説明

耐候性フィルム

【課題】機械的強度が高く、さらには耐候性、具体的には直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることのない耐候性フィルムを提供する。
【解決手段】ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量部に対して無機顔料(B)1〜45質量部を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の存在下に芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合させてなるグラフト共重合樹脂(A−1)、及び、所望によりビニル系単量体(b)の(共)重合体(A−2)を含有してなり、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対する該シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が5〜30質量%であリ、かつ、芳香族ビニル化合物単位の含有量が5〜40質量%である耐候性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れるフィルムに関し、さらに詳細には、特定のゴム強化芳香族ビニル系樹脂に特定量の無機顔料を配合した熱可塑性樹脂組成物からなり、機械的強度に優れ、直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることのない耐候性フィルムに関する。
なお、一般に「フィルム」の語は厚さ0.254mm(1/100インチ)以下のものを指すが、本発明における「フィルム」の語はそれよりも厚い「シート」をも包含する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因となる石油に代わるエネルギー供給手段として、太陽電池が注目を浴びており、その需要が高まっている。太陽電池の需要増に伴い、太陽電池用バックシートなどの部品の安定供給及び低コスト化が求められており、また、太陽電池の発電効率の向上や意匠性を付与させる要求も高まっている。
【0003】
一般的に太陽電池は、太陽光のあたる面からガラス面、シリコンセルをエチレン・酢酸ビニル(EVA)樹脂などの封止樹脂で封止したシリコンセルパッケージ、太陽電池用バックシートの順に積層した太陽電池モジュールとして構成されることが多い。
【0004】
かかる太陽電池モジュールは主に屋外で使用されるため、その構造や材質には十分な耐久性、耐候性が要求される他、意匠性も要求される。また、太陽電池は、約20年といった長期の使用が想定されるので、太陽電池用バックシートは耐候性及び水蒸気バリア性に優れることが要求され、これが不足すると長期に使用した際に剥離(デラミネーション)、割れや変色を生じることにより、意匠性の低下、配線の腐食、太陽電池の発電効率の低下を引き起こすおそれがある。したがって、太陽電池バックシートに用いるフィルムは、長期間にわたって使用してもフィルム強度が低下せず、フィルムの変色が発生しにくいことが望まれている。
【0005】
従来、この太陽電池用バックシートの材料としては、耐候性、耐熱性に優れるフッ素系樹脂が用いられている(特許文献1、2参照)。また、絶縁性に優れるポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムを用いた太陽電池用バックシートも開発されている(特許文献3参照)。しかしながら、フッ素系樹脂は、シリコンセルの充填材であるEVA樹脂との密着性が悪く価格も高価であり、一方ポリエステルフィルムは耐候性(耐加水分解性)に劣るため、長期に使用すると物性低下や変色をひきおこし、その使用範囲が制限されていた。
【0006】
一方、耐候性や光学特性に優れる樹脂としてメタクリル系樹脂が知られているが、メタクリル系樹脂からなるフィルムは脆弱で、可撓性、靱性や耐衝撃性に問題があり、その使用範囲は制限されていた。これらの問題に対し、メタクリル系樹脂に多層構造のアクリルゴム粒子をブレンドする方法(特許文献4、5参照)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる重合体ブロックと共役ジエンからなる重合体ブロックを有するブロック共重合体をブレンドする方法(特許文献6)が開示されているが、十分な効果は得られていない。
またメタクリル系樹脂は吸湿性が比較的大きいため、温水浸漬時や屋外で用いた場合の雨上がりの気温上昇時などに容易に温水白化し、特にフィルムとして用いた場合、表面外観の低下をひきおこす問題があり、その使用が制限されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平08−500214号公報
【特許文献2】特表2002−520820号公報
【特許文献3】特開2001−111073号公報
【特許文献4】特開昭64−066221号公報
【特許文献5】特開平03−237134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、機械的強度が高く、さらには耐候性、具体的には直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることのない、太陽電池バックシート等の屋外での使用に適した耐候性フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定量のシリコーン・アクリル複合ゴム、及び、特定量の芳香族ビニル化合物単位を合有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂に、特定量の無機顔料を配合した熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、機械的強度に優れ、直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることがない耐候性フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量部に対して無機顔料(B)1〜45質量部を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の存在下に芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体からなるビニル系単量体(b)を重合させてなるグラフト共重合樹脂(A−1)、及び、所望によりビニル系単量体(b)の(共)重合体(A−2)を含有してなり、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対する該シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が5〜30質量%であリ、かつ、芳香族ビニル化合物単位の含有量が5〜40質量%であることを特徴とする耐候性フィルムを提供する。
