説明

耐すり傷性塗膜の部分補修方法

【課題】補修対象部分の外側のミストが磨き取りやすく、かつクリヤー塗膜の薄膜部分の剥がれが生じにくい上、部分補修部分と非補修部分との境目が分かりにくい外観を得ることができる、耐すり傷性塗膜の部分補修方法を提供する。
【解決手段】(a)耐すり傷性クリヤー塗膜が塗装された補修対象部分を研磨する工程と、(b)補修対象部分の外側のクリヤーぼかし塗装する部分を研磨材にて研磨する工程と、(c)補修対象部分をカラーベース塗料で塗装する工程と、(d)カラーベース塗料を硬化させずに、ウエットオンウエットでクリヤー塗料を塗装する工程と、(e)ぼかし剤で希釈したクリヤー塗料をぼかし塗装をする部分に塗装する工程と、(f)乾燥工程及び(g)ぼかし塗装をした部分をポリッシュする工程を含む耐すり傷性塗膜の部分補修方法において、(1)前記クリヤー塗料がイソシアネート硬化型の2液タイプの塗料であること、及び(2)前記ぼかし剤が、エチルエトキシプロピオネートを含む溶剤と、アクリル樹脂と、界面活性剤と、硬化触媒とを含み、かつぼかし剤中のエチルエトキシプロピオネートの含有量が5〜50質量%であって、アクリル樹脂の含有量が、固形分として1〜5質量%であること、を特徴とする耐すり傷性塗膜の部分補修方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐すり傷性塗膜の部分補修方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、自動車車体などの耐すり傷性クリヤー塗膜の部分補修方法であって、補修対象部分の外側のミストが磨き取りやすく、かつクリヤー塗膜の薄膜部分の剥がれが生じにくい上、部分補修部分と非補修部分との境目が分かりにくい外観を得ることができる、耐すり傷性塗膜の部分補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体等の塗膜に剥がれ、変色、傷などの異常が発生した場合、その補修には補修用の塗料材料が使用される。自動車の補修は大きく分けて、ブロック補修と部分補修がある。ブロック補修は補修部分が比較的大きい場合や自動車パーツの中央部を補修する場合に行われ、パーツ全体を補修塗料で塗装する。一方、部分補修は補修部分が小さい場合や、補修部分の位置が目立たない場合に行われる。
【0003】
一般に、部分補修は、補修対象部分を研磨し、必要に応じてサフェーサーを塗装、乾燥したのち、再度、研磨して上塗を塗装する。この部分塗装では、補修対象部分から非補修部分の外観が不連続にならないようにするために、クリヤー塗料によるぼかし塗装が実施される。クリヤー塗料によるぼかし塗装は、シンナーでオーバー希釈したクリヤー塗料や、ぼかし剤とクリヤー塗料の混合溶液あるいはぼかし剤単独をミスト部に、補修部から非補修部に膜厚の勾配ができるように、さらに、周辺部のミスト付着を少なくするように塗装する工程である。乾燥後、クリヤー塗料によるぼかし塗装で生じた周辺のミストをポリッシュで磨きとる。このポリッシュ工程で磨きが足りないとミストが完全にとれず、またミストを取るために磨きすぎると境目のクリヤーが剥がれ、補修跡が残ってしまう不具合が生じる。このように、ぼかし塗装あるいはポリッシュ工程は補修作業者の熟練が要求される工程である。
【0004】
一方、自動車車体等に塗装された上塗り塗膜は、洗車ブラシ等による摩擦力ですり傷がつきにくい耐すり傷性クリヤー塗膜が塗装される場合が多くなってきている。この耐すり傷性クリヤー塗膜には、塗膜を従来のクリヤー塗膜より硬くして傷がつきにくくするタイプと、ブラシ等の摩擦力に対して一旦変形し、すぐに元の形に戻るリフロータイプがある。どちらの耐すり傷性クリヤー塗膜のタイプにおいても、この傷がつきにくい性能のため、補修クリヤー塗膜の部分補修においてミストを磨きとる工程が困難であり、ミストを磨き取るために長時間の磨き工程が必要となるという問題があった。また、このように耐すり傷性クリヤー塗膜では磨きが多くなるため、補修境目のクリヤー塗膜が剥がれ、補修部分と非補修部分の境目が現れ連続的な外観が得られないという問題もあった。
【0005】
このような問題に対処するために、例えば特許文献1には、特定の上塗用塗料組成物を用いて耐すり傷性と磨き作業性の両立を図った技術が開示されている。しかしながら、この技術では、補修対象部位の耐すり傷性と磨き性は改良されるものの、補修対象部の外側のミスト部の磨き性は不十分であるという欠点があった。
一方、近年、自動車車体等の耐すり傷性クリヤー塗膜を部分補修する場合に、補修部分と非補修部分の境目が判別できず、連続的な外観を提供する補修方法の確立が強く求められている。
【0006】
