説明

耐オレイン酸性に優れた天然皮革製品

【課題】
天然皮革特有の柔らかな風合いを損なうことなく、優れた耐オレイン酸性を有する天然皮革製品を提供する。
【解決手段】
天然皮革基材の表面に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が20%以下であるベースコート層、および、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が16%以下であるトップコート層が順次積層されてなることを特徴とする天然皮革製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然皮革製品に関する。詳しくは、天然皮革特有の柔らかな風合いと、優れた耐オレイン酸性とを有する天然皮革製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然皮革製品は、通常、鞣処理などが施された天然皮革基材の表面に、ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂とからなるベースコート層、および、ポリウレタン樹脂からなるトップコート層が、順次積層された構造を有する。ここで、ベースコート層とは、天然皮革基材の表面に位置する銀面層を被覆し、傷などを隠すとともに、トップコート層との密着性を向上させることを主目的として形成される最下層の樹脂層である。また、トップコート層とは、色や光沢、風合い、触感などを調整するとともに、耐摩耗性を向上させることを主目的として形成される最上層(最表層)の樹脂層である。さらに、必要に応じて、ベースコート層とトップコート層との間にミドルコート層が形成されることもある。
【0003】
かかる天然皮革製品は、その特有の柔らかな風合いと高級感から、衣料、鞄、靴、インテリア素材、車両内装材など、様々な分野で用いられている。このうち、車両内装材は、過酷な使用状況に置かれることから、高度な耐久性が求められる。なかでも、人体に直接触れる機会の多いカーシート表皮材などの場合、人体から分泌される皮脂に対する耐久性、特には、皮脂の主成分であるオレイン酸に対する耐久性が強く求められている。
【0004】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が耐オレイン酸性に優れることは公知であり、合成皮革やスプリットレザーなどに応用されている。例えば、特許文献1には、繊維基材表面にポリウレタン樹脂接着層を介してポリウレタン樹脂表皮層が積層されてなる合成皮革において、表皮層を形成するポリウレタン樹脂としてシリコーン変性無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることにより、車両内装材に求められる耐オレイン酸性を満足できることが記載されている。また、特許文献2には、天然皮革基材、典型的には、銀面層を分離した残りの部分である床革の表面に、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を主体とする樹脂からなる接着剤層を介して、無黄変型ポリカーボネート系ウレタン樹脂を主体とする樹脂からなる表皮層を積層してなる皮革様シート、いわゆるスプリットレザーが、車両内装材に求められる耐オレイン酸性を満足できることが記載されている。
【0005】
しかしながら、天然皮革製品(なお、ここでいう天然皮革製品の基材としては、銀面層を有する天然皮革が用いられる)のベースコート層やトップコート層、特には、比較的厚みのあるベースコート層にポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いた場合、耐オレイン酸性は良好であるものの、風合いが粗硬になるという問題があった。天然皮革特有の柔らかな風合いと、優れた耐オレイン酸性とを有する天然皮革製品は未だ得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−31862号公報
【特許文献2】特開平7−150479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、天然皮革特有の柔らかな風合いを損なうことなく、優れた耐オレイン酸性を有する天然皮革製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然皮革基材の表面に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が20%以下であるベースコート層、および、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が16%以下であるトップコート層が順次積層されてなることを特徴とする天然皮革製品である。
前記天然皮革製品において、ベースコート層を構成するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂との配合比(固形分重量基準)は、100:5〜44:75〜132であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然皮革特有の柔らかな風合いを損なうことなく、優れた耐オレイン酸性を有する天然皮革製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の天然皮革製品は、天然皮革基材の表面に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が20%以下であるベースコート層、および、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が16%以下であるトップコート層が順次積層されてなるものである。
【0011】
トップコート層に比べ厚みが大きく、風合いへの影響が大きなベースコート層を、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂単独ではなく、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂とを組み合わせて形成することにより、天然皮革特有の柔らかな風合いを大きく損なうことがなく、車両内装材、特には、車両内装表皮材に求められる風合いを満足することができる。また、ベースコート層のオレイン酸による膨潤率を20%以下とすることにより、車両内装材、特には、車両内装表皮材に求められる耐オレイン酸性を満足することができる。そして、このベースコート層の表面に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が16%以下であるトップコート層を積層することにより、車両内装材、特には、車両内装表皮材に求められる風合いと耐オレイン酸性とを満足しつつ、その他の物性、例えば、耐摩耗性を向上させることができるのである。
【0012】