【0011】
本発明の好ましい形態によれば、前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対する(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量は30〜90質量%であり、機械的強度、及び、耐候性にさらに優れた耐候性フィルムが得られる。
【0012】
本発明の別の好ましい形態によれば、前記無機顔料(B)は酸化チタンであり、機械的強度、及び、耐候性にさらに優れた耐候性フィルムが得られる。
【0013】
本発明のさらに別の好ましい形態によれば、放射照度0.5kW/mで85MJ/m暴露した後のフィルムの黄色度(YI)の暴露前に対する変化は、10以下であり、機械的強度、及び、耐候性にさらに優れた耐候性フィルムが得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定量のシリコーン・アクリル複合ゴム、特定量の芳香族ビニル化合物単位、及び所望により特定量の(メタ)アクリル酸エステル化合物単位を合有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂に、特定量の無機顔料を配合した熱可塑性樹脂組成物を用いてフィルムを成形することとしたので、機械的強度に優れ、直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることがない耐候性フィルムが得られる
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を詳しく説明する。尚、本明細書において「(共)重合」とは、単独重合および共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0016】
本発明の耐候性フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)(以下、「成分(A)」ともいう。)に無機顔料(B)(以下、「成分(B)」ともいう。)を配合した熱可塑性樹脂組成物である。
【0017】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)
本発明で使用するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の存在下に芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体からなるビニル系単量体(b)を重合させてなるグラフト共重合樹脂(A−1)、及び、所望によりビニル系単量体(b)の(共)重合体(A−2)を含有してなる。後者の(共)重合体(A−2)は、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)等のゴム質重合体の非存在下に、前記ビニル系単量体(b)を重合して得られるものである。グラフト共重合樹脂(A−1)には、通常、上記ビニル系単量体(b)がシリコーン・アクリル複合ゴム(a)にグラフト共重合した共重合体と、ゴム成分にグラフトしていない未グラフト成分[上記(共)重合体(A−2)と同じ種類のもの]が含まれる。
【0018】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、耐衝撃性及び可撓性の面から、前記グラフト共重合樹脂(A−1)を少なくとも1種含むものであり、所望により前記(共)重合体(A−2)を含有してもよい。
【0019】
グラフト共重合樹脂(A−1)
グラフト共重合樹脂(A−1)におけるシリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%として、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは5〜25質量%であり、さらにより好ましくは8〜25質量%であり、特に好ましくは8〜18質量%である。シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が30質量%を超えると、耐熱性が十分でなく、フィルム加工が困難となる。一方、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が5%未満の場合、フィルムの可撓性及び耐衝撃性に劣る。
【0020】
シリコーン・アクリル複合ゴム(a)とは、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムを含有するゴム質重合体をいう。好ましいシリコーン・アクリル複合ゴム(a)は、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムが分離できないように相互に絡み合った構造を有する複合ゴムである。
【0021】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート(単量体)を共重合して得られるものが挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレートは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
さらに前記アルキル(メタ)アクリレートの単量体中には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メタクリル酸変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種のビニル系単量体を30質量%以下の範囲で共重合成分として含んでいてもよい。
【0023】
上記ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムとしては、2つ以上のガラス転移温度を有する共重合体であることが好ましい。このようなポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムは、フィルムに可撓性を発現させるのに好ましい。
【0024】
