.29(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=128(M+)
融点:79.0−80.0℃
化合物純度(LC−MS):≧99.9%
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶がナフタレンであることが確認された。
【実施例2】
【0162】
[置換基脱離化合物5を用いた2−ヨードナフタレンの合成1]
【0163】
【化49】

合成例1で合成した化合物5(97.28mg,0.2mmol)を丸底フラスコに入れ、内温180℃のまま1時間攪拌した。続けて、フラスコに氷による冷却部を備えたガラス管を置き、フラスコ内を減圧(40mmHg)し、内温50℃のまま加熱を続けることにより昇華精製を行ない、ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.66mg,収率99.7%)
この結晶の下記に示す分析を行なったところ、
H NMR(400MHz,CDCl,TMS,δ):7.46−7.52(m,2H)7.55−7.58(m,1H),7.68−7.74(m,2H),7.76−7.82(m,1H),8.22−8.26(m,1H)
元素分析値(C10I):C,47.11;H,2.94(実測値)C,47.27;H,2.78(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=254(M+)
融点:50.5−52.0℃
化合物純度(LC−MS):≧99.8%
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2−ヨードナフタレンであることが確認された。
【実施例3】
【0164】
[置換基脱離化合物6を用いた2−ヨードナフタレンの合成]
実施例2で用いた化合物5を化合物6(91.67mg、0.2mmolに換えた以外は同様に反応を行なった。
ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.46mg、収率99.3%)。
この結晶の下記に示す分析を行なったところ、実施例2と同様の分析結果が得られた。
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2−ヨードナフタレンであることが確認された。
【実施例4】
【0165】
[置換基脱離化合物7を用いた2−ヨードナフタレンの合成]
実施例2で用いた化合物6を化合物7(102.0mg、0.2mmol)に換え、フラスコの内温を160℃にした以外は同様に反応を行なった。
ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.76mg、収率99.9%)。
この結晶の下記に示す分析を行なったところ、実施例2と同様の分析結果が得られた。
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2−ヨードナフタレンであることが確認された。
【0166】
実施例1〜4より、置換基脱離化合物を用いてナフタレンおよびその誘導体が180℃以下の比較的低温でかつ99%以上の高収率で定量的に得られることが示された。部分的にハロゲン化(フッ素化)されたような電子吸引性の高いアルキル基を有する化合物においてはさらに低温で反応が完了することも示された。
【実施例5】
【0167】
[有機半導体化合物1(化合物17)の合成1]
【0168】
【化50】

合成例3で合成した化合物11(200mg、0.23mmol)を丸底フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、245℃(フラスコ内温)で1時間加熱攪拌を行なった。
得られた固体をトルエン、続けてメタノールで洗浄し、真空下乾燥することで黄色の結晶として化合物17を得た。(収量86.9mg、収率96.3%)
化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C2616):C,79.84;H,4.00;S,16.10(実測値)C,79.55;H,4.11;S,16.34(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=392(M+)
融点:357.7℃
化合物純度(GCMS):≧99.8%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例6】
【0169】
[有機半導体化合物1(化合物17)の合成2]
【0170】
【化51】

実施例5で用いた化合物11を化合物12(184.2mg、0.23mmol)に換え、反応温度を270℃に変えた以外は実施例5と同様に反応および精製を行なった。
同様に黄色の結晶として化合物17を得た。(収量86.3mg、収率96.3%)
本反応で得られた化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C2616):C,79.64;H,4.10;S,16.20(実測値)C,79.55;H,4.11;S,16.34(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=392(M+)
融点:357.2℃
化合物純度(GCMS):≧99.7%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例7】
【0171】
[有機半導体化合物1(化合物17)の合成3]
【0172】
【化52】

実施例5で用いた化合物11を化合物13(219.6mg、0.23mmol)に換え、反応温度を200℃に変えた以外は実施例5と同様に反応および精製を行なった。
同様に黄色の結晶として化合物17を得た。(収量89.2mg、収率98.8%)
本反応で得られた化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C2616):C,79.58;H,4.11;S,16.32(実測値)C,79.55;H,4.11;S,16.34(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=392(M+)
融点:357.2℃
化合物純度(GCMS):≧99.7%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例8】
【0173】
[有機半導体化合物2(化合物18)の合成]
【0174】
【化53】