本発明に用いられる天然皮革基材の種類としては、牛、馬、豚、山羊、羊、鹿、カンガルーなどの哺乳類革、ダチョウなどの鳥類革、ウミガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ワニなどの爬虫類革など従来公知の天然皮革を挙げることができる。なかでも、汎用性が高く面積が大きい牛革が好ましい。
【0013】
前記天然皮革の原皮は、通常、水漬け、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、垢出し、再石灰漬け、脱灰・酵解、浸酸、クロム鞣、中和、染色・加脂、水絞り・伸ばし、乾燥、味入れ、ステーキング、張り乾燥の各工程を経ることにより、クラストと称される半製品状態の皮革となる。次いで、得られた半製品状態の皮革の銀面層表面に銀むき(バフ加工)を施す。銀むきは、銀面層の表面を削り取ることで皮革表面を滑らかにし、個体差や部位差、虫食い、引っ掻き傷など、外観品位に影響を及ぼす要素を取り除き、均一化するために行われる。
【0014】
本発明の天然皮革製品は、前記天然皮革基材の表面、すなわち、銀面層側に、第1の樹脂層として、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなるベースコート層が積層されたものである。耐オレイン酸性に優れたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を一部に用いることにより、天然皮革製品に耐オレイン酸性を付与することができる。また、風合いに優れたポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂を一部に用いることにより、天然皮革特有の柔らかな風合いを損なうことなく、天然皮革に酷似した風合いを再現することができる。
【0015】
ベースコート層の形成に用いられるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、ポリカーボネートジオール成分とジイソシアネート成分とを反応させて得られるものである。
ポリカーボネートジオール成分としては、例えば、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリブチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリアルキレンポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
また、ジイソシアネート成分としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は市販の一液型樹脂を用いることができる。一液型樹脂は、通常、水に乳化分散(エマルジョンタイプ)または有機溶剤に溶解させた形で市販されているが、環境負荷の観点から、エマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0017】
ベースコート層の形成に用いられるポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルジオール成分とジイソシアネート成分を反応させて得られるものである。ポリエーテルジオール成分としては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、ジイソシアネート成分としては、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂のジイソシアネート成分と同様の成分を挙げることができる。
【0018】
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂は市販の一液型樹脂を用いることができ、環境負荷の観点からエマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0019】
ベースコート層の形成に用いられるアクリル樹脂は、アクリル酸エステル(アクリレート)あるいはメタクリル酸エステル(メタクリレート)の重合体であり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体を挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
アクリル樹脂は市販のものを用いることができ、環境負荷の観点からエマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0021】
ここで、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂との配合比(固形分重量基準)は、100:5〜44:75〜132であることが好ましく、100:12〜30:87〜115であることがより好ましい。配合比をこの範囲に設定することにより、天然皮革特有の柔らかな風合いと、優れた耐オレイン酸性とを天然皮革製品に付与することができる。
【0022】
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂の配合比が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100重量部に対し5重量部未満であると、風合いが粗硬になる虞がある。ポリエーテル系ポリウレタン樹脂の配合比が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100重量部に対し44重量部を超えると、十分な耐オレイン酸性が得られない虞がある。
アクリル樹脂の配合比が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100重量部に対し75重量部未満であると、風合いが粗硬になる虞がある。また、天然皮革製品はエンボス加工が施されることがあるが、その場合に、エンボス性が損なわれる虞がある。アクリル樹脂の配合比が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂100重量部に対し132重量部を超えると、トップコート層との密着性が損なわれたり、ベースコート層が黄変したりする虞がある。
【0023】
ベースコート層を構成する樹脂組成物、すなわち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる組成物は、必要に応じて、ベースコート層の物性を損なわない範囲内で、他の樹脂成分を含んでいても構わない。また、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、架橋剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤などの各種添加剤を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
ベースコート層の厚さは、15〜60μmであることが好ましく、24〜36μmであることがより好ましい。厚さが15μm未満であると、十分な耐摩耗性が得られない虞がある。厚さが60μmを超えると、風合いが粗硬になる虞がある。このとき、樹脂液のドライ塗布量(単位面積当たりの固形分重量)は、通常、15〜60g/mであり、より好ましくは24〜36g/mである。
