説明

耐候性が改良された熱可塑性樹脂エラストマー/ゴム積層体及びそれを用いた空気入りタイヤ

熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層とゴム層を含む積層体において、ゴム100重量部当り0.1〜20重量部の老化防止剤を予備配合したゴム層及び熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層の少なくとも二つの層を積層し、加熱、加圧することにより得られ、前記老化防止剤をゴム層から熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層へ移行させて耐候性を改良した熱可塑性樹脂エラストマー/ゴム積層体及びそれをインナーライナー層に用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は熱可塑性樹脂エラストマー組成物層とゴム層との積層体に関し、更に詳しくは例えば空気入りタイヤのインナーライナーとして有用な耐候性の改良された熱可塑性エラストマー/ゴム積層体及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成物を用いた層(熱可塑性エラストマー組成物層)をゴム層の表面に有する熱可塑性エラストマー/ゴム層は、例えば特許第3217239号公報などに記載されており、柔軟性、低温耐久性などの特性を有している。しかしながら、表面に熱可塑性エラストマー/ゴム組成物を有するエラストマー/ゴム積層体は、屋外に暴露される状態で使用した時には、紫外線や熱、酸素、オゾンなどの影響を受けて前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物層が老化して、クラックが発生するなどの耐候性に問題があった。そこでこの熱可塑性樹脂エラストマー組成物の耐老化性を高めるために、組成物中に予め老化防止剤を配合すると、熱可塑性樹脂とエラストマーとの混練中に老化防止剤が促進剤として働き、特にエラストマーとしてゴムを用いた場合、ゴムの焼けが発生するため、所望の物性を有する組成物を得ることができないという問題があった。
【発明の開示】
従って、本発明は前述の従来技術の問題点を排除して耐候性が改良された熱可塑性樹脂エラストマー/ゴム積層体を提供することを目的とする。
本発明に従えば、熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層とゴム層を含む積層体において、ゴム100重量部当り0.1〜20重量部の老化防止剤を予備配合したゴム層及び熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層の少なくとも二つの層を積層させて、プレス加硫することにより得られ、前記老化防止剤をゴム層から熱可塑性樹脂エラストマー組成物層へ移行させて耐候性が改良された熱可塑性エラストマーゴム積層体及びそれをインナーライナーとして用いた空気入りタイヤが提供される。
本発明によれば、熱可塑性樹脂エラストマー組成物層とゴム層との積層体を製造するに当り、予め老化防止剤、好ましくはアミン系老化防止剤をゴム層に配合し、これに熱可塑性樹脂とエラストマーから成る組成物層を積層し、次に例えばプレス加硫することにより、老化防止剤がゴム層から熱可塑性樹脂エラストマー組成物層へ移行することにより熱可塑性樹脂エラストマー組成物層の耐候性が向上する。このように、老化防止剤を配合した未加硫ゴムを例えばプレス加硫することによりゴム層より熱可塑性樹脂エラストマー組成物層へ老化防止剤が移行して、移行した老化防止剤を含む熱可塑性樹脂エラストマーの組成物と加硫ゴムとの積層体が得られ、この積層体を熱可塑性エラストマー組成物層を外気に接するように配置することにより、紫外線や熱、酸素、オゾンなどの影響による積層体の老化やクラック発生などを著しく抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に従った積層体のゴム層は、タイヤ用として使用できる任意のジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などをあげることができ、これらは単独又は任意のブレンドとして使用することができる。更にブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)などの非ジエン系ゴムを少量成分として含むブレンドも使用できる。
本発明に従った積層体の熱可塑性樹脂エラストマー層は、熱可塑性樹脂にエラストマーをブレンドしたもので、そのような熱可塑性樹脂としてはポリアミド系樹脂(例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)など)、ポリエステル系樹脂(例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)など)、ポリニトリル系樹脂(例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタアクリロニトリルなど)、ポリメタアクリレート系樹脂(例えばポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタアクリル酸エチルなど)、ポリビニル系樹脂(例えば酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)など)、セルロース系樹脂(例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)など)、イミド系樹脂(例えば芳香族ポリイミド(PI))などを挙げることができる。
