説明

羽毛入り繊維製品用ミシン糸

【課題】優れた伸縮性や軽量性を実現しつつ、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止することが可能な羽毛入り繊維製品用ミシン糸、該羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品、及び、羽毛入り繊維製品の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維糸条に、撥水剤による撥水処理、及び、制電処理が施されている羽毛入り繊維製品用ミシン糸であって、前記制電処理は、制電加工剤によって制電性を付与するものである羽毛入り繊維製品用ミシン糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優れた伸縮性や軽量性を実現しつつ、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止することが可能な羽毛入り繊維製品用ミシン糸、該羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品、及び、羽毛入り繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジャケット、ジャンパー、ブルゾン等の防寒具の内部に羽毛を使用することで、断熱効果の高い空気層を効率的に形成し、高い保温効果を得ることが行われている。
例えば、着用者と接する裏地と、外界と接する表地との間に羽毛を充填したダウンジャケットが良く知られている。
【0003】
ダウンジャケットでは、表地と裏地の間に羽毛を詰め込んだ後、キルティングを行うのが一般的であるが、このような方法で作製されたダウンジャケットは、詰め込んだ羽毛の上からキルティングを行うので、キルティングの縫目から羽毛が脱離するという問題があった。羽毛の脱離が生じると、着用者に不快感を与えるだけでなく、ダウンジャケットの保温性や着心地が低下してしまうという事態を招いていた。
【0004】
これに対しては、表地と羽毛の間、裏地と羽毛の間に袋状に縫ったダウンパックと呼ばれる中生地を設けることが一般的であるが、ダウンパックには、羽毛の脱離(抜け)防止のために高密度の織物が使用されることから、伸縮性が低下したり、重量が増加したりして、特にスポーツウェア等の用途には不向きであった。
【0005】
例えば、特許文献1には、キルティング部分の縫目からの羽毛抜け出しを防止するために、中生地(ダウンパック)をあらかじめ2本の縫目で縫っておいて、後に中生地の上に表生地又は裏生地を重ねて、この2本の縫目の中心部分に縫目を形成して表生地又は裏生地と中生地を縫い合わせることにより、表側の縫目からの羽毛抜け出しを防止したダウンウエアが記載されている。
しかしながら、このような方法は、製造工程が極めて煩雑であり、中生地を使用することによる伸縮性の低下や、重量の増加といった問題も解決されていなかった。
【0006】
また、特許文献2には、発泡エマルジョン樹脂を基布にコーティングし、コーティング層に、基布よりも伸縮性が小さいガーゼ等の布帛を重ね合わせ、該コーティング層を加熱架橋してなる羽毛の抜け防止生地が記載されている。
しかしながら、このような方法も、コーティング工程や加熱架橋工程を要することから、製造工程が極めて煩雑であり、伸縮性の小さい布帛を使用することで、伸縮性の低下や、重量の増加といった問題も解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−173815号公報
【特許文献2】特開2003−251088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、優れた伸縮性や軽量性を実現しつつ、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止することが可能な羽毛入り繊維製品用ミシン糸、該羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品、及び、羽毛入り繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリエステル繊維糸条に、撥水剤による撥水処理、及び、制電処理が施されている羽毛入り繊維製品用ミシン糸であって、前記制電処理は、制電加工剤によって制電性を付与するものである羽毛入り繊維製品用ミシン糸である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリエステル繊維糸条に、撥水剤による撥水処理、及び、制電処理が施されているミシン糸を用いて羽毛入り繊維製品を製造する場合、縫製時に撥水効果と制電効果を発現することで、得られる羽毛入り繊維製品は、優れた伸縮性や軽量性を実現しつつ、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸は、ポリエステル繊維糸条に、撥水剤による撥水処理、及び、制電処理が施されたものである。なお、上記撥水処理及び制電処理はどちらが先にされていてもよい。
【0012】
