説明

美白剤

【課 題】皮膚の美白効果に優れ、シミ、ソバカス等の予防及び治療に有効な美白剤及び該美白剤を含有する化粧品、飲食品、飼料、医薬等の美白製品を提供すること。
【解決手段】分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、遊離アミノ酸含量20%以下、及び抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の美白効果に優れ、シミ、ソバカス等の予防及び治療に有効で、且つ苦みが少なく、安定性及び安全性に優れた美白剤に関する。
本発明は、さらに該美白剤を含有する美白用化粧品、美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料又は美白用医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の色は、主にメラニン、ヘモグロビン、カロチノイド等の着色成分の表皮及び真皮内における種類、量によって決まっている。また、これらは、一定でなく様々な外的・内的因子によって制御されている。メラニン色素は、皮膚において主にメラノサイトによって合成され、紫外線刺激、ホルモン分泌や周囲の角化細胞から放出される刺激因子によって活性化される。メラニン色素の主な役割は、紫外線による皮膚障害を緩和することにある。しかし、過剰にメラニン合成が亢進、さらにその代謝異常によって局所的な色素沈着、いわゆるシミ及びソバカス等が引き起こされ、美容上の大きな問題になる。
【0003】
皮膚への色素沈着を改善する作用機序として、メラノサイト内でのメラニン生成抑制、既成メラニンの還元、表皮内メラニンの排出促進、メラノサイトに対する選択毒性が考えられる。その中で美白作用物質として還元作用を有するL−アスコルビン酸及びその誘導体が広く用いられているが、十分な美白効果は得られていない。
また、メラニン合成酵素であるチロシナーゼの阻害物質であるハイドロキノン、アルブチン、コウジ酸、甘草エキス又はプラセンタエキス等が美白剤として用いられているが、これらの物質には安定性や安全性等で問題があり、新たな美白剤の開発が望まれている。
【0004】
さらに、乳タンパクの加水分解物がチロシナーゼ活性阻害作用を持つことは特許文献1にて報告されているが、当該特許では、分解物の水溶液が白濁しているため、実際に製品に使用する際に制限があり、透明性を求める製品には使用できない欠点があった。また、ペプチド特有の苦味があるため、特に、経口的に摂取する食品や飼料、医薬品等を製造する際には、風味上の制限があった。
【0005】
一方、乳タンパクの加水分解物は、牛乳、乳製品における食物アレルギーを防止するために様々な製品に用いられている。特に、牛乳のホエータンパクは母乳のタンパクと異なり、アレルゲンになると考えられており、これを防止するためにホエータンパクを酵素で加水分解することが知られ、特許文献2や特許文献3等の製造方法が報告されている。
これらの方法、例えばホエータンパク加水分解物を製造する際、酵素処理後に酵素を加熱失活し、さらに酵素処理を行う方法によると、1)加熱失活後に生成するホエータンパクの沈殿物、凝集物に対して酵素処理が難しく、抗原性の低下及び歩留まり向上につながらない、2)予め酵素処理する前にホエータンパクを加熱処理(90℃で10分以上)すると歩留まりは低下する等、多くの問題点があった。
【0006】
上記問題点を解決するため、発明者等は、既にホエータンパクを特定の条件で、耐熱性のタンパク加水分解酵素を加えて、熱変性をさせながら酵素分解して得ることのできるホエータンパク加水分解物の製造方法を開発し、既に特許として成立している(特許文献4)。しかしながら、この製造方法で得られたホエータンパク加水分解物自体は、低アレルゲン性効果を発揮することは確認していたが、美白剤としての機能については考えも及ばなかった。また、限外濾過(UF)膜や精密濾過(MF)膜処理により、さらに美白作用が向上することを見出した。
【0007】
【特許文献1】特開平4−69315号公報
【特許文献2】特開平2−2319号公報
【特許文献3】特開平2−138991号公報
【特許文献4】特開平4−112753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、安全性に優れ、水溶液が高い透明性を示し、苦味が少く風味上の制限がないため、製品に使用する際の制限がなく、皮膚に対して美白作用を有するホエータンパク加水分解物からなる美白剤を提供することを課題とする。
さらに、美白機能を有し、安全性に優れた美白用化粧品、安全性に優れ、風味上に問題のない経口的に摂取する美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料又は美白用医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、発明者等は、上述するようにホエータンパクを特定の条件で、耐熱性のタンパク加水分解酵素を加えて、熱変性をさせながら酵素分解して得ることのできるホエータンパク加水分解物の物性について、鋭意検討したところ、本発明の特許請求の範囲に記載するような、分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量20%以下、抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下のホエータンパク加水分解物が上記課題を満たす美白効果を有することを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、下記の構成からなる発明である。
(1)以下の特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。
(A)分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
(C)遊離アミノ酸含量20%以下
(D)抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下
(2)有効成分として含有するホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の美白剤。