また、補修部と補修部周辺のダスト部の外観及び見え方が、被補修塗膜と同等となるよう、簡易に補修できる塗膜の部分補修方法として、界面活性剤を含有する補修用シンナーを塗装する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、耐すり傷クリヤー塗膜を補修した場合には、補修部と非補修部との外観が不連続になるという欠点があった。
【0007】
また、自動車外装塗膜の補修部及びその周辺部に優れた耐擦傷性及び耐塗膜切れ性を付与することができる、ぼかし液組成物を提供するものとして、(1)(A)(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンの付加物とを含有するアクリル樹脂、および(B)ポリカプロラクトンポリオールとを含む樹脂/(2)沸点が120〜230℃の極性溶媒を30〜100質量%含む有機溶剤=1〜5/99〜95(質量比)、並びに(3)ジブチル錫ジラウレートをぼかし液組成物の固形分100質量部に対して0.03〜0.05質量部、含有するぼかし液組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この場合、極性の高いε−カプロラクトンの付加物を用いることで、塗膜の平滑性が損なわれるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−118605号公報
【特許文献2】特開2001−58156号公報
【特許文献3】特開2007−169526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下になされたもので、自動車車体などの耐すり傷性クリヤー塗膜の部分補修方法であって、補修対象部分の外側のミストが磨き取りやすく、かつクリヤー塗膜の薄膜部分の剥がれが生じにくい上、部分補修部分と非補修部分との境目が分かりにくい外観を得ることができる、耐すり傷性塗膜の部分補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を含む補修方法により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1](a)耐すり傷性クリヤー塗膜が塗装された補修対象部分を研磨する工程と、(b)補修対象部分の外側のクリヤーぼかし塗装する部分を研磨材にて研磨する工程と、(c)補修対象部分をカラーベース塗料で塗装する工程と、(d)カラーベース塗料を硬化させずに、ウェットオンウェットでクリヤー塗料を塗装する工程と、(e)ぼかし剤で希釈したクリヤー塗料をぼかし塗装をする部分に塗装する工程と、(f)乾燥工程及び(g)ぼかし塗装をした部分をポリッシュする工程を含む耐すり傷性塗膜の部分補修方法において、
(1)前記クリヤー塗料がイソシアネート硬化型の2液タイプの塗料であること、及び
(2)前記ぼかし剤が、エチルエトキシプロピオネートを含む溶剤と、アクリル樹脂と、界面活性剤と、硬化触媒とを含み、かつぼかし剤中のエチルエトキシプロピオネートの含有量が5〜50質量%であって、アクリル樹脂の含有量が、固形分として1〜5質量%であること、
を特徴とする耐すり傷性塗膜の部分補修方法、
[2](d)工程と(e)工程との間に、(d')工程として、希釈溶剤にて希釈してなるクリヤー塗料を塗装する工程を設ける、上記[1]項に記載の耐すり傷性塗膜の部分補修方法、及び
[3]ぼかし剤に含有されるアクリル樹脂が、分子内に炭素数8〜10のアルキルエステル共重合性単量体単位5〜50質量%を有するものである、上記[1]又は[2]項に記載の耐すり傷性塗膜の部分補修方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動車車体などの耐すり傷性クリヤー塗膜の部分補修方法であって、補修対象部分の外側のミストが磨き取りやすく、かつクリヤー塗膜の薄膜部分の剥がれが生じにくい上、部分補修部分と非補修部分との境目が分かりにくい外観を得ることができる、耐すり傷性塗膜の部分補修方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の耐すり傷性塗膜の部分補修方法について説明する。
本発明の耐すり傷性塗膜の部分補修方法(以下、単に「部分補修方法」と称することがある。)は、以下に示す(a)工程、(b)工程、(c)工程、(d)工程、(e)工程、(f)工程、(g)工程を含むことを特徴とする。
【0013】
[(a)工程]
本発明の部分補修方法における(a)工程は、耐すり傷性クリヤー塗膜が塗装された補修対象部分を研磨する工程である。
近年、自動車などの最外層の塗膜として、例えば、特開2006−291111号公報に示されるように、耐すり傷性に優れたクリヤー塗膜が用いられている。