上記ポリオルガノシロキサンゴムとしては、オルガノシロキサンを共重合したものを用いることができる。上記オルガノシロキサンとしては、3員環以上の各種の還元体が挙げられ、好ましくはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。そして、これらのオルガノシロキサンは単独又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのオルガノシロキサンの使用量はポリオルガノシロキサンゴム成分中50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
【0025】
シリコーン・アクリル複合ゴム(a)は、例えば、特開平4−239010号公報、特許第2137934号明細書等に記載された方法で製造することができる。かかるシリコーン・アクリル複合ゴムグラフト共重合樹脂としては、例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン SX−006(商品名)」などが市販されている。
【0026】
前記ビニル系単量体(b)は、芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体からなる。
【0027】
前記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、トリブロムスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン又はα−メチルスチレンが好ましい。また、これらの芳香族ビニル化合物は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、その他の官能基含有不飽和化合物(例えば、不飽和酸、エポキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物等)等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
前記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。また、これらのシアン化ビニル化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0031】
前記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、共重合樹脂にマレイミド系化合物単位を導入するために、無水マレイン酸を(共)重合させ、後イミド化してもよい。ビニル系単量体(b)がマレイミド系化合物を含有することは、前記芳香族ビニル系樹脂(A)の耐熱性を向上させる観点から好ましい。
【0032】
前記不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
前記エポキシ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
前記オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
前記酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
グラフト共重合樹脂(A−1)における芳香族ビニル化合物単位の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%に対して、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%、さらにより好ましくは10〜35質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。
【0038】
また、グラフト共重合樹脂(A−1)における(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%に対して、通常30〜94.9質量%、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜90質量%、さらにより好ましくは50〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。(メタ)アクリル酸エステル化合物単位には、上記シリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するものと、上記ビニル系単量体(b)に由来するものとが含まれる。
【0039】
グラフト共重合樹脂(A−1)における芳香族ビニル化合物単位及び(メタ)アクリル酸エステル化合物単位以外のその他化合物の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%に対して、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.1〜25質量%、さらにより好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。上記その他の化合物には、上記シリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するものと、上記ビニル系単量体(b)に由来するものとが含まれ、例えば、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するジメチルシロキサン系化合物単位や、上記芳香族ビニル化合物単位及び(メタ)アクリル酸エステル化合物単位以外のビニル系単量体(b)単位が挙げられる。
なお、グラフト共重合樹脂(A−1)における上記芳香族ビニル化合物単位、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物単位、及び、上記その他の化合物の含有量の合計は100質量%である。
【0040】
グラフト共重合樹脂(A−1)は、靱性及び耐薬品性の観点から、上記その他の化合物としてアクリロニトリル単位等のシアン化ビニル化合物単位を含有することが好ましい。該シアン化ビニル化合物単位の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%に対して、通常0〜20質量%、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0041】
グラフト共重合樹脂(A−1)は、公知の重合法である乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、または、これらを組み合わせた重合法によって得ることができる。
【0042】
グラフト共重合樹脂(A−1)のグラフト率は、好ましくは10〜200%であり、より好ましくは20〜170%、さらに好ましくは30〜150%である。このグラフト率が低すぎると、フィルムとしての可撓性が十分でなくなる場合がある。また、グラフト率が高すぎると、熱可塑性樹脂の粘度が高くなり、フィルムの外観が損なわれたり、薄肉化が困難になる場合がある。
