耐光性に優れた耐熱性布帛
【課題】耐光性の改善された、高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛及び該耐熱性布帛からなる耐熱性防護服を提供することにある。
【解決手段】染色したパラ型アラミド繊維を35重量%以上、非染色のパラ型アラミド繊維を5重量%以上、メタ型アラミド繊維を0〜60%含む紡績糸とし、それからなる耐熱性布帛とすることにより、パラ型アラミド繊維を含む布帛の耐光性を改善し、高強力で耐火炎性に優れた布帛及びそれからなる耐熱性防護服を提供する。
【解決手段】染色したパラ型アラミド繊維を35重量%以上、非染色のパラ型アラミド繊維を5重量%以上、メタ型アラミド繊維を0〜60%含む紡績糸とし、それからなる耐熱性布帛とすることにより、パラ型アラミド繊維を含む布帛の耐光性を改善し、高強力で耐火炎性に優れた布帛及びそれからなる耐熱性防護服を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維からなる耐熱布帛に関し、パラ型アラミド繊維を40重量%以上含み、高強力で高耐光性且つ耐火炎性のアラミド耐熱性布帛及びそれからなる耐熱性防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、消防士が消火作業時に着用する耐熱性防護服としては、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾールなどの難燃性の有機繊維布帛が使用されている。特開2000−212810号公報には、消防士の安全性や快適性を改良する目的から、全成分が高強度繊維であるパラ型アラミド繊維とメタ型アラミド繊維を用いた高強力、難燃性及び遮熱性に優れた防護服が提案されている。パラ型アラミド繊維を40重量%以上用いることにより軽量で高強力、難燃性及び耐熱性に優れるものがえられるが、しかしながらパラ型アラミド繊維を40重量%以上用いた布帛は、長期の耐光性に劣り変色するという重大な欠点があった。
【0003】
この点の改良として、特開平8−113706号公報には銅化合物をパラ型アラミド樹脂に添加して製糸することにより耐光性を改良できることが開示されている。この方法により耐光性は向上するものの、銅化合物が凝固浴に抜け出すという問題や、強度が低下するため好ましくない。
【0004】
又特開2000−290849号公報には、結晶サイズや繊維中の水分を高含水量とすること等により良染色性のパラ系アラミド繊維とし先染めした後、該先染めパラ系アラミド短繊維を他の合成繊維と混紡した紡績糸とすることによりパラ系アラミド繊維の耐光性を改良する方法が開示されている。この方法により耐光性は向上しているものの、パラ系アラミド繊維の水分率を一定とするためには製造上のコントロールが難しく、歩留まりが悪いという欠点がある。
【0005】
更に他のパラ系アラミド繊維の耐光性を改良する方法として、特開2000−303285号公報にはパラ系アラミド繊維の耐光性不良を解消する方法として、染色されたパラ型アラミド繊維を芯成分として含む芯鞘型複合紡績糸とし、該パラ型アラミド繊維を耐光性の良い鞘繊維で覆うことが提案されている。この方法によりパラ型アラミド繊維の耐光性をカバーすることができるものの、芯鞘型複合紡績糸とすることによるコストアップやパラ型アラミド繊維が全繊維重量の50%以上になると鞘繊維の量が相対的に低下しパラ型アラミド繊維を完全に覆うことが出来ず耐光性が低下するという問題があった。
こうした現状に鑑み、簡便な方法でパラ系アラミド繊維を40%以上含むアラミド耐熱布帛の耐光性不良を解消する方法の開発が大いに望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−212810号公報
【特許文献2】特開平8−113706号公報
【特許文献3】特開2000−290849号公報
【特許文献4】特開2000−303285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、パラ系アラミド繊維の耐光性不良に基づく問題点を解消することに関し、特に全成分がアラミド繊維からなり、パラ系アラミド繊維を40%以上含む布帛の耐光性を改善し、高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛、並びに、該耐熱性布帛を用いて製造された耐熱性防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、染色したパラ型アラミド繊維を35重量%以上、及び染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を5重量%以上を混紡した紡績糸とし、該紡績糸を用いてなる布帛とすることにより、耐光性を改善し高強力で耐火炎性に優れた耐熱布帛及びそれからなる耐熱性防護服とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維を適量用いて混紡紡績糸とし、これを用いた布帛とすることにより、パラ型アラミド繊維を用いた衣服の欠点であった耐光変色性が改善され、且つ高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛とすることができ、消防服、防火服、防護服として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。アラミドとは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、パラ型アラミドとして、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体であるポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミド、メタ型アラミドとして、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体などが挙げられる。