このクリヤー塗膜を補修する場合、補修部分の研磨材としては特に限定はされないが、#400〜#1000の粗さの研磨材を用いることが好ましい。この研磨をする工程においては、水研ぎ、空(から)研ぎのどちらを選択してもよい。
【0014】
[(b)工程]
本発明の部分補修方法における(b)工程は、補修対象部分の外側にクリヤーぼかし塗装する部分を研磨材にて細かく研磨する工程である。
補修対象部分の外側の研磨には補修部分より細かい研磨材が望ましい。例えば、研磨材としては、#1500〜#4000の粗さ範囲が好ましく、特に、#3000〜#4000の範囲が、塗膜に研磨によるキズを最小限度に抑えられるので好ましい。
【0015】
[(c)工程]
本発明の部分補修方法における(c)工程は、補修対象部分をカラーベース塗料で塗装する工程である。
補修対象部分をカラーベース塗料で塗装する場合、カラーベース塗料は特に限定はされず、溶剤タイプのカラーベース塗料でも水系タイプのカラーベース塗料でもよい。
また、カラーベース塗料の硬化方式は1液型でもよく、イソシアネート化合物を硬化剤として用いる2液型でもよい。
カラーベース塗料の塗装は、エアースプレー等のスプレー塗装が一般的である。
【0016】
[(d)工程]
本発明の部分補修方法における(d)工程は、カラーベース塗料を硬化させずに、ウェットオンウェットでクリヤー塗料を塗装する工程である。
補修対象部分に、カラーベース塗料を塗装したカラーベース塗膜層の上に、クリヤー塗料を塗装する場合、カラーベース塗料を硬化せずに、未硬化のまま、ウェットオンウェットでクリヤー塗料を塗装することが、経済性の面から有利である。
用いられるクリヤー塗料としては、耐すり傷性に優れた塗料が好ましく、本発明では、イソシアネート硬化型の2液タイプの補修用クリヤー塗料が用いられる。補修用クリヤー塗料用の樹脂の種類は、特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂等の樹脂が挙げられる。
クリヤー塗料の塗装は、エアースプレー等のスプレー塗装が一般的である。
【0017】
[(d')工程]
本発明の部分補修方法における(d')工程は、前記(d)工程と、後述の(e)工程との間に、必要に応じて用いられる工程であって、希釈溶剤にて希釈してなるクリヤー塗料を塗装する工程である。
当該(d')工程においては、補修部分と非補修部分の膜厚の傾斜を緩やかにするために、希釈溶剤にて過剰に希釈したクリヤー塗料を塗装してもよい。希釈溶剤の希釈率としてはクリヤー塗料と希釈溶剤の比率において質量比で100/50〜100/100が望ましい。100/50より少ないと膜厚傾斜を緩やかにする効果が少なく、100/100より多いと塗膜外観が劣る可能性がある。
【0018】
[(e)工程]
本発明の部分補修方法における(e)工程は、ぼかし剤で希釈したクリヤー塗料をぼかし塗装をする部分に塗装する工程である。
補修塗装部分をわかりにくくする目的で、ぼかし剤を前述したクリヤー塗料と混合して、ぼかし塗装をする部分に塗装を行う。
本発明に用いられるぼかし剤は、エチルエトキシプロピオネートを必須成分として含む有機溶剤、アクリル樹脂、界面活性剤及び硬化触媒を含む組成物である。
【0019】
(有機溶剤)
当該ぼかし剤に用いられる有機溶剤として、必須成分のエチルエトキシプロピオネート以外に、例えばトルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150[商品名、芳香族ナフサ系溶剤;エクソン化学(株)製]等の炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、メトキシブチルアセテート等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤;などを挙げることができ、これらは1種もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
ぼかし剤中に含有する有機溶剤量は、通常90〜98質量%程度であり、好ましくは93〜97質量%である。
これらの有機溶剤の中で必須成分として用いられる溶解性の高いエチルエトキシプロピオネートは、ぼかし剤中に、5〜50質量%の割合で含有することを要する。この含有量が5質量%未満では、十分な塗膜の平滑性が得られないし、一方50質量%を超えると塗膜の乾燥性が劣る。このような観点から、好ましい含有量は10〜45質量%の範囲である。
【0021】
(アクリル樹脂)
本発明において、当該ぼかし剤に用いられるアクリル樹脂は、スプレー塗装におけるミスト部のポリッシュ性を向上させる効果があり、通常エチレン性不飽和単量体の共重合体として提供される。