(3)有効成分として含有するホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパクを熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の美白剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の美白剤を含むことを特徴とする美白用化粧品、美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料又は美白用医薬品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の美白剤は、チロシナーゼ活性阻害作用、メラニン生成阻害効果及び色素沈着予防・改善効果が顕著であり、該美白剤は、皮膚の美白効果に優れ、シミ、ソバカス等の予防及び治療に有用である。
この美白剤の有効成分として用いられるホエータンパク加水分解物は、後述するように、抗原性がβ−ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下、ホエータンパクに比べて1/10,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。
また、その水溶液は、透明で、苦味度も2程度であることから、美白剤として使用する際に制限がなく、特に、透明性を求める美白剤への高配合が可能である。
さらに、上記美白剤を有効成分として含有する美白機能を有し、安全性に優れた美白用化粧品、安全性に優れ、風味上に問題のない経口的に摂取する美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料や美白用医薬品を提供できる。
さらにまた、本発明の美白剤は、ホエータンパクを原料としているため、簡便且つ経済的に容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の美白剤に含有される、ホエータンパク加水分解物は、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃とし、これに耐熱性のタンパク加水分解酵素を加えて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させることによりなる美白作用を有するホエータンパク加水分解物であり、さらにまた、上記酵素分解を行う前に、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを冷却することなく直ちに上記条件で酵素分解すると収率を一層高めることができる。
なお、上記のように調製したホエータンパク加水分解物を、さらに分画分子量1kDa〜20kDa、好ましくは、2〜10kDaの限外濾過(UF)膜及び/又は分画分子量100Da〜500Da、好ましくは150Da〜300Daの精密濾過(MF)膜から選ばれる方法で濃縮することにより、一層美白効果を高めることができる。また、さらに苦味を軽減し、透明性を向上させることもできる。
【0013】
本発明におけるホエータンパクは、牛乳、水牛、山羊、ヒト等の哺乳動物のホエー、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパクをいい、これを酵素反応させる時は水溶液の状態で使用する。
【0014】
この溶液をpH6〜10に調整するが、通常ホエータンパクはこの範囲のpHになっているので格別pHの調整を行う必要はないが、必要な場合は、塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及び燐酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6〜10とする。加熱は50〜70℃で行うが、耐熱性のタンパク加水分解酵素は、この温度にして添加するよりもむしろ加熱前から加え酵素分解を行っていた方が収率の面から好ましい。
【0015】
一般的なProtease(プロテアーゼ)の至適温度は40℃以下であるが、耐熱性のタンパク加水分解酵素は45℃以上であり、耐熱性のタンパク加水分解酵素としては、従来このような至適温度を有する耐熱性のタンパク加水分解酵素として知られているものであれば特に制限なく使用できる。このような耐熱性のタンパク加水分解酵素としてパパイン、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。耐熱性のタンパク加水分解酵素は、80℃で30分加熱して残存活性が約10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用することにより効果的である。反応は30分〜10時間程度行うことが好ましい。
最後に、反応液を加熱して酵素を失活させる。酵素の失活は反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。
【0016】
そして反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥して粉末製品とする。なお、遠心分離した時に生ずる沈殿物は上清に比べ低アレルゲン化の程度が小さいので、これを除去した方が好ましいが、勿論反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。
この方法により得られるホエータンパク加水分解物は、Inhibition ELISA法〔日本小児アレルギー学会誌、1,36(1987)〕で測定して、抗原性がβ−ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下、ホエータンパクに比べて1/10,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。また、その水溶液は透明で、苦味度も2程度であることから、製品に使用する際に制限がない。なお、透明性及び苦味の評価は下記の方法により評価した。
【0017】
透明性評価法:1%ホエータンパク加水分解物溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。
【0018】
苦味評価法:10%ホエータンパク加水分解物溶液を調製し、苦味物質である塩酸キニーネを添加して、苦味を評価した。表1に示すように、苦味点数が2点以下であれば、飲食品などとして利用可能である。
