説明

美白用の皮膚外用剤

【課題】色素異常疾患予防又は治療に好適な、新規なプロトンポンプ阻害剤を提供する。
【解決手段】シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる植物抽出物より選ばれる1種又は2種以上の新規なプロトンポンプ阻害剤、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素異常疾患に対する予防及び/又は治療用の皮膚外用剤に関し、詳しくは、プロトンポンプ阻害剤を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞又は細胞小器官は、生体膜により物理的に外部環境と区別されるため、膜内外における環境は大きく異なる。生体膜により区画化される細胞又は細胞小器官には、必要な物質を取り込み、必要のない物質を排出・分泌するための選択的な物質輸送機能が備わっている。この様な細胞又は細胞小器官内外における物質輸送機能は、生体膜の主要な構成成分である多様なチャネル(カルシウムチャネル、カリウムチャネル等)、トランスポ−タ−(モノアミントランスポ−タ−、プロトンポンプ等)、輸送体(糖輸送体、アミノ酸輸送体等)等を介する能動又は受動輸送により行われる。
【0003】
細胞又は細胞小器官内外に存在する各種のイオンを、ATP分解エネルギ−を利用することにより、イオン濃度勾配に逆い能動輸送する膜タンパク質として、膜ATPaseが知られている。膜ATPaseは、輸送するイオンの種類によりNa/K−ATPase、H−ATPase、Ca2+−ATPase等に分類される。特に、細胞又は細胞小器官内外のプロトン濃度を調整する膜H−ATPaseとしては、ミトコンドリア内膜に存在するF型ATPase群、細胞内の液胞などの細胞膜に存在するV型ATPase群、形質膜に存在するP型ATPase群が報告されている。一方、あらゆる細胞に存在し、Na/K−ATPaseと共役的に働くNa/H交換輸送蛋白質(NHE)は、細胞又は細胞小器官内に存在するプロトンとナトリウムをATP非依存的に交換輸送することにより、細胞又は細胞小器官内外のプロトン濃度を調整する(例えば、非特許文献1を参照)。細胞又は細胞小器官内のプロトン濃度変化は、生体内に存在し、多様な生体機能に関与する様々な酵素活性、並びに、生体分子機能に大きな影響を与える(例えば、非特許文献2を参照)。このため、膜H−ATPase及びNa/H交換輸送蛋白質(NHE)などのプロトン濃度を調整する生体機能分子は、プロトン濃度により活性及び機能が影響を受ける様々な酵素、生体機能分子が関与する疾患、例えば、本態性高血圧、不整脈、狭心症、心肥大、糖尿病、虚血若しくは虚血性再潅流による臓器障害、脳虚血障害等の予防又は治療薬に対する創薬標的分子として注目されている。この様な創薬標的分子としては、胃壁細胞内の分泌小胞に存在し、胃酸分泌に深く関与するP型ATPaseに分類されるH/K−ATPaseを標的分子とした胃潰瘍治療薬(例えば、特許文献1を参照)が代表として挙げられる。この様に、プロトン濃度を調整することにより、酵素活性及び生体分子の機能を制御するプロトンポンプ阻害剤は、プロトン濃度が関与する様々な疾患治療に対する効果が期待される。しかしながら、実際には、稀にアナフィラキシ−等の副作用を発現する場合が存し、この様なアレルギ−に対応する為、治療効果及び安全性の高い別構造の化合物開発が課題となっている。
【0004】
膜H−ATPaseを阻害するプロトンポンプ阻害剤としては、胃潰瘍治療薬であるオメプラゾ−ル、ランソプラノ−ル等のベンズイミダゾ−ル誘導体がよく知られ、現在、胃潰瘍治療薬として使用されている。また、Na/H交換輸送系を選択的に阻害する化合物としては、エチルイソプロピルアミロリド(EIPA)(例えば、非特許文献2を参照)、グアニジン誘導体(例えば、特許文献2を参照)、イソフラボン誘導体又はキサントン誘導体(例えば、特許文献3を参照)が、既に報告されている。しかしながら、前記のプロトン濃度を調整する物質の生物活性は十分に満足のいくものではなく、より高い活性及び選択性を有し、体内動態に優れ、副作用の少ない新しい骨格の阻害剤が望まれている。さらに、かかるプロトンポンプ阻害作用を有する物質に関し、化粧料に適応可能な成分は知られていないし、化粧料の美白剤において、かかるプロトンポンプ阻害作用を作用機作とするものも全く知られておらず、細胞又は細胞小器官内のプロトン濃度を調節するプロトンポンプ阻害剤が、メラノサイト内の酸性化作用を有し、チロシナ−ゼ活性を低下させることにより、メラニン産生を抑制し、美白をはじめとする皮膚色素異常関連疾患に有効であることも全く知られていなかった。
【0005】
また、プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物に付いては、本出願人により出願された「プロトンポンプ阻害剤」(特願2009−050226号)により、マメ科ハギ属に属する植物抽出物に、プロトンポンプ阻害作用が存することは既に知られている。しかしながら、前記プロトンポンプ阻害剤の起源が、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物にプロトンポンプ阻害作用が存することは知られておらず、さらには、前記植物より得られる抽出物を含有する皮膚外用剤が、美白をはじめとする色素異常疾患の予防又は治療に有効であることも全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特再表2006−036024号公報
