説明

羽毛成形体の製造方法

【課題】軽量で、保温性、断熱性、吸油性に優れるとともに、一定の機械的強度を有する羽毛成形体、及びその製造方法の提供。
【解決手段】 以下の工程(1)及び(2)を行うことを特徴とする羽毛成形体の製造方法。
(1)水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌して樹脂被覆羽毛を製造する工程
(2)工程(1)で得られた樹脂被覆羽毛を、圧縮加熱成形する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水鳥等の羽毛は、低比重、柔軟性、嵩高性及び保湿性に優れていることから、寝具や衣料品に用いられている。一方、ブロイラーについては、それから排出される羽毛の大部分は焼却又は廃棄され、一部が肥料や飼料に利用されているに過ぎない。
近年、天然羽毛の特徴を生かした新規な素材の開発が試みられている。例えば、天然羽毛繊維と合成繊維を配合し、合成繊維の融点以上で熱処理して成形した天然羽毛繊維油吸着マット(特許文献1)や天然羽毛繊維断熱材(特許文献2)、また、羽毛と熱可塑性の接着剤とからなる羽毛集合体を、該接着剤によって圧縮接着した羽毛シート(特許文献3)や、羽毛と熱融着性繊維からウエブを形成し、バインダーによりそれを接着した羽毛シート(特許文献4)等、が報告されている。
【0003】
特許文献1及び2の成形体は、天然羽毛を、脱脂洗浄して乾燥後、10mm程度の長さの繊維状に切断加工して羽毛繊維とし、これを合成繊維(例えば、PP/PET芯鞘複合繊維)と均一に混合した後、所要の密度となるように積層し、熱風乾燥機にて熱成型して製造されるものである。
斯かる成形体は、天然羽毛を繊維状に切断加工して羽毛繊維とした後、合成繊維と混合して加熱処理されるものであり、羽毛を切断加工するという手間がかかり、さらに羽毛繊維と合成繊維を均一に混合することは容易ではない、という問題がある。
【0004】
また、特許文献3及び4の羽毛シートは、羽毛と特定の樹脂を融着成分とする熱融着性繊維とから、エアレイ法、乾式パルプ法などの不織布のウエブ形成法によりウエブを形成し、当該ウエブをバインダーにより接着して製造されるものである。
しかしながら、当該方法で製造されたシートは、厚さ3ミリ程度で、使用の際に加熱処理して嵩を回復させるものであり、その用途は限定されている。
【特許文献1】特開2002−105938号公報
【特許文献2】特開2002−54066号公報
【特許文献3】特開平4−263891号公報
【特許文献4】特開平8−89370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軽量で、保温性、断熱性、防音性、遮音性、吸油性に優れるとともに、一定の機械的強度を有する羽毛成形体、及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡便な工程で、優れた羽毛成形体を得るべく検討したところ、水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌した場合に、樹脂が羽毛表面上に均一に塗布された熱融着性の羽毛(樹脂被覆羽毛)が得られ、これを圧縮加熱成形することにより、所望の羽毛成形体が製造できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の1)〜7)に係るものである。
1)以下の工程(1)及び(2)を行うことを特徴とする羽毛成形体の製造方法。
(1)水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌して樹脂被覆羽毛を製造する工程
(2)工程(1)で得られた樹脂被覆羽毛を、圧縮加熱成形する工程
2)圧縮加熱成形を130〜160℃で行う上記1)の方法。
3)水性エマルジョン樹脂がアクリル系水性エマルジョン及び/又は酢酸ビニル系水性エマルジョンである上記1)又は2)の方法。
4)水性エマルジョン樹脂のガラス転移点が−60℃〜5℃である上記1)〜3)のいずれかの方法。
5)上記1)〜4)のいずれかの方法により製造された羽毛成形体。
6)水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌することを特徴とする樹脂被覆羽毛の製造方法。
7)上記6)の方法により製造された樹脂被覆羽毛。
【発明の効果】
【0008】
本発明の羽毛成形体の製造方法によれば、羽毛の脱落がなく、様々な空隙率をもった羽毛成形体を、簡易に製造できる。本発明の羽毛成形体は、軽量で、保温性、断熱性、防音性、遮音性、吸油性に優れ、反発弾性率のある一定の機械的強度を有することから、羽毛の本来有する油吸着性を活用したオイルフェンス等の油吸着剤、金属とのキレート化性を活用した金属汚染された土壌の重金属除去剤、断熱性、防音性などを活用した住宅用建材、自動車の各種内装部材、畳の心材などあらゆる分野で利用可能である。
