説明

美容体質評価方法、美容体質評価装置、及び美容体質評価プログラム

【課題】 肌状態を直接測定せず、評価対象者の負担を少なくしながら、肌リスクに関連する美容体質を正確に評価できるようにする。
【解決手段】 体液中から抽出した、美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した生化学的要素定量値を用い、上記生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を求め、この定量化した皮膚生理因子定量値と予め設定した皮膚生理因子の基準値とを対比して、美容体質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、美容に関する肌トラブルリスクにかかわる体質、すなわち美容体質を評価する方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、美容に関する肌状態を定量的に評価するために、例えば、皮膚あるいは、皮膚レプリカの表面を解析して、肌のキメ状態を評価したり、肌を撮影して色素沈着状態を計測したり、皮膚に紫外線を照射して、しみの原因となるメラニンモノマーを測定したりする方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−334199号公報
【特許文献2】特開昭60−53121号公報
【特許文献3】特開平11−332834号公報
【特許文献4】特開2002−345760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のいずれの方法も、肌から直接、肌状態に関するデータを収集して、それを解析するものであって、にきびや、くすみなどの肌トラブルについても、ある程度の症状が出てから、それを評価するものがほとんどである。
一方で、特許文献1のように、可視化されていないメラニンモノマーの段階で、その存在を測定し、しみの予防に役立てる方法も知られている。しかし、この方法も、メラニンモノマーが生成されてからしか測定できず、評価対象者の皮膚生理機能が、メラニンモノマーを生成しやすい状態にあるというようなことまで測定できるものではなかった。
【0005】
また、上記従来のように、肌から直接データを収集する方法では、洗顔など、一定の手順を経なければ計測できないこともあり、評価対象者にとっても面倒であるうえ、皮膚表面の状態が測定環境の影響を受けやすいため、得られるデータが安定しにくいという問題もあった。
この発明の目的は、肌状態を直接測定せず、評価対象者の負担を少なくしながら、肌リスクに関連する美容体質を正確に評価できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の美容体質評価方法の発明は、体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した生化学的要素定量値を用い、上記生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を求め、この定量化した皮膚生理因子定量値と予め設定した皮膚生理因子の基準値とを対比して、美容体質を評価する点に特徴を有する。
【0007】
第2の発明は、上記第1の発明を前提とし、上記皮膚生理因子は、皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能のうち、少なくとも1つを含む点に特徴を有する。
【0008】
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提とし、上記皮膚生理因子の基準値は、その皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値の大小に応じて発生する肌トラブルを有する群の皮膚生理因子定量値の分布と、肌トラブルを有しない群の皮膚生理因子定量値の分布とを解析して算出した値である点に特徴を有する。
【0009】
第4の美容体質評価装置の発明は、体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した複数の生化学的要素定量値を入力する入力手段と、入力された複数の生化学的要素定量値を正規化する正規化演算手段と、上記正規化した生化学的要素定量値に基づいて、上記複数の生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を算出する皮膚生理因子演算手段と、予め設定した皮膚生理因子の基準値を記憶する基準値記憶手段と、上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値と上記基準値記憶手段が記憶している皮膚生理因子の基準値とを対比する対比演算手段と、上記対比演算手段による対比結果を出力する出力手段とからなる点に特徴を有する。
【0010】