【0011】
本発明で用いられるポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体の一例として、下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが例示される。
【化1】
【0012】
本発明のパラ型アラミド繊維は上記のパラ型アラミド樹脂を溶媒に溶解し、湿式又は乾式紡糸、延伸し、公知の方法で繊維化したものであり、単繊維繊度は0.6〜6.0dtexであることが好ましい。0.6dtex以下では繊維化や紡績糸とするのが難しく、6.0dtex以上では布帛とした時に風合いの硬いものとなり好ましくない。
【0013】
本発明においては、該パラ型アラミド繊維のうち、染色したパラ型アラミド繊維は、耐光試験において淡色化する一方、染色しない生成り及び/又は顔料原着の(以後染色しない生成り及び/又は顔料原着と言う表現を、非染色と略称することがある)パラ型アラミド繊維は、耐光試験において濃色化するという現象に着目し本発明は完成されたものである。ここで染色したアラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維は同系統の色であるのが好ましく、染色したパラ型アラミド繊維の退色による色目と非染色のパラ型アラミド繊維の濃色化による色目とが互いに補完しあい、耐光試験にかける前の色目に近い色が維持される。
【0014】
染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維の総使用量としては、布帛を構成する全繊維に対して40重量%以上が好ましい。該両パラ型アラミド繊維の総使用量が40重量%未満では、防護服として必要な高強力が得られにくく、又難燃性としてJIS L 1091 A−1法において、炭化面積が0cm2を達成することが難しい。
【0015】
染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維の配合割合としては、染色したパラ型アラミド繊維が35重量%以上、非染色のパラ型アラミド繊維が5%以上含む構成とし、必要に応じて他のアラミド繊維を混紡したアラミド紡績糸として使用することが好ましい。この構成とする時にパラ型アラミド繊維を40%以上含む布帛の耐光性が改善されるとともに高強力、耐熱、耐火炎性を満たすものとすることができる。染色したパラ型アラミド繊維が35重量%以下の場合は、高強力、耐熱、耐火炎性布帛を維持するためには、非染色のパラ型アラミド繊維を5%以上とする必要があり、所望の色目に調整するのが難しくなるばかりでなく、染色したパラ型アラミド繊維の退色と、非染色のパラ型アラミド繊維の濃色化とのバランスがくずれ濃色化し過ぎる傾向となり好ましくない。又非染色のパラ型アラミド繊維が5%以下の場合、高強力、高火炎性を維持するためには、染色繊維の量を増やす必要があり、濃色化成分が少ないため耐光性は低下し好ましくない。好ましくは、染色したパラ型アラミド繊維が35〜70重量%、非染色のパラ型アラミド繊維が5〜40%の範囲である。より好ましくは、染色したパラ型アラミド繊維が40〜60重量%、非染色のパラ型アラミド繊維が10〜30%の範囲である。
【0016】
該パラ型アラミド繊維の染色は短繊維化の前後で行うことができるが、短繊維化後の綿染めがより好ましい。染色は公知の染色装置、方法で行うことが出来、条件としては、染料を5〜30%owf、キャリヤーを0〜100g/l用いて、染色温度が120〜150℃で30〜90分の処理を行うことが好ましい。染料としては、カチオン染料、分散染料等公知の染料を用いることができる。
又顔料原着繊維を得るには公知の方法で行うことが出来る。例えば顔料のマスターバッチを作成して樹脂溶液に添加後乾式又は湿式紡糸、延伸、捲縮、カットして繊維化する。
【0017】
上記の染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維のバランス及び布帛に使用する総使用量が耐光性と高強力、耐火炎性に必須であるが、目的とする効果が得られるのであれば、メタ型アラミド繊維を併用することが好ましい。メタ型アラミド繊維はパラ型アラミド繊維より難燃性に優れ、且つ布帛としての柔軟性も向上するのでより好ましい。メタ型アラミド繊維としては、原着、染色のいずれでも構わない。混合形態としては、パラ型アラミド繊維と混紡して紡績糸の形態で使用するものが好ましく例示される。該メタ型アラミド繊維の混合比率としては、布帛を構成する全繊維重量に対して0〜60%、好ましくは30〜50%である。
【0018】
また、該布帛の目付は150〜350g/m2の範囲とすることが好ましい。該目付が150g/m2未満の場合には、十分な耐熱性能が得られない恐れがあり、また、該目付けが350g/m2を超える場合には、防護服にした場合、重く、着用感が阻害されるので好ましくない。
【0019】
なお、本発明の耐熱防護服は、上記布帛を用いた表地層と内層から構成される複合構造を有するが、各層は相互に接合されている必要はなく、重ね合わして縫合したものでよい。また、内層はファスナー等を使用して表地層から取り外し可能なようにし、洗濯が簡単に出来るような構造を有するものが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)耐光試験
JIS L 0842第3露光法に準拠した方法による。
(2)燃焼性試験
JIS L 1091 A−1法に準拠した方法による。
【0021】
[実施例1]
単繊維繊度が1.65dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)を下記染浴で常温から2℃/分の速度で昇温し、135℃で60分間染色処理した。
染料 K.P.Yellow 4R−E 10%owf
キャリヤー(ベンジルアルコール) 70g/l
