羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途
【課題】 羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途を提供すること。
【解決手段】 羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分、または、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤である。本発明によれば、例えば焼却したり埋め立てたりして処分されている養鶏の羽毛の新たな利用方法が提供される。
【解決手段】 羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分、または、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤である。本発明によれば、例えば焼却したり埋め立てたりして処分されている養鶏の羽毛の新たな利用方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途に関する。より詳細には、ケラチンを主体とする羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛の約9割を構成するケラチンは、強固に重合した不溶性の線維状タンパク質である。従って、羽毛に含まれるケラチンをそのまま産業素材として利用することは容易でなく、そのため、例えば養鶏場から排出される羽毛のほとんどは、焼却したり埋め立てたりして処分されている。近年、羽毛に含まれるケラチンの有効利用を目的として、ケラチンの可溶化技術によって羽毛を処理する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかしながら、こうした方法によって得られる羽毛由来の水溶性成分の機能性については未だ不明な部分が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−50279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、羽毛由来の水溶性成分が優れた腫瘍細胞増殖抑制作用を有することを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の第1の腫瘍細胞増殖抑制剤は、請求項1記載の通り、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。
また、本発明の第2の腫瘍細胞増殖抑制剤は、請求項2記載の通り、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば焼却したり埋め立てたりして処分されている養鶏の羽毛の新たな利用方法として、その水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】参考例1における本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分である羽毛由来の水溶性成分のTris/Glycine SDS−PAGEの結果である。
【図2】同、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分のTris/Tricine SDS−PAGEの結果である。
【図3】実施例1における参考例1(1)で得た水溶性成分(以下「SK」)のヒト線維肉腫細胞であるHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図4】同、参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分(以下「N−G」)のHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図5】同、参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分(以下「FG−F」)のHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図6】同、SKのヒト皮膚線維芽細胞であるSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図7】同、N−GのSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図8】同、FG−FのSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9】実施例2におけるSKのヒト扁平上皮癌細胞であるHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図10】同、N−GのHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図11】同、FG−FのHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図12】同、SKのヒトケラチノサイト細胞であるHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図13】同、N−GのHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図14】同、FG−FのHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の腫瘍細胞増殖抑制剤は、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。本発明において原料として用いる羽毛は、鳥類のものであれば特段限定されるものではなく、例えば養鶏のものが挙げられる。
【0010】
羽毛の可溶化処理は、例えば特許文献1に記載の、還元剤、タンパク質変性剤、キレート化剤を含む弱アルカリ性(pH9〜11)の水溶液(ケラチン可溶化溶液)に羽毛を溶解する方法によって行うことができる。還元剤はケラチンが有するジスルフィド結合を切断することができるものであればどのようなものであってもよく、具体的には例えば2−メルカプトエタノールやジチオトレイトールなどのチオール化合物の他、各種の重亜硫酸塩や亜硫酸塩や亜硫酸水素塩などを用いることができる。タンパク質変性剤としては、例えば尿素やチオ尿素やグアニジン塩酸塩などを用いることができる。キレート化剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸などを用いることができる。還元剤は羽毛100gに対して0.1〜10モル用いることが望ましい。タンパク変性剤とキレート化剤はそれぞれケラチン可溶化溶液中の濃度が0.1〜10Mと0.1〜10mMとなるように用いることが望ましい。ケラチン可溶化溶液への羽毛の溶解は、例えば羽毛に温度が0〜65℃のケラチン可溶化溶液を加え、1〜12時間静置することによって行うことができる。所定時間経過後、羽毛溶解液をメッシュで濾過し、さらに例えば分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析を行うことで、目的とする水溶性成分を含む溶液を得ることができる。この溶液に対して凍結乾燥を行えば、目的とする水溶性成分を粉末の形態で得ることができる。
