説明

耐チッピング塗料及び耐チッピング塗料の塗装方法

【課題】 3WET工程に適した耐チッピング塗料を提供する。
【解決手段】 未硬化カチオン電着塗料上に塗布され、且つ、更に、その上に他の塗料が塗布されるようにして使用される耐チッピング塗料であって、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するようにしたことを特徴とする耐チッピング塗料。前記ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用することを特徴とする前記耐チッピング塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のロッカーパネル、ドア下部、フェンダー等に防錆、チッピング傷対策を目的に使用される耐チッピング塗料に関する。更に詳しくは、未硬化カチオン電着塗装上に焼き付け可能な耐チッピング塗料と、その塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐チッピング塗料として、ウレタン系、ポリエステル・メラミン系、PVC系等の耐チッピング塗料が使用され、これら耐チッピング塗料の塗装に当たっては、先ず、カチオン電着塗料を塗装後、160〜180℃×20分程度の焼き付けを行い、その後、耐チッピング塗料を塗装し、100〜140℃×10分程度の焼き付けを行い、その後、中塗り塗料を塗装し、130〜150℃×10分程度の焼き付けを行っている。
近年、省エネルギーや、CO2排出減量等の環境対策への要求が強まり、また、自動車生産工程における効率向上を目的に、カチオン電着塗装、耐チッピング塗装、中塗り塗装までを、各工程で焼き付けをせず、3材料塗装後に、これらを1回の焼き付けで硬化を終了させる工程(3WET工程)が検討されている。尚、ここでいう3WET工程は、カチオン電着塗装後の水分を揮発させるためのプレヒート(一般的に80〜100℃×10分程度)を含む。
このような現状に鑑みて、前記3WET工程に適した耐チッピング塗料の提案と、3WET工程の実現が望まれており、例えば、特許文献1には、中塗り塗料を塗装する段階を開始するときの耐チッピング塗料の溶解性パラメーターを9.5(cal/cm31/2以上とすることが開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されるような耐チッピング塗料の溶解性パラメーターの場合には、未硬化電着塗装上での耐チッピング塗料のタレ及び耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレやスケが生じるという不都合があった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−126623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、3WET工程に適した耐チッピング塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者ら前記要望に応えるべく鋭意検討の結果、SP値8.7以下の溶剤を使用してウレタン系耐チッピング塗料を構成することにより、前記3WET工程に適した耐チッピング塗料が得られることを知見した。
本発明の耐チッピング塗料は前記知見に基づきなされたもので、請求項1記載の通り、未硬化カチオン電着塗料上に塗布され、且つ、更に、その上に他の塗料が塗布されるようにして使用される耐チッピング塗料であって、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するようにしたことを特徴とする。
また、請求項2記載の耐チッピング塗料は、請求項1に記載の耐チッピング塗料において、前記ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用することを特徴とする。
また、本発明の耐チッピング塗料の塗装方法は、請求項3記載の通り、未硬化カチオン電着塗料上に塗布され、且つ、更に、その上に他の塗料が塗布されるようにして使用される耐チッピング塗料を塗装する方法であって、未硬化カチオン電着塗装上に、その焼き付け前に、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するようにした耐チッピング塗料を塗布し、これら塗料を同時に焼き付けることを特徴とする。
また、請求項4記載の耐チッピング塗料の塗装方法は、請求項3記載の耐チッピング塗料の塗装方法において、前記焼き付け前に、中塗り塗料を塗布し、該中塗り塗料も含め、これら塗料を同時に焼き付けることを特徴とする。