上記ポリエステル繊維糸条を構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。また、これにイソフタル酸や5−スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等を共重合した共重合ポリエステルを用いてもよい。本発明では、特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを用いることが好ましい。
【0013】
上記ポリエステル繊維糸条は、スパン糸であることが好ましい。上記スパン糸は、毛羽を有することから、羽毛入り繊維製品に用いた場合に効果的に羽毛の抜けを防止することができ、可縫性にも優れる。
【0014】
上記スパン糸としては、市販のポリエステル100%紡績糸が例示できる。用いる繊維の繊度は150〜950dtexが好ましく、200〜600dtexがより好ましい。
【0015】
上記ポリエステル繊維糸条は、フィラメント糸であることが好ましい。上記フィラメント糸は、剛性や寸法安定性を有することから、パッカリングの発生を効果的に防止することができる。
【0016】
上記フィラメント糸としては、モノ又はマルチフィラメントを用いることができるが、マルチフィラメントを用いることが好ましい。
【0017】
上記フィラメント糸としては、毛羽加工が施されているものを用いることが好ましい。これにより、スパン糸の利点とフィラメント糸の利点とを両立させることが可能となる。
上記毛羽加工としては、具体的には例えば、特開2002−155444号公報に記載の上撚マルチフィラメント糸条の毛羽加工方法や、特開2002−61043号公報に記載の多数本の構成フィラメント単糸と、実撚りを加えた下撚マルチフィラメント糸条とを使用して毛羽加工を施す方法等が例示できる。
【0018】
上記フィラメント糸を用いる場合、単糸繊度は1.0〜4.0dtexが好ましく、1.5〜3.5dtexであることがより好ましい。
また、上記フィラメント糸として、マルチフィラメントを用いる場合、フィラメント数は12〜400であることが好ましく、総繊度は120〜800dtexが好ましく、150〜300dtexであることがより好ましい。
【0019】
本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸は、撥水剤による撥水処理が施されていることで、糸に撥水機能を付与することができる。一般的に羽毛は8%前後の水分を含んでいることから、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品では、縫製時や着用時に羽毛を縫目に近づけないようにする効果があり、その結果、縫目部分からの羽毛の抜けを防止することができる。
また、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品において、縫目からの水分の浸入を防止する吸水抑制効果を有する。
【0020】
上記撥水剤としては、フッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤等を用いることが好ましい。
上記フッ素系撥水剤としては、一般に撥水剤として使用されている化合物を使用することができ、例えば、ポリペンタデカフルオロオクチルアクリレート、ポリトリフルオロエチルアクリレート、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系化合物等からなるものが挙げられる。
上記シリコーン系撥水剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサンの分子末端あるいは側鎖に水酸基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基等を導入した変性シリコーン化合物等を使用することができる。これらのフッ素系撥水剤やシリコーン系撥水剤は、単独又は2種類以上を混合して使用することができるが、シリコーン系撥水剤の単独使用では高いレベルの撥水性能を付与しにくい傾向がある。これらの撥水剤は、エマルジョンあるいは溶剤に溶解した状態で使用される。
【0021】
本発明において、上記ポリエステル繊維糸条に撥水剤による撥水処理を施す方法としては、所定濃度の撥水剤を含有する水溶液又は溶剤溶液に上記ポリエステル繊維糸条を浸漬した後、マングル等で絞る方法や、所定濃度の撥水剤を含有する水溶液又は溶剤溶液をスプレーで塗布する等の方法を採用することができる。このように所定濃度の撥水剤を含有する水溶液又は溶剤溶液を付与した後、乾燥することにより撥水処理を行う。
【0022】
上記撥水剤のポリエステル繊維への付着量は、繊維重量に対し0.5〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.8重量%、さらに好ましくは1.2〜1.6重量%である。上記撥水剤の付着量を上記範囲内とすることで、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸の撥水性を適度なものとすることができる。
【0023】