【0025】
ベースコート層のオレイン酸による膨潤率は、20%以下であることが求められ、さらには、18%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。オレイン酸による膨潤率が20%を超えると、十分な耐オレイン酸性が得られない。
【0026】
ここで、ベースコート層のオレイン酸による膨潤率とは、ベースコート層形成用の樹脂液を厚さ約50μmのフィルム状に成形した場合のオレイン酸による膨潤率をいい、具体的には、以下の手順により求めることができる。
【0027】
樹脂液を、フラットな離型紙(商品名「EU130TPC」、リンテック株式会社製)に、アプリケーターを用いて、ドライ塗布量が50g/mとなるように塗布し、80℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理し、フィルムを作製する。次いで、得られたフィルムから5cm四方の大きさの試験片を採取し、ガラスシャーレに入れ、試験片の表面にオレイン酸を10g塗布した後、80℃に調整した乾燥機内に2時間静置して熱処理する。熱処理後の試験片の2辺の長さを測定し、下記式にて膨潤率を算出する。
【0028】
膨潤率(%)=(2辺の長さの平均値−5)/5×100
【0029】
本発明の天然皮革製品は、天然皮革基材の表面に積層された第1の樹脂層であるベースコート層の表面に、さらに、第2の樹脂層として、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるトップコート層が積層されたものである。
【0030】
トップコート層の形成に用いられるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂としては、前記ベースコート層の形成に用いられるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂と同様の樹脂を挙げることができる。
【0031】
トップコート層を構成する樹脂、すなわち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、必要に応じて、トップコート層の物性を損なわない範囲内で、他の樹脂成分を含んでいても構わない。また、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、架橋剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤などの各種添加剤を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
トップコート層の厚さは、6〜27μmであることが好ましく、12〜18μmであることがより好ましい。厚さが6μm未満であると、十分な耐オレイン酸性や耐摩耗性が得られない虞がある。厚さが27μmを超えると、風合いが粗硬になる虞がある。このとき、樹脂液のドライ塗布量は、通常、6〜27g/mであり、より好ましくは12〜18g/mである。
【0033】
トップコート層のオレイン酸による膨潤率は、16%以下であることが求められ、さらには、13%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。オレイン酸による膨潤率が16%を超えると、十分な耐オレイン酸性が得られない。
【0034】
トップコート層のオレイン酸による膨潤率は、ベースコート層のオレイン酸による膨潤率と同様の手順により求めることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明の天然皮革製品は、天然皮革基材と、前記天然皮革基材の表面に形成されたベースコート層と、前記ベースコート層の表面に形成されたトップコート層とを必須の構成部材とするものであるが、必要に応じて、ベースコート層とトップコート層との間に、1層または2層以上のミドルコート層を備えていてもよい。すなわち、本発明においてベースコート層とは、最も下部に位置し、天然皮革基材と接する樹脂層をいい、トップコート層とは、最も上部に位置し、空気と接する樹脂層をいい、ベースコート層とトップコート層との間に位置する樹脂層は、すべてミドルコート層と称するものとする。
【0036】
ミドルコート層の形成に用いられる樹脂は特に限定されないが、耐オレイン酸性を重視する場合にはポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含んでなることが好ましく、風合いを重視する場合には、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂を含んでなることが好ましい。例えば、ベースコート層からトップコート層にかけて、アクリル樹脂の配合比が徐々に減少するような樹脂組成にすると、天然皮革基材とベースコート層との密着性、および、ベースコート層とトップコート層との密着性を向上させることができ、耐久性を向上させることができるという点で好ましい。
【0037】
次に、本発明の天然皮革製品の製造方法について説明する。本発明の天然皮革製品は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0038】
まず、ベースコート層形成用の樹脂液、すなわち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂を少なくとも含んでなる樹脂液を、天然皮革基材の表面に塗布し、熱処理して、ベースコート層を形成する。次いで、トップコート層形成用の樹脂液、すなわち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を少なくとも含んでなる樹脂液を、ベースコート層の表面に塗布し、熱処理して、トップコート層を形成する。
【0039】
ベースコート層形成用の樹脂液を天然皮革基材の表面に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどを用いた方法を挙げることができる。なかでも、均一で薄い皮膜の形成が可能という観点から、リバースロールコーターによる塗布が好ましい。
【0040】
樹脂液の塗布厚あるいはウェット塗布量は、前記ベースコート層の厚さあるいは樹脂液のドライ塗布量に応じて適宜設定すればよい。
【0041】
熱処理は、樹脂液中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。天然皮革基材の過剰な水分蒸発を防ぐため、熱処理は、天然皮革基材自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は90〜130℃であることが好ましく、100〜120℃であることがより好ましい。熱処理温度が90℃未満であると、樹脂の架橋が不十分となって十分な耐摩耗性が得られない虞がある。熱処理温度が130℃を超えると、風合いが粗硬になる虞がある。また、熱処理時間は1〜5分間であることが好ましく、2〜3分間であることがより好ましい。熱処理時間が1分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって十分な耐摩耗性が得られない虞がある。熱処理時間が5分間を超えると、風合いが粗硬になる虞がある。