【特許文献2】再表2004−004701号公報
【特許文献3】特開平10−203976号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】蛋白質・核酸・酵素、34(10)、1251(1989)
【非特許文献2】Smith, D. R.; Spaulding, D. T.; Glenn, H. M.; Fuller, B. B., Exp. Cell. Res.、 2004、298、521−534.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、色素異常疾患予防又は治療に好適な、新規なプロトンポンプ阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者等は、新規のプロトンポンプ阻害剤を求めて、鋭意努力・研究を重ねた結果、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物が、優れたプロトンポンプ阻害作用を有することを見出し、発明を完成させるに至った。本発明は、以下に示す通りである。
<1> プロトンポンプ阻害剤を含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
<2> 前記プロトンポンプ阻害剤が、以下の工程を有するスクリ−ニング方法によりプロトンポンプ阻害剤であると鑑別されたプロトンポンプ阻害剤を含有することを特徴とする、<1>に記載の皮膚外用剤。
(工程1)評価物質のメラニン産生量を測定する。
(工程2)工程1においてメラニン産生抑制作用を有する物質に付いて、チロシナ−ゼへの直接阻害作用を測定する。チロシナ−ゼへの直接阻害作用を有した物質は、チロシナ−ゼ直接阻害剤に分類する。
(工程3)工程1においてメラニン産生抑制作用を有し、工程2においてチロシナ−ゼへの直接阻害作用を有しない物質に付いて、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用の有無を測定する。チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質は、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少剤に分類する。
(工程4)工程1においてメラニン産生抑制作用を有し、工程2においてチロシナ−ゼへの直接阻害作用を有さず、工程3においてチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有さない物質に付いてプロトンポンプ阻害作用を調べ、プロトンポンプ阻害作用を有する物質は、プロトンポンプ阻害剤に分類する。
<3> プロトンポンプ阻害剤が、Na/H交換輸送系に作用するプロトンポンプ阻害剤であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の皮膚外用剤。
<4> 前記プロトンポンプ阻害剤の起源が、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物であることを特徴とする、<1>〜<3>の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
<5> 前記シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物が、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クジン、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウであることを特徴とする、<1>〜<4>の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
<6> 美白用の化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、<1>〜<5>の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
<7> <2>の工程1〜4を経て鑑別されるプロトンポンプ阻害剤の鑑別方法によりプロトンポンプ阻害剤と鑑別された成分を含有させることを特徴とする、色素異常疾患に対する治療及び/又は予防用の皮膚外用剤。
<8> 更にチロシナ−ゼ阻害作用を有する物質及び/又はチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質を、プロトンポンプ阻害作用を有する物質と共に配合させることを特徴とする、<7>に記載の色素異常疾患に対する治療及び/又は予防用の皮膚外用剤。
<9> チロシナ−ゼ阻害作用を有する物質及び/又はチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質を含有する皮膚外用剤において、プロトンポンプ阻害剤を含有させることを特徴とする、色素異常疾患に対する予防又は治療用の皮膚外用剤の設計方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における植物抽出物のチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用検討の結果を示す図である。
【図2】本発明における植物抽出物のメラノサイト内酸性化検討の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の皮膚外用剤の必須成分であるプロトンポンプ阻害剤>
