説明

美白剤、色素沈着抑制剤、α−MSH阻害剤及び皮膚外用剤

【課題】 美白効果に優れた新規な美白剤、色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤を提供する。
【解決手段】 白金族金属のコロイド液からなる美白剤、紫外線による色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤である。また、前記α−MSH阻害剤を含有し、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する皮膚外用剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白金族金属のコロイド液を利用した美白剤、色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤に関する。また、本発明は、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制し得る皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌を白くする美白剤について種々検討されている。また、美白作用の機構についての研究も活発に行われ、例えば、皮膚細胞中のメラノサイトに働きかけてメラニン生成を促進させるメラノサイト刺激ホルモン(α−Melanocyte Stimulating Hormone:α−MSH)を阻害する剤を利用することによって美白効果が得られることが知られている。さらに、特定の植物の抽出物にα−MSH阻害作用があることが見出され、美白剤として用いることも提案されている(特許文献1及び2)。
一方、白金コロイドを化粧品に利用することが提案されているが(特許文献3)、白金コロイドの美白作用、さらにはα−MSH阻害作用については知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2001−163728号公報
【特許文献2】特開2003−183175号公報
【特許文献3】特開2001−122723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安定的に化粧料に配合可能で、優れた美白効果を奏する、新規な美白剤、色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤を提供することを課題とする。また、本発明は、メラニン産生を抑制する効果に優れ、高い美白効果を有する皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、白金族金属のコロイド液からなる美白剤、白金族金属のコロイド液からなる紫外線による色素沈着抑制剤、及び白金族金属のコロイド液からなるα−MSH阻害剤を提供する。
また、別の観点から、本発明は、白金族金属のコロイド液からなるα−MSH阻害剤を含有し、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する美白剤;白金族金属のコロイド液からなるα−MSH阻害剤を含有し、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する皮膚外用剤;白金族金属のコロイド液を含む組成物を肌に適用することによってα−MSHに起因するメラニン産生を抑制する方法;及び白金族金属のコロイド液を含む組成物を肌に適用することによって肌を白くする方法;を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、安定的に化粧料に配合可能で、且つ優れた美白効果を奏する美白剤、色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤を提供することができる。また、本発明によれば、メラニン産生を抑制する効果に優れ、高い美白効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、白金族金属のコロイド液からなる美白剤、紫外線による色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤(以下、これらをまとめて「美白剤等」という場合がある)に関する。白金族金属のコロイド液は、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する作用を有する。従って、肌に適用することで、肌を白くする美白剤、及び紫外線(特にUVB)照射によって引き起こされる色素沈着を抑制する色素沈着抑制剤として優れている。また前記白金族金属のコロイド液を含有する皮膚外用剤は、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制し得るので、美白効果に優れている。