実施例5で用いた化合物11を化合物14(208.1mg、0.23mmol)に換え、反応温度を240℃に変えた以外は実施例5と同様に反応を行ない、得られた固体をクロロホルム、アセトン、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、黄緑色の結晶として化合物18を得た。(収量100mg、収率98.3%)
本反応で得られた化合物18の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C3018):C,81.21;H,4.10;S,14.59(実測値)C,81.41;H,4.10;S,14.49(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=442(M+)
融点:438.2℃
化合物純度(GCMS):≧99.8%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物18の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例9】
【0175】
[有機半導体化合物3(化合物19)の合成1]
【0176】
【化54】

実施例5で用いた化合物11を化合物15(208.1mg、0.23mmol)に換え、反応温度を255℃に変えた以外は実施例5と同様に反応を行ない、クロロホルム、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、淡黄色の結晶として化合物19を得た。(収量110mg、収率97.1%)
本反応で得られた化合物19の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C3420):C,82.67;H,4.10;S,13.14(実測値)C,82.89;H,4.09;S,13.02(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=492(M+)
融点:378.2℃
化合物純度(GCMS):≧99.5%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物19の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例10】
【0177】
[有機半導体化合物3(化合物19)の合成2]
【0178】
【化55】

実施例5で用いた化合物11を化合物16(208.1mg、0.23mmol)に換え、反応温度を220℃に変えた以外は実施例5と同様に反応を行ない、クロロホルム、アセトン、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、淡黄色の結晶として化合物19を得た。(収量111.8mg、収率98.7%)
本反応で得られた化合物19の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C3420):C,82.52;H,4.08;S,13.17(実測値)C,82.89;H,4.09;S,13.02(理論値)
質量分析:GC−MS m/z=492(M+)
融点:377.9℃
化合物純度(GCMS):≧99.4%
以上の分析結果から、合成したものが、化合物19の構造と矛盾がないことを確認した。
【0179】
実施例10乃至後述の15の結果より、200〜250℃程度の加熱および洗浄操作のみで97%以上の高収率で難溶性のπ電子共役系化合物を高収率かつ99%以上の高純度で得ることが可能であることが示された。
変換に要した温度は概ね各化合物の昇華温度(1%重量減少温度として定義される)以下であることも分かった。例えば、図2において変換の際に起こる重量減少終了後、300℃から340℃にかけてグラフがほぼ水平の領域が見られ、それ以上の温度で1%以上重量減少が始まっているため、化合物が昇華している考えることができる。
ナフタレンのような有機溶媒可溶な低分子だけでなく、本来であれば有機溶媒に対して難溶性であるπ電子共役系化合物の製造においても有効な方法であることが示唆された。
これらは、顔料、有機半導体分子、その他多くの分子においても適用が可能である。
【実施例11】
【0180】
[溶解度の評価]
合成例3で合成した化合物11乃至化合物19をそれぞれトルエン、THF、アニソール、クロロホルム(各2.0mg)に溶け残りが出るまで添加し、溶媒還流下で10分間攪拌し、室温まで冷却しさらに1時間攪拌し、16時間静置した後、上澄みを0.2μmのPTFEフィルターで濾過して、飽和溶液を得た。これを減圧下乾燥させることにより、各溶媒への前駆体の溶解度を算出した。結果を表1に示す。
【0181】
【表1】

