説明

置換金めっき液

【目的】 無電解ニッケルめっきで形成されたニッケル層にアニール処理を施した後、緻密で且つニッケル層に対して良好な密着性を呈する金層を置換めっきによって形成し得る置換金めっき液を提供する。
【構成】 置換金めっき液が、フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に調整された緩衝液に、シアン化金カリウムが添加されて成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は置換金めっき液に関し、更に詳細には緻密で且つ下地めっき層に対して良好な密着性を呈する金層を置換金めっきによって形成し得る置換金めっき液に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体装置等の電子部品やコネクターの端子には、導電性に優れ且つ化学的に安定している金層がめっきによって形成される。かかる電子部品やコネクター等に金めっきを施す際には、通常、耐蝕性が良好で且つ硬度の高いニッケルめっき(NiーP又はNiーB)を下地めっきとして施した後に、金めっきが施される。この様な金めっきを施す場合には、米国特許第3162512号明細書に記載されている如く、下地めっきで形成されたニッケル層の上面に置換金めっきが施される。ところで、プラスチックやセラミック等の非導電性材料から成る電子部品にニッケル層をめっきによって形成するためには、無電解ニッケルめっきが採用される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この様な無電解ニッケルめっきによって、非導電性材料から成る電子部品等にもニッケルめっきを施すことができる。しかし、無電解ニッケルめっきによって形成されたニッケル層の上面に金めっきを施すと、ニッケル層を形成するニッケルが金層に拡散する。かかるニッケルの金層への拡散は、先に本発明者の一人が特願昭62ー268406号明細書において提案した様に、無電解ニッケルめっきを施して形成されたニッケル層にアニール処理を施した後、置換金めっきを施すことによって抑制できる。しかしながら、ニッケル層にアニール処理を施した後に、置換金めっきを施して得られた金層は、粗く且つニッケル層との密着性が低いことが判明した。そこで、本発明の目的は、無電解ニッケルめっきで形成されたニッケル層にアニール処理を施した後、緻密で且つニッケル層に対して良好な密着性を呈する金層を置換金めっきによって形成し得る置換金めっき液を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、前記目的を達成すべく検討を重ねた結果、下地ニッケルの溶出や酸化等を抑制する緩衝液を用いることによって、緻密で且つ下地めっきに対して良好な密着性を呈する金層を形成できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に調整された緩衝液に、シアン化金カリウムが添加されていることを特徴とする置換金めっき液である。また、本発明は、水溶性アミノ酸、塩化アルカリ及び塩酸から成る水溶性緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に調整された緩衝液に、シアン化金カリウムが添加されていることを特徴とする置換金めっき液でもある。かかる構成の本発明において、水溶性緩衝剤がフタル酸水素カリウムと水酸化カリウムとから成ることが、半導体装置用の置換金めっき液として好適に使用できる。更に、水溶性アミノ酸がグリシンであることが、置換金めっきに要するコストを低減することができる。また、めっき液中にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が添加されていることが、置換めっき液中に溶出するニッケル等の金属を錯化でき、置換めっき液の寿命を長くすることができる。
【0005】
【作用】本発明によれば、後述する実施例に示す様に、置換ニッケルめっきで形成したニッケル層にアニール処理を施した後、本発明の置換金めっき液を使用して置換金めっきを施すことによって、緻密で且つニッケル層に対して良好な密着性とを呈する金層を形成できる。
【0006】
【発明の構成】本発明の置換めっき液は、フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤が添加されている置換めっき液である。かかる水溶性緩衝剤として使用するフタル酸水素アルカリ及び水酸化アルカリとしては、水溶性であれば任意の化合物を採用できるが、ナトリウム化合物又はカリウム化合物が好ましい。特に、緩衝剤として、フタル酸水素カリウムと水酸化カリウムとから成る緩衝剤を使用すると、半導体装置に置換金めっきを施す際に、好適に使用できる。本発明の置換めっき液は、かかる緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に維持された緩衝液にシアン化金カリウムが添加されているものである。緩衝液のpH値が4未満の場合、或いは7を越える場合には、緻密で且つ無電解ニッケル層との密着性が向上された金層を置換金めっきによって形成することが困難となる。
【0007】本発明においては、フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤に代えて、水溶性アミノ酸、塩化アルカリ及び塩酸から成る水溶性緩衝剤を使用してもよい。ここで、水溶性アミノ酸としてグリシンを使用することが、置換めっき液のコストを低下することができ好ましい。更に、塩化アルカリとしては、NaClを好ましく使用できる。また、本発明の置換めっき液には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が添加されていることが、置換めっき中に溶出したニッケル等の金属を錯化できるため、置換めっき液の寿命を長くできる。このキレート剤としては、EDTAの他に、CyDTA、DTPA、EDTA−OH、GEDTA、TTHA及びこれらのアルカリ金属塩を挙げることができる。また、これらキレート剤の添加量は、0.1〜100g/リットルとすることが好ましい。
