説明

耐チッピング性付与水性分散体組成物

【解決手段】(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物を含有する不揮発性成分(膜形成成分)が、水に分散してなり、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体を0.5〜20質量部含有することを特徴とする耐チッピング性付与水性分散体組成物。
【効果】本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、オレフィン系熱可塑性エラストマー、またはスチレン−共役ジエンブロック共重合体もしくはその水素添加物を含有する樹脂組成物が水に分散してなり、該水性分散体組成物を水系プライマー、または水系塗料の添加剤として使用することにより、得られる塗膜は、耐チッピング性に優れ、かつ、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性などの特性にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料に耐チッピング性を付与する水性分散体組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、自動車外板塗膜などにおいて、飛石などの衝撃を受けた際に、塗膜が破損したり傷付いたりしにくい特性である耐チッピング性を水性塗料塗膜に付与するための水性分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用外板塗装は、通常、まず鋼板に下塗り塗料を電着し、次に溶剤系中塗り塗料を塗布し、その後上塗り塗料を塗布して複合塗膜を形成することにより行われる。近年、市場の要求により、塗膜全体の耐チッピング性(石などの衝撃物が塗膜表面にぶつかっても塗膜が破損したり傷付いたりしにくい特性)を有する機能性塗料への移行が大きなテーマになっている。該耐チッピング性を得るために、中塗り塗料に柔軟性を持たせる方法、下塗り塗料と中塗り塗料の間に柔軟性を有する溶剤型樹脂プライマーを導入する方法などの検討がなされ、すでに実用化に至っている。
【0003】
溶剤型塗料は、その溶剤を大気中に飛散させ塗膜を形成するものであるため、近年における地球環境を保全する観点から、また作業者などの人間に対する、有機溶剤の悪影響の観点から問題のあるものであり、脱溶剤型塗料の開発が叫ばれて久しい。
【0004】
従って、溶剤型塗料としては、高固形分塗料(溶剤含有量を非常に少なくした塗料)が、また、溶剤型塗料に代わるものとして水系塗料、粉体塗料などの開発が試みられている。特に、すべてを水性化する水系塗料は、使用する有機溶剤が全くないことより、環境に優しい塗料となり得る。
【0005】
しかしながら、水系塗料により得られる塗膜に、耐チッピング性を付与することは困難であり、従来、主に水系塗料用樹脂の骨格に柔軟な成分を導入したり、架橋系塗料においては、架橋密度を低下させたりする方法しか実施されておらず、塗膜自身の強度や耐熱水性、耐擦傷性などの各種物性が低下する大きな問題が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決する耐チッピング性付与水性分散体組成物を提供することにあり、より詳しくは、水系塗料により得られる塗膜への耐チッピング性付与を、塗膜外観を保ったまま行い得る、水系プライマーもしくは水系塗料への添加剤として使用可能な水性分散体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、水性組成物であり、実質的に有機溶剤を含有しない。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、
(a)オレフィン系熱可塑性エラストマーを含有する不揮発性成分(膜形成成分)が、水に分散してなる耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明における
耐チッピング性付与水性分散体組成物が、上記(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、さらに(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)を0.5〜20質量部含有する耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明における
耐チッピング性付与水性分散体組成物が、上記(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、さらに、下記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部含有する耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0010】
【化1】

(ただし、上記式(I)において、R1は−(CH2−CH2O)m−H(mは1〜10)で表される基であり、R2は−(CH2−CH2O)n−H(nは1〜10)で表される基、炭素数が1〜10のアルキル基もしくはアリール基または水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である)。
【0011】
さらに、本発明の第4の発明によれば、
(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物を含有する不揮発性成分(膜形成成分)が、水に分散してなる耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明における
耐チッピング性付与水性分散体組成物が、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b')を0.5〜20質量部含有する耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第6の発明によれば、第4または第5の発明における
耐チッピング性付与水性分散体組成物が、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、下記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部含有する耐チッピング性付与水性分散体組成物が提供される。
【0014】
【化2】

(ただし、上記式(I)において、R1は−(CH2−CH2O)m−H(mは1〜10)で表される基であり、R2は−(CH2−CH2O)n−H(nは1〜10)で表される基、炭素数が1〜10のアルキル基もしくはアリール基または水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る耐チッピング性付与水性分散体組成物について、項目ごとに具体的に説明する。
(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー
本発明に用いられる(a)オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−3−メチル−1−ブテン、ポリ−3−メチル−1−ペンテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどのα−オレフィンの単独または2種類以上の共重合体と、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴム(EPDM)などのジエン成分を含有するオレフィン系熱可塑性エラストマーとの、ブレンドによるエラストマー;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどのα−オレフィンの2種類以上の共重合体からなるエラストマー;または、エチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・エチリデンノルボルネン共重合体で代表される、α−オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエンとの共重合体エラストマー、あるいは、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・1,5−ヘキサジエン共重合体で代表される、α−オレフィンの2種類以上と共役ジエンまたは非共役ジエンとの共重合体などの、ポリオレフィンの2種類以上と共役または非共役ジエンとの共重合体などのポリオレフィンのエラストマーなどを挙げることができる。これらは単独でも、混合しても使用できる。
【0016】
これらのエラストマーのうち、好ましくは、エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンの1種またはそれ以上との共重合体である。
また、これらの(a)オレフィン系熱可塑性エラストマーの分子量は、エラストマーを構成するオレフィンモノマーの種類、共重合体またはブレンドといったエラストマーの種類などによっても左右されるので、一概には規定できないが、例えば、ASTMD1238に準じて230℃で測定したメルトフローレート(以下、「MFR」と略す。)が、0.1〜500g/10分、より好ましくは0.4〜300g/10分の範囲のものが望ましい。
【0017】
(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物
本発明の、別態様の耐チッピング性付与水性分散体組成物で用いられる(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物を構成する共役ジエンとしては、例えば、イソプレン、ブタジエンなどが挙げられる。これらの共役ジエンは、ブロック共重合体の中に1種類でも2種類以上が含まれていてもよい。
【0018】
また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構成としては、スチレン−共役ジエンのジブロック共重合体、スチレン−共役ジエン−スチレンのトリブロック共重合体、またはそれ以上のブロック数を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0019】
この共役ジエンブロック共重合体としては、例えば、米国特許第3,265,765号明細書、特開昭61−192743号公報などに記載されている方法によって製造されるものなどを挙げることができる。このスチレン−共役ジエンブロック共重合体の中で、具体的には、市販品として、スチレン−イソプレンブロック共重合体である、クレイトンTR−1107、1111、1112(いずれもシェル化学(株)製)などを挙げることができる。
【0020】
また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物としては、例えば、特開昭45−20504号公報、特公昭48−3555号公報などに記載されている方法によって製造されるものを挙げることができる。このスチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物の中で、具体的には、市販品として、共役ジエンがブタジエンである、クレイトンG−1652、1657(いずれもシェル化学(株)製)、タフテックH1141(旭化成(株)製)などを、共役ジエンがイソプレンである、セプトン2002、2007(いずれもクラレ(株)製)などを挙げることができる。
【0021】
このスチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物におけるスチレン含量(スチレンから誘導される繰返し単位の含有率)は、耐チッピング性付与、塗装塗膜の表面外観性能などの点から10〜70質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがさらに好ましい。また、このスチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物について、ASTMD1238により230℃で測定したMFRが、0.1〜1000g/10分であるものが好ましく、1〜500g/10分であるものがさらに好ましい。
【0022】
(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体
本発明で用いられる(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体は、α−オレフィン単独重合体もしくは共重合体(以下、「α−オレフィン(共)重合体」と略すことがある。)、またはそれを構成するα−オレフィンに、中和されているか中和されていないカルボン酸基を有する単量体、あるいは、ケン化されているかケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合などの手段で導入するか、場合によっては、塩基性物質により中和反応またはケン化反応を行って、該重合体の重合体鎖に結合した−COO−基の一部または全部がカルボン酸塩になるように調製されたものである。この際、重合体は、中和もしくはケン化されていないカルボン酸基またはカルボン酸エステル基が共存した、部分中和ないし部分ケン化物であってもよい。
【0023】
上記(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体は、例えば、α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸、その無水物またはそのエステルとを共重合したものであるか、α−オレフィン(共)重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、その無水物またはその不飽和エステルをグラフト重合したものである。
【0024】
該α−オレフィン(共)重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなどの(共)重合体を挙げることができる。これらの中でも、特に、エチレン単独重合体およびエチレン・プロピレン共重合体が好ましい。
【0025】
また、上記エチレン性不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などを、その無水物としては、無水ナジック酸TM(無水エンドシス−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などを挙げることができる。また、不飽和カルボン酸エステルとしては、上記の不飽和カルボン酸メチル、エチル、プロピルなどのモノエステル、ジエステルなどが例示できる。これらの単量体は単独で用いることも、複数種を併用することもできる。
【0026】
