説明

耐アルカリ性陽極酸化アルミニウム表面の多段階製造方法

本発明は、耐酸性および耐アルカリ性高光沢陽極酸化アルミニウム表面を製造するための多段階方法に関する。本発明の方法では、第1段階において、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金の陽極酸化表面を、少なくとも2:1であって4:1を越えないSiO:MOのモル比を有する水溶性アルカリケイ酸塩を含み、アルカリ金属原子Mがリチウム、ナトリウムおよび/またはカリウムから選択される水性組成物(A)と接触させることにより填充し、その後、ジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性無機化合物および/またはケイ素の水溶性フルオロ錯体、好ましくはジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性化合物、特にジルコニウムの水溶性化合物を含み、任意でフッ化物イオンを放出する水溶性無機フッ素化合物を含む酸性水性組成物(B)であって、酸性水性組成物(B)中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素のモル比がモル比が、好ましくは1:4を越えない酸性水性組成物(B)と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性および耐アルカリ性の高光沢陽極酸化アルミニウム表面を製造するための多段階方法に関する。本発明の方法においては、第1工程で、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金の陽極酸化表面を、少なくとも2:1であって4:1を越えないSiO:MOのモル比を有する水溶性アルカリケイ酸塩を含み、アルカリ金属原子Mがリチウム、ナトリウムおよび/またはカリウムから選択される水性組成物(A)と接触させることにより封孔し、続いて、ジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性無機化合物および/またはケイ素の水溶性フルオロ錯体、好ましくはジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性化合物、特にジルコニウムの水溶性化合物と、場合により、フッ化物イオンを放出する水溶性無機フッ素化合物を含む酸性水性組成物(B)であって、この組成物中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素元素のモル比が、好ましくは1:4を越えない酸性水性組成物(B)と接触させることにより後処理する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムへの酸化物層の電気化学的製造は、先行技術において普及したアルミニウム材へ防食性被膜および/または装飾被膜を形成するための1つ方法(アルミニウム陽極酸化工程)である。電気化学的に製造された酸化アルミニウムの被覆層は、アルミニウム基材を腐食および風化から保護し、さらに、陽極酸化アルミニウム材から作られた部材の表面硬度および耐水性を高める。
【0003】
アルミニウムを陽極酸化する様々な方法は、例えば、Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie、第5版、第9巻(1987)、第174〜176頁に記載されており、一般的に既知である。アルミニウム材の陽極酸化に関して、例えば、硫酸(Eloxal GS)、クロム酸(Bengough−Stuart)、リン酸(Boeing)またはシュウ酸(Eloxal GX)における陽極酸化など、使用される電解質に応じて、それぞれ適用に関して特定の技術的利点を示す標準化された方法が存在する。Eloxal GS法においては、18〜21Vの電圧でワークピースに対して0.5〜3A/dmの電流密度が適用される(浴温度は一般的に10〜25℃である)。Eloxal GS法によって、約30〜50μmの範囲の厚みの酸化物層を得ることができる。アルミニウムを陽極酸化するための全ての方法において、一方では使用する電解質の分解動力学により、他方では浴電圧に応じた酸化物層の形成の動力学により、所定の最大酸化物層厚が常に達成される。
【0004】
