説明

置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物

【課題】ニッケルめっき皮膜上に置換析出型の金めっき皮膜を形成する際に用いる活性化液であって、安定したハンダ接合強度やワイヤーボンディング接続強度を有する置換型金めっき皮膜を形成することが可能であり、しかも安定性が良好で、長期間連続して使用可能な新規な処理剤を提供する。
【解決手段】(i) ニッケルイオンの錯化剤、
(ii)チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる酸化防止剤、
(iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分、
(iv) アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物、並びに
(v)ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物、
を含有する水溶液からなる置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物、及び該活性化組成物を用いる金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板、半導体パッケージ、電子部品等の製造工程の一つに、導体回路、端子部分等に無電解ニッケルめっきを施し、更に無電解金めっきを行う処理工程がある。この処理工程は、通常、プリント配線板の銅回路表面の酸化を防止して良好なハンダ接続性能を発揮させることや、半導体パッケージとその上に実装される電子部品とのワイヤーボンディング性を向上させること等を目的として行われている。
【0003】
この場合のめっき方法としては、自己触媒的に析出させた無電解ニッケル皮膜上に金めっき皮膜を置換析出させた後、自己触媒型の無電解金めっき液を用いて、金めっき皮膜を厚く成膜する方法が一般的である。
【0004】
しかしながら、自己触媒型の無電解金めっき液は安定性が低く、さらに、金めっきを厚付けすると高コストになるという問題がある。このため、近年、自己触媒型の無電解金めっきを行うことなく、無電解ニッケルめっき皮膜上に置換析出によって金めっき皮膜を形成し、この上に直接ハンダ付けやワイヤーボンディングを行うことが試みられている。
【0005】
ところが、置換析出によって形成される金めっき皮膜は、下地のニッケルめっき皮膜との密着性が劣る場合が多く、しかも非常に多孔質な皮膜であり、ニッケルめっき皮膜の酸化物が形成されると、金めっき皮膜上に拡散してハンダ接合強度やワイヤーボンディングの接続強度が低下するという問題点がある。
【0006】
下記特許文献1は、(i) 錯化剤、(ii) 酸化数2〜4のカルコゲン元素を含む酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分、(iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種、及び(iv) アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物、(v)ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物、を含有する無電解金めっき用活性化液を開示している。この活性化液を用いて無電解ニッケルめっき皮膜を活性化した後、置換型の無電解金めっき皮膜を形成することにより、下地の無電解ニッケルめっき皮膜の酸化を抑制して、ハンダ接続性能やワイヤーボンディング特性を向上させることが可能であるが、活性化液の安定性に関しては、さらなる向上が望まれている。
【特許文献1】特開2006−2196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した如き従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ニッケルめっき皮膜上に置換析出型の金めっき皮膜を形成する際に用いる活性化液であって、安定したハンダ接合強度やワイヤーボンディング接続強度を有する置換型金めっき皮膜を形成することが可能であり、しかも安定性が良好で、長期間連続して使用可能な新規な処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく研究を行ってきた。その結果、ニッケルイオンの錯化剤等を含む特定組成の活性化液をニッケルめっき皮膜に接触させた後、置換析出型金めっきを行う場合には、ニッケルめっき皮膜上に密着性の良好な金めっき皮膜を形成することができ、特に、該活性化剤中に含まれる酸化防止剤がチオ尿素誘導体等の特定成分である場合には、該活性化液の安定性が大きく向上して、長期間連続して使用することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物、及び該活性化組成物を用いる金めっき方法を提供するものである。
1.
(i) ニッケルイオンの錯化剤、
(ii)チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる酸化防止剤、
(iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分、
(iv) アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物、並びに
(v)ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物、
を含有する水溶液からなる置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物。
2. 酸化防止剤が、一般式:
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、−NH又は低級アルキル基を示す。或いは、RとRは、相互に結合して、環状構造を形成してもよい。)で表される化合物、一般式:
