説明

美白剤

【課題】安全性が高い、美白剤、メラニン生成抑制剤及びドーパオキシダーゼ活性抑制剤の提供。
【解決手段】下記式(I)で示される化合物又はその塩を有効成分とするドーパオキシダーゼ活性抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白剤、メラニン生成抑制剤又はドーパオキシダーゼ活性抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
美容上、色素沈着や、シミ、ソバカスの少ない白い肌が好まれる傾向にあることから、長期間使用しても安全性の高い美白作用を有する物質が望まれている。
この色素沈着やシミ、ソバカス等は、一般に皮膚の紫外線暴露による刺激やホルモンの異常又は遺伝的要素等によって皮膚内に存在する色素細胞(メラノサイト)が活性化されメラニン生成が亢進した結果生じるものと考えられている。このメラニン生成亢進のメカニズムは複雑であるが、メラニンは酵素チロシナーゼの作用により生合成され、チロシナーゼのドーパオキシダーゼ活性はメラニン生成のメカニズムに深く関与していることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
このメラニン生成のメカニズムを標的とした美白剤が開発されている。例えば、酵素チロシナーゼの活性を抑制してメラニン産生を抑制する作用を有する皮膚美白剤として、アスコルビン酸、アルブチン、コウジ酸等が報告されている(非特許文献2)。
さらに、ドーパオキシダーゼ活性を抑制し、美白作用を有する植物エキスも報告されている。例えば、トウセンダン(Melia toosendan Sieb. et Zucc.)、ソウカ(Amomum tsao-ka Crevost et Lemaire)、セネシオ グラシリス(Senecio gracilis)及びコクリロ(Veratrum nigrum L.)(特許文献1)、セイヨウトウキ(Angelica archangelica)、ハナミズキ(Benthamidia florida)、カンスイ(Euphorbia kansui Liou)、ヌルデ(Rhus chinensis Mill.)、オカゼリ(Cnidium monnieri(L.)Cuss.)、キンミズヒキ(Agrimonia pilosa Ledeb.)、ロウロ(Diuranthera minor(C.H.Wright)Hemsl.)及びセイヨウメギ(Berberis aristata)(特許文献2)、イヌカラマツ、タイワンコマツナギ及びチョウセンアサガオ(特許文献3)、ならびにザクロ(Punica granatum)花(特許文献4)が知られている。
しかしながら、より効果の高い皮膚美白剤の開発が求められている。
【0004】
ハグロソウ(Peristrophe japonica)は、キツネノマゴ科ハグロソウ属の植物である。ハグロソウ属を含むキツネノマゴ科植物を含有し得るメタボリックシンドロームの予防又は改善用組成物が知られている(特許文献5)。しかし、この植物が美白作用、メラニン生成抑制作用又はドーパオキシダーゼ活性抑制作用を有していることは知られていない。
【0005】
アリールナフタレンリグナン類は、Haplophyllum patavinumCleistanthus collinus等の植物から単離できることが知られている(非特許文献3、4)。アリールナフタレンリグナン類の生理活性としては、justicidin A、justicidin B、diphyllin、tuberculatinが、骨吸収活性、抗ウイルス活性、又は抗腫瘍活性を有すること(非特許文献5、6)、ならびにjusticidin A及びcleistanthin Aが抗腫瘍活性を有すること(非特許文献7〜8、特許文献6)等が知られている。しかし、これら及び他のアリールナフタレンリグナン類が美白作用やメラニン生成抑制作用を有することはこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−195732号公報
【特許文献2】特開2010−195731号公報
【特許文献3】特開2010−159221号公報
【特許文献4】特開2006−225286号公報
【特許文献5】特開2010−116371号公報
【特許文献6】特許第3099243号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Biochimica et Biophysica Acta, 1995, 1247:1-11
【非特許文献2】美白戦略(南江堂)IV.,美白剤の薬理と臨床,p95-116
【非特許文献3】Chem. Pharm. Bull., 2002, 50:844-846
【非特許文献4】Tetrahedron, 1969, 25:2815-2821
【非特許文献5】Phytochemistry, 1996, 42:713-717
【非特許文献6】Carcinogenesis, 2005, 26:1716-1730
【非特許文献7】Biochemistry, 1994, 33:9651-9660
【非特許文献8】International Journal of Research in Pharmaceutical Sciences, 2010, 1(3):333-337
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、ドーパオキシダーゼ活性を抑制することができ、化粧料や医薬等として有用な美白剤、メラニン生成抑制剤及びドーパオキシダーゼ活性抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、美白作用やメラニン生成抑制作用等を有する物質を探索したところ、ハグロソウにドーパオキシダーゼ活性抑制作用や美白作用があることを見出した。本発明者らはさらに、上記ハグロソウの美白作用の活性成分が特定の構造を有するアリールナフタレンリグナン類であること、ならびに当該アリールナフタレンリグナン類が、ドーパオキシダーゼ活性抑制作用を有し、メラニン過剰生成に伴う皮膚の褐色化やシミ・ソバカス等の予防、改善、治療等の効果を発揮する医薬、化粧料、皮膚外用剤及び美白用組成物等の素材として有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)下記式(I)
【0011】
【化1】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とするドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
