説明

耐トラッキング性試験用試験液塗布装置及び耐トラッキング性試験方法

【課題】耐トラッキング試験にあたって試験対象に対して試験液を塗布する際に、試験液を所望の方向に向けて塗布すると共に広範な範囲に塗布することができ、且つ正確な塗布量と塗布間隔でこの試験液の塗布を行うことができる耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を提供する。
【解決手段】試験液1を貯留する試験液タンク2を具備する。試験液1を噴霧状に吐出するノズル部3を具備する。試験液1が流通する流路を具備する。試験液タンク2内の試験液1を流路へ流入させるための駆動力を供給する駆動部4を具備する。流路内の試験液1の加圧状態を調整して一定の圧力でノズル部3へ送る加圧調整部5を具備する。流路におけるノズル部3への試験液1の供給を開閉する開閉弁6を具備する。前記駆動部4及び開閉弁6を制御することでノズル部3からの試験液1の吐出量及び吐出間隔を調整する制御部7とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐トラッキング性試験にあたり、試験対象に試験液を塗布するための耐トラッキング性試験用試験液塗布装置、及びこの耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を用いた耐トラッキング試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐トラッキング試験は、試験対象に電圧を印加しながら、この試験対象に試験液である塩水や塩化アンモニウム水溶液等を試験対象に間欠的に滴下し、漏洩電流や加熱変色等の発生を観察することにより行われている(非特許文献1等参照)。
【0003】
しかし、試験対象に対して試験液を滴下により供給する場合には、滴下箇所が下部方向の一箇所であり、試験上の制約がある。すなわち、試験対象の表面の広範囲に亘る領域に試験液を供給する必要がある場合には試験対象に試験液を充分に供給することは困難であり、また、例えば制御盤等のように縦型の機器に対して試験を行う場合には滴下により試験液を供給することはできなかった。
【0004】
また、耐トラッキング性試験にあたって試験液をスプレー状に吐出するものもあるが(特許文献1参照)、単にスプレー状に吐出するだけでは正確に一定量の試験液を間欠的に吐出することは困難なものであった。
【非特許文献1】「社団法人日本配線器具工業界規格 電源プラグの耐トラッキング性」 社団法人日本配線器具工業会
【特許文献1】特開2000−221231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、耐トラッキング試験にあたって試験対象に対して試験液を塗布する際に、試験液を所望の方向に向けて塗布すると共に広範な範囲に塗布することができ、且つ正確な塗布量と塗布間隔でこの試験液の塗布を行うことができる耐トラッキング性試験用試験液塗布装置、及びこの耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を用いた耐トラッキング性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る耐トラッキング性試験用試験液塗布装置は、耐トラッキング性試験の試験対象に試験液1を塗布するために用いられる。この耐トラッキング性試験用試験液塗布装置は、試験液1を貯留する試験液タンク2を具備する。また、試験液1を噴霧状に吐出するノズル部3を具備する。また、試験液1が流通する流路を具備する。また、試験液タンク2内の試験液1を流路へ流入させるための駆動力を供給する駆動部4を具備する。また、流路内の試験液1の加圧状態を調整して一定の圧力でノズル部3へ送る加圧調整部5を具備する。また、流路におけるノズル部3への試験液1の供給を開閉する開閉弁6を具備する。また、前記駆動部4及び開閉弁6を制御することでノズル部3からの試験液1の吐出量及び吐出間隔を調整する制御部7とを具備する。
【0007】
