羽ばたき飛行装置
【課題】トンボのように複数対の左右の羽体を羽ばたかせながら、体軸のブレが少なく安定して飛行することができる飛行装置を提供すること。
【解決手段】前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする安定な飛行を可能としている。
【解決手段】前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする安定な飛行を可能としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンボのように羽ばたきながら大気中を飛翔する羽ばたき飛行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、災害現場や屋内外の高所などの人が容易に近づけない場所等の極限環境下で作業や観察を行なうことができる飛行装置が注目されている。この飛行装置の飛行に、昆虫や鳥の羽ばたきを利用すると、固定翼機や回転翼機に比べ、非常に高い旋回性や加速性など、複雑な飛行性能が期待できる。
これまで、羽ばたき飛行装置が研究されており、従来から提案、製作されているものとしては、2枚羽で飛ぶ蝶(特許文献1)、鳥(特許文献2)、蜂(特許文献3)をモデルにしたものである。4枚羽の羽ばたき飛行装置も提案されているが、単に前後の羽を交互に羽ばたかすもの(特許文献4)、羽を交差してはばたかすものが知られている(特許文献5)。
【0003】
しかしながら、飛翔生物の中でも飛翔性能が高いトンボをモデルとした羽ばたき飛行装置の研究はあまり行われていない。
トンボは主に、体軸を中心に翅を上下させるフラッピング運動と、翅の前縁を中心に翅を上下させるフェザリング運動を駆使して、ホバリング運動や旋回性が高い飛翔を行うことが知られている。
本件出願人も、以前にトンボのようにホバリングをして、急旋回、急上昇など繰り返して飛ぶことが可能な飛翔装置を提案している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−90770号公報
【特許文献2】特開2010−18059号公報
【特許文献3】特開2006−312436号公報
【特許文献4】特開2000−317148号公報
【特許文献5】特開2008−273270号公報
【特許文献6】特開2009−190651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トンボのように複数対の左右の羽体を羽ばたかせながら体軸を略水平に維持しながら安定した飛行を行うには、前記の飛翔装置でも十分とはいえなかった。
【0006】
そこで、本発明は、トンボのように複数対の左右の羽体を羽ばたかせながら、体軸のブレが少なく安定して飛行することができる飛行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の羽ばたき飛行装置は、前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、
全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、
前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、
前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の羽ばたき飛行装置において、前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にあるように調整することができる。
【0009】
また、前記羽ばたき前方の羽体の位置は、前記支持本体よりも上方にあるように調整することができる。
【0010】
前記羽体の羽ばたき角は60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節することができる。
【0011】
また、前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を前後方向に単又は複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる飛行装置であって、前記駆動手段が、前記支持本体の前後方向に略沿った回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備える回転体を設けるとともに、一端側が前記クランク部に軸支されるとともに他端側が前記羽体の所定部位に支持され、前記クランク部と前記羽体とを連結する連結アームを設け、前記左右対を成す羽体にそれぞれ支持される連結アームの一端側を、互いに位相の異なるクランク部に軸支し、前記回転体を回転駆動する駆動モータを設けてなる。したがって、単又は複数対の羽体を略左右対象に羽ばたかせることができる。
【0012】
本発明の羽ばたき飛行装置では、尾翼を設けることができる。
【0013】
本発明の羽ばたき飛行装置では、前記支持本体に飛行制御用の錘を設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る羽ばたき飛行装置では、全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であることで飛行するための揚力を得ることが可能になり、前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなることで実際のトンボの翅のようにフラッピング運動とフェザリング運動を行うことが可能になり、前後の羽体の間に段差が設けられていることで飛行姿勢が安定して推力が大きくなり、これらの結果として安定な飛行が可能となる。
【0015】
本発明の羽ばたき飛行装置において、前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にあるように調整することでトンボと同様に飛行姿勢を安定させることができる。
できる。
【0016】
また、前記羽ばたき前方の羽体の位置は、前記支持本体よりも上方にあるように調整することで安定に飛行することができる。
【0017】
前記羽体の羽ばたき角は60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節されていることで飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。
【0018】
また、本発明の羽ばたき飛行装置は、前後に長い支持本体に沿って回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備えた回転体を設け、当該クランク部に軸支された連結アームによって単又は複数対の羽体を揺動するので、昆虫のような羽ばたき動作をして飛行することができる。また、位相の異なるクランク部に連結アームを軸支し、クランク部の回転で羽体を揺動しているので、略左右対称に揺動させることができる。
【0019】
本発明の羽ばたき飛行装置では、尾翼を設けることで飛行姿勢を安定させることができる。
【0020】