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、ベンジル基、フェニル基、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属である)、シアノ基、ニトロ基又はホスホン基であり、Rは、低級アルキル基又は水素原子であって、該低級アルキル基は、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属である)、シアノ基、ニトロ基、ホスホン基及びフェニル基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有してもよい。)で表される化合物、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1に記載の置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物。
3. ニッケルイオンの錯化剤が、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基から選ばれた基を2個以上有する化合物である上記項1又は2に記載の活性化組成物。
4. ニッケルめっき皮膜を有する被処理物の少なくともニッケルめっき皮膜部分に、上記項1〜3のいずれかに記載の置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物を接触させた後、置換析出型金めっきを行うことを特徴とする金めっき方法。
【0014】
以下、本発明の活性化組成物について具体的に説明する。
置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物
本発明の無電解金めっき用活性化液は、(i)ニッケルイオンの錯化剤、(ii)チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる酸化防止剤、 (iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分、(iv)アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物、並びに、(v)ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物、を必須成分として含有する水溶液である。
【0015】
以下、本発明の活性化組成物に含まれる各成分について、具体的に説明する。
【0016】
(i)ニッケルイオンの錯化剤
ニッケルイオンの錯化剤としては、ニッケルイオンに配位する能力を有する化合物であれば、特に限定なく使用できる。この様な化合物としては、例えば、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基から選ばれる基を2個以上有する化合物を用いることができる。これら化合物に含まれる2個以上の基の種類は同一でもよく、或いは、異なっていてもよい。
【0017】
ニッケルイオンの錯化剤の具体例としては、カルボキシル基を2個以上含有する化合物として、コハク酸、マロン酸等の多価カルボン酸類を例示できる。水酸基を2個以上含有する化合物として、ブドウ糖の等の糖類;ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマー等の多価水酸基含有化合物を例示できる。ホスホノ基を2個以上含有する化合物として、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン等のホスホン酸類を例示できる。カルボキシル基及び水酸基を含有する化合物として、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のオキシカルボン酸類を例示できる。カルボキシル基及びアミノ基を含有する化合物として、グリシン、アラニン等のアミノ酸類;エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等の窒素原子上にカルボキシアルキル基を3〜5個程度有するエチレンジアミン又はエチレントリアミン誘導体、これらの誘導体のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を例示することができる。錯化剤は、一種単独又は二種類以上混合して用いることができる。
【0018】
通常、被めっき物は、無電解ニッケルめっき終了後、水洗を数回行った後、置換析出型金めっき液に浸漬されるが、水洗の段階でニッケルめっき皮膜が酸化されて、皮膜表面にニッケル酸化物の層が形成される。この層は置換析出による金めっき皮膜と無電解ニッケルめっき皮膜との間に残存して、金めっき皮膜の密着性を低下させる原因となる。
【0019】
本発明の活性化組成物に配合するニッケルイオンの錯化剤は、このようなニッケルめっき皮膜の酸化物を溶解除去するために有効な成分と考えられる。
【0020】
錯化剤の濃度については特に限定的ではないが、錯化剤濃度が低すぎると、溶解したニッケルイオンを活性化液中に安定に可溶化させる作用が不足して水酸化ニッケル等の沈殿が生じ易くなり、更に、ニッケルめっき皮膜の酸化物の層を溶解除去する能力が低下する。一方、錯化剤濃度が高すぎると、ニッケルめっき皮膜からのニッケルの溶解が過剰となって、ニッケル皮膜の腐食を引き起こし易くなる。これらの点から、錯化剤濃度は、1〜1000mmol/l程度とすることが好ましく、2〜100mmol/l程度とすることがより好ましい。
【0021】
(ii)チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる酸化防止剤:
この成分は、本発明活性化組成物によってニッケルめっき皮膜を有する被処理物を活性化処理した後、置換析出型金めっきを行うまでの間、ニッケルめっき皮膜の酸化を防止するために有効な成分と考えられる。
【0022】
上記した成分の内で、チオ尿素及びチオ尿素誘導体としては、例えば、一般式:
【0023】
【化3】

