説明

羽根付杭の回転埋設方法

【課題】経済的に杭頭部の水平変位を抑制できるように地盤に対して羽根付杭を埋設すること。
【解決手段】螺旋状の羽根付杭の回転埋設方法であって、前記羽根付杭を所定の埋設角度に傾斜させる傾斜工程と、前記羽根付杭の埋設角度及び埋設方向を確認しつつ前記羽根付杭を地盤に埋設する埋設工程と、を有することを特徴とする羽根付杭の回転埋設方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の下部を支える羽根付杭の回転埋設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、杭を埋設するにはいくつかの方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1においては、先端羽根の付いた先端羽根付鋼管杭を回転させながら、地盤に対して垂直に埋設させている。このような方法で埋設された杭は鉛直杭となる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−240395
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、耐震補強工事が盛んになりつつあるなかで、建築分野でも様々な基礎耐震補強工事が行われている。しかし、従来の鉛直杭を用いて杭頭部の水平変位を効果的に抑制するには、鉛直杭の水平剛性を高くするため杭の断面積を大きくするなどの必要があり、経済的な設計・施工が困難であった。
【0005】
本発明の目的は、経済的に杭頭部の水平変位を抑制できるように地盤に対して羽根付杭を埋設することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の方法は次のとおりである。
【0007】
(1)
螺旋状の羽根付杭の回転埋設方法であって、前記羽根付杭を所望の埋設角度に傾斜させる傾斜工程と、前記羽根付杭の埋設方向を確認しつつ前記羽根付杭を地盤に埋設する埋設工程と、を有することを特徴とする羽根付杭の回転埋設方法。
【0008】
(2)
前記埋設工程における前記羽根付杭の埋設方向の確認は、前記羽根付杭の周囲の地面において、所望の埋設方向と平行に設置された棒状部材を基準に行うことを特徴とする(1)に記載の羽根付杭の回転埋設方法。
【発明の効果】
【0009】
(1)のように、羽根付杭を傾斜させてから地盤に回転埋設すると、羽根付杭が地盤内に傾斜した状態で留まる。すると、杭頭部に加わる水平力は水平成分と杭軸方向成分(押込力または引抜力)に分離され、杭頭部に加わる水平力の一部が杭軸方向成分として負担される。このため、傾斜した状態で埋設された杭は、杭頭部が水平力に対して水平変位することを埋設角度に応じて抑制することができる。
【0010】
(2)のように、地面に、埋設方向と平行に棒状部材を設置し、この棒状部材を基準にして埋設作業を行うことで、羽根付杭の振れをいち早く簡単に把握することができる。このため、羽根付杭の振れを防止し、所望の角度で羽根付杭を回転埋設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を用いて杭1の埋設方法を説明する。図1は杭1の埋設方法及び施工機械Mの説明図であり、(a)が施工機械Mの上面から見た図、(b)が施工機械Mの側面から見た図、(c)は面Pの説明図、(d)は面Qの説明図である。
【0012】
まず、杭1を地盤Fに埋設する前段階として、杭の建込みを行う。即ち、施工機械Mによって杭1を釣り込んで、地面G上の杭心Oに合わせて杭をセットする。このとき、杭1は、杭心Oに杭先端1aを向けた状態とされ、且つ鉛直方向から所望の埋設角度θだけ傾斜されている<傾斜工程>。杭先端1aを杭心Oに対してセットしたら、杭1を振止め装置2で拘束する。尚、本実施形態の杭1は、先端羽根付杭であり、杭先端1aの杭側面に螺旋状の先端羽根1bが付いている。
【0013】