本発明の羽ばたき飛行装置では、前記支持本体に飛行制御用の錘を設けることで、重心を移動させて、直進、上昇、下降、左旋回、右旋回等の姿勢制御ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、羽ばたき飛行装置1の全体構成の概略を示す図である。
【図2】図2は、羽ばたき飛行装置1の斜上方向から見た場合の概略説明図である。
【図3】図3は、羽ばたき飛行装置1を左方向から見た概略説明図である。
【図4】図4は、羽ばたき飛行装置1を前方向から見た正面図である。
【図5】図5は、羽ばたき飛行装置1を後方向から見た背面図である。
【図6】図6は、前の羽体(前羽)と後ろの羽体(後羽)とがともに羽ばたき角60°で羽ばたいており、その位相のずれが90°である場合を説明する概略図である。
【図7】図7(a)は、羽ばたき飛行装置1に設ける段差の高さ(ΔZ)を示し、図7(b)は、前記ΔZと揚力との関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)は羽ばたき飛行装置1の前後の羽体の位相の遅れと推進力との関係を示すグラフである。図8(b)は、段差を有する本発明の羽ばたき飛行装置1(実線)と、従来のように段差のない羽ばたき飛行装置(点線)との羽体の面積に対する揚力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の羽ばたき飛行装置1の上方向からの全体構成の概略を示す図である。
【0023】
図1は、前後に長い支持本体2に、上下揺動可能に支持される左右の4枚の羽体3a,3b,3c,3dを前後方向に2対設けてなる羽ばたき飛行装置1を示している。
【0024】
前記支持本体2は、1本の支持軸にて構成されている。
【0025】
前記羽体の数については、支持本体2の長さに応じて、3対以上にしてもよい。なお、羽体3a,3bは前方向の羽体、羽体3c,3dは後方向の羽体を示す。
【0026】
前記羽体3a,3b,3c,3dは、図1に示すように、前記支持本体2に対して前後左右に配置されているが、羽ばたき飛行装置1の全重量と羽体3a,3b,3c,3dの面積との比が0.357m2/N以下である。この比に調整することで、羽ばたき飛行装置1が飛行に必要な揚力を得ることができる。前記の比は、羽ばたき飛行体1のサイズに関わらず、十分な揚力を得るという観点から、0.255m2/N以上であることが好ましい。
前記の比は、以下の式で計算することができる。
比(m2/N)=(羽ばたき飛行装置の羽体の総面積:cm2)/(羽ばたき飛行装置の全重量(gf))×1.019642857×10-2
【0027】
前記羽体3a,3b,3c,3dは、いずれも弾性軸部材4と薄膜羽部5からなる。
【0028】
前記弾性軸部材4は、羽体の略前縁に位置しており、弾性材料、例えば、カーボンロッド、弾性樹脂材、竹材などで構成される。中でも軽量で丈夫であるという観点から、カーボンロッドが好ましい。このような材料で構成されることで、上下に羽ばたかせた(フラッピング運動)際に、弾性軸部材の端部がしなりフェザリング運動を促すことで、昆虫であるトンボの羽のような羽ばたきを実現しやすくすることができる。また、弾性軸部材4の直径は、上下に羽ばたかせやすい観点から、直径が0.3〜1.0mm程度であればよい。
【0029】
前記羽体3a,3b,3c,3dでは、前記弾性軸部材4の中央付近から支脈6を羽ばたき飛行装置1の後ろ方向に伸ばすことが好ましい。このように支脈6を設けることで、羽体3a,3b,3c,3dを上下に羽ばたかせた際に、羽体3a,3b,3c,3dの端部において薄膜羽部5が揺動することでフラッピング運動に連動してフェザリング運動を引き起こすことができる。
【0030】
前記薄膜羽部5は、揚力を得るための部分であり、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの薄くても上部で軽い材料で構成される。中でも、上下に羽ばたかせた際に、薄膜羽部5の後方端部が揺動しやすい観点から、ポリプロピレンが好ましい。
前記薄膜羽部5の厚みとしては、特に限定はないが、飛行しやすくする観点から、0.1mm以下であればよい。
また、前記薄膜羽部5の先端部分の形状としては、特に限定はなく、上から見た場合に、図1に示すように、前縁部が後縁部よりも長い形状でも、前縁部と後援部との長さが略等しい形状でも、後縁部が前縁部よりも長い形状でもよい。また、略半円状などの丸みのある端部としてもよい。
なお、前記羽ばたき飛行装置1の全重量と前記羽体3a,3b,3c,3dの面積との比には、前記薄膜羽部5の面積を用いて算出する。
【0031】
前記弾性軸部材4と前記薄膜羽部5との固定方法としては、両部材を接着剤で固着すること、粘着テープで固着することなどが挙げられるが、特に限定はない。
本発明の羽ばたき飛行装置1では、前記薄膜羽部5は、支持本体2のある基端側で、後述の揺動支持軸7a,7b,7c,7dおよび支持本体2と固定されていることでより大きな揚力を得ることができる。
【0032】
本発明では、前記羽体3a,3b,3c,3dのそれぞれの弾性軸部材4は、その基端側で揺動支持軸7a,7b,7c,7dの端部に固定されている。揺動支持軸7a,7bは前方の羽体3a,3b、揺動支持軸7c,7dは後方の羽体3c,3dをそれぞれ上下に揺動させることができる。なお、左右の羽体について、図1〜5では、揺動支持軸7aが揺動支持軸7bの後方に配置されているが、反対に前方に配置されていてもよい。同様に、揺動支持軸7cは揺動支持軸7dの前方に配置されているが、反対に後方に配置されていてもよい。
【0033】
本発明では、前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴の一つとしている。
具体的には、図2に示すように、前方の羽体3a,3bの弾性軸部材4が連結する揺動支持軸7a,7bと支持本体2との連結位置と、後方の羽体3c,3dの弾性軸部材4が連結する揺動支持軸7c,7dと支持本体2との連結位置とが、支持本体2の上下方向に段差があるように間隔が設けられている。なお、図2は羽ばたき飛行装置1を斜上方向から見た概略説明図であるが、駆動手段8の説明のために羽体3a,3b,3c,3dの薄膜羽部5を省略している。
【0034】
図2に示すように、前方の羽体3a,3bの位置が後方の羽体3c,3dの上方にあるように調整することで実物のトンボと同様に飛行姿勢を安定させることができる。
また、前方の羽体3a,3bの位置は、前記支持本体2よりも上方にあるように調整することで安定に飛行することができる。
この場合、揺動支持軸7a,7bの基端側は、支持本体2の先端部に接続した支持板9の上部で前方向に突き出すように接続されている支持軸10に軸支され、上下揺動可能に構成されている。前記支持板9は、支持本体2の先端部に、支持本体2の水平方向に対して垂直になるように接続されており、駆動手段8を構成する駆動モータ11が固定されている。
一方、揺動支持軸7c,7dの基端側は、支持本体2に軸支され、上下揺動可能に構成されている。
前記のように、支持板9によって前後の羽体の間に段差を設けることが可能になる。
【0035】
ここで、図7(a)に、羽ばたき飛行装置1に設ける段差の高さ(ΔZ)を示し、図7(b)に、前記ΔZと揚力との関係を示す。図7(b)に示すように、ΔZが変化することで得られる揚力も変化することがわかる。したがって、従来のようにΔZが略0である水平な位置としている場合に比べてΔZの範囲を調整することでより大きな推力を得ることが可能になる。