【0043】
グラフト率は、下記式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S−T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはグラフト共重合樹脂(A−1)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはグラフト共重合樹脂(A−1)1グラムに含まれるシリコーン・アクリル複合ゴム(a)の質量(g)である。このシリコーン・アクリル複合ゴム(a)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0044】
尚、グラフト率は、例えば前記グラフト共重合樹脂(A−1)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0045】
グラフト共重合樹脂(A−1)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、好ましくは0.1〜2.5dl/g、より好ましくは0.2〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.25〜1.2dl/gである。該極限粘度がこの範囲内であることは、フィルムの加工性の観点から好ましい。
【0046】
グラフト共重合樹脂(A−1)のアセトン可溶分の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、前記グラフト共重合樹脂(A−1)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0047】
尚、極限粘度[η]は、例えば前記グラフト共重合樹脂(A−1)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。また、異なる極限粘度[η]を持つ前記(共)重合体(A−2)を、適宜選択して配合することにより調整することができる。
【0048】
(共)重合体(A−2)
所望により本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に含有される(共)重合体(A−2)は、ビニル系単量体(b)の重合によって得られた単独重合体又は共重合体である。(共)重合体(A−2)を構成するビニル系単量体(以下「ビニル系単量体(b’)」という)としては、上記グラフト共重合樹脂(A−1)に関連して述べたものを使用することができる。
【0049】
ビニル系単量体(b’)中の芳香族ビニル化合物単位の含有量は、ビニル系単量体(b’)100質量%に対して、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは1〜35質量%、特に好ましくは1〜30質量%である。芳香族ビニル化合物単位の含有量が40質量%を超えると、長期使用時にフィルムが変色する可能性がある。
【0050】
また、ビニル系単量体(b’)中の(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量は、ビニル系単量体(b’)100質量%に対して、好ましくは100〜20質量%、より好ましくは99〜35質量%、特に好ましくは99〜50質量%である。ビニル系単量体(b’)が、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位を含有することは、フィルムの外観、耐傷性の観点から好ましい。
【0051】
さらに、ビニル系単量体(b’)における芳香族ビニル化合物単位及び(メタ)アクリル酸エステル化合物単位以外のその他のビニル系単量体単位の含有量は、ビニル系単量体(b’)100質量%に対して、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
なお、(共)重合体(A−2)における上記芳香族ビニル化合物単位、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物単位、及び、上記その他のビニル系単量体単位の含有量の合計は100質量%である。
【0052】
(共)重合体(A−2)は、靱性及び耐薬品性の観点から、上記その他のビニル系単量体単位としてアクリロニトリル単位等のシアン化ビニル化合物単位を含有することが好ましい。該シアン化ビニル化合物単位の含有量は、ビニル系単量体(b’)100質量%に対して、通常0〜20質量%、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0053】
以上から、(共)重合体(A−2)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位を必須成分として含有し、所望により芳香族ビニル化合物単位及び/又はシアン化ビニル化合物単位を含有する(共)重合体であることが好ましい。
【0054】
上記(共)重合体(A−2)は、ゴム質重合体の非存在下で、上記ビニル系単量体(b‘)を重合することにより製造することができる。重合方法は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、またはこれらを組み合わせた方法であってもよい。尚、上記(共)重合(A−2)には、通常使用されている重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤(乳化重合の場合)等を用いることができる。また、該(共)重合体(A−2)を製造するのに用いる単量体混合物は、一度に全部投入して重合させてもよく、または分割もしくは連続的に少量づつ添加して重合させてもよい。また、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。上記(共)重合体(A−2)の重合方法は、重合開始剤を用いた方法であってもよいし、重合開始剤を用いない熱重合法であってもよく、また、これらを組み合わせた方法であってもよい。
【0055】
前記(共)重合体(A−2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、好ましくは0.1〜2.5dl/g、より好ましくは0.2〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.25〜1.2dl/gである。該極限粘度がこの範囲内であることは、フィルムの加工性、耐衝撃性、外観、肉厚精度の観点から好ましい。
【0056】
