説明

羊膜由来細胞の培養方法及びその利用

【課題】 羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を、in vitroにて未分化のまま大量に増殖させる培養方法及びその利用を提供する。
【解決手段】 羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を、基底膜細胞外基質又はFGF存在下にて培養することにより、in vitroにて未分化のまま大量に増殖させることができる。しかも、大量に増殖した後も多分化能を維持することができる。すなわち、増殖後の分化誘導刺激により各種の細胞へと分化させることができる。また、本培養方法で増殖した細胞は、未分化ES細胞に類する多分化能を有するため、再生医療等において非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類の羊膜由来の細胞を未分化のまま増殖させることができる培養方法及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
21世紀の医療として再生医学(再生医療)が注目されており、この再生医学の成功の鍵となるのが幹細胞である。
【0003】
幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)や、表皮や精子の幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、骨髄性幹細胞等が知られている。特に、ES細胞は、全ての細胞に分化可能である全能性を有するため、非常に有用である一方、動物初期胚の胚盤胞の内部細胞塊より樹立されたものであり、生命倫理上、取り扱いが厳しく制限されている。
【0004】
このため、現在では、ES細胞以外の多分化能(多能性)を有する幹細胞を用いた研究開発が盛んに進められている。幹細胞を組織の再生医療に利用するためには、幹細胞を生体組織から採取し増殖させ、さらにそれを分化増殖させた後、組織の調製を行うといったように、多段階の技術の開発が必要である。なかでも、組織再生の材料となり得る幹細胞を、未分化のまま、つまり多分化能を保持させたまま大量に増殖させる技術の開発は、再生医療の実現に不可欠である。
【0005】
このような幹細胞の培養方法として、例えば、本発明者らは、以前、哺乳類の骨髄等に存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する多分化能の間葉系幹細胞を、細胞外基質や線維芽細胞増殖因子の存在下で培養することによって、十分な量の骨髄由来の間葉系幹細胞を取得することができることを報告している(特許文献1、2参照)。
【0006】
また、間葉系幹細胞以外にも多分化能を有すると考えられる細胞として、哺乳類の羊膜由来の細胞が知られており、この羊膜由来の細胞を再生医学に利用する試みがなされている。例えば、特許文献3には、ヒト羊膜由来の上皮細胞又は間葉系細胞を一定条件の下で生物体内に投与すれば、生物体の糖尿病又は骨代謝異常症の病態を改善可能であることが開示されている。また、特許文献4には、ヒト羊膜から神経幹細胞を分離・増殖できることが開示されている。これらの技術以外にも、非特許文献1に示すように、羊膜由来の細胞を再生医学へ応用しようとする試みが数多く報告されている。
【特許文献1】特開2003−52360号公報(公開日:2003年 2月25日)
【特許文献2】特開2003−52365号公報(公開日:2003年 2月25日)
【特許文献3】特開2003−231639号公報(公開日:2003年 8月19日)
【特許文献4】特開2003−125759号公報(公開日:2003年 5月 7日)
【非特許文献1】二階堂敏雄ら共著、「羊膜細胞の再生医学への応用」、信州医誌、52(1):7〜14、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、哺乳動物の羊膜由来の細胞は、種々の細胞に分化できる多能性を有すると示唆されており、再生医療の材料として非常に有望と思われる。しかしながら、これまで、羊膜由来の細胞を、未分化のまま大量に増殖させる技術は開発されていなかった。
【0008】
すなわち、特許文献1、2は、骨髄由来の間葉系幹細胞を増殖させる方法を開示しているが、骨髄由来の間葉系幹細胞と羊膜由来の細胞とは由来や性質が異なる。具体的には、羊膜を構成する細胞のうち、羊膜上皮細胞は胎児を形成する胚盤上層に由来し、羊膜間質(間葉系)細胞は胚外中胚葉に由来するものである。一方、骨髄由来の間葉系幹細胞は、外胚葉又は中胚葉に由来するものであり、明らかに由来や性質が異なるといえる。このため、羊膜由来細胞と骨髄由来の間葉系幹細胞とが、同様な方法で培養可能か否か不明である。幹細胞の種類、由来、及び性質等が異なれば、同一の培養方法で培養できるか否かについては、当業者に期待し得る程度の試行錯誤を超える複雑高度な実験による検証が必要である。このことは、後述するように、マウスES細胞が、特許文献1、2に開示の方法で培養した場合に分化能を失ってしまうことから明らかである。
【0009】
また、特許文献3に開示の技術は、生体より採取した羊膜由来の細胞をほぼそのまま用いて医薬組成物を調製する技術であり、羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を大量に培養させる方法については開示も示唆もしていない。また、特許文献4には、羊膜間葉細胞層から分離した神経幹細胞のみを選択的に培養させる方法について開示されているが、羊膜由来から分離した上皮細胞や間質細胞を未分化のまま大量に増殖させる培養方法については具体的に開示されていない。
【0010】
つまり、羊膜由来の細胞が神経等の種々の組織細胞へ分化するため、移植用の細胞として各種の再生医療に役立つ可能性については知られていたが、羊膜由来の細胞をin vitroにて大量に増殖させて、再生医療に利用する方法は開発されてなかった。
【0011】
また、非特許文献1には、未分化の羊膜由来の上皮細胞及び間葉系細胞は、未分化ES細胞と類似の性質を有すると報告されているが、羊膜由来の細胞をin vitroにて大量に増殖させた場合までも、このような性質を維持できるか否かについて、全く明らかにされていない。つまり、羊膜由来の上皮細胞及び間質細胞を、このような未分化ES細胞に類する性質を維持したまま大量に増殖させる培養技術は一切開発されていない。