【0036】
なお、前記左右の羽体を3対以上有する羽ばたき飛行装置における段差としては、前方の羽体が最も高く、後方にいくにしたがって下がるように設けていればよい。
【0037】
前記揺動支持軸7a,7b,7c,7dは、それぞれ連結アーム12a,12b,12c,12dによって揺動支持軸7a,7b,7c,7dが上下方向に揺動するに伴い、羽体3a,3b,3c,3dも一体に揺動可能に構成されている。
前記揺動支持軸7a,7b,7c,7dとそれぞれの連結アーム12a,12b,12c,12dとは、ピン13によって軸支されている。なお、ピン13での軸支の方向としては、図2に示すように揺動支持軸7a,7b,7c,7dの前方でもよいし、反対に後方でもよい。
ただし、近接して上下動する揺動支持軸7a,7bの間は互いに接触しないように間隔が設けられるが、その間隔に収まるように前記ピン13が設けられる必要がある。
揺動支持軸7c,7dの間も同様である。
【0038】
前記駆動手段8は、駆動モータ11、該駆動モータ11によって回転する回転体14、および、該回転体14と前記羽体3a,3b,3c,3dとを連結する連結アーム12a,12b,12c,12dから構成される。
前記駆動モータ11にはギア15が設けられ、当該ギア15を介して回転体14を回転させる。
【0039】
前記回転体14には、前記ギア15を介して回転する2つの回転ギア16a、16bと、前記支持本体2の前後方向に略沿った回転軸心17を有し、この回転軸心17に対して位相が60〜90°の範囲でずれた5つのクランク部18a,18b,18c,18d,18eとが設けられている。前記ギア15は回転ギア16aを回転し、回転ギア16aは回転ギア16bを回転するように構成されている。
【0040】
前記クランク部18には、前記連結アーム12が軸支される。
図3に示すように、クランク部18は、回転ギア16bの前方に設けられたクランク部18a,18b、回転ギア16bの後方に設けられたクランク部18c,18d,18eから構成される。第3クランク部18cは回転ギア16bの軸心を構成している。図3は、羽ばたき飛行装置1を左方向から見た概略説明図である。なお、羽体3の薄膜羽部5は除いている。
最も前方側の第1クランク部18aの前方側端部は、前記回転ギア16bの軸心(第3クランク部18c)に対して偏心した位置に設け、この第1クランク部18aには、左側前羽3bを揺動させる連結アーム12bが軸支される。
第1クランク部18aの後方端に設けられた第2クランク部18bは、第1クランク部18aより60〜90°の範囲でずれて設けられている。また、第2クランク部18bには、右側前羽3aを揺動させる連結アーム12aが軸支されている。
そして、第2クランク部18bの後方端に設けられた第3クランク部18cは、第2クランク部18bより60〜90°の範囲でずれて設けられている。また、クランク部18は、第3クランク部18cの前部分が支持板9の下部で軸支され、第3クランク部18cの後部分が支持板19で軸支される。
さらに、第3クランク部18cの後方端に設けられた第4クランク部18dは、第3クランク部18cより60〜90°の範囲でずれて設けられている。第4クランク部18dには、右側後羽3cを揺動させる連結アーム12cが軸支されている。
そして、第4クランク部18dの後方端に設けられた第5クランク部18eは、第4クランク部18dより60〜90°の範囲でずれて設けられている。第5クランク部18eには、左後羽3dを揺動させる連結アーム12dが軸支されている。
このように、対を成す左側の羽部と右側の羽部とを上下方向に揺動させる連結アーム12を軸支するクランク部18の位相を回転ギア16bの軸心(第3クランク部18c)に対して60〜90°の範囲でずらすことによって図4に示すように前方の羽体3a,3b、図5に示すように後方の羽体3c,3dをそれぞれ略左右対称に揺動可能となる。
【0041】
さらに、前記のように羽体3が揺動する際に、前羽の位相と後羽の位相とが図6に示すようにずれることで昆虫のトンボと同様の羽ばたきを実現することができる。図6は、前羽と後羽とがともに羽ばたき角60°で羽ばたいており、その位相のずれが90°である場合を示す。本発明では、この位相のずれが60〜90°に調整されていることが好ましい。
【0042】
前記連結アーム12a,12bは、図4に示すように、羽体3a,3bの羽ばたき角θ1が60°以下となるように揺動支持軸7a,7bに接続されていることで、飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。なお、図4は、羽ばたき飛行装置1を前方向から見た正面図である。
一方、連結アーム12c,12dも、図5に示すように、羽体3c,3dの羽ばたき角θ2が60°以下となるように揺動支持軸7c,7dに接続されていることで、飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。なお、図5は、羽ばたき飛行装置1を後方向から見た背面図である。また、揺動支持軸7c,7dの動きを見易くするために尾翼21の中央部分は省略している。
【0043】
なお、前記θ1とθ2とは同じ角度になるように調整しておくことで、水平飛行を行う際に大きな推力を得ることができる。
θ1、θ2の角度の調整は、前記連結アームの長さを変えたり、連結アームと揺動支持軸との軸支位置を変えることで可能である。
【0044】
また、本発明では、前記θ1、θ2を60°以下とすることに加えて、前方の羽体3a、3bの位相に対して後方の羽体3c、3dの位相が90°以下の遅れがあるように調節されていることで、水平方向への飛行をより安定して行うことができる。図8(a)に示すように、羽ばたき飛行装置1では、前後の羽体の位相が90°以下とすることで、90°を超えた場合に比べて推進力を高く維持することができる。
【0045】
羽体3の位相は、回転軸心17に対する前記クランク部18a〜クランク部18dの位相を調整することで、調節することでできる。
例えば、前方右側の羽体3aの動きを制御するクランク部18bと、後方右側の羽体3cの動きを制御するクランク部18dの角度が回転軸心17に対して90°以下となるようにすると、前方の羽体3a、3bの位相に対して後方の羽体3c、3dの位相が90°以下の遅れがあるようになる。
【0046】
本発明の羽ばたき飛行装置1では、前後の羽体との間に段差を設け、上記のように羽ばたき角θ1、θ2や位相を調整することで、図8(b)に示すように、従来のように前後の羽体が水平に設置された羽ばたき飛行装置に比べて、顕著な推力(水平方向の力)を得ることが可能になる。
【0047】
また、前記支持本体2の揺動支持軸7dの後方には、図1〜3に示すように、駆動モータ11に電力を供給する電池20が接続されている。前記電池20は錘として利用することができる。
【0048】
本発明では、前記錘を移動することもできる。
例えば、電池20に電磁力により前後方向に移動するアクチュエータを取り付け、このアクチュエータを支持本体2に接続させてもよい。
