説明

美白化粧料

【課題】 今までに検討されていない新たな作用機序に基づく、安全であり、且つ効果的な、新規な美白化粧料を提供すること。
【解決手段】 ヒートショックプロテイン70(HSP70)発現誘導剤からなることを特徴とするメラニン産生抑制作用剤であり、HSP70発現誘導剤によるHSP70の発現誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とするメラニン産生抑制作用剤であり、さらにそれを含有する皮膚外用剤、及び美白化粧料であり、そのようなHSP70)発現誘導剤が、ショウガ科、キク科植物又はシソ科植物から選択される植物抽出物及びテプレノンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しみの原因であるメラニン合成の抑制効果を持つ、熱ショックタンパク質発現誘導剤を使用した、特異的美白作用を有する美白化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織あるいは固体においては、一般的な生理的温度より3℃以上高い温度に晒されたときに、生体の防御システムの一つとして、特異的タンパク質の発現(産生)が誘導されることが知られている。
このタンパク質は、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によって測定した場合、分子量範囲10〜110KDaを有する一群のタンパク質として存在しており、熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン:heat shock proteins、以下、「HSP」と称する場合もある)と呼ばれる。
【0003】
HSPは、その分子量の相違により幾つかのファミリーが形成されており、例えば、HSP90ファミリー(分子量:90kDa以上110kDa以下)、HSP70ファミリー(分子量:70kDa以上80kDa未満)、HSP60ファミリー(分子量:60kDa以上70kDa未満)、及び低分子量HSPファミリー(分子量:60kDa未満)のように分類されている。
【0004】
HSPの機能は多岐にわたっており、例えば、HSP70及びHSP60ファミリーは、変性タンパク質に結合して、天然のフォールディング(高次構造・折り畳み構造)に巻き戻す作用や、第三のタンパク質や核酸との会合、細胞内での局在化や膜透過への関与など、いわゆる分子シャペロンと呼ばれる機能を担っていることが明らかにされている(非特許文献1及び2)。
なお、分子シャペロンとは、ポリペプチド鎖の合成に引き続くフォールディングや酵素の不可逆的な熱変性の抑制に関与している一連の蛋白質をさす。
【0005】
このHSP発現の誘導(産生)を利用した療法の一つとして、癌温熱免疫療法がある。すなわち、全身を加温することによりHSPの生成を誘導し、全身の免疫機能を活発にするのと同時に、がん細胞と正常細胞の識別能力を向上させ、副作用無く、癌細胞のみを死滅させる治療法である。
【0006】
ところで、このHSPは、高温ばかりではなく、外的傷害、放射線、紫外線などの外界からのストレスに晒された場合にも、生体防御システムとして、その発現(産生)が誘導される。
すなわち、高温、紫外線などの生体に対するストレスは、細胞のタンパク質を変性させ、不溶性沈殿を形成して細胞にダメージを与える。したがって、かかる細胞へのダメージを防御する目的で、HSPの生成が誘導されることとなる。
【0007】
かかる観点から、水生プランクトンであるアルテミアの孵化直前の耐久卵から水抽出した活性エキス(アルテミアエキス)成分が、ヒト皮膚細胞においてHSP70の産生を誘発することが見出され、かかる作用を利用した抗皮膚ストレス(ストレス防御)用化粧料が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、アルテミアエキスは、化粧料への配合条件として40℃以下での配合が望ましく、また、タンパク分解酵素との配合禁忌があるなど、その使用に種々の制約を受けている。
【0008】
人の皮膚は、紫外線を吸収すると、身体を紫外線から守るために、皮膚基底層にあるメラノサイトにおいてチロシナーゼという酵素が紫外線を浴びて活発化され、メラニンが生成される。すなわち、メラニンは、皮膚に日光が当たることで生成される色素であり、紫外線を吸収したり散乱したりするため、強い紫外線から細胞や皮膚を守る働きを有している。
その一方で、皮膚のシミの発生は、このメラニン色素の部分的な異常増加が原因であると考えられている。
【0009】
したがって、皮膚のシミ等の発生を予防する美白作用を発揮させるためには、紫外線による皮膚ストレスを防御するべく、HSPの発現を効果的に誘導させてやればよいが、これまでかかる考え方に立脚した美白化粧品は登場してきていない。