【0042】
かくして、ベースコート層を形成することができる。
【0043】
次に、トップコート層形成用の樹脂液をベースコート層の表面に塗布する方法であるが、前記ベースコート層形成用の樹脂液を塗布する場合と同様、特に限定されるものではない。なかでも、均一で極めて薄い皮膜の形成が可能という観点から、スプレーコーターによる塗布が好ましい。
【0044】
樹脂液の塗布厚あるいはウェット塗布量は、前記トップコート層の厚さあるいは樹脂液のドライ塗布量に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
熱処理条件は、前記ベースコート層形成用の樹脂液を塗布した後に行う熱処理の場合と同様である。
【0046】
かくして、トップコート層を形成することができ、本発明の天然皮革製品を得ることができる。
【0047】
本発明の天然皮革製品には、必要に応じて、エンボス加工、揉み加工、叩き加工などが施されていても構わない。これらの加工は、通常、ベースコート層を形成した後、トップコート層を形成する前に行われる。
【0048】
エンボス加工とは、凹凸模様が彫刻されたロールを用いて、天然皮革基材/製品の表面に凹凸模様を付与する加工である。天然皮革基材の表面には、本来、シボと呼ばれる凹凸模様が存在しているが、ベースコート層の形成などにより、このシボが消失する場合がある。そこで、消失したシボを再現したり、あるいは、意匠性に富む凹凸模様を付与したりすることを目的に、エンボス加工が行われる。
【0049】
揉み加工とは、天然皮革基材/製品をドラムに投入し、ドラムを回転させることによって、天然皮革基材/製品に柔軟性を付与する加工である。天然皮革基材そのものの風合いが粗硬であったり、あるいは、エンボス加工により粗硬化したりした天然皮革基材/製品の風合いを柔らかくすることを目的に、揉み加工が行われる。
【0050】
叩き加工とは、天然皮革基材/製品に対し垂直に上下振動を行うピンを用いて、天然皮革基材/製品表面の凹凸を伸ばす加工である。揉み加工などにより生じた天然皮革基材/製品表面の凹凸を伸ばして平滑にし、均一なトップコート層を形成することを目的に、叩き加工が行われる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例中の「%」および「部」は重量基準であるものとする。
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0052】
[風合い]
150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、触感計測器(商品名「ST300 Leather Softness Tester」、BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの、歪み測定値(BLC値)を測定し、以下の基準に従って判定した。BLC値が大きいものほど柔らかな風合いであることを意味する。
○:BLC値が3.0以上
△:BLC値が2.5以上3.0未満
×:BLC値が2.5未満
【0053】
[耐オレイン酸性]
幅25cm、長さ25cmの大きさの試験片を採取した。15cm四方の大きさのガーゼ1gにオレイン酸2.5gを浸み込ませたものを、試験片の表面に載せ、室温にて30分間静置した後、ガーゼを取り除き、100℃に調整した乾燥機内に30分間静置して熱処理した。次いで、試験片に付着しているオレイン酸をペーパータオルで拭き取り、摩擦試験機I型(商品名「FI−307 クロックメーター」、テスター産業株式会社製)の試験片台上に固定した。次いで、先端に綿帆布を取り付けた摩擦子に、荷重1320gfを掛けて、試験片の表面50mmの間を毎分50回往復の速度で5000回往復摩耗した。
摩耗後の試験片の状態を目視にて確認し、以下の基準に従って判定した。
○:トップコート層に変化無し
△:トップコート層に膨潤、剥離が僅かに認められる
×:トップコート層に膨潤、剥離が認められる
【0054】
[実施例1]
(1)天然皮革基材の調製
原皮として成牛皮を用い、クロム鞣などの通常の工程を経ることによりクラストを得、次いで、銀むきを行った。なお、染色はベースコート層と同系色になるように行った。
【0055】
(2)ベースコート層の形成
処方A1
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;235部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;50部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;275部
(アクリル樹脂、固形分34%)
4)商品名「EUDERM BLACK BN」;120部
(顔料、固形分23%)
5)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110部
(艶消し剤、固形分25%)
6)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120部
(充填剤、固形分23%)
7)商品名「EUDERM Paste DO」;40部
(充填剤、固形分52%)
8)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
9)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約10部
(増粘剤、固形分20%)
10)水;150部
【0056】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。また、合計量は約1120部である。このうち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂との配合比(固形分重量基準)は、100:19:99である。
処方A1に従い、各原料をミキサーにて混合し、ベースコート層形成用の樹脂液を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が50秒になるように、増粘剤で調整した。
【0057】
(1)で得られた天然皮革基材の表面に、リバースロールコーター(商品名「JUMBOSTAR−SR」、Ge.Ma.Ta.SpA製)を用いて、ベースコート層形成用の樹脂液を、ウェット塗布量が100g/mとなるように塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
形成されたベースコート層の厚さは28.6μm、ドライ塗布量は28.6g/m、別途求めたオレイン酸による膨潤率は10%であった。
【0058】
(3)エンボス加工、揉み加工、叩き加工
(2)で得られた中間製品に対し、エンボス機(商品名「KOMBIPRESS−1800NE」、BERGI ofb s.p.a製)を用いて、ロール温度90℃、圧力150kgf/m、加工速度5m/分の条件で、エンボス加工を行った。
