説明

耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板

【課題】 本発明は、耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板を提供する。
【解決手段】 少なくともAlとMgを含有するZn系めっき層を有する鋼板に有機被覆層を有する有機被覆鋼板であって、該有機被覆鋼板に、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を行った場合、該有機被覆鋼板の切断端面部又は有機被覆表面の一方又は両方に、Mg、Al、Znを少なくとも含有する腐食生成物を生じ、かつ、該腐食生成物中のZnとAl及びZnとMgの質量比がそれぞれ、
3≦Zn/Al≦15;
10≦Zn/Mg≦30
であることを特徴とする耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板に関し、屋根、壁、ドア等の建材や冷蔵庫、洗濯機等の家電製品等の用途に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
各種めっき鋼板上に有機物を被覆した有機被覆鋼板は、優れた意匠性を有することから、家電製品や建材製品の分野で幅広く使用されている。例えば、家電製品の場合は冷蔵庫や洗濯機等として、建材製品の場合は屋根、壁、ドアとして用いられている。これらの用途において、有機被覆鋼板は意匠性を主たる特長として使用されているが、同時に優れた耐食性を有することも期待されている。
【0003】
さて、裸仕様の観点(有機被覆無し)で最も耐食性に優れるZn-Al系合金めっき鋼板は、米国のベツレヘムスチール社で開発された55%Al-Zn合金めっき鋼板である。しかし、この55%Al-Zn合金めっき鋼板は、有機被覆の厚さが20μm程度の薄い塗装では優れた耐食性を示すものの、厚さが25μm超の塗装を施して使用すると、エッジクリープと呼ばれる切断端面からの腐食が著しく大きく成長し、しかも腐食の進行が止まらないと言う問題があった。したがって、55%Al-Znめっき鋼板は、厚膜の有機被覆には適さないとされてきた。
【0004】
このような背景の元、塗装55%Al-Zn合金めっき鋼板のエッジクリープを軽減する技術として、例えば、特許文献1に端部近傍の表面を未塗装にするか、または、下塗り塗装のみを施すことにより、エッジクリープを軽減する技術が報告されている。確かにこの技術によって、エッジクリープが軽減される可能性はあるものの、端部近傍を未塗装又は下塗り塗装のみとすることにより、端部近傍の耐食性が劣り、長期間腐食環境の厳しい屋外、例えば、海岸地域で使用した場合には、結果として端部からの赤錆を早い段階で生じてしまう問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平2004-130695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下地めっき鋼板として55%Al-Znめっき鋼板を使用した条件で、膜厚が200μm程度と厚いラミネート塗装鋼板と20μm程度と薄いカラー鋼板の腐食挙動を、屋外暴露試験や各種腐食促進試験で比較検討した。
【0008】
その結果、カラー鋼板の場合は、切断端面部に露出しためっき面がクロライドイオン等の電解質を含有する水膜で覆われると、めっき層内のZnリッチ層とAlリッチ層がカップルしてZnリッチ層の選択的な腐食が起こり、切断端面部から内側へ深く腐食が進行すること、しかし、数年経過するとAlの腐食生成物が塗膜下に密に堆積して腐食の進行が止まることが判った。
【0009】
一方、ラミネート鋼板の場合は、カラー鋼板と同様に切断端面部に露出しためっき面がクロライドイオン等の電解質を含有する水膜で覆われると、めっき層内のZnリッチ層とAlリッチ層がカップルしてZnリッチ層の選択的な腐食が始まる。先に述べたカラー鋼板ではこの選択的な腐食は数年で止まるが、ラミネート鋼板の場合には止まることなく内部へ進行し続ける。その結果、非常に大きなエッジクリープとなる。
【0010】
以上述べたカラー鋼板とラミネート鋼板の腐食挙動の違いは、塗装の膜厚が大きく影響していることが判明した。
【0011】
膜厚の薄いカラー鋼板では、雨で切断端面部が濡れ、塗膜下で腐食が進行しても、ある距離まで内部に進行すると、それ以降、切断端面部から供給された水分が腐食の先端に到達するまでに、太陽光により加熱されて塗膜の表面から抜けてしまう。又は、到達したとしても、長期間腐食の先端部を濡れ環境にすることなく、塗膜の表面から抜けてしまう。このような濡れ乾きの繰り返しの結果、Alを主体とした安定な腐食生成物が形成されるものと考えられる。