この試験液塗布装置は、上記流路のノズル部3側から順に加圧調整部5と駆動部4とを設け、前記加圧調整部5が、試験液1を一旦貯留する貯留槽8と、貯留槽8内の試験液1の液量を検知するセンサ部9と、貯留槽8内の試験液1を一定の圧力で加圧する加圧手段10とを具備し、上記制御部7が、センサ部9による液量の検知結果が所定の値に満たない場合に駆動部4を駆動して試験液タンク2内の試験液1を加圧調整部5の貯留槽8に供給するものであることが好ましい。
【0008】
また、洗浄液11を貯留する洗浄液タンク12を具備し、上記駆動部4により試験液タンク2内の試験液1を流路へ流入させるための駆動力を供給する状態と、この駆動部4により洗浄液タンク12内の洗浄液11を流路へ流入させるための駆動力を供給する状態とに切替える切替手段を具備することも好ましい。
【0009】
また、上記ノズル部3と上記駆動部4及び加圧調整部5との間における流路での試験液1の流量を測定する流量センサ13を備えていることも好ましい。
【0010】
また、本発明に係る耐トラッキング性試験方法は、耐トラッキング性試験の試験対象に電圧を印加した状態で、この試験対象の表面に上記耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を用いて試験液1を間欠的に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る耐トラッキング性試験用試験液塗布装置によれば、試験液1をノズル部3から噴霧状に吐出するため、試験液1を試験対象の表面の広範囲に亘る領域に塗布することができ、また試験液1の吐出方向は下方向に限られず、ノズル部3による試験液1の吐出方向を変更することで種々の方向へ試験液1を吐出することができ、例えば制御盤等のような縦型の機器に対して耐トラッキング性試験を行う場合にも、試験液1の供給が可能となる。また、試験液1は一旦加圧調整部5にて圧力調整がなされた後にノズル部3から吐出されるので、試験液1を一定の圧力で安定して吐出することが可能となると共に、その吐出量及び吐出間隔を制御部7にて正確に制御することができ、試験液1の吐出条件を正確に制御することが可能となり、耐トラッキング性試験の試験条件を正確に制御して精度の高い試験を行うことが可能となるものである。
【0012】
また、加圧調整部5では、貯留槽8に貯留された試験液1を加圧手段10にて一定の圧力で加圧することで試験液1を一定の圧力で吐出することができるものであり、またこの貯留槽8内の試験液1をセンサ部9による検知結果に基づいて補充することができて、貯留槽8内の試験液1の不足により試験中に試験液1の塗布が中断されるようなことを防止することができるものである。
【0013】
また、耐トラッキング性試験用試験液塗布装置の使用後に、洗浄液タンク12内の洗浄液11を流路に供給することで流路内を洗浄することができ、流路内に試験液1が残留することを防止することができて、その後にこの耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を用いて耐トラッキング性試験を行う場合に、ノズル部3から吐出される試験液1の濃度や組成が変動することを防止し、正確な耐トラッキング試験を行うことができるようになるものである。
【0014】
また、本発明に係る耐トラッキング性試験によれば、試験液1をノズル部3から噴霧状に吐出するため、試験液1を試験対象の表面の広範囲に亘る領域に塗布することができ、また試験液1の吐出方向は下方向に限られず、ノズル部3による試験液1の吐出方向を変更することで種々の方向へ試験液1を吐出することができ、例えば制御盤等のような縦型の機器に対して耐トラッキング性試験を行う場合にも、試験液1の供給が可能となる。また、試験液1は一旦加圧調整部5にて圧力調整がなされた後にノズル部3から吐出されるので、試験液1を一定の圧力で安定して吐出することが可能となると共に、その吐出量及び吐出間隔を制御部7にて正確に制御することができ、試験液1の吐出条件を正確に制御することが可能となり、耐トラッキング性試験の試験条件を正確に制御して精度の高い試験を行うことが可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0016】