(2)上記R1及びR2がいずれも炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表し、且つ上記R3及びR4が一緒になってメチレンジオキシ基を形成するか、あるいは該R1及びR2が一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、且つ該R3及びR4がいずれも炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表す、(1)記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
(3)上記R1〜R4における炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基がメトキシである、(2)記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
(4)上記R5が水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ、エトキシ、アセチルオキシ、(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシである、(1)〜(3)のいずれか1に記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
(5)下記式(I)
【0012】
【化2】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
(6)下記式(I)
【0013】
【化3】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とする美白剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のドーパオキシダーゼ活性抑制剤、メラニン生成抑制剤、又は美白剤を用いれば、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け等の色素沈着、シミ、ソバカスの予防、改善又は治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明化合物によるメラニン産生抑制。A:培養皮膚の写真、B:培養皮膚メラニン量。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0017】
本明細書において、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0018】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
【0019】
本発明のドーパオキシダーゼ活性抑制剤、メラニン生成抑制剤、及び美白剤は、下記式(I)で示されるアリールナフタレンリグナン類又はその塩を有効成分とする。
【0020】
【化4】

【0021】
式(I)中、R1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成する。R3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成する。ここで、R1及びR2と、R3及びR4とは、両方が同時にメチレンジオキシ基を形成してもよいが、好ましくは、R1及びR2と、R3及びR4とのいずれか一方のみがメチレンジオキシ基を形成する。
【0022】
好ましくは、R1及びR2がともに炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基であって、且つR3及びR4が一緒になってメチレンジオキシ基を形成するか、あるいはR1及びR2が一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、且つ前記R3及びR4がともに炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基である。より好ましくは、R1及びR2がともに炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基であって、且つR3及びR4が一緒になってメチレンジオキシ基を形成する。
【0023】
上記R1〜R4における炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、sec−ブトキシ及びiso−ブトキシが挙げられる。このうち、メトキシ及びエトキシが好ましく、メトキシがより好ましい。
【0024】
式(I)中、R5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は糖残基を表す。
炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、エトキシメチル、エトキシエチル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、ブトキシメチルが挙げられ、このうち、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。
炭素数1〜4のアシル基としては、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ及びブチリルオキシが挙げられ、このうち、アセチルオキシ及びプロピオニルオキシが好ましく、アセチルオキシがより好ましい。
糖残基としては、(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシが挙げられ、このうち(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシが好ましい。
【0025】
式(I)中、R6とR7はともに水素原子であり、且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表す。あるいは、R6とR7は一緒になって酸素原子を表し、R8とR9はともに水素原子である。好ましくは、R6とR7がともに水素原子であって、R8とR9は一緒になって酸素原子を表す。
【0026】
本発明化合物の好ましい例としては、以下が挙げられる。