本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸は、制電処理が施されていることで、糸に制電性を付与して、帯電しにくくすることができる。羽毛や、表地、裏地は帯電しやすいが、羽毛入り繊維製品用ミシン糸が制電性を有することで、これらとの摩擦による摩擦帯電が低減され、静電気を帯びにくくなる。また、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品において、縫目における摩擦による帯電を防止する帯電制効果を有する。
なお、本明細書において、「制電処理」とは、糸に制電性を付与する処理のことをいい、例えば、制電加工剤によって制電性を付与する方法や、導電性を有する糸と組み合わせることで導電複合糸とする方法等が挙げられる。
【0024】
上記制電加工剤としては、例えば、高級炭化水素化合物、シリコーン、スルホン酸塩化合物、リン酸エステル塩等を混合したものを使用することが好ましい。特にシリコーンとパラフィン等の高級炭化水素化合物との混合物を用いることが好ましい。
また、ポリエチレングリコールを親水性成分とし、これをアクリル系やポリエステルにグラフト重合した樹脂タイプの制電加工剤や、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)単位(基)と4級アンモニウム塩基等の制電性能を有する官能基を有し、かつ少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物からなる制電加工用ポリウレタン樹脂、スルホン酸塩と4級アンモニウム塩とイミダゾリニウム塩とからなる制電加工剤等が挙げられる。
【0025】
本発明において、上記ポリエステル繊維糸条に制電加工剤により制電処理を施す方法としては、所定濃度の制電加工剤を含有する水溶液又は溶剤溶液に上記ポリエステル繊維糸条を浸漬した後、マングル等で絞る方法や、所定濃度の制電加工剤を含有する水溶液又は溶剤溶液をスプレーで塗布する等の方法を採用することができる。このように所定濃度の制電加工剤を含有する水溶液又は溶剤溶液を付与した後、乾燥することにより撥水処理を行う。
【0026】
上記制電加工剤のポリエステル繊維への付着量は、繊維重量に対し0〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.8重量%、さらに好ましくは1.0〜1.5重量%である。上記制電加工剤の付着量を上記範囲内とすることで、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸の帯電防止性を適度なものとすることができる。
【0027】
上記導電性を有する糸と組み合わせることで導電複合糸として使用する方法は、特にスパン糸やマルチフィラメント糸を使用する場合に有用であり、このような導電複合糸を用いることで、得られる羽毛入り繊維製品の摩擦帯電圧を低減させることができる。
【0028】
上記導電性を有する糸としては、例えば、カーボンブラック、金属、金属化合物等の導電性微粒子や導電性高分子を繊維表面に付加した糸のほか、金属メッキ繊維、金属繊維、炭素繊維等が例示できる。また、カーボンブラック、金属、金属化合物等の導電性微粒子をブレンドした導電性を有するポリマーを用いて紡糸することにより繊維化したものや、導電性を有するポリマーと導電性微粒子をブレンドしていないポリマーとをコンジュゲート紡糸する方法により繊維化したもの等が例示できる。また、上記制電加工剤によって制電性を付与された糸も使用することができる。
なかでも、上記コンジュゲート紡糸によって得られる導電性を有する糸を用いた場合、別途組み合わせる繊維との物性差を小さくすることができ、組み合わされてなる導電複合糸としての取り扱いがしやすい点で特に好ましい。
【0029】
上記導電性を有する糸の電気抵抗値は、10〜1010Ω・cmであることが好ましく、10〜1010Ω・cmの範囲であることがより好ましい。
上記導電性を有する糸の繊度としては、10〜70dtexが好ましく、20〜40dtexがより好ましい。フィラメント数は1〜10が好ましく、3〜10がより好ましい。
上記スパン糸又はマルチフィラメント糸と、上記導電性を有する糸とを組み合わせる方法については特に限定されず、例えば、合撚、カバリング、複合紡績、単純に引き揃えての合糸等の公知の方法を使用することができる。
【0030】
本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いて、羽毛入り繊維製品を製造することができる。このような羽毛入り繊維製品もまた本発明の1つである。
【0031】
上記羽毛入り繊維製品としては、寝具や、ジャケット、ジャンパー、ブルゾン等の衣料品、服飾小物類等が挙げられる。
なお、「羽毛」とは、一般的に、芯が小さく柔らかい、綿毛のような鳥羽のことを指し、衣料用途に使用される羽毛としては、ダウンとフェザーを混合したものが通常使用されている。ここでいうダウンとは、カモ、アヒル、ガチョウなど、水鳥の胸部分に生えている非常に柔らかい羽のことで、中央から柔らかい糸状の羽が放射線状に伸びた球形状をしているものである。また、フェザーとは水鳥の体を覆う羽のことで、羽軸があり、細い毛が木の枝のように生えている。ちょうど木の葉のような形状をしており、ダウンに比べると硬く嵩高性も劣る。
【0032】