次に、杭1の埋設方向(埋設角度を含む)を確認しつつ、杭1を地盤Fに埋設する<埋設工程>。具体的に説明すると、まず杭1が所望の埋設角度θになっていることを確認したら、杭1の杭頭部1cを施工機械Mのキャップ1dに固定する。そしてこのキャップ1dを回転(正回転)させることで、杭1が回転する。このようにして回転された杭1は、杭先端1aに配設された先端羽根1bの推進力により、地盤Fに対して貫入していく。このとき、杭は回転方向に対して3次元的にねじれるように振れる傾向があるため、所望の精度で施工されているかを管理することが重要となる。具体的には、施工機械Mの旋回装置の構造や固定度合い、リーダー3の構造や固定度合い、振れ止め装置による拘束度合いにもよるが、杭を回転させて地盤Fに貫入させていくと、杭の先端は回転により、図1(a)においては上方向または下方向、図1(b)においては奥行き方向または手前方向に振れる傾向があることが確認できている。また、杭の先端は、地盤Fの抵抗により、傾斜角度が大きくなる方向(図1(a)においては手前方向、図1(b)においては上方向)に振れる傾向があることが確認できている。
【0014】
ここで、埋設工程における杭1の埋設方向の確認について詳しく述べる。杭1の埋設方向の確認については、杭1の周囲の地面Gにおいて埋設される棒状部材10を基準として行う。棒状部材10は、図1(a)に示すように杭1の所望の埋設方向と平行に設置されている。次に棒状部材10による杭1の振れ(杭1の杭心Oからの偏心と所望の埋設方向に対するぶれ)の確認作業について、具体的に説明する。
【0015】
まず、杭1と棒状部材10とを含む平面内での振れについて説明する。図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態の棒状部材10aまたは/および棒状部材10bが配設される。具体的には、棒状部材10bは、鉛直線zと所望の埋設方向上の線lとを含む面P上であって、杭1をはさんで施工機械Mと反対側に、杭1の所望の埋設方向と平行に配設される。また、棒状部材10aは、前述の面P(図1(c)参照)に対して垂直であって杭心Oを通る直線mと所望の埋設方向上の線lとを含む面Q(図1(d)参照)上に、杭1の所望の埋設方向と平行に配設される。また、棒状部材10をこのように所望の埋設方向と平行に配設することで、水平器つきの定規を用いることにより、作業者が棒状部材10と杭1周面との距離を容易に測定することができる。作業者が施工機械Mの正面方向または側面方向から、棒状部材10を基準に杭1を見て杭1の杭軸上に棒状部材10が存在するかを確認することで、目視によっても杭の振れを発見できる。このように、上述のような杭1と棒状部材10との位置関係にすれば、作業者は杭1の振れを発見しやすい。
【0016】
次に杭1の地面Gに対する角度の振れについて説明する。図1(b)に示すように、本実施形態の棒状部材10は、杭1の所望の埋設角度θと同じ角度で地面Gに固定されている。このため、杭1を埋設する過程において杭1に振れが発生して埋設角度が、所望の埋設角度θよりも大きくなったり小さくなったりすると、杭軸方向と棒状部材の方向がねじれの位置関係となる。この状態を作業者が発見することで、作業者は杭1に振れが発生したことを認識することができる。
【0017】
尚、棒状部材10は、杭1からみて同一方向に設置してもよい。図2は棒状部材10を杭1からみて同一方向に設置した状態を示す図であり、(a)が面P上に棒状部材10を2本設置した状態を示す図であり、(b)が面Q上に棒状部材10を2本設置した状態を示す図である。
【0018】
棒状部材10を面Pまたは面Q上であって、杭1からみて同一方向に2本設置すると、作業者は2本の棒状部材が重なる位置から棒状部材10を基準に杭1を見ることで、より簡単且つ正確に振れを発見することができ、好ましい。このように棒状部材10を設置すると、作業者が確認作業時に居るべき位置を簡単に正確に特定することができ、作業者は更に正確且つ容易に杭1の振れを確認することができる。また、杭の先端は回転により、図2(a)においては上方向または下方向、図2(b)においては奥行き方向または手前方向に振れる傾向があることから、棒状部材10を面Q上であって、杭1を挟んで杭1から等距離(L1)に設置する(不図示)と好ましい。杭1を回転させることにより、杭1と地面Gとの交点が図2(a)においては上方向または下方向、図2(b)においては奥行き方向または手前方向に距離dだけ振れると、それぞれの棒状部材10と地面Gとの交点から杭1と地面Gとの交点との距離は、それぞれL1+d、L1−dとなる。このように杭1と棒状部材10を設置すると、作業者が距離L1+dと距離L1−dを目視により比較できるため、距離L1+dと距離L1との比較をする場合と比べて、杭1の振れを約2倍の感度で早期に容易に確認することができる。