なお、HSP誘導を発現させる生薬抽出物を含有するヒートショックタンパク質誘導剤が提案されているが、美白化粧への応用は一切記載されていない(特許文献2)。
【非特許文献1】Hendrick, J. P. & Hartl, F. -U., Ann. Rev. Biochem., 62, 349-384 (1993)
【非特許文献2】Georgopoulos, C. & Welch. W. J., Ann. Rev. Cell Biol., 9, 601-634 (1993)
【特許文献1】特開平2004−238297号公報
【特許文献2】特開2008−127296号公報
【0010】
本発明者は、HSPが発揮する生体防御機能に着目し、その作用を種々検討した結果、HSPのなかでも、HSP70ファミリー(SDS−PAGEによる測定で、分子量:70kDa以上80kDa未満)が、シミの発生原因とされているメラニン色素の産生を効果的に抑制し、その結果、皮膚美白作用があることを新規に見出した。
したがって、HSP70を効果的に発現誘導する物質を含有する化粧料は、優れた美白作用を発揮する化粧料となり得ることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明は、今までに検討されていない新たな作用機序に基づく、安全であり、且つ効果的な、新規な美白化粧料を提供することを課題とする。
かかる課題を解決するために検討した結果、先に提案されている植物抽出成分、さらに特異的な医薬成分に極めて強いヒートショックタンパク質誘導作用があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかして本発明は、その基本的な一つの態様は、ヒートショックプロテイン70(HSP70)発現誘導剤からなることを特徴とするメラニン産生抑制作用剤である。
【0013】
具体的には、本発明は、HSP70発現誘導剤によるHSP70の発現誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とするメラニン産生抑制作用剤である。
【0014】
より具体的には、本発明は、HSP70の生成を、HSP70発現誘導剤により行うものであり、そのようなHSP70発現誘導剤が、ショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される少なくとも1種の植物抽出物、又はテプレノンであるメラニン産生抑制作用剤である。
【0015】
更に詳細には、ショウガ科植物がアモムム属又はハナミョウガ属に属する植物であり、キク科植物がヒヨドリバナ属又はオグルマ属に属する植物であり、シソ科植物がタツナミソウ属に属する植物であり、また、アモムム属に属する植物がヨウシュンシャ(陽春砂)又はシュクシャ(縮砂)であり、ハナミョウガ属に属する植物がナンキョウソウであり、ヒヨドリバナ属に属する植物がサワヒヨドリであり、オグルマ属に属する植物がオグルマ又はホソバオグルマであり、タツナミソウ属に属する植物がコガネバナ(オウゴン)であるメラニン産生抑制作用剤である。
【0016】
さらに本発明は、これらのメラニン産生抑制作用剤を含有する皮膚外用剤であり、より具体的には、ロージョン剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤或いは貼付剤等の剤型にある皮膚外用剤である。
【0017】
また本発明は、別の態様として、HSP70発現誘導剤を配合したことを特徴とする美白化粧料である。
【0018】
すなわち、より詳細には、本発明は、HSP70発現誘導剤によるHSP70の発現誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とする美白化粧料である。
【0019】
具体的には、HSP70発現誘導剤が、ショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される少なくとも1種の植物抽出物、又はテプレノンであるメラニン産生を抑制することを特徴とする美白化粧料である。
【0020】
更に詳細には、ショウガ科植物がアモムム属又はハナミョウガ属に属する植物であり、キク科植物がヒヨドリバナ属又はオグルマ属に属する植物であり、シソ科植物がタツナミソウ属に属する植物であり、また、アモムム属に属する植物がヨウシュンシャ(陽春砂)又はシュクシャ(縮砂)であり、ハナミョウガ属に属する植物がナンキョウソウであり、ヒヨドリバナ属に属する植物がサワヒヨドリであり、オグルマ属に属する植物がオグルマ又はホソバオグルマであり、タツナミソウ属に属する植物がコガネバナ(オウゴン)であるメラニン産生を抑制することを特徴とする美白化粧料である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、新規な作用機序に基づく、効果的なメラニン産生抑制作用剤、並びに美白化粧料が提供される。