また、請求項5記載の耐チッピング塗料の塗装方法は、請求項4記載の耐チッピング塗料の塗装方法において、前記中塗り塗料として、水性塗料を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、SP値8.7以下の溶剤を使用してウレタン系耐チッピング塗料を構成するようにしたため、3WET工程を実現可能なウレタン系耐チッピング塗料が得られ、未硬化カチオン電着塗料及び耐チッピング塗料のタレを発生させず、しかも、耐チッピング塗料上の中塗り塗料にスケを発生せることなく、これらを同時に焼き付けることができる。
また、更に、ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用することにより、耐チッピング塗料のワキ性を抑え、優れたものとすることができる。
また、本発明によれば、未硬化電着塗装上での耐チッピング塗料のタレ及び耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレやスケが生じることなく、効率的な3WET工程を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
前記の通り、本発明の耐チッピング塗料は、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するものである。前記ウレタン系樹脂としては、TDI、MDI、HDI、HMDI、IPDI、HMDI、XDI、HXDI又はこれらの変性体や誘導体のイソシアネート基を、アルコール系、フェノール系、オキシム系、アミンアミド系、ラクタム系、活性メチレン系などの活性水素を有するブロック剤であって、−NCOをマスクしたブロックイソシアネートを使用する。ウレタンの反応相手としては、水酸基、アミノ基、イミノ基、カルボン酸、ウレタン基、尿素基などの活性水素を有する化合物を使用することができる。
【0008】
また、前記SP値8.7以下の厚塗型耐チッピング塗料用の溶剤としては、丸善石油社製スワゾール1000、1800、エクソル化学社製ソルベッツ100、150、キシレン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シェルケミカル社製LAWS(ターペン)等が挙げられる。
ここで、溶剤のSP値を8.7以下としたのは、SP値が8.7を超えると、耐チッピング塗料の被着体である未硬化カチオン電着塗料が溶解してしまい、未硬化カチオン電着塗料及び耐チッピング塗料のタレが発生するからである。また、3WET工程用の中塗り塗料との相溶性が悪いため、耐チッピング塗料上の中塗り塗料にスケやタレが発生してしまうからでもある。
このように、SP値8.7以下の溶剤を使用したウレタン系耐チッピング塗料を用いることにより、前記3WET工程においても、未硬化カチオン電着塗料及び耐チッピング塗料のタレが発生することなく、また、耐チッピング塗料上の中塗り塗料にスケが発生することなく、3WET工程を実現可能ならしめることができる。
【0009】
尚、本発明における溶剤のSP値(溶解性パラメーター)は、下記式、
SP値=(分子凝集エネルギー/分子容)1/2
で求められた値である。また、前記溶剤は、1種又は2種以上の混合溶剤であってもよい。2種以上の混合溶剤のSP値は、下記式、
SP値=S1・ψ1+S2・ψ2+・・・
(式中、S1、S2・・・は混合溶剤に使用されたそれぞれの溶解性パラメーターを示し、ψ1、ψ2・・・は混合溶剤中のそれぞれの溶剤の容積分率を示す。)で求めることができる。
【0010】
また、前記溶剤は、蒸留範囲150〜220℃のものを用いることが好ましい。これは、蒸留範囲が150℃未満の場合、焼き付け時に耐チッピング塗料のワキが発生しやすく、また、220℃を超えた場合、未硬化耐チッピング塗料上の中塗り塗料のスケが発生しやすいためである。尚、以下に説明するように、ウレタン系耐チッピング塗料の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用する場合には、蒸留範囲110〜250℃の溶剤であっても使用することができ、溶剤の選択範囲を広げることができる。
このような溶剤としては、特に制限はないが、例えば、エクソル化学製ソルベッツ100、ソルベッツ150、丸善石油製スワゾール1000、スワゾール1500等を使用することができる。
【0011】
また、前記ウレタン系耐チッピング塗料には、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、二酸化チタン、カーボン等の充填剤、或いは、消泡剤、分散剤、酸化防止剤、レベリング剤等の各種添加剤を含ませることは任意であり、溶剤のSP値を除けば、従来のウレタン系耐チッピング塗料と特にその組成を異にするものではない。
【0012】