前記(共)重合体(A−2)の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、前記(共)重合体(A−2)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0057】
尚、前記極限粘度[η]は、例えば前記(共)重合体(A−2)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。また、異なる極限粘度[η]を持つ前記(共)重合体(A−2)を、適宜選択して配合することにより調整することができる。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)と無機顔料(B)を含有してなる。
【0059】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)におけるシリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して、5〜30質量%であることが必要であり、好ましくは5〜25質量%であり、さらに好ましくは8〜25質量%であり、特に好ましくは8〜18質量%である。シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が30質量%を超えると、耐熱性が十分でなく、フィルム加工が困難となる。一方、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が5%未満の場合、フィルムの可撓性及び耐衝撃性に劣る。
【0060】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)における芳香族ビニル化合物単位の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して、5〜40質量%であることが必要であり、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜35質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。芳香族ビニル化合物単位の含有量が40質量%を超えると、長期使用時にフィルムが変色する。一方、芳香族ビニル化合物単位が5%未満の場合、可撓性に劣る。尚、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)を構成するグラフト共重合樹脂(A−1)と共重合体(A−2)は、少なくとも一方が芳香族ビニル化合物単位を含んでいればよく、芳香族ビニル化合物単位はグラフト共重合樹脂(A−1)または共重合体(A−2)の何れに由来するものであってもよい。さらに、グラフト共重合樹脂(A−1)と(共)重合体(A−2)は、相溶性及び成形加工性の観点から、これらの両方が芳香族ビニル化合物を含んでいることが望ましい。
【0061】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して、通常30〜94.9質量%、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜90質量%、さらにより好ましくは50〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量が94.9質量%を超えると、フィルムの可撓性又は熱安定性が不十分になる可能性がある。一方、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量が30質量%未満になると、長期使用時にフィルムが変色する可能性がある。尚、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位には、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のシリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するものと、上記ビニル系単量体(b)及び/又は(b‘)に由来するものとが含まれる。上記ビニル系単量体(b)及び/又は(b‘)は、少なくとも一方が(メタ)アクリル酸エステル化合物単位を含んでいればよく、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位は、上記シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の他、上記ビニル系単量体(b)及び(b‘)の何れに由来するものであってもよい。
【0062】
また、本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が含有してもよい芳香族ビニル化合物単位及び(メタ)アクリル酸エステル化合物単位以外のその他の化合物の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜25質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。上記その他の化合物には、上記シリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するものと、上記ビニル系単量体(b)に由来するものとが含まれ、例えば、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)に由来するジメチルシロキサン系化合物単位や、上記芳香族ビニル化合物単位及び(メタ)アクリル酸エステル化合物単位以外のビニル系単量体単位が挙げられる。
なお、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)における上記芳香族ビニル化合物単位、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物単位、及び、上記その他の化合物の含有量の合計は100質量%である。
【0063】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、靱性及び耐薬品性の観点から、上記その他の化合物としてアクリロニトリル単位等のシアン化ビニル化合物単位を含有することが好ましい。該シアン化ビニル化合物単位の含有量は、グラフト共重合樹脂(A−1)100質量%に対して、通常0〜20質量%、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。