【0008】
白金族金属とは、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、及び白金からなる遷移金属の総称をいう。中でも、ロジウム及び白金が好ましく、白金が最も好ましい。コロイド液とは、これら白金族金属の粒子が、液相に分散した状態のものをいう。白金族金属から選ばれる一種のコロイド液であってもよいし、二種以上の金属種のコロイド液であってもよい。中でも、単一金属種のコロイド液が好ましく、白金コロイド液又はロジウムコロイド液が好ましい。
【0009】
白金族金属のコロイド液とは、白金族金属の粒子が液相に分散したものをいう。安定的なコロイド状態とするためには、白金族金属の粒子は、比表面積が大きく、表面反応性に優れたものが好ましい。白金族金属粒子の粒径については、特に限定されないが、ナノ単位であるのが好ましい。具体的には、粒径は、1〜5nmが好ましく、1〜3nmであるのがより好ましく、1.5〜2.5nmであるのがさらにより好ましい。また、粒子の粒径分布は狭いのが好ましく、具体的には、90%以上のコロイド粒子の粒径が、0.1〜10nmの範囲に入るのが好ましく、1〜3nmの範囲に入るのがより好ましい。平均粒径が前記範囲であり、且つ粒径分布が狭いコロイド粒子を用いると、美白効果、紫外線照射による色素沈着抑制効果、及びα−MSH阻害効果が特に高くなるので好ましい。
尚、コロイド粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡によって観察することにより求めることができる。
【0010】
白金族金属の粒子を分散させる液相の主成分は水であるのが好ましい。コロイド状態を不安定化させない範囲で、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒としては、メタノール、エチルアルコール等のアルコール類;グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられる。
【0011】
金属粒子の製造方法は種々知られており(例えば、特公昭57−43125号公報、特公昭59−120249号公報、及び特開平9−225317号公報、特開平10−176207号公報、特開2001−79382号公報、特開2001−122723号公報など)、当業者はこれらの方法を参照することによって金属粒子を容易に調製することができる。例えば、金属粒子の製造方法として、沈殿法又は金属塩還元反応法と呼ばれる化学的方法、あるいは燃焼法と呼ばれる物理的方法などを利用できる。本発明の美白剤等には、いずれの方法で調製された粒子を用いてもよいが、製造の容易性と品質面から金属塩還元反応法で調製された金属粒子を用いることが好ましい。
【0012】
金属塩還元反応法では、例えば、水溶性若しくは有機溶媒可溶性の金属塩又は金属錯体の水溶液又は有機溶媒溶液を調製し、この溶液に水溶性高分子を加えた後、必要に応じpHを調整し、不活性雰囲気下で加熱還流することにより還元して金属粒子を得ることができる。金属の水溶性又は有機溶媒可溶性の塩の種類は特に限定されないが、例えば、酢酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、スルホン酸塩、又はリン酸塩などを用いることができ、これらの錯体を用いてもよい。
【0013】
金属塩還元反応法に用いる水溶性高分子の種類は特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、シクロデキストリン、アミノペクチン、又はメチルセルロースなどを用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくはポリビニルピロリドンを用いることができ、より好ましくはポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)を用いることができる。また、水溶性高分子に替えて、あるいは水溶性高分子とともに各種の界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性又は脂溶性等の界面活性剤を使用することも可能である。還元をアルコールを用いて行う際には、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、又はエチレングリコールなどが用いられる。これらの水溶性高分子及び界面活性剤は、液相中に金属粒子が生成した後は、白金族金属に配位し、該金属の親溶媒性を向上させ、保護コロイド剤として、コロイド状態の安定化に寄与する。
【0014】