陽極酸化工程において形成された酸化物層は、金属性基材上に腐食媒体に対するバリア層を形成し、バリア効果は物質面に薄く填充された酸化物層(これは、酸化物層全体のたった2%を構成する)によってのみ確保される。酸化物層の大部分は、不定形で多孔質であるため、侵攻的な媒体に対する効果的な保護をもたらさない。新しく形成された酸化物層の多孔性は、陽極酸化部材への有機被覆層の接着性を改善するためには有利となり得るが、極めて高い腐食環境下におけるアルミニウム部材の使用に対しては深刻な欠点となる。例えば、これらの酸化物層は、自動車分野において、絶えず風化にさらされ、あるいは洗車においてアルカリ性洗浄剤に接触するアルミニウム車輪リムのバリア層としては適さない。このため、陽極酸化部材は、電解により得られた酸化物層の加水分解による孔を封孔するためにまず水性媒体中で後処理される。陽極酸化に続くこの工程は、技術用語において填充または封孔(コンパクティングまたはシーリング)と称される。多孔質酸化物層の填充は、異なる浴温度の水性媒体(金属触媒の存在下における冷封孔/温封孔)で行うことができ、べーマイト構造を有するコンパクト酸化物への変換に影響を及ぼす。この填充工程の結果として、特にpH5〜8の範囲で酸化被膜の耐腐食性が著しく高まる(T.W. Jelinek、Oberflaechenbehandlung von Aluminium、Eugen G.Leuze Verlag、1997、第6.1.3.1章)。
【0005】
電解アルミニウム酸化物層の迅速で効果的な封孔のために、多くの場合、多孔質アルミニウム酸化物層の加水分解を促進し、さらなる酸化物層構造または少なくとも酸化物層の表面改質をもたらす無機化合物を封孔浴に添加する。それ故に、先行技術の封孔浴は、酸化物層の耐腐食性をさらに高めるために(米国特許第6,686,053号)、または、石版の製造における金属表面の親水化のために(米国特許第3,181,461号、米国特許第2,714,066号)水溶性ケイ酸塩を含むことができる。
【0006】
これらの適用分野においては、混合酸化物を形成するアルミニウムとケイ素の強い親和力により、ケイ酸塩含有水性組成物により陽極酸化アルミニウム表面を封孔することが最適な方法であることが多い。この封孔方法において、陽極酸化物層の孔は、ケイ素とアルミニウムの混合酸化物の形成により封孔される。同時に、部材の陽極酸化表面は、ケイ素を豊富に含有する被覆層の形成により親水化され、これは特に、石版の製造方法に望ましい。
【0007】
さらなる改善、特にアルミニウム表面の耐腐食性に関する改善は、先行技術において、ケイ酸塩含有封孔浴へのジルコニウムおよび/またはチタン元素の水溶性錯化合物の添加(欧州特許第0193964号)、また、分散微粒子ケイ素および/または酸化アルミニウムの添加(欧州特許第1064332号)により達成される。
【0008】
既に存在する陽極酸化アルミニウム表面の封孔方法にかかわらず、封孔した陽極酸化アルミニウム層の高アルカリ性媒体における腐食性分解を防止する必要性が存在している。封孔したアルミニウム表面と高アルカリ性媒体の接触は、例えば、アルミニウム材から製造される車体および車輪リムに関しては、11.5〜13.5の範囲のpH値を有するアルカリ性洗浄剤を車に塗布する洗車の時に引き起こる。車製品におけるアルミニウム材の割合は高くなっており、今日、アルミニウム材はすでに現代の車の重要要素である。したがって、自動車産業は、特定の試験基準を用いて監視される品質を順守する、表面処理アルミニウム部材のアルカリ安定性に対する高い品質要求を出している。現在までに、自動車産業により設定された仕様に適合する陽極酸化アルミニウム表面の封孔方法はごくわずかであり、そのため、アルミニウム部材の封孔した酸化物層のアルカリ安定性をさらに改善する新たな方法への関心は高い。欧州特許出願第1873278号は、すでに封孔されたアルミニウム表面(したがって、少なくとも90%の高い填充比を有する)をケイ酸塩含有水性組成物により後処理する、陽極酸化アルミニウム表面の体アルカリ性を高める方法を教示する。
【0009】
同様に、独国特許第1521664号には、第1に、金属塩を含有するアルカリ水溶液を使用する酸化アルミニウム層の封孔、およびそれに続くケイ酸塩含有組成物による後封孔が開示されている。
【0010】
先行技術で開示された陽極酸化アルミニウム表面を填充するための方法は、これらの方法により処理された表面の耐アルカリ性に関して満足のいく結果をある程度もたらすが、他方で、これらの方法が、表面の不可逆的な曇りとなり、陽極酸化表面の望ましい高反射率の損失を意味する、アルミニウム表面の望ましくない変色を防止することができないことは明らかである。さらに、先行技術において知られている封孔方法は、強酸媒体および共アルカリ媒体に交互に暴露した場合、不十分な耐性の陽極酸化表面を有する処理アルミニウム部材をもたらすことが多い。しかしながら、まさに、著しく異なるpH値の媒体に交互に暴露する間における陽極酸化アルミニウム部材のバリア特性の維持管理は、自動車分野および建築分野のOEMにますます要求されており、アルミニウム部材の対応する品質が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,686,053号明細書
【特許文献2】米国特許第3,181,461号明細書
【特許文献3】米国特許第2,714,066号明細書