尚、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が上記その他の化合物を含む場合、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)を構成するグラフト共重合樹脂(A−1)と共重合体(A−2)は、少なくとも一方が上記その他の化合物を含んでいればよく、上記その他の化合物はグラフト共重合樹脂(A−1)及び共重合体(A−2)の何れに由来するものであってもよい。
【0064】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)における上記各種ビニル系単量体単位の含有量は、例えば、グラフト共重合樹脂(A−1)のビニル系単量体(b)の組成を調整したり、グラフト共重合樹脂(A−1)に適切な共重合組成を有する(共)重合体(A−2)を混合することにより調整することができる。
【0065】
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して5〜30質量%(好ましくは5〜25質量%であり、さらに好ましくは8〜25質量%であり、特に好ましくは8〜18質量%)のシリコーン・アクリル複合ゴム(a)と、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して5〜40質量%(好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜35質量%、特に好ましくは10〜30質量%)の芳香族ビニル化合物単位と、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して好ましくは30〜94.9質量%(より好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、さらにより好ましくは50〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%)の(メタ)アクリル酸エステル化合物単位と、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して好ましくは0〜20質量%(より好ましくは1〜20質量%、さらにより好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%)のシアン化ビニル化合物とを含有することが好ましい。
【0066】
なお、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)中の芳香族ビニル化合物単位、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位、及びその他の化合物の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)、赤外分光分析(FT−IR)等の公知の方法を用いて行うことができる。また、各成分の組成と配合比から計算により求めることもできる。
【0067】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。
上記他の熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MABS樹脂等の上記成分(A)以外のゴム強化芳香族ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記成分(A)以外のゴム強化芳香族ビニル系樹脂としては、耐候性ゴムをベースとするAES樹脂、ASA樹脂等を用いることが、耐候性及び耐衝撃性の観点から好ましい。
【0068】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が、芳香族ビニル系以外の他の樹脂を含む場合、その含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0069】
本発明における無機顔料(B)は、特に制限はないが、明度の高い着色顔料が含有されていることが好ましく、白色顔料が含有されていることがより好ましい。本発明のフィルムの表面のL値(明度)は、55以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることが更により好ましく、90以上であることが特に好ましい。
【0070】
上記白色顔料としては、ZnO、TiO、Al・nHO、[ZnS+BaSO]、CaSO・2HO、BaSO、CaCO、2PbCO・Pb(OH)等が挙げられる。これらは、1単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、酸化チタンを用いることが好ましい。
【0071】
酸化チタンとしては、結晶形として、アナタース形、ルチル形などの酸化チタンを用いることができるが、ルチル形が好ましい。酸化チタンの平均一次粒子径は、好ましくは0.1〜0.5μm程度、より好ましくは0.15〜0.35μm程度である。酸化チタンの平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡写真をもとに画像解析装置により測定できる。酸化チタンとしては、平均一次粒子径の大きいものと小さいものを併用することもできる。
【0072】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における無機顔料(B)の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量部に対し1〜45質量%、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは5〜25質量%である。無機顔料(B)の配合量が1質量%未満では、長期使用時にフィルムが変色する。一方、無機顔料(B)の配合量が45質量%を超えると、フィルムが脆弱となるばかりでなく、フィルム加工が困難となる。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、老化防止剤、充填剤(例えば、ガラス繊維、タルクなど。)、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、防かび剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、黒鉛、カーボブラック、カーボンナノチューブ、顔料(たとえば、赤外線吸収、反射能力を有する、機能性を付与した顔料も含む。)等を本発明の目的を損なわない範囲で含有することもできる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)及び無機充填材(B)を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。また、無機顔料のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