上記水溶性高分子のモノマー単位当たりに換算したモル数の、白金族金属のモル数に対する比率Rは、200以下とするのが好ましく、180以下とするのがより好ましい。R値が200を超えると、前記水溶性高分子の分散性が低下するので好ましくない。R値が80〜180であると、陽イオン等を添加して等張としたイオン溶液中でも、白金族金属のコロイド液の分散状態が維持できるので好ましい。「等張」とは、体液と同じ浸透圧を有する状態を意味する。等張液の浸透圧は、具体的には、250〜350mOsm・kg-1程度である。等張液の具体例としては、生理的食塩水(0.9質量%NaCl水溶液)が挙げられる。化粧水等の皮膚に浸透させて使用する皮膚外用剤を調製する場合は、等張にすることにより皮膚に浸透しやすくなり、美白効果が得られやすくなるので好ましい。
【0015】
金属塩還元反応法により液相中に生成した金属粒子を、そのまま液相から分離することなく、美白剤等、さらにはそれらを含有する化粧料等の皮膚外用剤の調製に用いてもよい。例えば、金属塩還元反応法により液相中に金属粒子を生成させ、所望により適当な精製工程(例えば、金属塩還元反応法の工程中に用いられた有機溶媒を減圧留去する工程)を経た後、任意の量の水を添加することによって、又は任意の量の水を除去することによって、安定なコロイド液からなる美白剤等を調製することができる。所望によりコロイド状態の安定化に寄与する界面活性剤、分散剤等を添加してもよい。勿論、本発明の美白剤等の調製方法はこれに限定されず、例えば、金属塩還元反応法により生成した金属粒子を一旦液相から分離した後、水を主成分とする液相中に改めて分散させて調製することもできる。その場合は、白金族金属に配位し、該金属の親溶媒性を向上させ、コロイド状態の安定化に寄与する、上記保護コロイド剤を液中に混合するのが好ましい。
【0016】
最終製品の調製に用いられる母液としてのコロイド液の白金族金属の濃度については、特に制限されるものではなく、コロイド状態の安定性を損なわない範囲であればよい。一般的には、1nmol/L〜1mmol/L程度であれば安定性を維持するが、コロイド状態の安定性はそれぞれの金属で異なるので、この範囲に制限されるものではない。最終製品としての皮膚外用剤中における白金族金属の濃度の好ましい範囲については後述する。
【0017】
白金塩とポリアクリル酸塩とを使用して、白金ナノコロイド液からなる美白剤等を調製する方法を例にとって、金属塩還元反応法を説明する。
(1)溶液の調製
白金塩と、ポリアクリル酸塩と、アルコールと、水とを含有する溶液を調製する。白金塩は、アルコールと水とからなる溶媒に可溶であるのが好ましい。白金塩としては、例えば、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウムが挙げられる。これらのうち、ヘキサクロロ白金酸が好ましい。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、エチレングリコールが好ましい。
【0018】
まず、ポリアクリル酸塩を水に溶解する。溶液中のポリアクリル酸塩の平均分子量から計算される濃度は、0.01〜0.5mol/Lとするのが好ましい。別の容器に白金塩を含む水溶液を調製し、この白金塩水溶液をポリアクリル酸塩溶液に加えて、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液とする。白金塩−ポリアクリル酸塩溶液中の白金塩の濃度は、2mmol/L以下とするのが好ましく、1〜2mmol/Lとするのがより好ましい。また、ポリアクリル酸塩−白金塩溶液のR値は、180以下とするのが好ましく、170以下とするのがより好ましい。R値が180を超えると、ポリアクリル酸塩が水とアルコールとの混合溶媒に溶解し難く、均一な溶液が得られ難い傾向がある。
【0019】
白金塩水溶液を加えた後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液を攪拌する。攪拌時間は30〜40分間程度とするのが好ましい。攪拌後、白金塩−ポリアクリル酸塩溶液にアルコールを加え、反応溶液とする。反応溶液中のアルコール/白金塩のモル比は、10〜20とするのが好ましい。
【0020】
(2)還流
反応液を還流させて、反応液中の白金イオンを反応液中のメタノール等のアルコールで還元して白金ナノコロイドとするとともに、アルコールを酸化してアルデヒドとする。還流は不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。還流時間の好ましい範囲は、反応液中の白金塩の量に依存して変動するが、一般的には、2〜3時間還流させる。反応液中の白金イオンの消失及び白金ナノコロイドの生成は、反応溶液の紫外線可視吸光スペクトルを測定することで確認できる。
【0021】
(3)アルコール溶液の調製