酢酸 0.3cc/l
浴比 1:30
【0022】
得られた染色したポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維と単繊維繊度が1.65dtexの染色していない生成りのコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)と、黄顔料(大日精化株製 FR YE5 Yellow顔料)を0.6部添加して繊維化した単繊維繊度が2.42dtexの原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)を混合比率が40:20:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いて2/1綾織に織成した織物(目付:240g/m2)を用いて、公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。
得られた布帛の耐光性及び燃焼性の評価結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
実施例1で使用した、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)と染色していない生成りのコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)のみを用いて、混合比率が70:30となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いて得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0024】
[実施例3]
実施例1において、コポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)の代わりにパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0025】
[比較例1]
実施例1において、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)とコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)と原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)との混合比率が27:3:70となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0026】
[比較例2]
実施例1において、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)と原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)との混合比率が60:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0027】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の耐熱性布帛は、パラ型アラミド繊維の欠点であった耐光性が改善され、高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛とすることができるので耐火服、防護服として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維からなる耐熱布帛に関し、パラ型アラミド繊維を40重量%以上含み、高強力で高耐光性且つ耐火炎性のアラミド耐熱性布帛及びそれからなる耐熱性防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、消防士が消火作業時に着用する耐熱性防護服としては、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾールなどの難燃性の有機繊維布帛が使用されている。特開2000−212810号公報には、消防士の安全性や快適性を改良する目的から、全成分が高強度繊維であるパラ型アラミド繊維とメタ型アラミド繊維を用いた高強力、難燃性及び遮熱性に優れた防護服が提案されている。パラ型アラミド繊維を40重量%以上用いることにより軽量で高強力、難燃性及び耐熱性に優れるものがえられるが、しかしながらパラ型アラミド繊維を40重量%以上用いた布帛は、長期の耐光性に劣り変色するという重大な欠点があった。
【0003】
この点の改良として、特開平8−113706号公報には銅化合物をパラ型アラミド樹脂に添加して製糸することにより耐光性を改良できることが開示されている。この方法により耐光性は向上するものの、銅化合物が凝固浴に抜け出すという問題や、強度が低下するため好ましくない。
【0004】
又特開2000−290849号公報には、結晶サイズや繊維中の水分を高含水量とすること等により良染色性のパラ系アラミド繊維とし先染めした後、該先染めパラ系アラミド短繊維を他の合成繊維と混紡した紡績糸とすることによりパラ系アラミド繊維の耐光性を改良する方法が開示されている。この方法により耐光性は向上しているものの、パラ系アラミド繊維の水分率を一定とするためには製造上のコントロールが難しく、歩留まりが悪いという欠点がある。
【0005】
更に他のパラ系アラミド繊維の耐光性を改良する方法として、特開2000−303285号公報にはパラ系アラミド繊維の耐光性不良を解消する方法として、染色されたパラ型アラミド繊維を芯成分として含む芯鞘型複合紡績糸とし、該パラ型アラミド繊維を耐光性の良い鞘繊維で覆うことが提案されている。この方法によりパラ型アラミド繊維の耐光性をカバーすることができるものの、芯鞘型複合紡績糸とすることによるコストアップやパラ型アラミド繊維が全繊維重量の50%以上になると鞘繊維の量が相対的に低下しパラ型アラミド繊維を完全に覆うことが出来ず耐光性が低下するという問題があった。