アクチュエータが前後方向に移動するにともなって前記錘が前記羽ばたき型飛行装置1の前後方向に偏るように調整することが可能となり、結果として、羽ばたき飛行装置1の重心が前後に移動することで、上下方向の飛行の制御を可能にすることができる。具体的には、前方向に錘を移動すれば、羽ばたき飛行装置1は下降し、逆に後方向に錘を移動すれば羽ばたき飛行装置1は上昇することができる。
【0049】
また、電池20に電磁力により左右方向に移動するアクチュエータが取り付けられ、このアクチュエータを支持本体2に接続させてもよい。
アクチュエータが左右方向に移動するにともなって前記錘が羽ばたき飛行装置1の左右方向に偏るように調整することが可能となり、結果として、羽ばたき飛行装置1の重心が左右に移動することで、左右方向の飛行の制御を可能にすることができる。具体的には、右方向に錘を移動すれば、羽ばたき飛行装置1は右に旋回し、逆に左方向に錘を移動すれば羽ばたき飛行装置1は左に旋回することができる。
【0050】
なお、前記錘は電池20とは別に前記支持本体2の中央部付近の前後の羽体の間に設けてもよい。
【0051】
また、支持本体2には、前記駆動モータ11、必要であれば前記アクチュエータの制御をするための電子回路基板(図示せず)が接続されていてもよい。
【0052】
支持本体2の後方端部には飛行を安定させるために尾翼21が設けられている。尾翼21としては、水平尾翼とともに垂直尾翼が設けられることで、飛行時の羽ばたき飛行装置1の揺れを小さくすることができるという利点がある。また、水平尾翼も水平であることには限定されず、支持部材2を中心として上下方向に角度をつけてもよい。また、尾翼21の形状や大きさについても、特に限定はない。
【0053】
以上のような構成を備えことで、本発明の羽ばたき飛行装置1は、実物のトンボのように羽ばたきながら体軸のブレが少なく安定した飛行が可能となる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
次に、図1に示すような外観と図2、3に示すような構造を有する羽ばたき飛行装置1(全長22cm、総重量7.5g、羽体の総面積205cm2)を作製した。
前後の羽体の段差を5cm、前方の羽体の後端部と後方の羽体の前縁部との間隔を7.5cmとなるように調整した。
また、主な部材の構成は以下のとおりである。
駆動モータ11:直径6mmコアレスモータ「Mk06−10」
ギア15:M0.3 9枚ピニオン「G309−097」
回転ギア16a、16b:M0.3 60枚スパー「G360L」
なお、ギアの減速比は33.3になるように調整した。
尾翼21:発泡ポリスチレン(厚さ1mm)、同面積の水平尾翼と垂直尾翼を供える。
支持部材2:カーボンロッド(直径1mm)
羽体3の弾性軸部材4:カーボンロッド(直径0.7mm)
羽体3の支脈6:カーボンロッド(直径0.3mm)
羽体3の薄膜羽部5:ポリプロピレン膜(厚さ0.45mm、幅4.5cm)
揺動支持軸7:スチロール樹脂(2mm角材)
クランク部分18:ピアノ線(直径0.7mm)、各クランク部の位相差を90°となるように調整
連結アーム12:アルミ棒(直径1mm)
支持板9、19:バルサ材
電池20:Li−Po電池(左右方向に変動可能なソノイドアクチュエータ付)
なお、作製した羽ばたき飛行装置1は、前後の羽体3の位相が90°ずれたものであり、14Hzの周波数で羽ばたくことが可能であった。
【0055】
(比較例1)
前記支持板9の上部をなくし、尾翼を水平尾翼を下方に略30°下げた以外は、実施例1と同様の部材を用いて、前後の羽体の間の段差をなくした同軸型の羽ばたき飛行装置も作製した(重量7.1g)。
【0056】
(試験例:推力の測定)
電子天秤((株)島津製作所製 「BL−220H」)上に設けた固定具に実施例1および比較例1で作製した羽ばたき飛行装置をそれぞれ吊るし、羽ばたかさせたときの電気天秤の出力電圧をローパスフィルタ(カット周波数:約60Hz)を介して電気的に接続したデジタルオシロスコープ(岩通計測(株)製 「wave Surfer 424」)で記録した。
いずれの羽ばたき飛行装置も羽ばたき周波数が14Hzであったが、実施例1の平均推力7.6gf、最大推力14.7gf、最小推力2.2gfであったのに対して、比較例1では平均推力6.3gf、最大推力13.7gf、最小推力−0.11gfとなり、実施例1の羽ばたき飛行装置の推力がいずれも有意に大きいことがわかる。
【0057】
(試験例:旋回飛行)
実施例1の羽ばたき飛行装置を水平飛行させたところ、実物のトンボのように羽ばたきながら体軸のブレが少なく安定した飛行が可能であった。また、水平飛行させている際に、手元の発信機からアクチュエータを左方向に偏らせる指令を出したところ、羽ばたき飛行装置は左に旋回する飛行を行った。次いで、アクチュエータを右方向に偏らせる指令を出したところ、羽ばたき飛行装置は右に旋回する飛行を行った。このことから、遠隔操作で羽ばたき飛行装置に旋回飛行をさせることができた。
【符号の説明】
【0058】
1 羽ばたき飛行装置 2 支持本体
3 羽体 4 弾性軸部材
5 薄膜羽部 6 支脈
7 揺動支持軸 8 駆動手段
9 支持板 10 支持軸
11 駆動モータ 12 連結アーム
13 ピン 14 回転体
15 ギア 16 回転ギア
17 回転軸心 18 クランク部
19 支持板 20 電池
21 尾翼
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンボのように羽ばたきながら大気中を飛翔する羽ばたき飛行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、災害現場や屋内外の高所などの人が容易に近づけない場所等の極限環境下で作業や観察を行なうことができる飛行装置が注目されている。この飛行装置の飛行に、昆虫や鳥の羽ばたきを利用すると、固定翼機や回転翼機に比べ、非常に高い旋回性や加速性など、複雑な飛行性能が期待できる。
これまで、羽ばたき飛行装置が研究されており、従来から提案、製作されているものとしては、2枚羽で飛ぶ蝶(特許文献1)、鳥(特許文献2)、蜂(特許文献3)をモデルにしたものである。4枚羽の羽ばたき飛行装置も提案されているが、単に前後の羽を交互に羽ばたかすもの(特許文献4)、羽を交差してはばたかすものが知られている(特許文献5)。
【0003】
しかしながら、飛翔生物の中でも飛翔性能が高いトンボをモデルとした羽ばたき飛行装置の研究はあまり行われていない。
トンボは主に、体軸を中心に翅を上下させるフラッピング運動と、翅の前縁を中心に翅を上下させるフェザリング運動を駆使して、ホバリング運動や旋回性が高い飛翔を行うことが知られている。
本件出願人も、以前にトンボのようにホバリングをして、急旋回、急上昇など繰り返して飛ぶことが可能な飛翔装置を提案している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−90770号公報
【特許文献2】特開2010−18059号公報
【特許文献3】特開2006−312436号公報
【特許文献4】特開2000−317148号公報
【特許文献5】特開2008−273270号公報
【特許文献6】特開2009−190651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トンボのように複数対の左右の羽体を羽ばたかせながら体軸を略水平に維持しながら安定した飛行を行うには、前記の飛翔装置でも十分とはいえなかった。