ジャスチシジンA(4,6,7−トリメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ジャスチシジンB(6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ジャスチシジンC(4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−6,7,9−トリメトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
レトロジャスチシジンB(6,7−ジメトキシ−4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ジャスチシジンE(4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−6,7−メチレンジオキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ツベルクラチン((−)−4−[(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ]−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−6,7−ジメトキシ−1H−ナフト[2,3−c]フラン−3−オン)
ジフィリン(4−ヒドロキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ジフィリンアピオシド(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4−(D−アピオ−β−D−フラノシルオキシ)−6,7−ジメトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ハプロミルトシド(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−7−ヒドロキシ−6−メトキシ−4−(D−アピオ−β−D−フラノシルオキシ)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
ハプロミルチン(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,7−ジヒドロキシ−6−メトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
クレイスタンチンA(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4−[(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ]−6,7−ジメトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
クレイスタンチンB(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−6,7−ジメトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
クレイスタンチンD(4−(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシルオキシ)−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]フラン−1−オン)
ダウリノール(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−6−ヒドロキシ−7−メトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
イソダウリノール(9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−7−ヒドロキシ−6−メトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
コリヌシン((+)−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−3a,4−ジヒドロ−6,7−ジメトキシナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン)
タイワニンC(5−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)フロ[3',4':6,7]ナフト[2,3−d]−1,3−ジオキソール−6(8H)−オン)
タイワニンE(−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−9−ヒドロキシフロ[3',4':6,7]ナフト[2,3−d]−1,3−ジオキソール−6(8H)−オン)
フィランツスミンA(4,6−ジメトキシ−7−ヒドロキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]フラン−1−オン)
ジャスチシジンF(5−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−9−メトキシフロ[3',4':6,7]ナフト[2,3−d]−1,3−ジオキソール−6(8H)−オン)
4−エトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン
4−アセトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン
(3aR)−3a,4−ジヒドロ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン
(3aS)−3a,4−ジヒドロ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン
4−(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシルオキシ)−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン
【0027】
上記に挙げた化合物のうち、さらに好ましいものとしては、ジャスチシジンA、ジャスチシジンB、ツベルクラチン、ジフィリン、4−エトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン、4−アセトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン、ジャスチシジンFが挙げられる。