こうした現状に鑑み、簡便な方法でパラ系アラミド繊維を40%以上含むアラミド耐熱布帛の耐光性不良を解消する方法の開発が大いに望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−212810号公報
【特許文献2】特開平8−113706号公報
【特許文献3】特開2000−290849号公報
【特許文献4】特開2000−303285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、パラ系アラミド繊維の耐光性不良に基づく問題点を解消することに関し、特に全成分がアラミド繊維からなり、パラ系アラミド繊維を40%以上含む布帛の耐光性を改善し、高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛、並びに、該耐熱性布帛を用いて製造された耐熱性防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、染色したパラ型アラミド繊維を35重量%以上、及び染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を5重量%以上を混紡した紡績糸とし、該紡績糸を用いてなる布帛とすることにより、耐光性を改善し高強力で耐火炎性に優れた耐熱布帛及びそれからなる耐熱性防護服とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維を適量用いて混紡紡績糸とし、これを用いた布帛とすることにより、パラ型アラミド繊維を用いた衣服の欠点であった耐光変色性が改善され、且つ高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛とすることができ、消防服、防火服、防護服として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。アラミドとは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、パラ型アラミドとして、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体であるポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミド、メタ型アラミドとして、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体などが挙げられる。
【0011】
本発明で用いられるポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体の一例として、下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが例示される。
【化1】
【0012】
本発明のパラ型アラミド繊維は上記のパラ型アラミド樹脂を溶媒に溶解し、湿式又は乾式紡糸、延伸し、公知の方法で繊維化したものであり、単繊維繊度は0.6〜6.0dtexであることが好ましい。0.6dtex以下では繊維化や紡績糸とするのが難しく、6.0dtex以上では布帛とした時に風合いの硬いものとなり好ましくない。
【0013】
本発明においては、該パラ型アラミド繊維のうち、染色したパラ型アラミド繊維は、耐光試験において淡色化する一方、染色しない生成り及び/又は顔料原着の(以後染色しない生成り及び/又は顔料原着と言う表現を、非染色と略称することがある)パラ型アラミド繊維は、耐光試験において濃色化するという現象に着目し本発明は完成されたものである。ここで染色したアラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維は同系統の色であるのが好ましく、染色したパラ型アラミド繊維の退色による色目と非染色のパラ型アラミド繊維の濃色化による色目とが互いに補完しあい、耐光試験にかける前の色目に近い色が維持される。
【0014】
染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維の総使用量としては、布帛を構成する全繊維に対して40重量%以上が好ましい。該両パラ型アラミド繊維の総使用量が40重量%未満では、防護服として必要な高強力が得られにくく、又難燃性としてJIS L 1091 A−1法において、炭化面積が0cm2を達成することが難しい。
【0015】
染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維の配合割合としては、染色したパラ型アラミド繊維が35重量%以上、非染色のパラ型アラミド繊維が5%以上含む構成とし、必要に応じて他のアラミド繊維を混紡したアラミド紡績糸として使用することが好ましい。この構成とする時にパラ型アラミド繊維を40%以上含む布帛の耐光性が改善されるとともに高強力、耐熱、耐火炎性を満たすものとすることができる。染色したパラ型アラミド繊維が35重量%以下の場合は、高強力、耐熱、耐火炎性布帛を維持するためには、非染色のパラ型アラミド繊維を5%以上とする必要があり、所望の色目に調整するのが難しくなるばかりでなく、染色したパラ型アラミド繊維の退色と、非染色のパラ型アラミド繊維の濃色化とのバランスがくずれ濃色化し過ぎる傾向となり好ましくない。又非染色のパラ型アラミド繊維が5%以下の場合、高強力、高火炎性を維持するためには、染色繊維の量を増やす必要があり、濃色化成分が少ないため耐光性は低下し好ましくない。好ましくは、染色したパラ型アラミド繊維が35〜70重量%、非染色のパラ型アラミド繊維が5〜40%の範囲である。より好ましくは、染色したパラ型アラミド繊維が40〜60重量%、非染色のパラ型アラミド繊維が10〜30%の範囲である。
【0016】