本発明が提供するメラニン産生抑制作用剤並びに美白化粧料は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生に関与するチロシナーゼや小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制するものであり、その結果、シミの予防・改善作用のある有用な美白化粧料を提供することができる。
【0022】
特に本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処する、これまで何等検討されていなかった新たな作用機序に基づく美白化粧料を提供する点で、極めて特異的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、上記したように、その基本は、HSP70の発現の誘導によるメラニン産生抑制作用剤であり、具体的には、HSP70発現誘導によるHSP70の生成により、チロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とするメラニン産生抑制作用剤、並びに美白化粧料である。
【0024】
本発明者は、ヒートショックプロテイン(HSP)のなかでも、HSP70には、今までに無い新しいタイプのメラニン産生抑制作用を持つ点に着目した。
すなわち、HSP70は、メラニン産生に関与するチロシナーゼやMITFの働きを抑制するものであり、その結果、メラニンの産生が抑制されることを見出した。
特に、MITFは、メラニン産生に必須であるチロシナーゼ、TRP−1及び2(チロシナーゼ関連タンパク−1及び2)の発現を制御する転写因子であり、このMITFの制御は、メラニン産生をコントロールすることとなり、その結果、美白作用が効果的に発現される。
【0025】
本発明は、このHSP70の産生を、HSP70発現誘導剤により行うメラニン産生抑制剤、並びに美白化粧料であるが、そのようなHSP70発現誘導剤としては、ショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される少なくとも1種の植物抽出物、又はテプレノンを挙げることができる。
【0026】
ショウガ科植物としてはアモムム属又はハナミョウガ属に属する植物が好ましく、キク科植物としてはヒヨドリバナ属又はオグルマ属に属する植物が好ましく、シソ科植物としてはタツナミソウ属に属する植物が好ましく使用される。
具体的には、アモムム属に属する植物としてはヨウシュンシャ(陽春砂:Amomum viilosum Lour.)又はシュクシャ(縮砂:Amomum xanthioides Wall.)であり、ハナミョウガ属に属する植物としてはナンキョウソウ(Alpinia galanga (L.) Swartz)を挙げることができる。
【0027】
また、ヒヨドリバナ属に属する植物としては、好ましくは、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanu DC.)であり、オグルマ属に属する植物としては、オグルマ(Inula Japonica Thunb.)又はホソバオグルマ(Inula Linariaefolia Turcz.)を好ましく挙げることができ、タツナミソウ属に属する植物としてはコガネバナ(Scutellaria baicalensis、オウゴン)を好ましく挙げることができる。
【0028】
また、抗潰瘍薬である医薬品テプレノンにもHSP70発現誘導作用があることが判明した。
【0029】
一方、本発明におけるショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される植物抽出物の調製は、植物の抽出分画を得る一般的な方法を採用することができ、その抽出方法は特に限定されない。また、抽出に際して植物はそのまま粉砕して用いてもよく、また、乾燥品を粉砕して用いることができる。抽出に使用する抽出溶媒は、一概に限定できないが、水、或いは適当な有機溶媒を用いて抽出することができる。
抽出した抽出液は、そのまま使用してもよく、また効果を高めるために濃縮して用いることもでき、更に得られた濃縮液を凍結乾燥し、粉末状のものを使用することもできる。
なお、これらの成分は、1種のみ、或いは複数種混合して用いることもできる。
【0030】
本発明は、かかるHSP70発現誘導剤からなるメラニン産生抑制剤であるが、当該メラニン産生抑制剤は、それを含有する皮膚外用剤として提供することができる。
そのような皮膚用外用剤としては、ロージョン剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、粉末剤、顆粒剤或いは貼付剤等の剤型を挙げることができる。
【0031】