【0012】
このため、再生医学や細胞工学に非常に有用と考えられる羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を、in vitroにて未分化のまま大量に増殖させる培養方法の開発が強く求められていた。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を、in vitroにて未分化のまま大量に増殖させる培養方法及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、繊維芽細胞増殖因子又は基底膜細胞外基質でコートされた培養皿を用いることにより、羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を未分化のまま、大量に増殖させることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0015】
(1)基底膜細胞外基質の存在下にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養する細胞の培養方法。
【0016】
(2)基底膜細胞外基質でコートした培養皿上にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養する(1)に記載の細胞の培養方法。
【0017】
(3)前記基底膜細胞外基質は、PYS2細胞又は牛角膜内皮細胞を培養して形成したものである(1)又は(2)に記載の細胞の培養方法。
【0018】
(4)前記基底膜細胞外基質は、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、I,III,IV,V型コラーゲン、及びラミニンを含むものである(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0019】
(5)線維芽細胞増殖因子の存在下にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養する細胞の培養方法。
【0020】
(6)前記哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞は、多分化能を保持したまま増殖する(1)〜(5)のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0021】
(7)前記培養方法によって増殖した細胞は、RT−PCRによってOct−4遺伝子の発現が認められる(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0022】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞の培養方法にて調製された細胞を、所定の分化誘導培地を用いて、所定の組織細胞へ分化誘導させる細胞の分化誘導方法。
【0023】
(9)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の細胞の培養方法にて調製された羊膜上皮細胞と羊膜間質細胞とを、共培養する(8)に記載の細胞の分化誘導方法。
【0024】
(10)前記所定の組織細胞は、骨細胞、軟骨細胞、又は神経細胞である(8)又は(9)に記載の細胞の分化誘導方法。
【0025】
(11)(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞の培養方法によって調製され得る細胞。
【0026】
(12)前記細胞は、多分化能を有する(11)に記載の細胞。
【0027】
(13)(8)〜(10)のいずれかに記載の細胞の分化誘導方法によって調製され得る細胞。
【0028】
(14)前記細胞は、組織の再生及び/又は修復用に用いられるものである(11)〜(13)のいずれかに記載の細胞。
【0029】
(15)(11)〜(14)のいずれかに記載の細胞を含む動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤。
【0030】
(16)(11)〜(14)のいずれかに記載の細胞を、単独で又は担体とともに、組織の欠損部及び/又は修復部に移植する動物組織の再生方法。
【0031】
(17)(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞の培養方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法。
【0032】
(18)(8)〜(10)のいずれかに記載の細胞の分化誘導方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る細胞の培養方法によれば、再生医療や細胞工学に有用な哺乳類の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を、未分化のまま大量に増殖させることができるという効果を奏する。さらに、本発明に係る分化誘導方法を用いることにより、哺乳類の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を所望の組織細胞へと簡便かつ確実に分化させることができる。
【0034】
また、上記培養方法又は分化誘導方法によって調製した細胞を用いることにより、動物組織の再生及び/又は修復用の医薬品や再生方法に応用することができる。
【0035】
また、羊膜は、コラーゲン(Type III、IV、V)やラミニン、ニドゲンからなる厚い基底膜を持ち、他の組織にはない特徴を備えており、血管成分を含まないため拒絶反応が起こりにくいという性質があるため、羊膜由来の細胞を用いた再生医療は、拒絶反応を軽減できるという利点がある。
【0036】