また、上記に挙げたジャスチシジン類の配糖体も本発明化合物の好ましい例として挙げられる。
【0028】
上記式(I)化合物は、公知の方法に従って合成してもよく、又は市販品を購入することもできる。合成方法としては、例えば、J.Org.Chem.,1996,61:3452−3457に記載の方法に準じて合成することができる。合成方法の一部の例を以下に示す。
【0029】
ジフィリンの合成
2-bromo-5,6-dimethoxybenzaldehydeとエチレングリコールとの反応から得られたアセタール化合物を、塩基性条件下で3,4-(methylenedioxy)benzaldehydeと反応させ、さらにDEADCと加温条件下で反応を行ない、最後にNaBH4による還元を行なうことで目的化合物を得ることができる。
ジャスチシジンBの合成
2-bromo-5,6-dimethoxybenzaldehydeとエチレングリコールの反応から得られたアセタール化合物を、塩基性条件下で3,4-(methylenedioxy)benzaldehydeと反応させ、無水マレイン酸と酸性条件下加熱し、最後にNaBH4による還元を行なうことで目的化合物を得ることができる。
ジャスチシジンAの合成
ジフィリンに対して塩基性条件下、ヨウ化メチルを作用させることで目的化合物得ることが出来る。
【0030】
または、Med.Chem.Res.,2010,19:71−76に記載の方法に従って、塩基性条件下でジフィリンにブロモアルカンを添加することによって、4−エトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オンを得ることができる。
または、第5版実験化学講座16第42頁に記載されているように、ジフィリンを出発物質として、ジフィリンの水酸基を一般的なアシル化方法によりアシル化することで4−アセトキシ−6,7−ジメトキシ−9−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)ナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オンを得ることができる。
【0031】
市販品としては、TimTec Inc.のカタログNo.ST077116、Pharmeks LTD.のカタログNo.P2000N−07371、P2000N−22338、P2000N−10719、ChromaDex Inc.のカタログNo.ABS−00020012−001、等が挙げられる。
【0032】
あるいは、上記式(I)化合物は、ハグロソウ(Peristrophe japonica)、キツネノマゴ(Justicia procumbens)、Haplophyllum patavinumCleistanthus Collinus等の植物から単離することもできる。
Haplophyllum patavinum、及びCleistanthus Collinusからの単離は、Chem.Pharm.Bull.,2002,50:844−846、及びTetrahedron,1969,25:2815−2821に記載の方法に従って行えばよく、これらの植物から単離される化合物としてジャスチシジンB、ジフィリン、クレイスタンチンAが挙げられる。
【0033】
ハグロソウ及びキツネノマゴから単離する場合は、これらの植物の抽出物をカラムクロマトグラフィー等により精製することで、式(I)化合物を得ることができる。これらの植物から単離される化合物としてジャスチシジンA、ジャスチシジンB、ツベルクラチンが挙げられる。
より具体的には、ハグロソウ又はキツネノマゴの任意の部位、好ましくはハグロソウの場合は全草、キツネノマゴの場合は全草を必要に応じて乾燥、粉砕したものを抽出にかけ、得られた抽出物を、必要に応じて濃縮及び夾雑物を除去し、カラムクロマトグラフィー精製する。
【0034】
上記抽出に使用する溶媒としては、極性有機溶媒、非極性有機溶媒等の有機溶媒が好ましい。当該有機溶剤としては、1価、2価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状又は環状のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;飽和又は不飽和の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ピリジン類;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他のオイル類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0035】
上記アルコール類としては、特に限定されないが、好ましい例としては、メタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられ、取り扱いが容易な点から、エタノール及び1,3−ブチレングリコールがより好ましい。
【0036】
上記飽和炭化水素類としては、直鎖、分岐鎖又は環状の飽和炭化水素が挙げられ、好ましい例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルプロパン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられ、取り扱いが容易な点から、n−ヘキサンが好ましい。
【0037】
上記抽出に使用する有機溶媒は含水のものでもよい。該含水有機溶媒に使用される有機溶媒としては、特に限定されないが、好ましい例としては上記アルコール類が挙げられ、エタノール及び1,3−ブチレングリコールがより好ましい。該含水有機溶媒中の有機溶媒の濃度は、少なくとも30容量%以上、より好ましくは50〜100容量%、さらに好ましくは75〜100容量%、なお好ましくは75〜99.9容量%である。
【0038】
上記抽出の手段としては、特に限定されないが、例えば、液液抽出、固液抽出、浸漬、浸出、煎出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、遠心抽出等が挙げられ、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このとき、バッチ式抽出器やソックスレー抽出器等を用いてもよい。また、抽出は、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、非酸化的雰囲気下で行ってもよい。