【0024】
で表される化合物を用いることができる。上記一般式において、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、−NH又は低級アルキル基を示す。或いは、RとRは、相互に結合して、環状構造を形成してもよい。
【0025】
また、イソチオ尿素及びイソチオ尿素誘導体としては、例えば、一般式:
【0026】
【化4】

【0027】
で表される化合物を用いることができる。上記一般式において、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、ベンジル基、フェニル基、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属(Na,K等)である)、シアノ基、ニトロ基又はホスホン基である。また、Rは、低級アルキル基又は水素原子であり、該低級アルキル基は、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属(Na,K等)である)、シアノ基、ニトロ基、ホスホン基及びフェニル基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有してもよい。
【0028】
上記各一般式において、低級アルキル基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基が好ましく、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル等を挙げることができる。またハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等を例示できる。また、RとRが相互に結合して環状構造を形成する基としては、エチレン基等のアルキレン基を例示できる。
【0029】
チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素及びイソチオ尿素誘導体の塩としては、アンモニウム塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ素酸塩等を例示できる。
【0030】
チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0031】
チオ尿素誘導体の好適な例としては、エチレンチオ尿素、チオカルバジド、チオセミカルバジド等を挙げることができる。
【0032】
イソチオ尿素誘導体の好適な例としては、下記化合物を挙げることができる。
(1)S−メチルイソチオ尿素:
【0033】
【化5】

【0034】
(2)S−エチルイソチオ尿素:
【0035】
【化6】

【0036】
(3)S−イソプロピルイソチオ尿素:
【0037】
【化7】

【0038】
(4)S−2−アミノエチルイソチオ尿素:
【0039】
【化8】

【0040】
(5)N−シアノ−N’,S−ジメチルイソチオ尿素:
【0041】
【化9】

【0042】
(6)ベンジルイソチオ尿素:
【0043】
【化10】

【0044】
(7)N−シアノ−S−メチル−N’フェニルイソチオ尿素:
【0045】
【化11】

【0046】
(8)S−(2−ジメチルアミノエチル)イソチオ尿素:
【0047】
【化12】

【0048】
本発明活性化組成物中における酸化防止剤の濃度については特に限定的ではないが、濃度が低すぎると活性化後のニッケルめっき皮膜の酸化防止効果が低下する傾向にある。一方、酸化防止剤の濃度が高すぎると、活性化液が置換析出金めっき液中に汲み込まれた場合、置換析出型金めっき液の安定性が低下し、ひいては金めっき液に含まれる各種成分の分解を引き起こし易くなる。これらの点から、酸化防止剤の濃度は、0.01〜1000mmol/l程度とすることが好ましく、0.02〜500mmol/l程度とすることがより好ましい。
【0049】
(iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分:
これらの化合物は、ニッケルめっき皮膜と金めっき皮膜との密着を向上させるために有効な成分(以下「密着向上剤」ということがある)と考えられる。
【0050】
ヒドラジン誘導体としては、ピラゾール類、トリアゾール類、チアジアゾール類、マレイン酸ヒドラジド等を例示できる。これらの内で、ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、5−アミノ−3−メチルピラゾール等のピラゾール誘導体を用いることができ、トリアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール等のトリアゾールの他に、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体等を用いることができ、チアジアゾール類としては、2−アミノ−5−エチル−1,3,4−チアジアゾール等のチアジアゾール誘導体を用いることができる。密着向上剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0051】
密着向上剤の濃度についても限定されるものではないが、濃度が低すぎると、置換析出による金めっき皮膜の密着性が低下する傾向がある。一方、密着向上剤の濃度が高すぎると、活性化液が置換析出型金めっき液中に汲み込まれた場合に、形成される金めっき皮膜にムラが生じたり、めっき未析出部分が生じるなどの悪影響を及ぼし易くなり、良好な金めっき皮膜が得られ難くなる。これらの点から、密着向上剤の濃度は、1〜1000mol/l程度であることが好ましく、2〜100mmol/l程度であることがより好ましい。
【0052】
(iv) アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物:
この化合物は、ニッケルめっき皮膜の活性化処理後、水洗水や置換析出型金めっき液中におけるニッケルめっき皮膜の腐食を抑制するために有効な成分(以下、「腐食抑制剤」という)と考えられる。
【0053】
アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物の好ましい例としては、下記一般式:
【0054】
【化13】