また、羊膜は、医療廃棄物として廃棄されていたものであるため、ES細胞に比べて、生命倫理的な問題も少なく、培養のための初期細胞の取得も比較的容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明では、医療廃棄物である羊膜の上皮及び間質から細胞を分離し、羊膜上皮細胞及び羊膜間質細胞を培養することに成功した。従来、これらの細胞を増殖させることは困難であったが、繊維芽細胞増殖因子あるいは基底膜細胞外基質でコートされた培養皿を用いることにより、大量の細胞まで増殖させることが可能となった。これらの細胞は、神経、骨、軟骨、脂肪などへと分化する能力をもっているので、再生医療での移植用細胞として有望である。幹細胞としては、ES細胞や成人の骨髄や骨膜、脂肪組織などに存在する幹細胞が有望視されていたが、羊膜由来の細胞は、発生的には両者の中間に位置している。実際、今回の発明で, 遺伝子発現からみても、試験管内で増幅した羊膜由来の細胞はES細胞の性質に近く、しかも骨髄由来の間葉系幹細胞と同様に骨、軟骨分化能を有している。また、他人から採取せざるを得ないES細胞と異なり、母親由来の羊膜細胞を本人(子供)や母親に移植しても拒絶反応が少ないこと、ES細胞を用いた再生医療に比べて腫瘍の形成の心配が少ないこと、ES細胞に比べて倫理的問題が少ないこと等の数多くの利点がある。このため、in vitro(例えば、試験管内)にて大量に増殖させた羊膜由来細胞は、各種の疾患に対して再生用の細胞として役立つと期待できる。このような非常に有用な本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明する。なお、本発明は以下の記載に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0038】
(1)本発明に係る細胞の培養方法
本発明に係る細胞の培養方法は、基底膜細胞外基質(基底膜ECM;Extracellular Matrix)の存在下にて、哺乳動物の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を培養する方法であればよく、その他の具体的な条件(温度、炭酸ガス濃度等)は特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。
【0039】
本発明に用いられる哺乳動物の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞は、文字通り、哺乳動物の羊膜から分離・採取されるものであればよく、分離・採取方法の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例に示すように、哺乳類の羊膜をコラゲナーゼとトリプシン−EDTAとを用いた2段階酵素分解法で処理して培養に用いる羊膜上皮細胞及び間質細胞を取得することができる。
【0040】
また、羊膜を取得する方法も特に限定されるものではなく、例えば、ヒトの場合は、後述する実施例に示すように、インフォームドコンセントが得られた出産後の患者(自然分娩、帝王切開を含む)より胎盤を得、羊膜を取得することができる。なお、本明細書では「羊膜上皮細胞」は羊膜の上皮から分離された細胞又はその細胞に由来する細胞を意味し、「羊膜間質細胞」は羊膜の間質から分離された細胞又はその細胞に由来する細胞を意味する。
【0041】
本発明の培養用の培地における基底膜細胞外基質の存在形式は特に限定されないが、基底膜細胞外基質でコートした培養皿上にて、哺乳動物の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を培養することが好ましい。その際、培養皿等の培養装置は、従来公知のものを利用でき、具体的な形状・材質・種類等は特に限定されない。なお、基底膜細胞外基質でコートした培養皿は、参考文献(Gospodarowicz D, Cohen, DC, Fujii DK, Regulation of cell growth by the basal lamina and plasma factors, in Cold Spring Harvor Conferences on Cell Proliferation vol 9.G. Sato, A. Pardee and D. Sirbasku eds, 1982; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4094-4098, 1980)を参照することで当業者にとって容易に調製することができる。
【0042】
また、本発明では「基底膜細胞外基質」は、少なくとも、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、及びラミニンを構成成分として含むものであればよく、その由来や具体的な組成等は特に限定されない。例えば、後述する実施例に示すように、PYS2細胞又は牛角膜内皮細胞を培養して形成された基底膜細胞外基質であることが好ましい。なお、上記細胞に限られず、例えば、PFHR9奇形腫由来細胞やその他の細胞からでも同様の基底膜細胞外基質を作製することができる。
【0043】
さらに、本発明に係る細胞の培養方法は、線維芽細胞増殖因子(FGF;Fibroblast growth factor)の存在下にて、哺乳動物の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を培養することからなる。本発明でいう「線維芽細胞増殖因子」とは、中胚葉と神経外胚葉から発生した幅広い細胞の増殖を促進する因子のファミリーであり、具体的には、FGF−1(酸性FGF)、FGF−2(塩基性FGF)、int−2(FGF−3)、hst−1(FGF−4)、FGF−5、hst−2(FGF−6)、KGF(keratinocyte growth factor、FGF−7)、FGF−8(AIGF;androgen-induced growth factor)、FGF−9(GAF;Glia-activating factor)などの20種類以上の分子が含まれる。なお、後述する実施例では、これらFGFのなかでも、FGF−2を用いているが、これに限定されるものではなく、他のFGFも好適に用いることができる。なお、FGFの濃度等は、当業者であれば好適に設定することができ、特に限定されるものではないが、特に、0.1ng/ml〜10ng/mlであることが好ましい。
【0044】