【0011】
また、本発明の第2の腫瘍細胞増殖抑制剤は、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。羽毛の可溶化処理は、上記の方法と同様にして行えばよい。タンパク質分解酵素を用いた処理は、羽毛を可溶化処理することによって得られる水溶性成分を0.1〜5%の濃度で含む水溶液と、濃度が0.1〜5%のタンパク質分解酵素の水溶液を、1:0.1〜10の容量比で混合し、30〜60℃で1〜24時間静置することによって行うことができる。用いるタンパク質分解酵素は、羽毛を可溶化処理することによって得られる水溶性成分の主体である水溶性タンパク質を分解してペプチド化することができる市販のタンパク質分解酵素であってよい。
【0012】
上記のようにして得られる羽毛由来の水溶性成分は、優れた腫瘍細胞増殖抑制作用を有しているので、例えばヒトをはじめとする哺乳動物の癌の予防や治療のための腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分として利用することができる。本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の投与は経口的に行ってもよいし非経口的に行ってもよい。投与形態に応じた製剤化は、自体公知の一般的な方法によって行うことができ、錠剤や顆粒剤やカプセル剤などの経口製剤の他、注射剤、軟膏、クリーム剤などの非経口製剤とすることができる。その投与量は、適用対象の年齢や性別、症状の程度などに基づいて適宜決定することができ、適切な投与量を投与することにより、優れた腫瘍細胞増殖抑制作用によって癌に対する予防効果や治療効果をもたらすことができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
参考例1:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分である羽毛由来の水溶性成分について
(1)羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分の調製
250mMの2−メルカプトエタノール、3Mの尿素、3mMのエチレンジアミン四酢酸、200mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むpH10の水溶液をケラチン可溶化溶液として調製した。1gの養鶏の羽毛に対し、12.5mLのケラチン可溶化溶液を加え、脱気と窒素置換を繰り返した後、37℃で一晩静置することで、羽毛を溶解した。所定時間経過後、羽毛溶解液を目開き63μmのナイロンメッシュで濾過し、濾液を得た。得られた濾液を分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析チューブに入れ、精製水に対して透析を行った。6時間ごとに外液の精製水を2回以上交換し、内液を凍結乾燥することで、羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を得た。
【0015】
(2)羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分の調製
(1)で得た羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を精製水に溶解し、1%水溶液を調製した。この1%水溶液0.5mLに対し、0.5mLのタンパク質分解酵素水溶液(1g/100mL)を加え、50℃で1.5時間静置し、(1)で得た羽毛由来の水溶性成分の主体である水溶性タンパク質を分解してペプチド化した。所定時間経過後、4℃において1000×gで15分間遠心して上清を回収し、回収した上清を分画分子量が10000のセントリカットに供し、分子量が10000を超える画分を除去した後、分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析チューブに入れ、精製水に対して透析を行った。6時間ごとに外液の精製水を2回以上交換し、内液を凍結乾燥することで、ペプチド化された羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を得た。なお、タンパク質分解酵素としては、天野エンザイム社のプロテアーゼN「アマノ」GとプロレザーFG−Fの2種類を用いた(いずれも商品名)。
【0016】
(3)羽毛由来の水溶性成分のSDS−PAGEによる分析
Tris/Glycine SDS−PAGEの結果を図1に示す。図1において、Mは分子量マーカー、SKは(1)で得た水溶性成分(以下「SK」)、P1は(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分(以下「N−G」)、P2は(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分(以下「FG−F」)を意味する。図1から明らかなように、SKは、分子量が18400以下に帯状バンドが検出されたことから、分子量が1000〜18400の水溶性タンパク質群を主体として含むものであることがわかった。また、この水溶性タンパク質群は、主として分子量が6500,10000,14400の3種類の水溶性タンパク質から構成されていることがわかった(Tris/Tricine SDS−PAGEの結果による:図2参照)。一方、N−GとFG−Fは、いずれも分子量が6500以下に帯状バンドが検出されたことから、分子量が1000〜6500の水溶性タンパク質群がペプチド化されたものを主体として含むものであることがわかった。
【0017】
実施例1:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の腫瘍細胞増殖抑制作用(その1)
