説明

耐トラッキング性能を向上した絶縁電線およびその製造方法

【課題】海風の強い海岸地域、すなわち塩害発生地域でも長期間使用できる耐トラッキング性能に優れたリサイクル絶縁電線、すわなち、架橋ポリオレフィン(系)廃材を用いて絶縁層を形成した絶縁電線およびその製造方法を提供する。
【解決手段】導体を絶縁層で被覆した絶縁電線の製造方法であって、架橋ポリオレフィン(系)樹脂の廃材を再生処理してゲル分率5〜10%、MFRが0.1〜10g/minの再生材とし、該再生材と再生材ではないポリオレフィン(系)樹脂とを、再生材が全樹脂量に対し30質量%以下となる範囲で混合して再生材混合樹脂を得て、該再生材混合樹脂で絶縁層を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関するものであり、更に詳しくは架橋ポリオレフィン類を再生利用する方法とそれにより得られた耐トラッキング性能を向上した絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線は、銅またはアルミ等の導体の外周にポリ塩化ビニルやポリエチレン、架橋ポリエチレン等からなる絶縁層で被覆したものである。
ところで近年、資源リサイクルの重要性が叫ばれている中、これら絶縁電線やケーブルも、使用後には、回収して導体と被覆廃材に分離し、被覆廃材をリサイクルすることが求められている。
この被覆廃材が、ポリ塩化ビニルやポリエチレンである場合は、これらが熱可塑性樹脂であり再成形加工が容易であるためリサイクルが容易であるが、架橋ポリエチレンである場合は、架橋による三次元構造で加熱溶融できず再成形加工が困難であるためリサイクル化が遅れていた。
しかし、近年、関係者の努力により、架橋ポリエチレン廃材を絶縁層に利用できる段階まで、リサイクル技術が進歩してきた。
【0003】
架橋ポリエチレン絶縁電線のリサイクル技術としては、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の技術により、電線等に使用された架橋ポリエチレン廃材をリサイクル、再利用して電気特性および強度・伸びに優れた電線被覆材を実現するという目標は基本的に実現できる。
ところで、この特許文献1の技術を用いて製造した絶縁電線は、通常レベルの用途には問題ないものの、過酷な環境下で使用すると必ずしも満足できるものではなかった。そのため架橋ポリエチレン廃材を再利用し、かつ、性能を高めて使用可能範囲を拡げた過酷な環境下での使用に耐える絶縁電線の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−66262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、海風の強い海岸地域、すなわち塩害発生地域でも長期間使用できる耐トラッキング性能に優れたリサイクル絶縁電線、すわなち、架橋ポリオレフィン(系)廃材を用いて絶縁層を形成した絶縁電線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は下記手段によって達成された。
(1)導体を絶縁層で被覆した絶縁電線の製造方法であって、架橋ポリオレフィン(系)樹脂の廃材を再生処理してゲル分率5〜10%、MFRが0.1〜10g/minの再生材とし、該再生材と再生材ではないポリオレフィン(系)樹脂とを、再生材が全樹脂量に対し30質量%以下となる範囲で混合して再生材混合樹脂を得て、該再生材混合樹脂で絶縁層を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
(2)前記架橋ポリオレフィン(系)廃材の再生処理を、処理温度250℃〜400℃、剪断速度200sec−1以上で行うことを特徴とする(1)に記載の絶縁電線の製造方法。
(3)前記絶縁層に含まれる樹脂を架橋処理することを特徴とする(1)または(2)に記載の絶縁電線の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法で製造された絶縁電線。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、架橋ポリオレフィン(系)廃材を絶縁電線の絶縁層に利用しても、絶縁電線に要求される電気的特性および機械的特性を有し、しかも高い耐トラッキング性能を発揮し、塩害を受けやすい地域を通して架線しても塩害問題を発生することのない絶縁電線を得ることを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の絶縁電線およびその製造方法では、まず、架橋ポリオレフィン(系)廃材を再生処理し、ゲル分率5〜10%、MFR(メルトフローレート)が0.1〜10g/minの再生材とする。次いで、この再生材を、再生材ではないポリオレフィン(系)樹脂と混合して、再生材混合樹脂にする。混合割合は、混合樹脂中の全樹脂量に対し再生材が30質量%以下になるようにする。
このように調製した再生材混合樹脂を、銅、アルミニウム等で形成された導体上に押出被覆して、絶縁層とし、絶縁電線を得る。
【0009】
本発明で再利用する架橋ポリオレフィン(系)廃材は、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のポリオレフィン系樹脂から選ばれた樹脂の架橋体の廃材である。これらは1種もしくは2種以上の混合物であっても良い。