【0012】
一方、膜厚の厚いラミネート鋼板では、太陽光によって加熱されても、切断端面部から進入した水分が塗膜から抜けきることができず、その結果として塗膜下の濡れ時間が長く保持され、最終的には腐食の先端にまで水分が到達し、Znリッチ層とAlリッチ層のカップル反応が継続して起こり、大きなエッジクリープを生む結果となっているものと考えられる。
【0013】
つまり、膜厚が厚い条件で、有機被覆55%Al-Znめっき鋼板でエッジクリープが非常に大きいのは、長い時間に渡って電解質を含む水分が塗膜下に存在し、この水分がZnリッチ層とAlリッチ層のカップル反応を継続的に引き起こすからであるものと考えられる。いわば塩水噴霧試験に近い環境が塗膜下に形成され、腐食反応を継続させる結果となっているものと考えられる。
【0014】
以上の知見を元に、本発明者らは、様々な下地めっき組成の条件で有機被覆鋼板を作製し、有機被覆下に長期間に渡って電解質を含有する水分が存在しても、めっき層の腐食が抑制される有機被覆鋼板の研究開発を行った。
【0015】
その結果、JIS Z 2371に記載されている塩水噴霧試験で評価した結果が、屋外での有機被覆鋼板のエッジクリープ挙動とよく対応すること、塩水噴霧環境で塗膜下に形成される腐食生成物の組成が耐食性に大きな影響を与えること、を見出した。さらに検討を進めた結果、腐食生成物として、Zn、Al、Mgを少なくとも含有するものが耐食性に優れること、塩水噴霧試験により生じた腐食生成物中のZn、Al、Mgの質量比が特定の範囲にある条件で、実際の屋外環境で健全なめっきの腐食が抑制され、エッジクリープの進行速度が遅くなることを見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明の趣旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 少なくともAlとMgを含有するZn系めっき層を有する鋼板に有機被覆層を有する有機被覆鋼板であって、該有機被覆鋼板に、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を行った場合、該有機被覆鋼板の切断端面部又は有機被覆表面の一方又は両方に、Mg、Al、Znを少なくもと含有する腐食生成物を生じ、かつ、該腐食生成物中のZnとAl及びZnとMgの質量比がそれぞれ
3≦Zn/Al≦15
10≦Zn/Mg≦30
であることを特徴とする耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
(2) 前記腐食生成物中に、さらにSiを含有し、該腐食生成物中のMgとSiの質量比が
3≦Mg/Si≦20
である請求項1記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
(3) 前記Zn系めっき層の組成が、Mg:1〜10質量%、Al:2〜19質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物である(1)又は(2)に記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
(4) 前記Zn系めっき層の組成が、Mg:1〜10質量%、Al:2〜19質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物である(1)又は(2)に記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
(5) 前記有機被覆層の厚さが、25μm以上2mm以下である(1)記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機被覆鋼板は、切断端面部からのエッジクリープと呼ばれる腐食による塗膜膨れが起こり難い特長を持ち、建材、家電用として好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の有機被覆鋼板は、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を120時間〜500時間行った後、有機被覆鋼板の切断端面部又は有機被覆表面にMgとAlとZnとを少なくとも含有する腐食生成物が生ずる特徴を持ち、かつ腐食生成物中のZnとAlの質量の比が、
3≦Zn/Al≦15