還流後の反応溶液を加熱及び/又は減圧することにより、反応溶液の体積が加熱及び/又は減圧前の体積の0.5〜2割程度になるまでアルコール及び水を蒸発させて濃縮液とする。例えば、反応溶液をナスフラスコに入れ、ナスフラスコを室温〜30℃の湯浴に浸した状態でフラスコ内を水流アスピレータにより減圧して、60〜90分間保持する。加熱及び/又は減圧前の反応溶液が50mLの場合、水流アスピレータにより60分程度減圧し、残量5mL程度とするのが好ましい。アルコール及び水の蒸発により得られた濃縮液にアルコール(例えばエタノール)を加えて攪拌し、白金のアルコール溶液とする。加えるアルコールの量は、原料の白金塩に対して20〜40(アルコール/白金塩のモル比)程度とするのが好ましい。
【0022】
(4)白金ナノコロイド含有皮膚外用剤の調製
濃縮液にアルコールを加えて調製された上記白金のアルコール溶液を、加熱及び/又は減圧することにより溶媒を蒸発させると、ペースト状の白金ナノコロイドが得られる。この白金ナノコロイドに溶媒を加えて攪拌することにより、均一な白金ナノコロイド溶液を調製できる。溶媒としては、水、水とエタノールとの混合物等が挙げられる。上記した様に、反応終了後、反応液を一旦濃縮し、アルコールを加えてアルコール溶液を調製し、再びアルコールを蒸発させてペースト状の白金ナノコロイドを得、再び溶媒を加えてコロイド液を調製すると、優れた分散性を有する白金ナノコロイドを調製できるので好ましい。この工程を経ずに、反応終了後、反応溶液から直接全ての溶媒を揮発させると、得られる残渣は非常に粘性が高く、べとついた状態になる傾向がある。
以上の製造方法によれば、狭い粒径分布を有する白金ナノコロイド液を調製することができる。
【0023】
本発明の皮膚外用剤は、前記白金族金属のコロイド液を単独で、又は1種以上の公知の外用医薬用添加剤又は皮膚化粧料用添加剤とともに常法に従って配合することで調製することができる。前記白金族金属のコロイド液の配合量は、外用剤の剤形、使用目的等によっても異なるが、一般的には、白金族金属の濃度が最終組成物中に、好ましくは0.01nmol/L〜50μmol/L、より好ましくは1nmol/L〜1μmol/Lである。この範囲内であれば、コロイド液を安定に配合することができ、優れた薬効を発揮することができる。
【0024】
必要に応じて添加される添加剤としては、皮膚用化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、保護コロイド剤になり得る水溶性高分子、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、他の美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。皮膚外用剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
【0025】
前記皮膚用外用剤の形態については限定されず、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態;シャンプー、ヘアートリートメント、ヘアースタイリング剤、養毛剤、育毛剤等の頭髪化粧料に関する形態;及び分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の外用医薬品の形態;のいずれであってもよい。
【実施例1】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[例1:白金コロイド液(PAA−Pt)の調製]
アリール冷却管と三方コックを接続した100mL二口ナス型フラスコにポリ(ポリアクリル酸ナトリウム)(アルドリッチ社製, 0.31g)を入れ、蒸留水23mLで溶解した。この溶液を10分間撹拌した後、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O、和光純薬株式会社製)を蒸留水に溶解した1.66×10-2 M溶液(2mL)を加えてさらに30分間撹拌した。反応系内を窒素置換し、特級エタノール25mLを加えて窒素雰囲気下を保ちながら100℃で2時間還流した。反応液のUVを測定し、白金イオンピークの消失と、金属固体特有の散乱によるピークの飽和を確認し、還元反応を終了した。有機溶媒を減圧留去して白金コロイド液(平均粒径2.4±0.7 nm)を調製した。得られた白金コロイド液(PAA−Pt)の白金の濃度は1mmol/Lであった。
【0027】
[例2:マウスを用いたUV惹起色素沈着抑制試験]
前記で調製した1mmol/LのPAA−Ptを、注射用水(株式会社大塚製薬工場)で100倍、1000倍及び10000倍に希釈し、濃度10μmol/L、1μmol/Lおよび0.1μmol/LのPAA−Ptをそれぞれ調製した。