【0055】
(式中、R〜R14は、同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。nは、1〜6の整数である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0056】
上記一般式において、低級アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル等の炭素数1〜4程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を例示できる。
【0057】
このような化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’’−ジメチルジエチレントリアミン、N,N’−ジメチル−1,2−ジアミノプロパン等を挙げることができる。
【0058】
腐食抑制剤の濃度についても特に限定されるものではないが、濃度が低すぎる場合には、ニッケルめっき皮膜の腐食抑制効果を十分に発揮することができず、ニッケルめっき皮膜の腐食が生じ易くなる。一方、腐食抑制剤の濃度が高すぎると、腐食抑制剤が置換析出型金めっき液中に汲み込まれた場合に、金めっき液中での無電解ニッケル皮膜の溶解を促進して、無電解ニッケルめっき皮膜の腐食が生じ易くなる。これらの点から、本発明の活性化組成物中の腐食抑制剤濃度は、0.001〜10mmol/l程度であることが好ましく、0.002〜1mmol/l程度であることがより好ましい。
【0059】
(v) ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物:
ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物は、ニッケルめっき皮膜表面に吸着して表面の電位を均等にして、置換析出する金の密着性をさらに良好する効果を有する成分(以下、この成分を「電位調整剤」ということがある)と考えられる。
【0060】
ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素としては、銅、銀、スズ、鉛、モリブデン、アンチモン、タングステン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、オスミウム等を例示できる。これらの内で、特に、モリブデン、タングステン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金、オスミウムなどが好ましい。
【0061】
電位調整剤としては、これらの元素を少なくとも一個含む水溶性の化合物、例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、金属酸化物などを用いることができる。電位調整剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0062】
電位調整剤の濃度についても特に限定されるものではないが、濃度が低すぎる場合には、析出した金めっき皮膜の密着性にバラツキが生じ易くなる。一方、電位調整剤の濃度が高すぎる場合には、置換金めっき前に電位調整剤による皮膜が形成され、置換金めっきの析出不良、析出速度低下、半田付け不良等の問題が生じることがある。これらの点から、本発明活性化組成物中の電位調整剤の濃度は、0.01〜100mmol/l程度であることが好ましく、0.01〜10mmol/l程度であることがより好ましい。
【0063】
(vi) 他の成分
本発明の活性化組成物中には、該活性化組成物の特性に悪影響を及ぼさない限り、上記成分の他に、水溶性金塩;アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等上記有効成分以外の金属の塩;界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0064】
本発明の活性化組成物のpHは、特に限定されるものではないが、pHが高すぎると、無電解ニッケルめっき皮膜の腐食が起こり易くなる。このような点から、本発明の活性化組成物のpHは、1〜12程度が好ましく、1〜9程度がより好ましい。
【0065】
活性化方法
本発明の活性化組成物を用いる活性化処理は、ニッケルめっき皮膜を形成した被処理物の少なくともニッケルめっき皮膜部分に本発明の活性化組成物を接触させることによって行うことができる。
【0066】
被処理物は、ニッケルめっき皮膜が形成された物品であればよく、その材質、構造、形状などは限定されない。例えば、金属材料、プラスチック材料、セラミック材料など各種の材質の材料を被処理物とすることができる。活性処理対象物の代表例としては、プリント配線板等の導体回路、スルーホール、パッド、ランド、その他の接続部分を有する物品;半導体パッケージや各種電子部品等の端子部分を含む物品等を挙げることができる。
【0067】
被処理物に形成されているニッケルめっき皮膜の種類については、特に限定はなく、無電解ニッケルめっき皮膜、電気ニッケルめっき皮膜のいずれでもよい。プリント配線板の導体回路や接続部分、半導体パッケージや各種電子部品の端子部分については、一般に、無電解ニッケルめっき皮膜が形成されることが多い。
【0068】
本発明の活性化組成物を被処理物に接触させる方法としては、通常、被処理物を本発明の活性化組成物中に浸漬すればよいが、これに限定されるものではなく、例えば、本発明の活性化組成物を被処理物に噴霧してもよい。
【0069】
活性化組成物の液温については限定的ではないが、液温が低すぎるとニッケルめっき皮膜上の酸化物の溶解除去が緩慢となり易く、置換析出した金めっき皮膜の密着性が低下して、良好なワイヤーボンディング特性が得られ難くなる。一方、液温が高すぎると活性化組成物中の腐食抑制剤の効果が低下して、ニッケルめっき皮膜が腐食し易くなり、更に、水の蒸発が激しく、めっき液中に含まれる成分を適切な濃度に維持することが困難となる。この様な点から、通常、活性化組成物の液温は、通常、0℃程度以上とすることが好ましく、20〜90℃程度とすることがより好ましい。
【0070】
本発明の活性化組成物中に被処理物を浸漬する方法を採用する場合には、浸漬時間は、通常、30秒〜5分間程度とすればよい。
【0071】
尚、活性化組成物中に被処理物を浸漬する際には、必要に応じて、該活性化組成物を攪拌してもよく、或いは、循環濾過等の方法で活性化組成物を循環させてもよい。
【0072】
本発明活性化組成物を被処理物に接触させた後、常法に従って置換析出型の金めっきを行うことによって、優れた密着性を有する金めっき皮膜を形成することができる。
【0073】
置換析出型金めっき液の種類については特に限定はなく、公知の置換析出型の金めっき液を何れも使用できる。めっき条件についても、めっき液の種類に応じて常法に従えばよい。例えば、めっき液への浸漬時間は、5〜30分間程度とすればよい。
【0074】
置換析出により形成する金めっき皮膜の厚さは、通常、0.01〜0.5μm程度である。
【0075】
尚、本発明の活性化組成物による活性化処理を行った後、置換析出型金めっきを行う前に、通常、金めっき液中への該活性化組成物の持ち込みによる悪影響を防ぐために、水洗を行うが、金めっき液の種類によって活性化組成物の持ち込みの影響が少ない場合には、処理工程の短縮のために、該活性化組成物による活性化処理を行った後、水洗することなく、直接、置換析出型の金めっきを行ってもよい。
【発明の効果】
【0076】
本発明の活性化用組成物を用いて被処理物のニッケルめっき皮膜を活性化することによって、該ニッケルめっき皮膜上に、密着性の良好な置換析出型の金めっき皮膜を形成することができる。この方法で形成された金めっき皮膜では、下地のニッケル皮膜の酸化が抑制されており、該金めっき皮膜上のハンダ接続性能やワイヤーボンディング特性も非常に良好である。
【0077】
更に、本発明の活性化用組成物は、安定性に優れた活性化液であり、長時間継続して使用することが可能である。
【0078】
本発明の活性化組成物を用いて活性化処理を行うことにより、不安定で高価な自己触媒型金めっき液を用いた厚付け金めっきを行うことなく、置換析出型の金めっき皮膜を形成するだけで、高いハンダ接続性能と良好なワイヤーボンディング特性を有するプリント基板、半導体パッケージ、各種電子部品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0080】
実施例1〜7及び比較例1〜6
パッド径0.5mmのBGA搭載用パターンを有する5×10cmの独立回路基板を試験片として用い、厚さ約5μmの無電解ニッケルめっき皮膜(含リン率5〜8%)を形成し、水洗した後、下記表1(実施例)及び表2(比較例)に示す各活性化組成物に1分間浸漬して活性化処理を行った。尚、比較例1は、活性化処理を行っていない場合を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
活性化処理後、水洗を行い、その後下記表3に示す置換析出型金めっき液に10分間浸漬して、金めっき皮膜を形成した。
【0084】
【表3】