図1は耐トラッキング性試験用試験液塗布装置(以下、試験液塗布装置という)の構成図を示す。
【0017】
この試験液塗布装置では、試験液1を貯留する試験液タンク2と、試験液1を噴霧状に吐出するノズル部3との間が、試験液1が流通する流路にて接続されている。この流路は、試験液タンク2から導出された試験液流路15と、この試験液流路15に接続され末端にノズル部3が接続されている主流路14とから、構成されている。
【0018】
ノズル部3は適宜のホルダ17にて支持されている。このホルダ17はノズル部3を支持した状態でこのノズル部3を回動させるなどして、ノズル部3による試験液1の吐出方向を変更可能としたものであることが好ましい。
【0019】
試験液流路15には、この流路を開閉する電磁弁等の開閉弁18が設けられている。
【0020】
また、主流路14には、ノズル部3側から順に開閉弁6、流量センサ13、加圧調整部5及び駆動部4が、設けられている。ここで、主流路14は、試験液流路15と加圧調整部5との間を接続する第一流路14aと、加圧調整部5とノズル部3との間を接続する第二流路14bとで構成されている。
【0021】
第一流路14aには駆動部4が設けられる。この駆動部4は試験液タンク2内の試験液1を流路へ流入させるための駆動力を供給する機能を有し、例えば適宜のポンプで構成することができる。
【0022】
加圧調整部5は流路内の試験液1の加圧状態を調整して一定の圧力でノズル部3へ送る機能を有する。この加圧調整部5は、試験液1を一旦貯留する貯留槽8と、貯留槽8内の試験液1の液量を検知するセンサ部9と、貯留槽8内の試験液1を一定の圧力で加圧する加圧手段10とを具備する。
【0023】
図2に加圧調整部5の要部の構成を示す。貯留槽8は上下が開口する透明な筒状体19で構成されており、この筒状体19は例えばアクリルパイプにて形成される。この筒状体19の外周面は全面に亘ってステンレスパイプ等の不透明な補強用外皮20にて覆われることで、貯留槽8からの内圧による筒状体19の破損の発生を防止するようにしている。この補強用外皮20の一部には観測窓21となる開口が設けられている。この筒状体19及び補強用外皮20の上面開口及び下面開口はそれぞれステンレス材等で形成される本体プレート22にて閉塞されている。このとき本体プレート22から突出する嵌合凸部23と筒状体19の上下各開口の内周面とが嵌合するようになっている。筒状体19及び補強用外皮20の上下の端面と本体プレート22との間にはガスケット24が介在し、また筒状体19の上下各開口の内周面と嵌合凸部23の外周面との間にはo−リング25が介在することで水密性が確保されている。
【0024】
また、この二つの本体プレート22には外周方向に向けて突出する鍔部26が設けられており、上下の本体プレート22の鍔部26間が複数の棒状のフレーム27で接続されている。これにより二つの本体プレート22の間に筒状体19及び補強用外皮20が挟持された状態が維持されている。ここで、図示の例では本体プレート22の鍔部26にはそれぞれ複数の通孔28が穿設されており、各フレーム27は前記通孔28に挿通されている。また、フレーム27の一端には通孔28よりも大径の頭部29が設けられており、この頭部29が一方(下方)の本体プレート22の外面に係止されている。またフレーム27の他端の外周面には雄螺子溝30が刻設されており、この雄螺子溝30にナット31を締結し、このナット31を他方(上方)の本体プレート22の外面に係止している。これにより本体プレート22間には互いに近づく方向の荷重がかけられ、筒状体19及び補強用外皮20が挟持されている。
【0025】
また、図示の例では、上記他方(上方)の本体プレート22とナット31との間において、フレーム27が適宜の支持材32に穿設された通孔に挿通されており、このため本体プレート22の外面とナット31との間で支持材32が挟持されている。これにより加圧調整部5が支持材32に支持されている。
【0026】