本発明の耐チッピング塗料の塗装方法では、未硬化カチオン電着塗装上に、その焼き付け前に、前記SP値8.7以下の溶剤を使用した耐チッピング塗料を塗布し、これら塗料を同時に焼き付けることにより、耐チッピング塗料の被着体である未硬化カチオン電着塗料を溶解させることなく、未硬化カチオン電着塗料及び耐チッピング塗料のタレを発生させることなく、これらを同時に焼き付けることができる。
この場合の焼き付け条件は、温度120〜180℃、時間10分〜60分である。
【0013】
また、本発明の耐チッピング塗料の塗装方法では、前記未硬化カチオン電着塗料と未硬化耐チッピング塗料の焼き付け前に、更に他の塗料を塗布するものであるが、他の塗料として、中塗り塗料を塗布し、該中塗り塗料も含め、これら塗料を同時に焼き付けることにより、耐チッピング塗料の被着体である未硬化カチオン電着塗料を溶解させることなく、未硬化カチオン電着塗料及び耐チッピング塗料のタレを発生させず、しかも、耐チッピング塗料上の中塗り塗料にスケを発生せることなく、これらを同時に焼き付けることができる。
【0014】
前記中塗り塗料としては、一般的に自動車製造工程で使用される溶剤型中塗塗料や水性中塗塗料等が使用できるが、近年の環境問題の観点から、排出VOC量の少ない中性中塗り塗料の使用が好ましい。
この場合の焼き付け条件は、温度120〜180℃、時間10分〜60分である。
【0015】
上記耐チッピング塗料において、ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用することが好ましい。
ヒドラジド化合物は、粉体であるため、常温において、ブロックイソシアネートのブロック剤の乖離させる触媒機能を保有しておらず、また、本発明で使用される溶剤にも不溶であり、1液で保管しても粘度変化はなく、良好な安定性が得られるためである。
また、従来の耐チッピング塗料に比べて、膜厚を、例えば、2/3程度と薄くしても、同様のチッピング性能が得られる。また、従来の耐チッピング剤に比べて、低温で硬化させることができ、耐ワキ性が良好であるとともに、厚塗り部のクラック性を向上させることができる。
更に、従来品と比べて、硬化剤が粉体であるため、塗料への硬化剤の移行が少なく、塗膜が黄変を抑えることができる。
前記ヒドラジド化合物としては、例えば、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、セミカルバジド塩酸塩、アジピン酸ジヒドラジド、チオカルボヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、チオセミカルバジド塩酸塩、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、N,N’−ヘキサメチレンビスセミカルバジド等を使用することができる。
【実施例】
【0016】
次に、具体的実施例を比較例と共に説明する。
表1に示す配合で、SP値が8.7以下の溶剤を使用した実施例1乃至6のウレタン系耐チッピング塗料と、SP値が9.4以上の溶剤を使用した比較例1乃至3のウレタン系耐チッピング塗料とを、常法にしたがって作成した。
尚、前記ブロックドイソシアネートは、NCO%が5.5%で、ブロック剤としてMEKオキシムを用いた平均分子量3,000のMDI系ブロックイソシアネートプレポリマーであり、ポリオールはOH価820のポリエステルポリオールである。
溶剤A〜Hは、以下の通りである。
A:エクソンモービル社製ペガソール3040
B:エクソンモービル社製ベガソールAN45
C:MIBK(メチルイソブチルケトン)
D:シェルケミカルズ社製HAWS
E:丸善石油化学社製スワゾール1800
F:丸善石油化学社製スワゾール1500
G:エクソンモービル社製ソルベッツ100
H:キシレン
I:ジオキシトールアセテート
J:シクロヘキサノン
K:ブチルジオキシトール
尚、実施例4及び10では、ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物として、大塚化学社製ドデカンジオヒドラジドを用いた。
【0017】
【表1】

【0018】
次に、前記実施例及び比較例の耐チッピング塗料を用いて塗装を行い、未硬化電着塗料上のタレ、未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレ、未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のスケ、ウレタン系耐チッピング塗料のワキ性の各塗装特性について、観察、評価した。
尚、前記各塗装特性については、次のようにして観察、評価した。
【0019】
a)未硬化電着塗料上のタレ