本発明の羽毛入り繊維製品の製造方法は、表地と裏地との間に羽毛を有する羽毛入り繊維製品の製造方法であって、表地、羽毛、裏地の順に重ね合わせた後、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いて、表地と裏地とを縫製する縫製工程を有する製造方法である。
【0033】
本発明の製造方法では縫製工程において、中心部から外周面部に向かって漸次硬度が高くなっているミシン針を用いることが好ましい。
上記ミシン針は、生地を貫通する際の抵抗が少ないことから、針穴を小さくすることができ、また、粘着物等の付着を抑えることができることから、パッカリングを抑制することが可能となる。
【0034】
上記ミシン針としては、金属針素材の最外表面に耐摩耗、摩擦軽減等の表面処理を行ったものが好ましい。例えば、硬質クロムメッキ層を備え、その表面を金属針素材と同等以上の硬度を有するショットによるショットピーニング処理されたもの、硬質クロムメッキ表面に凹凸を形成しフッ素樹脂をその凹部に埋め込み形成したもの、硬質クロムメッキに代えてフッ素樹脂含有ニッケル系メッキまたはセラミック微粒子含有ニッケル系メッキ処理を施したもの、セラミックコーティングを施したもの等が挙げられる。上記セラミックとしては窒化ホウ素、炭化珪素、アルミナ等が好ましい。
【0035】
上記金属針素材の最外表面に耐摩耗、摩擦軽減等の表面処理を行ったミシン針は、耐久性が大幅に向上し、針類として充分な座屈剛性を持つことから、折損事故が殆どない高品質のミシン針として使用することができる。また、摩擦軽減により摩擦熱による針穴の拡大や、生地のばたつき、パッカリング等の縫製トラブルを軽減することができ、安定した縫製作業が行え、高速度運転が可能となる。
【0036】
上記ミシン針としては、工業用DBミシン針を例にすると、JIS規格の8〜11番手の針を用いることが好ましく、8〜9番手の針を用いることがより好ましい。
【0037】
上記縫製工程は、具体的には例えば、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を下糸或いは上糸、又は、両方で使用して、上記ミシン針をミシンに装着し、表地と裏地とを縫製する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いて羽毛入り繊維製品を製造した場合、縫製時に撥水効果と制電効果を発現することで、得られる羽毛入り繊維製品は、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止することができる。
また、本発明の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いることで、従来のようにダウンパック等の中生地を使用することなく、優れた伸縮性や軽量性を有する羽毛入り繊維製品を提供することができ、特にスポーツウェア等の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(スパン糸1の作製)
ポリエステル100%紡績糸(305dtex)をフッ素系撥水剤(アサヒガードAG−E061、旭硝子社製)に40℃で20分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、撥水処理を行った。このとき、フッ素系撥水剤付着量は1.6重量%、フッ素系撥水剤処理後の繊度は約310dtexであった。
次いで、パラフィンワックス130°F(新日本石油社製)、モノオレイン酸ソルビタンエステル(SO−10、日光ケミカルズ社製)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エマルゲン430、花王社製)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エマルゲン420、花王社製)、エチレングリコール、変性ポリシロキサン(BY16−880、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)及び熱水(95℃)を下記の組成で添加した後、95℃で攪拌混合し乳化させることにより混合液を得た。得られた混合液を制電加工剤として用い、上記のポリエステル紡績糸に60℃で5分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、制電加工を行い、スパン糸1を得た。このとき、制電加工剤付着量は1.0重量%、スパン糸1の繊度は約313dtexであった。
また、糸引張試験機(ウスターテクノロジーズ社製、商品名「テンソラピッド3」)を用いて、JIS L 1013に準拠した方法で強力値(切断時の引張強さ)および引張伸度(切断時の伸び率)を測定したところ、強力1070cN、伸度17%であった。
【0041】
[スパン糸1用制電加工剤の組成]
パラフィンワックス130°F 15部
モノオレイン酸ソルビタンエステル 3部
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エマルゲン430) 4部
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エマルゲン420) 2部