(表1においては◎とは溶解度が0.5wt%以上であり、○とは0.1wt%以上0.5wt%未満、△は0.005wt%以上0.1wt%未満、×は0.005wt%未満であったことを示す。)
化合物11乃至16を用いたいずれの場合においても、溶媒還流下で前駆体化合物が脱離した化合物(即ち化合物17乃至19)の存在は認められなかった。
【0182】
表1より、極性の異なる数多くの溶媒に対して概ね0.1wt%以上の溶解性を有していることが分かり、塗布プロセスにおける溶媒の選択性に富むことが明らかとなった。
また変換後の材料である化合物17,18,19はこれら全ての溶媒に0.005wt%以下の溶解性であり、脱離反応により変換された化合物が不溶化することを示唆している。
また、溶液状態においては少なくともアニソール還流条件(154℃)においても、分解されない熱安定性、保存性を有していることが分かった。
定かではないが、固体状態のように、各分子間距離が非常に近い状態では脱離が容易に起こるが、溶液のように分子間にある程度の距離がある場合には、脱離が起こりにくいということが考えられる。
【実施例12】
【0183】
[化合物11の脱離挙動の観察例]
合成例3で合成した化合物11(5mg)を、シリコンウェハを介して任意の温度(150、160、170、180、220、230、240、260℃)に設定したホットプレート上でそれぞれ30分間加熱し、サンプル調整を行なった。
上記サンプルおよび加熱前の化合物11、および変換後の化合物17のIRスペクトル(KBr法、Spectrum GX(商品名)、Perkin Elmer社製)を測定した。その結果を、図1に示す。
化合物11の240℃の加熱条件において、−O−(1156cm−1およびC=O(1726cm−1))の吸収が消失し、新たな吸収(810、738、478cm−1、芳香族)の存在が確認された。そして、これは化合物17のスペクトルと一致する。
また、化合物11の熱分解挙動を、TG−DTA(リファレンスAl、窒素気流下(200mL/min)、EXSTAR6000(商品名)、Seiko Instruments Inc.製)を用いて25℃から500℃の範囲を5℃/minのレートで昇温し、観察した。その結果を図2に示す。
TG−DTAにおいて160〜290℃にかけて、56.7%の重量減少が見られた。これはカプロン酸4分子(理論値54.2%)とほぼ一致する。また、357.7℃に融点の存在が認められた。これは化合物17の値と一致する。
以上の結果から化合物11が加熱により化合物17へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は240℃前後であることも示された。
【実施例13】
【0184】
[化合物12の脱離挙動の観察例]
実施例12の化合物11を化合物12に換え、加熱条件を170、180、200、220、240、250、260、280、300℃とした以外は同様にサンプルを作製し、IRスペクトルを測定し、変換温度を見積もった。
化合物12の280℃の加熱条件において、−O−(1156cm−1およびC=O(1726cm−1))の吸収が消失し、新たな吸収(810、738、478cm−1、芳香族)の存在が確認された。また、同様にTG−DTAを測定した。TG−DTAにおいて250〜285℃にかけて、58.2%の重量減少が見られた。これはピバル酸4分子(理論値51.0%)よりも幾分大きい。また、357.2℃に融点の存在が認められた。これは化合物17の値と一致する。
以上の結果から化合物12が加熱により化合物17へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は280℃前後であることも示された。
【実施例14】
【0185】
[化合物15の脱離挙動の観察例]
実施例12の化合物11を化合物15に換え、加熱条件を180、200、220、230、240、250、260、280℃とした以外は同様にサンプルを作製し、IRスペクトルを測定しIRスペクトルを測定し変換温度を見積もった。化合物15の250℃の加熱条件において、−O−(1156cm−1およびC=O(1726cm−1))の吸収が消失し、新たな吸収(810、738、478cm−1、芳香族)の存在が確認された。そして、これは化合物19のスペクトルと一致する。また、同様にTG−DTAを測定した。TG−DTAにおいて200〜300℃にかけて、50.7%の重量減少が見られた。これはカプロン酸4分子(理論値48.5%)とほぼ一致する。また、358.2℃に融点の存在が認められた。これは化合物19の値と一致する。
以上の結果から化合物15が加熱により化合物19へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は250℃前後であることも示された。
【0186】
以上の実施例より、脱離の挙動と脱離反応の閾値温度を見積もることができた。また、組み合わせるπ共役系コアによる影響はそれほどなく、エステル部位に導入したアルキル鎖の違いにより、脱離反応が起こる温度が変化することが示された。本発明における化合物の場合は概ね250℃の加熱により、目的のπ共役系化合物を得ることができることが示された。
なお、上記実施例12乃至14において、実測の重量減少が理論値よりも大きいのは、高温かつ窒素気流下であるため化合物17および19の昇華性が比較的高いためであるのと、前駆体の結晶中に溶媒を含んでいるためであると考えられる。
【実施例15】
【0187】
〔薄膜の作製例〕
合成例3で合成した化合物11、14、15(各5mg)をTHFに0.1wt%の濃度になるように溶解させ、0.2μmのフィルターで濾過して溶液を調製した。濃硫酸に24時間付けおき洗浄した膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板上に、調製した溶液を100μL滴下し、シャーレを被せてそのまま溶媒が乾燥するまで静置し、薄膜を作製した。この薄膜を偏光顕微鏡および走査型プローブ顕微鏡(コンタクトモード、Nanopics(商品名)、Seiko Instruments Inc.製)によって行なったところ、平滑な連続したアモルファス膜が得られていることが分かった。
次に前記薄膜を、アルゴン雰囲気下で250℃で30分間アニール処理した後に、前記と同様にして膜の観察を行なった。アニール処理後は、偏光顕微鏡で色のついたドメインが複数観測され、平滑な結晶質の膜が得られていることが分かった。これらの膜の偏光顕微鏡写真を図3に示す。これは、前駆体である化合物11、14、15が溶解性基であるエステル基を脱離することにより、膜中でより分子間相互作用の強い化合物17、18、19へと変換され、結晶質になったためである。
この薄膜は、25℃のクロロホルム、THF,トルエン等に不溶であった。
【0188】
〔比較例1〕
比較例1として、実施例15の化合物11、14、15を化合物17、18、19に変え、THFの代わりに150℃に加熱したジクロロベンゼンを用いた以外は同様にして溶液の調整、薄膜の作製を行なった。
いずれの膜においても、目視で分かるほどに結晶が析出しており、不連続な膜になっているのが確認された。偏光顕微鏡においても、不連続で色のついたドメインが複数観測された。走査型プローブ顕微鏡で確認したところ100μm以上の表面荒さが認められた。
【0189】
以上の結果より、一部の高沸点溶媒にわずかに溶解するような難溶性の化合物の薄膜化において、本発明の製造方法が有効であることが示された。
【実施例16】
【0190】
[溶液プロセスによる有機薄膜トランジスタの作製・評価]
実施例15と同様に化合物11を含む薄膜をそれぞれ作製した。前記薄膜をアルゴン雰囲気下、250℃で30分間アニール処理をすることで、有機半導体化合物1からなる薄膜(膜厚50nm)に変換を行なった。
この薄膜上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧〜10−4Pa,蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極(チャネル長50μm,チャネル幅2mm)を形成し、図4(D)の構造の電界効果型トランジスタ(FET)素子を作製した。金電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザーB1500Aを用いて(測定条件:ソースドレイン電圧を−100V固定、ゲート電圧−20Vから+100Vまで掃引)評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。このFET素子のI−V特性図を図5に示す。図5において白丸は縦軸左(ドレイン電流の絶対値であり、黒丸は縦軸右(ドレイン電流の絶対値の平方根である。横軸は印加したゲート電圧である。
この有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I−V)特性における飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
Ids=μCinW(Vg−Vth)2/2L
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
また、ゲート電圧40Vにおけるオン電流と同0Vにおけるオフ電流の比をオンオフ比として算出した。
その結果を表2に示す。
【実施例17】
【0191】
実施例16において、化合物11の代わりに化合物14を用いて有機半導体化合物2からなる薄膜に変換した以外は同様にして、FET素子を作製し、特性評価を行なった。その結果を表2に示す。
【実施例18】
【0192】
実施例16において、化合物11の代わりに化合物15を用いて有機半導体化合物3からなる薄膜に変換した以外は同様にして、FET素子を作製し、特性評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0193】
[比較例2]
比較例1に記載のジクロロベンゼン溶液を用いて、実施例16と同様の基板上に有機半導体化合物1からなる薄膜を形成し、FET素子を作製し、特性評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0194】
[比較例3]
比較例1に記載のジクロロベンゼン溶液を用いて、実施例16と同様の基板上に有機半導体化合物3からなる薄膜を形成し、FET素子を作製し、特性評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0195】
[比較例4]
比較例1に記載のジクロロベンゼン溶液を用いて、実施例16と同様の基板上に有機半導体化合物3からなる薄膜を形成し、FET素子を作製し、特性評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0196】
【表2】