【0006】
そこで、本発明は、トンボのように複数対の左右の羽体を羽ばたかせながら、体軸のブレが少なく安定して飛行することができる飛行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の羽ばたき飛行装置は、前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、
全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、
前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、
前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の羽ばたき飛行装置において、前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にあるように調整することができる。
【0009】
また、前記羽ばたき前方の羽体の位置は、前記支持本体よりも上方にあるように調整することができる。
【0010】
前記羽体の羽ばたき角は60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節することができる。
【0011】
また、前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を前後方向に単又は複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる飛行装置であって、前記駆動手段が、前記支持本体の前後方向に略沿った回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備える回転体を設けるとともに、一端側が前記クランク部に軸支されるとともに他端側が前記羽体の所定部位に支持され、前記クランク部と前記羽体とを連結する連結アームを設け、前記左右対を成す羽体にそれぞれ支持される連結アームの一端側を、互いに位相の異なるクランク部に軸支し、前記回転体を回転駆動する駆動モータを設けてなる。したがって、単又は複数対の羽体を略左右対象に羽ばたかせることができる。
【0012】
本発明の羽ばたき飛行装置では、尾翼を設けることができる。
【0013】
本発明の羽ばたき飛行装置では、前記支持本体に飛行制御用の錘を設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る羽ばたき飛行装置では、全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であることで飛行するための揚力を得ることが可能になり、前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなることで実際のトンボの翅のようにフラッピング運動とフェザリング運動を行うことが可能になり、前後の羽体の間に段差が設けられていることで飛行姿勢が安定して推力が大きくなり、これらの結果として安定な飛行が可能となる。
【0015】
本発明の羽ばたき飛行装置において、前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にあるように調整することでトンボと同様に飛行姿勢を安定させることができる。
できる。
【0016】
また、前記羽ばたき前方の羽体の位置は、前記支持本体よりも上方にあるように調整することで安定に飛行することができる。
【0017】
前記羽体の羽ばたき角は60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節されていることで飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。
【0018】
また、本発明の羽ばたき飛行装置は、前後に長い支持本体に沿って回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備えた回転体を設け、当該クランク部に軸支された連結アームによって単又は複数対の羽体を揺動するので、昆虫のような羽ばたき動作をして飛行することができる。また、位相の異なるクランク部に連結アームを軸支し、クランク部の回転で羽体を揺動しているので、略左右対称に揺動させることができる。
【0019】
本発明の羽ばたき飛行装置では、尾翼を設けることで飛行姿勢を安定させることができる。
【0020】
本発明の羽ばたき飛行装置では、前記支持本体に飛行制御用の錘を設けることで、重心を移動させて、直進、上昇、下降、左旋回、右旋回等の姿勢制御ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、羽ばたき飛行装置1の全体構成の概略を示す図である。
【図2】図2は、羽ばたき飛行装置1の斜上方向から見た場合の概略説明図である。
【図3】図3は、羽ばたき飛行装置1を左方向から見た概略説明図である。
【図4】図4は、羽ばたき飛行装置1を前方向から見た正面図である。
【図5】図5は、羽ばたき飛行装置1を後方向から見た背面図である。
【図6】図6は、前の羽体(前羽)と後ろの羽体(後羽)とがともに羽ばたき角60°で羽ばたいており、その位相のずれが90°である場合を説明する概略図である。
【図7】図7(a)は、羽ばたき飛行装置1に設ける段差の高さ(ΔZ)を示し、図7(b)は、前記ΔZと揚力との関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)は羽ばたき飛行装置1の前後の羽体の位相の遅れと推進力との関係を示すグラフである。図8(b)は、段差を有する本発明の羽ばたき飛行装置1(実線)と、従来のように段差のない羽ばたき飛行装置(点線)との羽体の面積に対する揚力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の羽ばたき飛行装置1の上方向からの全体構成の概略を示す図である。
【0023】
図1は、前後に長い支持本体2に、上下揺動可能に支持される左右の4枚の羽体3a,3b,3c,3dを前後方向に2対設けてなる羽ばたき飛行装置1を示している。
【0024】
前記支持本体2は、1本の支持軸にて構成されている。
【0025】
前記羽体の数については、支持本体2の長さに応じて、3対以上にしてもよい。なお、羽体3a,3bは前方向の羽体、羽体3c,3dは後方向の羽体を示す。
【0026】
前記羽体3a,3b,3c,3dは、図1に示すように、前記支持本体2に対して前後左右に配置されているが、羽ばたき飛行装置1の全重量と羽体3a,3b,3c,3dの面積との比が0.357m2/N以下である。この比に調整することで、羽ばたき飛行装置1が飛行に必要な揚力を得ることができる。前記の比は、羽ばたき飛行体1のサイズに関わらず、十分な揚力を得るという観点から、0.255m2/N以上であることが好ましい。
前記の比は、以下の式で計算することができる。
比(m2/N)=(羽ばたき飛行装置の羽体の総面積:cm2)/(羽ばたき飛行装置の全重量(gf))×1.019642857×10-2
【0027】
前記羽体3a,3b,3c,3dは、いずれも弾性軸部材4と薄膜羽部5からなる。
【0028】
