説明

耐割れ性に優れたZrO2−In2O3系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】耐割れ性に優れた光記録媒体の保護膜を形成するための高強度スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】AをSi,Cr,Al,Ce,Ti,Snの内の1種または2種以上とすると、ZrIn100−a−b−c(ただし、5原子%<a<23原子%、12原子%<b<35原子%、0<c<30原子%)からなる成分組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrの90%以上がZrとInの複合酸化物相となってターゲット素地中に分散しており、前記ZrとInの複合酸化物相は、ZrIn100−x−y(ただし、20原子%<x<30原子%、10原子%<y<16原子%)からなる成分組成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザー光により情報の記録、再生、記録および再生、並びに消去を行うことのできるZrO−In23系光記録媒体保護膜を形成するための耐割れ性に優れたスパッタリングターゲット(以下、ターゲットと云う)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ディスクなどの光記録媒体を構成する保護膜(下部保護膜および上部保護膜を含む。以下、同じ)は代表的なものとして二酸化ケイ素(SiO2):20%を含有し、残部が酸化亜鉛(ZnS)からなる成分組成を有するZnS−SiO2系保護膜が知られており、この成分組成を有するZnS−SiO2系保護膜は二酸化ケイ素(SiO2):20%を含有し、残部が酸化亜鉛(ZnS)からなるホットプレス焼結体で構成したZnS−SiO2系ターゲットを用い、スパッタリングことにより得られることが知られている。
【0003】
しかし、このZnS−SiO2系ターゲットを用いてスパッタリングことにより得られたZnS−SiO2系保護膜は、レーザー光を記録膜に照射して繰り返し書き換えを行うと、ZnSのSが記録膜中に拡散し、繰り返し書き換えの性能を低下させると言う欠点があった。そのためにSを含まない保護膜の開発が進められており、Sを含まない保護膜の一例として、酸化ジルコニウムおよび酸化インジウムを主成分とし、さらにAをSi,Cr,Al,Ce,Ti,Snの内の1種または2種以上とすると、Aの酸化物(SiO、Cr,Al、CeO,TiO,SnOなど)を含むZrIn100−a−b−c(ただし、5原子%<a<23原子%、12原子%<b<35原子%、0<c<30原子%)からなる成分組成を有するZrO−In23系光記録媒体保護膜が提案されている。このZrO−In23系光記録媒体保護膜はこの保護膜成分とほぼ同じ成分組成を有するZrO−In23系ターゲットを用い、スパッタリングすることにより成膜することができることも知られている(特許文献1参照)。
前記従来のZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットは、酸化ジルコニウム粉末、酸化インジウム粉末およびAの酸化物粉末を原料粉末として用意し、これら原料粉末を所定の割合に配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を成形したのち大気または酸素などの酸化性雰囲気中で焼成することにより作製する。このようにして作製した従来のZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットに含まれるZrは大部分が酸化ジルコニウム相となっており、その他酸化インジウム相およびAの酸化物相からなる組織を有している。
【特許文献1】特開2005−56545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記Zrの大部分が酸化ジルコニウム相となっており、その他酸化インジウム相およびAの酸化物相からなる組織を有するZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットは、これを用いて高出力スパッタすると、スパッタ中に割れが発生し、光記録媒体用保護膜を効率良く成膜することができない。この発明は、高出力でスパッタしても割れが発生することのない耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは高出力スパッタしてもスパッタ中に割れることがない耐割れ性に優れた光記録媒体保護膜形成用ターゲットを作製すべく研究を行った。その結果、(a)ZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットに含まれるZrの90%以上(一層好ましくは100%)がZrとInの複合酸化物相となって素地中に分散している組織を有するZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットは、高速スパッタを行っても割れが発生することはない、
(b)前記ZrとInの複合酸化物は、ZrIn100−x−y(ただし、20原子%<x<30原子%、10原子%<y<16原子%)からなる成分組成を有するZrとInの複合酸化物である、という研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)AをSi,Cr,Al,Ce,Ti,Snの内の1種または2種以上とすると、ZrIn100−a−b−c(ただし、5原子%<a<23原子%、12原子%<b<35原子%、0<c<30原子%)からなる成分組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrの90%以上がZrとInの複合酸化物相となってターゲット素地中に分散している耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、
(2)前記ZrとInの複合酸化物相は、ZrIn100−x−y(ただし、20原子%<x<30原子%、10原子%<y<16原子%)からなる成分組成を有するZrとInの複合酸化物相である前記(1)記載の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末として、酸化ジルコニウム粉末、酸化インジウム粉末を用意し、さらにAの酸化物粉末(二酸化ケイ素粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末、酸化スズ粉末、酸化セリウム粉末および酸化クロム粉末など)を用意し、まず、酸化ジルコニウム粉末および酸化インジウム粉末を混合し成形した後焼成して焼成体を作製し、この焼成体を粉砕することによりZrとInの複合酸化物粉末を作製し、このZrとInの複合酸化物粉末に先に用意したAの酸化物粉末および酸化インジウム粉末を混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をプレス成形して得られた成形体を、酸素雰囲気中または大気中で焼結することにより作製することができる。
【0008】
このようにして作製したこの発明の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrは、その90%以上がZrとInの複合酸化物相となって素地中に分散している。
ZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrがZrとInの複合酸化物相となって素地中に分散している割合が多いほど高速スパッタを行っても割れが発生することがなくなる。したがって、ZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrがZrとInの複合酸化物相となって素地中に分散している割合が多いほど好ましく、Zrの100%がZrとInの複合酸化物相となって素地中に分散していることが最も好ましい。そして、前記ZrとInの複合酸化物相はZrIn100−x−y(ただし、20原子%<x<30原子%、10原子%<y<16原子%)からなる成分組成を有するものであることがわかっている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用のターゲットは、高出力スパッタを行ってもターゲットに割れが生じないので一層効率良くZrO−In23系光記録媒体保護膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、この発明の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用ターゲットを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:0.5μmを有する純度:99.99%以上のZrO粉末、平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のIn23粉末、平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99%以上のSiO2粉末、平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のAl23粉末、平均粒径:0.2μmを有する純度:99.99%以上のTiO粉末、平均粒径:1μmを有する純度:99.99%以上のCeO2粉末、平均粒径:1μmを有する純度:99.99%以上のSnO2粉末および平均粒径:0.5μmを有する純度:99.9%以上のCr23粉末を用意した。
【0011】
まず、先に用意したZrO粉末およびIn23粉末を表1に示される割合となるように配合し、得られた配合粉末を直径:1mmのジルコニアボールを用いて湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し、平均粒径:0.3μmの混合粉末を作製した。分散液として純水を使用し、粉砕後の分散液を150℃に加熱したホットプレートにて前記混合粉末を乾燥した。このようにして乾燥した混合粉末を表1に示される条件で焼成したのち粉砕して表1に示されるxおよびyを有する成分組成:ZrIn100−x−yのZrとInの複合酸化物粉末A〜Fを作製した。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例1
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに先に用意したSiO2粉末およびIn23粉末を表2に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表2に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表2に示される成分組成を有する本発明ターゲット1〜9を作製した。
これら本発明ターゲット1〜9に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合をEPMA(JXA−8500F、日本電子製)により下記のごとくして測定した。
まず、EPMAの反射電子像撮影で5000μm以上のターゲットの研磨断面組織を倍率:3000倍以上で撮影した。さらにWDS(波長分散型分光器)技術を用い、Zrを含有する相およびZrとInを同時に含有する相を割り出し、撮影した画像でZrのみを含有する相の面積とZrとInが複合酸化物となっている相の面積を計算し、ターゲットに含まれるZrがZrとInの複合酸化物となっている割合を求め、その結果を表2に示した。
【0014】
従来例1
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびSiO2粉末を表2に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表2に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表2に示される成分組成を有する従来ターゲット1を作製した。
この従来ターゲット1に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合をEPMA(JXA−8500F、日本電子製)により下記のごとくして測定した。
まず、EPMAの反射電子像撮影で5000μm以上のターゲットの研磨断面組織を倍率:3000倍以上で撮影した。さらにWDS(波長分散型分光器)技術を用いるZrを含有する相およびZrとInを同時に含有する相を割り出し、撮影した画像でZrのみを含有する相の面積とZrとInが複合酸化物となっている相の面積を計算し、ターゲットに含まれるZrがZrとInの複合酸化物の割合を求め、その結果を表2に示した。
【0015】
得られた本発明ターゲット1〜9および従来ターゲット1を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、パッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット1〜9および従来ターゲット1を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表2に示した。
【0016】
【表2】