本発明に従って、前記熱可塑性樹脂とブレンドされるエラストマーとしては、例えばジエン系ゴム及びその水添物(例えばNR、IR、SBR、BR、NBRなど)、オレフィン系ゴム(例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、IIRなど)、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(例えばBr−IIR、C1−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)など)、シリコンゴム(例えばメチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴムなど)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができ、これらは単独又は任意の2種以上の混合物であってもよい。
前記エラストマー成分は熱可塑性樹脂との混合の際、動的に加硫することもできる。ここで動的加硫とは熱可塑性樹脂中へエラストマー成分を微細に分散し、かつ同時にエラストマー成分を架橋して、固定化する加工方法をいう。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマー成分の組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオウ系加硫剤としては粉末イオウ、沈降イオウ等を、例えば、0.5〜4phr〔ゴム成分(ポリマー)100重量部あたりの重量部〕程度用いることができる。
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ビクロロベンゾイルパーオキサイド等、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等を挙げることができる。
また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華(5phr(エラストマー100重量部当りの重量部数)程度)、ステアリン酸やオレイン酸及びこれらのZn塩(2〜4phr程度)等が使用できる。熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、予め熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相(マトリックス相)を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散相(ドメイン)として分散させることによる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加、エラストマー成分を動的に加硫させてもよい。また、熱可塑性樹脂又はエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加してもよいが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマー成分の混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は1000〜7500sec−1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、次に押出し成形又はカレンダー成形によってシート状のフィルムに形成される。フィルム化の方法は、通常の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーをフィルム化する方法によればよい。
このようにして得られるフィル厶は、熱可塑性樹脂(A)のマトリックス中にエラストマー成分(B)が分散相(ドメイン)として分散した構造をとる。かかる状態の分散構造をとることにより、熱可塑の加工が可能となり、かつフィルムに十分な柔軟性を与え、また連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマー成分の多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるため、通常の樹脂用成形機、即ち押出し成形、又はカレンダー成形によって、フィルム化することが可能となる。
熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドする場合の特定の熱可塑性樹脂(A)とエラストマー成分(B)との組成比は、特に限定はなく、フィルムの厚さ、耐空気透過性、柔軟性のバランスで適宜決めればよいが、好ましい範囲は重量比(A)/(B)で10/90〜90/10、更に好ましくは15/85〜90/10である。
本発明に従って、ゴム層側に予じめ配合される老化防止剤としては、例えばフェニル−2−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン等のナフチルアミン系、4,4′−α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(P−トルエン・スルフォニルアミド)−ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系などのアミン系老化防止剤を使用するのが好ましいが、その他これらの誘導体もしくは混合物などの老化防止剤も使用できる。
本発明に従えば、ゴム層中に配合される老化防止剤の配合量はゴム100重量部に対し0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。この配合量が少な過ぎると、所望の耐候性が得られず、逆に多過ぎるとブルームするので好ましくない。
本発明に従った熱可塑性樹脂エラストマー組成物層とゴム層との積層は従来と同様一般的な方法よることができる。例えば塗布、ラミネート、共押出し等の方法によることができる。また熱可塑性樹脂エラストマー組成物層とゴム層の接着方法は、特に限定するものではなく、例えば接着剤、セメント、直接接着などの任意の方法を使用することができる。
前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層とゴム100重量部当り0.1〜20重量部の老化防止剤を予備配合したゴム層は、必ずしも直接接触してなくてもよく、加熱・加圧することにより前記老化防止剤が前記熱可塑性樹脂エラストマー組成物に移行できれば両者の間に他の材料から成る層と挟んで積層してもよい。