当該ぼかし剤中に含有するアクリル樹脂は、固形分で1〜5質量%(アクリル樹脂の加熱残分が50質量%の場合、ぼかし剤100質量部中、2〜10質量部ということである。)であることを要し、好ましくは、固形分で1.5〜4質量%である。当該ぼかし剤中に含有されるアクリル樹脂が、固形分で1質量%未満の場合には、レベリング性が十分ではなく、ミスト部のポリッシュ性に劣り、5質量%を超える場合には、乾燥後のダスト跡が目立ってしまうなどの問題が生じる。
【0022】
前記アクリル樹脂は、アクリル系モノマー等のエチレン性不飽和単量体のラジカル共重合等公知の方法によって得ることができる。
アクリル樹脂の水酸基価は、50〜200mgKOH/gが好ましく、より好ましくは70〜150mgKOH/gである。水酸基価が50mgKOH/g未満では、塗膜の付着性が劣る可能性があり、水酸基価が200mgKOH/を超える場合には、塗膜が脆くなる可能性がある。該アクリル樹脂において、酸価は、特に、必要ではない。
アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000〜30,000が好ましく、より好ましくは、2,000〜10,000である。
アクリル樹脂の重量平均分子量が1,000未満の場合、塗膜の付着性、乾燥性が十分ではない可能性があり、20,000を超える場合には、塗装作業性が劣る可能性がある。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)で測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0023】
本発明で用いられるアクリル樹脂は、一般に水酸基含有エチレン性不飽和単量体と、アルキルエステル系エチレン性不飽和単量体と、必要に応じて用いられるその他共重合可能なエチレン性不飽和単量体とを、従来公知の方法で共重合させることにより、製造することができる。
前記の水酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、アルキルエステル系エチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ノルマルデシル、(メタ)アクリル酸イソデシルなどの中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。その他共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、スチレンなどが挙げられる。
本発明で用いるアクリル樹脂としては、分子中に炭素数8〜10のアルキルエステル系エチレン性不飽和単量体単位を5〜50質量%含有するものが、塗料のレベリング性を向上させ、塗膜の外観性を高める効果があるため好ましく、10〜30質量%含有するものがより好ましい。
分子中の炭素数8〜10のアルキルエステル系エチレン性不飽和単量体単位の含有量が、5質量%未満の場合には、平滑性が劣り、塗膜外観が十分ではない可能性があり、50質量%を超える場合には、付着性が劣る可能性がある。
【0024】
(界面活性剤)
当該ぼかし剤に用いられる界面活性剤は、研磨された部分を平滑にする効果があり、通常塗料用として用いられるものが利用できる。例えば、アクリル系重合物、ビニル系重合物、シロキサン系重合物、フッ素系重合物、有機変性ポリシロキサン等を挙げることができ、1種もしくは2種以上を混合し用いることができる。
ぼかし剤中の界面活性剤の含有量は0.05〜1質量%が好ましく、0.1〜0.7質量%が特に好ましい。界面活性剤の含有量が0.05質量%未満では、平滑性に劣る可能性があり、1質量%を超えた場合には、外観性へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0025】
(硬化触媒)
当該ぼかし剤に用いられる硬化触媒は、クリヤー薄膜部の塗膜強度を高め、ポリッシュ性を高める効果があり、イソシアネート化合物と水酸基との反応を促進する酸触媒、金属触媒、好ましくは錫系触媒が挙げられる。この硬化触媒は、2液型クリヤー塗料中のイソシアネート化合物とぼかし剤中のアクリル樹脂中の水酸基との反応を促進させるために用いられるものであるが、ぼかし剤中のアクリル樹脂量が多くはないため、イソシアネート硬化剤そのものをぼかし剤に含有する必要はない。
ぼかし剤中の硬化触媒の含有量は、0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1質量%がより好ましい。硬化触媒量が0.1質量%未満では、付着性が劣る可能性があり、2質量%を超える場合には、塗膜外観が劣る可能性がある。
【0026】
(クリヤー塗料とぼかし剤との混合比率)