この加圧調整部5に設けられるセンサ部9は、貯留槽8内の試験液1の液量を検知する機能を有する。図示の例ではセンサ部9はフロートスイッチ(上部フロートスイッチ34a)にて構成されており、このフロートスイッチ34aは貯留槽8内の試験液1の貯留量が一定の値にあるか否かを検知するものとして形成されている。上部フロートスイッチ34aは通常用いられている適宜のものを採用することができ、図示の例では上方の本体プレート22から貯留槽8内側へ突出するステム35aにフロート36aをナット37aとストッパ38aとの間で上下動自在に挿通して構成され、貯留槽8内の試験液1の貯留量が予め設定された量に達した場合、及びこの設定された量を下回った場合に、上部フロートスイッチ34aのオンオフが切り替わるようになっている。
【0027】
また、下方の本体プレート22には二つの流通孔39,40が穿設されており、一方の流通孔39は第一流路14aの下流側端部が貯留槽9に連通して接続され、他方の流通孔40には第二流路14bの上流側端部が貯留槽9に連通して接続される。これにより主流路14の配管途中に加圧調整部5が設けられる。
【0028】
また、上方の本体プレート22には通気孔41が穿設されており、この通気孔41に圧調整ガス流路42が貯留槽8に連通して接続されている。この圧調整ガス流路42には、加圧手段10として機能するレギュレータ43が設けられており、またこの圧調整ガス流路42の先端には残圧抜き弁44が設けられている。
【0029】
また、第二流路14bに、上流側から順に流量センサ13、電磁弁等の開閉弁6が設けられ、第二流路14bの下流側端部にノズル部3が設けられている。
【0030】
ノズル部3は第二流路14bに供給された試験液1を噴霧状に吐出する機能を有する。
【0031】
また、開閉弁6とノズル部3との間において第二流路14bから分岐する返送流路45が設けられている。この返送流路45は試験液タンク2に接続されている。返送流路45には電磁弁等の開閉弁46が設けられている。
【0032】
また、この試験液塗布装置には、試験液塗布装置の動作制御を行う制御部7が設けられている(図3参照)。制御部7はタッチパネル等の適宜の入力装置で構成される入力部47、シーケンサ48、及びインターバルタイマ49にて構成されている。入力部47は操作者による入力操作により試験液1の吐出量、吐出回数、吐出間隔、吐出開始指令等の動作設定情報を入力された場合に、その動作設定情報をシーケンサ48に出力する。インターバルタイマ49は吐出休止時の経過時間情報を生成してシーケンサ48に出力する。シーケンサ48は前記入力部47、インターバルタイマ49、第二流路14bの流量センサ13、及び圧力制御部7のセンサ部9から入力された情報に基づいて、駆動部4、圧力制御部7、試験液流路15の開閉弁18、第二流路14bの開閉弁6及び返送流路45の開閉弁46の動作を制御する。
【0033】
試験液1を吐出する際の制御部7による試験液塗布装置の動作制御の一例について説明する。
【0034】
まず、操作者は予めレギュレータ43を調整して加圧調整部5の貯留槽8にかけられる圧力を設定した上で、入力部47を制御して試験液1の吐出量、吐出回数、吐出間隔を設定し、更に吐出開始指令を入力する。
【0035】
吐出開始指令がシーケンサ48に入力されると、シーケンサ48はまず試験液流路15の開閉弁18を開くと共に第二流路14bの開閉弁6及び返送流路45の開閉弁46を閉じた状態で、駆動部4を作動させる。そうすると、貯留槽8内の試験液1は試験液流路15及び第一流路14aを介して加圧調整部5の貯留槽8内に供給される。この貯留槽8内に試験液1が供給されることによりその貯留量が予め設定された量に達すると、上部フロートスイッチ34aのオンオフが切り替わってその情報がシーケンサ48に入力される。この情報が入力されると、シーケンサ48は駆動部4の動作を停止すると共に試験液流路15の開閉弁18を閉じる。これにより、加圧調整部5の貯留槽8内に試験液1をその貯留量の上限まで供給する。尚、既に貯留槽8内に試験液1がその設定された量まで貯留されている場合には、この動作は行われない。
【0036】
このように加圧調整部5の貯留槽8内に試験液1を貯留した後、シーケンサ48は第二流路14bの開閉弁6を開く。そうすると貯留槽8内でレギュレータ43により加圧された試験液1が第二流路14bを介してノズル部3から吐出される。
【0037】
