説明

老化予防改善皮膚外用剤

【課題】GJ(ギャップジャンクション)による細胞間情報伝達およびコネキシン43発現の促進剤または皮膚の老化予防改善皮膚外用剤の提供。
【解決手段】分子量500以上2000以下のペプチド及び/またはArg、Ala及びAspからなる配列を含むペプチドを含有する組成物。その一例としてのペプチドはアミノ酸配列1:Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Alaが示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗老化に関する技術分野の発明であり、特に細胞間連絡や、コネキシン発現を亢進する、分子量500以上2000以下のペプチド及び/またはArg、Ala及びAspからなる配列を含むペプチド(以下、総称してRADペプチドと記す)、その一例として下記のアミノ酸配列1を有するペプチド、またはコラーゲンペプチドを有効成分とする細胞間連絡亢進剤や老化予防改善皮膚外用剤に関する。
アミノ酸配列1:Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala
【背景技術】
【0002】
細胞同士は、細胞間接着により結合している。この細胞間接着の1つがギャップジャンクション(以下「GJ」と略記する)である。GJは、隣接する細胞同士を結合させるだけでなく、細胞間の情報伝達にも関与している(非特許文献1)。隣接する細胞間で分子量約1000Da以下の分子を通過させることにより、情報が伝達されており、これが正常に行われないと各組織の機能異常が引き起こされる。
GJを構成しているのは、細胞膜タンパク質コネキシンである。このコネキシンが6分子結合したコネクソンと呼ばれるチャネルが、隣接する細胞間で会合することによってGJが形成される(非特許文献2)。コネキシンは、各々組織特異的に発現するが、ケラチノサイト中の主要なコネキシンタンパク質が、コネキシン26、43などである(非特許文献3)。
【0003】
【非特許文献1】J.E.Trosko,et al.,Life Science,1993,53,1−19
【非特許文献2】Goodenough DA, et al.,Annu Rev Biochem.,1996,65,475−502
【非特許文献3】Denis S,et al.,J.Clin.Invest.,1988,82,248−254
【0004】
GJを介した細胞間の情報伝達やコネキシンの発現量が、加齢と共に低下すること、紫外線によりケラチノサイトのGJ機能、コネキシン発現量が低下することが分かっている。したがって、GJの機能やコネキシンの発現の亢進は、加齢や紫外線による肌の老化を防止することとなり、肌老化予防においてGJやコネキシンの制御は有効であると考えられている(非特許文献4、特許文献1)。
【0005】
【非特許文献4】Hiroaki I,FRAGRANCE JOURNAL,2003,12,100−105
【特許文献1】特表2002−541084
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
優れた肌の老化改善効果を副作用なく、安全にもたらす皮膚外用剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような事情により、本発明者らは皮膚の老化抑制を目的に鋭意検討した結果、分子量500以上2000以下のペプチド及び/またはArg、Ala及びAspからなる配列を含むペプチド(RADペプチド)、その一例として下記のアミノ酸配列1を有するペプチド、またはコラーゲンペプチドがGJ機能促進作用及びコネキシン発現亢進作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
アミノ酸配列1:Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala
【0008】
すなわち、本発明は、GJ機能促進作用及びコネキシン発現亢進作用を有することから、皮膚の老化及び光老化予防改善効果が期待される。
【0009】
本発明にて用いられるRADペプチドは、Arg、Ala及びAspの3種のアミノ酸からなる配列を含むペプチドである。その利用においては、常法により合成し、利用することができる。
【0010】
本発明に用いられるRADのアミノ酸残基数はいくつでも合成可能であるが、その中でも皮膚浸透性が高いRAD4(RAD配列を4個含む)〜RAD16(RAD配列を16個含む)が好ましい。RADの配合量は、特に限定されていないが、本発明における皮膚外用剤の全量に対し、固形分に換算して0.0001〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.001〜1重量%である。0.0001重量%未満では十分な効果は発揮され難い。5重量%を越えて配合した場合、効果の増強は少なく不経済である。また、添加の方法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【0011】
本発明に係るコラーゲンペプチドの出発原料であるコラーゲン成分またはゼラチン成分は、牛、豚、鳥などの骨、皮、腱またはヒラメ、カレイ、鮭、鯛、鮪、鮫などの骨、皮、腱、鱗、浮き袋等を用いることが可能である。これらの原料からのコラーゲン成分またはゼラチン成分の抽出・精製は、通常公知の方法を用いて行うことができる。
【0012】
コラーゲンペプチドを得るための、これらの加水分解は、タンパク分解酵素のような酵素を使用して行うことができる。加水分解物の調製に用いる酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、ズブチリシン、エラスターゼ、プロリン特異性プロテアーゼ、ストレプトコッカス属の微生物が産生するプロテアーゼ、アスペルギルス属の微生物が産生するプロテアーゼ、ストレプトミセス属の微生物が産生するプロテアーゼ、リゾープス属の微生物が産生するプロテアーゼ、バチラス属の微生物が産生するプロテアーゼ、乳酸菌が産生するプロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、ククミシン、ペプシン、サーモリシン等が利用できる。また、クロストリジューム属、ストレプトミセス属などの細菌、放線菌あるいは真菌由来のコラゲナーゼも利用可能である。また、遺伝子組み換え技術により他の菌体に産生させたプロテアーゼであっても問題なく、これらの微生物により発酵させることも可能である。さらに、複数の酵素を混合して使用しても良い。中でも、プロクターゼ、プロメライン、パパイン、コラゲナーゼ、ペプシンなどがよい。