【0085】
形成された金めっき皮膜について、下記の方法で膜厚、外観、下地のニッケル皮膜の腐食状態、ボンディング特性、ハンダ接合強度を評価した。さらに使用した各活性化液について、下記の方法で液安定性の評価を行った。結果を下記表4に示す。
*金めっき皮膜の膜厚:
蛍光X線膜厚測定装置を用いて測定した。
*外観:
目視により色調及び未析出の有無を調べた。
*無電解ニッケルめっき皮膜の腐食状態:
金剥離剤にて金めっき皮膜を剥離した後、走査型電子顕微鏡でニッケルめっき皮膜を観察して、下記の基準により評価した。
【0086】
○ 腐食無し、 △ 一部腐食あり、 × 全面に腐食あり
*ボンディング特性:
ボンディングマシンを用いてφ28μmの金ワイヤーを金めっき皮膜上にボンディングし、ボンディング強度測定装置を用いてワイヤーボンディング強度を測定した。また、ボンディング強度測定の際に、破断又は剥離した状態を観察して、下記の基準により表した。
【0087】
○ 金ワイヤーが破断
△ 金めっき表面からワイヤーが剥離
× 無電解ニッケルめっき皮膜と金めっき皮膜との間が剥離
*ハンダ接続強度:
パッド径0.5mmのBGA搭載用パターンに、直径0.63mmの共晶ハンダボールをリフロー装置にて搭載し、常温ハンダボールプル試験器を用いて、ハンダボールを機械で挟んで垂直に引っ張り上げる方法によって、ハンダの接続強度を測定した。
*液安定性:
温度40℃、24時間放置後、目視観察にて評価した。
【0088】
○ 沈殿物無し
△ 沈殿物僅かに有り
× 沈殿物有り
【0089】
【表4】