第5の発明は、第4の発明を前提とし、評価対象者の年齢データを含んだ属人データを入力するための属人データ入力手段を備えるとともに、上記基準値記憶手段には、年齢に応じた複数の皮膚生理因子の基準値あるいは、これら基準値を算出する演算式を記憶し、上記対比演算手段は、属人データ入力手段から年齢データが入力されたとき、入力された年齢データに対応する基準値を、上記基準値記憶手段が記憶している基準値の中から特定するか、あるいは、上記基準値記憶手段が記憶している演算式によって特定し、特定した皮膚生理因子の基準値と上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値とを対比する点に特徴を有する。
【0011】
第6の発明は、第4または第5の発明を前提とし、上記皮膚生理因子の基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けられた対処情報を記憶した対処情報記憶手段と、この対処情報記憶手段から対処情報を出力する対処情報出力手段とを備え、対処情報出力手段は、上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値とその基準値との対比結果に応じて上記対処情報を抽出して出力する点に特徴を有する。
【0012】
第7の発明は、美容体質評価プログラムであって、コンピュータに、体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した複数の生化学的要素定量値を入力する入力機能と、入力された複数の生化学的要素定量値を正規化する正規化演算機能と、上記正規化した生化学的要素定量値に基づいて、上記複数の生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を算出する皮膚生理因子演算機能と、予め設定した皮膚生理因子の基準値を記憶する基準値記憶機能と、上記算出した皮膚生理因子定量値と上記記憶している皮膚生理因子の基準値とを対比する対比演算機能と、上記対比演算機能による対比結果を出力する出力機能とを実現させる点に特徴を有する。
【0013】
第8の発明は、第7の発明を前提とし、コンピュータに、評価対象者の年齢データを含んだ属人データを入力するための属人データ入力機能と、年齢に応じた複数の皮膚生理因子の基準値あるいは、これら基準値を算出する演算式を記憶する基準値記憶機能と、属人データ入力機能によって年齢データが入力されたとき、入力された年齢データに対応する基準値を、上記基準値記憶機能によって記憶している基準値の中から特定するか、あるいは、上記記憶している演算式によって特定する機能と、特定した皮膚生理因子の基準値と上記皮膚生理因子演算機能によって算出した皮膚生理因子定量値とを対比する対比機能とを実現させる点に特徴を有する。
【0014】
第9の発明は、第7または第8の発明を前提とし、コンピュータに、上記皮膚生理因子の基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けられた対処情報を記憶する対処情報記憶機能と、上記皮膚生理因子演算機能によって算出した皮膚生理因子定量値とその基準値との対比結果に応じて上記対処情報を抽出して出力する対処情報出力機能とを実現させる点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
第1〜第9の発明によれば、体液から抽出した生化学的要素に基づいて皮膚生理因子を定量化し、美容体質を評価できる。そのため、肌トラブル発症前に、そのリスクを予測できるようになり、肌トラブルに対するより確実な対処が可能になる。
また、評価対象者は、測定のために化粧を落としたり、洗顔をしたりする必要がない。さらに、健康診断の際の採血などを利用して生化学的要素を抽出できるので、肌体質評価のためだけに採血などする必要もなく、評価対象者の負担も小さい。
【0016】
第2の発明によれば、皮膚生理因子のうち、特に、皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能などの内的要素の依存度が高い機能を、美容体質の評価指標としたので、より効率的で適切な評価が可能になる。
第3の発明によれば、基準値が、肌トラブル発生の実際の状況をもとに決められた値なので、その値と皮膚生理因子定量値とを対比することによって、肌トラブル発生のリスクがより明確になる。
【0017】
第4〜第6の発明によれば、体液中から抽出した生化学的要素定量値に基づいて、美容体質を自動的に評価することができるようになる。
第5の発明によれば、評価対象者の年齢に対応した皮膚生理因子の基準値とを用いて美容体質を評価できる。
第6の発明によれば、評価した美容体質に応じた対処情報を自動的に出力することができる。
【0018】