本発明の皮膚外用剤は、プロトンポンプ阻害剤を必須成分として含有することを特徴とする。本発明におけるプロトンポンプ阻害剤としては、生体内におけるプロトン濃度を調節する機能を有する生体機能分子に働きかけることにより、細胞又は細胞小器官内外等におけるプロトン濃度を調節する作用、取り分け、酸性化作用を有する物質を意味し、具体例を挙げれば、能動的なプロトン輸送を担う膜H−ATPaseのみならず、Na/K−ATPase等のイオンポンプと共役的に働きプロトンを受動輸送するNa/H交換輸送体に作用する物質等が好適に例示出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤としては、前記プロトンポンプ阻害作用を示すものであれば、特段の限定なく適応することが出来る。また、本発明のプロトンポンプ阻害剤の内、好ましいものとしては、後述する「本発明の植物抽出物を用いたメラノサイト内酸性化検出(プロトンポンプ阻害作用)検討)」において、メラノサイト内を酸性化する作用(プロトンポンプ阻害作用)を示すプロトンポンプ阻害剤が好適に例示出来る。本発明のメラノサイト内における酸性化作用を有するプロトンポンプ阻害剤とは、後述するメラノサイト内酸性化検討において、蛍光顕微鏡による目視観察により、pH感受性蛍光色素の発色強度の増強が認められる物質を意味する。さらに、前記プロトンポンプ阻害剤の内、特に好ましいものとしては、1)メラニン産生抑制作用を示し、2)チロシナ−ゼへの直接阻害作用を示さない、3)チロシナ−ゼファミリ−タンパクの減少作用を示さないプロトンポンプ阻害剤が好適に例示出来る。
【0012】
メラニンは、フェノ−ル性物質の酵素的酸化により形成された高分子の総称であり、神経節由来細胞であるメラノサイト内の小器官であるメラノソ−ムで合成され、メラノサイトの樹枝状突起を通して隣接する周囲のケラチノサイトに移行し、表皮細胞に貧食され核上部に集まり紫外線から核を守る働きをする。本発明のメラニン産生抑制作用を有する物質とは、後述する「本発明の植物抽出物を用いたメラニン産生抑制作用検討」において、各評価物質が示す細胞毒性の認められない濃度において、コントロ−ルと比較しメラニン産生量を50%以下のレベルに低下させる作用を有する物質を意味する。これは、メラニン産生抑制作用が低い物質をメラニン産生抑制剤と鑑別した場合には、期待されるメラニン産生抑制作用が現われないためである。
【0013】
チロシナ−ゼは、チロシンからメラニンが生合成される過程における律速酵素であり、その酵素活性は、pH依存的である。本発明におけるチロシナ−ゼの直接阻害剤に分類されない物質とは、後述する「本発明の植物抽出物を用いたチロシナ−ゼ直接阻害作用検討」において、前記の「本発明の植物抽出物を用いたメラニン産生抑制作用検討」において各評価物質が示したIC50値に比較し、100倍以上の濃度の評価物質を反応系に添加してもチロシナ−ゼ直接阻害作用を示さない物質を意味する。これは、チロシナ−ゼの直接阻害作用が高い物質をチロシナ−ゼ阻害剤として除外しなかった場合には、チロシナ−ゼ直接阻害作用によるメラニン産生抑制作用を発揮する物質が含まれるために鑑別方法としての意味をなさないためである。
【0014】
前述のメラニン生合成に関与する酵素としては、チロシナ−ゼに加え、チロシナ−ゼ関連タンパク1(TRP1)及びチロシナ−ゼ関連タンパク2(TRP2)が知られている。これらの酵素は、遺伝子及びアミノ酸レベルにおける相同性が高く、一群のチロシナ−ゼファミリ−タンパクに分類される。本発明におけるチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少剤に分類されない物質とは、後述する「本発明のショウガ科ショウガ属ショウキョウより得られる抽出物を用いたWestern Blot法によるチロシナ−ゼファミリ−タンパクに対する影響の検討」において、前記の「本発明の植物抽出物を用いたメラニン産生抑制作用検討」における各評価物質がメラニン産生抑制作用を示した濃度にて、コントロ−ルと比較し、有意なチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有しない物質を意味する。これは、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用が高い物質をチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少剤として除外しなかった場合には、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用によるメラニン産生抑制作用を発揮する物質が含まれるために鑑別方法としての意味をなさないためである。
【0015】
細胞又は細胞小器官内外におけるプロトン濃度を調整する生体機能分子としては、プロトンポンプに分類される膜H−ATPaseがよく知られている。さらに、イオンポンプのNa/K−ATPaseと共役的に働くことによりプロトンを受動的に細胞又は細胞小器官外等へ輸送するNa/H交換輸送体も、プロトン濃度の調整に重要な役割を果たしている。本発明におけるプロトンポンプ阻害剤に分類される物質とは、後述する「本発明の植物抽出物を用いたメラノサイト内酸性化検出(プロトンポンプ阻害作用)検討」において、蛍光顕微鏡による目視観察にて、評価物質処理によりコントロ−ルに比較し、pH感受性蛍光色素の発色強度を増強させる物質を意味する。これは、メラノサイト内におけるプロトンポンプ阻害作用(酸性化作用)が低い物質を配合した場合には、期待されるプロトンポンプ阻害作用によるチロシナ−ゼ活性低下、並びに、メラニン産生抑制作用が発現しないためである。