【0090】
表4から明らかなように、本発明の活性化組成物を用いて活性化処理を行った実施例1〜7の試験片では、形成された金めっき皮膜は、外観が良好で、ワイヤーボンディング強度及びハンダ接続強度がいずれも高く、下地のニッケルめっき皮膜は、腐食のない良好な状態であった。また、活性化液の安定性も良好であり、24時間放置後にも変化が生じなかった。
【0091】
これに対して、活性化処理を行っていない比較例1では、下地のニッケルめっき皮膜に腐食が発生しており、ボンディング強度も低く、ボンディング強度測定において、金めっき表面からのワイヤー剥離や無電解ニッケルめっき皮膜と金めっき皮膜との間での剥離が認められた。
【0092】
また、本発明活性化用組成物の有効成分のいずれかを含有しない比較例2〜6の活性化用組成物を用いた場合には、ボンディング特性が劣り、かつ活性化液も安定性が劣るものであった。
【0093】
また、電位調整剤を含まない比較例5の活性化組成物を用いた場合には、下地のニッケルめっき皮膜の腐食の発生を完全に防止することができず、ワイヤーボンディング特性についても、本発明の活性化組成物を用いて活性化処理を行った場合と比較して劣る結果であった。
【0094】
以上から明らかなように、本発明の活性化液は安定で、これを用いてニッケルめっき皮膜の活性化処理を行うことによって、下地のニッケル皮膜の腐食を抑制でき、更に、金めっき皮膜上のハンダ接続性能やワイヤーボンディング特性を大きく向上できることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) ニッケルイオンの錯化剤、
(ii)チオ尿素、チオ尿素誘導体、イソチオ尿素、イソチオ尿素誘導体及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる酸化防止剤、
(iii) ヒドラジン及びヒドラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分、
(iv) アミノ基及びイミノ基からなる群より選ばれる含窒素基を2個以上含み、置換基を有することのあるエチレン基を該含窒素基の窒素原子間に有する化合物、並びに
(v)ニッケルと金の間の酸化還元電位を有する金属元素を含む化合物、
を含有する水溶液からなる置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物。
【請求項2】
酸化防止剤が、一般式:
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、−NH又は低級アルキル基を示す。或いは、RとRは、相互に結合して、環状構造を形成してもよい。)で表される化合物、一般式:
【化2】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、低級アルキル基、ベンジル基、フェニル基、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属である)、シアノ基、ニトロ基又はホスホン基であり、Rは、低級アルキル基又は水素原子であって、該低級アルキル基は、ハロゲン原子、−N(R(但し、Rは水素原子又は低級アルキル基である)、ヒドロキシル基、−SO、(但し、Mは水素原子又はアルカリ金属である)、シアノ基、ニトロ基、ホスホン基及びフェニル基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有してもよい。)で表される化合物、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載の置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物。
【請求項3】
ニッケルイオンの錯化剤が、カルボキシル基、ホスホノ基、水酸基及びアミノ基から選ばれた基を2個以上有する化合物である請求項1又は2に記載の活性化組成物。
【請求項4】
ニッケルめっき皮膜を有する被処理物の少なくともニッケルめっき皮膜部分に、請求項1〜3のいずれかに記載の置換析出型金めっきの前処理用活性化組成物を接触させた後、置換析出型金めっきを行うことを特徴とする金めっき方法。

【公開番号】特開2007−314857(P2007−314857A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147908(P2006−147908)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】