【0019】
【表1】

【0020】
本発明のホエータンパク加水分解物は、そのまま美白剤として使用することが可能であるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることも出来る。また、さらに限外濾過 (UF)膜や精密濾過 (MF)膜処理により得られたホエータンパク加水分解物についても、そのまま美白剤として使用することも可能であり、そのまま乾燥しても使用できる。また、常法に従い、製剤化して用いることもできる。
さらに、これらを製剤化した後に、これを栄養剤やヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品、栄養組成物、飼料及び医薬品に配合することも可能である。
【0021】
本発明の美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料及び美白用医薬品とは、このホエータンパク加水分解物のみを含む場合の他に、安定剤や糖類、脂質、フレーバー、ビタミン、ミネラル、フラボノイド、ポリフェノール等、他の飲食品、飼料及び医薬に通常含まれる原材料等を含有することができる。
また、そのような美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料又は美白用医薬品を原材料として、他の飲食品等に通常含まれる原材料等を配合して調製することも可能である。
【0022】
美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料及び美白用医薬品におけるホエータンパク加水分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエータンパク加水分解物を5mg以上経口的に摂取させるためには、飲食品、飼料及び医薬の形態にもよるが、全質量に対して一般に0.001〜10(重量/重量)、好ましくは0.1〜5(重量/重量)含有していることが好ましい。
【0023】
美白用化粧品としては、乳液、クリーム、ローション、パック等通常の化粧品形態に用いることができる。これらの化粧品は常法により製造し、ホエータンパク加水分解物はその製造過程で適宜配合すればよい。また、そのような化粧品を原材料として、化粧品を製造することも可能である。化粧品におけるホエータンパク加水分解物の配合量は、特に制限はないが、全質量に対して一般に0.001〜30(重量/重量)、好ましくは0.1〜10(重量/重量)含有していることが好ましい。
【0024】
本発明の美白剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、経口又は非経口投与が可能な美白組成物とすることができる。製剤化に際して、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。
また、医薬製剤としては、各種形態が選択でき、例えばカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、注射剤、軟膏剤等が挙げられる。賦形剤としては、例えばショ糖、乳糖、デンプン、結晶性セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム等の1種又は2種以上を組み合わせて加えることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
ホエータンパク10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク及びプロレザー(Proleather:天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパクを加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエータンパクを変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエータンパク加水分解物(HW)を得た。
得られたホエータンパク加水分解物(HW)の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量18.9%であった。
Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))80.3%、苦味度は2であった。
このようにして得られたホエータンパク加水分解物は、そのまま本発明の美白剤として利用可能である。
【0027】
〔実施例2〕
ホエータンパク10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク及びプロレザー(Proleather:天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパクを加え、pH8、50℃で3時間酵素分解を行った。これを55℃に昇温させ、この温度で3時間維持し、タンパクを変性させるとともに、タンパクの酵素分解を行い、100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させた。この反応液を分画分子量10kDaのUF膜(STC社製)及び分画分子量300DaのMF膜(STC社製)処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを乾燥してホエータンパク加水分解物(HW)を得た。
得られたホエータンパク加水分解物(HW)の分子量分布は10kDa以下、メインピークは500Da、APLは3.0、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量15.2%であった。
Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で、収率65.4%、苦味度は2であった。
このようにして得られたホエータンパク加水分解物は、そのまま本発明の美白剤として利用可能である。
【0028】
また、特開平4−69315号公報で報告されている、以下の乳タンパクの加水分解物を調製し、比較試料とした。
【0029】
〔比較例1〕
