説明

耐光性向上用組成物

【課題】有機染料を使用するアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物、該組成物を用いた耐光性向上方法、及び、その方法により処理された物品を提供する。
【解決手段】ヒンダードピペリジニル基を有する化合物であるヒンダードアミン系光安定剤を含有するpH3以下の溶液を調製し、必要に応じてアルカリ成分を添加してpHを1〜9とした水溶液からなるアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物に、アルミニウム又はその合金を陽極酸化処理及び染色処理を施して得られる物品を接触させる処理方法、及び、処理された物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム又はその合金に耐食性を付与するために、硫酸水溶液などの電解液中でアルミニウム又はその合金を陽極として通電し、アルミニウム表面に多孔質の酸化アルミニウム皮膜を形成することが行われる(以下、陽極酸化処理という)。
【0003】
更に、意匠性向上のため、アゾ染料、金属錯塩型アゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、キサンテン染料などの水溶性有機染料を含む染料水溶液に陽極酸化処理を施したアルミニウム又はその合金を浸漬し、プラスの電荷を持つ直径数十nmの通電孔内部にマイナスの電荷を持つ染料分子を静電気的に吸着させることで、アルミニウム又はその合金に着色する処理が行われている(以下、染色処理という)。これは、陽極酸化処理によって得られた酸化アルミニウム皮膜の多孔性を利用したものである。
【0004】
また、染色処理の後、多孔質の酸化アルミニウム皮膜の微細孔を閉じる処理である沸騰水法や酢酸ニッケル法などの封孔処理が一般的に行われている。
【0005】
アルミニウム又はその合金は、軽量で強度が強く、酸化アルミニウム皮膜は耐食性に優れるため、建材・車両などに利用され、また、以上のように染色処理によってさまざまな色調に仕上げることができることから、携帯電話やデジタルカメラなどモバイル機器にも利用されている。
【0006】
しかしながら、以上の陽極酸化処理及び染色処理(陽極酸化染色処理ということがある)によって、アルミニウム又はその合金を多彩な色調に仕上げることができる反面、従来の染色処理では有機染料を使用しているため、光に当たると退色し、耐光性が悪いという問題点がある。このため、アルミニウム又はその合金に陽極酸化処理及び染色処理を施して得られる処理品(アルミニウム陽極酸化染色処理品ということがある)の耐光性向上用組成物が求められ、種々検討されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、染色処理を行った後、耐候性付与剤を含有するクリヤー系塗料を塗布し染色表面をコーティングすることを特徴とする染色アルマイト塗装物が開示されている。また、特許文献2には、耐候性向上用組成物として、水、乳化剤、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を含有する成分平均粒子径が150nm以下であることを特徴とする光安定剤乳化組成物が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法は、クリヤー系塗料を塗布するため、コーティング膜を形成する必要がある。また、特許文献2の方法は、粒子径の大きい乳化組成物を使用するため、直径数十nmの陽極酸化皮膜の通電孔内部に光安定剤を定着することができない。
【特許文献1】特開2003−55794号公報
【特許文献1】特開2006−249410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、アルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpHが1〜9の水溶液からなる組成物を使用することにより、簡便な方法によってアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性が向上されることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のアルミニウム陽極酸化染色処理の耐光性向上用組成物を提供するものである。
項1. ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpHが1〜9の水溶液からなるアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
項2. ヒンダードアミン系光安定剤が下記一般式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは水素又はメチル基を示す。R〜Rは同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基を示す。)
で表されるヒンダードピペリジニル基を有する化合物である項1記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
項3. 前記組成物中が澄明な水溶液である項1又は2に記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
項4. ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpH3以下の水溶液を調製し、必要に応じてアルカリ成分を添加してpHを1〜9に調整して得られる項3に記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
項5. 前記組成物中のヒンダードアミン系光安定剤の濃度が0.001〜20重量%である項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
項6. アルミニウム又はその合金に陽極酸化処理及び染色処理を施して得られる処理品を、項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物に接触させることを特徴とするアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上方法。
項7. 項6に記載の方法により処理された物品。
【0014】
以下、本発明のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物について詳細に説明する。
【0015】
本発明のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物の処理対象は、アルミニウム又はその合金を陽極酸化し、さらに染色処理を施したものである。
【0016】
陽極酸化処理
アルミニウム又はその合金の陽極酸化処理は、従来公知の方法を適用すればよく、陽極酸化処理液中に被処理物であるアルミニウム又はその合金を浸漬して陽極酸化を行う。