第7〜第9の発明によれば、体液中から抽出した生化学的要素の定量値に基づいて、コンピュータに、評価対象者の美容体質を評価させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の美容体質評価装置の構成図である。
【図2】実施形態の美容体質評価手順を示したフローチャートである。
【図3】肌トラブルと、皮膚生理因子及び生化学的要素の対応関係を示した表である。
【図4】美容体質評価の総合結果グラフである。
【図5】対処情報記憶手段が記憶しているデータの例を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜図5を用いて、この発明の実施形態を説明する。
ここでは、美容体質評価装置が、この発明の美容体質評価方法を実行する場合について説明する。
この実施形態の美容体質評価装置は、評価対象者の体液中の、美容に関連する生化学的要素の定量値に基づいて、皮膚生理因子を定量化するとともに、その皮膚生理因子定量値から、美容体質を評価する機能を備えている。上記評価対象者の体液とは、例えば血液や尿などであるが、この実施形態では血液を用いるものについて説明する。
【0021】
なお、上記美容に関連する生化学要素とは、図3に示す表中の「生化学的要素」の欄に記載したものであり、具体的には、フリーテストステロン(TE)、インスリン様成長因子(IGF−1)、コリンエステラーゼ(ChE)、遊離脂肪酸(FFA)、Cペプチド(CPR)などである。これらの生化学的要素は、評価対象者の血液中の成分であり、一般的な血液分析装置などの生化学的要素分析装置10(図1参照)により、血中濃度として定量化できる。
【0022】
そして、これらの生化学的要素は、図3に示すように、皮膚生理因子である「皮脂分泌機能」、「メラニン産生機能」、「真皮線維保持機能」などと関連するものである。言い換えれば、血液中から抽出可能な生理学的要素のうち、皮膚生理機能に関連するもののみを、この発明の美容に関連する生化学的要素として取り扱うのである。
また、上記皮膚生理因子は、それぞれ、にきびや、しみなど、肌トラブルに関連する機能である。
例えば、皮脂分泌機能が活発すぎると、にきびができやすくなったり、毛穴が目立つようになったりという肌トラブルが発生する。また、メラニン産生機能が活発な場合には、しみ、くすみの原因になる。さらに、真皮線維機能が衰えていると、しわやたるみができる。このように、肌トラブルと関連する皮膚生理因子を、血液中の生化学的要素に基づいて定量化し、評価対象者の、美容に関連する体内状態である美容体質を評価する機能を備えているのが、この実施形態の美容体質評価装置である。
【0023】
次に、この実施形態の美容体質評価装置の具体的構成について説明する。
図1に示す美容体質評価装置は、評価対象者から採血した血液中の複数の生化学的要素定量値を入力するための入力手段である入力部1と、入力された生化学的要素定量値に基づいて皮膚生理因子定量値を算出し、その算出結果に基づいて美容体質を評価する演算部2と、この演算部2の演算処理に利用するデータを記憶した記憶部3と、演算処理結果を出力する出力手段である出力部4とを備えている。
上記記憶部3は、後で、詳しく説明するが、各皮膚生理因子に対応付けた基準値と、各基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けた対処情報とを記憶し、この発明の基準値記憶手段及び対処情報記憶手段の機能を兼ね備えている。
【0024】
また、上記演算部2には、入力部1から入力された、複数の生化学的要素定量値を正規化する正規化演算手段5と、正規化された生化学的要素定量値に基づいて皮膚生理因子定量値を算出する皮膚生理因子演算手段6と、算出された皮膚生理因子定量値を上記記憶部3が記憶している基準値と対比する対比演算手段7と、その対比結果に応じて上記記憶部3から対処情報を抽出して出力する対処情報出力手段8とを備えている。
そして、出力部4は、上記対比演算手段7の対比結果とともに、対処情報出力手段8が抽出した対処情報を、評価結果として図示しないディスプレイやプリンタに対して出力する機能を備えている。
上記各構成要素の機能は、図1に示す評価装置に、ハードウェアとして設定されたものでも良いし、この発明の美容体質評価プログラムなどによって、ソフトウェアとして設定されたものでもよい。
【0025】
なお、この実施形態では、評価対象者の美容体質として「皮脂分泌機能」、「メラニン産生機能」及び「真皮線維保持機能」の3つの皮膚生理因子について評価する場合について説明する。これら3つの皮膚生理因子は、特に、内的な要因の依存度が高いものであって、生化学的要素に基づいてより正確に評価しやすいものである。そして、このような皮膚生理因子に関連する皮膚トラブルは内的要素を改善することによって対処しやすいもので、この実施形態では、そのような皮膚生理因子を特に選択して評価するようにしている。
ただし、この発明の美容体質にかかわる皮膚生理因子は、上記の3因子に限らない。血液や、尿などの体液中から抽出可能な生化学的要素が反映する生理機能に依存する因子なら、どのようなものも含まれる。