【0016】
本発明のプロトンポンプ阻害剤とは、単純な化学物質、生薬及び動植物からの抽出物を意味し、かかる成分を唯1種のみを含有することも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。ここで、本発明の抽出物とは、抽出物自体、抽出物の分画、精製した分画、抽出物乃至は分画、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。かかる成分の内、化学物質としては、オメプラゾ−ル、ランソプラゾ−ル、ラベプラゾ−ル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩が好適に例示出来る。また、かかる成分の内、生薬及び動植物より得られる抽出物としては、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物などが好適例示出来、より好ましくは、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クジン、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウより得られる抽出物などが好適に例示出来る
【0017】
かかるシソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物の作製に用いる部分としては、植物体の何れの部分も使用可能であり、特に好ましくは、全草、地上部、葉、花、蕾、樹皮、木幹、根などが好適に例示出来る。前記のシソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クジン、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウは、日本においてその生育が認められる植物である。かかるシソ科タチジャコウソウ属タイムは、南ヨ−ロッパ原産の常緑の小低木であり、日本全土の亜高山〜高山帯に自生しており、食品などのスパイスとして広く使用されている。マメ科クララ属クジンは、中国原産の多年草であり、本州、四国、九州の日当たりのよい草原などに自生する。ショウガ科ショウガ属ショウガは、熱帯アジア原産の球根性の多年草であり、日本では、九州の一部と沖縄に自生し、食品などとして使用されている。東アジアから日本全土に広く分布し、根茎をショウキョウと呼び、生薬として用いられる。ショウブ科ショウブ属ショウブは、東アジアから日本全土に広く分布する常緑の多年草草木である。ウリ科ヘチマ属ヘチマは、インド原産とされ中国を経て日本に渡来したとされる植物であり、現在では、本州中部以南において栽培されている。ユキノシタ科アジサイ属アマチャは、日本原産の落葉小低木であり、本州、四国、九州において栽培されている。サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウは、東アジアを原産とする菌類であり、中国、韓国、日本などにおいて自生している。本発明における前記の植物より得られる抽出物は、日本に於いて自生又は生育された植物、漢方生薬原料などとして販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善株式会社、一丸ファルコス株式会社などの植物抽出物を扱う会社より販売されている市販の抽出物を購入し、使用することも出来る。抽出に際し、植物体、地上部又は木幹部は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物は、植物体、地上部乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去することが出来る。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−などで分画精製し、所望の抽出物を得ることが出来る。
【0018】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ルなどのアルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル、ポリプロピレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。
【0019】
また、かかる成分は、細胞又は細胞小器官等に存在する膜成分であるプロトンポンプ(膜H−ATPase)、又は、イオンポンプであるNa/K−ATPaseと共役的に働くNa/H交換輸送系などを阻害することにより、細胞又は細胞小器官等におけるプロトン輸送を阻害し、細胞又は細胞小器官内外等のプロトン濃度を調節する、取り分け、細胞又は細胞小器官内におけるプロトン濃度を高める酸性化作用に優れる。細胞又は細胞小器官内の酸性化作用は、細胞又は細胞小器官内等に存在するpH依存的な機能分子(例えば、酵素、イオンチャネル等)の生物活性又は機能を変化させる。特に、細胞又は細胞小器官内の酸性化することは、pH依存的な機能分子のひとつであるチロシナ−ゼ等の酵素活性を低下させ、メラニン産生を抑制することに繋がり、美白をはじめとする皮膚色素異常関連疾患に対する予防又は治療効果が期待される。
【0020】