からなる関係を満たし、さらに腐食生成物中のZnとMgの質量の比が、
10≦Zn/Mg≦30
を満たすことを特徴とするものである。
【0019】
有機被覆下の腐食生成物として、Znのみが存在する条件では、残存する健全なめっき層を腐食から守る、いわゆる腐食生成物の保護性が弱く、エッジクリープが大きく進展するのに対して、Znに加えて、AlとMgが存在すると、腐食生成物の保護性が高まり、エッジクリープの進展が抑制されることを見出した。AlとMgが存在する条件でのエッジクリープの抑制効果は、膜厚が厚い条件で最も良好に発揮された。一方、腐食生成物中にZnとAlのみが存在する場合や、ZnとMgのみが存在する場合はエッジクリープの軽減効果は軽微であった。
【0020】
本発明の有機被覆鋼板で生成する腐食生成物は、塩水噴霧試験を数時間行っただけでも形成される場合もあるし、めっきの種類や付着量によっては2000時間超行っても本発明の腐食生成物が存在し続ける場合もあるので、塩水噴霧試験の時間は特に限定するものではないが、好ましくは120時間〜500時間である。下限を120時間としたのは、一般に分析可能な十分な量の腐食生成物を採取することができるからであり、一方、上限を500時間以下としたのは、500時間超ではめっきの種類や付着量によっては赤錆を含むケースも出てくるため、分析の容易さを考慮して決定した。
【0021】
腐食生成物中のZn/Alの質量比を3以上15以下としたのは、3未満では、Alの存在量が多過ぎるため、めっき層内でのZnリッチ層とAlリッチ層のカップル反応を抑制することができず、両者のカップル反応により大きなエッジクリープを生じるようになるからであり、15超では、腐食生成物中にAlが存在することによる保護性向上効果が不十分で、エッジクリープがZn単独の場合とほとんど変わらないからである。より好ましいZn/Alの質量比は、3以上10以下である。
【0022】
腐食生成物中のZn/Mgの質量比を10以上30以下としたのは、10未満では、厳しい加工時に加工部から割れが生じて、その部分からエッジクリープ類似の塗膜下腐食が進行するからであり、30超では、Mgが含有されることによる保護性の向上効果が不十分で、エッジクリープがZn単独の場合とほとんど変わらないからからである。より好ましいZn/Mgの質量比は、15以上20以下である。
【0023】
本発明の有機被覆鋼板は、上記腐食生成物に加えて、Siを含有することによって、さらに耐エッジクリープ性が向上することを見出した。この時の腐食生成物中のMgとSiの質量比は3≦Mg/Si≦20であることが好ましい。腐食生成物中のZn/Siの質量比を3以上20以下としたのは、3未満、20超いずれの条件でも、厳しい加工時に加工部から割れが生じて、その部分からエッジクリープ類似の塗膜下腐食が進行する可能性が高くなるからである。より好ましいMg/Siの質量比は3以上15以下である。
【0024】
本発明の有機被覆鋼板での下地めっき鋼板のめっきの組成は、特に限定するものではなく、めっき中にZn、Al、Mg及び必要に応じてSiを含有すればよい。本発明の有機被覆鋼板での腐食生成物中の元素比、Zn/Al比、Zn/Mg比、Mg/Si比を満たすためには、有機被覆鋼板の下地めっきとして、Mg:1〜10質量%、Al:2〜19質量%、必要に応じてSi:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を用いるのが好適である。この組成範囲のめっき組成の場合、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験で、腐食生成物として本発明の範囲のZn/Al、Zn/Mg、Mg/Siを含有するものが形成され易く、耐エッジクリープ性の向上が見られる。
【0025】
本発明の有機被覆層の厚さは、25μm以上2mm以下が好ましい。厚さを25μm以上2mm以下と限定したのは、膜厚が25μm未満では、本発明の腐食生成物による耐エッジクリープ性の向上効果が明確ではなく、2mm超では厳しい加工時に塗膜の割れが生じて、その部分からエッジクリープ類似の塗膜下腐食が進行する恐れがあるからである。
【0026】
本発明の有機被覆鋼板に使用する有機被覆の樹脂は、特に限定するものではなく、ふっ素樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、アクリル樹脂系、ポリ塩化ビニル樹脂系、ポリエチレンテレフタレート樹脂系、ポリエステル樹脂系、シリコンポリエステル樹脂系等が挙げられる。これらの樹脂は、いわゆる塗料として塗装しても良いし、フィルムとしてラミネート塗装しても良いし、熱可塑性樹脂の場合は、例えば、ペレットの状態からTダイ法等によりラミネート塗装しても良い。