本発明で用いる架橋ポリオレフィン(系)廃材の発生源には、例えば、電線の被覆や、給水用、給湯用、屋内暖房用のパイプ、または各種発泡体などが挙げられるが、特に限定されるものではない。また回収された廃材の使用年数は関係なく、極端に劣化が進んだものでも支障はない。
本発明の絶縁電線に用いられる架橋ポリオレフィン(系)廃材はどのような架橋処理を行ったものでもよく、例えば、有機過酸化物やシラン化合物、電子線などによって架橋されたもの(架橋体)を使用することができる。
【0010】
本発明には、上記の架橋ポリオレフィン(系)廃材を再生処理した再生材を使用する。
本発明に用いられる再生材の再生処理方法は、再生材のゲル分率5〜10%、MFRが0.1〜10g/minになるものであれば特に制限はないが、例えば、同方向噛み合い型二軸押出機で適切な条件のもと架橋を切断する熱可塑化処理する方法などが利用できる。
【0011】
前記押出機で処理する際の再生処理条件は、上記の再生材のゲル分率が5〜10%、MFRが0.1〜10g/minとなるように適宜調整できるが、好ましい処理温度は250℃〜400℃であり、好ましい剪断速度は200sec−1以上である。なお、本発明における剪断速度とは、押出機のスクリューエレメント最外周部の周速度(mm/s)をスクリューとバレルとのクリアランス(mm)で除した数値をいう。
【0012】
再生材のゲル分率、MRFが前記範囲内であるとすることにより、本発明の目的とする絶縁電線の耐トラッキング性が得られる。
【0013】
前記再生材は再生材ではないポリオレフィン(系)樹脂と混合する。
本発明において、再生材とともに混合するポリオレフィン(系)樹脂としては、通常絶縁電線に使用しているポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン系樹脂を利用できる。ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及びポリプロピレン等がある。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等がある。中でも高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンもしくは低密度ポリエチレンの使用が好ましい。これらは1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
再生材とポリオレフィン(系)樹脂との混合比は、全樹脂量(再生材とポリオレフィン(系)樹脂の合計量)に対し再生材を30質量%以下(ただし、0は含まない)である。再生材の配合量を30質量%以下にすると、絶縁電線の耐トラッキング性が良好である。
【0015】
本発明の絶縁電線の製造には、一般的に使用されている押出機を使用することが出来る。また本発明における絶縁電線の絶縁層を形成する再生材混合樹脂には、通常樹脂に添加される酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を必要に応じて適量添加することも出来る。また、上記の再生材混合樹脂は、導体上に直接被覆しても良いし、半導体層など別の層を介して被覆しても良い。
【0016】
前記再生材混合樹脂は、導体上に押出被覆後架橋されてもよい。架橋方法としては通常の架橋方法を適宜選択すればよく、特に限定しないが、例えば、有機過酸化物を添加した組成物を電線に被覆したのち加熱処理する「過酸化物架橋方法」、シラン化合物と架橋助剤を添加した組成物を電線に被覆したのち水分により架橋させる「シラン架橋方法」、電子線照射による「電子線架橋方法」などが挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
下記の架橋ポリオレフィン(系)廃材、その再生材及びポリオレフィン(系)樹脂を使用した。
〔架橋ポリオレフィン(系)廃材〕
有機過酸化物により架橋された屋外用架橋ポリエチレン電線被覆廃材を10mm以下のサイズに粉砕したもの。なお、屋外用架橋ポリエチレン電線被覆廃材は、撤去された絶縁電線から、有機過酸化物により架橋されたものを選別したが、わずかにこの方法以外で架橋された電線被覆廃材も混入している。この影響で、後述する再生材のゲル分率、MRFが変化する。
〔再生材〕
上記の架橋ポリエチレン廃材を同方向噛み合い型二軸押出機を用い、処理温度は300℃、剪断速度は2200〜2300sec−1として再生処理を行って再生材を得た。なお、ゲル分率およびMFRの測定方法は以下の方法で測定した。
(ゲル分率)
ゲル分率は、定法に従って、加温したキシレンに試料を入れ、溶解せずに残った試料の質量を測定し、これと試験前の試料の質量との比をゲル分率とした。具体的な方法は、JIS C 3005中の「4.25架橋度」によった。
(MFR)
JIS K7210により、190℃×2.16kgで測定した。
〔ポリオレフィン(系)樹脂〕
ポリエチレン樹脂、NUCG9301(ダウ・ケミカル(株)製)
【0019】
(絶縁電線の製造)
再生材およびNUCG9301を混合して再生材混合樹脂にした。混合比は、それぞれ実施例1〜9、および比較例1〜3において、表1のとおりとした。