【0039】
抽出条件の一例として、植物1質量部(乾燥物換算)に対して、抽出溶媒として溶媒濃度50〜95容量%含有の1価若しくは2価のアルコール水溶液1〜50質量部を用いて、10〜40℃、好ましくは20〜40℃で、1時間〜30日間、好ましくは5〜20日間抽出する条件が挙げられる。
【0040】
上述のようにして得られたハグロソウ又はキツネノマゴ抽出物は、好ましくは、カラムクロマトグラフィーにかける前に、必要に応じて濃縮乾固された後、水洗や液液分配、固液抽出等にかけられる。これらの手段を用いると、抽出物から水溶性の夾雑物等を除去できるため有利である。
具体的には、ハグロソウ又はキツネノマゴの抽出物、好ましくは親水性有機溶剤抽出物に、水及び/又は疎水性有機溶媒等の溶媒を添加し、混合、撹拌、振とう、遠心分離等の物理的手段を行ったのち、活性成分が主として含まれる疎水性画分(層)の回収を行う。適宜この操作を1〜3回繰り返し行ってもよい。集めた疎水性画分は、次いでカラムクロマトグラフィーに供される。
【0041】
上記抽出物に添加する溶媒(以下、「添加溶媒」とする。)としては、水、疎水性有機溶媒又は水−疎水性有機溶媒混合液を用いればよいが、水−疎水性有機溶媒混合液を用いるのが、水洗と疎水性有機溶剤抽出とが同時に行え、作業効率がよいため有利である。疎水性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、上述した、飽和又は不飽和の炭化水素類;芳香族炭化水素類;ハロゲン化炭化水素類;鎖状若しくは環状のエーテル類又はポリエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;オイル等が挙げられ、このうち、n−ヘキサン、酢酸エチル等が好ましい。尚、これら各疎水性有機溶剤を単独で又は2種以上混合して使用することができる。
上記水−疎水性有機溶媒混合液中の水と疎水性有機溶媒との混合割合は、特に限定されないが、水(v):疎水性有機溶媒(v)=1:0.1〜1:10、より1:0.1〜1:5とするのが好ましい。
上記添加溶媒の使用量は、特に限定されないが、抽出液の乾固物1gに対して、10〜100mLであるのが好ましい。また、温度は、4〜80℃であるのが好ましく、10〜40℃、さらに10〜30℃であるのがより好ましい。
【0042】
添加溶媒による液液分配の一例として、濃縮して溶媒を除去した抽出物の水−酢酸エチル(1:1)溶媒による液液分配が挙げられる。得られた酢酸エチル層を以下に記載するカラムクロマトグラフィーに供すればよい。
【0043】
上記手順で得られたハグロソウ又はキツネノマゴ抽出物、又は必要に応じて上記添加溶媒によるさらなる抽出若しくは液液分配にかけられた抽出物は、シリカゲルカラム等によるカラムクロマトグラフィーにかけられる。
カラムクロマトグラフィーでは、例えば、ヘキサン−酢酸エチルで酢酸エチル比率0%から100%まで60分間でグラジエントをかけ、その後酢酸エチル−メタノールでメタノール比率0%から10%まで30分間でグラジエントかけた後、100%メタノールで30分間溶出を行ない、この際ヘキサン/酢酸エチル=1/9比率付近から100%MeOHで溶出されてくる画分を取得すればよい。それらの画分はMeOHに不溶であるものと可溶であるものに分離することができ、MeOHに不溶であるものは0.1%ギ酸水溶液‐アセトニトリルの2層系で逆相HPLCにかけられ、20分間の50%アセトニトリルによる溶出でおよそ10分から15分付近に溶出されてくる画分を取得すればよい。一方MeOH可溶であるものは、0.1%ギ酸水溶液‐アセトニトリルの2層系で逆相HPLCにかけられ、16分間の35%アセトニトリルによる溶出でおよそ12分から15分付近に溶出されてくる画分を取得すればよい。
必要に応じて、得られた画分のドーパオキシダーゼ活性を測定することによって、目的の式(I)化合物を含む画分であることを確認することができる。ドーパオキシダーゼ活性の測定方法は、例えば後述の実施例に記載されるような方法に準じて行えばよい。
【0044】
斯くして得られた式(I)化合物は、後記実施例に示すように、ドーパオキシダーゼ活性を強く抑制すると云う優れたドーパ−オキシダーゼ活性抑制作用を有し、且つ細胞毒性も低いことから、長期間使用しても安全性の高い美白作用を有している。ドーパオキシダーゼ活性はメラニン生成のメカニズムに深く関与する(非特許文献1)。後記実施例に示すように、式(I)化合物により、皮膚組織中のメラニン生成量を抑えることができる。
従って、式(I)化合物又はその塩により、ドーパオキシダーゼ活性を抑制する効果が得られるとともに、メラニン生成抑制効果、及び美白作用や紫外線被爆等による皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状を予防、改善又は治療する効果を得ることができる。
すなわち、式(I)化合物又はその塩は、ドーパ−オキシダーゼ活性抑制のため、メラニン生成抑制のため、美白のため、又は皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状を予防、改善、若しくは治療するために使用することができる。
これらの使用は、ヒト若しくは非ヒト動物、又はそれらに由来する組織、器官、細胞における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
【0045】
従って、本発明は、式(I)化合物又はその塩を有効成分とするドーパオキシダーゼ活性抑制剤を提供する。
また本発明は、式(I)化合物又はその塩を有効成分とするメラニン生成抑制剤を提供する。
また本発明は、式(I)化合物又はその塩を有効成分とする美白剤を提供する。
上記剤は、式(I)化合物又はその塩から本質的に構成されていてもよい。
【0046】
式(I)化合物又はその塩は、ドーパオキシダーゼ活性抑制のため、メラニン生成抑制のため、美白のため、皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状を予防、改善、若しくは治療するための組成物、医薬、医薬部外品、外用剤、化粧料、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料等に素材として配合することができ、あるいはそれらの製造のために使用することができる。当該組成物、医薬、医薬部外品、外用剤、化粧料、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料等もまた、本発明の範囲内である。