【0075】
本発明に係る耐候性フィルムは、上記熱可塑性樹脂組成物を成形材料として用い、カレンダー成形、インフレーション成形、Tダイ押出成形等の各種成形方法により製造することができる。これらの中ではTダイ押出成形が好ましい。
【0076】
Tダイ押出成形は、例えば、Tダイから溶融樹脂を吐出させて軟質フィルムとした後、例えばエアーナイフによりキャストロールに押出して面密着して冷却固化する方法である。キャストロールの数は特に制限されない、2本以上としてもよい。また、キャストロールの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイの開口部から押出された溶融樹脂のキャストロールへの通し方も特に制限されない。
【0077】
本発明に係わる耐候性フィルムの厚さは、通常50〜2500μm、好ましくは70〜1400μm、更に好ましくは70〜1000μm、特に好ましくは70〜500μmである。
【0078】
本発明に係る耐候性フィルムの表面には、直接印刷を施すことにより印刷層(図柄層)を設けることができる。印刷層は、各種印刷方法により形成することができる。印刷に使用するインクは、水性インクであっても、溶剤系インクなどの非水性インクの何れであってもよい。直接印刷法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷法を挙げることができる。
【0079】
また本発明に係る耐候性フィルムは、本発明の耐候性フィルム及び異なる樹脂のフィルムとの積層体として使用することができる。積層方法は、接着剤を用いて熱ラミネート法によって積層する方法でも、接着剤を使用せずに、共押出によって積層する方法でもよい。
【0080】
本発明の耐侯性フィルムは、テープ類(粘着テープを含む)、フィルム類(粘着フィルム、ラミネートフィルム、マスキングフィルム等を含む)等の事務用品をはじめ、ペン類、ファイル類等の文具、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、掃除機、扇風機、空調機、電話機、電気ポット、炊飯器、食器洗浄機、食器乾燥機、電子レンジ、ミキサー、テレビ、ビデオ、ステレオ、テープレコーダー、時計、コンピュータ、ディスプレイ、計算機等の家電製品、車両関連部材、医療機器、光学機器、スポーツ用品、日用品、各種容器等の内装用あるいは外装用フィルム及びシート;壁紙、化粧紙、化粧紙代替用フィルム;床材等として好適で、特に太陽電池用バックシートなどの太陽電池用フィルムまたはシートなどの屋外等の過酷な環境下で使用される製品に好適に使用できる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。尚、実施例及び比較例において、部及び%は特に断らない限り質量基準である。
【0082】
1.評価方法
下記の実施例及び比較例における、各種評価項目の測定方法を以下に示す。
1−1.長期耐久性(明度)
JIS Z8729−2004に準拠して測定した。すなわち、フィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出し、メタリングバーチカルウェザーメーターMV3000(商品名:スガ試験機社製)を用いて、放射照度0.5KW/mで雨無連続照射を、暴露量85MJ/mまで行った後、明度(L値)を紫外可視赤外分光光度計V−670(商品名:日本分光社製)を用いて測定した。
【0083】
1−2.長期耐久性(黄変)
ASTM E313:2005に準拠して測定した。すなわち、フィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出し、メタリングバーチカルウェザーメーターMV3000(商品名:スガ試験機社製)を用いて、放射照度0.5KW/mで雨無連続照射を、暴露量85MJ/mまで行った後、黄色度(YI85)を紫外可視赤外分光光度計V−670(商品名:日本分光社製)を用いて測定した。さらに、同様の方法で、暴露前の黄色度(YI)を求めた。下記式(2)により、85MJ/m暴露後の黄色度の差△YIを求めた。
△YI=YI85−YI …(2)
【0084】
1−3.機械的強度(可撓性)
フィルムを切削加工し、100mm(MD;樹脂押出方向)×100mm(TD;MDに対して直交方向)の大きさの試験片を作製した。次いで、MD方向の対称軸に沿って折り曲げた後、TD方向の対称軸に沿って折り曲げた。折り曲げた試験片を、JIS Z0237に準拠し手動式圧着ロール(2,000g)を用い、5mm/秒の速度で各折り目上を2往復させた。その後、折り目を広げて元の状態に戻し、試験片を目視にて観察し、下記基準で判定した。折り目が割れていないものが可撓性に優れる。
○:割れが発生しなかった。
×:割れが発生した。
【0085】
2.フィルムの製造方法
2−1.グラフト共重合樹脂(A−1)
2−1−1.シリコーン・アクリル複合ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1−1)
三菱レイヨン社製「メタブレンSX−006(商品名)」(シリコーン・アクリル複合ゴム(シリコーンゴム部分/アクリルゴム部分=5/95(質量比))50部にスチレン44部とアクリロニトリル6部をグラフト重合したもの。グラフト率100%、アセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)0.38d1/g、ガラス転移温度(Tg)135℃)を用いた。
【0086】
2−2.共重合体(A−2)
2−2−1.AS樹脂(A2−1)
懸濁重合法で製造された結合アクリロニトリル含量30%、結合スチレン含量70%のアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)である。このAS樹脂は、重量平均分子量(Mw)は24万、数平均分子量は9.5万、アセトン可溶分の極限粘度〔η](メチルエチルケトン、30℃で測定)は0.85dl/gであった。
【0087】
2−2−2.MAS樹脂(A2−2)
溶液重合法で製造された結合メタクリル酸メチル含量72%、結合スチレン含量21%、結合アクリロニトリル含量7%のメタクリル酸メチル・アクリロニトリル・スチレン共重合体(MAS樹脂)である。アセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン、30℃で測定)は0.32dl/gであった。
【0088】
2−2−3.PMMA樹脂(A2−3)