本発明においては、クリヤー塗料とぼかし剤との混合比率は、部分補修部と非補修部の境界部の膜厚とミストの状態に影響を与えるので重要であり、その混合比率は、質量比で100/100〜1/100が好ましく、90/20〜5/95がより好ましく、80/20〜10/90が特に好ましい。
クリヤー塗料が、ぼかし剤との混合比率において、100/100よりも多い場合には、ポリッシュの作業性が劣る可能性があり、1/100よりも少ない場合には、塗膜外観が劣る可能性がある。
クリヤー塗料とぼかし剤との混合物の塗装は、エアースプレー等のスプレー塗装が一般的である。
【0027】
[(f)工程]
本発明の部分補修方法における(f)工程は、乾燥工程であって、乾燥条件は、自動車補修塗装工程で、通常実施されている条件が適用できる。例えば、自然乾燥、または、50〜80℃程度の強制乾燥を用いてもよい。乾燥時間は、自然乾燥の場合、8〜24時間が通常の条件であり、強制乾燥の場合は、10分から60分間が通常の条件である。本発明においては、60〜80℃の温度で45〜60分間の強制乾燥をすることが好ましい。
【0028】
[(g)工程]
本発明の部分補修方法における(g)工程は、ぼかし塗装をした部分をポリッシュする工程である。
このぼかし塗装をした部分をポリッシュする工程は、部分補修部と非補修部の境界を滑らかにする工程であり、自動車補修で通常実施されている工法である。細目コンパウンドで肌調整され、続いて、微細目コンパウンドで中仕上げ、最後に超微細目コンパウンドで仕上げられる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1 アクリル樹脂A−1の合成
温度計、還流冷却器、撹拌機、及び滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレンを47.5質量部仕込み、窒素気流下撹拌しながら加熱し140℃を保った。次に、140℃の温度で、スチレン5質量部、アクリル酸n−ブチル5質量部、メタクリル酸n−ブチル15質量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル10質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部のエチレン性不飽和モノマーと、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシベンゾエート1.4質量部との均一に混合した滴下成分を2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、140℃の温度を1時間保った後、反応温度を110℃に下げた。その後、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシベンゾエート0.1質量部をキシレン1質量部に溶解させた重合開始剤溶液を追加触媒として添加し、さらに110℃の温度を2時間保ったところで反応を終了し、アクリル樹脂溶液A−1を得た。得られた樹脂溶液A−1の樹脂水酸基価は129mgKOH/g、不揮発分は50.0質量%、及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は6,200であった。各成分の仕込み量を第1表に示す。
製造例2 アクリル樹脂A−2の合成
モノマー組成を第1表記載のものに変更した以外は、アクリル樹脂A−1の合成方法と同様にして、アクリル樹脂A−2の合成を行った。得られた樹脂溶液A−2の樹脂水酸基価は129mgKOH/g、不揮発分は50.0質量%、及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は6,100であった。
【0030】
【表1】

【0031】
製造例3 ぼかし剤A〜Fの調製
撹拌機の付いた容器に、第2表記載の原料をその配合量に従って順次撹拌をしながら少しずつ仕込み、全て仕込み終わったら、均一になるまで、さらに撹拌を続け、ぼかし剤A〜Fを得た。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例1
被塗物は、化成処理を施した鋼板上に、カチオン電着塗料[BASFコーティングスジャパン社製、カチオン型電着塗料「カソガード500」]を用いて乾燥膜厚25μmになるよう電着塗装を行い、170℃にて20分間焼き付けて、電着塗膜を形成し、次に、中塗り塗料[BASFコーティングスジャパン社製、商品名「ハイエピコNo.560」]を乾燥膜厚30μmとなるようエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、中塗り塗膜を形成した。黒色ベース塗料として、[BASFコーティングスジャパン社製、「アクアBC−3」]を膜厚が15μmになるように塗装し、ウェットオンウェットにて、耐すり傷性に優れたクリヤー塗料[BASFコーティングスジャパン社製、「PROGLOSS N−1000クリヤー」]を膜厚が40μmになるように塗装し、140℃で30分間焼き付けたものを用いた。
