説明

耐切創性に優れた繊維構造物及びその製造方法

【課題】本発明は柔軟で着用性に優れ、耐切創性に優れた繊維構造物及びその製造方法を提供しようとするものである。
【解決手段】繊維構造物を構成する繊維糸の繊維間摩擦が、下記測定方法で測定した際の最大値Fmaxが710以上である繊維構造物。繊維構造物を構成する繊維の一端を固定し、3回撚りをかけた後、他の一端に荷重(T1)をかけ、0.1m/分のスピードで繊維を動かした際の張力(T2)を測定し、下式によりFmaxを求める。(図1参照)
Fmax=T2max−T1
温水中で超音波処理する耐切創性の優れた繊維構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐切創性の高い防護用品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手袋および作業衣、および自転車競技選手、オートレース選手、モーターボート選手などの競技用衣服、また作業用の軍手に要求される性能として、耐切創性、耐摩耗性が必要である。従来の技術としては、特開2000−178812号公報には、高強度・高弾性率繊維とステンレスやチタンなどの金属細線からなる複合糸を混入したり、特開2004−360168号公報には芯糸にガラスフィラメントからなるマルチフィラメントを用いている。特開2004−060112号公報には、耐切創性の優れたアラミド繊維を製織または編成して形成されたもので、製品の全体または一部に使用して構成された防護具が使用されてきた。またアラミド繊維の場合には少量の使用では耐切創性効果が少ないため、目付けを大きくして使用したり、特開平09−157981号公報には単糸繊度の大きい原糸や原綿を使用したり、更に基布または製品に樹脂加工して耐切創性を向上するなどの手段がとられていた。しかしこれらの従来品は金属線やガラス繊維が切断されて手にささったり、繊維の目付けの大きいものや樹脂加工を施したもの等は製品が硬くなり、使用者の着用感が悪い上に、かかる特殊繊維では製織または編成がしにくいという欠点があった。
【0003】
【特許文献1】特開2000−178812号公報
【特許文献2】特開2004−360168号公報
【特許文献3】特開2004−060112号公報
【特許文献4】特開平09−157981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、柔軟で着用性に優れる上に特に、耐切創性に優れた防護用品を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、最適な処理、たとえば温水中で超音波処理を行うことで、繊維構造物を構成する紡績糸もしくはフィラメントの繊維間摩擦がFmaxが710以上とすることができ、ISO13997評価法における耐切創性を向上させることができる。また厚みが4.5mm以上あるときに顕著に切創性が向上する。
【0006】
即ち本発明によれば、
繊維構造物を構成する繊維糸の繊維間摩擦が、下記測定方法で測定した際の最大値Fmaxが710以上であることを特徴とする耐切創性に優れる繊維構造物及び繊維繊度が0.5dtex〜5.0dtexである繊維構造物を40〜80℃で15〜30分温水浸漬処理と同時に超音波処理し、繊維構造物を構成する繊維の繊維間摩擦が、下記測定方法で測定した際の最大値Fmaxが710以上とすることを特徴とする耐切創性に優れる繊維構造物の製造方法である。
【0007】
繊維構造物を構成する繊維の一端を固定し、3回撚りをかけた後、他の一端に荷重(T1)をかけ、0.1m/分のスピードで繊維を動かした際の張力(T2)を測定し、下式によりFmaxを求める。(図1参照)
Fmax=T2max−T1
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維よりなる繊維構造物を用いることにより、ISO13997評価法における切創試験において、耐切創性が著しく向上するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において対象とする繊維は、主鎖中にフェニレン基を有する芳香族ポリアミド繊維、例えば、パラ型アラミド繊維としては、デュポン社のケブラーやテイジン・アラミド社のトワロンなどに代表されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維や、PPTAと3,4′−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維、帝人テクノプロダクツ株式会社製のテクノーラ等を挙げることができる。
【0010】
また、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維である東洋紡社のザイロン、ヘキストセラニーズ社のPBI繊維、また高強力ポリエチレン繊維として東洋紡社のダイニーマなどの高強力繊維がふさわしく用いられる。
【0011】
本発明では、該繊維構造物が耐切創性に優れた性能であるためには、Fmaxの値は710以上である必要がある。好ましくは715〜860、また更に好ましくは720〜830である。Fmaxが大きすぎると着用した際にかたく感じ、また逆に小さすぎると十分な耐切創性が得られない。
【0012】
油剤付着量は1.0%以下、好ましくは0.05〜1.0%、更に好ましくは0.1〜0.9%である。油剤付着量が多すぎると耐切創性が低下し着用した際にべとつき間を感じ、また付着量が少なすぎるとかたく感じ、着用感が悪い。
【0013】
単繊維繊度は0.5〜5.0dex、より好ましくは0.5〜3.0dex、更に好ましくは0.9〜2.4dexの範囲である。単糸繊度が小さすぎると耐切創性の改善が少なく、反対に大きすぎると、繊維構造物(手袋や織編物等)に柔軟性がなく、ちくちく感を感じることもある。
【0014】
また、該繊維構造物の厚みは、4.5mm以上、好ましくは4.5〜6.0mm、更に好ましくは4.7〜5.5mmである。厚みが厚すぎると着用した際に十分な柔軟性が得られず、逆に薄すぎると十分な耐切創性が得られない。