前記弾性軸部材4は、羽体の略前縁に位置しており、弾性材料、例えば、カーボンロッド、弾性樹脂材、竹材などで構成される。中でも軽量で丈夫であるという観点から、カーボンロッドが好ましい。このような材料で構成されることで、上下に羽ばたかせた(フラッピング運動)際に、弾性軸部材の端部がしなりフェザリング運動を促すことで、昆虫であるトンボの羽のような羽ばたきを実現しやすくすることができる。また、弾性軸部材4の直径は、上下に羽ばたかせやすい観点から、直径が0.3〜1.0mm程度であればよい。
【0029】
前記羽体3a,3b,3c,3dでは、前記弾性軸部材4の中央付近から支脈6を羽ばたき飛行装置1の後ろ方向に伸ばすことが好ましい。このように支脈6を設けることで、羽体3a,3b,3c,3dを上下に羽ばたかせた際に、羽体3a,3b,3c,3dの端部において薄膜羽部5が揺動することでフラッピング運動に連動してフェザリング運動を引き起こすことができる。
【0030】
前記薄膜羽部5は、揚力を得るための部分であり、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの薄くても上部で軽い材料で構成される。中でも、上下に羽ばたかせた際に、薄膜羽部5の後方端部が揺動しやすい観点から、ポリプロピレンが好ましい。
前記薄膜羽部5の厚みとしては、特に限定はないが、飛行しやすくする観点から、0.1mm以下であればよい。
また、前記薄膜羽部5の先端部分の形状としては、特に限定はなく、上から見た場合に、図1に示すように、前縁部が後縁部よりも長い形状でも、前縁部と後援部との長さが略等しい形状でも、後縁部が前縁部よりも長い形状でもよい。また、略半円状などの丸みのある端部としてもよい。
なお、前記羽ばたき飛行装置1の全重量と前記羽体3a,3b,3c,3dの面積との比には、前記薄膜羽部5の面積を用いて算出する。
【0031】
前記弾性軸部材4と前記薄膜羽部5との固定方法としては、両部材を接着剤で固着すること、粘着テープで固着することなどが挙げられるが、特に限定はない。
本発明の羽ばたき飛行装置1では、前記薄膜羽部5は、支持本体2のある基端側で、後述の揺動支持軸7a,7b,7c,7dおよび支持本体2と固定されていることでより大きな揚力を得ることができる。
【0032】
本発明では、前記羽体3a,3b,3c,3dのそれぞれの弾性軸部材4は、その基端側で揺動支持軸7a,7b,7c,7dの端部に固定されている。揺動支持軸7a,7bは前方の羽体3a,3b、揺動支持軸7c,7dは後方の羽体3c,3dをそれぞれ上下に揺動させることができる。なお、左右の羽体について、図1〜5では、揺動支持軸7aが揺動支持軸7bの後方に配置されているが、反対に前方に配置されていてもよい。同様に、揺動支持軸7cは揺動支持軸7dの前方に配置されているが、反対に後方に配置されていてもよい。
【0033】
本発明では、前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴の一つとしている。
具体的には、図2に示すように、前方の羽体3a,3bの弾性軸部材4が連結する揺動支持軸7a,7bと支持本体2との連結位置と、後方の羽体3c,3dの弾性軸部材4が連結する揺動支持軸7c,7dと支持本体2との連結位置とが、支持本体2の上下方向に段差があるように間隔が設けられている。なお、図2は羽ばたき飛行装置1を斜上方向から見た概略説明図であるが、駆動手段8の説明のために羽体3a,3b,3c,3dの薄膜羽部5を省略している。
【0034】
図2に示すように、前方の羽体3a,3bの位置が後方の羽体3c,3dの上方にあるように調整することで実物のトンボと同様に飛行姿勢を安定させることができる。
また、前方の羽体3a,3bの位置は、前記支持本体2よりも上方にあるように調整することで安定に飛行することができる。
この場合、揺動支持軸7a,7bの基端側は、支持本体2の先端部に接続した支持板9の上部で前方向に突き出すように接続されている支持軸10に軸支され、上下揺動可能に構成されている。前記支持板9は、支持本体2の先端部に、支持本体2の水平方向に対して垂直になるように接続されており、駆動手段8を構成する駆動モータ11が固定されている。
一方、揺動支持軸7c,7dの基端側は、支持本体2に軸支され、上下揺動可能に構成されている。
前記のように、支持板9によって前後の羽体の間に段差を設けることが可能になる。
【0035】
ここで、図7(a)に、羽ばたき飛行装置1に設ける段差の高さ(ΔZ)を示し、図7(b)に、前記ΔZと揚力との関係を示す。図7(b)に示すように、ΔZが変化することで得られる揚力も変化することがわかる。したがって、従来のようにΔZが略0である水平な位置としている場合に比べてΔZの範囲を調整することでより大きな推力を得ることが可能になる。
【0036】
なお、前記左右の羽体を3対以上有する羽ばたき飛行装置における段差としては、前方の羽体が最も高く、後方にいくにしたがって下がるように設けていればよい。
【0037】
前記揺動支持軸7a,7b,7c,7dは、それぞれ連結アーム12a,12b,12c,12dによって揺動支持軸7a,7b,7c,7dが上下方向に揺動するに伴い、羽体3a,3b,3c,3dも一体に揺動可能に構成されている。
前記揺動支持軸7a,7b,7c,7dとそれぞれの連結アーム12a,12b,12c,12dとは、ピン13によって軸支されている。なお、ピン13での軸支の方向としては、図2に示すように揺動支持軸7a,7b,7c,7dの前方でもよいし、反対に後方でもよい。
ただし、近接して上下動する揺動支持軸7a,7bの間は互いに接触しないように間隔が設けられるが、その間隔に収まるように前記ピン13が設けられる必要がある。
揺動支持軸7c,7dの間も同様である。
【0038】
前記駆動手段8は、駆動モータ11、該駆動モータ11によって回転する回転体14、および、該回転体14と前記羽体3a,3b,3c,3dとを連結する連結アーム12a,12b,12c,12dから構成される。
前記駆動モータ11にはギア15が設けられ、当該ギア15を介して回転体14を回転させる。
【0039】
前記回転体14には、前記ギア15を介して回転する2つの回転ギア16a、16bと、前記支持本体2の前後方向に略沿った回転軸心17を有し、この回転軸心17に対して位相が60〜90°の範囲でずれた5つのクランク部18a,18b,18c,18d,18eとが設けられている。前記ギア15は回転ギア16aを回転し、回転ギア16aは回転ギア16bを回転するように構成されている。
【0040】
前記クランク部18には、前記連結アーム12が軸支される。
図3に示すように、クランク部18は、回転ギア16bの前方に設けられたクランク部18a,18b、回転ギア16bの後方に設けられたクランク部18c,18d,18eから構成される。第3クランク部18cは回転ギア16bの軸心を構成している。図3は、羽ばたき飛行装置1を左方向から見た概略説明図である。なお、羽体3の薄膜羽部5は除いている。
最も前方側の第1クランク部18aの前方側端部は、前記回転ギア16bの軸心(第3クランク部18c)に対して偏心した位置に設け、この第1クランク部18aには、左側前羽3bを揺動させる連結アーム12bが軸支される。