また、本発明の製造方法によれば、第1工程で熱融着性の樹脂被覆羽毛が製造されるが、当該工程では、原料である羽毛を水洗いした後、直ちに水性エマルジョン樹脂を添加して製造することが可能であり、斯かる処理工程の簡潔、短縮化は大きなコスト削減に寄与するという利点がある。
また、樹脂被覆羽毛は、羽毛表面が樹脂で均一に被覆されており、羽毛に比べて減容化されていることから、運搬や作業性に優れ、成形加工時の取り扱いが非常に簡易であるという利点があり、羽毛成形体の製造中間体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、水性エマルジョン樹脂としては、例えば、アクリル系水性エマルジョン、酢酸ビニル系水性エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルジョン、ウレタン系水性エマルジョン、ポリオレフィン系水性エマルジョン、SBRゴム系水性エマルジョン等の熱融着性を有する樹脂が挙げられ、このうち、TG(ガラス転移点)が−60℃〜5℃、さらに−50℃〜0℃のものが好ましく、当該TGを有するアクリル系水性エマルジョン、酢酸ビニル系水性エマルジョンが特に好ましい。
ここで、アクリル系水性エマルジョンとしては、(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等)等のモノマー成分の単独重合体若しくは共重合体、又は当該モノマー成分と酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等のビニルモノマー成分との共重合体を水中に分散させたエマルジョンが挙げられ、アクリル酸ブチル単独重合体エマルジョンを用いるものがより好ましい。
また、酢酸ビニル系水性エマルジョンとしては、例えば、酢酸ビニルモノマーの単独重合体エマルジョン、酢酸ビニルモノマーとその他の重合性モノマー(例えば、エチレン、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等)との共重合体エマルジョンが好適に挙げられる。
本発明において、斯かる水性エマルジョン樹脂は、単独のみならず、2種以上を混合して用いてもよい。
【0010】
羽毛は、例えばニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ等の陸鳥やガチョウ、アイガモ、イエガモ、ヨーロッパガモ、ペキンダック、アイダーダック等の水鳥から得られるダウン、フェザー、スモールフェザーのいずれの羽毛も使用することができるが、再利用し得なくなった、例えば羽毛布団等の羽毛寝具、ダウンジャケット等の羽毛衣類、特に上記製品のリサイクル品及び製造工場から出される廃羽毛等を用いるのが資源の有効活用の観点から好ましい。
【0011】
本発明の羽毛成形体は、以下の工程(1)及び(2)を行うことにより製造することが出来る。
工程(1)は、水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌して樹脂被覆羽毛を製造する工程である。
本工程は、ニーダー等の混合装置を用いて行われ、水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合、撹拌することにより行われるが、混合は、水と羽毛を混合させた状態で樹脂を添加すること、予め樹脂と水を混合させた樹脂溶液に羽毛を添加すること、或いは羽毛に、樹脂及び水を同時に添加して混合することの何れでもよい。
羽毛は、使用に際して、汚れた羽毛から、埃、泥、小石等の夾雑物を取り除いた後、洗剤、有機溶媒、水等を用いて洗浄し、羽毛に付着している泥、血液、肉片等の汚垢を除去することが行われるが、斯かる洗浄後の羽毛を、脱水・乾燥操作を行うことなく、そのまま本工程に使用することができる。
【0012】
羽毛、水性エマルジョン樹脂及び水の混合比は、羽毛表面を樹脂で均一に被覆することができれば特に限定されないが、羽毛100質量部に対して、樹脂は固形分で3〜50質量部、好ましくは15〜40質量部、水は羽毛と樹脂が均一に混ざる量であればよく、例えば300〜2000質量部とすればよい。
【0013】
混合・攪拌は、常温〜50℃で行うことができるが、コストの点から常温で行えばよい。混合・攪拌時間は、温度及び用いる樹脂の種類等によっても異なるが、通常0.5時間〜1時間行うことが好ましい。
【0014】
尚、本工程においては、必要に応じて、界面活性剤等を添加することができる。
【0015】
斯くして、羽毛表面が水性エマルジョン樹脂で均一に被覆された熱融着性の樹脂被覆羽毛が得られる。
当該樹脂被覆羽毛は、羽毛に比べて減容化されていることから、運搬や作業性に優れるという利点があり、本発明の羽毛成形体を製造するための製造中間体として有用である。
【0016】
工程(2)は、工程(1)で得られた樹脂被覆羽毛を、圧縮加熱成形する工程である。すなわち、熱融着性の樹脂被覆羽毛を圧縮加熱して、点接着せしめる工程である。
圧縮加熱処理に当たり、樹脂の溶解性を促進や点接着の強度向上のために、必要に応じて、アルコール類、ケトン類、エーテル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等の有機溶剤を樹脂被覆羽毛に噴霧して行うことができる。