【0197】
以上の実施例より、難溶性の有機半導体化合物を高沸点溶媒に溶かして製膜するのみでは、良好なFET特性は得られないのに対して、本発明の置換基脱離化合物を用いて、有機半導体化合物を含む膜に変換することで、溶液プロセスを用いても良好なFET特性が得られることが明らかとなった。本発明の有機薄膜トランジスタはいずれも良好なホール移動度、電流オンオフ比を示し、有機薄膜トランジスタとして優れた特性を有していることが明らかとなった。このことより、本発明の置換基脱離化合物およびそれにより得られる有機半導体化合物は有機薄膜トランジスタのような有機電子デバイス素子の作製においても有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の置換基脱離化合物は、各種有機溶剤への溶解性に優れ、エネルギーの印加による脱離反応を利用して、末端オレフィンを生成することなく特定の化合物、有機半導体化合物等を高収率で合成することが可能であるため、プロセスアビリティーに優れている。
また、難溶性であるため製膜困難な有機半導体化合物であっても、本発明の置換基脱離化合物を有機半導体化合物前駆体として用い、一旦製膜した後熱などを加えて有機半導体化合物へと変換させることで、容易に連続した有機半導体膜を得ることができ、また未変換の部位を洗浄除去することで有機半導体膜のパターンニングも可能であり、この膜の有機電子デバイスへの応用が考えられ、特に半導体などの電子デバイス、EL発光素子などの光学−電子デバイス、薄膜太陽電池、色素増感太陽電池などの光電変換デバイス、電子ペーパー、各種センサー、RFIDs(radio frequency identification)などに応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0199】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0200】
【特許文献1】特開平5−055568号公報
【特許文献2】WO2006−077888号公報
【特許文献3】特開2007−224019号公報
【特許文献4】特開2008−270843号公報
【特許文献5】特開2009−105336号公報
【特許文献6】特開2009−84555号公報
【特許文献7】特開2006−352143号公報
【特許文献8】特願2009−061749号明細書
【非特許文献】
【0201】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.72,p1854 (1998)
【非特許文献2】J.Am. Chem.Soc. 128,p12604 (2006)
【非特許文献3】J.Am. Chem.Soc. 129,p15732(2007)
【非特許文献4】Adv. Mater.,11,p480 (1999),
【非特許文献5】J.Appl.Phys.100, p034502 (2006)
【非特許文献6】Appl.Phys.Lett.84,12, p2085 (2004)
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.126, p1596 (2004)
【非特許文献8】J.Chem.Res.(12), p753-757 (2006)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される部分構造を有する置換基脱離化合物。
【化1】

