説明

耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体

【課題】 10ppm以上の高濃度オゾン水及び湿潤状態の高濃度オゾンガスに対しても優れた耐性を有する、耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体を提供する。
【解決手段】 未架橋ふっ素系エラストマー、好ましくはふっ素系熱可塑性エラストマーを、電離性放射線によって架橋してなることを特徴とする耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高濃度のオゾンガス、及びオゾンガスを高濃度に溶解させた水(以下「オゾン水」)を利用する設備及び装置に使用される部材に適した耐オゾン性エラストマー成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ゴム製品のクラック発生の主要因は、オゾン、日光、屈曲疲労であるといわれており、耐オゾン性はゴム材料にとって最も重要な特性の一つである。オゾンによるゴムの劣化は、ポリマー主鎖に不飽和結合を持つゴムの場合、不飽和結合へのオゾンの親電子性攻撃により分子切断が起こるためであることが知られている。そのため、ジエン系ゴムは一般的に耐オゾン性が悪く、大気中の0〜0.05ppm程度のオゾン濃度であってもクラック発生が起こる。
【0003】一方、耐オゾン性が優れるゴムとしては、主鎖に不飽和結合を持たないEPDM、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が知られており、大気中の10倍の濃度で行われるオゾン劣化試験においても優れた耐性を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】最近、オゾンは強力な酸化作用を有していることから、浄水処理、脱臭処理、殺菌処理など様々な分野に利用される様になってきている。また、半導体産業においても、高濃度のオゾンガスあるいはオゾン水を利用した洗浄装置やアッシング装置が利用されている。しかし、これらの設備及び装置では、1ppm以上の高濃度のオゾンが利用されることが多く、このような条件下では、前述のような不飽和結合を持たないゴムであっても短期間に劣化が生じてしまう。
【0005】これに対し、例えば特開平8−151450号公報には、10重量%以上の高濃度のオゾンに対しては有機過酸化物によって架橋したふっ素ゴム製の成形体が好適であると記載されている。ところが、このような過酸化物架橋ふっ素ゴムを、10重量%オゾン+飽和水蒸気の条件下に放置すると、300時間程度で成形体表面がべとつき、粘着性を帯びた状態となることが判明した。
【0006】また、水に溶解したオゾンは、自己分解の際にオゾンよりも酸化力の強いOHラジカルを生成することが知られている。従って、オゾン水や湿潤状態のオゾンガス雰囲気下では、オゾンよりもOHラジカルが劣化反応に関与し、詳細な反応機構は明らかではないが、乾燥状態とは異なった劣化反応が起こる可能性があり、より高い耐オゾン性が要求される。
【0007】本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、10ppm以上の高濃度オゾン水及び湿潤状態の高濃度オゾンガスに対しても優れた耐性を有する、耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明者らは、ふっ素系エラストマーについてさらに鋭意研究したところ、電離性放射線照射による架橋を施してなるふっ素系エラストマーが、10ppm以上の高濃度オゾン水あるいは湿潤状態の高濃度オゾンガスに長時間暴露しても劣化が少なく、優れた耐オゾン性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち、上記目的を達成するために、本発明は、未架橋ふっ素系エラストマーを電離性放射線によって架橋してなることを特徴とする耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体を提供する。
【0010】また、本発明は、上記未架橋ふっ素系エラストマーが、ふっ素系熱可塑性エラストマーであることを特徴とした耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明にかかる耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体について具体的に説明する。
【0012】本発明にかかる耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体は、未架橋ふっ素系エラストマーを、電離性放射線によって架橋して形成されている。
【0013】好適な未架橋ふっ素系エラストマーとしては、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフロロエチレン/パーフロロメチルビニルエーテル系共重合体、エチレン/テトラフロロエチレン/パーフロロメチルビニルエーテル系共重合体、テトラフロロエチレン/パーフロロメチルビニルエーテル系共重合体、ふっ素系熱可塑性エラストマー、フロロシリコーン系ゴム、フロロフォスファゼン系ゴム、ヘキサフロロプロピレンオキシドの単独重合体、含ふっ素ニトロソ系ゴム、含ふっ素トリアジン系ゴム等が挙げられる。中でも、ふっ素系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0014】前述のふっ素系熱可塑性エラストマーは、少なくとも1種のエラストマー性ポリマー鎖セグメント及び少なくとも1種の非エラストマー性ポリマー鎖セグメントを含み、これらの内少なくとも一方は含ふっ素ポリマー鎖セグメントである。エラストマー性ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性ポリマー鎖セグメントとの比率は、重量比で40〜95:60〜5であることが望ましい。このふっ素系熱可塑性エラストマーの具体的構造は、上記のエラストマー性ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性ポリマー鎖セグメントからなる連鎖と、この連鎖の一端に存在するヨウ素原子と、該連鎖の他端に存在するアイオダイド化合物から少なくとも1個のヨウ素原子を除いた残基とからなっている。エラストマー性ポリマー鎖セグメントは、(1)フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン(モル比40〜90:5〜50:0〜35)の共重合体、あるいは(2)パーフロロアルキルビニルエーテル/テトラフロロエチレン/フッ化ビニリデン(モル比15〜75:0〜85:0〜85)の共重合体であって、分子量は30,000〜1,200,000である。また非エラストマー性ポリマー鎖セグメントは、(3)フッ化ビニリデン/テトラフロロエチレン(モル比0〜100:0〜100)の共重合体、あるいは(4)エチレン/テトラフロロエチレン/ヘキサフロロプロピレン、3,3,3-トリフロロプロピレン-1,2-トリフロロメチル-3,3,3-トリフロロプロピレン-1またはパーフロロアルキルビニルエーテル(モル比40〜60:60〜40:0〜30)の共重合体であって、分子量は3,000〜400,000である。このふっ素系熱可塑性エラストマーとしては、例えばダイキン工業製「ダイエルサーモプラスチック」が挙げられる。
