説明

美麗な電気亜鉛めっき鋼帯

【課題】Niストライクめっき後に電気亜鉛めっきを施した電気亜鉛めっき鋼帯に見られる表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ)を抑制する。
【解決手段】第1層の平均付着量が1〜30mg/m2のNiめっき層の上に、それぞれ1種以上のアミン化合物(例、ポリエチレンイミン)およびS含有官能基を持つ有機化合物(例、チオ尿素)からなり、付着量がこれらの有機化合物の総量で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下である第2層と、95質量%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層からなる第3層と、場合により、クロムフリー被覆からなる第4層を形成する。最外層である電気亜鉛めっき層またはクロムフリー被覆層の表面の明度差の平均明度に対するバラツキが2%以下で、目視でムラが認められない美麗な外観を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の電気亜鉛めっき設備で効率よく製造可能であるにもかかわらず、従来の電気亜鉛めっき鋼帯と比較して外観品位に優れ、家電製品や土木・建築材料、自動車等に用いる際に好適な、美麗な電気亜鉛めっき鋼帯と、この電気亜鉛めっき鋼帯にクロムフリー皮膜を設けたクロムフリー被覆鋼帯とに関する。
【背景技術】
【0002】
電気亜鉛めっき鋼帯は、犠牲防食作用に優れているため、従来から家電製品や土木・建築材料、自動車等の広範な産業分野で使用されている。特に近年は、環境負荷物質削減の動きが強まり、電気亜鉛めっき鋼帯の上層として、従来のクロメート皮膜の代わりに有機または無機のクロムフリー被覆を施し、更なる耐食性や耐指紋性を付与させたクロムフリー被覆電気亜鉛めっき鋼帯が使用されている。これらの鋼帯は、その優れた耐食性や耐指紋性を活かして無塗装で使用される例が数多くあるため、表面外観(表面ムラ、色調バラツキ)にも優れていることが要求される。近年、薄型TVパネルなどをはじめとする部品の大型化により、表面外観美麗化の要望がますます重要になっている。
【0003】
電気亜鉛めっき鋼帯の表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ)の原因としては種々考えられているが、主な原因は、電気亜鉛めっき鋼帯に電析した亜鉛めっき結晶の向きや大きさが部分的に異なるために、部分ごとに光の反射率が異なり、表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ、主に明度のバラツキ)として目視で認識されるものである。
【0004】
電析した亜鉛めっき結晶の向きや大きさが部分的に異なる原因は次のように考えられている。亜鉛めっきの結晶は電析により一定の方向や大きさに成長(エピタキシャル成長)する性質があり、結晶の析出形態は電析条件や母材鋼帯表面の状態に大きく影響を受けることが知られているが、めっき母材(冷延鋼帯)の表面に酸化皮膜や汚れ、不純物元素、母材結晶粒サイズ等の不均一部分(例えばA部とB部)が生じていると、これら部分から一定の方向や大きさに(A部とB部では別々の方向と大きさに)亜鉛めっきの結晶の成長が起こり、最終的な電気亜鉛めっき鋼帯最表面の亜鉛めっき結晶の向きや大きさが部分ごとに異なったものとなる。
【0005】
従って、電気亜鉛めっき鋼帯の表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ)を防止するためには、(1)母材(冷延鋼帯)表面の酸化皮膜や汚れ、不純物元素、結晶粒サイズ等の不均一部分をなくす、或いは(2)亜鉛めっきの電析結晶が一定の方向や大きさに成長(エピタキシャル成長)する性質を抑制する必要がある。
【0006】
(1)の母材(冷延鋼帯)表面の酸化皮膜や汚れ、不純物元素、結晶粒サイズ等の不均一部分をなくす手法としてはこれまでにも種々の方法が提案されているが、主なものは電気亜鉛めっきを実施する前にプレ電気めっきや置換めっきをする方法が挙げられる。
【0007】
例えば特開平8−134688号公報には電気亜鉛めっきの下層にCoとNiからなるめっき層を施す方法が開示されている。また、特開平9−202993号公報には電気亜鉛めっきの下層に0.5〜100mg/m2のCu若しくはCoもしくはこれらの合金めっき層を施す方法が開示されている。さらに特開2000−192282号公報には電気亜鉛めっきの下層に1〜5g/m2の0.02〜2wt%Sn−Zn合金めっき層を施す方法が開示されている。
【0008】
しかし、これらの電気亜鉛めっき鋼帯の下層に別の化学組成のめっき層を形成させる手法は、別の化学組成のめっき層を形成させるためのめっき浴やめっきを電析させるための通電装置等が必要で、商業的な生産性を考えた場合には好ましくなかった。
【0009】
近年、母材(冷延鋼帯)の焼鈍効率をあげるために、高温で焼鈍した後、気水冷却(水噴霧による冷却)する方法が一般化している。気水冷却をした場合には鋼帯表面が酸化されるため、冷却後に酸洗による酸化皮膜の除去とNiめっきを行うこともまた一般化している。この方法では、鋼帯表面にNiめっき層が形成されるが、この場合のNiめっきの付着量は一般に1〜20mg/m2程度と非常に低付着量であるため、付着ムラを生ずる(Niが鋼帯表面に点々と島状に付着する)ことが多い。Niめっきに付着ムラがあると、上層に析出する電気亜鉛めっきの結晶の成長がNiめっきの付着量の影響を受けるため、かえってめっきの表面ムラを助長するという欠点があった。
【0010】
(2)の亜鉛めっきの電析結晶が一定の方向や大きさに成長(エピタキシャル成長)する性質を抑制する手法についても、種々の方法が提案されている。主なものは、電気亜鉛めっき浴中に他の金属成分や陰イオン、有機物等を添加する方法である。
【0011】