関西ペイント社製テストパネル上の100℃でプレヒートされた未硬化電着塗料上にウレタン系耐チッピング塗料をWET状態で400μm塗布し、更に、水性中塗り塗料をWET状態で20μm塗布後、テストパネルを垂直に保持して65℃×10分、170℃×20分の焼き付を行い、ウレタン系耐チッピング塗料のタレを目視観察し、次のように評価した。
+:タレの発生がほとんどなく、スリップの発生なし
○:タレ長さ5mm以下でスリップの発生なし
×:タレ長さ5mm超えか、スリップの発生あり
【0020】
b)未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレ
関西ペイント社製テストパネル上の100℃でプレヒートされた未硬化電着塗料上にウレタン系耐チッピング塗料をWET状態で300μm塗布し、更に、水性中塗り塗料をWET状態で20μm塗布後、テストパネルを垂直に保持して65℃×10分、170℃×20分の焼き付けを行い、ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレを目視観察し、次のように評価した。
+:タレの発生がほとんどなし
○:中塗り塗料のタレ長さ5mm以下
×:中塗り塗料のタレ長さ5mm超え
【0021】
c)未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のスケ
関西ペイント社製テストパネル上の100℃でプレヒートされた未硬化電着塗料上にウレタン系耐チッピング塗料をWET状態で300μm塗布し、更に、水性中塗り塗料をWET状態で20μm塗布後、テストパネルを垂直に保持して65℃×10分、170℃×20分の焼き付けを行い、ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のスケを目視観察し、次のように評価した。
○:中塗り塗料のスケなし
-:中塗り塗料のスケが若干見受けられる
×:中塗り塗料のスケあり
【0022】
d)ウレタン系耐チッピング塗料のワキ性
関西ペイント社製テストパネル上の100℃でプレヒートされた未硬化電着塗料上にウレタン系耐チッピング塗料をdry状態で100〜300μmとなるように塗布し、更に、水性中塗り塗料をWET状態で20μm塗布後、テストパネルを垂直に保持して65℃×10分、170℃×20分の焼き付けを行い、ウレタン系耐チッピング塗料上のワキを目視観察し、次のように評価した。
○:ワキ限界200μm以上
△:ワキ限界150μm以上200μ未満
×:ワキ限界150未満
【0023】
前記表1から明らかなように、SP値8.7以下の溶剤を用いた実施例1乃至10の耐チッピング塗料は、未硬化電着塗料上のタレ、未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のタレ、未硬化ウレタン系耐チッピング塗料上の中塗り塗料のスケに優れ、特に、ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用した耐チッピング塗料である実施例3及び9では、ウレタン系耐チッピング塗料のワキ性に優れることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化カチオン電着塗料上に塗布され、且つ、更に、その上に他の塗料が塗布されるようにして使用される耐チッピング塗料であって、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するようにしたことを特徴とする耐チッピング塗料。
【請求項2】
前記ウレタン系樹脂の硬化剤として、ヒドラジド化合物を使用することを特徴とする請求項1に記載の耐チッピング塗料。
【請求項3】
未硬化カチオン電着塗料上に塗布され、且つ、更に、その上に他の塗料が塗布されるようにして使用される耐チッピング塗料を塗装する方法であって、未硬化カチオン電着塗装上に、その焼き付け前に、樹脂成分としてウレタン系樹脂を用いると共に、SP値8.7以下の溶剤を使用するようにした耐チッピング塗料を塗布し、これら塗料を同時に焼き付けることを特徴とする耐チッピング塗料の塗装方法。
【請求項4】
前記焼き付け前に、中塗り塗料を塗布し、該中塗り塗料も含め、これら塗料を同時に焼き付けることを特徴とする請求項3に記載の耐チッピング塗料の塗装方法。
【請求項5】
前記中塗り塗料として、水性塗料を用いることを特徴とする請求項4に記載の耐チッピング塗料の塗装方法。

【公開番号】特開2007−23165(P2007−23165A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207787(P2005−207787)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(598109187)アサヒゴム株式会社 (27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】