また、本発明に係る培養方法に用いることができる培地は、通常の細胞培養用の培地を用いることができ、その具体的な組成等は限定されるものではない。例えば、MEM(Minimal Essential Medium:最小必須培地)やDMEM(Dulbecco's modified Eaqle's medium)培地に、FBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎児血清)、抗生剤を所定の配合比率で混合したものを用いることができる。この際、必要に応じて、成長因子、例えば、サイトカイン、濃縮血小板、BMP、TGF−β、IGF、PDGF、VEGF、HGFやこれらを複合させたもの等の成長に寄与する物質を混合することにしてもよい。また、エストロゲン等のホルモン剤や、ビタミン等の栄養剤を混合してもよい。なお、ウシ胎児血清に代えてヒト血清を用いてもよい。また、抗生剤としては、ペニシリン系抗生物質の他、セフェム系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ホスホマイシン系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系等任意の抗生物質を採用することができる。
【0045】
さらに、本発明において、培地中にトランスフェリン、インスリン、セレン酸、及びリノール酸からなる群より選択される1種又は2種以上の添加剤を添加することにより、培地中の血清濃度が低い場合でも、通常の血清の使用量と同等若しくはそれ以上の増殖効果を得ることができる。
【0046】
上述のように、本発明に係る細胞の培養方法によれば、in vitroにて、哺乳動物の羊膜由来の上皮細胞又は間質細胞を、多分化能を保持したまま、つまり未分化状態にて大量に増殖させることができる。
【0047】
さらに、後述するように、本発明に係る細胞の培養方法によって増殖した羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞は、RT−PCRによってOct−4遺伝子の発現が認められる。Oct−4遺伝子は、未分化ES細胞に特異的に発現する転写因子であり、未分化ES細胞の分化全能性に深く関与していると考えられている因子である。このため、本発明に係る培養方法によって増殖した羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞は、未分化ES細胞に類似した性質、すなわち分化全能性を有する可能性が高いと考えられ、再生医療や細胞工学等にとって非常に有用であるといえる。また、換言すれば、本発明に係る細胞の培養方法によれば、羊膜由来の細胞を、未分化ES細胞と類する性質を維持したまま、大量に増殖させることができる技術であるといえる。
【0048】
(2)本発明に係る細胞の分化誘導方法
本発明に係る細胞の分化誘導方法は、上記(1)欄で説明した細胞の培養方法にて調製された細胞を、所定の分化誘導培地を用いて、所定の組織細胞へ分化誘導させる方法であればよく、その他の具体的な条件(温度、炭酸ガス濃度等)は特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。
【0049】
増殖させた羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞の組織細胞への分化誘導は、それぞれの目的に応じて、好適な分化誘導培地を選択することができる。例えば、「所定の組織細胞」が骨細胞、軟骨細胞、又は神経細胞である場合、それぞれ骨分化誘導培地、軟骨分化誘導培地、又は神経分化誘導培地を用いることができる。
【0050】
骨分化誘導培地としては、例えば、後述する実施例に示すように、αMEM、FBS、デキサメサゾン、β−グリセロールリン酸、及びアスコルビン酸−2−リン酸を含む組成の分化誘導培地を用いることができる。また、軟骨分化誘導培地としては、例えば、高グルコースαMEM、TGF−β、デキサメサゾン、アスコルビン酸−2−リン酸、ピルビン酸ナトリウムを含む組成の分化誘導培地を用いることができる。
【0051】
また、後述する実施例に示すように、上記(1)欄で説明した細胞の培養方法にて調製した羊膜上皮細胞と羊膜間質細胞とを共培養することにより、組織細胞への分化誘導をさらに促進することができる。特に、羊膜上皮細胞と羊膜間質細胞とを共培養することにより、骨分化誘導が促進されることが実証されている。
【0052】
共培養の方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、後述する実施例の図5(a)に示すように、セルカルチャーインサートを用いて行うことができる。
【0053】
なお、上述したように、上記(1)欄で説明した細胞の培養方法にて調製された細胞は、ES細胞のように、分化全能性若しくはそれに近い多能性を有していると考えられる。このため、上記(1)欄で説明した細胞の培養方法にて調製された細胞の組織細胞への分化は、骨細胞、軟骨細胞、及び神経細胞に限定されるものではなく、その他の種々の組織細胞、例えば、膵β細胞、肝細胞等への分化も可能である(非特許文献1参照)。
【0054】
(3)本発明に係る細胞及びその利用(薬剤、薬剤の製造方法、再生方法)
本発明に係る細胞は、上記(1)欄で説明した細胞の培養方法によって調製されたもの、又は調製され得るものであればよい。上記細胞は、RT−PCRによってOct−4遺伝子の発現が認められる。これまで、培養され増殖した羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞において、Oct−4遺伝子が発現していることについての報告は無く、培養され増殖した羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞が未分化ES細胞のような機能を有することは、本発明によって初めて明らかにされたものである。このため、本発明に係る細胞の培養方法によって培養された羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞は、未分化ES細胞に類似した性質、すなわち分化全能性若しくはそれに近い多能性を有していると考えられる。したがって、動物組織の再生及び/又は修復用に利用するうえで、非常に有用である。
【0055】
また、本発明に係る細胞は、上記(2)欄で説明した細胞の分化誘導方法によって調製されたもの、又は調製され得るものであればよい。これらの細胞も、当然に組織の再生及び/又は修復用に用いることができる。
【0056】