例えば、特開平8−158090号公報には、めっき浴中に平均分子量が1000〜10万のポリオキシアルキレンまたはそのアルキルエーテルを1〜500ppmの濃度範囲で存在させる電気亜鉛めっき鋼帯の製法が、特開平8−188899号公報には、表面の平均結晶粒径が38μm以下である母材鋼帯上に、Sn、In、Bi及びSbよりなる群から選択される少なくとも1種を総量として0.0008〜0.05wt%含有するめっき浴を用いる電気亜鉛めっき方法が、特開平9−256192号公報には、表面のフェライト平均結晶粒径が38μm以下である鋼帯を母材として用い、フルオロ錯イオンを100〜5000ppm含有する亜鉛めっき浴中で電気亜鉛めっきを行う外観の均一性に優れた電気亜鉛めっき鋼帯の製造方法が、特開2000−192282号公報には、1〜50g/lのジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化イオウ共重合物(PAS)を添加した酸性亜鉛めっき液を用いて電気めっきする電気亜鉛めっき鋼帯の製造方法がそれぞれ開示されている。
【0012】
しかし、電気亜鉛めっき浴中に他の金属イオン成分や陰イオン、有機物等を添加する方法のうち、添加成分が亜鉛とともに共析する性質のもの(主に金属イオン)である場合には、ラインスピードの変化によってめっきの電析のため鋼帯に通電される電流密度が変化した場合に電流密度の変化に伴い共析量も変化し、共析量の変化によりめっきの明度が変化したり、かえってムラを助長することもあるという問題があった。また、亜鉛めっき中に金属イオン成分が金属として共析すると、部分的に微小な局部電池が形成され、耐食性の低下を招くという点でも好ましくなかった。
【0013】
一方、添加成分が亜鉛とともに共析しない性質のもの(陰イオン、有機物等)である場合は、浴中濃度を一定量に管理する必要があるが、浴中濃度を迅速かつ正確に分析する方法が金属イオンに比べて難しく、高コストになるという不利点があった。電気亜鉛めっき浴は、めっき前の酸洗浴等とは異なり、通常は再建浴はせずに、電析や持ち出しにより消費された成分を補給しつつ恒久的に使用するのが一般的である。従って、浴中濃度を迅速かつ正確に分析して不足成分の補給ができないと、効果に必要な量の添加成分(陰イオン、有機物等)が不足して、めっきの明度が変化し、かえってムラを助長するという欠点があった。
【0014】
亜鉛めっきの電析結晶が一定の方向や大きさに成長(エピタキシャル成長)する性質を抑制する別の方法として、電気亜鉛めっきの前処理として実施される脱脂液や酸洗液中に種々の有機物や無機物を添加する方法も提案されている。
【0015】
例えば、特開平9−59788号公報には、電気亜鉛めっき前の酸洗溶液中に、第一級アミン(但し、ベンジルアミンを除く)、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩および複素環式化合物よりなる群から選択される、酸性液中でカチオンを形成する少なくとも1種の窒素含有有機化合物を含有させる方法が開示されている。
【0016】
特開平2002−309393号公報には、めっき前の母材鋼帯を、平均分子量が1000〜200000のアミノ基を有する水溶性ポリマーを5ppm以上含有する酸性水溶液に接触させる電気亜鉛めっき鋼帯の製造方法が開示されている。
【0017】
特開2003−64493号公報には、めっき母材鋼帯の酸化皮膜に対して還元作用を有し、かつ該酸化皮膜を溶解除去可能な酸洗促進剤およびカルボニル基またはチオカルボニル基を持つ有機化合物を含有する酸洗液を用いてめっき前酸洗を実施する方法が開示されている。特開2003−64493号公報にはさらに、めっき前の酸洗溶液中にコロイダルシリカを添加する方法も開示されている。
【0018】
しかし、本発明者らの知見では、これらの方法は何れも鋼帯表面に第1層としてNiめっき層が存在しない場合や、Niめっき層が存在しても付着量のバラツキが少ない場合には効果を示すが、Niめっき層の付着量のバラツキが大きい場倍、特にNiめっき層の付着量のバラツキが平均付着量の10%を超える場合には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8−134688号公報
【特許文献2】特開平9−202993号公報
【特許文献3】特開2000−192282号公報
【特許文献4】特開平8−158090号公報
【特許文献5】特開平8−188899号公報
【特許文献6】特開平9−256192号公報
【特許文献7】特開2000−192282号公報
【特許文献8】特開平9−59788号公報
【特許文献9】特開平2002−309393号公報
【特許文献10】特開2003−64493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであって、その目的は表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ)のない電気亜鉛めっき鋼帯を提供しようとするものである。特に第1層として鋼帯表面上にNiめっき層が形成されており、そのめっき層に付着量のバラツキが存在する場合でも、表面外観不良(表面ムラ、色調バラツキ)のない電気亜鉛めっき鋼帯を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、付着量にバラつきがあるNiめっき層が鋼帯表面上に存在していても、この上に電析する亜鉛めっき結晶のエピタキシャル成長を抑制し、その結果として電気亜鉛めっき鋼帯の表面外観のムラを抑制するためには、Niめっき層と電気亜鉛めっき層の間に1種以上のアミン化合物とS(硫黄)含有官能基を持つ有機化合物とからなる層を設けることが有効であるとの知見を得て、本発明をなすに至った。
【0022】
本発明は、鋼帯の少なくとも一方の面において、電気亜鉛めっき層の下に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であるNiめっき層を有する電気亜鉛めっき鋼帯であって、該電気亜鉛めっき層の表面の任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつの10個所の明度(L値)を測定した時の最大明度と最小明度の明度差の平均明度に対する割合が2%以下であることを特徴とする電気亜鉛めっき鋼帯である。
【0023】