α−オレフィン(共)重合体に、エチレン性不飽和カルボン酸、その無水物またはその不飽和エステルをグラフト重合する方法としては、従来公知の種々の方法を挙げることができる。例えば、α−オレフィン(共)重合体を溶融させ、グラフトモノマーを添加してグラフト重合させる方法、あるいは、α−オレフィン(共)重合体を溶媒に溶解させ、グラフトモノマーを添加してグラフト重合させる方法などがある。いずれの場合も、前記グラフトモノマーを効率よくグラフトさせるためには、ラジカル反応開始剤の存在下に反応を実施することが好ましい。
【0027】
グラフト重合は、通常、60〜350℃、好ましくは100〜200℃の温度で行われる。ラジカル開始剤の使用割合は、α−オレフィン(共)重合体100質量部に対して、通常、0.01〜10質量部の範囲である。ラジカル開始剤としては、有機パーオキサイド、有機パーエステル、その他アゾ化合物などが挙げられる。これらのラジカル開始剤の中でも、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシル)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイドが好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸、その無水物あるいはそのエステルなどの単量体の導入量は、−COO−基として、重合体1グラム中に0.01〜10mmol当量、特に、0.1〜5mmol当量の範囲にあることが好ましい。
【0028】
また、これらの(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体の分子量は、極限粘度[η](135℃、溶媒:デカリン)にて、0.005〜5dl/g、好ましくは0.01〜3dl/gの範囲のものが望ましい。
【0029】
上記(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体の中和およびケン化に用いる塩基性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアおよびアミンなどの水中で塩基として作用する物質、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物などの水中で塩基として作用する物質、また、これらの金属のアルコキシドなどを挙げることができる。
【0030】
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどを、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウムなどをそれぞれ挙げることができる。
【0031】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、水素化物としては、例えば、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、酸化カリウム、過酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウムなどを挙げることができる。
【0032】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属の弱塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0033】
また、アンモニアおよびアミン化合物としては、例えば、ヒドロキシルアミン、ヒドラジンなどの無機アミン、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、シクロヘキシルアミン、水酸化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム化合物、ヒドラジン水化物などを挙げることができる。
【0034】
塩基性物質により中和またはケン化されたカルボン酸塩としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウムなどのカルボン酸アルカリ金属塩、カルボン酸アンモニウムが好適である。
【0035】
上記(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体の中和またはケン化は、重合体中の全カルボン酸またはカルボン酸エステル100当量に対し、20〜200当量の塩基性物質を用いて行うことができ、好ましくは20〜100当量の塩基性物質を用いて行うことができる。
【0036】
(b−2)脂肪酸化合物
本発明で用いられる(b−2)脂肪酸化合物は、炭素数が25〜60、好ましくは炭素数が25〜40の範囲内にある、中和されているか中和されていないカルボン酸基を有する化合物、あるいは、ケン化されているかケン化されていないカルボン酸エステル基を有する化合物である。具体的には、例えば、モンタン酸、モンタン酸エステル、モンタン酸ワックスなどを挙げることができる。
【0037】
これらの中和されているか中和されていないカルボン酸基、あるいは、ケン化されているかケン化されていないカルボン酸エステル基の、(b−2)脂肪酸化合物中における量は、−COO−基として、脂肪酸化合物1グラム中に0.01〜10mmol当量、特に、0.1〜5mmol当量の範囲にあることが好ましい。
【0038】
また分子量は、極限粘度[η](135℃、溶媒:デカリン)にて、0.005〜5dl/g、好ましくは0.01〜3dl/gの範囲のものが望ましい。中和およびケン化に用いる塩基性物質は、上記(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体の中和およびケン化に用いる塩基性物質と同様である。
【0039】
(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体
本発明で用いられる(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体は、スチレンモノマーおよび/または(共)重合体に、中和されているか中和されていないカルボン酸基を有する単量体、あるいは、ケン化されているかケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合などの方法で導入するか、場合によっては、塩基性物質により中和反応またはケン化反応を行って、この重合体の重合体鎖に結合した−COO−基の一部または全部が、カルボン酸塩になるように調製されたものである。この際、重合体は中和もしくはケン化されていないカルボン酸基またはカルボン酸エステル基が共存した、部分中和ないし部分ケン化物であってもよい。
【0040】
スチレンモノマーおよび/または(共)重合体に、エチレン性不飽和カルボン酸、その無水物またはその不飽和エステルを共重合する方法としては、種々の方法を挙げることができる。例えば、スチレン(共)重合体を溶融させ、共重合モノマーを添加して共重合させる方法、あるいは、スチレンモノマーを溶媒に溶解させ、共重合モノマーを添加して共重合させる方法などがある。いずれの場合も、共重合モノマーを効率よく共重合させるためには、ラジカル反応開始剤の存在下に反応を行うことが好ましい。
【0041】
スチレン−不飽和酸化合物共重合体に導入される不飽和カルボン酸、その無水物あるいはそのエステルの単量体の量は、−COO−基として、重合体1グラム中に0.01〜10mmol当量、特に、0.1〜5mmol当量の範囲にあることが好ましい。
【0042】
また、このスチレン−不飽和酸化合物共重合体の分子量は、極限粘度[η](135℃、溶媒:デカリン)にてで、0.005〜5dl/g、好ましくは0.01〜3dl/gの範囲のものが使用できる。