次いで、ミリング機(商品名「N2500×1200TS」、BAGGIO Tecnologie s.r.l製)を用いて、温度20℃、回転数15rpmの条件で、30分間揉み加工を行った。
次いで、ステーキング機(商品名「3H3200A」、CARTIGLIANO S.p.A製)を用いて、加工速度8m/分、打ち込み深度:順に2mm、1.5mm、1mmの条件で、叩き加工を行った。
【0059】
(4)ミドルコート層の形成
処方B1
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;235部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;50部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;275部
(アクリル樹脂、固形分34%)
4)商品名「EUDERM BLACK BN」;120部
(顔料、固形分23%)
5)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110部
(艶消し剤、固形分25%)
6)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120部
(充填剤、固形分23%)
7)商品名「EUDERM Paste DO」;40部
(充填剤、固形分52%)
8)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
9)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約5部
(増粘剤、固形分20%)
10)水;150部
【0060】
処方B1は、増粘剤(商品名「ACRYSOL RM−1020」)の使用量を除き、処方A1と同じであり、合計量は約1115部である。このうち、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂との配合比(固形分重量基準)は、100:19:99である。
処方B1に従い、各原料をミキサーにて混合し、ミドルコート層形成用の樹脂液を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
【0061】
(3)の工程を経た中間製品の表面に、スプレー機(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、ミドルコート層形成用の樹脂液を、ウェット塗布量が25g/mとなるよう塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
形成されたミドルコート層の厚さは7.2μm、ドライ塗布量は7.2g/m、別途求めたオレイン酸による膨潤率は10%であった。
【0062】
(5)トップコート層の形成
処方C1
1)商品名「HYDRHOLAC UD−2」;400部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分25%)
2)商品名「HYDRHOLAC Finish HW−2」;60部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「AQUADERM Finish HAT」;200部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
4)商品名「EUDERM BLACK BN」;10部
(顔料、固形分23%)
5)商品名「Rosilk 2229」;70部
(平滑剤、固形分60%)
6)商品名「AQUADERM Additive SF」;30部
(平滑剤、固形分50%)
7)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
8)商品名「AQUADERM SL−50」;150部
(架橋剤、固形分50%)
9)商品名「RM1020」;約10部
(増粘剤、固形分20%)
10)水;150部
【0063】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。また、合計量は約1090部である。
処方C1に従い、各原料をミキサーにて混合し、トップコート層形成用の樹脂液を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
【0064】
(4)で得られた中間製品の表面に、スプレー機(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、トップコート層形成用の樹脂液を、ウェット塗布量が50g/mとなるよう塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
形成されたトップコート層の厚さは15.9μm、ドライ塗布量は15.9g/m、別途求めたオレイン酸による膨潤率は8%であった。
【0065】
かくして、実施例1の天然皮革製品を得た。評価結果を表4に示した。
【0066】
[実施例2および3]
[比較例1および2]
表1(ベースコート層形成用樹脂液の処方)、表2(ミドルコート層形成用樹脂液の処方)、表3(トップコート層形成用樹脂液の処方)および表4(各実施例・比較例と各処方との対応)に従い、実施例1と同様の手順にて、天然皮革製品を得た。評価結果を表4に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表4に示されるように、実施例の天然皮革製品は、天然皮革特有の柔らかな風合いと、優れた耐オレイン酸性とを有するものであった。
これに対し、ベースコート層あるいはトップコート層のオレイン酸による膨潤率が規定範囲を超える比較例の天然皮革製品は、耐オレイン酸性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然皮革基材の表面に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が20%以下であるベースコート層、および、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなり、オレイン酸による膨潤率が16%以下であるトップコート層が順次積層されてなることを特徴とする天然皮革製品。
【請求項2】
ベースコート層を構成するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とポリエーテル系ポリウレタン樹脂とアクリル樹脂との配合比(固形分重量基準)が、100:5〜44:75〜132であることを特徴とする、請求項1に記載の天然皮革製品。

【公開番号】特開2012−1693(P2012−1693A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140771(P2010−140771)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】