上記特徴を有する本発明の電気亜鉛めっき鋼帯は、より具体的には、鋼帯の少なくとも一方の面において、下から順に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であり、かつその時の最大付着量と最小付着量の付着量差の平均付着量に対する割合が10%以上であるNiめっき層からなる第1層と、それぞれ1種以上のアミン化合物およびS(硫黄)含有官能基を持つ有機化合物からなり、付着量がこれらの有機化合物の総量で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下である第2層と、95質量%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層からなる第3層と、を有している。
【0024】
アミン化合物は好ましくはポリエチレンイミン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物であり、S含有官能基を持つ有機化合物は好ましくはチオ尿素及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物である。
【0025】
好ましくは、前記第2層は、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とを含有する酸性液に浸漬することによって鋼帯表面にアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とを吸着させることにより形成された層である。
【0026】
前記酸性液は、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とに加えて、鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物を含有していることが好ましい。
前記鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物は、好ましくは飽和低級カルボン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種の化合物である。
【0027】
別の側面から、本発明は、鋼帯の少なくとも一方の面において、前記電気亜鉛めっき層の上層として、又は前記第3層の上層の第4層として、クロムフリー皮膜を有する、上記電気亜鉛めっき鋼帯を基材とするクロムフリー被覆鋼帯である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第1層のNiめっきの付着量のばらつきが10%以上ある場合であっても、美麗な電気亜鉛めっき鋼帯やクロムフリー電気亜鉛めっき鋼帯が得られる。従って、本発明は、高温焼鈍と気水冷却された冷延鋼帯を母材とし、電気亜鉛めっき前に酸洗とニッケル薄めっきが施される方法で製造される電気亜鉛めっき鋼帯に適用するのに非常に適しており、電気亜鉛めっき鋼帯に特有の優れた耐食性と耐指紋性に加えて、表面ムラや色調バラツキが極めて抑制された美麗な外観を有するため、無塗装で使用される用途において特に優位性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をその特定の実施形態を例にとってより具体的に説明する。ただし、以下の説明は例示を目的とし、本発明を制限するものではない。
本発明に係る電気亜鉛めっき鋼帯は、鋼帯の少なくとも一方の面において、電気亜鉛めっき層の下に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であるNiめっき層を有する電気亜鉛めっき鋼帯であり、かつ、該電気亜鉛めっき層の表面の任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつの10個所の明度(L値)を測定した時の最大明度と最小明度の明度差の平均明度に対する割合が2%以下であることを特徴とする。この特徴を有する限り、母材の鋼帯や電気亜鉛めっきおよびその前処理の手法は特に制限されない。
【0030】
本発明に係る上記特徴を有する電気亜鉛めっき鋼帯は、鋼帯の少なくとも一方の面において、Niめっき層からなる第1層と、特定の有機化合物からなる第2層と、電気亜鉛めっき層からなる第3層とを有することにより実現することができるので、以下ではこの態様について説明する。
【0031】
母材として使用する鋼帯は限定されず、一般的に電気亜鉛めっきの母材として使用されているものであればどのような鋼帯にも本発明を適用できる。一般的な炭素鋼の範囲であれば、鋼中成分や強度、焼鈍方法(箱焼鈍や連続焼鈍)に関係なく適用可能である。また、母材としては、加工性に優れていることから冷間圧延後に焼鈍を実施した冷延鋼帯を使用することが望ましいが、焼鈍をしていない冷延鋼帯や、熱延後酸洗を実施した熱延酸洗鋼帯も適用できる。
【0032】
冷延鋼帯は、冷間圧延後の焼鈍が、生産性に優れた高温焼鈍と気水冷却とにより行われたものでよい。この場合、上述したように、鋼帯表面が酸化されているため、酸洗による酸化皮膜の除去と、ニッケルストライクめっきと呼ばれる薄いNiめっきが施されるのが一般的である。このNiめっきは、次に述べる第1層を構成することができる。
【0033】
第1層の薄いNiめっき層は、めっき母材の鋼帯(好ましくは焼鈍冷延鋼帯)と電気亜鉛めっきとの密着性を向上させる働きがある。すなわち、母材鋼帯の表面に、母材鋼帯全体を覆いつくさない程度の少量のNiが存在すると、第2層の電気亜鉛めっきが析出する際にこのNiを起点として電気亜鉛めっきの析出が起こり易く、NiとZnは良好なめっき密着性を有するため、電気亜鉛めっきの母材鋼帯との密着性が向上すると考えられている。
【0034】
Niめっきを付与する目的は、母材鋼帯の全体を均一に覆って耐食性の向上を図るような目的とは異なり、少量のNiを鋼帯表面に点々と島状に付着させてそのNiを起点とした電気亜鉛めっきの析出を補助することにある。従って、Niめっきの付着量はミクロ的にみると均一ではないので、連続する1cm2の範囲を測定した時の平均付着量として表記する。
【0035】