スチレン−不飽和酸化合物共重合体の中和およびケン化に用いる塩基性物質は、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体で使用したものと同様のものが使用できる。
【0043】
(c)窒素化合物
本発明で使用される(c)窒素化合物は、下記式(I)で表すことができる。
【0044】
【化3】

ただし、上記式(I)において、R1は−(CH2−CH2O)m−H(mは1〜10、好ましくは1〜5)で表される基であり、R2は−(CH2−CH2O)n−H(nは1〜10、好ましくは1〜5)で表される基、炭素数が1〜10、好ましくは1〜5のアルキル基もしくはアリール基または水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である。
【0045】
このような上記式(I)で表される(c)窒素化合物の例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノールなどを挙げることができる。
【0046】
(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー含有組成物(1)
本発明の(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー含有耐チッピング性付与水分散体組成物(1)は、水に、(a)単独成分、(a)および(b)成分、(a)および(c)成分、または(a)、(b)および(c)成分からなる不揮発性成分(膜形成成分)を混合分散してなる混合物を主成分とするものである。不揮発性成分(膜形成成分)として(a)および(b)成分を用いる場合、その配合割合は、(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b)が0.5〜20質量部である。また、そのとき(b)成分として、複数の(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体または(b−2)脂肪酸化合物が使用されてもよく、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物を組み合わせて使用することも可能である。
【0047】
また、不揮発性成分(膜形成成分)として、さらに(c)窒素化合物を用いる場合は、(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、上記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部含有させる。
【0048】
本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(1)として好ましい態様は、(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b)を0.5〜20質量部、好ましくは0.5〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部の範囲内の量で含有する組成物である。
【0049】
さらに、別の好ましい態様は、(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b)を0.5〜20質量部、好ましくは0.5〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部の範囲内の量で含有し、かつ、上記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部、好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部の範囲内の量で含有する組成物である。
【0050】
また、そのとき(b)成分として、複数の(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体または(b−2)脂肪酸化合物が使用されてもよく、また、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物を組み合わせて使用することも可能である。
【0051】
本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(1)は、上記(a)成分、または(a)および(b)成分、または(a)および(c)成分、または(a)、(b)および(c)成分を水に分散させたものである。この水性分散体は、上記樹脂および化合物を上記の所定の比率で一度に乳化してもよいし、個々の成分を乳化した後で、上記の所定の比率にて混合してもよい。ここで、水の含量は(a)成分、または(a)および(b)成分の総量、または(a)および(c)成分の総量、または(a)、(b)および(c)成分の総量100質量部に対して、通常、10〜500質量部、好ましくは50〜300質量部である。
【0052】
(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー含有組成物(1)の製造方法
本発明の(a)オレフィン系熱可塑性エラストマー含有耐チッピング性付与水分散体組成物(1)は、例えば、(i)前記オレフィン系熱可塑性エラストマー(a)と前記カルボン酸変性熱可塑性重合体(b−1)および脂肪酸化合物(b−2)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b)を混練した後に、これに前記式(I)で表わされる窒素化合物(c)、塩基性物質と水を添加後、さらに溶融混練し、中和および/またはケン化と、前記(a)、(b)および(c)成分の水相への分散(転相)を行う方法や、予め、(ii)カルボン酸変性熱可塑性重合体(b−1)および/または脂肪酸化合物(b−2)に前記式(I)で表わされる窒素化合物(c)、塩基性物質および水を添加して、中和および/またはケン化し、これを前記(a)オレフィン系熱可塑性エラストマーと混練した後、さらに水を添加して、溶融混練を行って前記(a)、(b)および(c)成分の水相への分散(転相)を行う方法などがある。
【0053】
前者(i)の方法が、簡便かつ不揮発性成分(膜形成成分)の粒子径が小さく均一なものが得られるので好ましい。転相に利用する溶融混練手段は、公知のいかなる手段でもよいが、好適には、ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機などを例示することができる。
【0054】
また、溶融混練と転相によって得た水性分散体には、一般的に、水が3〜25%程度含有されているが、この水分含有量のまま使用することもできる。さらに、粘度が高く作業性が低下する場合は、これに水を補給し、使用することも可能である。
【0055】
なお、本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(1)において、水中におけるこれら不揮発性成分(膜形成成分)の粒子径は、その平均粒子径が0.01〜5μm、より好
ましくは0.1〜2μm程度のものであることが望ましい。
【0056】
(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物含有組成物(2)
