説明

群体ボヤ由来の新規Mdm2拮抗剤およびその製造方法

【課題】本発明は、がん治療に有用と考えられる新規Mdm2拮抗剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明により、式(I)(式中、各可変基および指数は明細書中で定義されたとおりの意味を有する)で表される化合物を有効成分として含有するMdm2拮抗剤が提供される。式(I)の化合物は、群体ボヤを抽出し、得られた抽出物を精製することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、群体ボヤ由来の新規Mdm2拮抗剤、該Mdm2拮抗剤を含有するがん治療用医薬組成物、Mdm2拮抗作用を有する新規化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん抑制遺伝子産物であるp53は、細胞のがん化を抑える働きをしている重要なタンパク質であり、「ゲノムの守護神」とよばれている。がん治療においては、がん細胞をいかにしてアポトーシスに導くかが重要である。そして、p53の働きを活性化することによりがんを治療するために、p53遺伝子を導入する遺伝子治療や、変異型p53タンパク質を活性化して正常な働きをさせる低分子化合物の開発に関する研究が活発に行われているが、未だ臨床応用には至っていない。
【0003】
一方、p53の負の調節因子Mdm2は、p53に結合することにより、p53が本来行うはずであった細胞修復やアポトーシスを阻害することが知られている。p53は、ユビキチン−プロテアソームシステムにおいて、Mdm2により分解されるべきタンパク質として認識され分解される。従って、Mdm2拮抗作用を有する化合物は、p53の作用を増強し、細胞修復やアポトーシスを誘導して抗がん作用を示すことが期待される。Mdm2拮抗作用を有する化合物としては、例えば特許文献1および2に記載されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-539220号
【特許文献2】特表2006-527713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、がん治療に有用と考えられる新規Mdm2拮抗剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、インドネシアや日本近海で採取した海綿およびホヤ、ならびにこれらの生物に付着または共生している真菌が産生する二次代謝産物についてスクリーニングを行ったところ、群体ボヤの抽出物からMdm2拮抗作用を有する新規化合物の単離およびその構造決定に成功した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 式(I):
【化1】

[式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して水素、C1-6アルキルまたはアシルであり、
R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-6アルキルであり、
Xは、式(a):
【化2】

[式中、R6は水素、C1-6アルキルまたはアシルである]
または式(b):
【化3】

で表される基であり、
mおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、
pは8〜14の整数である]
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有するMdm2拮抗剤。
(2) (1)に記載のMdm2拮抗剤を含有するがん治療用医薬組成物。
(3) 式(I’):
【化4】

[式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して水素、C1-6アルキルまたはアシルであり、
R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-6アルキルであり、
Xは、式(a):
【化5】

[式中、R6は水素、C1-6アルキルまたはアシルである]
または式(b):
【化6】

で表される基であり、
mおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、
pは8〜14の整数であり、
ただし、R1とR2がアセチル、R3〜R5がメチル、mが1、nが0、pが11である場合、Xは式(b)で表される基ではない]
で表される化合物またはその塩。
(4) 群体ボヤを抽出し、得られた抽出物を精製することを特徴とする、(3)に記載の化合物の製造方法。
(5) 群体ボヤがDidemnun属の種である、(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、がん抑制遺伝子p53の働きを増強することによる、従来の化学療法剤とは異なる作用機序を有するがん治療薬を提供することができる。そのようながん治療薬は、従来の化学療法剤よりも副作用が少ない可能性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のMdm2拮抗剤の有効成分である化合物は、下記の式(I)で表される構造を有する。
【0010】
【化7】

【0011】
式(I)中の可変基R1〜R5、指数n、m、pについては、以下に述べるとおりである。
R1およびR2はそれぞれ独立して、水素、C1-6アルキルまたはアシルから選択される。好ましくは、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素またはアシルから選択される。より好ましくは、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素またはC1-6脂肪族アシル(特にアセチル)である。
【0012】
R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-6アルキルから選択される。好ましくは、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-3アルキルから選択される。より好ましくは、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはメチルである。最も好ましくは、R3、R4およびR5は、全て水素であるか、または全てメチルである。
【0013】
Xは、式(a):
【化8】

