説明

美白剤、美白用化粧料及び美白剤の製造方法

【課題】新規な美白剤及び美白用化粧料の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物からなる美白剤、及び該化合物を有効成分として含有する美白用化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白剤、美白用化粧料及び美白剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の植物の抽出物が美白剤として用いられている。例えば、ヨモギの抽出物には、美白作用があることが知られている(特許文献1等)。
また、ヨモギをはじめとする種々の植物の抽出物中に、フラボノイド類が含まれることが知られ、及び所定のフラボノイド類及びその配糖体については、メラニン産生を促進するADF(成人T細胞白血病由来因子)の産生を抑制することが報告されている(特許文献2)。一方で、所定のフラボノイド類については、メラニンの産生を促進する作用があることも報告されている(例えば、特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−126149号公報
【特許文献2】特開2001−48773号公報
【特許文献3】特開平09−263534号公報
【特許文献4】特開2004−2264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物の抽出物は、一般的には、複数の化合物の混合物である。より高い美白効果を得るためには、又は美白効果のない化合物によるアレルギーの発症等の可能性をより低減するためには、美白効果のある化合物を特定することが重要である。
本発明は、新規な美白剤、美白用化粧料、及び美白剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記式:(I)
【化1】

で表される化合物からなる美白剤を提供する。
【0006】
また、本発明によって、前記化合物を有効成分として含有する美白用化粧料;及び植物(例えばヨモギ)の抽出物を処理して、抽出物中の前記化合物の含有比率を高める工程を含む美白剤の製造方法;が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規な美白剤、美白用化粧料、及び美白剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明は、下記式(I)で表される化合物からなる美白剤に関する。
【化2】