さらに、再生材混合樹脂とシラン液(A−171(ダウ・ケミカル(株)製)と触媒マスターバッチ(モルデックスCM846(アプコ(株)製))とをホッパーから投入し、直径120mm単軸押出機を用いて、ミキシングゾーンを180℃以下、グラフト反応ゾーンを220℃以下、スクリュー回転数を50rpmで設定し、断面積240mmのアルミ導体に厚さ3mmの肉厚で押出して、樹脂組成物で被覆された難着雪型の絶縁電線を製造した。製造された絶縁電線を、80℃、24時間温水バスに浸漬し架橋処理を行った。
シラン液の投入量は再生材混合樹脂100質量部に対して2.3質量部、触媒マスターバッチの投入量は再生材混合樹脂100質量部に対して5質量部とした。
【0020】
【表1】

【0021】
(評価方法)
実施例1〜9および比較例1〜5で製造した絶縁電線の評価は電力用規格C−250屋外用鋼心アルミ導体架橋ポリエチレン絶縁電線(ACSR−OC)に準拠し以下の方法により測定した。
なお、ACSR−OCの規格値は次の通りである。
絶縁体の引張り強さ 9.81MPa以上
絶縁体伸び 350%
加熱試験 引張伸び、強さとも加熱前の値の80%以上
耐加熱変形試験 厚さの減少率40%以下
耐トラッキング 噴霧回数101回においても、0.5A以上の電流が
試料表面を流れないか、または燃え上がらないこと
耐電圧 12,000Vの試験電圧に1分間耐えること
評価方法
〔引張試験〕
JIS C3005による。引張速さは200mm/minで行なう。
〔加熱試験〕
JIS C3005による。加熱温度は120±3℃、96hrで行う。
〔耐加熱変形試験〕
JIS C3005による。加熱温度は120±3℃、加える荷重は20Nで行なった。
〔耐トラッキング性試験〕
JIS C3005による。塩化ナトリウム水溶液(濃度2g/L)の噴霧回数は101回で行なう。表2中○は、0.5A以上の電流が試料の表面を流れないか、または燃え上がらず、上記規格値が満たされたことを示している。
なお、噴霧回数101回後において絶縁層が燃え上がらない場合は、引き続き絶縁層が燃え上がるまで噴霧し、その回数を比較した。
〔耐電圧試験〕
JIS C3005による。表2中○は、12,000Vの試験電圧に1分間耐えて絶縁破壊せず、上記規格値が満たされたことを示している。
(評価結果)
各項目の評価の結果は表2のとおりである。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例1〜9の絶縁電線は、耐トラッキング性試験において、絶縁層が発火するまでの回数が500以上であった。これに対して、比較例1〜5の絶縁電線は300回以下であった。
実施例の絶縁電線は、絶縁材料に新材のみを用いた架橋ポリエチレン絶縁電線の耐トラッキング性能(絶縁被覆が発火するまでの回数500〜700回)に匹敵している。
この結果から、特定の再生材混合樹脂で絶縁層を形成した実施例1〜9の絶縁電線は、塩害地域に架空されても長期間使用できることが分かる。
本発明の規定する要件を満たさない再生材混合樹脂で絶縁層が形成された比較例の絶縁電線が、耐トラッキング性で300回以下の噴霧回数になった。このように耐トラッキング性が大きく異なる理由についてはまだ定かではないが、次のように推定している。
まず、再生材の配合量が多い比較例1、ゲル分率が高い比較例2は、強いて言えば、絶縁電線の表面荒れが大きいため、耐トラッキング性能が高くならなかったものと考えられる。
また、MFRが大きい比較例3、ゲルが低い比較例4、MFRが小さい比較例5も耐トラッキング性能が高くないが、これらの絶縁電線は、絶縁材料に新材のみを用いたものと比べると、より高い表面光沢を呈しており、この表面状態が、噴霧した水溶液中の塩化ナトリウムが電線表面に残留する量に影響しているものと考えられる。
なお、実施例のものは、何れも、規格を満足する機械特性、耐熱性および耐電圧性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁層で被覆した絶縁電線の製造方法であって、架橋ポリオレフィン(系)樹脂の廃材を再生処理してゲル分率5〜10%、MFRが0.1〜10g/minの再生材とし、該再生材と再生材ではないポリオレフィン(系)樹脂とを、再生材が全樹脂量に対し30質量%以下となる範囲で混合して再生材混合樹脂を得て、該再生材混合樹脂で絶縁層を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
前記架橋ポリオレフィン(系)廃材の再生処理を、処理温度250℃〜400℃、剪断速度200sec−1以上で行うことを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁層に含まれる樹脂を架橋処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で製造された絶縁電線。


【公開番号】特開2010−177183(P2010−177183A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21954(P2009−21954)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】