または式(b):
【化9】

で表される基である。式(a)において、R6は水素、C1-6アルキルまたはアシルから選択される。好ましくは、R6は水素である。
【0014】
mおよびnは、それぞれ独立して0または1である。R2が水素である場合、好ましくはmは0であり、さらに好ましくはmは0、かつnは1である。R2がアシルである場合、好ましくはmは1であり、さらに好ましくはmは1、かつnは0である。
【0015】
pは8〜14の整数である。好ましくはpは9〜13の整数であり、さらに好ましくはpは10〜12の整数である。最も好ましくは、pは11である。
【0016】
上記の定義において、C1-3アルキル、C1-6アルキルおよびアシルは、以下に述べる意味を有する。
【0017】
C1-3アルキル:1〜3個の炭素原子を有する炭化水素基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、およびiso-プロピル。
【0018】
C1-6アルキル:1〜6個の炭素原子を有する炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、n-プロピル、iso-プロピル、ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、iso-ペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシル。
【0019】
アシル:例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル(プロパノイル)、ブチリル(ブタノイル)、バレリル(ペンタノイル)、およびヘキサノイル等の1〜6個の炭素原子を有する脂肪族アシル基(C1-6脂肪族アシル)、ならびにベンゾイル、トルオイル等の芳香族アシル基。
【0020】
式(I)で表される本発明の化合物は、より好ましくは下記の式(Ia)で表される構造を有する。
【0021】
【化10】

【0022】
式(I)で表される本発明の化合物は、場合により塩の形態で、好ましくは製薬上許容できる塩の形態で存在していてもよい。そのような塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
【0023】
式(I)で表される本発明の化合物は、群体ボヤを抽出し、得られた抽出物を精製することにより得ることができる。群体ボヤの抽出は、通常、その全体を用いて行う。抽出原料となる群体ボヤの種類としては、Didemnun属(ウスボヤ属)の種が挙げられる。Didemnun属に属する群体ボヤとしては、Didemnum albidum、Didemnum amethysteum、Didemnum asperum、Didemnum biglans、Didemnum candidum、Didemnum carnulentum、Didemnum chilense、Didemnum coriaceum、Didemnum cuculliferum、Didemnum fulgens、Didemnum galacteum、Didemnum gelatinosum、Didemnum granulatum、Didemnum helgolandicum、Didemnum lahillei、Didemnum maculosum、Didemnum misakiense、Didemnum molle、Didemnum moseleyi、Didemnum pardum、Didemnum santaelenae、Didemnum studeri、Didemnum tenue、Didemnum translucidum、Didemnum vanderhorsti、およびDidemnum vexillumが挙げられる。
【0024】
抽出溶媒としては、一般には有機溶媒、好ましくはメタノール、エタノール、アセトン、プロパノールなどの水混和性溶媒が挙げられる。得られた抽出液を、好ましくは減圧下で溶媒を除去した後、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテルなどの低極性有機溶媒と水とで分液し、その水可溶部をさらにn-ブタノール、n-プロパノール、iso-プロパノールなどの極性有機溶媒と水とで分液し、極性有機溶媒可溶部を回収して精製することにより、式(I)で表される本発明の化合物を効率よく得ることができる。
【0025】
精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより行うことができる。展開溶媒は、クロロホルム、メタノール、水等を適宜組み合わせて利用するのが好ましい。
【0026】
群体ボヤを抽出し精製して得られた化合物は、必要に応じて公知の方法により修飾または置換基を交換して式(I)の化合物に変換してもよい。例えば、ヒドロキシル基における水素をアルキルまたはアシルに変換する反応は当業者に公知である。
【0027】
なお、Didemnun属に属する群体ボヤからは、例えば下記の式(II)で表されるセリノリピッド誘導体等も抽出可能であることが報告されている(Gonzalez, N. et al., J. Org. Chem. 1999, 64, 5705-5707)。
【0028】
【化11】