褐色モルモット(SPF、Kwl:A−l、株式会社の紀和実験動物研究所、5週齢の雌)を、5日間の検疫期間及びその後2〜7日間の馴化期間飼育し、体重推移及び一般状態に異常の認められなかったものを選別して、実験に用いた。各群の体重平均および分散がほぼ等しくなるように、6匹ずつ3つの群に分けて、それぞれの背部の皮膚被毛を剃毛した。実験中、動物を、室温20〜26℃(実測値22〜23℃)、湿度40〜70%(実測値46から63%)、明暗各12時間、換気回数12回/時(フィルターにより除菌した新鮮空気)の条件で、飼料及び飲料水を、それぞれ給餌器及び給水装置等を用いて自由に摂取させて、飼育した。
【0028】
固定板を用いて動物を腹位に固定し、それぞれの被験動物の背部皮膚の正中線をはさんで、左右に2cm×2cmの正方形を各1ヶ所、計2ヶ所を紫外線照射部位とした。伸縮包帯(エラストポア、製本のテープをエラストアに貼り、照射部位を切り抜く)を動物に貼って遮光し、SEランプ(波長250nm〜350nm、FL20S・E、東芝製)5本用いて、40cmの距離から最小紅斑量の紫外線(UVB)を照射した。初回照射日を0日として、第2回目が初回照射日後2日及び第3回目が4日の計3回、同条件で紫外線照射した。なお、最小紅斑量は、別途同種の2匹のモルモットを用いて決定した。その値は12分30秒であった。初回照射日から28日まで、第一の群のモルモットには、上記照射部位のどちらかに10μmol/LのPAA−Ptを、第二の群のモルモットには、上記照射部位のどちらかに1μmol/LのPAA−Ptを、第三の群のモルモットには、上記照射部位のどちらかに0.1μmol/LのPAA−Ptを、それぞれ0.1mLずつ塗布し、他方の照射部位には注射用水を塗布した。塗布は一日1回とし、紫外線照射の日においては、紫外線を照射した後に塗布した。
【0029】
PAA−Ptを塗布した初日、塗布初日後7日、14日及び28日に、いずれも塗布前に、紫外線照射部位を色差計(CR−300、ミノルタカメラ販売株式会社)を用いて、明度(L値)を測定し、ΔL値(観察日のL値−照射前のL値)を求めた。ΔL値について、各塗布部位の平均値及び標準誤差を算出した。結果を表1に示す。なお、紫外線照射により肌の黒化が進むほど、L値が低下するので、ΔL値は小さくなる。また、塗布初日、塗布初日後7日、14日及び28日に体重測定を行ったが、いずれの動物もほぼ順調な体重推移を示し、異常は観察されなかった。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1の結果から、第一の群、第二の群及び第三の群のいずれも、白金コロイド液の塗布部位のΔL値の方が、注射用水の塗布部位のΔL値より大きくなり、色素沈着の抑制効果が認められた。また、その抑制の程度には、白金コロイド溶液の濃度に対する依存性があり、10μmol/LのPAA−Ptを塗布した場合が最も色素沈着抑制効果が高かった。
上記試験より、白金コロイド液に、紫外線(UVB)の照射によって引き起こされる色素沈着を抑制する作用があることが明らかになった。
【0032】
[例3:培養細胞によるメラニン生成抑制試験]
培養細胞にマウス由来のB16メラノーマを使用し、細胞培養によるメラニン生成抑制試験を行った。100mmのシャーレに10%FBS含有MEM培地を加えて、細胞を播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて培養した。翌日、種々の濃度のPAA−Ptを添加し、30分後にα−MSH(1×10-10M)を添加し、混和した。培養5日目に培地を交換し、再度、同一の検体調製液を添加した。翌日、細胞を回収し、一定の細胞数にそろえた後に細胞のメラニン量の定量を行った。α−MSHを添加し、白金コロイド液を添加しないものをコントロールとして用い、コントロールのメラニン生成量を100としてそれぞれのメラニン生成量を示した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から明らかな如く、α−MSHによって亢進されるメラニン生成量を白金コロイド液が抑制することがわかった。従って、白金コロイド液は、これを肌に適用することにより、極めて優れたα−MSH抑制作用を発揮し、α−MSHによって引き起こされるメラニン産生を抑制することで極めて優れたメラニン生成抑制作用を発揮し、日焼けによる肌の黒色化、シミ、ソバカスなどを効果的に抑制し、美白効果を得ることができる。
【0035】
[例4:化粧水]
(成分) (%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.5
(3)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
モノラウリン酸エステル
(4)エチルアルコール 12.0
(5)アスコルビン酸
パルミチン酸エステル*1 0.1
(6)アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム*2 0.5
(7)アスコルビン酸グルコシド*3 2.0
(8)乳酸 0.05