【0027】
特に好適な有機被覆法は、ラミネート塗装である。これは、一般にラミネート塗装は、膜厚が厚く、水分が抜け難いため、本発明の範囲の腐食生成物を生成する条件での耐食性向上効果が顕著になる。
【0028】
本発明の有機被覆の樹脂は、着色顔料や染料によって着色してもよい。着色顔料や染料は特に限定するものではない。顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず、公知のものを使用することができ、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー等のシアニン系顔料、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料、等が例示できる。この他に、金属片・粉末、パール顔料、マイカ顔料等の光輝性顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等の染料等が挙げられる。顔料濃度は、特に限定されず、必要な色や隠蔽力によって決定すれば良い。
【0029】
さらに、着色顔料や染料以外にも、通常添加されているものであれば問題なく添加できる。例えば、炭酸カルシウム、タルク、石膏、クレー等の体質顔料、その他の有機架橋微粒子及び/又は無機微粒子等である。また、必要に応じて、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤等を用いることができる。
【0030】
本発明の有機被覆鋼板の耐食性を向上させる目的で、本発明の有機被覆鋼板の有機被覆中に、防錆顔料を添加してもよい。防錆顔料としては、公知のものが適用でき、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、等のモリブデン酸系防錆顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、カルシウムイオン交換シリカ等のイオン交換性シリカ系顔料、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料、水分散シリカ、ヒュームドシリカ、等の微粒シリカ、フェロシリコン等のフェロアロイ、等を用いることができる。これらは単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0031】
本発明の有機被覆にニッケルフィラー等を添加して導電性を付与しても良い。
【0032】
本発明の有機被覆鋼板の塗装方法は、特に限定するものではなく、用いる有機被覆に適した公知の方法をそのまま適用することができる。
【0033】
本発明の有機被覆鋼板の製造に当たっては、鋼板の前処理としては、水洗、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研削、研磨等があり、必要に応じてこれらを単独もしくは組み合わせて行うと良い。前処理の条件は適宜選択すれば良い。
【0034】
鋼板の上には、必要に応じて化成処理を施しても良い。化成処理は、有機被覆と下地鋼板の密着性をより強固なものとするために処理される。化成処理としては、公知の技術が使用でき、例えば、ニッケル複合酸化被膜処理、コバルト複合酸化被膜処理、リン酸亜鉛処理、クロメート処理、シランカップリング処理、複合酸化被膜処理、ノンクロメート処理、タンニン酸系処理、チタニア系処理、ジルコニア系処理、これらの混合処理等が挙げられる。
【0035】
有機被覆としてラミネートを用いる場合は、化成処理後に接着剤を塗布してラミネートフィルムを鋼板に貼り付けるが、この接着剤の種類も特に限定するものではなく、例えば、エポキシ系接着剤、ポリエステル系接着剤、ウレタン系接着剤のように、通常使用されている接着剤を使用することができる。接着に当たり、コロナ放電処理を併用しても良い。
【0036】
本発明の有機被覆鋼板は、少なくとも片面に有機被覆を施す。本発明の有機被覆は、複層としても良い。例えば、下地に塩化ビニルフィルム、上層にポリエチレンテレフタレートフィルムとして、加工性と鮮映性を両立させることもできるし、下層に防錆顔料を入れたプライマー塗装、上層に着色顔料を入れたトップ塗装として、耐食性と衣装性を両立させることもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0038】