腫瘍細胞としてヒト線維肉腫細胞であるHT−1080を用い、参考例1で得た3種類の羽毛由来の水溶性成分(SK,N−G,FG−F)をそれぞれ有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤のHT−1080の増殖に対する作用を調べた。試験方法は、3種類の羽毛由来の水溶性成分の凍結乾燥粉末を、それぞれ所定の濃度(0.6g/7mL:Milli−Q水を使用)で室温で5分間攪拌した後、4℃において12000rpmで5分間遠心して上清を回収し、回収した上清を孔径が0.2μmのフィルタで濾過滅菌し、被験サンプルとした。96穴細胞培養プレートを用い、細胞を1ウェルあたり1000cell/MEM培地0.1mLで播種し、培養開始から1日後に被験サンプルを所定の終濃度となるようにウェルに添加した。被験サンプルを添加してから24時間後と48時間後と72時間後と96時間後にWST−1アッセイを行い、450nmの吸光度を測定することでウェル中の生細胞数を求めた(1被験サンプルあたり3連使用。細胞は5%CO2で37℃に保持されたインキュベータ内で培養)。また、正常細胞としてヒト皮膚線維芽細胞であるSF−TYを用い、同様にSF−TYの増殖に対する作用を調べた。結果を図3〜8に示す(濃度は添加した各被験サンプルの終濃度。*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001)。図3〜8から明らかなように、SK,N−G,FG−Fはいずれも腫瘍細胞であるHT−1080に対して濃度依存的に増殖抑制作用を示したが、正常細胞であるSF−TYに対しては同様の作用を示さなかった。従って、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、真皮から発生する皮膚癌に対して正常細胞の増殖に影響を与えることなくその増殖を抑制することが期待できることがわかった。
【0018】
実施例2:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の腫瘍細胞増殖抑制作用(その2)
腫瘍細胞としてヒト扁平上皮癌細胞であるHSC−5を用い、実施例1と同様にして、SK,N−G,FG−Fをそれぞれ有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤のHSC−5の増殖に対する作用を調べた。また、正常細胞としてヒトケラチノサイト細胞であるHaCaTを用い、同様にHaCaTの増殖に対する作用を調べた。結果を図9〜14に示す。図9〜14から明らかなように、SK,N−G,FG−Fはいずれも腫瘍細胞であるHSC−5に対して濃度依存的に増殖抑制作用を示したが、正常細胞であるHaCaTに対しても同様の作用を示した。従って、表皮から発生する皮膚癌に対して本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤を適用する際には、正常細胞に対する副作用に注意を要することがわかった。
【0019】
製剤例1:錠剤
参考例1(1)で得た水溶性成分の凍結乾燥粉末1g、乳糖80g、ステアリン酸マグネシウム19g、合計100gを均一に混合し、常法に従って錠剤を製造した。
【0020】
製剤例2:顆粒剤
参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分の凍結乾燥粉末10g、澱粉33g、乳糖57g、合計100gを均一に混合し、常法に従って顆粒剤を製造した。
【0021】
製剤例3:軟膏
参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分の凍結乾燥粉末1gを無水エタノール10gに溶解した。これを約60℃に加温したプラスチベース99gに添加し、攪拌溶解することで均一にした後、エタノールを減圧留去してから、室温まで冷却することで軟膏剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途として腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途に関する。より詳細には、ケラチンを主体とする羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛の約9割を構成するケラチンは、強固に重合した不溶性の線維状タンパク質である。従って、羽毛に含まれるケラチンをそのまま産業素材として利用することは容易でなく、そのため、例えば養鶏場から排出される羽毛のほとんどは、焼却したり埋め立てたりして処分されている。近年、羽毛に含まれるケラチンの有効利用を目的として、ケラチンの可溶化技術によって羽毛を処理する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかしながら、こうした方法によって得られる羽毛由来の水溶性成分の機能性については未だ不明な部分が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−50279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、羽毛由来の水溶性成分が優れた腫瘍細胞増殖抑制作用を有することを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の第1の腫瘍細胞増殖抑制剤は、請求項1記載の通り、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。
また、本発明の第2の腫瘍細胞増殖抑制剤は、請求項2記載の通り、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば焼却したり埋め立てたりして処分されている養鶏の羽毛の新たな利用方法として、その水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】参考例1における本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分である羽毛由来の水溶性成分のTris/Glycine SDS−PAGEの結果である。
【図2】同、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分のTris/Tricine SDS−PAGEの結果である。
【図3】実施例1における参考例1(1)で得た水溶性成分(以下「SK」)のヒト線維肉腫細胞であるHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図4】同、参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分(以下「N−G」)のHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図5】同、参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分(以下「FG−F」)のHT−1080の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図6】同、SKのヒト皮膚線維芽細胞であるSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図7】同、N−GのSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図8】同、FG−FのSF−TYの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図9】実施例2におけるSKのヒト扁平上皮癌細胞であるHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図10】同、N−GのHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図11】同、FG−FのHSC−5の増殖に対する作用を示すグラフである。