【0047】
上記組成物、医薬、医薬部外品、外用剤、化粧料、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料等は、ヒト又は非ヒト動物用として製造され、又は使用され得る。式(I)化合物又はその塩は、当該組成物、医薬、医薬部外品、外用剤、化粧料、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料等に配合され、ドーパオキシダーゼ活性抑制のため、メラニン生成抑制のため、美白のため、あるいは皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状を予防、改善、若しくは治療するための有効成分であり得る。
【0048】
上記医薬又は医薬部外品は、式(I)化合物又はその塩を有効成分として含有する。当該医薬又は医薬部外品は、任意の投与形態で投与され得る。投与は経口でも非経口でもよい。経口投与のための剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、ならびにエリキシロール、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与のための剤型としては、注射、輸液、局所、外用剤、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。
好ましくは、当該医薬又は医薬部外品は、皮膚外用剤の形態であり得る。
【0049】
上記医薬又は医薬部外品は、式(I)化合物又はその塩を単独で含有していてもよく、又は薬学的に許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、香料、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該医薬や医薬部外品は、式(I)化合物又はその塩のドーパオキシダーゼ活性抑制作用が失われない限り、他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。
【0050】
上記化粧料は、式(I)化合物又はその塩を有効成分として含有する。当該化粧料は、式(I)化合物又はその塩を単独で含有していてもよく、又は化粧料として許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、香料、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。
また、当該化粧料は、式(I)化合物又はその塩のドーパオキシダーゼ活性抑制作用作用が失われない限り、他の有効成分や化粧成分、例えば、保湿剤、美白剤、紫外線保護剤、細胞賦活剤、洗浄剤、角質溶解剤、メークアップ成分(例えば、化粧下地、ファンデーション、おしろい、パウダー、チーク、口紅、アイメーク、アイブロウ、マスカラ、その他)等を含有していてもよい。
化粧料とする場合の形態としては、クリーム、乳液、ローション、懸濁液、ジェル、パウダー、パック、シート、パッチ、スティック、ケーキ等、化粧料に使用され得る任意の形態が挙げられる。好ましくは、上記化粧料は美白用化粧料である。
【0051】
上記医薬、医薬部外品又は化粧料は、式(I)化合物又はその塩から、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や、化粧成分、薬理成分を組みあわせて、常法により製造することができる。
例えば、上述した皮膚外用剤である医薬若しくは医薬部外品又は皮膚外用化粧料は、式(I)化合物又はその塩を、単独で、又は外用剤、外用医薬品、医薬部外品若しくは皮膚化粧料に通常配合される添加剤と組み合わせることにより調製することができる。当該添加剤としては、油又は油状物質(油脂類、ロウ類、高級脂肪酸類、精油類、シリコーン油類等)、保湿剤(グリセロール、ソルビトール、ゼラチン、ポリエチレングリコール等)、粉体(チョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム等)、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、防菌防黴剤、他の植物抽出物(生薬、漢方薬、ハーブ類)、アルコール類、多価アルコール類、無機酸(重炭酸塩、炭酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等)、有機酸(コハク酸、グルタル酸、フマル酸、グルタミン酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸等)、ビタミン類(ビタミンA類、ビタミンE類、ビタミンB類、ビタミンC、葉酸等)、水溶性高分子、アニオン性界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等)、カチオン性界面活性剤(アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)、両性界面活性剤(アルキル基を有するイミダゾリン系、カルボベタイン系等)等が挙げられる。
【0052】
当該医薬、医薬部外品又は化粧料における式(I)化合物又はその塩の含有量は、式(I)化合物として、1.0×10-10〜0.01質量%が好ましく、1.0×10-8〜0.005質量%がより好ましい。
【0053】
上記飲食品や飼料は、ドーパオキシダーゼ活性抑制、メラニン生成抑制、美白、又は皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状の予防、改善若しくは治療等の機能を得ることを企図し、当該機能を必要に応じて表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、ペットフード等であり得る。
【0054】
上記飲食品の種類は特に限定されない。飲料としては、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、コーヒー飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等、あらゆる飲料が挙げられる。食品の形態は、固形、半固形、液状等の任意の形態であってもよく、また錠剤形態、丸剤形態、タブレット、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。例えば、食品としては、パン類、麺類、パスタ、ゼリー状食品、各種スナック類、ケーキ類、菓子類、アイスクリーム類、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、その他加工食品、調味料、サプリメント等が挙げられる。上記飼料の種類も特に限定されず、任意の動物のための飼料であってよく、その形態も上記食品の場合と同様に任意の形態であり得る。