すなわち、本発明には、上記細胞を含む動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤が含まれ得る。また、同様に、上記細胞の培養方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法、及び上記細胞の分化誘導方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法も本発明に含まれ得る。
【0057】
なお、本発明には、採取した細胞を採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして、採取した細胞を培養及び/又は分化誘導し薬剤を製造する方法も当然に含まれる。すなわち、上記「薬剤」の使用には、製造された薬剤を他者(羊膜細胞の提供者以外の者)に用いる場合(例えば、他家移植)、及び同じ者(羊膜細胞の提供者と同一人)に用いる場合(例えば、自家移植)のいずれの場合も含まれることはいうまでもない。特に、細胞の提供者と治療(移植)対象が同じである自家移植の場合、拒絶反応を略完全に抑制できるという点で非常に優れた再生医療となり得る。
【0058】
また、上記細胞を、単独で又は担体とともに、組織の欠損部及び/又は修復部に移植する動物組織の再生方法も本発明に含まれ得る。本発明に係る細胞は、高レベルの分化能を有し、組織の再生、修復用に好適に用いることができる。ここで「担体」としては、生体由来のものや、生体組織に親和性のある材料であれば任意のものでよく、生体吸収性の材料であればさらに好ましい。特に、生体適合性を有する多孔性のセラミックスや、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒアルロン酸、又はこれらの組合せを用いてもよい。また、チタンの様な金属であってもよい。特に、骨を再生及び/又は修復する場合は、骨補填材を用いることが好ましい。骨補填材としては、例えば、ブロック状のβリン酸三カルシウム(β−TCP)やハイドロキシアパタイト等の材料からなる多孔体を挙げることができる。特に、β−TCPを骨欠損部の骨細胞に接触させておくと、破骨細胞がβ−TCPを食べ、骨芽細胞が新しい骨を形成する、いわゆるリモデリングが行われる。すなわち、骨欠損部に補填された骨補填材は、経時的に自家骨に置換されていくことになり、非常に有用である。
【0059】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0060】
<1>羊膜細胞の分離とFGFによる増殖促進
(細胞の分離及び培養法)
インフォームドコンセントを得た妊婦の出産後(自然分娩、帝王切開を含む)の胎盤より、羊膜を絨毛膜層からピンセットで剥離して分離した。羊膜細胞の分離は、コラゲナーゼとトリプシン−EDTAとを用いた2段階酵素分解法で行った。具体的には、得られた羊膜を100mlビーカーに入れて、リン酸緩衝液(PBS)で3回洗った後、滅菌した手術用ハサミで細かく切って断片化し、それを1mg/mlコラゲナーゼ(Sigma)、0.08%DNAアーゼ(Sigma)を含有DMEM−F12(Sigma)培地で37℃、スターラーバーで500〜600rpmにて回転しながら1時間振盪処理した。
【0061】
羊膜上皮細胞を除くために、回収された溶液を100μm、40μmのフィルター網にそれぞれに通して、さらに2000×gで10分間遠心して集め、羊膜間葉系(間質)細胞を分離した。得られた細胞の数をCoulterカウンター(Z1シングル、コールター社製)で計測した。間葉系細胞は、以上の方法で通常1g羊膜組織からおよそ1.0×106〜2×106個の細胞が採取できた。初代培養は細胞を4×104個/cm2の密度で10%牛胎児血清(FBS)を含むDMEM−F12培地(ペニシリン:100単位/ml、ストレプトマイシン:100μg/ml)で10cm直径組織培養ディッシュに播種し、37℃、5%炭酸ガス存在下で行った。
【0062】
羊膜の上皮細胞は、間葉系細胞が完全に取り除かれた羊膜より分離した。フィルター網上に残された羊膜を0.05%トリプシン+0.2mM EDTAで37℃にて5分間処理して、遠心して集め、上皮細胞を分離した。上皮細胞は、以上の方法で通常1g羊膜組織からおよそ8.0×106〜10×106個の細胞が採取できた。得られた上皮細胞を5×104個/cm2の密度で10cm直径組織培養ディッシュに播種し、10%FBSを含むDMEM−F12培地(ペニシリン:100単位/ml、ストレプトマイシン:100μg/ml)で37℃、5%炭酸ガス存在下で培養した。
【0063】
(FGFによる増殖促進法)
上記の初代培養間葉系細胞が7日前後で集密的(コンフルエント)に近くなったところで、培養ディッシュを0.05%トリプシン+0.2mmEDTAで処理して細胞をディッシュから回収し、得られた細胞数を計測した。培養した間葉系細胞を5000個/cm2の密度で、線維芽細胞増殖因子(FGF)−2(3ng/ml)を含有若しくは含有しないDMEM−F12培地(FBS:10%、ペニシリン:100単位/ml、ストレプトマイシン:100μg/ml)に播種した。そして、3日目で培地を交換し、以後3日に1回培地を交換した。なお、FGF−2(3ng/ml)(0.1ng/ml〜10ng/mlが望ましく、その上下でも効果がある)の添加は培養初日から行った。培養した細胞が集密的になる前に継代し、この操作は繰り返して継代培養を行った。FGF−2以外の他のFGFファミリーメンバーでもよい。
【0064】
(結果)
10%FBS含有のDMEM−F12培地にFGF−2(3ng/ml)を添加し、2カ月間にわたって羊膜由来間葉系細胞の増殖培養を行った。その結果を図1に示す。羊膜由来間葉系細胞は、元の細胞数と比べて、106倍以上増殖した。この高い増殖能力が培養7代目まで維持された(図1の「FGF+」参照)。一方、従来法(FGF不含有)では、一度継代した後(培養10日以後)、増殖が停止した(図1の「FGF−」参照)。
【0065】
<2>基底膜ECMでコートした培養ディッシュの作製とECM上での羊膜細胞の増殖
(細胞外基質でコートした培養ディッシュの作製)
基底膜細胞外基質(Extracellular Matrix: ECM)は、PYS2細胞を用いて、文献(Gospodarowicz D, Cohen, DC, Fujii DK, Regulation of cell growth by the basal lamina and plasma factors, in Cold Spring Harvor Conferences on Cell Proliferation vol 9.G. Sato, A. Pardee and D. Sirbasku eds, 1982; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4094-4098, 1980)に記載の方法に準じて作製した。