ノズル部3から試験液1が吐出されている間、シーケンサ48は流量センサ13による検出情報を監視し、その積算流量が予め設定された上記試験液1の吐出量の設定値に達したら、第二流路14bの開閉弁6を閉じて、ノズル部3からの試験液1の吐出を休止する。
【0038】
吐出休止後、インターバルタイマ49から入力される経過時間情報に基づく経過時間が、予め設定された上記吐出間隔に達したら、シーケンサ48は第二流路14bの開閉弁6を再び開いて、ノズル部3からの試験液1の吐出を再開する。このようにして、ノズル部3からの試験液1の吐出と吐出休止の動作を繰り返すことにより、試験液1をノズル部3から間欠的に吐出する。
【0039】
そして、試験液1の吐出回数が、予め設定された上記吐出回数に達したら、第二流路14bの開閉弁6を閉じたまま状態に維持し、吐出を終了する。
【0040】
吐出が終了されたら、シーケンサ48は返送流路45の開閉弁46を開く。そうすると、第二流路14bの開閉弁6とノズル部3との間に残留している試験液1が返送流路45を介して試験液タンク2に返送され、ノズル部3からの液だれが防止されると共に返送した試験液1を再利用することができる。
【0041】
吐出終了後、更に操作者が入力部47を操作して吐出開始指令を入力すると、上記動作により再び試験液1の間欠的な吐出がなされる。また吐出量、吐出回数、吐出間隔の設定をし直した上で吐出開始指令を入力すると、変更後の吐出量、吐出回数、吐出間隔にて再び試験液1の間欠的な吐出がなされる。
【0042】
また、このように試験液1を吐出することにより加圧調整部5の貯留槽8における試験液1の貯留量が低減して予め設定された量を下回り、上部フロートスイッチ34aのオンオフが切り替わって、その情報がシーケンサ48に入力されたら、シーケンサ48は試験液流路15の開閉弁18を開くと共に駆動部4を作動させる。そうすると試験液タンク2内の試験液1が試験液流路15及び第一流路14aを介して加圧調整部5の貯留槽8に供給される。これにより貯留槽8内の試験液1の貯留量が予め設定された量に達し、上部フロートスイッチ34aのオンオフが切り替わって、その情報がシーケンサ48に入力されると、シーケンサ48は駆動部4を停止すると共に試験液流路15の開閉弁18を閉じて、試験液1の供給を停止する。これにより、加圧調整部5の貯留槽8への試験液1の補充が為される。
【0043】
このようにして試験液1の吐出を行うと、試験液1をノズル部3から噴霧状に吐出するため、試験液1を試験対象の表面の広範囲に亘る領域に塗布することができる。尚、試験対象における試験液1が塗布される範囲は、ノズル部3と試験対象との間の寸法を変更することで調整することができる。
【0044】
また、このように試験液1は噴霧状に吐出されるため、試験液1の吐出方向は下方向に限られず、ノズル部3による試験液1の吐出方向を変更することで種々の方向へ試験液1を吐出することができる。試験液1の吐出方向は、例えばノズル部3を支持するホルダ17によりノズル部3を回動させるなどして調整することができる。このため、例えば制御盤等のような縦型の機器に対して耐トラッキング性試験を行う場合にも、試験液1の供給が可能となるものである。
【0045】
また、試験液1は一旦加圧調整部5にて圧力調整がなされた後にノズル部3から吐出されるので、試験液1を一定の圧力で安定して吐出する可能となり、また、その吐出量及び吐出間隔は制御部7にて正確に制御することができる。このため、試験液1の吐出条件を正確に制御することが可能となり、ひいては耐トラッキング性試験の試験条件を正確に制御して精度の高い試験を行うことが可能となる。
【0046】
このような試験液塗布装置を用いて各種の試験対象に対して耐トラッキング性試験を行うにあたっては、試験液1の供給を上記試験液塗布装置を用いて行う点を除けば、従来から行われている適宜の手法を採用することができる。
【0047】
すなわち、試験対象に電圧を印加した状態で、この試験対象の表面に上記試験用試験液塗布装置を用いて試験液1を間欠的に塗布し、この間における試験対象での漏洩電流や加熱変色等の発生を観察することにより、耐トラッキング性を評価することができる。
【0048】