【0019】
以上のように、これらの確認作業を、杭1の埋設工程において断続的に行う。このようにすることで、杭1は地盤F内部に所望の埋設角度θを保ちつつ埋設される。
【0020】
尚、確認作業において、前述のように作業者は目視でも確認できるが、厳密に計測する場合には、様々な計測器を用いることが好ましい。計測器としては、例えば、デジタル角度計やトランシットなどを用いることができる。
【0021】
確認作業をより厳密に行う際においては、杭1を埋設させる作業を行いつつ目視による確認を行い、計測器による確認を断続的に行うとよい。前述の方法によれば、目視による確認でもかなりの精度で杭1の振れの確認が簡単にできるため、計測器による厳密な計測の回数を減らすことができ、作業者は確認作業に多くの手間をかけずに済む。また、断続的に計測器による厳密な計測を行うことで、杭1の埋設角度の精度も十分に保つことができる。
【0022】
計測又は目視によって振れを発見した場合、作業者は、杭1の回転埋設作業を一端止め、杭1を逆回転させるなどして杭1を棒状部材10a、10bを基準として所望の位置に位置させ、且つ所望の埋設角度θになるように杭1の姿勢を調整した後、回転埋設作業を再開する。回転埋設作業を再開すると、それまでの回転埋設作業により地盤Fの当該作業箇所の抵抗が減少しているため、杭1は振れにくくなる。そして、杭1の先端がある程度の深度に達すると、杭はさらに振れにくくなる。これは、地盤Fが杭1が3次元的にねじれるように振れる動きを拘束するためである。
【0023】
上述のようにして杭1を所望の深さまで埋設させたら、杭1の杭頭部1cに付帯している施工機械Mのキャップ1dを逆回転し、キャップ1dを杭頭部1cから外す。こうして杭1は地盤F内部に所望の埋設角度θで埋設され、埋設作業が完了する。
【0024】
上述の傾斜工程において、杭1を傾斜させる所望の埋設角度θは15°≦θ≦60°であり、角度は用途や地盤の状況に応じて決定する。一般に、所望の埋設角度θが大きくなればなるほど、杭頭部1cの水平力に対する水平変位は小さくなる。
【0025】
水平変位を効果的に抑制する観点からは、15°≦θであり、施工性の観点からは、θ≦60°である。
【0026】
次に、上述の方法により埋設された杭1の杭頭部1cの水平変位の抑制について説明する。図3は本実施形態の斜杭と従来の鉛直杭の水平力に対する水平変位と曲げモーメントを説明する図であり、(a)が本実施形態の杭1が地盤に埋設された図、(b)が従来の鉛直杭100が地盤に埋設された図である。両図とも、杭の状態と共に水平変位分布及び曲げモーメント分布を記入している。
【0027】
地盤Fに埋設された先端羽根1bを有する本実施形態における杭1は、地面Gに対して垂直ではなく傾斜した状態で埋設されている。このため、図3(a)に示すように水平力が杭頭部1cにかかるとき、杭1が傾斜していることにより水平力が水平成分と杭軸方向成分(押込力または引抜力)に分離される。このように、杭頭部に加わる水平力の一部が杭軸方向成分として負担されることにより、杭1の杭頭部1cの水平変位を抑制することができる。
【0028】
ここで、杭1には建物重量等の鉛直荷重からなる杭軸方向成分の力に加え、水平力による杭軸方向成分の力(押込力または引抜力)がかかることとなるが、本実施形態の杭1は先端羽根1bがあることにより、先端羽根1bのアンカー的効果も見込めることから、建物重量等の鉛直荷重と水平力による杭軸方向成分の力(押込力または引抜力)に抵抗することができる。その効果により、杭頭部1cに作用する水平力に対しても耐力を向上させることができる。羽根の数や大きさは必要な耐力に応じて適宜設定することができる。
【0029】
従来においては、図3(b)に示すように鉛直杭100を用いていた。この場合に鉛直杭100には杭頭部に水平力が作用すると、この水平力は杭のせん断力となり、曲げモーメントも大きくなる。これに対して、本実施形態の杭1においては、鉛直杭100と比較して杭頭部1cにおける杭頭軸力は大きくなるものの、杭頭せん断力、変位、曲げモーメントを小さくすることができる。