【特許文献4】欧州特許第0193964号明細書
【特許文献5】欧州特許第1064332号明細書
【特許文献6】欧州特許出願第1873278号明細書
【特許文献7】独国特許第1521664号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、先行技術と比較して、アルミニウム表面の耐アルカリ性および耐酸性を改善し、同時に封孔した部材の変色(すなわち、アルミニウム表面の光沢特性の損失)を防止する、陽極酸化アルミニウム部材を封孔する代替方法、および/または封孔された陽極酸化アルミニウム部材を後処理する代替方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金の陽極酸化表面に、少なくとも以下の工程段階を連続して行う多段階方法において、高い耐アルカリ性および耐酸性の陽極酸化アルミニウム表面を製造できることがわかった:
(i)陽極酸化アルミニウム表面を、少なくとも2:1であって4:1を越えないSiO:MOのモル比を有する水溶性アルカリケイ酸塩を含み、アルカリ金属原子Mがリチウム、ナトリウムおよび/またはカリウムから選択される水性組成物(A)と接触させることにより封孔すること;
(ii)アルミニウム表面を、
(a)ジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性無機化合物および/またはケイ素の水溶性フルオロ錯体、好ましくはジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性化合物、特にジルコニウムの水溶性化合物
を含む酸性水性組成物(B)と接触させることにより処理すること。
【0014】
本発明の方法により封孔および後処理された陽極酸化アルミニウム表面の変色は完全に抑えられ、それにより、本発明に従って処理された部材の高い光沢は恒久的に維持された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によれば、陽極酸化アルミニウム表面は、先行技術において既知の電気化学的な陽極酸化方法の後、少なくとも1μmの厚みの酸化アルミニウム層を有するアルミニウム表面であると理解される。アルミニウム材として、陽極酸化形態で存在する、少なくとも99重量%のアルミニウム含量を有する高純度アルミニウムおよび少なくとも90重量%のアルミニウム含量を有するアルミニウム合金の表面を本発明の方法に使用することができる。好ましい合金元素は銅、マンガン、チタン、ケイ素、亜鉛およびマグネシウムである。
【0016】
本発明の方法において、工程段階(i)において酸化アルミニウム層を封孔するために、少なくとも0.1重量%、特に好ましくは少なくとも0.5重量%、さらに好ましくは少なくとも2重量%であるが、8重量%未満、特に6重量%未満の、SiOとして算出された水溶性アルカリケイ酸塩を含む水性組成物(A)を使用することが好ましい。最小限の量により、一方では十分な充填率で封孔工程が進行し、他方ではケイ素とアルミニウムを含有する混合酸化物の形成を介して表面改質が行われる。この点でさらなる改善をもたらさないため、高濃度の水溶性ケイ酸塩は経済的観点から好ましくない。
【0017】
本発明の多段階方法の段階(i)における填充工程に関する最適条件は、ケイ酸塩含有水性組成物(A)を陽極酸化アルミニウム表面と、少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも50℃の温度であるが、80℃未満、特に好ましくは70℃未満の温度で、好ましくは少なくとも60秒間で10分未満の間接触させることにより達成される。
【0018】
原則として、本発明の範囲内においては、工程段階(i)の後、DIN EN 12373−4の染料吸着試験に従って、陽極酸化アルミニウム表面の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が封孔されるまで十分な時間、水性組成物(A)による処理を行う場合が有利である。本発明の方法の段階(i)後、この最低水準の封孔が好ましい。この場合、表面付近にケイ素元素とアルミニウム元素の混合酸化物が水性組成物(B)による後処理に対して十分に形成しており、この酸化物層の耐アルカリ性、高光沢封孔アルミニウム表面への効果的な変換を達成することができるためである。
【0019】