三菱レイヨン社製のメタクリル樹脂「アクリペット VH5」(商品名)を用いた。
【0089】
2−2−4.PET樹脂(A3)
東レ社製白色隠蔽PETフィルム「ルミラー E20」(商品名)を用いた。厚さは100μm、ガラス転移温度は70℃であった。
【0090】
2−3.無機顔料
2−3−1.酸化チタン(B1)
石原産業社製の酸化チタン「タイペーク CR−60−2」(商品名)を用いた。平均一次粒子径は0.21μmであった。
【0091】
2−4.添加剤(C)
C1:ステアリン酸カルシウム:Ca−St(商品名:日東化成工業社製)。
C2:ペンタエリストールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフエニル)プロピオネート];IRGANOX1010(商品名:チバスペシャルティ・ケミカルズ社製)。
C3:2[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート;スミライザー GS(F)(商品名:住友化学工業社製)。
C4:ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト;PEP−36(商品名:アデカ社製)。
C5:高分子量ヒンダードアミン系光安定剤・SABOSTAB UV119(商品名:SABO社製)。
C6:2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール];JF−832(商品名:城北化学工業社製)。
【0092】
実施例1〜3及び比較例1〜4
表1に記載の配合割合で、表1に記載の各成分と、C1成分1部、C2及びC3成分各0.1部、C4、C5及びC6成分各0.2部をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44、バレル設定温度240℃)で混練し、ペレット化した。得られたペレットを用い、下記方法によりフィルムを製造した。
まず、Tダイ(ダイ幅;1400mm、リップ間隔;0.5mm)を備え、スクリュー径65mmの押出機を備えたフィルム成形機を用い、押出機にペレットを供給して、Tダイから、溶融温度250℃で樹脂を吐出させ、軟質フィルムとした。その後、この軟質フィルムをエアーナイフによリキャストロール(ロールの表面温度:95℃)に面密着させ、冷却固化しフィルムを得た。得られたフィルムを上記評価方法で評価し、その評価結果を表1に示した。
【0093】
尚、フィルムの肉厚は、シックネスゲージ(型式「1D−C1112C」、ミツトヨ社製)を用い、フィルム製造開始から1時間経過後のフィルムを切り取り、フィルム幅方向の中心、及び、中心より両端に向けて、10mm間隔で肉厚を測定し、その平均値とした。フィルムの端部から20mmの範囲にある測定点の値は、上記平均値の計算から除去した。
また、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)中のゴム含有量、芳香族ビニル化合物単位含有量、(メタ)アクリル酸エステル化合物単位含有量、その他の化合物含有量、アクリロニトリル単位含有量、は、グラフト共重合樹脂及び(共)重合体の各組成と、表1記載の配合比から、計算により求めた。
【0094】
比較例5
東レ社製白色高隠蔽PETフィルム「ルミラーE20」(商品名)を、上記評価方法で評価した。なお、厚さは100μm、ガラス転移温度(Tg)は70℃、寸法変化率(MD)は0.1%であった。
【0095】
【表1】

【0096】
表1より、以下のことが明らかである。本発明の耐候性フィルムである実施例1〜3は、フィルムの長期耐久性(耐候性)、機械的強度に優れていた。
比較例1及び2は、芳香族ビニル化合物単位の含有量が本発明の範囲外で多いものであるが、長期耐久性(黄変)に劣る。比較例3は、ゴム及び芳香族ビニル化合物単位が含まれないものであるが、フィルムの機械的強度(可撓性)に劣る。比較例4は、酸化チタンの含有量が本発明の範囲外で多いものであるが、フィルム加工が困難で、その後の評価に供し得なかった。比較例5は、白色隠蔽PETフィルム「ルミラー E20」(商品名)の評価結果であるが、明度(L値)は90.8であったものの、黄変(ΔYI)は46であり、長期耐久性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の耐候性フィルムは、直射日光が照射する屋外等の過酷な環境下で長時間使用しても変色せず、意匠性を低下させることがないので、太陽電池バックシート等の屋外での使用に適した耐候性フィルムとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量部に対して無機顔料(B)1〜45質量部を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)が、シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の存在下に芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体からなるビニル系単量体(b)を重合させてなるグラフト共重合樹脂(A−1)、及び、所望によりビニル系単量体(b)の(共)重合体(A−2)を含有してなり、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対する該シリコーン・アクリル複合ゴム(a)の含有量が5〜30質量%であリ、かつ、芳香族ビニル化合物単位の含有量が5〜40質量%であることを特徴とする耐候性フィルム。
【請求項2】
さらに、前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)100質量%に対する(メタ)アクリル酸エステル化合物単位の含有量が30〜90質量%であることを特徴とする請求項1記載の耐候性フィルム。
【請求項3】
前記無機顔料(B)が白色顔料であって、フィルム表面のL値が70以上である請求項1又は2に記載の耐候性フィルム。
【請求項4】
前記白色顔料が酸化チタンである請求項3に記載の耐候性フィルム。
【請求項5】
放射照度0.5kW/mで85MJ/m暴露した後のフィルムの黄色度(YI)の暴露前に対する変化が、10以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の耐候性フィルム。

【公開番号】特開2012−97179(P2012−97179A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245499(P2010−245499)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】