説明

翼形状

【課題】揚力特性や抗力特性を維持したまま、工作性を向上させることができる翼形状を提供する。
【解決手段】翼形状20は、前縁Aと後縁Cとを結ぶ直線である翼弦線9に一致する翼下面3と、前縁Aから始まり上方向に張り出した前縁曲線部2と、前縁曲線部2に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部1とから形成される翼上面4と、から形成される。そして、翼弦長Lに対して、後縁直線部の長さL3(線分BCの長さに同じ)、翼下面3と後縁直線部1とがなす角度θ3が、それぞれ
L>L3≧0.3×L
10°>θ3>0°
である。したがって、翼形状20は、翼下面3の全長が直線で、翼上面4の後縁直線部1が直線であるため、曲線範囲は翼上面4の前縁曲線部2に限定されることから、工作性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼形状、特に大型の水中翼に好適な翼形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に様々な産業機器に用いられる対称翼または非対称翼の形状は、複雑な曲線により構成され、工作が困難になっている。たとえば、水中翼のような大型の鋼製構造物であれば、曲げ加工が必要となり、熟練した技能を有する作業者を必要とすると共に、加工工数が増大していた。また、小型であっても、削り出し加工をしようとすると、特定の加工設備を用いた複雑な作業が必要になっていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】特開平11−278383号公報(2−3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記工作上の問題を解決するには、曲線形状を極力避け、直線をより多く用いた形状にすればよい。しかしながら、直線によって構成された形状、たとえば、板のような形状は、曲線によって構成された形状(たとえば、NACAシリーズ等の翼型)にくらべ、揚力特性や抗力特性が劣ると、従来考えられていた。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、揚力特性や抗力特性を維持したまま、工作性を向上させることができる翼形状を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る翼形状は、翼弦線に対して互いに対称の一対の翼面を有する翼の翼形状であって、
前記翼面が、前縁から始まり上下方向に張り出した前縁曲線部と、該前縁曲線部に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部とから形成されることを特徴とする。
(2)また、前記(1)において、翼弦長がL、前記後縁直線部の長さがL1、前記後縁直線部が互いになす角度がθ1のとき、
L>L1≧0.3×L
20°>θ1>0°
であることを特徴とする。
【0007】
(3)本発明に係る翼形状は、翼弦線に一致した翼下面と、
前縁から始まり上方向に張り出した前縁曲線部と、該前縁曲線部に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部とから形成される翼上面と、を有することを特徴とする。
(4)また、前記(3)において、翼弦長がL、前記翼上面の後縁直線部の長さがL3、前記翼上面の後縁直線部と前記翼下面とがなす角度がθ3のとき、
L>L3≧0.3×L
10°>θ3>0°
であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
(i)本発明によると、一対の翼面がそれぞれ直線状の後縁直線部を有するため、工作上困難な曲線部の範囲が従来型の翼型と比べて少なくなっているから、工作性に優れている。このため、製造が容易になり、製造コストの低減、工期の短縮を図ることができる。
(ii)また、後縁直線部の大きさ、および一対の後縁直線部がなす角度が規定されるため、工作性に優れると共に、揚力特性や抗力特性の悪化が防止される。
(iii)さらに、本発明によると、翼下面が直線で、翼上面が直線状の後縁直線部を有するため、工作上困難な曲線部が、従来型の翼型と比べ少なくなっているから、工作性に優れている。このため、製造が容易になり、製造コストの低減、工期の短縮を図ることができる。
(ii)また、翼上面の後縁直線部の大きさ、および翼下面と翼上面の後縁直線部とがなす角度が規定されるため、工作性に優れると共に、揚力特性や抗力特性の悪化が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施形態1:対称翼]
図1は、本発明の実施形態1に係る翼形状を示す断面図である。図1において、翼形状10は、前縁Aと後縁Cとを結ぶ直線である翼弦線9に対して対称であって、前縁Aから始まり上下方向に張り出した前縁曲線部2a、2bと、前縁曲線部2a、2bに連なって後縁Cに至る直線状の後縁直線部1a、1bとから形成される。
そして、翼弦長Lに対して、後縁直線部の長さL1(線分BCに同じ)、前記後縁直線部が互いになす角度θ1が、それぞれ
L>L1≧0.3×L
20°>θ1>0°
である。
【0010】
したがって、翼形状10は、前縁A寄りの所定範囲に限って曲線部が存在し、その他の範囲は直線であるから、工作性に優れている。