(9)乳酸ナトリウム 0.1
(10)PAA−Pt 1μM液 0.05
(11)コラーゲン 1.0
(12)防腐剤 適量
(13)香料 適量
(14)精製水 残量
*1 和光純薬社製
*2 シグマ社製
*3 林原生物化学研究所製
【0036】
(製法)
A.成分(3)〜(5)、および(12)、(13)を混合溶解する。
B.成分(1)、(2)、(6)〜(11)及び(14)を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、化粧水を得た。
【0037】
例4で調製した化粧水は、変色変臭、沈殿などがなく安定であり、肌に適用すると、みずみずしい保湿感があり、連続的に適用することによりシミやくすみなどを抑制又は改善する効果のあるものであった。
【0038】
[例5:乳液]
(成分) (%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタン 1.0
モノステアレート
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビット 0.5
テトラオレエート
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)パルミチン酸レチノール*1 0.0002
(8)エチルアルコール 5.0
(9)カンゾウ抽出物*2 0.01
(10)グリチルリチン酸ジカリウム*3 0.1
(11)PAA−Pt 1μM液 0.2
(12)精製水 残量
(13)防腐剤 0.1
(14)カルボキシビニルポリマー 0.2
(15)水酸化ナトリウム 0.1
(16)ヒアルロン酸 0.1
(17)酸化亜鉛 適量
(18)香料 3
*1 日本ロシュ社製
*2 丸善製薬社製
*3 丸善製薬社製
【0039】
(製法)
A.成分(12)〜(14)を加熱混合し、70℃に保つ。
B.成分(1)〜(9)を加熱混合し、70℃に保つ。
C.BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D.Cを冷却後(10),(11)を加え均一に混合する。
E.Dに(15)を加え、十分に攪拌し、さらに(16)〜(18)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0040】
例5で調製した乳液は、変色変臭などがなく安定であり、肌に適用すると、滑らかなエモリエント効果が高く、連続的に適用することによりシワ形成、皮膚肥厚、皮膚硬化など皮膚障害を抑制又は改善する効果に優れるものであった。
【0041】
[例6:クリーム]
(成分) (%)
(1)セトステアリルアルコール 3.0
(2)グリセリン脂肪酸エステル 2.0
(3)モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 1.0
(4)モノステアリン酸ソルビタン 1.0
(5)N−ステアロイル−N−メチルタウリンナトリウム 0.5
(6)ワセリン 5.0
(7)メチルポリシロキサン(100mm2/s) 3.0
(8)トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 20.0
(9)dl−α―トコフェロール*1 1.0
(10)エラグ酸*2 0.05
(11)乳酸(50%水溶液) 1.0
(12)ジプロピレングリコール 10.0
(13)アルブチン*3 3.0
(14)クエン酸ナトリウム 0.5
(15)PAA−Pt 1μM液 0.5
(16)L−アスコルビン酸
リン酸エステルマグネシウム塩*4 0.1
(17)酸化チタン 0.1
(18)香料 適量
(19)エデト酸2ナトリウム 0.03
(20)防腐剤 適量
(21)精製水 残量
*1 エーザイ社製
*2 シグマ社製
*3 和光純薬社製
*4 和光純薬社製
【0042】
(製法)
A.成分(1)〜(10)を加熱混合し、70℃に保つ。
B.成分(11)〜(16)および(19)〜(21)を加熱混合し、70℃に保つ。
C.BにAを加えて混合し、均一に乳化する。
D.Cを冷却後(17)、(18)を加え均一に混合してクリームを得た。
【0043】
例6で調製したクリームは、変色変臭、分離などがなく安定であり、肌に適用すると、滑らかな保湿感があり、連続的に適用することによりしみ、くすみなどを抑制又は改善する効果のあるものであった。
【0044】
[例7:パック]
(成分) (%)
(1)ポリビニルアルコール 15.0
(2)無水ケイ酸 0.5
(3)ポリエチレングリコール 0.5
(4)ポリオキシプロピレンメチルグルコシド 5.0
(5)グリセリン 5.0
(6)精製水 残量
(7)エチルアルコール 10.0
(8)防腐剤 適量
(9)PAA−Pt 1μM液 0.01
(10)香料 適量
【0045】
(製法)