また、同時に評価する皮膚生理因子の数も、いくつでもよく、1つでもよいし、複数でもよい。ただし、複数の皮膚生理因子を同時に評価すれば、複数の肌トラブルに対する総合的な対処法を考えやすいというメリットがある。
【0026】
以下に、この実施形態の美容体質評価装置の作用を、図2のフローチャートに従って詳細に説明する。
まず、図1の美容体質評価装置において、ステップS1で、入力部1を介して演算部2へ、評価対象者の生化学的要素定量値を入力する。ここで入力される生化学的要素定量値とは、評価対象者の血液分析データであり、美容体質を評価するために必要な要素の定量値である。具体的には、この装置で評価する皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能にかかわる、フリーテストステロン(TE)、インスリン様成長因子(IGF−1)、コリンエステラーゼ(ChE)、遊離脂肪酸、Cペプチド(CPR)などの生化学的要素である(図3参照)。
【0027】
上記複数の生化学的要素定量値は、演算部2の正規化演算手段5に入力され、正規化演算手段5が正規化処理を行なう。正規化処理とは、一つの皮膚生理因子に関連する複数の生化学的要素を正規化する演算処理のことである。例えば、皮脂分泌機能には、フリーテストステロン(TE)、インスリン様成長因子(IGF−1)、コリンエステラーゼ(ChE)、遊離脂肪酸が対応しているが、これらの定量値は、それぞれ単位が異なるうえ、皮脂分泌機能への影響度や適正値も異なるので、複数の生化学的要素定量値をそのまま合計しても、皮膚生理因子を定量化したことにはならない。従って、複数の生化学的要素を総合化して皮膚生理因子の定量値を算出するために、各生化学的要素定量値を正規化するようにしている。
【0028】
正規化演算手段5は、入力された複数の生化学的要素定量値の中から、特定の皮膚生理因子に対応するものを抽出する。例えば、皮脂分泌機能に対応するフリーテストステロン(TE)、インスリン様成長因子(IGF−1)、コリンエステラーゼ(ChE)、遊離脂肪酸の定量値を抽出する。そして、各生化学的要素について、正規化処理を行なう。なお、正規化処理の方法は、統計的な方法であればどのような方法でもよい。
例えば、この実施形態では、図2のステップS2に示したように、1〜mまでの生化学的要素定量値からひとつの皮膚生理因子定量値を算出する際に、それぞれの生化学的要素定量値のz値(z値=(xn−an)/bn、ただしnは1〜mの整数)であるxn’を算出している。なお、式中、anは、その生化学的要素の平均値、bnは、標準偏差である。これら各生化学的要素の平均値及び標準偏差は、先行研究データあるいは、独自に実施した大規模試験で収集した生化学的要素定量値から求め、予め、正規化演算手段5に設定しておくようにする。
同様にして、正規化演算手段5は、入力された全ての生化学的要素定量値の偏差値を正規化された生化学的要素定量値として算出し、それを皮膚生理因子演算手段6へ入力する。
【0029】
ステップS3で、皮膚生理因子演算手段6は、正規化された生化学的要素定量値に基づいて皮膚生理因子定量値を算出する。具体的には、特定の皮膚生理因子、すなわち、皮脂分泌機能に対応する生化学的要素定量値のz値の算術平均値を算出し、それの値に生化学的要素の数mの平方根を掛けて、その値を生化学的要素定量値である皮脂分泌機能定量値X’とする。なお、上記合計にmの平方根を掛けたのは、算出された皮膚生理因子定量値の分散を理論上1にするためであるが、この処理は必須の処理ではない。
同様にして、他の皮膚生理因子である、メラニン産生機能、真皮線維保持機能についても、定量値を算出する。
【0030】
なお、上記複数の生化学的要素定量値を合計して対応する皮膚生理因子定量値を算出する際に、生化学的要素定量値の大小と、関連する肌トラブルの発生との相関の正負に応じて、生化学的要素定量値のz値の符号を変更する。この実施形態では、生化学的要素定量値が大きくなると関連する肌トラブルが発生しやすくなる場合に、生化学的要素定量値のz値の符号はそのままとし、反対に、生化学的要素定量値が小さくなると肌トラブルが発生しやすくなる場合には、その生化学的要素定量値のz値に−1を掛けてから、図2のステップS3の演算を行なうようにしている。
なお、生化学的要素定量値の正規化した値としてz値を用いない場合にも、生化学的要素定量値の大小と、関連する肌トラブルの発生との相関の正負に応じて、整合性をとるための統計的な処理を実行する。
【0031】