ホエータンパク120gを精製水1,800mlに溶解し、1Mカセイソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク加水分解物を得た。
得られたホエータンパク加水分解物の分解率18%、収率80.6%であった。
【0030】
〔比較例2〕
ホエータンパク120gを精製水1,800mlに溶解し、1Mカセイソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、8時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエータンパク加水分解物を得た。
得られたホエータンパク加水分解物の分解率30%、収率80.6%であった。
【0031】
〔比較例3〕
カゼイン200gを精製水2,000mlに懸濁し、1Mカセイソーダ溶液でpHを8.0に調整して完全に溶解した。次いで、80℃で10分間加熱して殺菌し、50℃に保持してパンクレアチンF(天野エンザイム社製)20g及びアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、10時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、カゼイン加水分解物を得た。
得られたカゼイン加水分解物の分解率は38%、収率77.8%であった。
【0032】
〔比較例4〕
カゼイン200gを精製水2,000mlに懸濁し、1Mカセイソーダ溶液でpHを8.0に調整して完全に溶解した。次いで、80℃で10分間加熱して殺菌し、40℃に保持してパンクレアチンF(天野エンザイム社製)15gを添加し、5時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、カゼイン加水分解物を得た。
得られたカゼイン加水分解物の分解率20%、収率79.1%であった。
【0033】
〔試験例1〕
(透明性試験)
実施例1、2及び比較例1〜4の各タンパク加水分解物の1%水溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1、2のホエータンパク加水分解物(HW)は、吸光度が低いことからわかるように、透明性が高い。一方、比較試料においては、実施例1、2のホエータンパク加水分解物に比べ、吸光度が高く透明性が低いことがわかった。また、膜処理をした実施例2のホエータンパク加水分解物(HW)の吸光度は、実施例1のホエータンパク加水分解物(HW)より低く、透明性に優れていた。
【0036】
〔試験例2〕
(チロシナーゼ活性阻害作用)
チロシナーゼはチロシンからメラニンを合成する酵素で、合成経路中、チロシンをドーパに、さらにドーパをドーパキノンへ変換する。チロシナーゼ(Sigma-Aldrich社製、マッシュルーム由来)を用い、実施例1、2で得られたホエータンパク加水分解物(HW)及び比較試料(比較例1〜4)をそれぞれ加え37℃で15分間前処理を行った。基質としてドーパ(Sigma-Aldrich社製)を添加し、さらに37℃で5分間反応させた後、476nmにおける吸光度を測定した。無添加の値を100%として阻害率を算出した。
その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3の結果からわかるように、実施例1及び2のホエータンパク加水分解物(HW)は、0.01%〜1.0%の濃度で濃度依存的に酵素活性を抑制した。また、比較試料においても抑制効果が認められた。
しかし、実施例1、2のホエータンパク加水分解物(HW)には、比較試料と比較して顕著な抑制効果が認められた。さらに、膜処理を行うことによって、より抑制効果が向上することがわかった。
【0039】
〔試験例3〕
(メラニン生成阻害試験)
マウス悪性黒色腫B16-F0細胞(大日本住友製薬社より購入)を使用した。牛胎児血清を10%含むEagle’s MEM培地(Sigma-Aldrich社製)を使用し、CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で培養した。B16細胞を細胞濃度3×105個/mlの懸濁液とし、この1mlを培地が9ml入っている100mmディッシュに分注した。翌日、0.01〜1%の実施例1、2で得られたホエータンパク加水分解物(HW)、比較試料(比較例1〜4)それぞれを含む培地に交換し、4日間培養した。培養終了後、細胞をはがし、各群の細胞数を5×106個にそろえ遠心した。
1mol/L NaOHを500ml添加して溶解した後、その溶解液の405nmにおける吸光度を測定した。
無添加群を100%として各群のメラニン生成阻害率を算出した結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4からわかるように、実施例1、2のホエータンパク加水分解物(HW)には、0.01%〜1.0%の濃度で濃度依存的にメラニン生成阻害効果が認められた。
また、比較試料においても同様に阻害効果は見られたが、本発明のホエータンパク加水分解物(HW)の方が比較試料に比べ優れた阻害効果を示した。さらに、膜処理を行うことによって、より阻害効果が向上することが明らかとなった。
【0042】
〔試験例4〕
(動物実験)
A-1系雌モルモット、体重約400gの背部を除毛し、背部に紫外線(UVA(max.360nm)30.3kJ/m2、UVB(max.312nm)4.8kJ/m2)照射を1回/日、4日行った。その後、生理食塩水をモルモット体重1kgあたり5ml投与する群(A群)、実施例2のホエータンパク加水分解物(HW)をモルモット体重1kgあたり2mg/5ml投与する群(B群)、HWをモルモット体重1kgあたり5mg/5ml投与する群(C群)、HWをモルモット体重1kgあたり10mg/5ml投与する群(D群)の4試験群(各群10匹ずつ)にわけ、それぞれを毎日1回ゾンデで経口投与して4週間飼育した。試料投与開始時と試料投与終了時にモルモット背部皮膚の色素沈着への影響をMINOLTA社製の色素計 (CHROMA METER CR-200)で測定した。紫外線照射前の明度と照射後の明度の差から照射前の明度を100%として回復率を算出した。
その結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5からわかるように、B〜D群は、顕著な明度の改善効果を示した。この結果から、本発明のホエータンパク加水分解物(HW)には色素沈着予防・改善効果が認められた。