[式中、Ra=アシルかつRb=水素、Ra=水素かつRb=エチル、またはRa=Rb=水素である。]
【0029】
本発明の式(I)で表される化合物は、Didemnun属に属する群体ボヤから得られる式(II)の化合物等を公知の手法によって適宜修飾することによっても調製することが可能である。
【0030】
式(I)で表される本発明の化合物は、Mdm2拮抗作用を有する。本発明の化合物のMdm2拮抗作用は、p53のE3酵素であるMdm2がp53に結合してp53-Mdm2複合体が形成されることを本発明の化合物が阻害することによるものである。本発明の化合物によれば、p53-Mdm2の複合体形成を阻害することにより、p53が安定化し、p53によるがん抑制作用が促進されることが期待される。従って、本発明に係るMdm2拮抗剤は、がん治療用医薬組成物に用いることができる。
【0031】
本発明のMdm2拮抗剤またはがん治療用医薬組成物は、本発明に係る式(I)の化合物を公知の医薬用担体と組合せて製剤化することができる。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤として使用される。また、本発明のMdm2拮抗剤またはがん治療用医薬組成物は、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として使用してもよい。
【0032】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。
【0033】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0034】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0035】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0036】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールが挙げられる。
【0037】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0038】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0039】
また、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0040】
注射剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、注射剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0041】
その他の外用液剤、軟膏等の塗布剤、貼付剤、直腸内投与のための坐剤等の非経口剤は、常法に従って製造することができる。
【0042】
本発明の製剤は、剤形、投与経路等により異なるが、1日1〜数回から1〜数回/週〜月の投与が可能である。
【0043】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で式(I)の化合物の重量として1〜200mgを、1日数回に分けての服用が適当である。
【0044】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で式(I)の化合物の重量として1日1〜50mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0045】
本発明のがん治療用医薬組成物は、本発明に係る式(I)の化合物に加えて他の公知の抗がん剤、例えばアルキル化剤系、代謝拮抗剤系、植物アルカロイド系、および抗腫瘍剤系の抗がん剤を含んでいてもよい。このように他の抗がん剤を併用する場合には、必要に応じて本発明に係る式(I)の化合物の量を適宜増減することができる。
【0046】
本発明のがん治療用医薬組成物による治療可能な悪性疾患としては、例えば、小細胞肺癌および非小細胞肺癌(例えば腺癌)を含む肺癌、膵癌、結腸癌(例えば結腸腺癌および結腸腺腫のような結腸直腸癌)、食道癌、口腔扁平上皮癌、舌癌、胃癌、肝癌、上咽頭癌、リンパ系列の造血腫瘍(例えば急性リンパ球性白血病、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫)、非ホジキンリンパ腫(例えばマントル細胞リンパ腫)、ホジキン病、骨髄性白血病(例えば急性骨髄性白血病(AML)若しくは慢性骨髄性白血病(CML))、急性リンパ性白血病、慢性リンパ球性白血病(CLL)、甲状腺濾胞癌、骨髄異形成症候群(MDS)、間葉起源の腫瘍、軟組織肉腫、脂肪肉腫、消化管間質肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、間葉軟骨肉腫、リンパ肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、黒色腫、奇形癌腫、神経芽腫、脳腫瘍、神経膠腫、皮膚の良性腫瘍(例えば角化棘細胞腫)、乳癌(例えば進行乳癌)、腎癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、膀胱癌、進行性疾患およびホルモン難治性前立腺癌を含む前立腺癌、精巣癌、骨肉腫、頭頚部癌、表皮癌、多発性骨髄腫(例えば難治性多発性骨髄腫)、中皮腫が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
[1]単離操作
インドネシアのスラウェシ島で採取された群体ボヤDidemnum sp.(湿重量250g、全体を使用)をエタノールとメタノールを用いて繰り返し抽出し(1回目はエタノール、2〜3回目はメタノールを使用)、減圧下で溶媒を除去した。得られた抽出物を酢酸エチルと水で分液し、その水可溶部をさらにn-ブタノールと水で分液することにより、酢酸エチル可溶部(0.86g)、n-ブタノール可溶部(2.10g)および水可溶部(1.11g)をそれぞれ得た。n-ブタノール可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=8:2:0.2 → 7:3:0.5 → 6:4:1)、ODSオープンカラムクロマトグラフィー(メタノール水溶液、50% → 60% → 70% → 80%)、およびODS高速液体クロマトグラフィー(メタノール水溶液、70〜85%、0.1Mの過塩素酸ナトリウム含む)に供し、12種類の化合物(化合物1〜12)を単離した。
【0049】
化合物1(分子量958、収量40mg〜):
【化12】