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、皮膚外用剤全量に対し0.000001質量%〜5質量%、より好ましくは、0.000005質量%〜3質量%、さらに好ましくは、0.00001〜1質量%含有させることがより好ましい。これは、プロトンポンプ阻害剤の含有量が、少なすぎると細胞又は細胞小器官内における酸性化作用(プロトンポンプ阻害作用)によるチロシナ−ゼ酵素の活性低下作用、並びに、メラニン産生抑制作用を奏さない場合が存し、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。また、かかる成分は、細胞内における標的分子に対し高い選択性を有し、更には、標的部位への集積性及び選択性に優れ、高い安全性及び安定性を有するために、医薬、食品、化粧料などへの使用が好ましい。さらに、本発明の皮膚外用剤において、プロトンポンプ阻害剤、取り分け、前記の植物抽出物を、保湿などのプロトンポンプ阻害作用以外の作用を目的に配合した場合であっても、前記抽出物が、プロトンポンプ阻害作用を有する場合は、本願発明の構成と効果を充足するので、本発明の技術的範囲に属する。
【0021】
<2>本発明のプロトンポンプ阻害剤を含有する皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、必須成分としてプロトンポンプ阻害剤を含有することを特徴とする。本発明におけるプロトンポンプ阻害剤としては、生体内におけるプロトン濃度を調節する機能を有する生体機能分子に働きかけることにより、細胞又は細胞小器官内外等におけるプロトン濃度を調節する作用(酸性化作用)を有する物質を意味し、具体例を挙げれば、能動的なプロトン輸送を担う膜H−ATPaseのみならず、Na/K−ATPase等のイオンポンプと共役的に働きプロトンを受動輸送するNa/H交換輸送体に作用する物質等が好適に例示出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤としては、前記プロトンポンプ阻害作用を示すものであれば、特段の限定なく適応することが出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤の内、特に好ましいものとしては、後述するメラノサイト内の酸性化度を指標とするメラノサイト内酸性化検討(プロトンポンプ阻害作用検討)において、メラノサイト内の酸性化作用を示すプロトンポンプ阻害剤が好適に例示出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤は、単純な化学物質、生薬及び動植物からの抽出物とその分画精製物などの混合組成物のいずれでもよい。本発明の皮膚外用剤には、前記プロトンポンプ阻害剤を、唯1種を含有させることも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。本発明の皮膚外用剤は、プロトンポンプ阻害剤を配合することにより、しみ、くすみをはじめとする色素関連異常疾患に関する予防又は治療効果を発揮する。
【0022】
本発明の皮膚外用剤においては、前記必須成分以外に、通常化粧料で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0023】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理し、ロ−ション、乳液、エッセンス、クリ−ム、パック化粧料、洗浄料などに加工することにより、本発明の皮膚外用剤は製造できる。皮膚に適応させることの出来る剤型であれば、いずれの剤型でも可能であるが、有効成分が皮膚に浸透して効果を発揮することから、皮膚への馴染みの良い、ロ−ション、乳液、クリ−ム、エッセンスなどの剤型がより好ましい。
【0024】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0025】
<試験例1:本発明における植物抽出物の製造方法>
本発明のショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる植物抽出物の製造方法を示す。本抽出物は、ショウガZingiber officinale Roscoe( Zingiberaceae ) の根茎をエタノ−ルに浸漬し製造した。具体的には、ショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)を粗末にしたもの200gに、薄めたエタノ−ル(37〜50%)約600mLを加え、時々かき混ぜながら可溶性成分が充分に溶けるまで放置し、布ごしし、残留物を薄めたエタノ−ル(37〜50%)少量で洗い、圧搾し、浸出液及び洗液をあわせ、2日間放置し、濾過し、さらに薄めたエタノ−ル(37〜50%)を加え、本抽出物 全量1000mLを製造した。
【0026】
本発明の植物抽出物は、上記に記載したショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる植物抽出物の製造例に準じ製造することも出来るし、丸善株式会社、一丸ファルコス株式会社などにより市販されている抽出物を購入し、使用することも出来る。
【実施例2】
【0027】
<本発明の植物抽出物を用いたメラニン産生抑制作用検討>