【0013】
加水分解に使用する酵素量は、原料に対して重量比0.01%〜10%程度、好ましくは1%程度が良く、温度条件は室温〜90℃、好ましくは37℃〜55℃、反応時間は1〜24時間、好ましくは1〜8時間処理する。またpH条件は酵素添加前に最適pHに調整する。加水分解終了後、加熱して酵素を失活させ、冷却後必要に応じてろ過、脱色、脱臭、脱塩、濃縮、乾燥を行うと良い。
【0014】
本発明のコラーゲンペプチドは、酵素の種類、濃度、反応時間等、反応条件を調整することで得ることができる。コラーゲンペプチドの平均分子量は500〜2000が好ましく、特に平均分子量800〜1000が好ましい。酵素による加水分解物は、ゲルろ過クロマトグラフィー等の公知の方法を用いて特定の分子量の分画物を得ることができる。
【0015】
本発明に用いるコラーゲンペプチドの配合量は特に限定されないが、本発明の老化防止剤全量に対し、乾燥物に換算して0.0001〜5重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.001〜1重量%である。この配合量が、0.0001重量%以下ではシワの形成予防・改善効果が低く、また5重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくく、効率的でない。また、添加の方法については、予め加えておいても製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【0016】
本発明の皮膚外用剤には、成分の効果を損なわない範囲内で、通常の化粧品及び医薬部外品に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0017】
本発明の皮膚外用剤は、化粧品、医薬部外品または医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅等が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の細胞間連絡亢進剤及び老化予防皮膚外用剤は、ギャップジャンクションを介した細胞間連絡を亢進させ、コネキシンの発現を増強し、さらにタルミの改善に優れた効果を発揮した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いるペプチドや抽出物の製造例、処方例および実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す配合量は重量%を示す。
【実施例1】
【0020】
製造例1 RADの合成
ペプチド合成装置(Applied Biosystems Peptide synthetizer 431A)により、アミノ酸残基数3〜48のRAD(RAD3〜RAD48)を合成し、HPLCにより精製した。
【0021】
製造例2 ペプシン加水分解によるコラーゲンペプチド1
コラーゲンタンパクとして、ヒラメ皮より調製したゼラチン30gを蒸留水300mLに加温溶解した。ペプシン(日本バイオコン社製)300mgを加え、酸にてpH3.5に調製した後50℃で1時間放置した。反応終了後、反応液を中和し、100℃で15分間加熱して酵素を失活させた。次いで活性炭素処理後、凍結乾燥し、平均分子量5000のコラーゲンペプチドを得た。
【0022】
製造例3 ペプシン加水分解によるコラーゲンペプチド2
製造例1における活性炭素処理液を蒸留水で平衡化したBio−Gel P−2(BIO−RAD社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行い、平均分子量が280、500、1000の画分を凍結乾燥した。
【0023】
製造例4 パパイン加水分解によるコラーゲンペプチド3
コラーゲンタンパクとして、鮭皮より調製したゼラチン30gを蒸留水300mLに加温溶解した。パパイン(天野エンザイム社製)300mgを加え、アンモニア水にてpH7.0に調製した後50℃で1時間放置した。反応終了後、反応液を100℃で15分間加熱し、酵素を失活させた。次いで活性炭素処理後、凍結乾燥し、平均分子量10000のコラーゲンペプチドを得た。
【0024】
製造例5 パパイン加水分解によるコラーゲンペプチド4
製造例4の活性炭素処理液を蒸留水で平衡化したBio−Gel P−2(BIO−RAD社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行い、平均分子量が500、2000の画分を凍結乾燥した。
【0025】
製造例6 コラゲナーゼ加水分解によるコラーゲンペプチド5
コラーゲンタンパクとして、鯛鱗より調製したゼラチン30gを蒸留水300mLに加温溶解した。コラゲナーゼタイプI(Worthington Biochemical Corp製)300mgを加え、アンモニア水にてpH7.5に調製した後37℃で1時間放置した。反応終了後、反応液を100℃で15分間加熱し、酵素を失活させた。次いで活性炭素処理後、凍結乾燥し、平均分子量1000のコラーゲンペプチドを得た。
【0026】
製造例7 コラゲナーゼ加水分解によるコラーゲンペプチド6
製造例6の活性炭素処理液を蒸留水で平衡化したBio−Gel P−2(BIO−RAD社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行い、平均分子量400の画分を凍結乾燥した。
【0027】
製造例8 パパインおよびバチラス属の微生物が産生するプロテアーゼ加水分解によるコラーゲンペプチド7