本発明では、第1層のNiめっき層の付着量は、鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10箇所の付着量を測定した際の平均付着量で1mg/m2以上、30mg/m2以下である。このNiめっき層の平均付着量が1mg/m2未満では、電気亜鉛めっきの密着性が不足し、例えば、深絞り成型を実施した際の電気亜鉛めっきの密着性が不十分となる。一方、Niめっき層の平均付着量が30mg/m2を超えると、生産時のラインスピードを低下させる必要がある上、コスト面でも不利である。
【0036】
めっき母材の鋼帯にこのような低付着量のNiめっきを実施しようとすると、種々の原因で鋼帯の幅方向にNiめっきの付着量の差が発生する。そして、このようなNiめっきの付着量の差があると、その上に電析する亜鉛めっきの結晶のサイズや配向が異なるため、美麗な電気亜鉛めっき鋼帯が得られない。この理由から、従来は、鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10箇所の付着量を測定した際のNiめっきの付着量における最大付着量と最小付着量の差である付着量差の割合を10%より少なく抑える必要があった。そのためには鋼帯生産時のラインスピードを低下させる等の工夫が必要であり、生産性を阻害していた。
【0037】
本発明では、鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10箇所の付着量を測定した際の最大付着量と最小付着量の差の平均付着量に対する割合が10%以上と大きい、高い生産性で製造される鋼帯である場合でも、安定して美麗な電気亜鉛めっき鋼帯及びクロムフリー電気亜鉛めっき鋼帯を得ることが可能である。従って、第1層のNiめっき層の上記付着量差の割合は好ましくは10%以上である。このような大きな付着量差がある時に本発明の効果がより明確となるからである。この付着量差の割合は、例えば50%を超えてもよく、100%またはそれ以上に達してもよい。この割合の上限は特に制限されないが、一般には150%以内であることが好ましい。
【0038】
第1層のNiめっき層は電気めっきにより形成される。Niめっきは、ニッケルイオンを含有する水溶液に鋼帯を浸漬して所定の通電量にてNiを析出させる方法であればどのような方法でも構わない。一般的なNiストライクめっきは塩化ニッケルを含有する塩化浴を使用して行われるが、そのような通常のストライクめっき法を採用することで第1層を形成することができる。Niめっきは、母材鋼帯が焼鈍冷延鋼帯である場合には、連続焼鈍後の酸洗直後に実施するのが好ましいが、時間をおいてから、または電気亜鉛めっき鋼帯の直前に実施することも可能である。
【0039】
この第1層のNiめっき層の上に、従来は電気亜鉛めっきを施すのであるが、本発明では第2層として、少なくとも1種のアミン化合物と、少なくとも1種のS含有官能基を持つ有機化合物という、2種類の有機化合物からなる層を、電気亜鉛めっきを施す前に形成する。この第2層を形成することが、本発明の特徴である。
【0040】
アミン化合物は、水溶液中ではカチオン性アミンとして選択的にニッケル原子に物理吸着により配位しやすいという特徴をもつ。一方、S含有官能基を持つ有機化合物は、硫黄原子がもつ非共有電子対が選択的に鉄原子に化学吸着により配位しやすいという特徴をもつ。
【0041】
アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物の各1種以上からなる第2層を形成することにより、第1層のNiめっき層が島状に不均一かつ部分的に鋼帯表面を覆っていても、鋼帯表面のNiにはアミン化合物が選択的に吸着し、FeにはS含有官能基を持つ有機化合物が選択的に吸着することで、鋼帯表面の全体が第2層を構成する有機化合物で被覆され、その上層に電析する亜鉛の結晶配向が鋼帯の全面で一定となり、美麗なムラのない電気亜鉛めっき鋼帯の製造が可能となる。
【0042】
これに対し、アミン化合物のみから第2層を形成する場合には、この有機化合物が選択的にNiの上に吸着しやすいため、第1層のNiめっき層に付着量ムラがあると、Niの付着量の少ない部分で第2層が形成されにくいと考えられる。そのため、第3層の電気亜鉛めっきのムラが発生してしまう。
【0043】
また、S含有官能基を持つ有機化合物のみから第2層を形成する場合には、この有機化合物は選択的にFeに吸着しやすいため、第1層のNiめっき層の付着量の多い部分の上には第2層が形成されにくいと考えられる。そのため、やはり第3層の電気亜鉛めっきにムラが発生する。
【0044】
このようにアミン化合物とS含有官能基を有する有機化合物の両方が必要であるので、アミン化合物だけを2種以上使用するか、S含有官能基を持つ化合物だけを2種以上しても、本発明による効果を確実に達成することはできない。
【0045】
第2層におけるアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物の付着量は、それらの総和で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下とする。この付着量が0.002mg/m2より少ないと、その上層に電析する亜鉛の結晶配向の変化が十分でなく、美麗なムラのない電気亜鉛めっき鋼帯が得られない。一方、この付着量が1mg/m2を超えると、上層に電析する電気亜鉛めっきの密着性が低下する。また高付着量を得るためには処理液の濃度を濃くせざるを得ないためコスト的にも好ましくない。
【0046】
アミン化合物の例としては、脂肪族、脂環式および芳香族の各種アミン化合物、ヘテロ原子としてNを含有するヘテロ環化合物などが挙げられ、水溶性の化合物を使用することが好ましい。分子中のアミノ基の数が多い有機化合物が好ましいので、ポリアミン、中でも、ポリエチレンイミンのようなポリアルキレンポリアミン及びその誘導体が、効果が大きく最も好ましい。
【0047】
