説明

義歯安定剤

【課題】義歯と顎堤との迅速な接合と、均一かつ良好な咀嚼感とを共に得ることのできる義歯安定剤を提供する。
【解決手段】義歯安定剤10は、水溶性かつ可食性の多糖類からなる長繊維20が長尺のテープ状またはシート状に成形されている。義歯安定剤10は、厚肉部12と薄肉部14とが一次元的または二次元的に繰り返して形成されている。義歯安定剤10は、義歯100の歯槽堤部104に装着される第一面30の側における抗菌剤の濃度が、顎の顎堤に装着される第二面40の側における抗菌剤の濃度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経年的な歯茎の痩せにより義歯(入れ歯)と顎の顎堤との間に隙間が生じると、義歯のがたつきに伴う痛みや咀嚼力の低下が発生する。この場合、義歯の歯槽堤部と顎の顎堤との間に義歯安定剤を充填して、義歯を顎に対して安定的に固定することが行われる。このほか義歯安定剤は、義歯の治療時や破折義歯の修理時にも用いられる。例えば、義歯の治療に関しては、仮床による咬合採得や試適調整の際に用いられる。また、破折義歯の修理に関しては、義歯の転覆や移動、脱落などの不安定な状態で義歯を固定するために用いられる。この種の義歯安定剤としてはペースト状のものが代表的であり(特許文献1参照)、このほか粉末状のものが提供されている(特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の義歯安定剤は、酢酸ビニル樹脂を主成分とするペースト状をなし、チューブ容器に収容された包装形態をとる。チューブ容器から押し出された義歯安定剤は、義歯の歯槽堤部に指で薄く延ばして被着された状態で顎堤と義歯とを接合する。
【0004】
特許文献2に記載の義歯安定剤は、ゼラチン粉末などの非曳糸性高分子の粉末とポリアクリル酸塩粉末とを混合した粉末状をなしている。水で濡らした義歯の歯槽堤部に粉末状の義歯安定剤を撒布して粉末を粘着質に変え、顎堤と義歯とを接合する。
【0005】
このほか、義歯安定剤をシート状に成形して取り扱い性を向上することが試みられている。特許文献3には、カラヤガムなどの粘質物を不織布に含浸させた総義歯安定用薄層シートが記載されている。また、特許文献4には、水溶性高分子、アルギン酸塩および硫酸カルシウムなどの各成分を溶媒に混合した後に乾燥させて粉末状やシート状などに成形した義歯安定剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−352612号公報
【特許文献2】特開平5−32515号公報
【特許文献3】実開昭59−172413号公報
【特許文献4】特開2002−626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
義歯安定剤には、義歯と顎堤との迅速な接合と、均一かつ良好な咀嚼感とが求められる。ここで、顎堤は平坦ではなく、その凹凸形状は人により相違し、また歯茎の経年的な痩せによって変化する。このため、義歯の歯槽堤部と顎堤との隙間は一定ではなく、これを迅速かつ均一に埋めつつも良好な咀嚼感を得ることは困難であった。
【0008】
特許文献1のペースト状の義歯安定剤は、粘着性の樹脂で歯槽堤部と顎堤とを接合するため所定の塗布厚が必要であって咀嚼感が乏しい。また、指で薄く延ばして使用するため歯槽堤部と顎堤との一定でない隙間を均一に埋めることができない。なお、隙間を埋めるために義歯を顎堤に強く押圧することは不快感を伴い、また、義歯を押圧しても義歯安定剤は柔軟な顎堤にそのまま押し付けられるにとどまり、隙間を均一に埋めるように流動させることは難しい。特許文献2の粉末状の義歯安定剤は、義歯を顎堤に装着する際にずれやすく、また歯槽堤部の場所ごとに必要十分な量を撒布することが困難である。