本発明の植物抽出物を用い、以下の記載の方法に従い、メラニン産生抑制作用を評価した。24穴プレ−トにヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)を22500(cells/cm)播種する。翌日、評価物質を含有する培地 0.5(mL/well)に交換し、0.25(μCi)2−[2−14C]チオウラシル(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を添加し培養を継続する。播種4日後、培地を除去しPBSで1回プレ−トを洗浄した後、細胞生存率を評価するため生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク社)溶液を添加した培地に交換し、37℃、3時間呈色反応を行った。反応後、450(nm)の吸光度をマイクロプレ−トリ−ダ−Benchmark Plus(Bio-Rad Laboratories)を用いて測定した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製し、コントロ−ルに対する各評価物質を含むサンプルの吸光度の百分率を求め細胞生存率とした。メラニン量測定のため吸光度測定後、PBSで1回プレ−トを洗浄し、TCAを添加し、細胞を溶解した後、蒸留水 を加え溶液をバイアルに移した。氷上に放置後、15000rpm、5分間遠心した後、上清を除去した。再度、各バイアルに10%TCA 500(μL)を添加し、氷上15分間放置した。15000rpm、5分間遠心した後、上清を除去した。残渣にアクアゾ−ル−2(パ−キンエルマ−社) 1(mL)を添加し、液体シンチレ−ションカウンタ− LSC−6100(アロカ社製)にて放射線量を測定した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製し、コントロ−ルに対する評価物質を含むサンプルの放射線量の百分率を求めメラニン量(%)とした。メラニン産生量の50%阻害濃度(IC50値)は、細胞毒性の認められない範囲でSAS software version 9.1.3(SAS Institute Inc.)を用い算出した。本発明において、メラニン産生抑制作用を有する物質とは、当該ヒト正常メラノサイトを用いたメラニン産生抑制作用評価において、細胞毒性の認められない濃度においてコントロ−ルと比較しメラニン産生量を50%以下のレベルに低下させる作用を有する場合を意味する。これは、メラニン産生抑制作用が低い物質を配合した場合には、期待されるメラニン産生抑制作用が現われないためである。結果を表1に表す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果より、陽性対照のハイドロキノンは、メラニン産生抑制作用を示し、この評価系の客観性が確認された。本発明の植物抽出物は、いずれも顕著なメラニン産生抑制作用を有していることが判った。
【実施例3】
【0030】
<本発明の植物抽出物を用いたチロシナ−ゼ直接阻害作用検討>
本発明の植物抽出物及びフェニルチオウレア(陽性対照)を用い、文献記載の方法(Busca, R. et. al.、J. Biol. Chem.,271、31824−30(1996))を参考に、以下の手順に従いチロシナ−ゼ直接阻害活性を測定した。ヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)をセルスクレ−パ−にて剥離し、バイアルに移し、5000rpm、5分間遠心して細胞を回収した後、lysis buffer[1% nonidet P-40、100mM NaCl、2mM EDTA、0.5%deoxycholate(DOC)、2mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、1mM Na3VO4、10μg/mL aprotinin及び10μg/mL leupeptin]を含有した50mM Tris-HCl buffer(pH7.6)]にて溶解した。溶解液を15000rpm、5分間遠心し、上清を回収し細胞抽出液とした。細胞抽出液のタンパク量は、Bio-Rad Dc Protein Assay Kit(Bio-Rad Laboratories)を用いて定量した。96穴プレ−トの1ウェルあたりに評価物質又はフェニルチオウレアを含有する培地 10μLと基質の0.1%dihydroxyphenylalanine(L-DOPA)(和光純薬工業株式会社) 50μLを添加・混合し、さらに細胞抽出液(蛋白量10μg)を添加・混合して酵素反応を行い、マイクロプレ−トリ−ダ−を用いて37℃保温下にて450nmの吸光度を15分間測定した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルも前記同様に調製し、測定した。チロシナ−ゼ活性の50%阻害濃度(IC50値)は、評価物質無添加サンプル(陰性対照)の吸光度を100%とした場合の各評価物質添加サンプルの吸光度の割合を算出し、縦軸に吸光度(%陰性対照)、横軸に各評価物質添加サンプル添加濃度を設定したグラフを作成し、近類曲線の傾きにより求めた。本発明に於いて、チロシナ−ゼ直接阻害作用を有しない物質とは、当該ヒト正常メラノサイトの細胞抽出液を用いたチロシナ−ゼ直接阻害作用評価において、前記のメラニン産生抑制作用試験において各評価物質が示したIC50値に比較し、100倍以上の濃度の評価物質を反応系に添加してもチロシナ−ゼ直接阻害作用を示さなかった物質を意味する。表2に、上記方法により測定された本発明の植物抽出物及びフェニルチオウレア(陽性対照)のチロシナ−ゼ直接阻害作用検討に関する結果を示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2の結果より、本発明の植物抽出物は、チロシナ−ゼ直接阻害作用を示さなかったのに対し、陽性対照のフェニルチオウレアは、顕著なチロシナ−ゼ直接阻害作用を示した。本発明の植物抽出物には、チロシナ−ゼ直接阻害作用がないことが判った。
【実施例4】
【0033】