S含有官能基を持つ有機化合物の例としては、チオカルボニル基(>C=S)基もしくはチオール(−SH)を有する化合物や、ヘテロ原子としてSを含有するヘテロ環化合物が挙げられ、やはり水溶性の化合物を使用することが好ましい。中でも、チオ尿素及びその誘導体が、効果が大きいので好ましい。なお、チオ尿素のようにさらにアミノ基(−NH)も含有する場合、このアミノ基は反応性に乏しく、Feへの吸着効果を示さない。そこで、チオ尿素及びその誘導体、広義には、チオカルボニル基、チオール基又は−S−部分とアミノ基の両方を持つ有機化合物は、本発明ではS含有官能基を持つ有機化合物として扱う。
【0048】
第2層として、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物という2種類の有機化合物からなる層を形成させる方法は特に限定されないが、第1層として前述したNiめっき層を有する鋼帯を、1種以上のアミン化合物およびS含有官能基を持つ1種以上の有機化合物を溶解させた溶液、好ましくは水溶液に浸漬して.これらの化合物をNiめっき層の表面に吸着させる方法、この溶液を用いて、鋼帯に通電しながら電気的もしくは静電的に吸着させる方法、この溶液を噴霧または他の方法で塗布した後、乾燥させる方法などが可能である。溶媒は水が好ましいが、次に述べるように酸性液とすることがより好ましい。
【0049】
第2層を形成する方法として最も好ましいのは、電気亜鉛めっきの前処理として一般に実施されている酸洗処理に使用する酸洗浴(すなわち、酸性液)中に、1種以上のアミン化合物とS含有官能基を持つ1種以上の有機化合物とを添加し、酸洗と同時に、鋼帯表面(この表面は薄いNiめっき層を有するが、Niめっきは島状に不均一に付着しているため、部分的は鉄が表面露出している)にこれらの有機化合物を吸着させることによって、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とからなる第2層を形成する方法である。酸洗浴にアミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物を添加して、これらの化合物を酸洗浴中に溶解または懸濁させ、この酸洗浴中に鋼帯を通板することにより、酸洗を行いながら鋼帯表面にアミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物を、NiやFeとの配位結合により強固に吸着させることによって、第2層が形成される。
【0050】
特に酸洗により鋼帯のNiめっき表面に新鮮な金属鉄や金属ニッケルが露出した直後は、アミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物が鉄またはニッケルに最も容易に配位結合して吸着されやすく、安定で均一な第2層が形成されやすいことを本発明者らは数々の実験により明らかにした。この方法であれば、既存の電気亜鉛めっき鋼帯生産設備の改造や追加のプロセスを必要とせず、既存設備のみで生産が可能であり、非常に効率的である。
【0051】
酸洗浴へのアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物の添加量は、酸洗処理とその後の水洗後に鋼帯表面に残留するこれらの有機化合物の付着量が、それらの総和で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下となるように選択する。
【0052】
アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物の割合は特に規定されないが、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物が、ともに最低の付着量である0.002mg/m2以上となるようにすることが好ましい。
【0053】
酸洗浴の種類は特に限定されないが、一般には塩酸または硫酸をベースとする酸浴である。本発明に従ってアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とを添加することを除けば、酸洗処理は電気亜鉛めっき鋼帯の酸洗処理に慣用されている条件で行うことができる。
【0054】
第2層を形成するのに用いるアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物を含有する酸性液(例、酸洗浴)中に、鋼帯表面に存在する鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物を同時に添加すると、鉄及びニッケルの酸化物が除去されて、アミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物が鋼帯上の鉄及びニッケルにより容易に吸着しやすくなるため、上層に電析する電気亜鉛めっきの結晶配向がさらに均一化することが期待できる。
【0055】
鋼帯表面に形成された鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進させる化合物の例としては
一般的に酸洗促進剤と呼ばれる種類の化合物の中から適当なもの選んで使用することができる。酸洗促進剤としてこれまでに多様な無機および有機化合物が知られているが、本発明で使用するのに特に好ましいのは、飽和低級カルボン酸である。カルボン酸はモノカルボン酸とジ又はポリカルボン酸のいずれでもよい。適当な飽和低級カルボン酸の例は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸などである。
【0056】
チオール類やアミン類の中にも酸洗促進剤と呼ばれるものもある。しかし、本発明者らの検討によれば、前述した鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進させる効果は必ずしも認められなかった。そこで、本発明では、これらは、アミン化合物またはS含有官能基を持つ有機化合物とみなし、これらと同時に、前述したような鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物を添加するのが好ましい。
【0057】