本発明の別の態様である(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物含有耐チッピング性付与水分散体組成物(2)は、(a')単独成分、(a')および(b')成分、(a')および(c)成分、または(a')、(b')および(c)成分と、水との混合物を主成分とし、(a')および(b')成分の樹脂組成物の場合、その配合割合は、(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b')が、0.5〜20質量部である。また、そのとき(b')成分は、複数の(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、または(b−2)脂肪酸化合物、または(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体が使用されてもよく、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体を組み合わせて使用することも可能である。本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(2)は、(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b')を、通常、0.5〜20質量部、好ましくは0.5〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部の量で含有する組成物である。
【0057】
また、不揮発性成分(膜形成成分)として、(c)窒素化合物を用いる場合は、(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、上記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部含有させる。
【0058】
本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(2)の好ましい態様は、(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、前記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を、上記(b')成分に加えて、さらに、通常、0.1〜30質量部、好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部の範囲内の量で含有する組成物である。
【0059】
また、そのとき(b')成分は、複数の(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物、または(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体が使用されてもよく、また、これら(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体を組み合わせて使用することも可能である。
【0060】
本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(2)は、上記(a')成分を水に分散したものであるか、(a')成分と(b')成分とを水に分散したものであるか、(a')成分と(c)成分とを水に分散したものであるか、または(a')成分と(b')成分と(c)成分とを水に分散したものである。この水分散体は、上記不揮発性成分(膜形成成分)を上記の所定の比率で一度に乳化してもよいし、個々の不揮発性成分(膜形成成分)を乳化した後に、上記の所定の比率で混合してもよい。ここで、水の含量は、(a')成分、または(a')および(b')成分からなる不揮発性成分(膜形成成分)の総量、または(a')および(c)成分からなる不揮発性成分(膜形成成分)の総量、または(a')および(b')成分からなる不揮発性成分(膜形成成分)に、さらに、(c)成分を加えた固形分総量100質量部に対して、通常、10〜500質量部、好ましくは50〜300質量部である。
【0061】
(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物含有組成物(2)の製造方法
上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物と(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体、(b−2)脂肪酸化合物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(b')とは、種々の方法により水に安定に分散させることができる。
【0062】
例えば、(iii)所望の上記成分を混練した後に、これに前記塩基性物質と水を添加して、さらに溶融混練し、中和および/またはケン化と、(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物の水相への分散(転相)とを行う方法や、(iv)予め、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および/または(b−2)脂肪酸化合物および/または(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体に、前記塩基性物質と水を添加して、中和および/またはケン化し、これを(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物と混練した後、さらに水を添加して、溶融混練を行って(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物の水相分散(転相)を行う方法などがある。上記(iii)の方法が、簡便かつ不揮発性成分(膜形成成分)の粒子径が小さく均一なものが得られるので好ましい。転相に利用する溶融混練手段は公知のいかなるものでもよいが、好適には、ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機などを例示することができる。
【0063】
また、溶融混練と転相によって得た水性分散体には、水が3〜25%含有されているが、この水分含有量のまま使用することもできる。さらに、粘度が高く作業性が低下する場合は、これに水を補給し、使用することもできる。
【0064】
上記のように共重合体(a')および必要により配合される(b')成分からなる不揮発性成分(膜形成成分)を溶融状態にして水を加えて、これらの不揮発性成分(膜形成成分)を水に安定に分散させる方法に関しては、例えば、特開平10−13984号公報などに詳細に記載されている。
【0065】
なお、本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物(2)において、水中におけるこれら不揮発性成分(膜形成成分)の粒子径は、その平均粒子径が0.01〜5μm、より好ましくは0.1〜2μm程度のものであることが望ましい。
【0066】
その他の配合剤
本発明の耐チッピング性付与水分散体組成物には、分散の安定性を向上し、粘度調整をするためにポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(N−ビニルアセトアミド)などの有機増粘剤、二酸化ケイ素、活性白土、ベントナイトなどの無機増粘剤を配合することができる。
【0067】