<本発明のショウガ科ショウガ属ショウガより得られる抽出物を用いたWestern Blot法によるチロシナ−ゼファミリ−タンパクに対する影響の検討>
本発明のショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる抽出物に関し、以下の手順に従いWestern Blot法によるチロシナ−ゼファミリ−タンパクに対する影響を検討した。φ6cmディッシュにヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)を22500cells/cm播種し、翌日、評価物質を含む培地 5mL/dishに交換し培養を継続した。播種後4日後、実施例1に記載の方法に従い細胞生存率を測定した。実施例2に記載の方法に従い、評価物質を含む培地で処理した細胞より細胞抽出液を得た。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルも前記同様に調製した。12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて、1レ−ンあたりに細胞抽出液(タンパク量10μg)を添加し、SDS-PAGEにて分離したタンパク質をPVDF膜にブロッティングし、3%スキムミルク/0.4%Tween20含有PBSにて室温1時間ブロッキングを行った。0.4%Tween20含有PBSにて洗浄後、抗体反応を実施した。1次抗体は、それぞれ抗チロシナ−ゼ(H-109)抗体、抗TYRP1(H-90)抗体、抗TYRP2(D-18)抗体(いずれもSanta Cruz Biotechnology, Inc.)を0.5%スキムミルク/0.4%Tween20含有PBSにて1:400希釈し、室温1時間、PVDF膜と共にインキュベ−ションした。なお、内部標準としてβ−actinを用いた。0.4%Tween20含有PBSにて洗浄後、ペルオキシダ−ゼ標識された二次抗体と共に再度室温1時間、PVDF膜をインキュベ−ションし、抗体反応を行った。反応終了後、0.4%Tween20含有PBSにて洗浄し、ECLPlus Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて検出した。本発明に於いて、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有しない物質とは、当該ヒト正常メラノサイトの細胞抽出液を用いたチロシナ−ゼファミリ−タンパクに対する影響の検討において、前記のメラニン産生抑制作用検討における各評価物質がメラニン産生抑制作用を示した濃度にて、コントロ−ルと比較し、有意なチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有しない場合を意味する。結果を図1に示す。
【0034】
図1の結果より、本発明のショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる抽出物には、コントロ−ルと比較し有意なバンドの減少作用は認められなかった。従って、本発明の植物抽出物は、チロシナ−ゼファミリ−タンパクの減少作用を有していないことが判った。
【実施例5】
【0035】
<本発明の植物抽出物を用いたメラノサイト内酸性化検出(プロトンポンプ阻害作用)検討>
本発明の植物抽出物に関し、以下の手順に従い、生細胞内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検出を行った。ヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)を4ウェルLab-Tek chamber slide(Thormo Fisher Scientific社)に10000cells/cm播種し、翌日、評価物質を含有する培地 0.55mL/wellに交換し、1時間30分培養した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製した。その後、Lysosensor189(モレキュラ−プロ−ブ社:最終濃度1μM)を加え、15分間培養した。培養終了後、PBSにて洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温15分固定を行った。その後、スライドガラスでサンプルを封入し、蛍光顕微鏡(カ−ルツァイツ社)にて観察した。 本発明に於いて、プロトンポンプ阻害作用を有する物質とは、当該ヒト正常メラノサイトを用いたメラノサイト内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検出において、pH感受性蛍光色素の発色強度が、蛍光顕微鏡による目視的観察により、発光強度の増強が認められる場合を意味する。結果を図2に示す。
【0036】
評価物質無処理のコントロ−ルに比較し、評価物質処理によりLysosensor189の蛍光強度(緑色)が増強していれば、ヒト正常メラノサイト内の酸性化が亢進したと考えられる。結果を図2に示す。
【0037】
図2において、コントロ−ルでは、酸性化度を示す蛍光発色強度は弱く、一方、本発明の植物抽出物を処理した場合は、いずれも蛍光強度は増強している。従って、本発明の植物抽出物は、顕著なメラノサイト内における酸性化作用(プロトンポンプ阻害作用)を示すことが判った。
【0038】
尚、前記の結果を踏まえ、プロトンポンプ阻害作用を介するメラノサイト内の酸性化作用を以って、メラノサイト内のチロシナ−ゼ活性を阻害する機作のメラニン産生抑制作用の代替値として、このメラノサイト内の酸性化作用を用いることが出来ることも判る。かかる作用を有する成分を、プロトンポンプ阻害作用を機作とするメラニン産生抑制剤と見なす。