特許文献3の義歯安定剤は、不溶性の不織布が義歯と顎堤との間に残るため咀嚼感が乏しく、また歯槽堤部と顎堤との隙間を均一に埋めることもできない。そして、特許文献4の義歯安定剤は、乾燥状態から水と接触して粘着性を発揮するまでに時間を要するため、義歯と顎堤とを迅速に接合することは困難である。また、この義歯安定剤が全体に粘着性を発揮するためには所定量の水分が必要であり、義歯の表面を濡らす水や口腔内の唾液では水分が不足する場合がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、義歯と顎堤との迅速な接合と、均一かつ良好な咀嚼感とを共に得ることのできる義歯安定剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、水溶性かつ可食性の多糖類からなる長繊維が所定形状に成形されてなる義歯安定剤が提供される。
【0011】
上記発明によれば、長繊維の毛管力により水分が全体に迅速かつ均等に行き渡りながら義歯安定剤は溶解する。ここで、多孔質材料ではなく長繊維の成形体としたことで、通孔にデッドエンドが実質的に存在せず、水分の浸透性および溶解速度が高い。このため、人体に安全な可食性の長繊維が、溶解して薄く広がりながら義歯と顎堤との隙間を埋めて両者を密着させる。また、本発明の義歯安定剤は、短繊維や粉末状ではなく長繊維からなるため、粘着性が発現する半溶融状態でも位置ずれをすることがなく、かつ近傍にある隙間を顎堤の全体に亘って埋めることができる。
【0012】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の義歯安定剤によれば、水分の浸透性および溶解速度が高いため、義歯と顎堤とを迅速に接合することができる。また、薄く溶解しながら歯槽堤部と顎堤との隙間を埋めるため、均一かつ良好な咀嚼感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる義歯安定剤を示す部分斜視図である。
【図2】(a)は図1のII−II線断面図であり、(b)は変形例を示す断面図である。
【図3】義歯安定剤の使用状態を示す斜視図である。
【図4】義歯安定剤の製造装置を示す模式図である。
【図5】(a)は第二実施形態にかかる義歯安定剤の平面図であり、(b)は第三実施形態にかかる義歯安定剤の斜視図である。
【図6】(a)は第四実施形態にかかる義歯安定剤の斜視図であり、(b)は第五実施形態にかかる義歯安定剤の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
図1は本発明の第一実施形態にかかる義歯安定剤を示す部分斜視図である。図2(a)は、図1のII−II線断面図(横断面図)である。
【0017】
はじめに、義歯安定剤10の概要について説明する。
本実施形態の義歯安定剤10は、水溶性かつ可食性の多糖類からなる長繊維20が所定形状に成形されてなる。
【0018】
本実施形態において長繊維とは、繊維長をJIS L1015の平均繊維長測定方法(C法)で測定した場合に70mm以上、好適には80mm以上、より好適には100mm以上である繊維をいう。
【0019】
長繊維20に用いられる水溶性かつ可食性の多糖類としては、プルラン、ペクチン、カラギナン、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、カードランなどの天然の増粘多糖類を挙げることができる。このうち、水溶性および接着性が良好であって工業的にも製造可能であるという観点から、プルランが特に好適に用いられる。また、プルランの場合、無味無臭のため、顎堤と接触しても唾液の発生が抑制される。このため、過剰の唾液によって義歯安定剤10が流動してしまうことが防止される。さらにプルランの場合、曳糸性が高く長繊維20の細線化が可能であるため、水分の浸透性および溶解速度がより良好な義歯安定剤10を形成することができる。
【0020】
義歯安定剤10は、長繊維20の交絡体を主成分として含むかぎり、その成形形状は任意である。本実施形態ではテープ状の義歯安定剤10を例示するが、これに限られない。たとえば、後述するように、第二実施形態のような所定形状のシート状でもよく、または第三実施形態のようなタブレット状でもよい。本実施形態の義歯安定剤10は、長繊維20を含むすべての成分が水溶性である。
【0021】
本実施形態の義歯安定剤10は、厚肉部12と薄肉部14とが一次元的または二次元的に繰り返して形成された長尺のテープ状またはシート状をなしている。より具体的には、図1に示すように、本実施形態の義歯安定剤10は厚肉部12と薄肉部14とが一次元的に繰り返されたテープ状(リボン状)をなしている。図1では、長尺の義歯安定剤10の先端の一部のみを図示している。