エチレングリコール 2部
変性ポリシロキサン 40部
熱水 34部
【0042】
(スパン糸2の作製)
ポリエステル100%紡績糸(439dtex)を、フッ素系撥水剤(NKガードNDN−1000E、日華化学社製)に40℃で20分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、撥水処理を行った。このとき、フッ素系撥水剤付着量は1.2重量%、フッ素系撥水剤処理後の繊度は約444dtexであった。
次いで、変性ポリシロキサン(BY16−880、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、パラフィン系乳化物(NKオイル AW−20、日華化学社製)を下記の組成で添加した後、95℃で攪拌混合することにより、混合液を得た。得られた混合液を制電加工剤として用い、ポリエステル紡績糸に60℃で5分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、制電加工を行い、スパン糸2を作製した。このとき、制電加工剤付着量は1.5重量%、スパン糸2の繊度は約451dtexであった。また、強力値及び引張伸度についてもスパン糸1の場合と同様に測定し、結果を表1に示した。
【0043】
[スパン糸2用制電加工剤の組成]
変性ポリシロキサン 40部
パラフィン系乳化物 60部
【0044】
(スパン糸3の作製)
ポリエステル100%紡績糸(305dtex)の制電処理として、市販の導電性コンジュゲート紡糸マルチフィラメント(ベルトロン(登録商標)B68タイプ、22dtex、3フィラメント、KBセーレン社製)と合糸することにより、ポリエステル導電複合糸(327dtex)を得た。
次いで、フッ素系撥水剤(アサヒガードAG−E061、旭硝子社製)に40℃で20分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、撥水処理を行いスパン糸3を作製した。このとき、フッ素系撥水剤付着量は1.5重量%、スパン糸3の繊度は約332dtexであった。また、強力値及び引張伸度についてもスパン糸1の場合と同様に測定し、結果を表1に示した。
【0045】
(スパン糸4の作製)
(スパン糸1の作製)で使用したポリエステル100%紡績糸(305dtex)をスパン糸4とした。
【0046】
(フィラメント糸1の作製)
毛羽加工が施されたポリエステルマルチフィラメント(265dtex、144フィラメント)を、フッ素系撥水剤(NKガードNDN−1000E、日華化学社製)に40℃で20分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、撥水処理を行った。このとき、フッ素系撥水剤付着量は1.4重量%、フッ素系撥水剤処理後の繊度は約269dtexであった。
次いで、(スパン糸2の作製)で用いたのと同じ制電加工剤を用い、60℃で5分間浸漬し、80℃で乾燥することにより、制電加工を行い、フィラメント糸1を作製した。このとき、制電加工剤付着量は1.5重量%、フィラメント糸1の繊度は約273dtexであった。また、強力値及び引張伸度についてもスパン糸1の場合と同様に測定し、結果を表1に示した。
【0047】
(フィラメント糸2の作製)
(フィラメント糸1の作製)で使用したポリエステルマルチフィラメント(265dtex、144フィラメント)をフィラメント糸2とした。また、強力値及び引張伸度についてもスパン糸1の場合と同様に測定し、結果を表1に示した。
【0048】
(織生地の作成)
タテ糸、ヨコ糸共に、ポリエステル100%のマルチフィラメント糸(84dtex、7 2フィラメント)を用いて製織された生機を精練・リラックス工程にて40〜98℃の浴槽で油剤を除去し、プレセット工程で乾熱による幅出しセットを行い、続いて液流染色機にて130℃分散染料によるポリエステル染色を行い、最後に乾熱による最終セット工程にて経糸175本/2.54cm、緯糸95本/2.54cmに仕上げた織物の裏面にシレ加工を施し、通気量を0.78cc/cm/secとした。こうして得られた織物を全ての実施例、参考例及び比較例の表生地及び裏生地として使用した。なお、本発明におけるシレ加工とは、織物の糸を物理的に平に潰すことにより、タテ糸とヨコ糸の隙間を埋め、ダウンの抜けを防止している織り目つぶし加工のことである。
【0049】
(実施例1)
表生地及び裏生地としてポリエステル100%の上記織生地を用いた。中生地は設けず、表生地及び裏生地はそれぞれシレ加工面を羽毛側に、構造的には上から、表生地、羽毛、裏生地の順に重ね合わせ、生地外縁を2.5mmピッチで一周縫製し、縫い上がり寸法タテ35cm、ヨコ35cmの大きさの評価用サンプルを作成した。このとき羽毛にはダウン80%、フェザー20%のものを用いた。
なお、ミシンには、上糸としてスパン糸1、下糸としてスパン糸1をセットした。ミシン針としては、最外表面が硬質クロムメッキされており、表面がショットピーニング処理されたミシン針(DB×1#9、ミシン針1)を使用した。
【0050】
(実施例2)