このような試験液塗布装置を使用して試験液1の吐出を行った後、流路内に試験液1が残留した状態で長時間放置する場合には、試験液1が乾燥することにより流路内に高濃度となった試験液1が残留し、或いは試験液1中の塩化アンモニウム等が結晶化して付着する場合がある。また、次回の試験時において試験液1を組成が異なるものに交換する場合には、流路内に前回使用された異なる組成の試験液1が残留することになる。このような場合に再び試験液塗布装置を使用して試験液1の吐出を行うと、ノズル部3から吐出される試験液1の濃度や組成が変動し、正確な耐トラッキング試験を行うことができなくなるおそれがある。このため、試験液塗布装置を長時間使用しない場合には装置内の流路から試験液1を排出し、或いは更にこの流路を洗浄することが好ましい。
【0049】
図示の実施形態では、このような試験液1の排出及び流路の洗浄を行うための機構も設けられている。
【0050】
試験液塗布装置には、水等の洗浄液11を貯留する洗浄液タンク12が設けられている。この洗浄液タンク12からは洗浄液流路16が導出されており、この洗浄液流路16は第一流路14aの上流側端部に接続されている。すなわち、第一流路14aの上流側端部から分岐して洗浄液流路16と試験液流路15とが接続されている。この洗浄液流路16には電磁弁等の開閉弁50が設けられている。この開閉弁50の動作制御も上記制御部7にて行われるものであるが(図3参照)、上記試験液1の吐出動作が為される間はこの開閉弁50は閉じた状態に維持されている。
【0051】
このとき、試験液流路15の開閉弁18と洗浄液流路16の開閉弁50とは、駆動部4が試験液タンク2内の試験液1を主流路14へ流入させるための駆動力を供給する状態と、この駆動部4が洗浄液タンク12内の洗浄液11を主流路14へ流入させるための駆動力を供給する状態とに切替える切替手段として機能する。
【0052】
また、加圧調整部5に、貯留槽8内の試験液1が排出されたか否かを検知するフロートスイッチ(下部フロートスイッチ34b)が設けられている。この下部フロートスイッチ34bは上記の上部フロートスイッチ34aよりも下方に設けられており、図2に示す例では、下方の本体プレート22から貯留槽8内側へ突出するステム35bにフロート36bをナット37bとストッパ38bとの間で上下動自在に挿通して構成されている。この下部フロートスイッチ34bは、貯留槽8内の試験液1の貯留量が予め設定されている下限を上回っている状態から、この下限を下回った場合、及び貯留量が前記下限を上回っている状態からこの下限を下回った場合に、オンオフが切り替わるようになっている。
【0053】
試験液塗布装置における流路からの試験液1の排出及びこの流路の洗浄を行う際の、制御部7による試験液塗布装置の動作制御の一例について説明する。
【0054】
操作者が入力部47を操作し、流路からの試験液1の排出及び流路の洗浄の開始指令が入力されたら、まず、シーケンサ48は試験液流路15の開閉弁18及び洗浄液流路16の開閉弁50を閉じた状態で、第二流路14bの開閉弁6及び返送流路45の開閉弁46を開く。そうすると、加圧調整部5の貯留槽8に貯留されている試験液1がレギュレータ43からかけられる圧力により、第二流路14bから返送流路45を介して試験液タンク2に返送される。これにより、流路内及び加圧調整部5から試験液1を排出すると共にこの試験液1を再利用することができる。
【0055】
加圧調整部5の貯留槽8内の試験液1が減少して貯留量が下限に達し、これにより下部フロートスイッチ34bのオンオフが切り替わってその情報がシーケンサ48に入力されると、シーケンサ48は第二流路14bの開閉弁6及び返送流路45の開閉弁46を閉じると共に、洗浄液流路16の開閉弁50を開く。そうすると、洗浄液タンク12内の洗浄液11が洗浄液流路16及び第一流路14aを介して加圧調整部5の貯留槽8に供給される。
【0056】
貯留槽8に供給された洗浄液11は貯留槽8内に貯留され、その貯留量が予め設定された量に達して上部フロートスイッチ34aのオンオフが切り替わり、その情報がシーケンサ48に入力されると、シーケンサ48は洗浄液流路16の開閉弁50を閉じると共に第二流路14bの開閉弁6を開く。そうすると、貯留槽8内の洗浄液11は第二流路14bを介してノズル部3から吐出され、流路の洗浄がなされる。洗浄開始後、インターバルタイマ49から入力される経過時間情報に基づく経過時間が、予め設定された設定時間を経過し、加圧調整部5の貯留槽8内及び流路内の洗浄水が全てノズル部3から吐出されると、洗浄動作を終了する。ここで前記設定時間は、貯留槽8内の洗浄液11が全て吐出されるために必要とする充分な時間を予め設定しておく。