コラーゲンタンパクとして、カレイ皮より調製したゼラチン30gを蒸留水300mLに加温溶解した。パパイン(天野エンザイム社製)、バチラス属の微生物が産生するプロテアーゼ(天野エンザイム社製)を各300mg加え、アンモニア水にてpH7.5に調製した後50℃で3時間放置した。反応終了後、反応液を100℃で15分間加熱し、酵素を失活させた。次いで活性炭素処理後、凍結乾燥し、平均分子量3000のコラーゲンペプチドを得た。
【0028】
製造例9 パパインおよびバチラス属の微生物が産生するプロテアーゼ加水分解によるコラーゲンペプチド8
製造例7の活性炭素処理液を蒸留水で平衡化したBio−Gel P−2(BIO−RAD社製)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行い、平均分子量800の画分を凍結乾燥した。
【実施例2】
【0029】
処方例1 クリーム1
処方 配合量
1.RAD16 0.5部
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3〜10を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び12〜15を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分11を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0030】
処方例2 クリーム2
処方例1において、1のRAD16をコラーゲンペプチド(平均分子量500、製造例3)に置き換えたものをクリーム2とした。
【0031】
比較例1 従来のクリーム1
処方例1において、1を精製水に置き換えたものを従来のクリーム1とした。
【0032】
処方例3 化粧水
処方 配合量
1.コラーゲンペプチド(平均分子量1000、製造例5) 1.0部
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜6および11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0033】
処方例4 乳液
処方 配合量
1.RAD12 0.2部
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および11〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃にて成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0034】
処方例5 ゲル剤
処方 配合量
1.RAD8 1.0部
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜5と、成分6〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0035】
処方例6 パック
処方 配合量
1.RAD10 0.001部
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 適量
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜10を均一に溶解し製品とする。
【0036】
処方例7 ファンデーション
処方 配合量
1.RAD7 0.1部
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
10.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
11.ベントナイト 0.5
12.プロピレングリコール 4.0
13.トリエタノールアミン 1.1
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
15.二酸化チタン 8.0
16.タルク 4.0
17.ベンガラ 1.0
18.黄酸化鉄 2.0
19.香料 適量
20.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分 2〜9を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分20に成分10をよく膨潤させ、続いて、成分1および11〜14を加えて均一に混合する。これに粉砕機にて粉砕混合した成分15〜18を加え、ホモミキサーにて撹拌し、75℃に保ち水相とする。この水相に油相をかき混ぜながら加え、冷却し、45℃にて成分19を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0037】
処方例8 浴用剤
処方 配合量
1.RAD18 0.001部
2.炭酸水素ナトリウム 50
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.無水硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1〜5を均一に混合し製品とする。
【0038】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例3】
【0039】
実験例1 RADの皮膚保持効果の評価
皮膚浸透性評価の代表的な方法であるFranz型拡散セル法を利用して、RADの皮膚保持効果について評価した。すなわち、Yucatan Micropig皮膚をFranz型拡散セルに装着し、500μLのRAD2%水溶液をドナー相に加え、パラフィルムにて密封した。レシーバー相には、100U/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシンを添加した生理食塩水を加え、37℃で撹拌し、RADを皮膚に12時間浸透させた。その後、ドナー相のRAD水溶液を生理食塩水に置換し、さらに24時間撹拌を行った。12時間撹拌により浸透したコラーゲンペプチドの量と除去24時間後の皮膚に保持されているRADの量を比較して皮膚保持率を算出した。その結果、表1に示すように、分子量約500から1700のRADに優れた皮膚保持効果が認められた。
【0040】
【表1】