ここで鋼帯表面に存在する鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物(=酸洗促進剤)とは、酸性浴中にその化合物を添加することで、非添加のときよりも酸洗が促進される化合物のことである。酸洗が促進されるかどうかの確認方法は、化合物非添加の酸の酸洗減量(一定サイズの鋼帯を一定濃度及び温度の酸液に一定時間浸漬した際の重量の減少量)を調査しておき、次に一定量の化合物を添加した際の酸洗減量を調査して、化合物を添加した際の酸洗減量が大きければその化合物は酸洗促進剤であると定義する。
【0058】
酸洗浴または酸性液を用いて上述した第2層を形成した場合には、酸洗浴または酸性液による処理後に水洗を行う。この水洗は常法に従って実施すればよい。
上記のようにしてアミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物からなる第2層を形成した後、その上層の第3層として、95%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層を形成する。電気亜鉛めっき層を形成する方法は従来の電気亜鉛めっき法と同様で良い。使用する電気亜鉛めっき浴は、硫酸浴でも塩酸浴でも良い。めっき浴の組成も限定されない。
【0059】
めっき浴のZnイオン濃度が電気亜鉛めっきに一般的に利用されている程度の濃度であれば、電気亜鉛めっき層の形成が可能である。但し商業的に製造されている電気亜鉛めっき浴には、一般に母材鋼帯から溶出するFeイオンかなりの割合で溶けているのが普通であり、他の不純物金属イオンも微量溶解している。そのため、第3層として形成する電気亜鉛めっき層のZn含有量は95%以上とする。電気亜鉛めっき層のZn含有量が95%より低いと、表面外観や耐食性の低下が起こる。
【0060】
電気亜鉛めっきによりZnめっき層を析出させる際の電流密度は特に規定されず、電気亜鉛めっき鋼帯の製造に一般利用されているのと同様の電流密度でよい。一般的には電流密度は10〜100A/dm2程度である。通電方法は連続通電でも断続的なパルス通電でも良い。
【0061】
第3層として形成する95%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層の付着量は特には限定されないが、好ましくは5g/m2以上、100g/m2以下である。電気亜鉛めっき層の付着量が5g/m2以上にならないと、十分な耐食性付与効果が得られない。また、電気亜鉛めっきは不均一に析出しやすく、付着量が少ないとムラになり表面外観を損ないやすいので、その意味でも付着量を5g/m2以上とするのが好ましい。一方、電気亜鉛めっき層の付着量が100g/m2を超えると、耐食性付与効果が飽和する上、電気の使用量が上昇し、不経済である。
【0062】
こうして、第1層のNiめっき層、第2層の上述した有機化合物層の上に、第3層としてZn含有量が95質量%以上の電気亜鉛めっき層を形成することによって、電気亜鉛めっき層の表面の任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつの10個所の明度(L値)を測定した時の最大明度と最小明度の明度差の平均明度に対する割合が2%以下という、表面ムラや色調バラツキが極めて抑制された、美麗な外観を有する電気亜鉛めっき鋼帯が得られる。この明度差は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。明度差が小さいほど表面ムラや色調バラツキが小さくなり、外観の美麗さが増す。
【0063】
第3層として形成したZn含有量が95%以上の電気亜鉛めっき層の上に、第4層としてクロムフリー皮膜を設けることにより、第1層及び第2層の上に第3層として生成させた電気亜鉛めっき皮膜の美麗な外観という特徴をよりいっそう引き立てることができる。
【0064】
第4層のクロムフリー皮膜の種類は特に制限されず、電気亜鉛めっきの上層に形成するために提案されている各種のクロムを含まない皮膜を利用することができる。典型的なクロムフリー皮膜は、透明若しくは半透明の厚み1μm前後の薄膜の有機樹脂皮膜、無機系皮膜、または有機無機複合皮膜である。有機樹脂皮膜としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂皮膜が例示される。無機系皮膜としては、シリカ系皮膜(例、エチルシリケートまたはその加水分解物から形成)、リチウムシリケート系皮膜、リン酸アルミニウム系皮膜などが例示される。無機系皮膜中に有機樹脂を含有させると、有機無機複合皮膜となる。
【0065】
第4層のクロムフリー皮膜が存在すると、第3層の電気亜鉛めっき層に部分的にZnの結晶サイズや配向面の違いがあった場合、この部分の明度差が大きく助長されて、表面外観の差として目立ったものにしてしまうという性質がある。第3層の電気亜鉛めっき層の上に第4層として薄膜の透明なクロムフリー皮膜が存在すると、第3層までの場合に比べて表面の明度がL値で10ポイント程度低下するが、予め第3層に明度差があると、第3層の明部も暗部も等しく約10ポイントずつ低下するので、こうして生じた明度差がちょうど人間の目に認識されやすい明度差の領域になるためであると考えられる。
【0066】
本発明では、第3層の電気亜鉛めっき層における上記明度差が2%以内と非常に小さいため、クロムフリー皮膜の形成によりこの明度が肉眼でよりはっきり見えるようになっても、なお外観のムラや色調バラツキが目立ちにくく、美麗な外観が保持される。第4層を形成した後に上記と同様に求めた明度差の割合も2%以内であることが好ましく、より好ましくは1%以内である。
【0067】
第4層のクロムフリー皮膜の形成方法は特に制限されない。一般的に採用されている、ロールコーターで塗布する方法、スプレーで塗布した後、ロールで絞って厚みをコントロールする方法、スプレーで塗布した後、水洗して不要成分を洗い流す方法等が利用できる。塗布後に必要に応じて乾燥または焼付けを行う。クロムフリー皮膜の厚みも制限されない。典型的には1μm前後であるが、皮膜材質によっては、それより薄く、または厚くすることができる。一般に厚みは3μm以下とすることが好ましい。第4層のクロムフリー皮膜には、所望により、防錆成分、耐候性付与成分、潤滑性付与成分、皮膜強化成分(架橋剤、シランカップリング剤)などから選んだ1種または2種以上を適量含有させてもよい。