さらに、水性分散体の安定性を向上させるため、界面活性剤を使用することができる。例えば、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カルシウム、メラニン樹脂スルホン酸ナトリウム、特殊ポリアクリル酸塩、グルコン酸塩、オレフィン・マレイン酸コポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸トリエタノールアミン、牛脂酸カリウム、牛脂酸ナトリウム、および金属石鹸(Zn、Al、Na、K塩)などのアニオン系界面活性剤、脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルセルロースなどのノニオン系界面活性剤、アルキルアンモニウムクロライド、トリメチルアルキルアンモニウムブロマイド、およびアルキルピリジニウムクロライド、カゼインなどの両性界面活性剤、並びに水溶性多価金属塩類などが挙げられる。これらの界面活性剤は1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0068】
塗膜の形成
本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、そのまま塗布して耐チッピング性を有する層を形成することもできるし、例えば、自動車用中塗塗料、上塗塗料などの仕上げ塗料に配合する耐チッピング性付与添加剤として使用することもできる。本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物をそのまま使用する場合には、被塗装面に、例えば、自動車用下塗電着塗料などの下地塗料を塗布した後、仕上げ塗装する前に、下地塗装面に塗布して耐チッピング性を有する層を形成し、次いでこの耐チッピング性を有する層の上に仕上げ塗装することにより、耐チッピング性を有する複合塗膜を形成することができる。このようにして調整された耐チッピング性を有する層の厚さは、乾燥塗膜厚換算で1〜10μm、好ましくは1〜4μmの範囲内にあることが望ましい。また、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、仕上げ塗料などに混合して使用することもできる。この場合、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、仕上げ塗料などに含有される樹脂固形分100質量%に対して、固形分換算で1〜20質量%、好ましくは5〜10質量%の範囲内の量で配合される。こうして混合された塗料を乾燥塗膜厚換算で通常は10〜100μm、好ましくは10〜50μmの範囲内の厚さで塗布することにより良好な耐チッピング性が発現する。
【0069】
本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物を使用しても、塗膜の塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性などの特性が低下することはない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例により、さらに本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
(製造例1)
[(a)−1エチレン・プロピレン共重合体および(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体からなる水性分散体組成物の製造]
エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレンのモル比=4/6のエラストマー)(MFR(230℃)2.0g/10分)100質量部、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス(グラフト量:3質量%、−COO−基:0.67ミリモル/g重合体、〔η〕(135℃、溶媒:デカリン):0.16dl/g)10質量部およびオレイン酸カリウム2質量部を混合し、2軸スクリュー押出機(池貝鉄工社製PCM−30、L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同時に押出機のベント部に設けた供給口より、水酸化カリウムの10%水溶液を240g/時間の速度で連続的に供給して、加熱温度230℃にて連続的に押出した。押出された樹脂混合物は、同押出機口に設置されたジャケット付きスタティックミキサーにて90℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入して、収率99%、固形分濃度45%、pH10の水性分散体を得た。得られた水性分散体の平均粒子径を、マイクロトラックで測定したところ、0.8μmであった。
【0072】
(製造例2)
[(a)−2エチレン・オクテン共重合体物および(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体からなる水性分散体組成物の製造]
上記製造例1において、エチレン・プロピレン共重合体に代えて、エチレン・オクテン共重合体(エチレン/オクテンのモル比=85/15のエラストマー)(MFR(230℃)150g/10分)を使用したこと以外は、製造例1と同様の製造法にて、収率99%、固形分濃度45%、pH10、平均粒子径0.3μmの水性分散体組成物を得た。
【0073】
(製造例3)
[(a)−1エチレン・プロピレン共重合体、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(c)2−(2−アミノエトキシ)エタノールからなる水性分散体組成物の製造]
製造例1にて製造した水性分散体組成物の樹脂固形分100質量%に対し、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(Huntsman社製Diglycolamine)を1質量%添加し、固形分濃度44.8%、pH10.5、平均粒子径0.8μmの水性分散体組成物を得た。
【0074】
(製造例4)
[(a)−2エチレン・オクテン共重合体、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(c)2−(2−アミノエトキシ)エタノールからなる水性分散体組成物の製造]
製造例2にて製造した水性分散体組成物の樹脂固形分100質量%に対し、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(Huntsman社製Diglycolamine)を1質量%添加し、固形分濃度44.8%、pH10.5、平均粒子径0.3μmの水性分散体組成物を得た。
【0075】
(製造例5)
[(a)−1エチレン・プロピレン共重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる水性分散体組成物の製造]
上記製造例1において、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス10質量部に代えて、モンタン酸ワックス(クラリアント社製ヘキストワックスS;炭素数:28〜32、−COO−基:2.6ミリモル/モンタン酸ワックスg、〔η〕(135℃、溶媒:デカリン):0.05dl/g)を3質量部使用したこと以外は、製造例1と同様の製造法にて収率99%、固形分濃度45%、pH10.5、平均粒子径1.0μmの水性分散体組成物を得た。
【0076】
(i)耐チッピング性水系プライマーとして使用する場合
(参考例1〜5)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例1〜5にて製造した水性分散体をそれぞれ、乾燥膜厚が5μmとなるように塗装し、常温(25℃±10℃)にて乾燥させた。次いで、耐チッピング性付与水性分散体塗膜上に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料をエアースプレーにて厚さ約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(参考比較例1)