【0009】
前記式(I)の化合物の製造方法については特に制限されない。化学合成したものを使用しても、天然物由来の材料から精製したものを使用してもよい。前記式(I)の化合物は、例えば、Artemisia princeps Pampanini(ガイヨウヨモギ)、Artemisia Mongolia Fischer(モウコヨモギ)、Artemisia Stelleriana(シロヨモギ)、 Artemisia iwayomogi(イワヨモギ)、Artemisia deserti等のヨモギ抽出物から単離することができる。前記式(I)の化合物はヨモギに限らず、種々の植物抽出物から同定されており、具体的には、グレープフルーツ(“Bitterness and immature flavor in grapefruit: analyses and improvement of quality.", Journal of Food Science (1986), 51(5), 1368-9, Berry, R. E.; Tatum, J. H.参照)、ハッカ属ヌマハッカ(“Isolation and identification of flavonoid compounds of Mentha aquatica L. herb”, Roczniki Chemii (1977), 51(4), 701-9., Berry, R. E.; Tatum, J. H. Burzanska-Hermann, Zdzislawa; Rzadkowska-Bodalska, Halina; Olechnowicz-Stepien, Waleria.参照)、オオヒレアザミ(“On the phytochemistry of the flowers of Onopordon acanthium L. (cotton thistle)”. Deutsche Apotheker Zeitung (1976), 116(3), 57-9, Karl, Christian; Mueller, Gerhard; Pedersen, Peter A.参照)、カオリカズラ及びルエリア・ツベローサ(“Apigenin glycosides from Thunbergia fragrans and Ruellia tuberosa.”, Current Science (1974), 43(15), 480., Nair, A. G. Ramachandran; Subramanian, S. Sankara.参照)、並びに柑橘類(“Flavonoids in citrus and related genera. VI. Isolation and synthesis of ・ -form of isorhoifolin from citrus.", Agricultural and Biological Chemistry (1974), 38(2), 339-41, Kamiya, Shintaro; Esaki, Sachiko; Konishi, Fukuko.;及び“Flavonoids in citrus and related genera. II. Isolation and identification of isonaringin and neoeriocitrin from Citrus.”, Agricultural and Biological Chemistry (1971), 35(11), Kamiya, Shintaro; Esaki, Sachiko; Konishi, Fukuko.参照)等が報告されている。上記式(I)の化合物は、上記列挙したいずれの植物の抽出物から単離されたものであってもよい。
【0010】
以下、ヨモギを例に挙げて、植物抽出物から、上記式(I)の化合物を単離する方法を説明するが、以下の方法に限定されるものでもない。
ヨモギ抽出物は、ヨモギの全草をそのまま、あるいは乾燥粉砕したものを溶媒等により抽出して得ることができる。又、ヨモギ抽出物は、溶媒に溶解した状態でも、あるいは凍結粉砕等により粉末化した状態のものでも用いることができる。ヨモギ抽出物を調製する際に用いる溶媒としては、例えば水、低級1価アルコール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、それらの一種又は二種以上を用いることができる。中でも、水、又は水と親水性の高い有機溶媒との混合溶媒を用いるのが好ましく、そのような有機溶媒としてはエタノールが特に好ましい。
【0011】
好ましい抽出方法の一例としては、濃度0〜100vol%の水を含むエタノールを用い、室温でもしくは加温して、3日間抽出を行った後ろ過し、得られた濾液を濃縮(所望により減圧濃縮)して、溶媒を除去して、抽出物を得る。所望により複数回抽出を行い、そのろ液を混合してもよい。また、所望により所定の期間熟成等をさせた後、濃縮してもよい。
【0012】
得られたヨモギ抽出物をカラムに吸着させた後、極性の異なる複数種の溶媒で溶出させて分画し、所定の画分を採取し精製した後、また同様に分画・精製を繰り返すことで、前記式(I)の化合物の比率を高めることができる。最終的にTLC上で単一スポットになるまで、分画・精製操作を繰り返せば、前記式(I)の化合物を単離することができる。
【0013】
ヨモギ抽出物等、前記式(I)の化合物を含有する植物等の天然物抽出物に、該化合物の含有比率を高める処理を施した後、該処理物を美白剤として用いても、処理前の天然物抽出物と比較して、より高い美白効果が得られる。前記式(I)の化合物の含有比率を高める処理としては、溶媒抽出、限外ろ過、カラム精製等が挙げられる。
【0014】
前記式(I)の化合物を単独で美白剤として使用することにより、又は該化合物の含有比率がより高い天然物由来の抽出物を用いることにより、美白効果のない化合物が皮膚に適用されることのマイナス効果(例えば、アレルギーの発症等)が生じる可能性をより低減することができる。また、天然物由来の抽出物をそのまま化粧料に配合する場合より、着色や変臭・沈殿などの変化を低減させる安定な化粧料を調製することができる。
【0015】
本発明は、前記式(I)の化合物を有効成分として含有する美白用化粧料にも関する。本発明の美白用化粧料中、前記式(I)の化合物の含有量は、固形分で0.00001〜0.1質量%(以下、単に「%」と記載する)であるのが好ましく、0.0001〜0.01%であるのがより好ましい。前記範囲であると、高い美白効果が得られるとともに、化粧料中に安定的に配合することができる。
【0016】
本発明の美白用化粧料は、化粧料に通常使用される各種の成分、即ち、水、アルコール、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、植物・微生物由来の抽出物、保湿剤・抗炎症剤・細胞賦活剤等の各種薬効剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えることができる。
【0017】
本発明の美白用化粧料の形態については特に制限はなく、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料等、いずれの形態の化粧料として調製されたものであってもよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1]
(製造例1)
ガイヨウヨモギ(Artemisiaprinceps Pampanini)又はモウコヨモギ(Artemisia Mongolia Fischer)の葉1kgを細切りし、水−エタノール混合溶媒(水/エタノール=10/90vol%)5Lで3回抽出した。3回の抽出によって得られたろ液を混合して、減圧濃縮を行い、エタノールを留去し、ヨモギ抽出物を得た。次に、このヨモギ抽出物を、カラム(HP−20:三菱化学社製)に吸着させた後、含水アルコールで溶出し、シリカゲルオープンカラムにより、クロロホルム、メタノール、水の混合溶媒を用いて、TLC上単一スポットになるまで分画・精製を繰り返し、式(I)の化合物を得た。
【0019】