【0022】
長尺の義歯安定剤10の幅寸法は、8〜16mmが好ましい。この範囲であることにより、義歯100の歯槽堤部104に対して平坦なままで、または幅方向に湾曲させた状態で、容易に装着することができる。
【0023】
薄肉部14は、厚肉部12よりも肉厚が小さい部分領域である。薄肉部14の肉厚はゼロでもよく、または所定の厚さを有してもよい。言い換えると、薄肉部14は貫通孔でもよく、有底の凹部でもよい。本実施形態では、図2(a)に示すように薄肉部14が貫通孔である場合を例示する。一方、図2(b)に示す後述の変形例のように、薄肉部14は有底の凹部でもよい。
【0024】
図3は、本実施形態の義歯安定剤10の使用状態を示す斜視図である。同図は、義歯100の歯槽堤部104に義歯安定剤10が装着された状態を示している。同図には、上顎用の総義歯を図示しているが、本実施形態の義歯安定剤10は部分義歯の固定にも用いられ、また下顎用の義歯の固定にも用いられる。
義歯100は、人の上顎の口腔粘膜に密着する義歯床102と、その周囲に馬蹄形に形成された凹溝にあたる歯槽堤部104と、歯槽堤部104の反対面側に固定された人工歯106とからなる。歯槽堤部104には人の顎堤(図示せず)が嵌合して、義歯安定剤10を粘着剤として互いに接合される。
【0025】
テープ状の義歯安定剤10は、所定の長さに切断して用いられる。予め所定の水分が与えられた歯槽堤部104に義歯安定剤10を置くと、毛管力によってこの水分は長繊維20に吸収される。水を吸収した義歯安定剤10は半溶融状態となって歯槽堤部104に付着する。この状態で義歯100は顎堤に押し付けられる。そして、顎堤の表面の唾液を吸収して義歯安定剤10は完全に溶融し、粘着剤となって歯槽堤部104と顎堤とを接合する。
【0026】
ここで、本実施形態の義歯安定剤10は、厚み方向に貫通して設けられた貫通孔を薄肉部14として備え、薄肉部14の周囲に厚肉部12を備えている。これにより、半溶融状態の厚肉部12は、顎堤の高い部分にあたって近傍の薄肉部14に流れ込む。このため、少ない力で、また少量の義歯安定剤10によって義歯100と顎堤とを密着させることができる。すなわち、本実施形態の義歯安定剤10は長繊維20の交絡体からなるため嵩高であり、これが吸水して溶融しながら押圧されることにより、歯槽堤部104と顎堤との間の複雑な凹凸に追随して変形する。そして、溶融した義歯安定剤10の体積は僅かであるため、薄い粘着層となって歯槽堤部104と顎堤とを密着させる。
また、薄肉部14が脆弱部となるためテープ状の義歯安定剤10を任意の長さで千切って使うことができる。
【0027】
薄肉部14の形状は特に限定されず、本実施形態のような円孔のほか、筋状や散点状、波状など種々をとることができる。そして、薄肉部14は、本実施形態のように離散的に形成されてもよく、溝状に連続的に形成されてもよい。また、薄肉部14を有底の凹部とする場合、薄肉部14における最小肉厚は、厚肉部12の肉厚の二分の一以下が好ましい。
【0028】
義歯安定剤10を歯槽堤部104に装着するにあたっては、複数枚の義歯安定剤10を重ね合わせて用いてもよい。これにより、義歯安定剤10をさらに嵩高にすることができる。
【0029】
本実施形態の義歯安定剤10は、義歯100の歯槽堤部104に装着される第一面30と、顎の顎堤に装着される第二面40と、を備えている。また、本実施形態の義歯安定剤10は抗菌剤を含有している。そして、第一面30の側における抗菌剤の濃度は、第二面40の側における抗菌剤の濃度よりも高い。
【0030】
抗菌剤は、義歯安定剤10の厚み方向に亘って第二面40から第一面30に向かって徐々に高濃度となるように含有してもよく、または段階的に濃度が変化してもよい。本実施形態では、後述のように義歯安定剤10を積層体とし、各層における抗菌剤の含有濃度を相違させる形態を例示する。
【0031】