【0017】
陽極酸化処理に使用する電解液としては、特に限定されず、例えば、硫酸水溶液系、シュウ酸水溶液系、クロム酸水溶液系、スルホン酸水溶液系等の電解液を使用すればよい。
処理液の液温は、例えば、0〜80℃程度、好ましくは10〜40℃程度である。
【0018】
電解方法は交流電解及び直流電解のいずれでも良いが、皮膜成長が早く、厚膜を容易に得ることができる点で直流電解が好ましい。
【0019】
電流密度は、例えば、0.1〜10A/dm程度、好ましくは0.5〜3A/dm程度である。
通電時間は、通常、10分〜100分間程度とすればよい。
【0020】
陽極酸化によって形成される皮膜の厚みは、例えば、2〜50μm程度、好ましくは5〜20μm程度であり、用途に応じて任意に設定すればよい。
【0021】
なお、陽極酸化処理を行う前に、まず、処理対象のアルミニウム又はその合金に対して、必要に応じて、付着物などを除去するための前処理を行う。前処理方法については、特に限定的ではなく、素材の種類、付着物の状態などに応じて、溶剤洗浄、酸洗浄、弱アルカリ洗浄、酸エッチング、アルカリエッチング、デスマット、化学研磨等の公知の処理方法を適宜適用すればよい。
【0022】
上記アルミニウム又はその合金の陽極酸化処理を施した後、処理表面に染色処理を施す。
【0023】
染色処理
染色処理は、従来公知の方法を適用すればよく、陽極酸化皮膜形成後のアルミニウム又はその合金に、染色法を使用して着色を施す。陽極酸化皮膜には、表面に直径数十nmの微細孔が形成されているため、染料が微細孔内に吸着され、染色が可能となる。
【0024】
染色処理の方法としては、例えば、染色液に処理物を浸せきして染色する浸せき染色(dip dyeing)、染色液を処理物に吹き付けて染色する吹付け染色(spray dyeing)、はけ、布等を使用して染色液を処理物に塗りつけて染色する塗布染色(daub dyeing)、スクリーン印刷、オフセット印刷などによって染料を含有したインキで直接印刷する印刷染色法(direct printing)等が挙げられる。
【0025】
使用する染料は特に限定されず、例えば、クロム酸塩アゾ染料(赤色)、アゾ染料(赤色)、キサンテン染料(ピンク色)、クロム錯塩アゾ染料(紫色)、銅フタロシアニン染料(青色)、アントラキノン染料(青色)、アゾ染料(黄色)、クロム錯塩アゾ染料(黄色)、クロム錯塩アゾ染料(黒色)等、従来公知の染料を使用すればよい。これらの染料は、1種単独で使用しても良いし、2種以上混合して使用しても良い。
【0026】
耐光性向上処理
耐光性向上処理は、前記の陽極酸化処理及び染色処理によって得られたアルミニウム陽極酸化染色処理品を、本発明の耐光性向上用組成物に接触させるものである。アルミニウム陽極酸化染色処理品を本発明の耐光性向上用組成物と接触させることにより、アルミニウム陽極酸化染色処理品の表面に効率よく耐光性を付与できる。
【0027】
本発明の耐光性向上用組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpHが1〜9の水溶液からなる組成物である。
【0028】
本発明で使用するヒンダードアミン系光安定剤とは、一般的にHindered Amine Light Stabilizer (HALS)と呼ばれており、光に対する安定剤として開発されたものである。
【0029】
ヒンダードアミン系光安定剤の中でも、下記一般式(1)
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、Rは水素又はメチル基を示す。R〜Rは同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基を示す。)で表されるヒンダードピペリジニル基を有する化合物が好ましい。低級アルキルとは、炭素数1〜6のアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。これら低級アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであっても良い。
【0032】
これら中でも、上記一般式(I)で表されるヒンダードピペリジニル基のR〜Rがメチル基であるヒンダードアミン系光安定剤が特に好ましい。
【0033】
上記一般式(I)で表されるヒンダードピペリジニル基のR〜Rがメチル基であるヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルベンゾエート、N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ドデシルコハク酸イミド、1−〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、N,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,5,8,12−テトラキス〔4,6−ビス{N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミノ}−1,3,5−トリアジン−2−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔{4,6−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−1,3,5−トリアジン−2−イル}アミノ〕ウンデカン、2−第三オクチルアミノ−4,6−ジクロロ−s−トリアジン/N,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン/ジブロモエタン縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)−ジエタノールとの縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンコハク酸ジメチルエステル共重合体(1-(2-Hydroxyethyl)-4-hydroxy-2,2,6,6-tetramethylpiperidine-succinic acid, dimethyl ester, copolymer)などが挙げられる。
【0034】
これらの中でも、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)−ジエタノールとの縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンコハク酸ジメチルエステル共重合体が好ましい。
【0035】
本発明で使用するヒンダードアミン系光安定剤は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0036】
通常、ヒンダードアミン系光安定剤は水に溶けにくく、水と混合して使用する場合には、特許文献2に記載のように、乳化剤を添加して水にヒンダードアミン系光安定剤を乳化させる。水中で乳化したヒンダードアミン系光安定剤は、そのサイズが大きいために直径数十nmの陽極酸化皮膜の通電孔内部に定着できない。