本発明に係る熱可塑性樹脂エラストマー組成物やゴム組成物には、前記した必須成分に加えて、従来から熱可塑性エラストマー組成物やゴム組成物に配合し得る任意の添加剤を用いることができ、例えばカーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
[実施例1〜11及び比較例1]
シート状の熱可塑性樹脂エラストマー組成物サンプルの調製
ポリイソブチレン−p−メチルスチレン共重合体の一部臭素化物(BIMS:Exxpro89−4):100重量部に、ZnO:0.3重量部、ステアリン酸亜鉛:1.2重量部、ステアリン酸:0.6重量部を密閉式バンバリーミキサーにて初期温度40℃で5分間混合し、ゴムマスターバッチを調製した。次いで、このゴムマスターバッチをゴムペレタイザーにてペレット化した。得られたゴムペレット:50重量部、ナイロン6,66共重合体(東レ・アミランCM6041)を13重量部、ナイロン11(アトフィナ・リルサンBMNO)を25重量部とを2軸混練機にて温度220℃で5分間動的加硫を行い、ペレット化した。これをTダイにて押出成形し、厚さ0.1mmのフィルムに加工した。
ゴムシートサンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、165±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、シート状ゴム組成物を得た。
物性評価試験法
上で調製したシート状の熱可塑性樹脂エラストマー組成物に表IIに示す配合のゴム系セメントを刷毛塗りし、乾燥後、上で調製したシート状のゴム組成物(2mmシート)を積層させて、190℃で10分間加硫した。得られた熱可塑性樹脂エラストマー組成物とゴム(カーカス用)の積層体より定ひずみ疲労試験葉酸プルをJIS2号ダンベルにて打ち抜いた。
次いでオープンフレームカーボンアーク灯によるサンプル劣化試験を以下の通り実施した。
JIS K6266のSA法に従って熱可塑性樹脂エラストマー組成物とゴムの積層サンプルの劣化試験を行った。サンプルは熱可塑性樹脂エラストマー組成物面を光源に向けるように取り付けた。試験温度は63℃、光照射は連続とし試験片表面への水噴霧サイクルは102分毎に18分間の噴霧とした。劣化時間は48時間、96時間、168時間とし、それぞれの時間でとりだしたサンプルを、以下に述べる定ひずみ疲労試験にて耐久性能を評価した。結果は表Iに示す。
定ひずみ疲労試験法
上記劣化試験後のサンプルについて、40%の繰り返し伸長ひずみを6.7Hzの周期で与える定ひずみ疲労試験を20℃にて行い、耐久性能を評価した。熱可塑性樹脂エラストマー面に亀裂が入った段階で評価終了とし、繰り返し疲労回数1000万回をもって評価終了とした。


【産業上の利用可能性】
以上の通り、本発明に従えば、所望の物性を有する熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成物と、予じめ老化防止剤を配合した未加硫ゴム組成物とを積層することにより、近接するゴム層から老化防止剤が熱可塑性樹脂エラストマー層に移行し、それによって耐候性を改良することができるので、例えば空気入りタイヤのインナーライナー用として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層とゴム層を含む積層体において、ゴム100重量部当り0.1〜20重量部の老化防止剤を予備配合したゴム層及び熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層の少なくとも二つの層を積層し、加熱、加圧することにより、前記老化防止剤をゴム層から熱可塑性樹脂エラストマー組成物を含む層へ移行させて耐候性を改良した熱可塑性樹脂エラストマー/ゴム積層体。
【請求項2】
老化防止剤がアミン系老化防止剤である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂エラストマー組成物中の熱可塑性樹脂(A)とエラストマー(B)との組成比(A)/(B)(重量比)が10/90〜90/10である請求の範囲第1項又は第2項に記載の積層体。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)がポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタアクリレート樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求の範囲第3項に記載の積層体。
【請求項5】
エラストマー(B)がジエン系ゴム及びその水素添加物、オレフィン系ゴム、アクリルゴム、含ハロゲンゴム、シリコンゴム及び熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムである請求の範囲第3項又は第4項に記載の積層体。
【請求項6】
ゴム層を構成するゴムが天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム及びエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムである請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤ。

【国際公開番号】WO2005/063482
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516734(P2005−516734)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019785
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】