【図12】同、SKのヒトケラチノサイト細胞であるHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図13】同、N−GのHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【図14】同、FG−FのHaCaTの増殖に対する作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の腫瘍細胞増殖抑制剤は、羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。本発明において原料として用いる羽毛は、鳥類のものであれば特段限定されるものではなく、例えば養鶏のものが挙げられる。
【0010】
羽毛の可溶化処理は、例えば特許文献1に記載の、還元剤、タンパク質変性剤、キレート化剤を含む弱アルカリ性(pH9〜11)の水溶液(ケラチン可溶化溶液)に羽毛を溶解する方法によって行うことができる。還元剤はケラチンが有するジスルフィド結合を切断することができるものであればどのようなものであってもよく、具体的には例えば2−メルカプトエタノールやジチオトレイトールなどのチオール化合物の他、各種の重亜硫酸塩や亜硫酸塩や亜硫酸水素塩などを用いることができる。タンパク質変性剤としては、例えば尿素やチオ尿素やグアニジン塩酸塩などを用いることができる。キレート化剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸などを用いることができる。還元剤は羽毛100gに対して0.1〜10モル用いることが望ましい。タンパク変性剤とキレート化剤はそれぞれケラチン可溶化溶液中の濃度が0.1〜10Mと0.1〜10mMとなるように用いることが望ましい。ケラチン可溶化溶液への羽毛の溶解は、例えば羽毛に温度が0〜65℃のケラチン可溶化溶液を加え、1〜12時間静置することによって行うことができる。所定時間経過後、羽毛溶解液をメッシュで濾過し、さらに例えば分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析を行うことで、目的とする水溶性成分を含む溶液を得ることができる。この溶液に対して凍結乾燥を行えば、目的とする水溶性成分を粉末の形態で得ることができる。
【0011】
また、本発明の第2の腫瘍細胞増殖抑制剤は、羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする。羽毛の可溶化処理は、上記の方法と同様にして行えばよい。タンパク質分解酵素を用いた処理は、羽毛を可溶化処理することによって得られる水溶性成分を0.1〜5%の濃度で含む水溶液と、濃度が0.1〜5%のタンパク質分解酵素の水溶液を、1:0.1〜10の容量比で混合し、30〜60℃で1〜24時間静置することによって行うことができる。用いるタンパク質分解酵素は、羽毛を可溶化処理することによって得られる水溶性成分の主体である水溶性タンパク質を分解してペプチド化することができる市販のタンパク質分解酵素であってよい。
【0012】
上記のようにして得られる羽毛由来の水溶性成分は、優れた腫瘍細胞増殖抑制作用を有しているので、例えばヒトをはじめとする哺乳動物の癌の予防や治療のための腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分として利用することができる。本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の投与は経口的に行ってもよいし非経口的に行ってもよい。投与形態に応じた製剤化は、自体公知の一般的な方法によって行うことができ、錠剤や顆粒剤やカプセル剤などの経口製剤の他、注射剤、軟膏、クリーム剤などの非経口製剤とすることができる。その投与量は、適用対象の年齢や性別、症状の程度などに基づいて適宜決定することができ、適切な投与量を投与することにより、優れた腫瘍細胞増殖抑制作用によって癌に対する予防効果や治療効果をもたらすことができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
参考例1:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の有効成分である羽毛由来の水溶性成分について
(1)羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分の調製
250mMの2−メルカプトエタノール、3Mの尿素、3mMのエチレンジアミン四酢酸、200mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むpH10の水溶液をケラチン可溶化溶液として調製した。1gの養鶏の羽毛に対し、12.5mLのケラチン可溶化溶液を加え、脱気と窒素置換を繰り返した後、37℃で一晩静置することで、羽毛を溶解した。所定時間経過後、羽毛溶解液を目開き63μmのナイロンメッシュで濾過し、濾液を得た。得られた濾液を分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析チューブに入れ、精製水に対して透析を行った。6時間ごとに外液の精製水を2回以上交換し、内液を凍結乾燥することで、羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を得た。
【0015】
(2)羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分の調製
(1)で得た羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を精製水に溶解し、1%水溶液を調製した。この1%水溶液0.5mLに対し、0.5mLのタンパク質分解酵素水溶液(1g/100mL)を加え、50℃で1.5時間静置し、(1)で得た羽毛由来の水溶性成分の主体である水溶性タンパク質を分解してペプチド化した。所定時間経過後、4℃において1000×gで15分間遠心して上清を回収し、回収した上清を分画分子量が10000のセントリカットに供し、分子量が10000を超える画分を除去した後、分子量が1000未満の低分子化合物をカットオフする透析チューブに入れ、精製水に対して透析を行った。6時間ごとに外液の精製水を2回以上交換し、内液を凍結乾燥することで、ペプチド化された羽毛由来の水溶性成分の白色粉末を得た。なお、タンパク質分解酵素としては、天野エンザイム社のプロテアーゼN「アマノ」GとプロレザーFG−Fの2種類を用いた(いずれも商品名)。