上記皮膚外用剤においては、必要に応じて薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物を添加することができる。
そのような添加物として、例えば、賦形剤、崩壊剤または崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基材、溶解剤または溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、粘着剤、湿潤剤など、一般的に皮膚外用剤の調製に使用されるものを挙げることができる。
【0032】
また、本発明における化粧料としては、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液剤、油性、固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー、チークカラー等のメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等の身体用化粧料等を挙げることができる。
【0033】
本発明が提供する皮膚外用剤或いは美白化粧料においては、含有するHSP70発現誘導剤をそのまま、或いは、有機又は無機の担体と共に使用することができる。
そのような担体としては、乳糖、でんぷん等の賦形剤、植物性或いは動物性の脂肪や油脂を例示することができる。
この場合において、HSP70発現誘導剤は、そのHSP70発現誘導剤の種類により一概に限定できないが、担体に対する重量比率で、0.01〜100重量%の範囲で組み合わせ使用することができる。
【0034】
本発明が提供する美白化粧料におけるHSP70発現誘導剤の配合量は、シミの予防・改善の目的、用いる人の性別、体重、年齢、剤型、シミの種類や程度、使用部位、使用回数などの種々の条件により一概に限定できない。
例えば、皮膚に塗布する場合には、0.1μg〜10mg(活性成分乾燥重量)/kg/日で、一日1回から数回に分けて適用することができるが、使用量はこの範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を、HSP70の発現の誘導、それによるメラニン産生抑制等の作用を説明しながら、より詳細に説明していく。
【0036】
なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1:細胞培養法におけるHSP70の効果の確認
<細胞培養法及びHSP過剰発現株の作成>
マウスメラノーマ由来のB16細胞(理研バイオリソースセンター)は、DMEM培地(10%の牛胎児血清、100U/mLのペニシリン、100U/mLのストレプトマイシン)で、37℃/5%CO雰囲気下で培養した。
HSP70安定発現株は、次の方法で作成した。
リポフェクタミン(TM2000:Invitrogen社)を用いて、pcDNA3.1-human HSP70、又は pcDNA3.1をB16細胞に導入したのち、200μg/mL G418(Sigma社)を用いて安定発現株を選択した。
その発現を、イムノブロット法により調べ、HSP70安定発現株を得た。
【0038】
<薬剤添加法、及び熱ショック処理法>
3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX:Sigma社)はDMSOに溶解した。
IBMXをDNEM培地で 100μMに希釈した後、培地交換を行い、37℃/5%CO雰囲気下で各時間培養した。
熱ショック(ヒートショック)処理は、B16細胞を43℃/5%CO雰囲気下で1時間の条件で行い、さらに37℃/5%CO雰囲気下で6時間培養したのち、実験に用いた。
【0039】
<イムノブロット法>
ヒートショックを1時間行い、更に6時間培養した後、またはIBMX 100μM存在下、48時間培養した後、細胞を遠心して回収し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:137mM NaCl, 2.7mM KCl, 1.5mM KH2PO4, 4.3mM NaHPO4)で洗った後、RIPA buffer [50mM Tris-HCl (pH 7.2), 150mM NaCl, 1% NP-40, 1% Sodium, deoxycolate, 0.05% SDS]に溶解し、遠心後の上清を全細胞抽出液として実験に用いた。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kit (bradford法)(Bio Rad社)により求め、同量の蛋白質量に揃えた後、実験に使用した。