【0045】
〔試験例5〕
(動物実験)
A-1系雌モルモット、体重約400gの背部を除毛し、背部に紫外線(UVA(max.360nm)30.3kJ/m2、UVB(max.312nm)4.8kJ/m2)照射を1回/日、4日行った。その後、1日2回、4週間被験部位に試料を連続塗布した。被験試料は、水、エタノール、プロピレングリコールを2:2:1の比率で混和したものに溶解して、これを塗布した。
コントロール群(A群)、実施例2のホエータンパク加水分解物(HW)0.01%(B群)、0.1%(C群)、1%(D群)の4試験群(各群10匹ずつ)にわけた。試料塗布開始時と試料塗布終了時にモルモット背部皮膚の色素沈着への影響をそれぞれMINOLTA社製の色差計(CHROMA METER CR-200)で測定した。紫外線照射前の明度と照射後の明度の差から、照射前の明度を100%として回復率を算出した。その結果を表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
上記表6の結果からわかるように、B〜D群では顕著な明度の改善効果を示した。この結果から、本発明のホエータンパク加水分解物は塗布することによっても色素沈着予防・改善効果が認められた。
【0048】
本発明において得られる、(A)分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、(C)遊離アミノ酸含量20%以下、(4)抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下の成分組成を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として含有する美白剤は、Inhibition ELISA法〔日本小児アレルギー学会誌、1,36(1987)〕で測定して抗原性がβ−ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。
また、その水溶液は、透明で、苦味度も2程度であることから、製品に使用する際に制限がない。チロシナーゼ活性阻害作用、メラニン生成阻害効果及び色素沈着予防・改善効果が顕著である。
【0049】
〔実施例3〕
(美白用化粧品(クリーム)の調製)
表6に示す配合で原材料を混合し、本発明の美白用化粧品(クリーム)を調製した。
【0050】
【表7】

【0051】
〔実施例4〕
(美白用化粧品(ローション)の調製)
表7に示す配合で原材料を混合し、本発明の美白用化粧品(ローション)を調製した。
【0052】
【表8】

【0053】
〔実施例5〕
(美白用錠剤の調製)
表8に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の美白用錠剤を製造した。
【0054】
【表9】

なお、この錠剤1g中には、HWが100mg含まれていた。
【0055】
〔実施例6〕
(美白用液状栄養組成物の調製)
実施例2で得られたHW50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合してHW含量50g/5kgのHW溶液を得た。このHW溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機 (第1種圧力容器、TYPE: RCS-4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の美白用液状栄養組成物50kgを製造した。
なお、この美白用液状栄養組成物には、100gあたり、HWが100mg含まれていた。
【0056】
〔実施例7〕
(美白用飲料の調製)
脱脂粉乳 300gを409gの脱イオン水に溶解した後、実施例1で得られたHW 1gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、酸味料 2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、本発明の美白用飲料10本(100ml入り)を調製した。
なお、この美白用飲料には、100mlあたりHWが100mg含まれていた。
【0057】
〔実施例8〕
(イヌ用美白飼料の調製)
実施例2で得られたHW200gを99.8kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで40分間撹拌混合してHW含量2g/100gのHW溶液を得た。このHW溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用美肌用飼料100kgを製造した。
なお、このイヌ用美白飼料には、100gあたりHWが20mg含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤。
(A)分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
(C)遊離アミノ酸含量20%以下
(D)抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下
【請求項2】
有効成分として含有するホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の美白剤。
【請求項3】
有効成分として含有するホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパクを熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の美白剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の美白剤を含むことを特徴とする美白用化粧品、美白用飲食品、美白用栄養組成物、美白用飼料又は美白用医薬品。

【公開番号】特開2008−255090(P2008−255090A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299516(P2007−299516)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】