酸化アルミニウム層の封孔度は、DIN EN 12373−4に従う染料吸着試験により光分析的に測定することができる。ここで、本発明の方法の段階(i)における封孔後の陽極酸化表面の可染性または染料吸収能は、紫外・可視反射分光法により光分析的に測定することができ、新たな陽極酸化表面の可染性と比較する。染料吸着試験においては、陽極酸化アルミニウム表面を、DIN EN 12373−4に従う染料を用いた規定された前処理の後染色する。試験領域を酸性溶液(25ml/l硫酸、10g/lKF)で湿らせ、ちょうど1分後に試験領域の酸性溶液を洗い流し、その後試験領域を乾燥させる。その後、試験領域を染料溶液(5g/lSanodal Blue)で湿らせ、作用させるために1分間放置する。流水で濯いだ後、穏やかな粉末クリーナーで磨くことにより、着色試験領域から軽く付着している染料を取り除く。表面を乾燥させた後、相対反射測定を行うことができる。表面の染色は、酸化アルミニウム層の封孔度に直接的に相関する。封孔酸化物層は最低染料吸収能を有しているが、開孔した未封孔酸化物層は染料をよく吸収することができる。したがって、本発明の方法の段階(i)における封孔度の定量化は、段階(i)に従って処理したアルミニウム表面の残留反射率を測定することにより行うことができる。残留反射率は、紫外・可視光度計(例えば、Dr.LangeによるMicro Color研究室試験器機)により測定した、工程段階(i)に従って処理したアルミニウム表面の反射強度と、紫外・可視光度計により測定した新たな陽極酸化アルミニウム表面の反射強度の比率として定められる。酸化アルミニウムの染料吸収能は、多孔性酸化アルミニウム層の自由表面に直接的に依存しており、そのため、封孔度の定量的測定を可能にするような方法で、自由表面と光分析的に測定された反射強度は互いに相関している:

anod、Ranod:陽極酸化アルミニウム表面の自由表面と反射強度;
seal、Rseal:本発明の方法の段階(i)の後の陽極酸化アルミニウム表面の自由表面と反射強度;
geom:幾何学的表面(分光計の測定領域);
SR:封孔度(%)
【0020】
技術的な観点から、上述した測光法および式(I)に従って、その封孔度が少なくとも95%である場合、陽極酸化アルミニウム表面は完全に封孔されていると判断される。
【0021】
アルミニウム材の填充された酸化物表面を、耐酸性および耐アルカリ性の高光沢封に転換するのに加えて、段階(ii)における水性組成物(B)による処理において、表面の撥水性を調節することができる。高い撥水性は、耐汚染性を有するアルミニウム材を提供し、また、アルミニウム部材の洗浄にとっても有利であり、車に対して一般的に使用されるような界面活性剤含有アルカリ性洗浄剤により、撥水性表面から非常に簡単に汚れを取り除くことができることを意味する。
【0022】
撥水表面を調節するために、本発明の方法においては、段階(ii)においてフッ化物イオンを放出する水溶性無機フッ素化合物さらに含有する後処理浴が好ましい。
【0023】
本発明によれば、フッ化物イオンを放出する水溶性化合物は、先行技術において一般的なフッ化物イオン選択性電極により、フッ素元素に基づき10ppmの水溶性フッ化物放出化合物の試験サンプル中で、組成物(B)中のフッ化物の割合を検出することができる程度まで水性組成物(B)において解離する化合物であると理解される。これらのフッ化物放出化合物は、例えば、重フッ化アンモニウム、フッ化水素または、HZrF、HTiF若しくはHSiFなどのフッ化金属複合体である。
【0024】
撥水表面が本発明の方法において、特に、ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素元素に対して高い相対的比率のフッ素が存在し、ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素のモル比が1:4を越えない、好ましくは1:6を越えない場合に形成されることは明らかである。フッ素の相対的比率が非常に高い場合、それにより存在する遊離フッ化物の高い相対的比率により、封孔段階(i)において表面付近に生成されたケイ素とアルミニウムの混合酸化物の溶解が優位になり得る。したがって、本発明の方法の段階(ii)においては、ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素のモル比が、少なくとも1:12、好ましくは少なくとも1:8である組成物(B)が好ましい。
【0025】
これに関して、特に、本発明の段階(ii)において、金属ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素のフルオロ錯体である、特に好ましくはジルコニウムおよびまたはチタンのフルオロ錯体である、特にジルコニウムのフルオロ錯体である水溶性無機化合物が水性組成物(B)に含まれ、ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素のモル比が1:4を越えないことが好ましい。
【0026】