サンプルはポリアクリルアミドを用いてSDS−PAGEを行い、PVDF膜にトランスファーした。その後、1次抗体 (against HSP70、HSP25、HSP47、HSP90 (Stressgen社)、 1:1000 dilution、against actin、Tyrosinase (Santa Cruz Biothechnology社)、 1:1000 dilution)、及び2次抗体で免疫ブロットし、SuperSignal WestDura(化学発光法:Pierce社)により目的のバンドをLAS-3000 miniを用いて検出した。
【0040】
<メラニン定量法>
IBMX 100μM存在下、72時間培養した後、細胞を遠心して回収しPBSで洗った後、1N NaOHに溶解し、100℃/30分加熱した。遠心後の上清を全細胞抽出液として実験に用いた。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kitにより求め、同量の蛋白質量に揃えた後、490nmの吸光度を、プレートリーダー(Fluostar Galaxy社)により測定した。
【0041】
<Real time RT-PCR法>
IBMX 100μM存在下、12時間[Microphthalmia transcription factor (MITF)]、または48時間(Tyrosinase)培養した後、RNeasy kitを用いて細胞から全RNAを抽出した。
RNA 2.5μgを、first-strand cDNA synthesis kitを用いて逆転写し、cDNAを合成した。合成したcDNAは、iQ SYBR GREEN Supermixを用いてreal-time RT-PCRに利用し、Opticon Monitor Softwareを用いて解析した。PCR反応は、50℃で2分、90℃で10分の後に、95℃で30秒、63℃で60秒のサイクルを、45サイクルという条件で行った。
特異性は、反応生成物をテンプレート(−)及び逆転写(−)のコントロールと一緒にアガロースゲル電気泳動を行って確認した。それぞれの反応において、GAPDH遺伝子を内部標準として用いた。
【0042】
プライマーは、Primer3 Web site(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_ www.cgi)により設計した。プライマーの配列を以下に記載する。
【0043】
Tyrosinase 5'-ctcctggcagatcatttgt-3' 5'-ggttttggctttgtcatggt-3'
MITF 5'-ctagagcgcatggactttcc-3' 5'-acaagttcctggctgcagtt-3'
GAPDH 5'-aactttggcattgtggaagg-3' 5'-acacattgggggtaggaaca-3'
【0044】
<統計学的的解析>
すべての値は、平均値±標準偏差[standard deviation (SD)]で示している。
有意差検定は、Tukey's testを用いた。pの値が0.05未満になったとき有意な差があると判定した。
【0045】
<結果>
その結果を、図1〜図4に示した。
【0046】
図1中のAは、B16細胞のヒートショックによるHSP70の発現誘導を示した結果であり、図1中のBは、ヒートショックのIBMXによるメラニン産生誘導に対する効果を示した結果である。
図1に示した結果から判明するように、ヒートショックによりHSP70が発現誘導されており、ヒートショックのIBMXによるメラニンの産生誘導の抑制に関与している可能性が示された。
【0047】
図2は、ヒートショックによる種々のHSPの発現誘導を示した結果であるが、ヒートショックにより、HSP70だけでなく、HSP25等も発現誘導されているのが判明する。
【0048】
図3中のAは、HSP70過剰発現株におけるHSP70の誘導を示した結果であり、図3中のBは、HSP70過剰発現株におけるIBMXによるメラニン誘導に対する効果を示した結果である。
以上の図1〜図3に示した結果から、HSP70過剰発現株においても同様にIBMXによるメラニンの発現誘導の抑制が見られ、特に図3の結果からは、HSP70が単独でもIBMXによるメラニンの発現誘導の抑制に関与している可能性が示された。
【0049】
図4は、HSP70過剰発現株におけるIBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼや、メラニン産生の転写因子であるMITF(MITFのmRNA)の発現誘導を示した結果である。
図4中のAは、チロシナーゼのタンパク質の発現結果を、Bは、チロシナーゼのmRNA発現誘導に対する効果を、またCはMITFのmRNA発現誘導に対する効果を示したものである。
図中に示した結果より、IBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼやメラニン産生の転写因子であるMITFの発現誘導に、HSP70が抑制的に関与している可能性が示された。すなわち、HSP70は、チロシナーゼやMITFの産生を抑制することでメラニンの産生を抑制していることが示された。