なお、前縁曲線部2a、2bの形状は限定するものではなく、単一円弧、複数円弧が滑らかの連続するもの、解析曲線(たとえば、サインカーブ、インボリュート等)、あるいは自由曲線であってもよい。
【0011】
[実施形態2:非対称翼]
図2は、本発明の実施形態2に係る翼形状を示す断面図である。図2において、翼形状20は、前縁Aと後縁Cとを結ぶ直線である翼弦線9に一致する翼下面3と、
前縁Aから始まり上方向に張り出した前縁曲線部2と、前縁曲線部2に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部1とから形成される翼上面4と、から形成される。
そして、翼弦長Lに対して、後縁直線部の長さL3(線分BCの長さに同じ)、翼下面3と後縁直線部1とがなす角度θ3が、それぞれ
L>L3≧0.3×L
10°>θ3>0°
である。
【0012】
したがって、翼形状20は、翼下面3の全長が直線で、翼上面4の後縁直線部1が直線であるため、曲線範囲は翼上面4の前縁曲線部2に限定されることにから、工作性に優れている。
なお、前縁曲線部2の形状は限定するものではなく、単一円弧、複数円弧が滑らかの連続するもの、解析曲線(たとえば、サインカーブ、インボリュート等)、あるいは自由曲線であってもよい。
【0013】
(特性比較)
次に、翼形状20と、これと略同程度の翼厚を持つ従来の流線型の翼型(NACA4415) との特性の比較の比較を示す。
図3は、本発明の翼形状の特性比較に用いた翼形状を説明する断面図であって、(a)は本発明の翼形状20、(b)は従来の流線型の翼型(NACA4415)である。比較に用いた翼形状20の諸元は以下である。
L3=0.6×L1
θ3=10.0°
【0014】
図4および図5は、本発明の翼形状の特性比較結果を示す相関図であって、図4は揚力比較図、図5は抗力比較図である。比較は、数値流体力学(CFD)シミュレーション(有限体積法)を用い、乱流モデルとして k−ωmodelを用いている。このとき、レイノルズ数は2.8 ×107 である。
図4には、風洞における実験結果を「×」印により示している。これより、本CFDシミュレーションが実験と略等しいことが分かる。そして、本発明の翼形状20(黒三角にて示す)の揚力係数は、迎角が0°〜15°の範囲で、従来の流線型の翼型(黒丸にて示す) の揚力係数と同程度である。
図5において、計算の精度検証のため、本発明の翼形状20(黒三角にて示す)の抗力係数は、迎角が0°〜15°の範囲で、従来の流線型の翼型(黒丸にて示す)の抗力係数より小さくなっている。
【0015】
以上から、本発明の翼形状20は、従来の翼型に比較して、揚力については同程度、抗力については抵抗値が小さい性能を持つことが分かる。たとえば、水中翼は揚力が大きく、抗力が小さい形状が望ましいから、本発明の翼形状20は水中翼に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は以上の構成であるため、優れた工作性を有すると共に、揚力特性および抗力特性の維持が図られるから、各種産業機器の翼の翼形状として、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る翼形状を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態2に係る翼形状を示す断面図。
【図3】本発明の翼形状の特性比較に用いた翼形状を説明する断面図。
【図4】本発明の翼形状の特性比較結果を示す揚力比較図。
【図5】本発明の翼形状の特性比較結果を示す抗力比較図。
【符号の説明】
【0018】
1 後縁直線部
2 前縁曲線部
3 翼下面
4 翼上面
9 翼弦線
10 翼形状(実施形態1)
20 翼形状(実施形態2)
A 前縁
C 後縁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼弦線に対して互いに対称の一対の翼面を有する翼の翼形状であって、
前記翼面が、前縁から始まり上下方向に張り出した前縁曲線部と、該前縁曲線部に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部とから形成されることを特徴とする翼形状。
【請求項2】
翼弦長がL、前記後縁直線部の長さがL1、前記後縁直縁部が互いになす角度がθ1のとき、
L>L1≧0.3×L
20°>θ1>0°
であることを特徴とする請求項1記載の翼形状。
【請求項3】
翼弦線に一致した翼下面と、
前縁から始まり上方向に張り出した前縁曲線部と、該前縁曲線部に連なって後縁に至る直線状の後縁直線部とから形成される翼上面と、を有することを特徴とする翼形状。
【請求項4】
翼弦長がL、前記翼上面の後縁直線部の長さがL3、前記翼上面の後縁直線部と前記翼下面とがなす角度がθ3のとき、
L>L3≧0.3×L
10°>θ3>0°
であることを特徴とする請求項3記載の翼形状。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−143487(P2008−143487A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336280(P2006−336280)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)