抗菌剤としては、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、ヘキセチジン、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、チモール、ソルビン酸もしくはその塩、またはカテキンを用いることができる。また、抗菌剤に加えて、口腔内の殺菌、鎮痛、抗炎症のための活性成分を任意で含んでもよい。
【0032】
ここで、抗菌剤は口腔粘膜に対して刺激となるが、本実施形態のように顎堤に装着される第二面40の側における抗菌剤の濃度を低くすることで、刺激を低減し、使用者の不快感を抑えるとともに、過剰な唾液の発生を抑えることができる。これにより、義歯安定剤10が過剰に流動することが防止される。
なお、義歯安定剤10の第二面40側、特にその表層における抗菌剤の濃度は実質的にゼロでもよい。
【0033】
また、義歯安定剤10には食品香料を含有してもよい。この場合、第一面30の側における食品香料の濃度を、第二面40の側における濃度よりも高くしてもよい。これにより、食品香料によるフレーバーを、緩やかに、かつ持続的に義歯安定剤10から口腔内に供給することができる。
【0034】
フレーバーを与える食品香料には、カテキンなどの天然フラボノイドや、合成香料を用いることができる。食品香料と抗菌剤とは共通の材料を用いてもよい。
【0035】
図1に示すように、本実施形態の義歯安定剤10には、第一面30と第二面40とを識別するための識別手段50が施されている。これにより、抗菌剤や食品香料などの添加物が所定の濃度で配合されている面を使用者は容易に認識することができる。
【0036】
識別手段50は、文字、図形、記号、平面的もしくは立体的形状、模様または色彩などのうち一つ以上を採用することができる。識別手段50は、第一面30または第二面40の一方にのみ施してもよく、または互いに異なる識別手段50を第一面30と第二面40の双方に施してもよい。本実施形態では、長尺のテープ状の義歯安定剤10の長手方向に沿って繰り替えし配置された多数の突起部を例示する。かかる突起部のように識別手段50を立体的形状とすることで、その存在を指で確認することができる。このため、視覚に頼らずに特定の面(本実施形態では第一面30)を識別することができる。このほか、識別手段50としては、第一面30と第二面40に互いに異なる色で着色してもよく、第一面30または第二面40を示す図形を記載してもよい。
【0037】
なお、本実施形態のように識別手段50として突起部を用いる場合、顎堤に対して異物感を与えないよう、識別手段50は第一面30の側に設けることが好ましい。
【0038】
図2(a)に示すように、本実施形態の義歯安定剤10は多層構造をなしている。言い換えると、本実施形態の義歯安定剤10は、多糖類からなる長繊維20の不織布の積層体である。なお、簡単のため同図では二層の場合を例示するが、三層以上の積層体でもよい。
【0039】
すなわち、本実施形態の義歯安定剤10は、長繊維20をそれぞれ層状に成形した複数の層(第一層32および第二層42)を積層してなり、抗菌剤の濃度が複数の層のうちの少なくとも二層において互いに異なる。これにより、上記のように第一面30と第二面40とで、抗菌剤の濃度を容易に相違させることができる。
【0040】
第一層32と第二層42をそれぞれ構成する長繊維20の平均繊維径は、5μm以上50μm以下、好ましくは15μm以上50μm以下、さらに好ましくは25μm以上35μm以下がよい。過小な繊維径の場合は長繊維20の位置安定性が悪いため義歯100を顎堤に接合させる際にずれが生じやすく、また過大な繊維径の場合は吸水性が悪く長繊維20の溶解が不均一となる。これに対し、繊維径が上記の範囲であることにより、吸水した長繊維20が流動せず、かつ迅速に溶解して好ましい。第一層32、第二層42を構成する長繊維20の不織布の目付は1g/m以上150g/m以下、好ましくは5g/m以上50g/m以下がよい。
【0041】
第一層32と第二層42とは、共通の不織布を用いてもよく、または異なる物性の不織布を用いてもよい。具体的には、長繊維20に異なる多糖類を用いてもよく、または長繊維20の繊維径を互いに相違させてもよく、さらに目付を相違させてもよい。
【0042】