【0015】本発明において架橋手段に用いる電離性放射線として、例えばX線、ガンマ線、電子線、陽子線、重陽子線、アルファ線、ベータ線等を単独または組み合わせて用いることができる。好ましくは、ガンマ線、電子線である。
【0016】電離性放射線の照射量は、未架橋ふっ素系エラストマーの厚さ方向全体にわたり浸透するのに充分なエネルギー量である。照射線量が不足すると、架橋不足となり、成形体に十分な機械的強度や圧縮永久歪等の諸特性を付与できなくなり、照射線量が過大になると、未架橋ふっ素系エラストマーの崩壊反応が進行して分子間結合が一部切断され、得られる成形体の機械的強度が低下する。例えば、一般的な用途であるシール材とする場合には、ガンマ線を総量で(以下、照射線量については総量で示す)10〜500kGy程度照射すればほぼ十分な架橋を施すことができる。
【0017】また、本発明の耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体においては、有機過酸化物もしくは有機過酸化物と共架橋剤を用いて予備架橋することによって予備成形体を得、さらに電離性放射線により架橋を施して成形体とすることもできる。特に、Oリングやガスケット等の型物製品で、熱プレス成型機及び金型を用いて加熱圧縮して予備成形体を得るとき、未架橋状態では離型後に形状を保持することが困難な場合に有効である。
【0018】この時用いられる有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0019】共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリレート、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられ、その他アクリレート系、メタクリレート系モノマー等も用いることができる。
【0020】また、必要により受酸剤を配合してもよい。受酸剤としては、二価金属の酸化物、水酸化物またはこれらの二価金属化合物と弱酸金属塩との混合物が挙げられる。二価金属としては、具体的にはマグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛等が挙げられる。これらの金属は、酸化物、または水酸化物として、あるいはこれら金属化合物とステアリン酸、安息香酸、炭酸、シュウ酸、亜リン酸等のような弱酸の金属塩との混合物として用いられる。
【0021】本発明の耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体には、所望により充填剤を配合することもできる。具体的にはカーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の無機系充填剤が挙げられる。また、有機系充填剤としてポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。また、複数の充填剤を併用することも可能である。
【0022】また、所望により繊維も配合することができる。例として、石綿、ガラス繊維、アルミナ繊維、ロックウール等の無機繊維、綿、羊毛、絹、麻、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、フェノール−ホルムアルデヒド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、テトラフルオロエチレン繊維等の有機繊維が挙げられるが、これらに限定されない。また、複数の繊維を併用することも可能である。
【0023】更に、通常ゴム配合剤として用いられるような成分、例えば、軟化剤、内部離型剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、着色剤等を適宣用いても良い。
【0024】本発明の耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体を製造するには、原料の未架橋ふっ素系エラストマーあるいは上記添加物を配合した組成物を圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形等の通常の成形方法で成形し、成形体に電離性放射線を照射すればよい。
【0025】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0026】(実施例1〜2、比較例1〜5)
・サンプルの調製は以下の方法で行った。実施例では、ふっ素系熱可塑性エラストマーのペレットを、融点付近の温度に加熱した金型を用いて圧縮成形により所定形状に成形し、金型を冷却した後取り出して成形体を得た。次に、実施例1では、得られた成形体をステンレス製の容器に入れ、容器内を窒素置換した後、80kGyのγ線を照射して架橋を施して試験片を得た。また、実施例2では、得られた成形体を大気中で30kGyの電子線を照射して架橋を施して試験片を得た。
【0027】これに対し、比較例1〜5では、表1に記載の配合に従い、二本ロールを用いてゴムと配合剤を混練りした後、熱プレスで所定の温度にて所定時間架橋させ、さらにギアーオーブンで所定温度にて所定時間二次架橋を施して試験片を得た。
【0028】実施例及び比較例の配合を表1に示す。使用した原料は以下の通りである。
ふっ素系熱可塑性エラストマー:ダイキン工業製「ダイエルサーモプラスチックT-530」
ふっ素ゴム■:ダイキン工業製「ダイエルG901」(フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体)
ふっ素ゴム■:デュポン製「バイトンETP900」(エチレン/テトラフロロエチレン/パーフロロメチルビニルエーテル系共重合体)
ふっ素ゴム■:旭硝子製「アフラス100H」(テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体)
ふっ素ゴム■:ダイキン工業製「ダイエルG501」(フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体)
過酸化物架橋剤:日本油脂製「パーヘキサ25B」(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン共架橋剤:日本化成製「TAIC」(トリアリルイソシアヌレート)
ポリオール架橋剤:デュポン製「キュラティブ30」(50wt%ビスフェノールAF−ふっ素ゴムマスターバッチ)
ホスホニウム系架橋促進剤:デュポン製「キュラティブ20」(33wt%有機ホスホニウム塩−ふっ素ゴムマスターバッチ)
ポリアミン架橋剤:デュポン製「Diak.No.3」(N,N-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン)
酸化マグネシウム:協和化学工業製「キョーワマグ150」
水酸化カルシウム:協和化学工業製「カルディック2000」
【0029】
【表1】