A.成分(1)〜(6)を混合し、70℃に加熱して溶解する。
B.成分(7)〜(8)を混合して溶解する。
C.Bを先のAに加え、混合した後、冷却して(9)、(10)を均一に分散してパックを得た。
【0046】
例7で調製したパックは、変色変臭、分離などがなく安定であり、肌に適用すると、適度な緊張感があり、パックを剥がしたが後の肌は潤い感が高く、しみ、くすみなどを抑制又は軽減する効果に優れるものであった。
【0047】
[例8:リキッドファンデーション]
(成分) (%)
(1)ジペンタエリトリットテトラ12ヒドロキシステアリン酸
セスキステアリン酸ヘミロジンエステル 2.0
(2)流動パラフィン 5.0
(3)ステアリン酸 2.0
(4)セタノール 1.0
(5)自己乳化型モノステアリン酸グリセリル 1.0
(6)パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル 8.0
(7)PAA−Pt 1μM液 0.005
(8)防腐剤 適量
(9)グリセリン 5.0
(10)トリエタノールアミン 1.0
(11)カルボキシメチルセルロース 0.2
(12)ベントナイト 0.5
(13)精製水 残量
(14)酸化チタン 6.0
(15)微粒子酸化チタン 2.0
(16)微粒子酸化亜鉛 5.0
(17)マイカ 2.0
(18)タルク 4.0
(19)着色顔料 4.0
(20)香料 適量
【0048】
(製法)
A.成分(1)〜(6)を加熱し混合溶解する。
B.Aに成分(14)〜(19)を加え、均一に混合し、70℃に保つ。
C.成分(8)〜(13)を均一に溶解し、70℃に保つ。
D.CにBを添加して、均一に乳化する。
E.Dを冷却後、成分(7)、(20)を添加してリキッドファンデーションを得た。
【0049】
例8で調製したリキッドファンデーションは、変臭、分離などがなく安定であり、肌に適用すると、潤い感のあるメイク効果に優れ、日中の紫外線からも適度に肌を守り、しみ、くすみなどを抑制又は軽減する効果に優れるものであった。
【0050】
[例9:日焼け止め乳液]
(成分) (%)
(1)ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン 1.0
(2)ジメチルポリシロキサン 5.0
(3)オクタメチルシクロテトラシロキサン 20.0
(4)イソノナン酸イソトリデシル 5.0
(5)パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル 5.0
(6)微粒子酸化チタン 10.0
(7)微粒子酸化亜鉛 10.0
(8)酸化ジルコニウム 5.0
(9)ポリスチレン末 3.0
(10)トリメチルシロキシケイ酸 0.5
(11)防腐剤 適量
(12)ジプロピレングリコール 3.0
(13)エチルアルコール 10.0
(14)精製水 残量
(15)食塩 0.2
(16)PAA−Pt 1μM液 0.01
(17)香料 適量
【0051】
(製法)
A.成分(1)〜(10)を混合分散する。
B.成分(11)〜(15)を混合溶解する。
C.AにBを添加して、均一に乳化する。
D.Cに成分(16)、(17)を添加して日焼け止め乳液を得た。
【0052】
例9で調製した日焼け止め乳液は、変臭、分離などがなく安定であり、肌に適用すると、さっぱりとしたエモリエント効果があり、日中の紫外線から肌を守り、しみ、くすみなどを抑制又は軽減する効果に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の美白剤、色素沈着抑制剤及びα−MSH阻害剤は、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する効果を有するので、肌を白くする美白用化粧料の有効成分として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属のコロイド液からなる美白剤。
【請求項2】
白金族金属のコロイド液からなる紫外線による色素沈着抑制剤。
【請求項3】
白金族金属のコロイド液からなるα−MSH阻害剤。
【請求項4】
請求項3に記載のα−MSH阻害剤を含有し、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する美白剤。
【請求項5】
請求項3に記載のα−MSH阻害剤を含有し、α−MSHに起因するメラニン産生を抑制する皮膚外用剤。

【公開番号】特開2006−193491(P2006−193491A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8611(P2005−8611)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【出願人】(503304234)株式会社シーテック (6)
【Fターム(参考)】