【0037】
本発明においては、例えば、以下の(1)〜(3)に示すように、ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpH3以下の水溶液を調製してヒンダードアミン系光安定剤を水に溶解することにより、ヒンダードアミン系光安定剤が水に溶解した澄明な水溶液が得られる。
【0038】
(1)まず、水にヒンダードアミン系光安定剤を加えて、水とヒンダードアミン系光安定剤を混合させる。この時点では、ヒンダードアミン系光安定剤は水に溶解せずに分離している。
【0039】
(2)次に、酸を添加し、pHを3以下に調整する。この時点で、ヒンダードアミン系光安定剤は水に溶解し、澄明な水溶液となる。
【0040】
上記(1)及び(2)の代わりに、水に酸を加えてpH3以下に調整した水溶液に、ヒンダードアミン系光安定剤を加える方法によっても、同様にヒンダードアミン系光安定剤が水に溶解した澄明な水溶液が得られる。
【0041】
本発明の耐光性向上用組成物のpHは、処理対象であるアルミニウム陽極酸化染色処理品の表面に悪影響を与えない程度に調節する必要があり、通常1〜9程度、好ましくは3〜7程度である。
【0042】
(3)上記(1)及び(2)のような方法によって得られる水溶液は、pH3以下なので、pH3を超える耐光性向上用組成物を得るためには、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ成分を添加してpHを調整すればよい。pHを3以下に調整することにより澄明な水溶液になった耐光性向上用組成物にアルカリ成分を加えてpHを1〜9程度にしても、耐光性向上用組成物は澄明な水溶液のままである。
【0043】
本発明の耐光性向上用組成物中のヒンダードアミン系光安定剤は水に溶解しているので、ヒンダードアミン系光安定剤が直径数十nmの陽極酸化皮膜の通電孔内部に定着し、アルミニウム陽極酸化染色処理品の表面に効率よく耐光性を付与することができる。
【0044】
酸の添加量は、耐光性向上用組成物のpHが上記範囲になるように適宜調節すればよい。
【0045】
酸としては、硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酢酸等の有機酸を使用すれば良く、これらの中でも硫酸、硝酸、リンゴ酸及びクエン酸が好ましい。これらの酸は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0046】
本発明の耐光性向上用組成物中のヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、耐光性向上用組成物全量中、通常0.001〜20重量%程度、好ましくは0.01〜2重量%程度である。
【0047】
アルミニウム陽極酸化染色処理品を本発明の耐光性向上用組成物に接触させることにより、アルミニウム陽極酸化染色処理品の表面に効率よく耐光性を付与できる。
【0048】
アルミニウム陽極酸化染色処理品を本発明の耐光性向上用組成物に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム陽極酸化染色処理品を耐光性向上用組成物に浸積する方法、アルミニウム陽極酸化染色処理品に耐光性向上用組成物を塗布する方法、アルミニウム陽極酸化染色処理品に耐光性向上用組成物を吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、アルミニウム陽極酸化染色処理品を耐光性向上用組成物に浸積する方法が好ましい。
【0049】
本発明の耐光性向上用組成物をアルミニウム陽極酸化染色処理品に接触させる温度は、例えば、アルミニウム陽極酸化染色処理品を耐光性向上用組成物に浸積する場合、通常0〜60℃程度、好ましくは10〜30℃程度である。
【0050】
また、耐光性向上用組成物をアルミニウム陽極酸化染色処理品に接触させる時間は、例えば、アルミニウム陽極酸化染色処理品を耐光性向上用組成物に浸積する場合、通常10秒〜30分間程度、好ましくは30秒〜5分間程度である。
【0051】
なお、上記した方法で耐光性向上処理を行った後、必要に応じて、封孔処理を行うことによって、耐食性をより向上させることができる。封孔処理の方法については、特に限定はなく、各種の公知の方法を適用できる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の耐光性向上用組成物を使用することで、アルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性を効率的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0054】
まず、実施例及び比較例において、工程1及び2では、50×100mmのアルミニウム板(純度99.5%)を被処理物とし、下記表1に記載の条件で被処理物に脱脂、陽極酸化処理を施した。
【0055】
工程3では、工程1及び2で得られた被処理物に染色処理を施した。染色処理は、下記表2に記載の染料(クロム酸塩アゾ染料(赤色)、キサンテン染料(ピンク色)、アントラキノン染料(青色)、アゾ染料(黄色)、クロム錯塩アゾ染料(黒色))を用い、表2に記載の温度、pH、浸積時間の条件でそれぞれ被処理物を染料に浸積した。
【0056】
工程4では、工程3で得られた被処理物に耐光性向上処理を施した。耐光性向上処理は、下記表2に記載の各処理液を用い、表2に記載の温度、pH、浸積時間の条件でそれぞれ被処理物を耐光性向上用組成物に浸積した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜13で使用した耐光性向上用組成物は、下記の工程により作製した。
【0060】
耐光性向上用組成物の作製
ガラスビーカーに純水800mlを入れ撹拌し、ヒンダードアミン系光安定剤を0.1〜20g添加した。ヒンダードアミン系光安定剤は水に不溶であるため、この時点では、溶解せず、ヒンダードアミン系光安定剤と水は完全に分離していた。この液に、98%硫酸を10g添加して、pHを3以下にすることによって、ヒンダードアミン系光安定剤が水に完全に溶解し、ヒンダードアミン系光安定剤を含有する澄明な水溶液が得られた。得られた水溶液にアンモニア水を添加してpHを3〜7に調整し、さらに純水を添加して1Lの液量に調整し、実施例1〜13の耐光性向上用組成物を得た。
【0061】
実施例1〜13で使用したヒンダードアミン系光安定剤は、下記の通りである。
実施例1、10〜13
アデカスタブLA−57:テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)=1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート
【0062】
【化3】