特に、義歯100の歯槽堤部104における溶融速度を制限しつつ、顎の顎堤に対して迅速に密着させる観点から、歯槽堤部104に装着される側にあたる第一層32の繊維径を太くし、または目付を大きくするとよい。これにより、第一層32よりも第二層42の方が迅速に溶融することとなる。このため、義歯100を顎堤に装着する時点においては第一層32が完全には溶融せず義歯安定剤10の形状を保ち、義歯100を顎堤に装着した時点から、第二層42とともに第一層32が略同時に溶融して両者を密着させる。これにより、装着時の義歯100の位置ずれが防止される。
【0043】
図2(b)は、本実施形態の変形例を示す断面図である。本変形例のように、薄肉部14は有底の凹部でもよい。具体的には、本変形例の義歯安定剤10は多層構造をなし、一の層(第一層32)には薄肉部14が貫通孔として形成され、他の層(第二層42)は平坦に形成されている。
【0044】
本変形例の場合、顎堤に装着される第二層42が平坦であるため、義歯100の装着時の異物感が低減される。また、薄肉部14が第一面30(第一層32)にのみ形成されているため、薄肉部14が識別手段50として機能する。言い換えると、本変形例の義歯安定剤10は、薄肉部14と識別手段50とが兼用されている。なお、本変形例に代えて、ともに平坦な第一層32と第二層42とを接合した状態から、これを第一面30の側より押圧して凹状の薄肉部14を形成してもよい。言い換えると、義歯安定剤10の薄肉部14はプレス成形により長繊維20を圧縮して形成してもよい。これにより、義歯安定剤10が吸水した場合に、薄肉部14における長繊維20の溶解速度はその周囲に比べて抑制されている。このため、先に溶融した周囲の長繊維20は凹状の薄肉部14に流入し、義歯安定剤10の外部に流出することが防止される。
【0045】
以下、本実施形態の義歯安定剤10の製造方法を説明する。
図4は、義歯安定剤10の製造装置200を示す模式図である。本実施形態の製造装置200は、メルトブロー法により長繊維20の不織布を製造し、これを成形して義歯安定剤10を得る装置である。
【0046】
製造装置200は、ホッパー202、ダイ204、ロール206、加熱部208、引取部210、および成形部212を備えている。
ホッパー202は、プルランなどの多糖類を水などの溶媒に分散させた高分子原料を貯留する容器である。高分子原料には、所定濃度の抗菌剤が含有されている。
【0047】
ダイ204は多数の微小なノズル(図示せず)を備え、またダイ204の上流側にはブロア214が設けられている。そして、ホッパー202から供給された高分子原料は、ダイ204から高速で噴射されて繊維状となる。ダイ204からの噴射方向の前方にはロール206が配置されている。ロール206の表面に噴射された長繊維20は互いに交絡して不織布となる。
【0048】
ダイ204より噴射される長繊維20は、筒状の筐体216の内部で加熱されて溶媒が除去される。本実施形態の加熱部208はセラミックヒータであり、ダイ204からの噴射方向(同図の上下方向)に複数段に並設されている。加熱部208は赤外線(遠赤外線を含む)を長繊維20に照射して長繊維20を輻射乾燥させる。
【0049】
加熱部208の背後には送風部220が設けられている。送風部220は、ダイ204から噴射された長繊維20に対して側方から冷風(常温を含む)を吹き付ける。これにより、長繊維20から除去された溶媒を筐体216から排除し、長繊維20の乾燥を促進する。また、筐体216の内部には、ダイ204からロール206に向かって先細形状となるガイド218が対向して設けられている。ガイド218は金属メッシュなどの多孔材料からなり、加熱部208が放射した赤外線と送風部220からの冷風を、ともに通過させる。そして、ダイ204から噴射された長繊維20は、ガイド218に沿って束状に収束し、互いに交絡してロール206の表面に至る。ここで、長繊維20に対して送風部220が側方から冷風を吹き付けることで、長繊維20は好適に収束する。
【0050】
ロール206は回転機構(図示せず)によって軸回転し、成形された不織布を引取部210に送る。ロール206の回転速度は可変に調整可能であり、その調整により不織布の目付を変化させることができる。
【0051】