本発明の範囲において、工程(ii)におけるアルミニウム材の填充陽極酸化アルミニウム層の耐酸性および耐アルカリ性、高光沢封への十分な変換のために、水性組成物(B)は、総量で好ましくは少なくとも0.2mmol/l、特に好ましくは少なくとも2mmol/lのジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素元素を水溶性化合物の形態で含む。高い濃度はさらなる技術的利点をもたらさないため、経済的観点から、水性組成物(B)は、総量で好ましくは10mmol/l未満、好ましくは8mmol/l未満のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素元素水溶性化合物の形態で含むべきである。
【0027】
さらに、酸性水性組成物(B)のpH値は、段階(ii)における部材の填充陽極アルミニウム表面の耐酸性および耐アルカリ性、高光沢封孔への変換に影響を及ぼすパラメーターである。工程段階(ii)において、少なくとも2であって6を越えないpH値が好ましく、特に酸性水性組成物(B)のpH値は3を越えるべきではないことは明白である。
【0028】
本発明の方法の段階(ii)における酸性水性組成物(B)のpH値を調節し、安定化させるために、緩衝系をさらに含有することができ、少なくとも2であって4を越えない、特に好ましくは3を越えないpK値のプロトリシス平衡により区別される緩衝系を使用することが好ましい。酸性水性組成物(B)に対する特に好ましい緩衝系は酢酸アンモニウムである。
【0029】
段階(ii)において填充されたアルミニウム表面の後処理は、室温でも行うことができる。段階(ii)における組成物(B)の温度は、好ましくは少なくとも20℃であり、好ましくは40℃を越えない。本発明の方法の段階(ii)における後処理時間は、好ましくは少なくとも5分間であり、好ましくは15分を越えない。
【0030】
本発明によれば、工程段階(i)の後であって、工程段階(ii)の前に、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも140℃であって、300℃を越えない温度で乾燥工程をさらに行うことがより好ましい。この結果、段階(i)において填充された多孔性酸化アルミニウム層の封孔がさらに継続し、それにより陽極酸化表面は、アルカリに対する非常に良好な耐性を有することになる。
【0031】
他方、段階(i)の直後および乾燥段階前の濯ぎ工程は、填充の仕上げに障害であり、陽極酸化アルミニウム表面からケイ素の部分的洗浄をもたらす。しかしながら、本発明の方法においてケイ酸カルシウム法は、耐アルカリ性、場合により無欠陥酸化アルミニウム層の作製に必要である。
【0032】
本発明において工程段階(ii)は、中間濯ぎ工程をして、またはしないで、乾燥段階のすぐ後に行うことができる。
【0033】
本発明の方法において、段階(ii)における後処理の直後に濯ぎ工程を行う場合、少なくとも60℃の温度、特に少なくとも80℃の温度である温水濯ぎ工程が好ましいが、プロセス工学的理由から温水濯ぎの温度は95℃を越えるべきでない。
【実施例】
【0034】
ここに記載する実施例に関して、AA5505アルミニウム板(99.9%Al、0.1%Mg)を、電解質電圧16V、電流密度1.5A/dmで20分間、硫酸電解質において陽極酸化した。このように陽極酸化したアルミニウム板は、8〜10μmの厚みの酸化物層を備えていた。
【0035】
その後、陽極酸化したアルミニウム板を、多段階工程において封孔し(表1)、その後、このアルミニウム板の耐酸性および耐アルカリ性、ならびに表面の光沢特性について、種々の試験方法により定性的に評価した(表2)。
【0036】
表2から、本発明の方法(E1〜E6)により、AHA試験のもと、処理酸化アルミニウム層の良好な耐性が常に観測され、光沢表面は常に、恒久的な高い反射性を生じることがわかる。しかしながら、第1工程段階での陽極酸化板のほぼ完全な填充が、本発明により処理した板の耐酸性および耐アルカリ性に関して特に有利であることは明らかである(E1)。したがって、第1工程段階の封孔浴における高比率のケイ素は、同じ処理時間に対して、填充において、それにより第2処理段階の効果において、第1工程段階の封孔浴後に板の乾燥をするのと同じ程度の効果を有する(E1とE2、およびE1とE4参照)。
【0037】
本発明の方法において処理した陽極酸化板の親水性は、後処理(第2段階)におけるフッ化物の比率により調整することができる。フッ化物非含有後処理浴は親水性表面をもたらす(E3)が、フッ化物含有浴においては、その後の乾燥段階に関係なく、高撥水性アルミニウム表面が形成される(E1、E5)。
【0038】
比較試験C1およびC2は、第1処理段階における表面のケイ素非含有封孔(C2)および同様の多段階工程におけるジルコニウム非含有後処理(C2)のいずれもが、酸安定性およびアルカリ安定性(C1)が不安定であるか、短時間に灰色がかった曇りをもたらしてその光沢を失い(C2)、満足のいく結果をもたらさないことを示す。ヘキサフルオロケイ酸により後処理も、AHA試験および光沢特性に関して満足のいく結果をもたらす(E6)。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金の陽極酸化表面の耐アルカリ性を高めるための方法であって、少なくとも以下の工程段階を連続して行う方法:
(i)陽極酸化アルミニウム表面を、少なくとも2:1であって4:1を越えないSiO:MOのモル比を有する水溶性アルカリケイ酸塩を含み、アルカリ金属原子Mがリチウム、ナトリウムおよび/またはカリウムから選択される水性組成物(A)と接触させることにより封孔すること;
(ii)アルミニウム表面を、
(a)ジルコニウムおよび/またはチタンの水溶性無機化合物および/またはケイ素の水溶性フルオロ錯体、
(b)場合により、フッ化物イオンを放出する水溶性無機フッ素化合物
を含む酸性水性組成物(B)であって、酸性水性組成物(B)中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素元素のモル比が、好ましくは1:4を越えない酸性水性組成物(B)と接触させることにより処理すること。
【請求項2】
含水組成物(A)中のアルカリケイ酸塩の割合が、SiOに基づき、8重量%未満、好ましくは6重量%未満であり、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも2重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程段階(i)の後、DIN EN 12373−4の染料吸着試験に従って、陽極酸化アルミニウム表面の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%を封孔する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程段階(ii)における酸性水性組成物(B)中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素元素のモル比が、少なくとも1:12、好ましくは少なくとも1:8である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程段階(ii)における酸性水性組成物(B)中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総濃度が、少なくとも0.2mmol/l、好ましくは少なくとも2mmol/lであるが、10mmol/l未満、好ましくは8mmol/l未満である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程段階(ii)における酸性水性組成物(B)が、金属ジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素のフルオロ錯体、好ましくは金属ジルコニウムおよび/またはチタンのフルオロ錯体、特に好ましくは金属ジルコニウムのフルオロ錯体を含み、酸性水性組成物(B)中のジルコニウム、チタンおよび/またはケイ素の全元素の総数とフッ素元素のモル比が、好ましくは1:4を越えない請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程段階(ii)における酸性水性組成物(B)が、少なくとも2のpH値、かつ、6未満、好ましくは3未満のpH値を有する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程段階(ii)における酸性水性組成物(B)が、さらに、少なくとも2のpK値、かつ、4未満、好ましくは3未満のpK値を有する緩衝系を含む請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
緩衝系が酢酸アンモニウムから選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程段階(i)の後であって、工程段階(ii)の前に、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも140℃であって、300℃を越えない温度で乾燥工程を行う請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2013−507529(P2013−507529A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533646(P2012−533646)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065546
【国際公開番号】WO2011/045423
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】