【0063】
実施例2
アデカスタブLA−62:1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート
【0064】
【化4】

【0065】
実施例3
アデカスタブLA−67:2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート
【0066】
【化5】

【0067】
実施例4
アデカスタブLA−77:ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート
【0068】
【化6】

【0069】
実施例5
アデカスタブLA−63:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物
【0070】
【化7】

【0071】
実施例6
アデカスタブLA−68:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テロラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)−ジエタノールとの縮合物
【0072】
【化8】

【0073】
実施例7
アデカスタブLA−82:1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート
【0074】
【化9】

【0075】
実施例8
アデカスタブLA−87:
【0076】
【化10】

【0077】
実施例9
バイオソープ03:1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンコハク酸ジメチルエステル共重合体
【0078】
【化11】

【0079】
上記した方法によりアルミニウムの陽極酸化染色処理および耐光性向上処理を行った各試料について、耐光性試験を行い、試験前後の処理品の色差を比較した。耐光性試験は下記の条件で行い、退色を色差計により判定した。色差の値が小さいほど耐光性は良い。
【0080】
判定基準は、耐光性処理を施していない陽極酸化染色処理品の判定を各染料それぞれ△とし、各染料において耐光性処理を施していない陽極酸化染色処理品より色差が小さい場合を○、色差が大きい場合を×とした。
【0081】
耐光性試験条件
試験機:サンテストXLS+(ATLAS社製) 光源:キセノンランプ 放射照度:750W/m 照射時間:50時間
色差計測定条件
積分球分光測色計SP64(x−rite社製) 表色系:L 正反射光:含まない 光源:D65 視野:10度 平均回数:3回 アパーチャー:4mm。
【0082】
以上の試験結果を下記表3、4に示す。例えば、赤色の染料(TAC RED-GD(レッド・101))を使用した実施例1〜9と比較例1とを比較すると、耐光性試験前後の処理品の色差は、実施例1〜9の方が小さかった。同様に、例えば、青色の染料(TAC BLUE-SLH(ブルー・503))を使用した実施例11と比較例3とを比較すると、耐光性試験前後の処理品の色差は、実施例11の方が小さかった。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpHが1〜9の水溶液からなるアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
【請求項2】
ヒンダードアミン系光安定剤が下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素又はメチル基を示す。R〜Rは同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基を示す。)
で表されるヒンダードピペリジニル基を有する化合物である請求項1記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
【請求項3】
前記組成物中が澄明な水溶液である請求項1又は2に記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
【請求項4】
ヒンダードアミン系光安定剤を含有するpH3以下の水溶液を調製し、必要に応じてアルカリ成分を添加してpHを1〜9に調整して得られる請求項3に記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
【請求項5】
前記組成物中のヒンダードアミン系光安定剤の濃度が0.001〜20重量%である請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物。
【請求項6】
アルミニウム又はその合金に陽極酸化処理及び染色処理を施して得られる処理品を、請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上用組成物に接触させることを特徴とするアルミニウム陽極酸化染色処理品の耐光性向上方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により処理された物品。

【公開番号】特開2009−91622(P2009−91622A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263336(P2007−263336)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)