【0015】
繊維構造物のFmaxの値を710以上とするために例えば温水中で超音波処理を行うことが好ましい。
温水としては40〜80℃が好ましく、処理温度が40℃以下の場合は耐切創性向上効果は著しいものではなく、また80℃以上であった場合には繊維構造物の物性や形態が変化するため好ましくない。
【0016】
超音波処理としては周波数20〜100Hzが好ましく、20Hz未満の場合は十分に処理できず耐切創性向上効果が著しいものではなく、100Hzより大きい場合はサンプル形状が変わってしまう可能性がある。またサンプルは温水中に完全に浸漬しているものとする。
【0017】
この方法により、繊維間の摩擦を向上させることで、刃が繊維構造物に接触した際に繊維構造物が嵩高性を維持することができることにより耐切創性が向上するものと考えられる。
【0018】
温水中で超音波処理をすることにより繊維間摩擦が上がる理由については明らかではないが、超音波処理により油剤等が繊維表面から脱落することや、繊維表面が衝撃により微細変化(フィブリル化等)が生じるによるものと考えられる。
【0019】
繊維構造物の形態としては、紡績糸やフィラメント糸であっても良く、又紡績糸やフィラメント糸からなる織物、編物、不織布又ロープ等に例示されるような繊維構造体であってもよい。更に、ポリエステル繊維、あるいは他の合成繊維や天然繊維等と混用した繊維構造体であってもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、実施例における耐切創性の評価は、次のようにして行った。
(1) 耐切創性
ISO13997に基づき、TDM−100の装置を用い、45度方向にサンプルをセット後試験を行い、切創ストローク長が20mmの時の荷重を読み取った。
(2)嵩高性
JIS L 1018の編地厚さ測定に基づき、行った。加圧は69Pa、ニットを二枚積層した。
(3)繊維間摩擦
繊維構造物を構成する繊維の一端を固定し、3回撚りをかけた後、他の一端に荷重(T1=500g)をかけ、0.1m/分のスピードで繊維を動かした際の張力(T2)を測定し、下記式よりFmaxを求めた。(図1参照)
Fmax=T2max−T1
【0021】
[実施例1]
トワロン短繊維(帝人トワロン株製 1.7dtex、カット長51mm)を用い紡績糸20.5/2を作成し、これらを5本合わせ、7Gの編機専用機で丸編を作成した。得られた編物を80℃の温水中で15分間超音波処理(本多電子株式会社製 3周波超音波洗浄機、45Hz)を2回行い、80℃、30分で乾燥させた。
Fmaxは723、また二枚積層した厚みは4.6mmで耐切創性能は、11.8Nで良好であった。
【0022】
[比較例1]
実施例1に記載の編物で超音波処理を施していない編物を用いた。
Fmaxは699、また二枚積層した厚みは4.6mmで耐切創性能は、10.6Nであった。
【0023】
[実施例2]
テクノーラ(帝人テクノプロダクツ株製)の1670dtex1000filのフィラメントを用い、これらを2×2バスケット、密度34本/2.54cmの条件で製織した布帛を80℃、15分間条件で超音波処理を2回行い、80℃、30分乾燥させた。
Fmaxは712、二枚積層した際の厚みは1.4mmで耐切創性能は、5.0Nで良好であった。
【0024】
[比較例2]
実施例2に記載の織物で超音波処理を施していない織物を用いた。
Fmaxは620、二枚積層した際の厚みは1.3mmで耐切創性能は4.6Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明を用いて、繊維構造物の耐切創性を向上させることにより、例えば手袋および作業衣、および自転車競技選手、オートレース選手、モーターボート選手などの競技用衣服、また作業用の軍手の耐切創性能を格段に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】繊維間摩擦を測定する方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物を構成する繊維糸の繊維間摩擦が、下記測定方法で測定した際の最大値Fmaxが710以上であることを特徴とする耐切創性に優れる繊維構造物。
繊維構造物を構成する繊維の一端を固定し、3回撚りをかけた後、他の一端に荷重(T1)をかけ、0.1m/分のスピードで繊維を動かした際の張力(T2)を測定し、下式によりFmaxを求める。(図1参照)
Fmax=T2max−T1
【請求項2】
繊維糸を構成する繊維の単糸繊度が0.5dtex〜5.0dtexである請求項1に記載の耐切創性に優れる繊維構造物。
【請求項3】
繊維構造物を構成する繊維が芳香族ポリアミド繊維、PBO繊維、PBI繊維、高強度ポリエチレン繊維の群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1〜2いずれか1項に記載の耐切創性に優れる繊維構造物。
【請求項4】
繊維構造物が織物、編物、及び不織布の群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3いずれか1項に記載の耐切創性に優れる繊維構造物。
【請求項5】
請求項1〜4記載の繊維構造物であって、JIS L 1018による厚み測定において、厚みが4.5mm以上であることを特徴とする耐切創性に優れる繊維構造物。
【請求項6】
繊維構造物を40〜80℃で15〜30分温水浸漬処理と同時に超音波処理し、繊維構造物を構成する繊維糸の繊維間摩擦が、下記測定方法で測定した際の最大値Fmaxが710以上とすることを特徴とする耐切創性に優れる繊維構造物の製造方法。
繊維構造物を構成する繊維の一端を固定し、3回撚りをかけた後、他の一端に荷重(T1)をかけ、0.1m/分のスピードで繊維を動かした際の張力(T2)を測定し、下式によりFmaxを求める。(図1参照)
Fmax=T2max−T1

【図1】
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