上記のような生化学的要素定量値と、肌トラブルの発生傾向との関係は、同一の生化学的要素であっても、肌トラブルの種類によって異なることがある。例えば、生化学的要素としてのインスリン様成長因子(IGF−1)は、図3に示すように、皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能のいずれにも関連する要素であるが、その定量値が大きくなると、皮脂分泌機能やメラニン産生機能が活性化して、肌トラブルの原因になる。一方で、上記インスリン様成長因子(IGF−1)が多くなることによって真皮線維保持機能が上がると、しわ、たるみといったトラブルは起こり難くなる。従って、皮脂分泌機能及びメラニン産生機能の定量値を算出する際には、上記インスリン様成長因子(IGF−1)の定量値のz値はそのまま用い、真皮線維保持機能の定量値を算出する際には、上記z値に−1を掛けて符合を反転させる必要がある。
【0032】
図2のステップS3において、上記皮膚生理因子演算手段6が各皮膚生理因子定量値を算出したら、ステップS4で、対比演算手段7が、上記皮膚生理因子定量値を、記憶部3が記憶している基準値と対比する。
上記記憶部3には、皮膚生理因子ごとに、皮膚生理因子定量値の基準値を記憶している。例えば、皮膚生理因子のひとつである皮脂分泌機能定量値の基準値は、その値を超えると、にきびや毛穴の目立ちといった、皮脂分泌に関連した肌トラブルのリスクが高くなるというような、要注意の値である。このような基準値は、どのようにして決めてもよいが、実際に、関連する肌トラブルが発生している群と、発生していない群との境界として適切な値を求めて基準値とする方法がある。
【0033】
例えば、にきびや毛穴の目立ちといったトラブルが発生している評価対象者の皮脂分泌機能定量値の分布と、上記肌トラブルのない評価対象者の皮脂分泌機能定量値の分布との境界となる判別関数を求め、これに基づいて基準値を決めることができる。このような判別関数によって基準値を決めれば、基準値の前後によってにきびや毛穴の目立ちといった肌トラブルの発生リスクが大きく異なるといえる。そのため、このようにして決めた基準値を、評価対象者の皮膚生理因子定量値と対比することにより、評価対象者の肌トラブル発生のリスクをより正確に予測することができるようになる。
なお、上記基準値は、判別関数から導かれる値そのものでもよいし、その値に係数を掛けたものでもよい。
ただし、上記基準値は、判別関数を用いずに、例えば、母集団の平均値や標準偏差をもとにして決めてもよい。
また、皮膚生理因子ごとに、複数の基準値を設定してもよい。さらに、評価対象者の年齢別に基準値を設定するようにしてもよい。
【0034】
上記ステップS4で、対比演算手段7が、上記皮膚生理因子演算手段6で算出した複数の皮膚生理因子定量値をそれぞれの基準値と対比したら、その対比結果を、出力部4を介して出力する(ステップS5)。
出力部4から出力される対比結果は、図4に示す総合結果グラフなどである。この総合結果グラフは、にきび、毛穴の目立ちなどの皮脂系トラブルリスクの大きさを示すX軸と、しみ、くま、くすみなどのメラニン系トラブルリスクの大きさを示すY軸と、しわ、たるみなどの真皮線維系トラブルの大きさを示すZ軸とを備えたグラフである。そして、各軸に、上記ステップS3で算出した皮膚生理因子定量値をプロットしている。上記皮膚生理因子定量値の大きさが、対応する肌トラブルのリスクの大きさを反映するので、このグラフよって評価対象者の肌トラブルのリスクを知ることができる。
【0035】
また、上記総合結果グラフには、各皮膚生理因子の基準値も同時に表すようにしている。図4では、実線の円の内側に、第1の基準値を示す一点鎖線の同心円と、第2の基準値を示す破線の同心円とを表しているが、一点鎖線の円の内側を肌トラブルとは無縁の安全領域E1とし、この安全領域の外側で破線の円の内側を注意領域E2としている。さらに、上記注意領域E2よりも外側を危険領域E3とすることができる。この危険領域E3の境界となる第2の基準値を、すでに肌トラブルが発生している群と発生していない群との境界の値に設定しておけば、評価結果が要注意領域E2に含まれたとき、トラブル発生前にそのリスクを知ることができる。
なお、この総合結果グラフは、3つの皮膚生理因子定量値によって、3種類の肌トラブルリスクを定量的に表し、それぞれの基準値が同一円上に位置するように、各軸のフルスケールを合わせている。ただし、基準値を同一円状に位置させる必要はないし、評価結果はグラフ表示しなくてもかまわない。
【0036】
さらに、図4では、各トラブルリスクに反映する生化学的要素を分類し、それぞれの定量値の大小を黒い星印の数で表している。
例えば、皮脂系トラブルリスクに関連する4つの生化学的要素のうち、フリーテストステロン(TE)とインスリン様成長因子(IGF−1)とをホルモンのグループとし、コリンエステラーゼと遊離脂肪酸とを脂質過多のグループに分類し、それぞれの量を示している。すなわち、皮脂分泌系トラブルリスクが高い原因として、特に、ホルモンの影響が大きいことがわかる。
また、メラニン系トラブルに関しても、上記と同様に、関連する生化学的要素をホルモンと酵素活性とのグループに分類し、真皮線維系トラブルに関しても、ホルモンと酸化ストレスとのグループに分類している。