【0066】
具体的には、まず、PYS2細胞を集密になるまで培養したのち、5%デキストラン(分子量約20万、Wako, Osaka, Japan)、50μg/mlアスコルビン酸−2−リン酸(Sigma)と10%FBS存在下でさらに1週間培養した。そして細胞層へ希アンモン二ア溶液(20mM〜50mM)を添加して、細胞成分のみを除去した後、培養ディッシュ下層に接着して残存している細胞外基質をPBSで数回洗浄して、4℃で保存した。
【0067】
(基底膜細胞外基質上での羊膜間質細胞の培養)
FGF添加培地で培養した3〜6代目の羊膜由来間質細胞を収集し、上記の細胞外基質でコートした培養ディッシュ又は通常のプラスチック組織培養ディッシュに播種し、初代培養と同様の条件下で培養した。その結果、プラスチック上で培養された細胞が平べったくなってしまっているのに対して、FGF添加培養によって細胞がスピンドルの形をしていたが、細胞外基質コート培養ディッシュ上で培養された細胞は更に細長い形をしていることが観察された。
【0068】
(細胞外基質上での羊膜間質細胞の増殖)
各種直径の組織培養用プラスティックディッシュに、上記記載の細胞外基質作製法に準じた細胞外基質を作製し、上記の初代培養法で得られた羊膜間質細胞を5000個/cm2の密度で播種した。播種後は10%牛胎仔血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を2日おきに交換し、集密的になる前に、0.05%トリプシン含有0.2mM EDTAにて細胞外基質上の細胞を剥離し、500×gで遠心分離後、沈殿した細胞塊をDMEM培地に再懸濁して5000個/cm2の密度で再び細胞外基質上に播種した。この継代作業を細胞分裂が続く限り行った。
【0069】
その結果を図2に示す。同図に示すように、細胞外基質上で培養した羊膜間質細胞は、最初の細胞数と比較して、106倍以上に増幅された。この増殖能は、11継代目まで持続され、従来法と比較すると、細胞の寿命も延長した。
【0070】
<3>羊膜細胞の軟骨細胞への分化誘導
(羊膜細胞の軟骨細胞への分化誘導)
軟骨細胞への分化誘導を行うため、FGF−2添加培地で培養した3〜6代目の羊膜間葉系細胞を収集し、下記表1の組成の軟骨分化誘導培地に移した。なお、15ml遠心管(ファルコン)の内に、20万個の細胞を入れ、0.5〜1.0mlの培地でインキュベートした。
【0071】
【表1】

【0072】
羊膜間質細胞を上記の培地において、37℃、5%炭酸ガス存在下にて培養した。培養開始後24時間後には、細胞は球状のペレットを形成した。2日おきに培地を交換し、35日間培養した。なお、コントロールとして、ヒト腸骨骨髄由来間葉系幹細胞及びヒト皮膚の線維芽細胞を羊膜間質細胞と同様の培養条件下で培養した。
【0073】
培養した細胞のtotal RNAをTRIzol(Life Technologies Inc.)で抽出した。さらに、軟骨細胞に特異的な遺伝子マーカー:Type II collagen及びType X collagenの発現をRT-RCRにて検討した。RT-PCR kit: ReverTra Dash(Toyobo Co., Ltd, Osaka, Japan)を添付のプロトコールに従い使用した。なお、PCRの条件は94℃ 30秒、68℃ 3分間の反複を35サイクルで行い、プライマーは下記のものを用いた。また、PCR産物分析は電気泳動にて行った。
・Human type II collagen:forward 5'-TGGTGGAGCAGCAAGAGCAA-3'(配列番号1)
・Human type II collagen:reverse 5'-TGCCCAGTTCAGGTCTCTTA-3'(配列番号2)
・Human type X collagen:forward 5'-CCCAACACCAAGACACAGTT-3'(配列番号3)
・Human type X collagen:reverse 5'-CATCACCTTTGATGCCTGGCT-3'(配列番号4)
・Human GAPDH:forward 5'-GTCAAGGCCGAGAATGGGAA-3'(配列番号5)
・Human GAPDH:reverse 5'-GCTTCACCACCTTCTTGATG-3' (配列番号6)
(結果)
培養後のペレットのプレパラートを調製し、トルイジンブルー染色を行った。その結果を図3に示す。なお、図3(a)は40倍の倍率、(b)は100倍の倍率のレンズを用いて観察した像を示す。この図3に示すように、軟骨分化誘導をかけたことで羊膜間質細胞が軟骨細胞となり、トルイジン・ブルー染色すると、軟骨細胞特有な細胞間物質(トルイジン・ブルーによるメタクロマジー)を細胞の周囲に蓄積することが認められた。
【0074】
さらに、軟骨細胞に特異的な遺伝子マーカーの検討の結果を図4に示す。同図に示すように、羊膜間質細胞(HAMC;human amniotic mesenchymal cells)のペレットにおけるType II collagen遺伝子及びType X collagen遺伝子の発現は、腸骨間葉系幹細胞(HMSC;human bone marrow derived mesenchymal stem cells)における発現より弱かったが、繊維芽細胞(HFB;human fibroblast)における発現より強いことがわかった。
【0075】
<4>試験管内で増幅した羊膜細胞は骨分化能を保持している。
【0076】
試験管内で増幅した羊膜細胞は骨分化能を保持していることを証明するために、羊膜間質細胞と上皮細胞とを共培養した。これらの細胞の骨分化誘導を行うために、FGF添加培地で培養した3〜6代目の羊膜間質細胞とDMEM−F12培地で培養した3代目の羊膜上皮細胞を収集し、セルカルチャーインサート(0.4μm pore size, Falcon Cell Culture Inserts, Becton Dickinson)上に播種し、下記表2の組成の骨分化誘導培地に移した。
【0077】
【表2】