第1クランク部18aの後方端に設けられた第2クランク部18bは、第1クランク部18aより60〜90°の範囲でずれて設けられている。また、第2クランク部18bには、右側前羽3aを揺動させる連結アーム12aが軸支されている。
そして、第2クランク部18bの後方端に設けられた第3クランク部18cは、第2クランク部18bより60〜90°の範囲でずれて設けられている。また、クランク部18は、第3クランク部18cの前部分が支持板9の下部で軸支され、第3クランク部18cの後部分が支持板19で軸支される。
さらに、第3クランク部18cの後方端に設けられた第4クランク部18dは、第3クランク部18cより60〜90°の範囲でずれて設けられている。第4クランク部18dには、右側後羽3cを揺動させる連結アーム12cが軸支されている。
そして、第4クランク部18dの後方端に設けられた第5クランク部18eは、第4クランク部18dより60〜90°の範囲でずれて設けられている。第5クランク部18eには、左後羽3dを揺動させる連結アーム12dが軸支されている。
このように、対を成す左側の羽部と右側の羽部とを上下方向に揺動させる連結アーム12を軸支するクランク部18の位相を回転ギア16bの軸心(第3クランク部18c)に対して60〜90°の範囲でずらすことによって図4に示すように前方の羽体3a,3b、図5に示すように後方の羽体3c,3dをそれぞれ略左右対称に揺動可能となる。
【0041】
さらに、前記のように羽体3が揺動する際に、前羽の位相と後羽の位相とが図6に示すようにずれることで昆虫のトンボと同様の羽ばたきを実現することができる。図6は、前羽と後羽とがともに羽ばたき角60°で羽ばたいており、その位相のずれが90°である場合を示す。本発明では、この位相のずれが60〜90°に調整されていることが好ましい。
【0042】
前記連結アーム12a,12bは、図4に示すように、羽体3a,3bの羽ばたき角θ1が60°以下となるように揺動支持軸7a,7bに接続されていることで、飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。なお、図4は、羽ばたき飛行装置1を前方向から見た正面図である。
一方、連結アーム12c,12dも、図5に示すように、羽体3c,3dの羽ばたき角θ2が60°以下となるように揺動支持軸7c,7dに接続されていることで、飛行に必要な揚力と推力を得ることができる。なお、図5は、羽ばたき飛行装置1を後方向から見た背面図である。また、揺動支持軸7c,7dの動きを見易くするために尾翼21の中央部分は省略している。
【0043】
なお、前記θ1とθ2とは同じ角度になるように調整しておくことで、水平飛行を行う際に大きな推力を得ることができる。
θ1、θ2の角度の調整は、前記連結アームの長さを変えたり、連結アームと揺動支持軸との軸支位置を変えることで可能である。
【0044】
また、本発明では、前記θ1、θ2を60°以下とすることに加えて、前方の羽体3a、3bの位相に対して後方の羽体3c、3dの位相が90°以下の遅れがあるように調節されていることで、水平方向への飛行をより安定して行うことができる。図8(a)に示すように、羽ばたき飛行装置1では、前後の羽体の位相が90°以下とすることで、90°を超えた場合に比べて推進力を高く維持することができる。
【0045】
羽体3の位相は、回転軸心17に対する前記クランク部18a〜クランク部18dの位相を調整することで、調節することでできる。
例えば、前方右側の羽体3aの動きを制御するクランク部18bと、後方右側の羽体3cの動きを制御するクランク部18dの角度が回転軸心17に対して90°以下となるようにすると、前方の羽体3a、3bの位相に対して後方の羽体3c、3dの位相が90°以下の遅れがあるようになる。
【0046】
本発明の羽ばたき飛行装置1では、前後の羽体との間に段差を設け、上記のように羽ばたき角θ1、θ2や位相を調整することで、図8(b)に示すように、従来のように前後の羽体が水平に設置された羽ばたき飛行装置に比べて、顕著な推力(水平方向の力)を得ることが可能になる。
【0047】
また、前記支持本体2の揺動支持軸7dの後方には、図1〜3に示すように、駆動モータ11に電力を供給する電池20が接続されている。前記電池20は錘として利用することができる。
【0048】
本発明では、前記錘を移動することもできる。
例えば、電池20に電磁力により前後方向に移動するアクチュエータを取り付け、このアクチュエータを支持本体2に接続させてもよい。
アクチュエータが前後方向に移動するにともなって前記錘が前記羽ばたき型飛行装置1の前後方向に偏るように調整することが可能となり、結果として、羽ばたき飛行装置1の重心が前後に移動することで、上下方向の飛行の制御を可能にすることができる。具体的には、前方向に錘を移動すれば、羽ばたき飛行装置1は下降し、逆に後方向に錘を移動すれば羽ばたき飛行装置1は上昇することができる。
【0049】
また、電池20に電磁力により左右方向に移動するアクチュエータが取り付けられ、このアクチュエータを支持本体2に接続させてもよい。
アクチュエータが左右方向に移動するにともなって前記錘が羽ばたき飛行装置1の左右方向に偏るように調整することが可能となり、結果として、羽ばたき飛行装置1の重心が左右に移動することで、左右方向の飛行の制御を可能にすることができる。具体的には、右方向に錘を移動すれば、羽ばたき飛行装置1は右に旋回し、逆に左方向に錘を移動すれば羽ばたき飛行装置1は左に旋回することができる。
【0050】
なお、前記錘は電池20とは別に前記支持本体2の中央部付近の前後の羽体の間に設けてもよい。
【0051】
また、支持本体2には、前記駆動モータ11、必要であれば前記アクチュエータの制御をするための電子回路基板(図示せず)が接続されていてもよい。
【0052】
支持本体2の後方端部には飛行を安定させるために尾翼21が設けられている。尾翼21としては、水平尾翼とともに垂直尾翼が設けられることで、飛行時の羽ばたき飛行装置1の揺れを小さくすることができるという利点がある。また、水平尾翼も水平であることには限定されず、支持部材2を中心として上下方向に角度をつけてもよい。また、尾翼21の形状や大きさについても、特に限定はない。
【0053】
以上のような構成を備えことで、本発明の羽ばたき飛行装置1は、実物のトンボのように羽ばたきながら体軸のブレが少なく安定した飛行が可能となる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
次に、図1に示すような外観と図2、3に示すような構造を有する羽ばたき飛行装置1(全長22cm、総重量7.5g、羽体の総面積205cm2)を作製した。
前後の羽体の段差を5cm、前方の羽体の後端部と後方の羽体の前縁部との間隔を7.5cmとなるように調整した。
また、主な部材の構成は以下のとおりである。
駆動モータ11:直径6mmコアレスモータ「Mk06−10」
ギア15:M0.3 9枚ピニオン「G309−097」
回転ギア16a、16b:M0.3 60枚スパー「G360L」
なお、ギアの減速比は33.3になるように調整した。
尾翼21:発泡ポリスチレン(厚さ1mm)、同面積の水平尾翼と垂直尾翼を供える。
支持部材2:カーボンロッド(直径1mm)
羽体3の弾性軸部材4:カーボンロッド(直径0.7mm)
羽体3の支脈6:カーボンロッド(直径0.3mm)