このような分類は、肌トラブルを改善したり、予防したりするための対処法(美容法)を導くための分類である。すなわち、同じ肌トラブルでも、上記分類が異なれば、その対処法が異なることがあるために、このような分類をしておくと、より的確な対処法を選ぶことができる。
さらに、複数の皮膚生理因子のいずれにも関連する生化学的要素が反映する生理機能にリスク要因がある場合、そのリスク要因を取り除くための対処法を選ぶことによって、同時に複数のトラブルリスクを回避できることになる。反対に、他の皮膚生理因子には関連性の低い生化学的要素によるリスク要因を取り除くための対処法を選択すれば、他の皮膚生理因子に悪影響を与えないようにすることもできる。
【0037】
また、図2には記載していないが、上記ステップS4の後に、図1の対処情報出力手段8が、対比演算手段7による対比結果に基づいて上記記憶部3が記憶している対処情報を抽出して出力するようにしてもよい。
上記したように、記憶部3には、基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けた対処情報が記憶されている。なお、上記基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲とは、上記基準値以上の範囲とか、基準値未満の範囲とか、第1の基準値以上であって第2の基準値未満という範囲であり、上記した図4に示す各エリアE1,E2,E3などに対応するものである。上記対処情報は、皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能の、それぞれの基準値に対応付けた肌トラブルのリスクを回避するための情報である。
そして、対処情報出力手段8は、対比演算手段7の対比結果である、皮膚生理因子定量値と基準値との大小関係に基づいて、対処情報を抽出する。例えば、皮脂分泌機能の定量値が基準値よりも大きくて、にきびなどのトラブルリスクが大きい場合には、そのリスクに対する対処情報を抽出して出力し、出力部4からその対処情報を出力する。
【0038】
なお、上記対処情報は、図4に示す総合結果グラフとともに、評価対象者にそのまま提示することができる評価対象者用のものでも良いし、医師やアドバイザー用のもので、専門家にだけ表示する情報でもよい。
さらに、上記記憶部3には、図5に示すように、各皮膚生理因子に関連する肌トラブルリスクについての、評価対象者(お客様)向けの説明や、アドバイザーなどの専門家向けの情報、アドバイス例などを対応付けて記憶し、これらを出力する機能を演算部2に設けてもよい。
上記トラブルリスクについての説明のように、評価対象者向けの情報は、図4のグラフに解説として添付することもできる。
【0039】
また、上記入力部1に、評価対象者の年齢データを含んだ属人データを入力する属人データ入力手段の機能を付加し、上記対比演算手段7が、皮膚生理因子演算手段6が算出した皮膚生理因子定量値を評価対象者の年齢に対応した基準値と対比するようにしてもよい。その場合には、記憶部3は、年齢ごとの基準値を記憶しておくか、年齢ごとの基準値を算出するための演算式を記憶しておく必要がある。そして、対比演算手段7は、入力された年齢データに対応した基準値を、記憶部3から抽出するか、記憶部3が記憶している演算式に基づいて上記年齢データに対応した基準値を算出するかし、その基準値を上記皮膚生理因子定量値と対比する。
このように、年齢別に設定した基準値を用いるようにすれば、美容に関する肌トラブルリスクにかかわる体質、すなわちこの発明の美容体質のより的確な評価が可能になる。
【0040】
上記のように、この実施形態の美容体質評価装置によれば、肌を直接測定するための、評価対象者への負担を無くし、美容体質を簡単に評価することができる。しかも、トラブル発生以前に、肌トラブルに関連する生化学的要素を定量化して判定できるので、肌トラブルの予防に役立てることができる。
なお、上記実施形態では、複数の生化学的要素定量値の正規化処理として、上記z値を算出したが、正規化の方法はこれに限らない。正規化処理は、皮膚生理因子定量値を算出する際に、その皮膚生理因子への寄与度をより正確に反映できるように、異なる単位を調整できるものであれば良いので、例えば、個々の生化学的要素定量値に係数を掛けるなどの重み付けをする方法でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、定期健康診断などの採血を利用し、美容体質を気軽に評価できるシステムに有効である。
【符号の説明】
【0042】
1 入力部
3 記憶部
4 出力部
5 正規化演算手段
6 皮膚生理因子演算手段
7 対比演算手段
8 対処情報出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した生化学的要素定量化値を用い、上記生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を求め、この定量化した皮膚生理因子定量値と予め設定した皮膚生理因子の基準値とを対比して、美容体質を評価する美容体質評価方法。