鋼板としては、表1及び表2に示す各種組成のめっき鋼板を作製し使用した。板厚は0.6mmとした。この鋼板に対して、アルカリ脱脂処理と複合酸化皮膜処理を施し、エポキシ系の接着剤で厚さ200μm塩化ビニル樹脂フィルムを貼り付けたラミネート鋼板と、鋼板に対してアルカリ脱脂処理とクロメート処理を施し、防錆顔料を含むエポキシ系の塗装を5μm、その上に青に着色したポリエステル系の塗装を15μm、さらにその上に、ポリエステル系のクリヤー塗装を10μm塗装したカラー鋼板を用いた。なお、ラミネート鋼板とカラー鋼板共に、裏面は防錆顔料を含有するエポキシ系の塗装を5μmの厚さで施した。
【0039】
このようにして作製した有機被覆鋼板を70mm×150mmのサイズに切断し、切断端面部を開放状態としたものを基本サンプルとした。さらに、この基本サンプルの表面にカッターナイフを使用して、めっきに到達するクロスカットを入れた後、その部分をエリクセン試験機で5mm押し出した加工サンプルも作製した。
【0040】
基本サンプルは、JIS Z 2371に準拠した5%NaCl水溶液を連続噴霧する塩水噴霧試験(240時間)を行い、加工サンプルは、JIS Z 2381に準拠した屋外暴露試験(南面30°、千葉県富津市、3年間)を行った。
【0041】
塩水噴霧試験のサンプルは、試験後に端面部から腐食生成物を削り取り、腐食生成物を塩酸に溶解した後、ICP発光分光分析法で、Zn、Al、Mg、Siを定量分析し、Zn/Al、Zn/Mg、Mg/Si値を算出した。
【0042】
一方、屋外暴露試験後のサンプルは、腐食生成物の定量分析は行わず、腐食評価のみを実施した。腐食評価は、上ばり切断端面部とクロスカット部からの最大膨れ幅で行った。膨れ幅の評価は、下記基準により評点3以上を合格とし、切断端面部とクロスカット部の両方が合格したものを合格とした。
【0043】
最大膨れ幅 耐食性の評点
0mm 5
0mm超〜1mm 4
1mm未満〜3mm 3
3mm未満〜5mm 2
5mm超 1
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1と表2に屋外暴露試験の結果を示す。これらの表より、塩水噴霧試験で腐食生成物中のZn、Al、Mg、Siが、本発明の範囲のZn/Al、Zn/Mg、Mg/Si値を持つ条件で、耐食性に優れ、小さな膨れ幅であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともAlとMgを含有するZn系めっき層を有する鋼板に有機被覆層を有する有機被覆鋼板であって、該有機被覆鋼板に、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験を行った場合、該有機被覆鋼板の切断端面部又は有機被覆表面の一方又は両方に、Mg、Al、Znを少なくとも含有する腐食生成物を生じ、かつ、該腐食生成物中のZnとAl及びZnとMgの質量比がそれぞれ
3≦Zn/Al≦15
10≦Zn/Mg≦30
であることを特徴とする耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
【請求項2】
前記腐食生成物中に、さらにSiを含有し、該腐食生成物中のMgとSiの質量比が
3≦Mg/Si≦20
である請求項1記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
【請求項3】
前記Zn系めっき層の組成が、Mg:1〜10質量%、Al:2〜19質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物である請求項1又は2に記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
【請求項4】
前記Zn系めっき層の組成が、Mg:1〜10質量%、Al:2〜19質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物である請求項1又は2に記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。
【請求項5】
前記有機被覆層の厚さが、25μm以上2mm以下である請求項1記載の耐エッジクリープ性に優れた有機被覆鋼板。

【公開番号】特開2006−159435(P2006−159435A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349850(P2004−349850)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】