【0016】
(3)羽毛由来の水溶性成分のSDS−PAGEによる分析
Tris/Glycine SDS−PAGEの結果を図1に示す。図1において、Mは分子量マーカー、SKは(1)で得た水溶性成分(以下「SK」)、P1は(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分(以下「N−G」)、P2は(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分(以下「FG−F」)を意味する。図1から明らかなように、SKは、分子量が18400以下に帯状バンドが検出されたことから、分子量が1000〜18400の水溶性タンパク質群を主体として含むものであることがわかった。また、この水溶性タンパク質群は、主として分子量が6500,10000,14400の3種類の水溶性タンパク質から構成されていることがわかった(Tris/Tricine SDS−PAGEの結果による:図2参照)。一方、N−GとFG−Fは、いずれも分子量が6500以下に帯状バンドが検出されたことから、分子量が1000〜6500の水溶性タンパク質群がペプチド化されたものを主体として含むものであることがわかった。
【0017】
実施例1:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の腫瘍細胞増殖抑制作用(その1)
腫瘍細胞としてヒト線維肉腫細胞であるHT−1080を用い、参考例1で得た3種類の羽毛由来の水溶性成分(SK,N−G,FG−F)をそれぞれ有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤のHT−1080の増殖に対する作用を調べた。試験方法は、3種類の羽毛由来の水溶性成分の凍結乾燥粉末を、それぞれ所定の濃度(0.6g/7mL:Milli−Q水を使用)で室温で5分間攪拌した後、4℃において12000rpmで5分間遠心して上清を回収し、回収した上清を孔径が0.2μmのフィルタで濾過滅菌し、被験サンプルとした。96穴細胞培養プレートを用い、細胞を1ウェルあたり1000cell/MEM培地0.1mLで播種し、培養開始から1日後に被験サンプルを所定の終濃度となるようにウェルに添加した。被験サンプルを添加してから24時間後と48時間後と72時間後と96時間後にWST−1アッセイを行い、450nmの吸光度を測定することでウェル中の生細胞数を求めた(1被験サンプルあたり3連使用。細胞は5%CO2で37℃に保持されたインキュベータ内で培養)。また、正常細胞としてヒト皮膚線維芽細胞であるSF−TYを用い、同様にSF−TYの増殖に対する作用を調べた。結果を図3〜8に示す(濃度は添加した各被験サンプルの終濃度。*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001)。図3〜8から明らかなように、SK,N−G,FG−Fはいずれも腫瘍細胞であるHT−1080に対して濃度依存的に増殖抑制作用を示したが、正常細胞であるSF−TYに対しては同様の作用を示さなかった。従って、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、真皮から発生する皮膚癌に対して正常細胞の増殖に影響を与えることなくその増殖を抑制することが期待できることがわかった。
【0018】
実施例2:本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の腫瘍細胞増殖抑制作用(その2)
腫瘍細胞としてヒト扁平上皮癌細胞であるHSC−5を用い、実施例1と同様にして、SK,N−G,FG−Fをそれぞれ有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤のHSC−5の増殖に対する作用を調べた。また、正常細胞としてヒトケラチノサイト細胞であるHaCaTを用い、同様にHaCaTの増殖に対する作用を調べた。結果を図9〜14に示す。図9〜14から明らかなように、SK,N−G,FG−Fはいずれも腫瘍細胞であるHSC−5に対して濃度依存的に増殖抑制作用を示したが、正常細胞であるHaCaTに対しても同様の作用を示した。従って、表皮から発生する皮膚癌に対して本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤を適用する際には、正常細胞に対する副作用に注意を要することがわかった。
【0019】
製剤例1:錠剤
参考例1(1)で得た水溶性成分の凍結乾燥粉末1g、乳糖80g、ステアリン酸マグネシウム19g、合計100gを均一に混合し、常法に従って錠剤を製造した。
【0020】
製剤例2:顆粒剤
参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロテアーゼN「アマノ」Gを用いて得た水溶性成分の凍結乾燥粉末10g、澱粉33g、乳糖57g、合計100gを均一に混合し、常法に従って顆粒剤を製造した。
【0021】
製剤例3:軟膏
参考例1(2)においてタンパク質分解酵素としてプロレザーFG−Fを用いて得た水溶性成分の凍結乾燥粉末1gを無水エタノール10gに溶解した。これを約60℃に加温したプラスチベース99gに添加し、攪拌溶解することで均一にした後、エタノールを減圧留去してから、室温まで冷却することで軟膏剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、羽毛由来の水溶性成分の新規な医薬用途として腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項1】
羽毛を可溶化処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
羽毛を可溶化処理した後、タンパク質分解酵素で処理して得られる水溶性成分を有効成分とする腫瘍細胞増殖抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−56858(P2012−56858A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199236(P2010−199236)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月5日 社団法人日本農芸化学会が発行する「日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業(継続事業)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月5日 社団法人日本農芸化学会が発行する「日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業(継続事業)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]