[α]21D +14.3°(c 31.9, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (29433) nm; IR (KBr) νmax3257, 2926, 2850, 1736, 1720, 1244, 1092, 1047, 972, 669 cm-1; HRESIMS m/z 981.4637 [M+Na]+ (calcd for C43H79N2NaO17PS, Δ-9.2 mmu)
【0050】
化合物2(分子量916、収量7.1mg):
【化13】

[α]21D+13.9°(c 6.32, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (24299) nm; IR (KBr) νmax3410, 2926, 2850, 1732, 1718, 1240, 1088, 1059, 1018, 968, 669 cm-1; HRESIMS m/z 917.4804 [M+H]+ (calcd for C41H78N2O16PS, Δ-0.6 mmu)
【0051】
化合物3(分子量958、収量38.1mg):
【化14】

[α]21D +20.6°(c 14.9, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (30022) nm; IR (KBr) νmax2926, 2854, 1736, 1720, 1244, 1184, 1088, 1055, 1018, 968 cm-1; HRESIMS m/z 959.4910 [M+H]+ (calcd for C43H80N2O17PS, Δ-0.5 mmu)
【0052】
化合物4(分子量916、収量4.92mg〜):
【化15】

[α]21D+10.4°(c 3.95, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (25376) nm; IR (KBr) νmax3284, 2926, 2850, 1736, 1720, 1246, 1088, 1047, 972, 669 cm-1; ESIMS m/z 939.4624 [M+Na]+ (calcd for C41H77N2NaO16PS, Δ-8.9 mmu)
【0053】
化合物5(分子量916、収量13.16mg〜):
【化16】

[α]21D +8.3°(c 10.4, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 204 (23661) nm; IR (KBr) νmax 3404, 2926, 2854, 1736, 1720, 1236, 1088, 1020, 669, 629 cm-1; HRESIMS m/z 939.4616 [M+Na]+ (calcd for C41H77N2NaO16PS, Δ-1.3 mmu)
【0054】
化合物6(分子量874、収量1.67mg):
【化17】

[α]21D+8.0°(c 2.36, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 204 (27606) nm; IR (KBr) νmax3236, 2926, 2850, 1736, 1724, 1232, 1180, 1068, 1020, 669 cm-1; ESIMS m/z 873 [M-H]-
【0055】
化合物7(分子量874、収量4.41mg):
【化18】

[α]21D+8.4°(c 2.48, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 204 (25727) nm; IR (KBr) νmax3421, 2922, 2850, 1720, 1711, 1232, 1088, 1065, 1020, 974, 669 cm-1; ESIMS m/z 873 [M-H]-
【0056】
化合物8(分子量916、収量2.89mg):
【化19】