長繊維20からなる不織布は、引取部210により所定の速度で引き取られて所定の厚みのシート状に成形される。
成形部212は、シート状の不織布を所定形状に切断し、またパンチングにより薄肉部14を形成し、さらに不織布を多層に積層して義歯安定剤10とする。具体的には、成形部212は、不織布に貫通孔を形成するパンチング部213と、パンチングされた不織布を多層に積層して圧接するプレス部(図示せず)と、圧接された多層の不織布をテープ状に切断するカッター刃(図示せず)と、を備えている。また、成形部212は、食品香料などの揮発性成分を不織布に含浸させる添加剤供給部(図示せず)を任意で備えてもよい。
【0052】
かかる製造装置200により、テープ状かつ多層の不織布の積層体からなる本実施形態の義歯安定剤10が製造される。
【0053】
なお本実施形態については種々の変形を許容する。
上記実施形態では、薄肉部14が義歯安定剤10の表面に露出する場合を例示したが、本発明はこれに限られず、薄肉部14は義歯安定剤10の厚みの内部に形成されてもよい。具体的には、義歯安定剤10を三層以上の積層体とし、その中間層に貫通孔または凹部によって薄肉部14を形成するとよい。これにより、義歯安定剤10の両側の外層は平坦となって歯槽堤部104と顎堤との密着性が良好であり、かつ義歯100の装着時に溶融した義歯安定剤10が薄肉部14に流入して良好に変形することができる。
【0054】
図5(a)は、第二実施形態にかかる義歯安定剤10の平面図である。
本実施形態の義歯安定剤10は、義歯100の歯槽堤部104(図3を参照)に装着可能な馬蹄形である点で第一実施形態と相違する。より具体的には、本実施形態の義歯安定剤10は、義歯100の歯槽堤部104に対応する馬蹄形(U字状)に成形されたシート状をなしている。
【0055】
本実施形態の義歯安定剤10の幅寸法は8〜16mmであり、義歯100の歯槽堤部104に対して容易に装着することが可能である。
【0056】
本実施形態の義歯安定剤10にもまた、厚肉部12と薄肉部14とが馬蹄形に並んで繰り返し配置されている。薄肉部14は、貫通孔または有底の凹部である。薄肉部14の位置および個数と、義歯100の人工歯106の位置および本数とは、互いに一致していてもよく、または不一致でもよい。
【0057】
本実施形態の義歯安定剤10は、メルトブロー法などで所定厚さに成形された多糖類の長繊維不織布を馬蹄形に切断し、薄肉部14を打ち抜き加工して得ることができる。
【0058】
図5(b)は、第三実施形態にかかる義歯安定剤10の平面図である。
本実施形態の義歯安定剤10は、剥離シート130に接合された複数の個片状である。義歯安定剤10は、剥離シート130から個別に剥離し、義歯100の歯槽堤部104(図3を参照)に離散的に装着して用いられる。
【0059】
剥離シート130は、義歯安定剤10の装着側にあたる表面132に離型剤(図示せず)が塗布されている。義歯安定剤10は、プルランなどの多糖類からなる長繊維不織布をタブレット状にプレス成形したものである。
【0060】
このように、種々の形状に成形することで、部分義歯を含め多様な義歯形状に応じた義歯安定剤10が提供される。
【0061】
図6(a)は、第四実施形態にかかる義歯安定剤10の斜視図である。同図の右方は図示を省略している。
【0062】
本実施形態の義歯安定剤10は、長尺状のテープ状をなすとともに、幅方向の片側または両側の側縁に沿って破断部16が切り込み形成されていることを特徴とする。より具体的には、本実施形態の破断部16はギザギザ(鋸歯状)をなし、義歯安定剤10の両側の側縁に形成されている。これにより、任意の破断部16で義歯安定剤10を容易に破断させることができる。すなわち、本実施形態の義歯安定剤10は、長繊維不織布からなり破断強度が高いため義歯の装着安定性に優れる一方、破断部16を設けたことで義歯安定剤10を所望の長さで容易に破断させて使用することができる。
【0063】
本実施形態の義歯安定剤10は、第一層32と第二層42とを積層した状態で、長尺方向に沿って破断部16を鋸歯状に切り出すことで製造される。
なお、破断部16は、本実施形態のように連続的な鋸歯状とするほか、義歯安定剤10の長尺方向に沿って所定のピッチで離間配置された多数の切欠部としてもよい。