【0041】
実験例2 細胞間連絡亢進効果
GJによる細胞間連絡の評価は、Scrape−loading and dye transfer (SLDT:色素移行)法により評価した(J.U.Park,et al.,J Biome Mater Res.,2002,60,541−547)。まず、ヒトケラチノサイト由来細胞株HaCaT細胞を10%ウシ胎児血清含有DMEM培地(以降、培地と記す)にて培養し、コンフルエントな状態になったら、アミノ酸配列1のRAD16を最終濃度が0.001、0.01、0.1%となるように、またはコラーゲンペプチドを1%となるように培地に添加した。RAD16及びコラーゲンペプチド添加7日後に、シャーレの細胞が培養されている面に27Gの注射針で線をひき、傷をつける。続いて、0.1%となるようにルシファーイエローを添加した培地にて、37℃、5%CO2条件下で5分間培養した。培地を除去し、PBSで3回細胞を洗い、蛍光顕微鏡でルシファーイエローの取り込みを測定した。すなわち、細胞間連絡が発達しているとルシファーイエローが多く取り込まれる。その結果、表2に示すように、RAD16を添加することにより、ルシファーイエローの取り込みが増加した。
アミノ酸配列1:Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala
【0042】
【表2】

【0043】
実験例3 コネキシン43のタンパク質発現亢進効果
HaCaT細胞がコンフルエントな状態にて、RAD16を最終濃度が0.001、0.01、0.1%となるように、またはコラーゲンペプチドを1%となるように培地に添加した。RAD16添加7日後に、培地を除去し、PBSで2回細胞を洗い、総タンパク質の抽出を行った。このタンパク質20μgをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した後、トランスファーメンブレン(ミリポア)にブロッティングした。ブロッティング終了後、1次抗体としてAnti−Connexin 43 Polyclonal antibody(Zymed)、2次抗体としてAnti−Rabbit IgG HRP−Linked antibody(アマシャム)、検出試薬としてECLウエスタンブロッティング検出試薬(アマシャム)を用いてコネキシン43タンパク質をバンドとして検出した。これらのバンドをデンシトメーターにて定量化した。合成促進率の計算は、この例では、用いたデンシトメーターの数値を利用して、次式により計算した。その結果、表3に示すように、RAD16及びコラーゲンペプチドは、全タンパク質中のコネキシン43タンパク質の合成促進効果を示した。
【0044】
合成促進率(%)=A/B×100
A:試料を添加した場合のデンシトメーターの数値
B:試料を添加しない場合のデンシトメーターの数値
【0045】
【表3】