(ここで、(X,X)、(Y,Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともにハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X,X)または(Y,Y)の一対の前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ結合して環状の前記アシルオキシ基を形成していてもよい。R乃至Rは水素原子または置換基である。Q、Qは水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、それぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)が下記一般式(III)で示される部分構造を有する置換基脱離化合物。
【化2】

(Q乃至Qは水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、(Q,Q)、(Q,Q)、(Q,Q)はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記一般式(III)で示される化合物が下記一般式(IV)、(V)で表わされる部分構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の置換脱離化合物。
【化3】

【化4】

(ここで、nは1以上の整数であり、n=2以上の時括弧内の置換基は同一であっても異なっていてもよい。Arは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基である。ここで、一般式(IV)および(V)は、Arがシクロヘキセン誘導体骨格と共有結合を介して結合しているか、縮環していることを表わす。)
【請求項4】
前記Arが
(i)1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環同士が縮環された化合物、
及び
(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、
からなる群から少なくとも1つ以上選択される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の置換脱離化合物。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環は、ベンゼン環およびチオフェン環であることを特徴とする請求項4に記載の置換基脱離化合物。
【請求項6】
前記Arがハロゲン原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルキルオキシ基、炭素数1〜18のアルキルチオ基およびアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよい下記構造式、
【化5】

であることを特徴とする請求項3乃至5に記載の置換脱離化合物。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の置換基脱離化合物から前記一般式(IIa)、(IIb)で示されるハロゲン化水素またはカルボン酸誘導体を脱離させることにより得られる化合物を含むことを特徴とする有機半導体材料。
【請求項8】
請求項7に記載の有機半導体材料を含む有機半導体膜。
【請求項9】
請求項8に記載の有機半導体膜を用いることを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項10】
前記有機電子デバイスが有機薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項9に記載の有機電子デバイス。
【請求項11】
前記有機薄膜トランジスタが、有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極と第2の電極と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極を具備していることを特徴とする請求項10に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項12】
前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項11に記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213705(P2011−213705A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163865(P2010−163865)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】