【0030】上記の各試験片を用いてオゾン暴露試験を行い、その結果を表2に示す。各試験項目は以下の方法で行った。
・オゾン暴露試験:室温にて、オゾン濃度10wt%+飽和水蒸気の雰囲気下に21日間暴露試験を行った。
・硬さ変化(ΔHs):JIS K 6301に準拠した。
・重量変化率:オゾン暴露前後の重量から、重量変化率を算出した。
・外観変化:目視観察により調べた。
・粘着:手で触れて粘着性を調べた。
【0031】
【表2】


【0032】表2より、実施例の試験片は、湿潤状態の高濃度オゾンガス暴露に対しても硬さ変化、重量変化、外観変化、粘着が全くなく、優れた耐オゾン性を有することがわかる。これに対して比較例1〜3の試験片は、硬度変化や重量変化はほとんどないが、ゴム表面の漂白による脱色、若干の粘着がみられた。また、比較例4,5の試験片は、表面のゴム成分が溶解したような粘着成分の生成が著しく、重量減少も大きい。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体は、10ppm以上の高濃度オゾン水あるいは10wt%以上の湿潤オゾンガスに対しても優れた耐性を有する。従って、本発明に係る耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体は、種々のオゾン処理プロセス、例えばオゾン水を利用した半導体洗浄装置あるいはアッシング装置、その他浄水処理設備、廃水処理設備、脱臭処理設備に用いられているゴム材料のうち、オゾン劣化が問題となっている箇所に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 未架橋ふっ素系エラストマーを、電離性放射線によって架橋してなることを特徴とする耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体。
【請求項2】 前記未架橋ふっ素系エラストマーが、ふっ素系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の耐オゾン性ふっ素系エラストマー成形体。

【公開番号】特開2002−167454(P2002−167454A)
【公開日】平成14年6月11日(2002.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−363156(P2000−363156)
【出願日】平成12年11月29日(2000.11.29)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】