【0055】
上記飲食品、飼料、又はそれらの原料は、式(I)化合物又はその塩を単独で含有していてもよく、又は他の食材や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等の添加剤を組み合わせて含有していてもよい。当該飲食品若しくは飼料中の式(I)化合物又はその塩の含有量は、式(I)化合物として、1.0×10-10〜0.01質量%が好ましく、1.0×10-9〜0.001質量%がより好ましく、1.0×10-8〜1.0×10-4質量%がさらに好ましい。
【0056】
また本発明は、細胞のドーパオキシダーゼ活性を抑制する方法を提供する。当該方法は、チロシナーゼ発現能を有し且つドーパオキシダーゼ活性を抑制したい細胞に、式(I)化合物又はその塩を添加する工程を含む。
また本発明は、細胞のメラニン生成を抑制する方法を提供する。当該方法は、メラニン生成能を有し且つメラニン生成を抑制したい細胞に、式(I)化合物又はその塩を添加する工程を含む。
【0057】
また本発明において、式(I)化合物又はその塩は、ドーパオキシダーゼ活性抑制のため、メラニン生成抑制のため、美白のため、あるいは皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状を予防、改善、若しくは治療するために、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取され得る。当該投与又は摂取は、健康増進又は美容目的により非治療的に行われてもよい。
投与又は摂取の対象としては、ドーパオキシダーゼ活性の抑制を必要とする動物が挙げられる。あるいは、投与又は摂取の対象としては、メラニン生成抑制や美白を所望する動物、又は皮膚の色素沈着、シミ、ソバカス等の症状の予防、改善、若しくは治療することを所望する動物が挙げられる。動物は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0058】
好ましい投与又は摂取量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与又は摂取の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得る。例えば、ヒトの皮膚に局所投与する場合、式(I)化合物又はその塩の投与量は、成人(60kg)1人当たり、式(I)化合物として1.0×10-7〜0.1mg/日とすることが好ましく、1.0×10-6〜0.001mg/日がより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
製造例1 式(I)化合物の調製
ハグロソウ500gを50%エタノール(5L)で抽出し、溶媒を濃縮して、抽出固形分44gを得た。得られた抽出固形分を、水と酢酸エチルを用いて液液分配を行い、酢酸エチル層4.7g(収率11%)を得た。後述する実施例1と同様の手順で水層及び酢酸エチル層のドーパオキシダーゼ活性を測定し、活性が酢酸エチル層に集約されていることを確認した。
酢酸エチル層をさらにシリカゲルカラムにより分画した。シリカゲルカラムとしてHi−Flushカラム(4L、山善製)を用いた。まずヘキサン100%で10分間流した後、ヘキサン−酢酸エチルで酢酸エチル比率0%から100%まで60分間グラジエントをかけ、その後酢酸エチル−メタノールでメタノール比率0%から10%まで30分間でグラジエントをかけた後、最後に100%メタノールで30分間溶出した。流速30mL/minで流して2分ごとに分画を行なった後、各フラクションのTLC分析より、Rf値の近いものをそれぞれまとめることで7画分を得た。上記の手順で各画分のドーパオキシダーゼ活性を測定し、画分(4)(0.8g、収率1.8%)と画分(7)(1.91g、収率4.3%)の2画分に活性が集約していることを確認した。画分(4)に関しては、さらにMeOH添加による沈殿物にドーパオキシダーゼ活性が集約していることを確認した。
【0061】
この沈殿物をHPLCで分画した。カラムはInertsil ODS−3(14×250mm、ジーエルサイエンス社製)を用い、流速15mL/min、検出波長254nm、0.1%ギ酸水溶液−アセトニトリルで、アセトニトリル比率50%で20分間溶出したところ、主な2つのピークが得られた。各ピークを分取し画分(8)、画分(9)とした。画分(8)(48mg、収率0.38%)および画分(9)(58mg、収率0.46%)の両方にドーパオキシダーゼ活性があることを確認した。
一方、画分(7)に関しては、この内470mgを用いてさらにHPLCによる分画を行なった。カラムはInertsil ODS−3(10×250mm、ジーエルサイエンス社製)を用い、流速7.5mL/min、検出波長254nm、0.1%ギ酸水溶液−アセトニトリルで、アセトニトリル比率35%で20分間溶出した。ピークに応じて分画し、画分(10)、画分(11)、画分(12)を得たが、画分(11)(14.1mg、収率0.13%)にドーパオキシダーゼ活性があることを確認した。
【0062】
上記画分(8)、画分(9)、画分(11)についてそれぞれNMR構造解析を行ったところ、下記表1〜3に示すとおり、画分(8)はジャスチシジンB、画分(9)はジャスチシジンA、画分(11)はツベルクラチンであると同定された。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
実施例1 式(I)化合物によるドーパオキシダーゼ活性抑制
正常ヒト新生児表皮由来メラノサイト(NHEMs;クラボウ社)を96ウェルプレートに1×104細胞/ウェル(100μL/ウェル)の細胞密度で播種し、37℃、5%CO2下にて培養した。培地には、PMA(−)の増殖用添加剤(HMGS)を含むMedium 254を用いた。
3日間培養した後、それぞれ培地中終濃度で1nMになるように調整したEndothelin−1(ET−1)、SCF、α−MSH、Histamine、PGE2とともに、表4に記載の各化合物を同表に記載の終濃度となるように培地に添加し、37℃、5%CO2の条件下で3日間培養を行った。コントロールとしては、同量のDMSO溶液を添加した。