得られた化合物の質量マススペクトルと1H−NMR及び13C−NMR(500及び125MHz、C55N、温度300K)を測定した。結果を下記に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
この測定結果は、“The antioxidative compounds of Similax riparia leaves (in Korean).", Yakhak Hoechi (2003), 47, 300-306, Cho E, Kim J, Kim H, Chon I, Ham I, Whang Wに報告されている、式(I)の化合物のNMRデータと整合していた。
【0022】
(美白作用の評価1)
マウス由来のB16メラノーマ培養細胞を使用し、製造例1で得られた式(I)の化合物のメラニン生成抑制効果を調べた。具体的には、6穴プレートに10%FBS含有MEM培地を適量とりB16メラノーマ細胞を播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて静置した。翌日、製造例1で得られた化合物を、含水エタノール(水/エタノール=50/50(vol比))に溶解して添加した。培養5日目に培地を交換し、再度検体調製液を添加した。翌日、培地を除き、1枚のプレートについて、細胞をリン酸緩衝液にて洗浄した後回収し、B16メラノーマ培養細胞の白色化度を以下の基準にて評価した。対照には検体を添加しないものを用意した。また、比較例として、製造例1で化合物の単離に用いたヨモギ抽出物、及びメラニン生成抑制作用のあることが知られているコウジ酸についても同様の試験を行った。
なお、式(I)の化合物、ヨモギ抽出物、及びコウジ酸のそれぞれについて、固形分濃度が100μg/mLである各試料をそれぞれ調製し、試験を行なった。
(判定基準)
++:対照に対してあきらかに白色である。
+ :対照に対して白色である。
− :対照と同じ黒色である。
結果を下記表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
上記結果から、本発明の前記式(I)の化合物は、従来の美白剤であるコウジ酸と比較して、より高い美白効果を示すことが理解できる。また、その効果はヨモギ抽出物と同程度であったが、美白活性成分だけを精製して得られた式(I)の化合物は、その着色の程度が濃褐色であるヨモギ抽出物よりも低かった。そのため、ヨモギ抽出物を配合する場合より安定性や安全性に優れた化粧料を製造することができる。
【0025】
(美白作用の評価2)
上記特許文献2には、式(I)の化合物のアグリコンであるアピゲニンやその糖誘導体にメラニン産生を促進するADFの産生を抑制する効果があることが示唆されている。そこで、アピゲニン及びアピゲニン−7−グルコシドについても美白効果を調べ、その結果を、式(I)の化合物の美白効果と比較した。
なお、式(I)の化合物、アピゲニン、及びアピゲニン−7−グルコシドのそれぞれについて、160mol/Lの試料を調製し、この3種の試料について、上記と同様にして試験し、及び上記と同一の判定基準で評価した。結果を下記表に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
上記表に示す結果から、式(I)の化合物の試料には高い美白効果が認められたが、アピゲニン及びアピゲニン−7−グルコシドの同一濃度の各試料には、美白効果は認められなかった。
【0028】
(美白作用の評価3)
また、フラボノイドの配糖体として、式(I)の化合物に含まれる糖と同一の糖を含むフラボノイド誘導体である、ナリンギン及びナリンゲニンのそれぞれについて、濃度100μmol/L及び300μmol/Lの試料を準備し、上記と同様に試験を行い、上記と同一の判定基準で評価した。結果を下記表に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
上記表に示す結果から、ナリンギン及びナリンゲニンには、美白効果が認められなかった。
【0031】
上記評価結果から、式(I)の化合物のアグリコンであるアピゲニンでは美白効果は得られず、またアピゲニンの配糖体であっても、式(I)の化合物とは異なる糖を含むアピゲニン−7−グルコシドによっても美白効果は得られないことがわかった。さらに、式(I)の化合物と同一の糖を含む配糖体であっても、アグリコンが他のフラボノイド類である、ナリンゲニンやナリンギンでも、美白効果は得られなかった。即ち、式(I)の化合物は、他のフラボノイド類及びその配糖体と比較して、格段に高い美白効果を示すことが理解できる。
【0032】
[実施例2:化粧水の調製]
下記の組成の化粧水を、以下の方法で調製した。
A. 成分(3)、(4)及び(8)〜(10)を混合溶解する。
B. 成分(1)、(2)、(5)〜(7)及び(11)を混合溶解する。
C. AとBを混合して均一にし、化粧水を得た。
(成分) (%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.5
(3)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
モノラウリン酸エステル
(4)エタノール 12.0
(5)乳酸 0.05
(6)乳酸ナトリウム 0.1
(7)コラーゲン 1.0
(8)式(I)の化合物*1 0.0001
(9)メチルパラベン 0.1
(10)香料 適量
(11)精製水 残量
*1:製造例1で調製したもの
【0033】
[実施例3:乳液の調製]
下記の組成の乳液を、以下の方法で調製した。
A. 成分(9)を加熱混合し、70℃に保つ。
B. 成分(1)〜(8)および(10)を加熱混合し、70℃に保つ。
C. BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D. Cを冷却後(11)〜(14)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0034】
(成分) (%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタン 1.0
モノステアレート
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビット 0.5
テトラオレエート
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)エタノール 5.0
(8)式(I)の化合物(I)*1 0.001
(9)精製水 残量
(10)メチルパラベン 0.1
(11)カルボキシビニルポリマー 0.2
(12)水酸化ナトリウム 0.1
(13)ヒアルロン酸 0.1
(14)香料 適量
*1:製造例1で調製したもの
【0035】
実施例2で調製した化粧水、及び実施例3で調製した乳液は、いずれも皮膚に適用することにより美白効果があり、また、同量のヨモギエキスを配合した化粧水・乳液と比較して製造時の着色や経時での変臭、沈殿物等の発生もなく、安定性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、新規な美白剤、及び美白用化粧料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:(I)
【化1】

で表される化合物からなる美白剤。
【請求項2】
請求項1に記載の美白剤を含有する美白用化粧料。
【請求項3】
植物からの抽出物を処理して、該抽出物中の下記式:(I)
【化2】

で表される化合物の含有比率を高める工程を含む美白剤の製造方法。
【請求項4】
前記植物が、ヨモギである請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2010−275227(P2010−275227A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128799(P2009−128799)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】