【0017】
圧縮加熱処理は、ホットプレスにより行うことができる。圧縮加熱の条件として、圧力は、樹脂被覆羽毛が点接着できる圧力であればよく、目的に応じて、10〜50kg/cm2で行えばよい。また、温度は120〜170℃が好ましく、150〜160℃がより好ましい。
所定温度での加圧時間は、温度に依存し高温になるほど短時間でよく、150℃で0.5時間以上、120℃で2時間以上が必要である。
尚、仕込む樹脂被覆羽毛の量を調節することにより、所望の空隙率を有する羽毛成形体を製造することが可能である。
【0018】
具体的には、例えば、50℃程度に加熱された金型に必要量を仕込み、型締め後、必要に応じてガス抜きを行い、20〜50kg/cm2で、0.5〜2時間加圧する方法が挙げられる。
【実施例】
【0019】
実施例1
(1)卓上ニーダーに水性アクリルエマルジョン樹脂(ポリゾールPSA SEシリーズ(昭和高分子株式会社製);TG:−30℃)を樹脂成分として5gと水40gを仕込み、混合後、羽毛15gを仕込んだ。常温で20分攪拌、80℃で20時間乾燥したところ、羽毛表面に均一に熱融着性樹脂が覆われた羽毛が得られた。羽毛の性状は飛び散りもなく、嵩張りの少ない非常に取り扱いのしやすい状態であった。
(2)150℃に加熱した15cm×15cm角の金型に、(1)で得られた樹脂被覆羽毛60gを仕込み、直ちに10kg/cm2で10分間加圧したところ、ふんわりとした羽毛マットが得られた。
この羽毛マットについて、ジュートフェルトの反発弾性率(JIS L 3203)を測定したところ、15.2%であった。
【0020】
実施例2
(1)500ccのステンレス容器中で40gの水に湿潤した15gの羽毛に、水性アクリルエマルジョン樹脂(アロンNWシリーズ(東亜合成株式会社製);TG:−50℃)を樹脂成分5g分を加え、十分混合後、80℃で20時間乾燥したところ、熱融着性樹脂で被覆されたきわめて取り扱いしやすい羽毛が得られた。
(2)150℃に加熱した15cm×15cm角の金型に、(1)で得られた樹脂被覆羽毛60gを仕込み、直ちに20kg/cm2で10分間加圧したところ、堅めの羽毛マットが得られた。
この羽毛マットのジュートフェルトの反発弾性率は7.7%であった。
【0021】
実施例3
(1)卓上二−ダーに水性EVAエマルジョン樹脂(プレフィニシュボンド(コニシ株式会社製);TG:0℃)の樹脂成分7.5g分と水45gを仕込み、混合後、羽毛を15g仕込んだ。80℃で20時間乾燥したところ、樹脂被覆された羽毛が得られた。
(2)90℃に加熱された15cm×15cm角の金型に、(1)で得られた樹脂被覆羽毛を120g仕込み、融着補助剤としてメチルエチルケトンを羽毛に対し重量比5%噴霧して、型締め後、数回ガス抜きして、100℃に昇温し20kg/cm2で20分間加圧したところ、堅めの羽毛マットが得られた。
この羽毛マットのジュートフェルトの反発弾性率は6.7%であった。
また、パレットに水を張り、その上にサラダ油浮かし、(2)で得たマットで吸油させたところ、羽毛重量の三倍以上のサラダ油が回収できた。
【0022】
実施例4 クロム吸着試験
実施例2で製造した羽毛マットをバイオラット社製の簡易カラムに充填し、クロム革シェービング屑溶解液(クロム濃度176.6mg/L)500mLをアトー社製ぺリスタポンプで循環した。
その結果、クロム濃度6.5mg/Lとなり、クロムの吸着が可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)及び(2)を行うことを特徴とする羽毛成形体の製造方法。
(1)水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌して樹脂被覆羽毛を製造する工程
(2)工程(1)で得られた樹脂被覆羽毛を、圧縮加熱成形する工程
【請求項2】
圧縮加熱成形を130〜160℃で行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
水性エマルジョン樹脂がアクリル系水性エマルジョン及び/又は酢酸ビニル系水性エマルジョンである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
水性エマルジョン樹脂のガラス転移点が−60℃〜5℃である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により製造された羽毛成形体。
【請求項6】
水性エマルジョン樹脂、水及び羽毛を混合・撹拌することを特徴とする樹脂被覆羽毛の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法により製造された樹脂被覆羽毛。

【公開番号】特開2010−138520(P2010−138520A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315847(P2008−315847)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】