ミシン針としては、最外表面がセラミック微粒子含有無電解ニッケル−燐メッキされており、表面がショットピーニング処理されたミシン針(DB×1#8、ミシン針2)を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを作製した。
【0051】
(実施例3〜4、7〜10、参考例5〜6、比較例1〜4)
上糸、下糸及びミシン針として、表2に示すものを使用した以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを作製した。
【0052】
(評価)
(1)羽毛抜け評価
実施例、参考例及び比較例で得られた評価用サンプルについて、羽毛入り衣料品(ダウンウエア)グリーンゴールドラベル品質表示管理規定第4条に準拠した方法でダウンウエア吹き出し試験を行い、以下の基準で評価した。
具体的には、JIS L 1096 8.64.4に定めるタンブル乾燥機(直径66cm、奥行46cm、回転約50rpm)使用、設定温度40℃、ICI型ピリング試験用ゴム管(JIS L 1076)10本を負荷として評価用サンプルと一緒に乾燥機内に入れ、60分間運転した。乾燥機内の温度が通常温度に低下するのを待って前記評価用サンプルを取り出し、吹き出したダウン及びフェザーの個数をカウントした。
【0053】
5:吹き出し無し
4:吹き出し個数1〜5個
3:吹き出し個数6〜10個
2:吹き出し個数11〜15個
1:吹き出し個数16個以上
【0054】
(2)パッカリング評価
実施例、参考例及び比較例で得られた評価用サンプルについて、JIS L 1905(繊維製品のシームパッカリング評価方法)に準拠した方法でパッカリング評価を行い、判定用標準立体レプリカを用い、5級〜1級で評価した。
【0055】
(3)防水性試験
実施例、参考例及び比較例で得られた評価用サンプルについて、JIS L 1092(繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験(静水圧法))に準拠した方法で防水性試験を行い、縫目のうち2カ所から水滴が出た時点の水位を測定し、以下の基準で評価した。
【0056】
○:249mmを超える
△:150mm〜249mm
×:150mm未満
【0057】
(4)摩擦帯電圧試験
実施例、参考例及び比較例で得られた評価用サンプルの縫製部分について、JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法 摩擦帯電放電曲線測定法)に準拠した方法で摩擦帯電圧試験を行い、帯電圧のn=10平均値を以下の基準で評価した。
このとき、温湿度状態20℃40%RH、ナイロン摩擦布使用、洗濯処理JIS L 0217 103法 3回、試験方向は縫い目方向とした。
【0058】
○:2.6kVを超える
△:12.9〜2.6kV
×:12.9kV未満
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、優れた伸縮性や軽量性を実現しつつ、羽毛の抜け出しやパッカリングを効果的に防止することが可能な羽毛入り繊維製品用ミシン糸、該羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いた羽毛入り繊維製品、及び、羽毛入り繊維製品の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維糸条に、撥水剤による撥水処理、及び、制電処理が施されている羽毛入り繊維製品用ミシン糸であって、前記制電処理は、制電加工剤によって制電性を付与するものであることを特徴とする羽毛入り繊維製品用ミシン糸。
【請求項2】
ポリエステル繊維糸条は、スパン糸であることを特徴とする請求項1記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸。
【請求項3】
ポリエステル繊維糸条は、フィラメント糸であることを特徴とする請求項1記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸。
【請求項4】
撥水剤は、フッ素系撥水剤であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸。
【請求項5】
制電加工剤は、高級炭化水素化合物とシリコーンとの混合物であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いてなる羽毛入り繊維製品。
【請求項7】
表地と裏地との間に羽毛を有する羽毛入り繊維製品の製造方法であって、
表地、羽毛、裏地の順に重ね合わせた後、請求項1、2、3、4又は5記載の羽毛入り繊維製品用ミシン糸を用いて、表地と裏地とを縫製する縫製工程を有することを特徴とする羽毛入り繊維製品の製造方法。

【公開番号】特開2012−92492(P2012−92492A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31003(P2012−31003)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【分割の表示】特願2009−272302(P2009−272302)の分割
【原出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】