【請求項2】
上記皮膚生理因子は、皮脂分泌機能、メラニン産生機能、真皮線維保持機能のうち、少なくとも1つを含む請求項1に記載の美容体質評価方法。
【請求項3】
上記皮膚生理因子の基準値は、その皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値の大小に応じて発生する肌トラブルを有する群の皮膚生理因子定量値の分布と、肌トラブルを有しない群の皮膚生理因子定量値の分布とを解析して算出した値である請求項1または2に記載の美容体質評価方法。
【請求項4】
体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した複数の生化学的要素定量値を入力する入力手段と、入力された複数の生化学的要素定量値を正規化する正規化演算手段と、上記正規化した生化学的要素定量値に基づいて、上記複数の生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を算出する皮膚生理因子演算手段と、予め設定した皮膚生理因子の基準値を記憶する基準値記憶手段と、上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値と上記基準値記憶手段が記憶している皮膚生理因子の基準値とを対比する対比演算手段と、上記対比演算手段による対比結果を出力する出力手段とからなる美容体質評価装置。
【請求項5】
評価対象者の年齢データを含んだ属人データを入力するための属人データ入力手段を備えるとともに、上記基準値記憶手段には、年齢に応じた複数の皮膚生理因子の基準値あるいは、これら基準値を算出する演算式を記憶し、上記対比演算手段は、属人データ入力手段から年齢データが入力されたとき、入力された年齢データに対応する基準値を、上記基準値記憶手段が記憶している基準値の中から特定するか、あるいは、上記基準値記憶手段が記憶している演算式によって特定し、特定した皮膚生理因子の基準値と上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値とを対比する請求項4に記載の美容体質評価装置。
【請求項6】
上記皮膚生理因子の基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けられた対処情報を記憶した対処情報記憶手段と、この対処情報記憶手段から対処情報を出力する対処情報出力手段とを備え、対処情報出力手段は、上記皮膚生理因子演算手段で算出した皮膚生理因子定量値とその基準値との対比結果に応じて上記対処情報を抽出して出力する請求項4または5に記載の美容体質評価装置。
【請求項7】
コンピュータに、体液中から抽出され、かつ美容に関連した複数の生化学的要素を定量化した複数の生化学的要素定量値を入力する入力機能と、入力された複数の生化学的要素定量値を正規化する正規化演算機能と、上記正規化した生化学的要素定量値に基づいて、上記複数の生化学的要素が反映する生理機能に依存する1または複数の皮膚生理因子を定量化した皮膚生理因子定量値を算出する皮膚生理因子演算機能と、予め設定した皮膚生理因子の基準値を記憶する基準値記憶機能と、上記算出した皮膚生理因子定量値と上記記憶している皮膚生理因子の基準値とを対比する対比演算機能と、上記対比演算機能による対比結果を出力する出力機能とを実現させるための美容体質評価プログラム。
【請求項8】
コンピュータに、評価対象者の年齢データを含んだ属人データを入力するための属人データ入力機能と、年齢に応じた複数の皮膚生理因子の基準値あるいは、これら基準値を算出する演算式を記憶する基準値記憶機能と、属人データ入力機能によって年齢データが入力されたとき、入力された年齢データに対応する基準値を、上記基準値記憶機能によって記憶している基準値の中から特定するか、あるいは、上記記憶している演算式によって特定する機能と、特定した皮膚生理因子の基準値と上記皮膚生理因子演算機能によって算出した皮膚生理因子定量値とを対比する対比機能とを実現させるための請求項7に記載の美容体質評価プログラム。
【請求項9】
コンピュータに、上記皮膚生理因子の基準値で特定される皮膚生理因子定量値の範囲に対応付けられた対処情報を記憶する対処情報記憶機能と、上記皮膚生理因子演算機能によって算出した皮膚生理因子定量値とその基準値との対比結果に応じて上記対処情報を抽出して出力する対処情報出力機能とを実現させるための請求項7または8に記載の美容体質評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−220521(P2010−220521A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70330(P2009−70330)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】