【0064】
図6(b)は、第五実施形態にかかる義歯安定剤10の斜視図である。同図の右方は図示を省略している。
【0065】
本実施形態の義歯安定剤10は、厚肉部12と薄肉部14とが長尺方向に連続的に繰り返された波状の縦断面形状を有している。義歯安定剤10の縦断面は、長尺方向に沿って切った断面である。
【0066】
厚肉部12と薄肉部14とは、第一面30または第二面40の一方または両方に形成されている。同図では、厚肉部12と薄肉部14とが第一面30にのみ繰り返して形成された状態を例示している。本実施形態の義歯安定剤10の場合、歯槽堤部104と顎堤との間で厚肉部12から薄肉部14に長繊維20(図2を参照)が容易に流動してその隙間を埋めることができるとともに、薄肉部14を幅方向に容易に破断させて使用することができる。
【0067】
本実施形態の義歯安定剤10は、ローラーにより薄肉部14がプレス加工された第一層32と、平坦な第二層42とを接合したうえでテープ状に切り出すことで製造される。
【0068】
上記実施形態および変形例は、以下の技術的思想を包含する。
(付記1)
長繊維を構成する多糖類がプルランである義歯安定剤。
(付記2)
長繊維が成形された所定形状が、長尺のテープ状またはシート状である義歯安定剤。
(付記3)
剥離シートに接合された複数の個片状である義歯安定剤。
(付記4)
義歯の歯槽堤部に装着可能な馬蹄形である義歯安定剤。
(付記5)
厚み方向に貫通して設けられた貫通孔を備える義歯安定剤。
(付記6)
長尺のテープ状の幅寸法が8〜16mmである義歯安定剤。
(付記7)
食品香料を含有する義歯安定剤。
(付記8)
義歯の歯槽堤部に装着するための第一面の側における食品香料の濃度が、顎の顎堤に装着するための第二面の側における食品香料の濃度よりも高いことを特徴とする義歯安定剤。
(付記9)
幅方向の片側または両側の側縁に沿って破断部が切り込み形成されている義歯安定剤。
(付記10)
厚肉部と薄肉部とが長尺方向に連続的に繰り返された波状の縦断面形状を有する義歯安定剤。
【符号の説明】
【0069】
10 義歯安定剤
12 厚肉部
14 薄肉部
16 破断部
20 長繊維
30 第一面
32 第一層
40 第二面
42 第二層
50 識別手段
100 義歯
102 義歯床
104 歯槽堤部
106 人工歯
130 剥離シート
132 表面
200 製造装置
202 ホッパー
204 ダイ
206 ロール
208 加熱部
210 引取部
212 成形部
213 パンチング部
214 ブロア
216 筐体
218 ガイド
220 送風部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性かつ可食性の多糖類からなる長繊維が所定形状に成形されてなる義歯安定剤。
【請求項2】
厚肉部と薄肉部とが一次元的または二次元的に繰り返して形成された長尺のテープ状またはシート状をなしている請求項1に記載の義歯安定剤。
【請求項3】
義歯の歯槽堤部に装着される第一面と、顎の顎堤に装着される第二面と、を備え、
抗菌剤を含有するとともに、
前記第一面の側における前記抗菌剤の濃度が、前記第二面の側における前記抗菌剤の濃度よりも高いことを特徴とする請求項1または2に記載の義歯安定剤。
【請求項4】
前記第一面と前記第二面とを識別するための識別手段が施されていることを特徴とする請求項3に記載の義歯安定剤。
【請求項5】
前記長繊維をそれぞれ層状に成形した複数の層を積層してなり、
前記抗菌剤の濃度が前記複数の層のうちの少なくとも二層において互いに異なることを特徴とする請求項3または4に記載の義歯安定剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−5582(P2012−5582A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142586(P2010−142586)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(510175263)
【出願人】(504358285)
【Fターム(参考)】