【0030】
上述の実施形態では杭1を1本だけ埋設するとしたが、これに限るものではない。即ち、複数本の杭1を同様に地盤Fに埋設することで、更に杭頭部の水平変位を抑制することができる。これについて説明する。図4は杭1を2本、地盤に埋設した状態を示す図である。
【0031】
図4に示すように、上述の傾斜工程及び埋設工程の作業を行った後、近接する位置から再度作業を行う。ここで、本例においては、複数の傾斜工程における所望の各埋設角度は同一とし、所望の各埋設方向を、上方から見て180度異ならせている。このように構成すると、杭を1本だけ埋設する場合に比べて、水平変位をさらに抑制することができ、それぞれの杭の杭頭を結合させることにより、水平変位を一層抑制することができる。また、一方の杭1が杭軸方向押込力に対抗する耐力を発揮し、他方の杭が杭軸方向引抜力に対抗する耐力を発揮し、補完的に杭頭部1cにかかる水平力に対する耐力を発揮することができる。尚、本例においては所望の埋設角度を同一としたが、必ずしもこれに限るものではない。所望の埋設角度は、発生が予想される力に応じて、適宜変更することができる。
【0032】
また、実施形態においては、杭1を1本又は2本用いるとしたが、図5に示すように、3本以上であってもよい。図5は3本の杭1の組合せの構造を示す上面図である。図5においては、上述の傾斜工程及び埋設工程を地上の近接する位置から繰り返して3回行い、複数の傾斜工程における所望の各埋設角度を同一とした。また、所望の各埋設方向は120度ずつ異なることとした。このようにすることで、杭頭部1cの耐力を向上させ、上方から見ていずれの方向から杭頭部1cに水平力がかかった場合にも水平変位を抑制することができる。尚、本例においては所望の埋設方向を、上方から見て120度ずつ異ならせ、且つ所望の埋設角度を同一としたが、必ずしもこれに限るものではない。所望の埋設方向は、発生が予想される力に応じて、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、建物の下部を支える羽根付杭の回転埋設方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】杭1の埋設方法及び施工機械Mの説明図。
【図2】棒状部材10を杭1からみて同一方向に設置した状態を示す図。
【図3】本実施形態の斜杭と従来の鉛直杭の水平力に対する水平変位と曲げモーメントを説明する図。
【図4】杭1を2本、地盤に埋設した状態を示す図。
【図5】3本の杭1の組合せの構造を示す上面図。
【符号の説明】
【0035】
E…水平力
F…地盤
G…地面
M…施工機械
O…杭心
1…杭
1a…杭先端
1b…先端羽根
1c…杭頭部
1d…キャップ
2…振止め装置
3…リーダー
10…棒状部材
100…鉛直杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の羽根付杭の回転埋設方法であって、
前記羽根付杭を所望の埋設角度に傾斜させる傾斜工程と、
前記羽根付杭の埋設方向を確認しつつ前記羽根付杭を地盤に埋設する埋設工程と、
を有することを特徴とする羽根付杭の回転埋設方法。
【請求項2】
前記埋設工程における前記羽根付杭の埋設方向の確認は、前記羽根付杭の周囲の地面において、所望の埋設方向と平行に設置された棒状部材を基準に行うことを特徴とする請求項1に記載の羽根付杭の回転埋設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−37839(P2010−37839A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202979(P2008−202979)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月20日 社団法人日本建築学会発行の「2008年度大会(中国)学術講演梗概集」に発表
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】