【0017】
表2に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット1〜9は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット1に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0018】
実施例2
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに、先に用意したAl23粉末およびIn23粉末を表3に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表3に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表3に示される成分組成を有する本発明ターゲット10〜18を作製した。
これら本発明ターゲット10〜18に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を実施例1と同様にして求め、その結果を表3に示した。
【0019】
従来例2
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびAl粉末を表3に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表3に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表3に示される成分組成を有する従来ターゲット2を作製した。
この従来ターゲット2に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を従来例1と同様にして求め、その結果を表3に示した。
【0020】
さらに、得られた本発明ターゲット10〜18および従来ターゲット2を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、スパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット10〜18および従来ターゲット2を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表3に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
表3に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット10〜18は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット2に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0023】
実施例3
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに、先に用意したTiO2粉末およびIn23粉末を表4に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表4に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表4に示される成分組成を有する本発明ターゲット19〜27を作製した。
これら本発明ターゲット19〜27に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を実施例1と同様にして求め、その結果を表4に示した。
【0024】
従来例3
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびTiO粉末を表4に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表4に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表4に示される成分組成を有する従来ターゲット3を作製した。
この従来ターゲット3に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を従来例1と同様にして求め、その結果を表4に示した。
【0025】
さらに、得られた本発明ターゲット10〜18および従来ターゲット3を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態でスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット10〜18および従来ターゲット3を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表4に示した。
【0026】
【表4】