参考例1に示した方法にて、耐チッピング性付与水性分散体の塗膜を形成しなかったこと以外は、すべて同一条件で試験サンプルを作成し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(ii)耐チッピング性付与添加剤として使用する場合
(参考例6〜10)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料の樹脂固形分100質量%に対し、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例1〜5にて製造した水性分散体を、それぞれ10質量%加えた塗料をエアースプレーにて、乾燥塗膜厚さが約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(参考比較例2)
参考例6に示した方法にて、耐チッピング性付与水性分散体を塗料に添加しなかったこと以外は、すべて同一条件で試験サンプルを作成し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(製造例6)
[(a')−1スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物および(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体からなる水性分散体組成物の製造]
スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物(クラレ(株)製、商品名;セプトン2002)100質量部、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス(グラフト量:3質量%、−COO−基:0.67ミリモル/g重合体、極限粘度[η](135℃、溶媒:デカリン):0.16dl/g)10質量部およびオレイン酸カリウム2質量部を混合し、2軸スクリュー押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30、L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同時に押出機のベント部に設けた供給口より、水酸化カリウムの10%水溶液を240g/時間の速度で連続的に供給して、加熱温度230℃にて連続的に押出した。押出された樹脂混合物は、同押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーにて90℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入して、収率99%、固形分濃度45%、pH値10の水性分散体を得た。得られた水性分散体の平均粒子径は、マイクロトラックで測定したところ、0.5μmであった。
【0081】
(製造例7)
[(a')−2スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体水素添加物および(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体からなる水性分散体組成物の製造]
上記製造例6において、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物に代えて、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体水素添加物(旭化成(株)製タフテックH1141)を使用したこと以外は、製造例6と同様の製造法にて収率99%、固形分濃度45%、pH値10、平均粒子径0.5μmの水性分散体組成物を得た。
【0082】
(製造例8)
[(a')−1スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(c)2−(2−アミノエトキシ)エタノールからなる水性分散体組成物の製造]
製造例6にて製造した水性分散体組成物の樹脂固形分100質量%に対し、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(Huntsman社製Diglycolamine)を1質量%添加し、固形分濃度44.8%、pH値10.5、平均粒子径0.5μmの水性分散体組成物を得た。
【0083】
(製造例9)
[(a')−2スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体水素添加物、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(c)2−(2−アミノエトキシ)エタノールからなる水性分散体組成物の製造]
製造例7にて製造した水性分散体組成物の樹脂固形分100質量%に対し、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(Huntsman社製Diglycolamine)を1質量%添加し、固形分濃度44.8%、pH値10.5、平均粒子径0.5μmの水性分散体組成物を得た。
【0084】
(製造例10)
[(a')−1スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物および(b−2)脂肪酸化合物からなる水性分散体組成物の製造]
上記製造例6において、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス10質量部に代えて、モンタン酸ワックス(クラリアント社製ヘキストワックスS;炭素数:28〜32、−COO−基:2.6ミリモル/モンタン酸ワックスg、極限粘度〔η〕(135℃、溶媒:デカリン):0.05dl/g)を3質量部使用したこと以外は、製造例6と同様の製造法にて収率99%、固形分濃度45%、pH値11、平均粒子径0.8μmの水性分散体組成物を得た。
【0085】
(製造例11)
[(a')−1スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体水素添加物および(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体からなる水性分散体組成物の製造]
上記製造例6において、無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス10質量部に代えて、スチレン−無水マレイン酸共重合体(エルフ・アトケム社製、SMA3000P、−COO−基:4.6ミリモル/重合体g、極限粘度[η](135℃、溶媒:デカリン):0.09dl/g)を3質量部使用したこと以外は、製造例6と同様の製造法にて収率99%、固形分濃度45%、pH10.5、平均粒子径0.7μmの水性分散体組成物を得た。
【0086】
(i)耐チッピング性水系プライマーとして使用する場合
(実施例1)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例11にて製造した水性分散体をそれぞれ、乾燥膜厚が5μmとなるように塗装し常温乾燥させた。次いで、耐チッピング性付与水性分散体塗膜上に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料をエアースプレーにて厚さ約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0087】