まず、補修対象部分を#1000の研磨材を用いて、水研ぎにて、付着性を高めるよう足付けした。次に、補修対象部分の外側をバフレックスブラック[コバックス社製、#3000相当品]を用いて水研ぎにて足付けした。
補修対象部分を補修用水系ベースコート塗料[BASFコーティングスAG社製「オニキスHD」]で膜厚が20μmで下地が隠蔽するように塗装した。その後、ウェットオンウェットにて、補修対象部分を補修用耐すり傷クリヤー塗料[BASFコーティングスSAS社製、「スプレムラックスCPクリヤー」]で膜厚が50μmになるように塗装した。続いて、「スプレムラックスCPクリヤー」と上記「ぼかし剤A」との混合比率が質量比10/100になるようにした混合溶液で補修対象部分の外側を前工程で生じたミストをなじませ、外側への新たなミスト飛散が少なく、クリヤー膜厚が補修部から非補修へ向かって暫時減少するように塗装した。
次に、60℃で30分間乾燥し、続いて80℃で15分間乾燥した。鋼板が室温に冷却した後、肌調整、中仕上げ、最終仕上げの順でポリッシュし、補修塗膜を完成した。肌調整はコンパウンドとして「ダイナマイトカット5936」[3M社製]を用いてウールバフでポリッシュした。中仕上げはコンパウンドとして「トライザクトフィニッシュ5968」[3M社製]を用いてハードスポンジでポリッシュした。最終仕上げはコンパウンドとして「トライザクトフィニッシュエクストラファイン5988」[3M社製]を用いてソフトスポンジでポリッシュした。
【0034】
実施例2、3及び比較例1〜3
実施例1の「ぼかし剤A」を第2表記載の「ぼかし剤」に変更した以外は、実施例1と同様にして、行った。
以上、実施例1〜3及び比較例1〜3で作製した部分補修塗装の外観を、補修塗膜と非補修塗膜の境目の判別しやすさについて、目視観察により、下記に判定基準で評価した。その結果を第3表に示す。
<判定基準>
◎:太陽光下で境目が判別できない。
○:室内蛍光灯で境目が判別できない。
△:室内蛍光灯で境目が判別しにくい。
×:室内蛍光灯で境目が容易に判別できる。
【0035】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の耐すり傷性塗膜の部分補修方法は、自動車車体などの耐すり傷性クリヤー塗膜の部分補修に適用され、補修対象部分の外側のミストが磨き取りやすく、かつクリヤー塗膜の薄膜部分の剥がれが生じにくい上、部分補修部分と非補修部分との境目が分かりにくい外観を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)耐すり傷性クリヤー塗膜が塗装された補修対象部分を研磨する工程と、(b)補修対象部分の外側のクリヤーぼかし塗装する部分を研磨材にて研磨する工程と、(c)補修対象部分をカラーベース塗料で塗装する工程と、(d)カラーベース塗料を硬化させずに、ウエットオンウエットでクリヤー塗料を塗装する工程と、(e)ぼかし剤で希釈したクリヤー塗料をぼかし塗装をする部分に塗装する工程と、(f)乾燥工程及び(g)ぼかし塗装をした部分をポリッシュする工程を含む耐すり傷性塗膜の部分補修方法において、
(1)前記クリヤー塗料がイソシアネート硬化型の2液タイプの塗料であること、及び
(2)前記ぼかし剤が、エチルエトキシプロピオネートを含む溶剤と、アクリル樹脂と、界面活性剤と、硬化触媒とを含み、かつぼかし剤中のエチルエトキシプロピオネートの含有量が5〜50質量%であって、アクリル樹脂の含有量が、固形分として1〜5質量%であること、
を特徴とする耐すり傷性塗膜の部分補修方法。
【請求項2】
(d)工程と(e)工程との間に、(d')工程として、希釈溶剤にて希釈してなるクリヤー塗料を塗装する工程を設ける、請求項1に記載の耐すり傷性塗膜の部分補修方法。
【請求項3】
ぼかし剤に含有されるアクリル樹脂が、分子内に炭素数8〜10のアルキルエステル共重合性単量体単位5〜50質量%を有するものである、請求項1又は2に記載の耐すり傷性塗膜の部分補修方法。

【公開番号】特開2011−72895(P2011−72895A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226285(P2009−226285)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】