【実施例6】
【0039】
表3及び表4に示す処方に従い化粧水(化粧料1〜7)を作製した。また、表3に示す成分中、「本発明のプロトンポンプ阻害剤」を水に置換した比較例1も同時に作製した。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【実施例7】
【0042】
<試験例5:ヒトにおける化粧料1〜7の紫外線による色素沈着抑制効果>
化粧料1〜7及び比較例1の化粧料を用いて、色素沈着抑制効果を調べた。自由意志で参加したパネラ−の両上腕内側部に1.5cm×1.5cmの部位を上下2段に分け、合計9箇所設け、最少紅斑量(1MED)の紫外線照射を1日1回、3日連続して3回照射した。照射終了後1日より、1日1回28日連続してサンプル50μLを塗布した。1部位は無処置部位とした。塗布終了24時間後に色彩色差計(CR-300、コニカミノルタ株式会社)にて各試験部位の皮膚明度(L*値)を測定し、無処置部位のL値に対する差としてΔL*値を算出した。結果を表5に示す。これにより、本発明の皮膚外用剤である化粧料は優れた色素沈着抑制効果を有することが分かる。これは、本発明の植物抽出物が有するプロトンポンプ阻害作用によると考えられる。
【0043】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、色素異常疾患に対する予防又は治療薬に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトンポンプ阻害剤を含有することを特徴とする、皮膚外用剤。
【請求項2】
前記プロトンポンプ阻害剤が、以下の工程を有するスクリ−ニング方法によりプロトンポンプ阻害剤であると鑑別されたプロトンポンプ阻害剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤。
(工程1)評価物質のメラニン産生量を測定する。
(工程2)工程1においてメラニン産生抑制作用を有する物質に付いて、チロシナ−ゼへの直接阻害作用を測定する。チロシナ−ゼへの直接阻害作用を有した物質は、チロシナ−ゼ直接阻害剤に分類する。
(工程3)工程1においてメラニン産生抑制作用を有し、工程2においてチロシナ−ゼへの直接阻害作用を有しない物質に付いて、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用の有無を測定する。チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質は、チロシナ−ゼファミリ−タンパク減少剤に分類する。
(工程4)工程1においてメラニン産生抑制作用を有し、工程2においてチロシナ−ゼへの直接阻害作用を有さず、工程3においてチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有さない物質に付いてプロトンポンプ阻害作用を調べ、プロトンポンプ阻害作用を有する物質は、プロトンポンプ阻害剤に分類する。
【請求項3】
プロトンポンプ阻害剤が、Na/H交換輸送系に作用するプロトンポンプ阻害剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
前記プロトンポンプ阻害剤の起源が、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる抽出物であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
前記シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物が、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クジン、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウであることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
美白用の化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項2の工程1〜4を経て鑑別されるプロトンポンプ阻害剤の鑑別方法によりプロトンポンプ阻害剤と鑑別された成分を含有させることを特徴とする、色素異常疾患に対する治療及び/又は予防用の皮膚外用剤。
【請求項8】
更にチロシナ−ゼ阻害作用を有する物質及び/又はチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質を、プロトンポンプ阻害作用を有する物質と共に配合させることを特徴とする、請求項7に記載の色素異常疾患に対する治療及び/又は予防用の皮膚外用剤。
【請求項9】
チロシナ−ゼ阻害作用を有する物質及び/又はチロシナ−ゼファミリ−タンパク減少作用を有する物質を含有する皮膚外用剤において、プロトンポンプ阻害剤を含有させることを特徴とする、色素異常疾患に対する予防又は治療用の皮膚外用剤の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68576(P2011−68576A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219292(P2009−219292)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】