該パラ型アラミド繊維の染色は短繊維化の前後で行うことができるが、短繊維化後の綿染めがより好ましい。染色は公知の染色装置、方法で行うことが出来、条件としては、染料を5〜30%owf、キャリヤーを0〜100g/l用いて、染色温度が120〜150℃で30〜90分の処理を行うことが好ましい。染料としては、カチオン染料、分散染料等公知の染料を用いることができる。
又顔料原着繊維を得るには公知の方法で行うことが出来る。例えば顔料のマスターバッチを作成して樹脂溶液に添加後乾式又は湿式紡糸、延伸、捲縮、カットして繊維化する。
【0017】
上記の染色したパラ型アラミド繊維と非染色のパラ型アラミド繊維のバランス及び布帛に使用する総使用量が耐光性と高強力、耐火炎性に必須であるが、目的とする効果が得られるのであれば、メタ型アラミド繊維を併用することが好ましい。メタ型アラミド繊維はパラ型アラミド繊維より難燃性に優れ、且つ布帛としての柔軟性も向上するのでより好ましい。メタ型アラミド繊維としては、原着、染色のいずれでも構わない。混合形態としては、パラ型アラミド繊維と混紡して紡績糸の形態で使用するものが好ましく例示される。該メタ型アラミド繊維の混合比率としては、布帛を構成する全繊維重量に対して0〜60%、好ましくは30〜50%である。
【0018】
また、該布帛の目付は150〜350g/m2の範囲とすることが好ましい。該目付が150g/m2未満の場合には、十分な耐熱性能が得られない恐れがあり、また、該目付けが350g/m2を超える場合には、防護服にした場合、重く、着用感が阻害されるので好ましくない。
【0019】
なお、本発明の耐熱防護服は、上記布帛を用いた表地層と内層から構成される複合構造を有するが、各層は相互に接合されている必要はなく、重ね合わして縫合したものでよい。また、内層はファスナー等を使用して表地層から取り外し可能なようにし、洗濯が簡単に出来るような構造を有するものが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)耐光試験
JIS L 0842第3露光法に準拠した方法による。
(2)燃焼性試験
JIS L 1091 A−1法に準拠した方法による。
【0021】
[実施例1]
単繊維繊度が1.65dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)を下記染浴で常温から2℃/分の速度で昇温し、135℃で60分間染色処理した。
染料 K.P.Yellow 4R−E 10%owf
キャリヤー(ベンジルアルコール) 70g/l
酢酸 0.3cc/l
浴比 1:30
【0022】
得られた染色したポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維と単繊維繊度が1.65dtexの染色していない生成りのコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)と、黄顔料(大日精化株製 FR YE5 Yellow顔料)を0.6部添加して繊維化した単繊維繊度が2.42dtexの原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)を混合比率が40:20:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いて2/1綾織に織成した織物(目付:240g/m2)を用いて、公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。
得られた布帛の耐光性及び燃焼性の評価結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
実施例1で使用した、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)と染色していない生成りのコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)のみを用いて、混合比率が70:30となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いて得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0024】
[実施例3]
実施例1において、コポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)の代わりにパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0025】
[比較例1]
実施例1において、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)とコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)と原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)との混合比率が27:3:70となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0026】
[比較例2]
実施例1において、染色したパラフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ製、商標名:トワロン)と原着のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)との混合比率が60:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた布帛の評価結果を表1に併せて示す。