【0008】かかる本発明の置換めっき液は、プラスチックやセラミック等の非導電性材料から成る半導体装置に使用されるパッケージ等のめっき対象部材に、無電解ニッケルめっきを施した後、ニッケルの金層への拡散を防止すべく、本発明者の一人が先に特願昭62ー268406号明細書において提案した様に、アニール処理を施したニッケル層に更に置換金めっきを施す際に、好適に使用できる。この際の置換金めっき条件としては、通常のめっき条件を採用でき、90℃のめっき液中にめっき対象部材を3〜30分間浸漬することによって、置換金めっきを施すことができる。かかる置換金めっきが施されためっき対象部材には、更に無電解金めっきを施して金層を厚付けしてもよい。この様にして得られためっき対象部材上に形成された金層は、稠密で且つニッケル層との密着性も良好のものである。かかる本発明の置換めっき液は、半導体装置に使用されるパッケージ等の部材のみならず、コネクター等の端子部の金めっきにも使用することができる。尚、コネクター等に金めっきを施す際には、フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤としては、フタル酸水素ナトリウムと水酸化ナトリウムとから成る水溶性緩衝剤を使用することもできる。
【0009】
【実施例】本発明を実施例によって更に一層詳細に説明する。
実施例1セラミックパッケージに市販の無電解ニッケルめっき液(上村工業製)を用い、厚さ4,0mμのニッケル層を形成した。次いで、ニッケル層が形成されたセラミックパッケージを、還元雰囲気下で760℃、10分間のアニール処理を行った後、90℃の置換金めっき液中に4分間浸漬して置換金めっきを行った。この際に使用した置換金めっき液は、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムとから成る水溶性緩衝剤を使用してpH値が5.5に調整された緩衝液に、シアン化金カリウム1.5g/リットルを添加したものである。尚、フタル酸水素カリウムの添加量は40.8g/リットル、水酸化ナトリウムの添加量は4.0g/リットルであった。この様に置換金めっきが施されたセラミックパッケージ面の肉眼観察によると、緻密な置換金めっき層が形成されていた。また、セラミックパッケージ面にワイヤブラシによって引っかき傷を形成し、形成した引っかき傷の部分を顕微鏡観察して置換金めっき層のニッケル層に対する密着性を観察したところ、置換金めっき層の剥離は見られなかった。
【0010】実施例2実施例1において、水溶性緩衝剤として、グリシン35.5g/リットル、NaCl27.5g/リットル、及び塩酸(0.1N)0.25ml/リットルが添加されてpH値が4.5に調整された緩衝液に、シアン化金カリウム1.5g/リットルを添加した置換めっき液を使用した他は、実施例1と同様に置換金めっきを行った。置換金めっきが施されたセラミックパッケージ面の肉眼観察によると、緻密な置換金めっき層が形成されていた。また、セラミックパッケージ面にワイヤブラシによって引っかき傷を形成し、形成した引っかき傷の部分を顕微鏡観察して置換金めっき層のニッケル層に対する密着性を観察したところ、置換金めっき層の剥離は見られなかった。
【0011】実施例3実施例1において、置換金めっき液にキレート剤としてEDTA・2Naを20g/リットル添加した他は、実施例1と同様に置換金めっきを行った。置換金めっきが施されたセラミックパッケージ面には緻密な置換金めっき層が形成され、且つセラミックパッケージ面のワイヤブラシによる置換金めっき層とニッケル層との密着性試験においても、置換金めっき層の剥離が見られず良好であった。しかも、本実施例の置換金めっき液は、実施例1の置換金めっき液に比較して、置換金めっき液の寿命を延長できた。
【0012】比較例実施例1において、米国特許第3162512号明細書に、ニッケル層に対して良好な密着性を呈する置換金めっき層を形成する置換金めっき液として記載されている下記組成の置換金めっき液を使用した他は、実施例1と同様に置換金めっきを施した。
置換金めっき液組成クエン酸アンモニウム 20g/リットルシアン化カリウム 5g/リットルEDTA・2Na 25g/リットル尚、本比較例で使用した置換金めっき液は、アンモニア水でpH値が6.0〜6.5に調整されている。置換金めっきが施されたセラミックパッケージ面の肉眼観察によると、形成された置換金めっき層は粗いものであった。また、セラミックパッケージ面にワイヤブラシによって引っかき傷を形成し、形成した引っかき傷の部分を顕微鏡観察して置換金めっき層のニッケル層に対する密着性を観察したところ、置換金めっき層のニッケル層から剥離している部分が所々に存在していた。
【0013】
【発明の効果】本発明によれば、非導電性材料から成る電子部品等に緻密で且つ下地めっきとの密着性良好な金めっき層を置換金めっきによって形成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フタル酸水素アルカリと水酸化アルカリとから成る水溶性緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に調整された緩衝液に、シアン化金カリウムが添加されていることを特徴とする置換金めっき液。
【請求項2】 水溶性緩衝剤がフタル酸水素カリウムと水酸化カリウムとから成る請求項1記載の置換金めっき液。
【請求項3】 水溶性アミノ酸、塩化アルカリ及び塩酸から成る水溶性緩衝剤が添加されてpH値が4〜7に調整された緩衝液に、シアン化金カリウムが添加されていることを特徴とする置換金めっき液。
【請求項4】 水溶性アミノ酸がグリシンである請求項3記載の置換金めっき液。
【請求項5】 めっき液中にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が添加されている請求項1又は請求項3記載の置換金めっき液。