【0078】
羊膜間質細胞と上皮細胞とを、上記の分化誘導培地中において37℃、5%炭酸ガス存在下にて共培養し、さらに2日おきに培地を交換し、28日間培養した。図5(a)は、共培養の方法を模式的に示す図である。
【0079】
(結果)
その結果を図5(b)に示す。図5(b)中、上層のパネルは顕微鏡で細胞を観察した結果を示し、下層のパネルは肉眼で石灰化の程度を観察した結果を示す図である。同図に示すように、セルカルチャーインサート上で共培養した羊膜間質細胞と上皮細胞は、顕微鏡で観察すると両者共に骨芽細胞に特徴的な石灰化が確認され、肉眼での観察においても石灰化を示すアリザリン赤による染色性を示した。
【0080】
<5> 未分化ヒト羊膜由来細胞でのOct−4の発現
(未分化ヒト羊膜由来細胞でのOct−4の発現)
初代培養と同様の条件下で培養した未分化のヒト羊膜間質細胞及び上皮細胞よりtotal RNAをTRIzol(Life Technologies Inc.)にて抽出し、未分化ES細胞特異的な遺伝子マーカー:human OCT-4の発現をRT-RCRにて検討した。RT-PCR kit: ReverTra Dash(Toyobo Co., Ltd, Osaka, Japan)を添付のプロトコールに従い使用した。PCRの条件は94℃ 1分間、60℃ 1分間、72℃ 2分間の反複を35サイクルで行った。PCR産物は、電気泳動にて解析した。プライマーは下記のものを使用した。
・Human OCT-4:forward 5'-GAAGCTGGAGAAGGAGAAGCTG-3'(配列番号7)
・Human OCT-4:reverse 5'-CAAGGGCCGCAGCTTACACACATGTTC-3'(配列番号8)
・Human GAPDH:forward 5'-GTCAAGGCCGAGAATGGGAA-3'(配列番号9)
・Human GAPDH:reverse 5'-GCTTCACCACCTTCTTGATG-3'(配列番号10)
(結果)
その結果を図6に示す。Oct−4は、ES細胞に特異的に発現して、その分化全能性に不可欠な転写因子である。今回、本発明に係る培養方法で培養した未分化ヒト羊膜由来細胞でのOct−4の発現を検討した結果、羊膜間質細胞と上皮細胞が両者ともOct−4を発現していることが示された。
【0081】
<6> 細胞外基質培養法による羊膜上皮細胞の増殖促進と神経分化能の維持
各種直径の組織培養用プラスティックディッシュに、上記記載の細胞外基質作製法に準じて細胞外基質を作製し、上記の初代培養法で得られた羊膜上皮細胞を50000個/cm2の密度で播種した。播種後は10%牛胎仔血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM/F12培地を2日おきに交換し、集密的になる前に、0.05%トリプシン含有0.2mM EDTAにて細胞外基質上の細胞を剥がし、500gで遠心分離後、沈殿した細胞隗をDMEM/F12培地に再懸濁して50000個/cm2の密度で再び細胞外基質上に播種した。この継代作業を繰り返し行った。
【0082】
その後、上記の細胞外基質法で培養した羊膜上皮細胞が、増殖させた後にも神経分化能を維持しているかを確認するため、神経分化マーカーであるニューロフィラメント200(シグマ)で免疫染色を行った。
【0083】
また、上皮細胞マーカーであるサイトケラチン19で免疫染色し、上皮細胞としての性質も維持されているかの確認を行った。
【0084】
(結果)
まず、細胞の培養結果を図7に示す。同図に示すように、細胞外基質上で培養した羊膜上皮細胞は、最初の細胞数と比較して、1000倍以上に増殖した。この増殖能は従来法より優れており、この増殖能は5継代以上持続した。
【0085】
次に、神経分化マーカーの検出結果を図8に示す。図8(a)は初代培養の細胞(P1)の染色結果を示し、図8(b)は5継代目の細胞(P5)の染色結果を示す図である。同図に示すように、増殖させた細胞を神経分化マーカーで免疫染色した結果、1000倍以上に増えた後も初代と同じように染色され、分化能が維持されていることが確認された。
【0086】
加えて、サイトケラチン19の免疫染色結果を図9に示す。図9(a)は分離直後の細胞の染色結果であり、図9(b)は組織培養用プラスティックディッシュ上で培養した5継代目の細胞(P5)の染色結果であり、図9(c)は基底膜細胞外基質上で培養した5継代目の細胞(P5)の染色結果であり、図9(d)はin vivoでの細胞の染色結果を示す図である。これらの図に示すように、サイトケラチン19の免疫染色結果から、上皮細胞であることも確認された。以上の結果から、再生医療に使用される羊膜細胞を大量に増やすことで、その細胞供給源としての有用性をさらに増強した利用が可能になると示唆された。
【0087】
<参考例> 基底膜細胞外基質上又はFGF存在下でのマウスES細胞の培養
基底膜細胞外基質上又はFGF存在下にてマウスES細胞を培養できるかについて検討した。具体的には、各種直径の組織培養用プラスティックディッシュに、上記記載の細胞外基質作製法に準じて細胞外基質を作製し、マウスES細胞を培養した。その結果を図10(a)〜(c)に示す。
【0088】
図10(a)は細胞外基質上でマウスES細胞を培養した結果を示し、図10(b)は、プラスティックディッシュ上にてマウスES細胞を培養した結果を示し、図10(c)は、ポジティブコントロールとして、フィーダー細胞上でマウスES細胞を培養した結果を示す図である。同図に示すように、フィーダー細胞上でマウスES細胞を培養した場合は、マウスES細胞は未分化コロニーとして細胞境界が不明確なまま増殖しているが、細胞外基質上でマウスES細胞を培養した場合、及びプラスティックディッシュ上にてマウスES細胞を培養した場合、マウスES細胞は、分化して敷石様の細胞へと変化してしまった。また、結果は図示しないが、FGF存在下でもマウスES細胞は未分化を維持できなかった。これらの結果より、基底膜細胞外基質上又はFGF存在下でマウスES細胞を培養した場合、未分化状態で培養することが困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明に係る細胞の培養方法及びその利用は、バイオテクノロジー、再生医療、細胞工学等の広範な産業への利用が可能である。より具体的には、本発明に係る細胞は、例えば、人工培養骨、人工培養軟骨、骨分化促進剤、その他各種組織修復用細胞に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】FGF存在下における羊膜間質細胞の増殖の促進の結果を示す図である。