【0027】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の耐熱性布帛は、パラ型アラミド繊維の欠点であった耐光性が改善され、高強力で耐火炎性に優れた耐熱性布帛とすることができるので耐火服、防護服として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全成分がアラミド繊維からなる耐熱性布帛において、パラ型アラミド繊維を全繊維の40重量%以上含み、且つ、耐光性試験JIS L 0842第3露光法において3級以上であることを特徴とする耐熱性布帛。
【請求項2】
パラ型アラミド繊維が、染色したパラ型アラミド繊維と、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維からなり、染色したパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して35重量%以上、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して5重量%以上含む請求項1記載の耐熱性布帛。
【請求項3】
染色したパラ型アラミド繊維が全繊維重量に対して40〜60重量%、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維が全繊維重量に対して10〜30重量%含む請求項1〜2いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項4】
パラ型アラミド繊維が、染色したパラ型アラミド繊維と染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維からなる紡績糸である請求項1〜3いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項5】
燃焼性試験JIS L 1091 A−1法において、炭化面積が0cm2である請求項1〜4いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項6】
メタ型アラミド繊維を0〜60重量%の範囲で含む請求項1〜5いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項7】
メタ型アラミド繊維が、原着である請求項6記載の耐熱性布帛。
【請求項8】
メタ型アラミド繊維が、染色されたメタ型アラミド繊維である請求項6記載の耐熱性布帛。
【請求項9】
染色したパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して35重量%以上、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して5重量%以上含む紡績糸とし、それを織製してなる布帛とすることを特徴とする、耐光性試験JIS L 0842第3露光法において3級以上である、アラミド繊維からなる耐熱性布帛の製造方法。
【請求項10】
表地層が請求項1〜8のいずれか1項記載の布帛からなることを特徴とする耐熱性防護服。
【請求項1】
全成分がアラミド繊維からなる耐熱性布帛において、パラ型アラミド繊維を全繊維の40重量%以上含み、且つ、耐光性試験JIS L 0842第3露光法において3級以上であることを特徴とする耐熱性布帛。
【請求項2】
パラ型アラミド繊維が、染色したパラ型アラミド繊維と、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維からなり、染色したパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して35重量%以上、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して5重量%以上含む請求項1記載の耐熱性布帛。
【請求項3】
染色したパラ型アラミド繊維が全繊維重量に対して40〜60重量%、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維が全繊維重量に対して10〜30重量%含む請求項1〜2いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項4】
パラ型アラミド繊維が、染色したパラ型アラミド繊維と染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維からなる紡績糸である請求項1〜3いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項5】
燃焼性試験JIS L 1091 A−1法において、炭化面積が0cm2である請求項1〜4いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項6】
メタ型アラミド繊維を0〜60重量%の範囲で含む請求項1〜5いずれか1項記載の耐熱性布帛。
【請求項7】
メタ型アラミド繊維が、原着である請求項6記載の耐熱性布帛。
【請求項8】
メタ型アラミド繊維が、染色されたメタ型アラミド繊維である請求項6記載の耐熱性布帛。
【請求項9】
染色したパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して35重量%以上、染色しない生成り及び/又は顔料原着のパラ型アラミド繊維を全繊維重量に対して5重量%以上含む紡績糸とし、それを織製してなる布帛とすることを特徴とする、耐光性試験JIS L 0842第3露光法において3級以上である、アラミド繊維からなる耐熱性布帛の製造方法。
【請求項10】
表地層が請求項1〜8のいずれか1項記載の布帛からなることを特徴とする耐熱性防護服。
【公開番号】特開2008−38299(P2008−38299A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215741(P2006−215741)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】
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