【0050】
以上の実施例1の結果から、HSP70の合成誘導は、メラニンの産生を抑制していることが確認された。
そこで、本発明のHSP70合成誘導剤が、HSP70の合成を誘導するか否かを検討した。以下にその点を記載していく。
【0051】
実施例2:植物抽出物の調製
本発明においては、HSP70発現誘導剤である植物抽出物を以下のようにして調製した。
用いた植物としては、以下の植物を用いた。
植物A:オグルマ、ホソバオグルマの頭花(販売名:セングクカ(施履花)、栄進商事)
植物B:サワヒヨドリの全草(販売名:ヤバツイ(野馬追)、栄進商事)
植物C:ナンキョウソウの果実(販売名:コウズク、栄進商事)
植物D:ヨウシュンシャの果殻(販売名:シャジンカク(砂仁殻)、栄進商事)
【0052】
上記植物からの抽出は、以下のようにして行った。
植物は、生のものはそのまま粉砕した後、凍結乾燥し、ミキサーにて更に粉砕して用いた。乾燥品は、水に戻した後ミキサーにより粉砕し、凍結乾燥した後も用いた。
得られた凍結乾燥した粉砕物にエタノールを加え、3時間抽出し、濾過して濾液を得た後、乾燥状態になるまで濃縮し、植物抽出物として使用した。
【0053】
実施例3:HSP70発現の発現の確認
培養液を満たした培養皿に、ヒト線維芽細胞株(NBIRGB:理化学研究所、バイオリソースセンター)を1×10個/mLの細胞懸濁となるように播種し、5%炭酸ガス雰囲気下に37℃にて24時間培養を行った。
この培養液に、上記実施例3で得た植物A〜Dの抽出物、並びにテプレノンを、濃度0.2mg/mLで添加し、更に同条件下にて5時間培養を行った。
培養終了後、上清の培地を除き、細胞を培地液で洗浄後、トリプシンで細胞を培養皿から剥離し、回収した。
回収した細胞を緩衝液(RIPA緩衝液:50mM Tris-HCl(pH7.2)、150mM NaCl、1% nonidet P-40、0.5% sodium deoxysholate、0.1% SDS)を添加後、凍結融解を繰り返し、細胞を溶解し、遠心分離により上清を回収した。得られた画分についてブラッドフォード法によりHSP70の発現の確認を行った。
HSP70の発現の確認は、細胞培養液をSDS−PAGE電気泳動にかけた後、抗HSP70抗体(Stressgen社)を用いたウエスタン・ブロット法によりHSP70の発現量を測定した。
なお、対照として何も添加しない例を置いた。
【0054】
その結果、植物A〜Dの抽出物、及びテプレノンを添加した細胞群においてHSP70のバンドの発現が確認されたが、対照例においてはその発現は認められなかった。
したがって、本発明の植物抽出物にはヒートショックプロテイン(HSP)のは誘導発現作用があり、そのHSP70の誘導発現によりメラニン生成が抑制されることとなる。
【0055】
実施例4:皮膚外用剤
以下の処方により、皮膚外用剤(クリーム剤)を得た。
スクワラン 20重量%
ミツロウ 5
精製ホホバ油 5
グリセリンモノステアレート 2
ソルビタンモノステアレート 2
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
グリセリン 5
植物A抽出物 1
植物B抽出物 1
精製水 100とする残部
【0056】
実施例5:美白化粧料
(1)ローション
以下の処方により、ローションを得た。
ソルビット 2重量%
1,3−ブチレングリコール 2
ポリエチレングリコール1000 1
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(25EO) 2
エタノール 10
テプレノン 1
防腐剤 適量
精製水 100とする残部
【0057】
(2)乳液
以下の処方により、乳液を得た。
スクワラン 1重量%
グリセリン 1
ステアリルアルコール 0.3
ソルビタンモノステアレート 1.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
1,3−ブチレングリコール 5
植物A抽出物 1
植物B抽出物 1
精製水 100とする残部
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上記載のように、本発明により、今までに検討されていない新たな作用機序に基づく、安全であり、且つ効果的な、新規な美白化粧料が提供される。
すなわち、本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処するものであり、これまで何等検討されていなかった新たな作用機序に基づく美白化粧料を提供する点で、極めて特異的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、実施例1の結果を示した図であり、Aは、B16細胞のヒートショックによるHSP70の誘導を示し、Bは、ヒートショックのIBMXによるメラニン誘導に対する効果を示した結果である。