【0027】
表4に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット19〜27は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット3に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0028】
実施例4
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに、先に用意したCeO粉末およびIn23粉末を表5に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表3に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表5に示される成分組成を有する本発明ターゲット28〜36を作製した。
これら本発明ターゲット28〜36に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を実施例1と同様にして求め、その結果を表5に示した。
【0029】
従来例4
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびCeO粉末を表5に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表2に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表5に示される成分組成を有する従来ターゲット4を作製した。
この従来ターゲット4に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を従来例1と同様にして求め、その結果を表5に示した。
【0030】
さらに、得られた本発明ターゲット28〜36および従来ターゲット4を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態で、スパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット28〜36および従来ターゲット4を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表5に示した。
【0031】
【表5】

【0032】
表5に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット28〜36は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット4に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0033】
実施例5
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに、先に用意したSnO2粉末およびIn23粉末を表6に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表6に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表6に示される成分組成を有する本発明ターゲット37〜45を作製した。
これら本発明ターゲット37〜45に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を実施例1と同様にして求め、その結果を表6に示した。
【0034】
従来例5
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびCeO2粉末を表6に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表2に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表6に示される成分組成を有する従来ターゲット5を作製した。
この従来ターゲット5に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を従来例1と同様にして求め、その結果を表6に示した。
【0035】
さらに、得られた本発明ターゲット37〜45および従来ターゲット5を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態でスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット37〜45および従来ターゲット5を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表6に示した。
【0036】
【表6】

【0037】
表6に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット37〜45は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット5に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。
【0038】
実施例6
先に用意した表1のZrとInの複合酸化物粉末A〜Fに、先に用意したCr粉末およびIn23粉末を表7に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表7に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表7に示される成分組成を有する本発明ターゲット46〜54を作製した。
これら本発明ターゲット46〜54に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を実施例1と同様にして求め、その結果を表7に示した。
【0039】
従来例6
先に原料粉末として用意したZrO粉末、In23粉末およびCr粉末を表7に示される割合となるように添加し、さらに直径:1mmのジルコニアボールを分散液としての純水と共に添加し、湿式粉砕装置ビーズミルにて10分間混合し混合粉末を作製した。得られた混合粉末を150℃に加熱したホットプレートにて乾燥し水分を除去した。この乾燥して水分を除去した混合粉末を冷間静水圧プレス法(CIP法)にて直径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する成形体を作製し、この成形体を表2に示される条件で焼成して焼成体を作製し、さらにこれら焼成体の表面を機械加工して直径:125mm、厚さ:6mmの寸法を有し、表7に示される成分組成を有する従来ターゲット6を作製した。
この従来ターゲット6に含まれるZrがZrおよびInの複合酸化物相として素地中に分散している割合を従来例1と同様にして求め、その結果を表7に示した。
【0040】
さらに、得られた本発明ターゲット46〜54および従来ターゲット6を無酸素銅製の水冷バッキングプレートにハンダ付けした状態でスパッタリング装置に装着し、まず装置内を真空排気装置にて1×10-6Torr以下に排気したのち、Arガスを導入して装置内雰囲気を10TorrのArガス分圧とした。かかる状態で本発明ターゲット46〜54および従来ターゲット6を用い、RF電源にて通常より高いスパッタ電力:2kWを印加することにより3分間スパッタリングを行ない、その後1分間スパッタリングを休止し、この3分間スパッタリングを行なった後1分間スパッタリングを休止する操作を10回繰り返し行い、その後パッタリング装置からターゲットを取り出してターゲットに割れが発生しているか否かを観察し、その結果を表7に示した。
【0041】
【表7】

【0042】
表7に示される結果から、Zrの90%以上がZrとInの複合酸化物相として素地中に分散している本発明ターゲット46〜54は、Zrの90%未満が素地中にZrとInの複合酸化物相として分散し、ZrO相が多く存在している組織を有する従来ターゲット6に比べて高出力スパッタ中に割れが発生しないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AをSi,Cr,Al,Ce,Ti,Snの内の1種または2種以上とすると、
ZrIn100−a−b−c(ただし、5原子%<a<23原子%、12原子%<b<35原子%、0<c<30原子%)からなる成分組成を有する光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、前記光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットに含まれるZrの90%以上がZrとInの複合酸化物相となってターゲット素地中に分散していることを特徴とする耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ZrとInの複合酸化物相は、ZrIn100−x−y(ただし、20原子%<x<30原子%、10原子%<y<16原子%)からなる成分組成を有するZrとInの複合酸化物相であることを特徴とする請求項1記載の耐割れ性に優れたZrO−In23系光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2009−62585(P2009−62585A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231670(P2007−231670)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】