【実施例】
【0068】
以下では、本発明について実験例を示して説明する。
(1)電気亜鉛めっき鋼帯及びクロムフリー被覆鋼帯の試験片の作成
以下、全ての試験において、普通鋼(0.8mm厚さ)の冷延焼鈍鋼帯から170mm×170mmに切り出した鋼板をめっき母材として使用し、実際の連続電気めっきラインの流動状況を模擬した小型フローセルを用いて、めっき液を所定の流速で1方向に流動させながら電気めっきを実施した。
【0069】
まず、鋼帯から切りだした鋼板を、30℃の10%NaOH水溶液中で10A/dm2の電流密度での電解脱脂を5分間実施した後、水流中で2分間水洗することにより脱脂した。
【0070】
この脱脂した鋼板に、表1に記載の条件で両面にニッケルめっきを施し、第1層のNiめっき層を形成した。Niの付着量は、電流密度と通電時間の調整によりを所定の付着量になるようにした。鋼帯の連続電気めっきでは、めっき浴における液の流れ方向は鋼帯の圧延方向に並行、従って、鋼帯の幅方向に対して垂直方向になる。この状態を模擬するため、本実施例における実験では、鋼板の圧延方向がめっき浴の流動方向と平行になるように鋼板をセットしてめっきした。
【0071】
【表1】

【0072】
Niめっきを施した鋼板に、Niめっき浴における液の流れ方向と垂直方向(前記の通り、この方向は鋼帯連続めっきでは鋼帯の幅方向に相当)に10mm角(1cm2)で連続して10ヶ所サンプリングし、酸洗後に原子吸光法にて測定したNi付着量を検量線とした蛍光X線法により、それぞれの個所のNi付着量を測定した。
【0073】
測定した10ヶ所のNi付着量の平均値を平均付着量とした。また、10ヶ所の付着量の最大付着量と最小付着量から付着量差(=最大付着量−最小付着量)の平均付着量に対する割合(%)を付着量バラツキとして求めた。それらの結果を表4にまとめて示す。
【0074】
第1層のNiめっき層を形成した鋼板を、表2に示した組成を有する酸洗液に、25℃で5秒間浸漬した後、水洗(スプレー)して、酸洗を行うと同時に、鋼板の両面にアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とからなる第2層を形成した。表2中、N含有化合物及びS含有化合物とあるのは、それぞれアミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物の意味である。
【0075】
【表2】

【0076】
第2層を形成した各鋼板について、島津製作所製ESCA3200を用いて求めたN及びSの強度から、N原子及びS原子の含有率(質量%)を測定した。また同一の鋼板(第1層だけを形成したもの)を、アミン化合物及びS含有官能基を持つ有機化合物をいずれも添加していない同一の酸洗液で同じ条件下で酸洗したものについて同じ方法でN及びSの強度を測定し、その時の測定値との差から、第2層中のアミン化合物およびS含有官能基を持つ有機化合物の付着量をそれぞれ決定した。結果は表4にまとめて示す。
【0077】
上記方法で第2層を形成した鋼板に、表3に示した条件で電気亜鉛めっきを施し、第3層となる電気亜鉛めっき層を鋼板の両面に形成した。使用しためっき浴は、試験のつど新しく建浴したので、電気亜鉛めっき層のZn含有量は99%以上、実質的には100%であった。また、第1層の形成時と同様に、鋼板の圧延方向がめっき浴の流動方向と平行になるように鋼板をセットしてめっきした。
【0078】
【表3】

【0079】
電気亜鉛めっき層の付着量は、めっき後の鋼板を所定の大きさに切断して得た試験片を、インヒビター入りの希塩酸に浸漬して酸洗し、電気亜鉛めっきのみを溶解した後、重量法(酸洗前後の質量の差)により求めた。
【0080】
一部の鋼板については、電気亜鉛めっきを実施して第3層を形成した後、その片面にクロムフリーウレタン樹脂塗料(クリア塗料)を、焼付け後の膜厚が約1μmになるようにバーコーターで塗布し、100℃の最高到達板温(PMT)で焼付けを行い、室温まで放置冷却して、第4層のクロムフリー皮膜を形成した。
【0081】
第4層の付着量は、予め重量法で測定した既知膜厚の有機樹脂(クロムフリーウレタン樹脂)にて作成した検量線を使用した蛍光X線での測定結果から求めた。その結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
(2)性能調査
(2−1)めっきムラ
上記で作成した第1層〜第3層を有する電気亜鉛めっき鋼板または第1層〜第4層を有するクロムフリー被覆鋼板について、冷延鋼帯の幅方向に相当する方向(すなわち、電気亜鉛めっき浴における液流れ方向に垂直な方向)に連続した10mm角(1cm2)の大きさの10ヶ所の領域において、スガ試験機社製色差計SM−7−IS−2Bにより、ハンター表色系の明度(L値)を測定し、その10個の測定値から平均明度、最小明度、最大明度及び明度のバラツキ(明度差(=最大明度−最小明度)の平均明度に対する割合(%))を算出した。
【0084】
明度のばらつきの程度と目視で確認できためっきムラの程度を照らし合わせて以下の様に評点をつけた。
○:明度のバラツキが≦2%(目視でムラが認められない)
×:明度のバラツキが>2%(目視でムラが認められる)。
【0085】
(2−2)めっき密着性
上記の手法で第3層(電気亜鉛めっき)までを形成した電気亜鉛めっき鋼板を直径90mmの円形に打ち抜き、その質量を測定してW1とした。この鋼板に成型油を塗油し、内径50mm、肩R5mm、高さ25mmの円筒成形を実施した後、溶剤脱脂を行った。得られた成形材の円筒壁面部の外面にセロハンテープを張ってから剥離し、再び質量を測定してW2とした。W1−W2の値をめっきの剥離量として記録し、次のように評価した。
【0086】
○:めっき剥離量≦5mg(めっきの実質的な剥離無し)
×:めっき剥離量>5mg(めっきの実質的な剥離有り)
以上の試験結果を表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