【図2】図2は、実施例1における、ヒートショックによる種々のHSPの発現誘導を示した結果である。
【0060】
【図3】図3は、実施例1の結果を示した図であり、Aは、HSP70過剰発現株におけるHSP70の誘導を示した結果であり、Bは、HSP70過剰発現株におけるIBMXによるメラニン誘導に対する効果を示した結果である。
【0061】
【図4】図4は、実施例1の結果を示した図であり、HSP70過剰発現株におけるIBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼや、メラニン産生の転写因子であるMITF(MITFのmRNA)の発現誘導を示した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートショックプロテイン70(HSP70)発現誘導剤からなることを特徴とするメラニン産生抑制作用剤。
【請求項2】
HSP70発現誘導剤によるHSP70の発現誘導により、チロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とする請求項1に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項3】
HSP7発現誘導剤が、ショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される少なくとも1種の植物抽出物、又はテプレノンである請求項1又は2に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項4】
ショウガ科植物がアモムム属又はハナミョウガ属に属する植物であり、キク科植物がヒヨドリバナ属又はオグルマ属に属する植物であり、シソ科植物がタツナミソウ属に属する植物である請求項3に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項5】
アモムム属に属する植物がヨウシュンシャ(陽春砂)又はシュクシャ(縮砂)であり、ハナミョウガに属する植物がナンキョウソウである請求項4に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項6】
ヒヨドリバナ属に属する植物がサワヒヨドリであり、オグルマ属に属する植物がオグルマ又はホソバオグルマである請求項4に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項7】
タツナミソウ属に属する植物がコガネバナ(オウゴン)である請求項4に記載のメラニン産生抑制作用剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のメラニン産生抑制作用剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項9】
HSP70発現誘導剤を配合したことを特徴とする美白化粧料。
【請求項10】
HSP70発現誘導剤によるHSP70の発現誘導により、チロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とする請求項9に記載の美白化粧料。
【請求項11】
HSP7発現誘導剤が、ショウガ科、キク科及びシソ科植物から選択される少なくとの1種の植物抽出物、又はテプレノンである請求項9又は10に記載の美白化粧料。
【請求項12】
ショウガ科植物がアモムム属又はハナミョウガ属に属する植物であり、キク科植物がヒヨドリバナ属又はオグルマ属に属する植物であり、シソ科植物がタツナミソウ属に属する植物である請求項11に記載の美白化粧料。
【請求項13】
アモムム属に属する植物がヨウシュンシャ(陽春砂)又はシュクシャ(縮砂)であり、ハナミョウガに属する植物がナンキョウソウである請求項12に記載の美白化粧料。
【請求項14】
ヒヨドリバナ属に属する植物が、サワヒヨドリであり、オグルマ属に属する植物が、オグルマ又はホソバオグルマである請求項12に記載の美白化粧料。
【請求項15】
タツナミソウ属に属する植物がコガネバナ(オウゴン)である請求項12に記載の美白化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−83804(P2010−83804A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254728(P2008−254728)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(399088289)株式会社再春館製薬所 (6)
【Fターム(参考)】