(参考例11〜15)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例6〜10にて製造した水性分散体をそれぞれ、乾燥膜厚が5μmとなるように塗装し常温乾燥させた。次いで、耐チッピング性付与水性分散体塗膜上に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料をエアースプレーにて厚さ約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0088】
(比較例1)
参考例11に示した方法にて、耐チッピング性付与水性分散体の塗膜を形成しなかったこと以外は、すべて同一条件で試験サンプルを作成し、同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
(ii)耐チッピング性付与添加剤として使用する場合
(実施例2)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料の樹脂固形分100質量%に対し、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例11にて製造した水性分散体を、それぞれ10質量%加えた塗料をエアースプレーにて、乾燥塗膜厚さが約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0090】
(参考例16〜20)
公知の電着エポキシ塗料により表面処理(厚さ約20μm)を施した鋼板の電着塗料表面に、変性ポリエステルアルキッド樹脂/イミノメチロール型アミノ樹脂系水系塗料の樹脂固形分100質量%に対し、本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物である製造例5〜10にて製造した水性分散体を、それぞれ10質量%加えた塗料をエアースプレーにて、乾燥塗膜厚さが約30μmとなるように塗装し、140℃にて30分間加熱硬化し、試験サンプルを作成した。
それぞれのサンプルについて、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0091】
(比較例2)
参考例16に示した方法にて、耐チッピング性付与水性分散体を塗料に添加しなかったこと以外は、すべて同一条件で試験サンプルを作成し、同様の評価を行った。結果を表4に示す。
なお、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性、耐チッピング性の評価方法は、以下に拠った。
【0092】
評価方法
実施例、比較例で作成した試験サンプルに対し、下記に従って塗膜性能を評価した。○は良好、×は不良を表す。
(1)塗装外観試験サンプルを光学式表面状態測定機(神戸製鋼社製superi)にて測定を行い、サーフェイスインデックスで30以下を良好とした。
(2)密着性試験サンプルの塗膜面にマルチクロスカッターを用いて、素地に軽く達する等間隔で1mmの平行線を互いに直行させて引き、1mm平方の正方形を100個作った。この状態で幅に余裕のあるセロハン粘着テープを密着させ上方に一気に引き剥がし、塗面のはがれを生じない正方形の数を調べ全数(100個)に対し、すべてが剥離しないものを良好とした。
(3)耐熱性試験サンプルを90℃の恒温槽に500時間放置し、24時間室温に放置した後、塗膜外観および、変色、つや、ひけなど熱による塗装表面変化を調べ、変化が無いものを良好とした。
(4)耐湿性温度、湿度とも調整可能な密閉箱を使用して、試験サンプルを温度50±1℃、相対湿度98%以上に調整して水平に置き、24時間ごとにふくれの発生およびその変化の状態を240時間まで調べ、変化の無いものを良好とした。
(5)耐ガソリン性試験サンプルの表面にガソリンを約0.5〜0.8ml滴下し、試験室に4時間放置した後、布で拭き取り直ちに塗膜について、つや引け、しみ、軟化、はがれ、亀裂が無いかを調べ、変化の無いものを良好とした。
(6)耐チッピング性(飛び石試験)グラベロメータ法により塗膜の耐擦傷性を調べた。まず、ショット材として7号砕石(JISA5001−7〔道路用砕石〕に規定するもの)を使用し、このショット材が90度の角度で当たるように試験サンプルをグラベロメータの所定位置にセットした。次に4.0kg/cm2のエアー圧に調節したグラベロメータに250gのショット材を入れ、エアバルブを開いてショット材を試験サンプルに吹き付け、吐出後、試験サンプルを取り外し、試験塗面へセロハン粘着テープを張り付け、塗面の剥離状態を調べ、剥離状態を5点満点で評価し4点以上を良好とした。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の耐チッピング性付与水性分散体組成物は、オレフィン系熱可塑性エラストマー、またはスチレン−共役ジエンブロック共重合体もしくはその水素添加物を含有する樹脂組成物が水に分散してなり、該水性分散体組成物を水系プライマー、または水系塗料の添加剤として使用することにより、得られる塗膜は、耐チッピング性に優れ、かつ、塗膜外観、密着性、耐熱性、耐湿性、耐ガソリン性などの特性にも優れるので産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物を含有する不揮発性成分(膜形成成分)が、水に分散してなり、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−3)スチレン−不飽和酸化合物共重合体を0.5〜20質量部含有することを特徴とする耐チッピング性付与水性分散体組成物。
【請求項2】
上記耐チッピング性付与水性分散体組成物が、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、(b−1)カルボン酸変性熱可塑性重合体および(b−2)脂肪酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を0.5〜20質量部含有することを特徴とする耐チッピング性付与水性分散体組成物。
【請求項3】
上記耐チッピング性付与水性分散体組成物が、さらに、上記(a')スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物100質量部に対して、下記式(I)で表わされる(c)窒素化合物を0.1〜30質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐チッピング性付与水性分散体組成物。
【化1】

(ただし、上記式(I)において、R1は−(CH2−CH2O)m−H(mは1〜10)で表される基であり、R2は−(CH2−CH2O)n−H(nは1〜10)で表される基、炭素数が1〜10のアルキル基もしくはアリール基または水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である)。

【公開番号】特開2011−68912(P2011−68912A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287613(P2010−287613)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【分割の表示】特願2002−516020(P2002−516020)の分割
【原出願日】平成13年7月27日(2001.7.27)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】