【0046】
実験例4 紫外線照射に対するコネキシン43タンパク質防御効果
HaCaT細胞がコンフルエントな状態にて、RAD16を最終濃度が0.001、0.01、0.1%となるように、またはコラーゲンペプチドを1%となるように培地に添加した。RAD16添加7日後に、培養液をPBSに置換し、UVBを25mJ/cm照射した。照射終了後、直ちにPBSを培地に再び置換し、24時間後に総タンパク質の抽出を行った。このタンパク質20μgをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した後、トランスファーメンブレン(ミリポア)にブロッティングした。ブロッティング終了後、1次抗体としてAnti−Connexin 43 Polyclonal antibody(Zymed)、2次抗体としてAnti−Rabbit IgG HRP−Linked antibody(アマシャム)、検出試薬としてECLウエスタンブロッティング検出試薬(アマシャム)を用いてコネキシン43タンパク質をバンドとして検出した。これらのバンドをデンシトメーターにて定量化した。合成促進率の計算は、この例では、用いたデンシトメーターの数値を利用して、次式により計算した。その結果、表4に示すように、RAD16は、紫外線によるコネキシン43タンパク質の発現低下を抑制した。
【0047】
【表4】

【0048】
コネキシン26、コネキシン32についても、同様にRAD16及びコラーゲンペプチドによる発現亢進効果が認められた。また、RAD16以外に、RAD3〜48についてもコネキシンの発現亢進効果が認められた。
【0049】
実験例5 抗老化作用の評価
30週齢の老化促進マウス(SAM P10)を雌雄5匹ずつ、対照群、RAD16投与群を設けた。対照群には生理食塩水を、RAD16投与群は、RAD16を0.1%となるように生理食塩水に溶解したものを、バリカンで刈毛したマウスの背部・皮内に投与した。投与1週間後に、刈毛したマウスの背部皮膚を、母指と人差指で挟んでつまみ上げ、直ちに離し、皮膚のシワが復元する秒数を測定した。その結果、表5に示すように、対照群に比べRAD16投与群では、復元時間が有意に短くなった。
【0050】
【表5】

【0051】
実験例6 タルミの改善効果
処方例1のクリーム1、処方例2のクリーム2、比較例1の従来のクリームを用いて、肌のタルミに悩む女性20人(25〜40才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、肌のタルミの改善効果をアンケートにより評価した。
【0052】
これらの結果を表6に示した。その結果、RAD16を含有することを特徴とする皮膚外用剤は優れたタルミの改善効果を示した。
【0053】
【表6】

【0054】
処方例3〜8で得られた皮膚外用剤はいずれも十分なタルミにおける改善効果を示した。また、皮膚トラブルも無く、安全であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の活用例として、化粧品、医薬部外品または医薬品のいずれにも用いることができ、細胞間連絡機能の低下に由来する肌の老化の改善効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が500以上2000以下のペプチドを含有することを特徴とする細胞間連絡亢進剤。
【請求項2】
Arg、Ala及びAspからなる配列を含むペプチド(以下、総称してRADペプチドと記す)を含有することを特徴とする細胞間連絡亢進剤。
【請求項3】
分子量500以上2000以下のRADペプチドを含有することを特徴とする細胞間連絡亢進剤。
【請求項4】
下記のアミノ酸配列1を有する、ペプチドを含有することを特徴とする細胞間連絡亢進剤。
アミノ酸配列1:Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Asp−Ala
【請求項5】
平均分子量が500以上2000以下のコラーゲンペプチドを含有することを特徴とする細胞間連絡亢進剤。
【請求項6】
前記の細胞間連絡の亢進が、ギャップジャンクション機能の亢進による請求項1〜4いずれか一項記載の細胞間連絡亢進剤。
【請求項7】
コネキシンの発現を増強することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の細胞間連絡亢進剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の細胞間連絡亢進剤を含有する老化予防皮膚外用剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞間連絡亢進剤を含有する光老化予防皮膚外用剤。

【公開番号】特開2007−39394(P2007−39394A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226902(P2005−226902)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】