[α]21D+10.4°(c 3.26, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (26641) nm; IR (KBr) νmax3437, 3273, 2926, 2850 1736, 1728, 1639, 1466, 1369, 1240, 1184, 1074, 1043, 972 cm-1; ESIMS m/z 915 [M-H]-
【0057】
化合物9(分子量832、収量4.90mg):
【化20】

[α]21D+15.5°(c 3.90, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 204 (25145) nm; IR (KBr) νmax3410, 3251, 2922, 2850, 1720, 1711, 1228, 1072, 1020, 669 cm-1; ESIMS m/z 831 [M-H]-
【0058】
化合物10(分子量916、収量5.05mg):
【化21】

[α]21D+10.2°(c 6.06, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (33659) nm; IR (KBr) νmax3417, 3273, 2926, 2854, 1736, 1720, 1243, 1092, 1049, 972, 669 cm-1; ESIMS m/z 915 [M-H]-
【0059】
化合物11(分子量874、収量6.35mg〜):
【化22】

[α]21D+7.1°(c 4.39, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 204 (25215) nm; IR (KBr) νmax3419, 3269, 2922, 2850, 1720, 1709, 1220, 1194, 1092, 1047, 974, 669 cm-1; ESIMS m/z 873 [M-H]-
【0060】
化合物12(分子量916、収量4.90mg):
【化23】

[α]21D+12.7°(c 15.5, MeOH); UV (MeOH) λmax (ε) 205 (28829) nm; IR (KBr) νmax3398, 3273, 2926, 2850, 1736, 1724, 1230, 1190, 1092, 1049, 974, 669 cm-1; ESIMS m/z 915 [M-H]-
化合物1〜12の1H NMRおよび13C NMRのデータを表1〜4にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
[2]生物活性評価
ヒトp53とヒトMdm2を用いたELISA法によって化合物1〜12の活性試験を行った。試験はTsukamoto et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16, 69-71, 2006に記載した手順と同様に行った。
【0066】
p53およびFLAGを結合させたMdm2(Mdm2-FLAG)は、大腸菌で発現させ、精製したものを用いた。まず、p53をELISAプレート上に結合させた。次に、予めサンプル(化合物1〜12)とプレインキュベートしたMdm2-FLAGを加えた。p53-Mdm2複合体形成検出のための抗体には、一次抗体としてマウス抗FLAG抗体、二次抗体としてHRPが結合した抗マウスIgG抗体を用いた。サンプルを加えない対照における結合を100%としてサンプルを加えた場合のMdm2の結合を測定し、IC50を求めた。化合物1〜12における結果を表5にまとめた。
【0067】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して水素、C1-6アルキルまたはアシルであり、
R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-6アルキルであり、
Xは、式(a):
【化2】

[式中、R6は水素、C1-6アルキルまたはアシルである]
または式(b):
【化3】

で表される基であり、
mおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、
pは8〜14の整数である]
で表される化合物またはその塩を有効成分として含有するMdm2拮抗剤。
【請求項2】
請求項1に記載のMdm2拮抗剤を含有するがん治療用医薬組成物。
【請求項3】
式(I’):
【化4】

[式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して水素、C1-6アルキルまたはアシルであり、
R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素またはC1-6アルキルであり、
Xは、式(a):
【化5】

[式中、R6は水素、C1-6アルキルまたはアシルである]
または式(b):
【化6】

で表される基であり、
mおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、
pは8〜14の整数であり、
ただし、R1とR2がアセチル、R3〜R5がメチル、mが1、nが0、pが11である場合、Xは式(b)で表される基ではない]
で表される化合物またはその塩。
【請求項4】
群体ボヤを抽出し、得られた抽出物を精製することを特徴とする、請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
群体ボヤがDidemnun属の種である、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2013−49655(P2013−49655A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189870(P2011−189870)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(511212480)ユニヴェルシタス サム ラトゥランギ (2)
【氏名又は名称原語表記】Universitas Sam Ratulangi
【住所又は居所原語表記】Republic of Indonesia Bahu Manado 95115
【Fターム(参考)】