表3〜表5からわかるように、発明例では、明度差が2%以内と明度のバラツキが小さく、目視でのムラも認められなかった。クロムフリー被覆を施したNo.8、9では、この被覆がない他の例に比べて明度が全体に10%程度低くなったが、明度差は2%以内にとどまっており、美麗な外観を保持していた。
【0089】
これに対し、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物からなる第2層の付着量が少なすぎたNo.10では、明度差が2%を超え、目視で外観にムラが認められた。一方、この第2層の付着量が多すぎたNo.11では、外観は良好であったが、電気亜鉛めっき層の密着性が低下した。また、第1層のNiめっき層の付着量が少なすぎたNo.12でも、やはり電気亜鉛めっき層の密着性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯の少なくとも一方の面において、電気亜鉛めっき層の下に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であるNiめっき層を有する電気亜鉛めっき鋼帯であって、該電気亜鉛めっき層の表面の任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつの10個所の明度(L値)を測定した時の最大明度と最小明度の明度差の平均明度に対する割合が2%以下であることを特徴とする電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項2】
鋼帯の少なくとも一方の面において、電気亜鉛めっき層の下に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であるNiめっき層を有する電気亜鉛めっき鋼帯の上層にクロムフリー被覆を施したクロムフリー被覆電気亜鉛めっき鋼帯であって、該クロムフリー被覆の表面の任意の部分で鋼帯の幅方向に連続した1cm2ずつの10個所の明度(L値)を測定した時の最大明度と最小明度の明度差の平均明度に対する割合が2%以下であることを特徴とするクロムフリー被覆電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項3】
鋼帯の少なくとも一方の面において、下から順に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であり、かつその時の最大付着量と最小付着量の付着量差の平均付着量に対する割合が10%以上であるNiめっき層からなる第1層と、それぞれ1種以上のアミン化合物およびS(硫黄)含有官能基を持つ有機化合物からなり、付着量がこれらの有機化合物の総量で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下である第2層と、95質量%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層からなる第3層と、を有する、請求項1記載の電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項4】
鋼帯の少なくとも一方の面において、下から順に、任意の部分で鋼帯の幅方向に連続して1cm2ずつ10個所の付着量を測定した時の平均付着量が1〜30mg/m2であり、かつその時の最大付着量と最小付着量の付着量差の平均付着量に対する割合が10%以上であるNiめっき層からなる第1層と、それぞれ1種以上のアミン化合物およびS(硫黄)含有官能基を持つ有機化合物からなり、付着量がこれらの有機化合物の総量で0.002mg/m2以上、1mg/m2以下である第2層と、95質量%以上のZnを含有する電気亜鉛めっき層からなる第3層と、クロムフリー皮膜からなる第4層とを有する、請求項2記載のクロムフリー被覆電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項5】
アミン化合物がポリエチレンイミン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物である、請求項3または4記載の電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項6】
S含有官能基を持つ有機化合物がチオ尿素及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項3〜5のいずれかに記載の電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項7】
前記第2層が、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とを含有する酸性液に浸漬することによって鋼帯表面にアミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とを吸着させることにより形成された層である、請求項3〜6のいずれかに記載の電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項8】
前記酸性液が、アミン化合物とS含有官能基を持つ有機化合物とに加えて、鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物を含有している、請求項7記載の電気亜鉛めっき鋼帯。
【請求項9】
前記鉄及びニッケルの酸化物の除去を促進する化合物が、飽和低級カルボン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種の化合物である、請求項8に記載の電気亜鉛めっき鋼帯。

【公開番号】特開2013−19039(P2013−19039A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155519(P2011−155519)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000213840)朝日化学工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】