羽体3の薄膜羽部5:ポリプロピレン膜(厚さ0.45mm、幅4.5cm)
揺動支持軸7:スチロール樹脂(2mm角材)
クランク部分18:ピアノ線(直径0.7mm)、各クランク部の位相差を90°となるように調整
連結アーム12:アルミ棒(直径1mm)
支持板9、19:バルサ材
電池20:Li−Po電池(左右方向に変動可能なソノイドアクチュエータ付)
なお、作製した羽ばたき飛行装置1は、前後の羽体3の位相が90°ずれたものであり、14Hzの周波数で羽ばたくことが可能であった。
【0055】
(比較例1)
前記支持板9の上部をなくし、尾翼を水平尾翼を下方に略30°下げた以外は、実施例1と同様の部材を用いて、前後の羽体の間の段差をなくした同軸型の羽ばたき飛行装置も作製した(重量7.1g)。
【0056】
(試験例:推力の測定)
電子天秤((株)島津製作所製 「BL−220H」)上に設けた固定具に実施例1および比較例1で作製した羽ばたき飛行装置をそれぞれ吊るし、羽ばたかさせたときの電気天秤の出力電圧をローパスフィルタ(カット周波数:約60Hz)を介して電気的に接続したデジタルオシロスコープ(岩通計測(株)製 「wave Surfer 424」)で記録した。
いずれの羽ばたき飛行装置も羽ばたき周波数が14Hzであったが、実施例1の平均推力7.6gf、最大推力14.7gf、最小推力2.2gfであったのに対して、比較例1では平均推力6.3gf、最大推力13.7gf、最小推力−0.11gfとなり、実施例1の羽ばたき飛行装置の推力がいずれも有意に大きいことがわかる。
【0057】
(試験例:旋回飛行)
実施例1の羽ばたき飛行装置を水平飛行させたところ、実物のトンボのように羽ばたきながら体軸のブレが少なく安定した飛行が可能であった。また、水平飛行させている際に、手元の発信機からアクチュエータを左方向に偏らせる指令を出したところ、羽ばたき飛行装置は左に旋回する飛行を行った。次いで、アクチュエータを右方向に偏らせる指令を出したところ、羽ばたき飛行装置は右に旋回する飛行を行った。このことから、遠隔操作で羽ばたき飛行装置に旋回飛行をさせることができた。
【符号の説明】
【0058】
1 羽ばたき飛行装置 2 支持本体
3 羽体 4 弾性軸部材
5 薄膜羽部 6 支脈
7 揺動支持軸 8 駆動手段
9 支持板 10 支持軸
11 駆動モータ 12 連結アーム
13 ピン 14 回転体
15 ギア 16 回転ギア
17 回転軸心 18 クランク部
19 支持板 20 電池
21 尾翼
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、
全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、
前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、
前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする羽ばたき飛行装置。
【請求項2】
前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にある請求項1記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項3】
前方の羽体の位置が前記支持本体よりも上方にある請求項2記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項4】
前記羽体の羽ばたき角が60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節されている請求項1〜3いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項5】
前記駆動手段が、
前記支持本体の前後方向に略沿った回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備える回転体を設けるとともに、
一端側が前記クランク部に軸支されるとともに他端側が前記羽体の所定部位に支持され、前記クランク部と前記羽体とを連結する連結アームを設け、
前記左右対を成す羽体にそれぞれ支持される連結アームの一端側を、互いに位相の異なるクランク部に軸支し、
前記回転体を回転駆動する駆動モータを設けてなる請求項1〜4いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項6】
尾翼を設けた請求項1〜5いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項7】
前記支持本体に飛行制御用の錘を設けた請求項1〜6いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項1】
前後に長い支持本体に、上下揺動可能に支持される左右の羽体を複数対設け、各羽体を駆動するための駆動手段を設けてなる羽ばたき飛行装置であって、
全重量と前記羽体の面積との比が0.357m2/N以下であり、
前記羽体が弾性軸部材と薄膜羽部からなり、
前後の羽体の間に段差が設けられていることを特徴とする羽ばたき飛行装置。
【請求項2】
前方の羽体の位置が後方の羽体の上方にある請求項1記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項3】
前方の羽体の位置が前記支持本体よりも上方にある請求項2記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項4】
前記羽体の羽ばたき角が60°以下であり、前方の羽体の位相に対して、後方の羽体の位相が90°以下の遅れがあるように調節されている請求項1〜3いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項5】
前記駆動手段が、
前記支持本体の前後方向に略沿った回転軸心を有し、位相の異なる複数のクランク部を備える回転体を設けるとともに、
一端側が前記クランク部に軸支されるとともに他端側が前記羽体の所定部位に支持され、前記クランク部と前記羽体とを連結する連結アームを設け、
前記左右対を成す羽体にそれぞれ支持される連結アームの一端側を、互いに位相の異なるクランク部に軸支し、
前記回転体を回転駆動する駆動モータを設けてなる請求項1〜4いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項6】
尾翼を設けた請求項1〜5いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【請求項7】
前記支持本体に飛行制御用の錘を設けた請求項1〜6いずれか記載の羽ばたき飛行装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−180050(P2012−180050A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45235(P2011−45235)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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