培養終了後、アラマーブルー(インビトロジェン社)試薬を20μL/ウェルで添加し、2〜3時間インキュベートした後、培地の蛍光強度を測定して細胞呼吸活性を測定した。その後、細胞をPBSで洗浄し、抽出バッファー(0.1M Tris−HCL(pH7.2)、1% NP−40、0.01%SDS、100μM PMSF、1μg/mアプロチニン)を20μL/ウェル、Assay Buffer(4%ジメチルホルムアミド、100mM Sodium phosphate−buffered(pH7.1))を20μL/ウェル添加し、4℃、3時間で細胞を可溶化し、ドーパオキシダーゼ活性の測定を行った。ドーパオキシダーゼ活性測定は、MBTH法(Winder A. et al., Eur.J. Biochem., 1991, 198:317-326)を参考に、以下の方法で行った。
可溶化した細胞溶液の各ウェルに、上記Assay Bufferを80μL、20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン)溶液を60μL、基質として5mM L−ドーパ(L−ジヒドロキシフェニルアラニン)溶液を40μL、それぞれ加え、37℃で30〜60分反応させた後、その呈色反応を490nmの吸光度で測定した(N=3)。測定値をコントロールの結果に対する相対値として表した。
【0067】
結果を表4に示す。式(I)化合物によってドーパオキシダーゼ活性がエキス添加濃度依存的に抑制された。また、アラマーブルー法による細胞呼吸活性の測定から、表4に示す濃度の化合物添加が細胞増殖に影響を及ぼさないことを確認した。
【0068】
【表4】

【0069】
実施例2 式(I)化合物によるメラニン産生抑制
ET−1とSCFを終濃度10nMで添加したEPI−100−NMM113培地を用いて、三次元培養皮膚モデル(MEL300A)を37℃、5%CO2条件下にて培養した。培養初日より、各化合物の100%DMSO溶液を、終濃度が0.5μMになるように添加した。コントロールとしては、同量のDMSO溶液を添加した。培地交換は3日に一度行った。14日後に、アラマーブルー試薬を用いて細胞呼吸活性を測定した。続いて三次元培養皮膚を培養支持体であるカップごとPBSで洗浄し、ピンセットで皮膚シートを剥離してチューブに移し、さらにPBSで3回洗浄した。50%エタノールで3回、100%エタノールで2回洗浄した後、室温で一晩放置して完全に乾燥させた。最終的に2M NaOHを200μL加えた後で100℃にて溶解させ、遠心分離によって得られた上清について405nmの測定波長で吸光度を測定し、メラニン量を算出した。測定値をコントロールの結果に対する相対値として表した。
【0070】
14日培養後の三次元培養皮膚モデルの写真及びメラニン量測定結果を図1に示す。式(I)化合物添加により、細胞の黒化抑制効果が視覚的に認められ(図1A)、細胞のメラニン量が60%以上減少した(図1B)。また、アラマーブルー法による細胞呼吸活性測定の結果、この濃度の抽出物が細胞毒性を示さないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とするドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
【請求項2】
前記R1及びR2がいずれも炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表し、且つ前記R3及びR4が一緒になってメチレンジオキシ基を形成するか、あるいは該R1及びR2が一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、且つ該R3及びR4がいずれも炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表す、請求項1記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
【請求項3】
前記R1〜R4における炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基がメトキシである、請求項2記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
【請求項4】
前記R5が水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ、エトキシ、アセチルオキシ、(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシである、請求項1〜3のいずれか1項記載のドーパオキシダーゼ活性抑制剤。
【請求項5】
下記式(I)
【化2】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【請求項6】
下記式(I)
【化3】

〔式中、
1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR1及びR2は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
3及びR4は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表すか、あるいはR3及びR4は、一緒になってメチレンジオキシ基を形成し、
5は水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシル基、又は(D−アピオ−β−D−フラノシル)オキシ、(β-D−グルコピラノシル)オキシ、(3−O,4−O−ジメチル−D−キシロピラノシル)オキシ、(2−O,3−O,4−O−トリメチル−β−D−キシロピラノシル)オキシ、(3−O−メチル−β−D−グルコピラノシル)オキシから選択される糖残基を表し、
6とR7は水素原子であり且つR8とR9は一緒になって酸素原子を表すか、又はR8とR9は水素原子であり、且つR6とR7は一緒になって酸素原子を表す。〕
で示される化合物又はその塩を有効成分とする美白剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53077(P2013−53077A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190517(P2011−190517)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】