【図2】基底膜ECM存在下における羊膜間質細胞の増殖の促進の結果を示す図である。
【図3】増殖させた羊膜間質細胞(3代目)における軟骨分化誘導(5weeks)の結果を示す図であり、(a)は倍率40倍レンズでの観察結果を、(b)は倍率100倍レンズでの観察結果を示すものである。
【図4】増殖させた羊膜間質細胞(3代目)において、軟骨分化遺伝子マーカーの発現を調べた結果を示す図である。
【図5】(a)はCell culture insertでの羊膜間質細胞と羊膜上皮細胞の共培養の方法を模式的に示す図であり、(b)は、(a)の共培養の方法による骨分化誘導を行った結果を示す図である。
【図6】増殖させたヒト羊膜由来細胞において、Oct−4遺伝子の発現を調べた結果を示す図である。
【図7】基底膜ECM存在下における羊膜上皮細胞の増殖の促進の結果を示す図である。
【図8】試験管内で増幅させた羊膜上皮細胞において、神経分化マーカーニューロフィラメント200の発現を免疫染色にて調べた結果を示す図であり、(a)は初代培養の細胞の結果を示し、(b)は基底膜ECM上で5継代した細胞の結果を示す図である。
【図9】試験管内で増幅させた羊膜上皮細胞において、cytokeratin19の発現を免疫染色にて調べた結果を示す図であり、(a)は分離直後の細胞の結果を示し、(b)はプラスチックディッシュ上で5継代した細胞の結果を示し、(c)は基底膜ECM上で5継代した細胞の結果を示し、(d)はin vivoでの羊膜組織切片の染色結果を示す図である。
【図10】本発明の参考例として、マウス未分化ES細胞を培養した結果を示す図であり、(a)は基底膜ECM上で培養した結果を示し、(b)はプラスチックディッシュ上で培養した結果を示し、(c)はフィーダー細胞上にて培養した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基底膜細胞外基質の存在下にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養することを特徴とする細胞の培養方法。
【請求項2】
基底膜細胞外基質でコートした培養皿上にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養することを特徴とする請求項1に記載の細胞の培養方法。
【請求項3】
前記基底膜細胞外基質は、PYS2細胞又は牛角膜内皮細胞を培養して形成したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞の培養方法。
【請求項4】
前記基底膜細胞外基質は、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、I,III,IV,V型コラーゲン、及びラミニンを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
【請求項5】
線維芽細胞増殖因子の存在下にて、哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞を培養することを特徴とする細胞の培養方法。
【請求項6】
前記哺乳動物の羊膜上皮細胞又は羊膜間質細胞は、多分化能を保持したまま増殖することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
【請求項7】
前記培養方法によって増殖した細胞は、RT−PCRによってOct−4遺伝子の発現が認められることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞の培養方法にて調製された細胞を、所定の分化誘導培地を用いて、所定の組織細胞へ分化誘導させることを特徴とする細胞の分化誘導方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞の培養方法にて調製された羊膜上皮細胞と羊膜間質細胞とを、共培養することを特徴とする請求項8に記載の細胞の分化誘導方法。
【請求項10】
前記所定の組織細胞は、骨細胞、軟骨細胞、又は神経細胞であることを特徴とする請求項8又は9に記載の細胞の分化誘導方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞の培養方法によって調製され得ることを特徴とする細胞。
【請求項12】
前記細胞は、多分化能を有することを特徴とする請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の細胞の分化誘導方法によって調製され得ることを特徴とする細胞。
【請求項14】
前記細胞は、組織の再生及び/又は修復用に用いられるものであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の細胞を含むことを特徴とする動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤。
【請求項16】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の細胞を、単独で又は担体とともに、組織の欠損部及び/又は修復部に移植することを特徴とする動物組織の再生方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞の培養方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法。
【請求項18】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の細胞の分化誘導方法によって調製された細胞を用いて、動物組織の再生及び/又は修復用の薬剤を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−6249(P2006−6249A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190284(P2004−190284)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】