【0057】
このようにして流路内の試験液1の排出及び流路内の洗浄を行うことで、その後に試験液塗布装置を用いて耐トラッキング性試験を行う場合に、ノズル部3から吐出される試験液1の濃度や組成が変動することを防止し、正確な耐トラッキング試験を行うことができるようになる。
【0058】
尚、以上のようにして試験液塗布装置を使用する間、操作者は観測窓21を介して貯留槽8内の液面の位置を確認することができる。これにより、操作者は試験液塗布装置が正常に作動していることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す構成図である。
【図2】同上の実施の形態における加圧調整部の構成を示す断面図である。
【図3】同上の実施の形態における制御動作を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1 試験液
2 試験液タンク
3 ノズル部
4 駆動部
5 加圧調整部
6 開閉弁
7 制御部
8 貯留槽
9 センサ部
10 加圧手段
11 洗浄液
12 洗浄液タンク
13 流量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐トラッキング性試験の試験対象に試験液を塗布するための耐トラッキング性試験用試験液塗布装置であって、試験液を貯留する試験液タンクと、試験液を噴霧状に吐出するノズル部と、試験液が流通する流路と、試験液タンク内の試験液を前記流路へ流入させるための駆動力を供給する駆動部と、流路内の試験液の加圧状態を調整して一定の圧力でノズル部へ送る加圧調整部と、流路におけるノズル部への試験液の供給を開閉する開閉弁と、前記駆動部及び開閉弁を制御することでノズル部からの試験液の吐出量及び吐出間隔を調整する制御部とを具備することを特徴とする耐トラッキング性試験用試験液塗布装置。
【請求項2】
上記流路のノズル部側から順に加圧調整部と駆動部とを設け、前記加圧調整部が、試験液を一旦貯留する貯留槽と、貯留槽内の試験液の液量を検知するセンサ部と、貯留槽内の試験液を一定の圧力で加圧する加圧手段とを具備し、上記制御部が、センサ部による液量の検知結果が所定の値に満たない場合に駆動部を駆動して試験液タンク内の試験液を加圧調整部の貯留槽に供給するものであることを特徴とする請求項1に記載の耐トラッキング性試験用試験液塗布装置。
【請求項3】
洗浄液を貯留する洗浄液タンクを具備し、上記駆動部により試験液タンク内の試験液を流路へ流入させるための駆動力を供給する状態と、この駆動部により洗浄液タンク内の洗浄液を流路へ流入させるための駆動力を供給する状態とに切替える切替手段を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐トラッキング性試験用試験液塗布装置。
【請求項4】
上記ノズル部と上記駆動部及び加圧調整部との間における流路での試験液の流量を測定する流量センサを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の耐トラッキング性試験用試験液塗布装置。
【請求項5】
耐トラッキング性試験の試験対象に電圧を印加した状態で、この試験対象の表面に請求項1乃至4のいずれか一項に記載の耐トラッキング性試験用試験液塗布装置を用いて試験液1を間欠的に塗布することを特徴とする耐トラッキング性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68965(P2009−68965A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237059(P2007−237059)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】