説明

耐力パネル、建物、建物の簡易診断システム、並びに建物の簡易診断方法

【課題】 簡易かつ迅速に、また、低コストで、建物の構造躯体の耐力低下についての診断を可能にする。
【解決手段】 柱部材S1、梁部材S2等によって構築された軸組に耐力パネル10の耐力フレーム11が接合され、耐力フレーム11の鉛直ブレース13にはセンサ20が設置される。このような構造躯体Sを有する建物Hにおいて、地震等の水平荷重により鉛直ブレース13に所定の変形または応力履歴が発生すると、センサ20の検知部材21に所定長さ以上の亀裂Gが発生したことに基づき、検知回路30から検知信号が出力される。診断装置50は、通信回線または無線を介してこの検知信号を収集し、所定の診断プログラムに基づき建物Hの構造耐力の低下状態についての診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や工作物等において、構造躯体の耐力低下の迅速かつ簡易的な診断を可能とするための建物の簡易診断システム、及び建物の簡易診断方法、並びに、このような簡易診断システムを可能とするために建物の構造躯体に使用される耐力パネル、及び、該耐力パネルを使用した建物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震などの災害や、経年変化による建物の構造躯体の耐力低下に対する建物使用者の関心は非常に大きく、被災時や、アフターメンテナンス時における建物の構造躯体の耐力低下の診断の要望が増大している。
従来、地震で建物が被災した場合には、目視調査により建物の損傷度、残留変形などの状態変化をチェックして地震後の建物の状態を評価している。また、建物を破壊しなければ目視調査を行うことができない場合には、超音波や赤外線などを利用して建物の状態を評価する方法が用いられている。また、土木構造物などにおいて、予め土木構造物に埋め込まれたセンサの出力により劣化状態を診断する状態検査システムが用いられている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3416875号公報(第4−7頁、図1、図18)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、目視による判断はわずかな変化を見逃す可能性があり、客観性に欠けるという問題点があった。また、そもそも視認できない変化については確認することができないため、構造躯体の耐力低下の診断に必要な情報が十分得られないという問題点があった。また、建物によっては足場を組むなどの準備が必要とされていた。従って、迅速に診断を行うことができないという問題点があった。また、超音波や赤外線などを用いる方法は、大掛かりであって費用と時間を要するという問題点があった。
また、特許文献1の状態検査システムは、RC構造などの大規模構造物にセンサを埋設して行うシステムであり、また、内部を走行する走行体によりセンサの出力を計測するものであって、戸建住宅などの小規模建築に適用されるものではない。
【0004】
一方、災害発生時には、住宅などの居住用建物について、居住者からの点検の要望が集中する。また、余震の発生があればさらに再点検が必要となる。しかし、既存技術では速やかな診断が困難であり、居住者の不安に迅速に対応することができなかった。また、アフターメンテナンス時のサービスとして、より低コストで、簡易かつ迅速な構造躯体の診断を行うことが要望されていた。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、簡易かつ迅速に、また、低コストで、建物の構造躯体の耐力低下についての診断を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、請求項1に記載の耐力パネルによれば、鉄骨軸組に接合され、該鉄骨軸組と共に建物の構造躯体を構成する耐力パネルであって、ブレースと、該ブレースに設置された検知手段と、を備え、前記検知手段は、前記ブレースの所定の変形、または、前記ブレースに発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において検知信号を出力可能に構成され、前記検知信号は、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断するための診断情報として用いられることにより解決される。
【0007】
このように、請求項1に記載の耐力パネルは、鉄骨軸組に接合されブレースを備えている。このような構造において、地震や風などによる水平荷重はブレースが負担することとなる。すなわち、地震や風などによりブレースには引張力が加えられ、所定の応力履歴を経た場合には疲労損傷状態となり変形が発生する。
そこで、ブレースの変形や応力履歴に着目して建物の構造躯体の耐力低下状態を簡易的かつ迅速に診断することができる。すなわち、ブレースに所定の変形や応力履歴が発生したことを検知可能な検知部材を設置して、その検知信号に基づいてブレースの疲労損傷状態を診断し、この情報に基づいて、建物の構造躯体の耐力低下状態を簡易的かつ迅速に診断することができる。
また、ブレースは、壁体を耐力パネルという部品に部品化することにより、予め工場でフレームに接合しておくことができる。従って、工場における耐力パネルの製造の段階で、予めブレースに検知部材を設置しておくことにより、現場で検知部材の設置作業を行う必要がない。従って、施工工程が短縮化される。また、検知部材の設置ミスが防止され、診断精度が向上される。
【0008】
また、前記課題は、請求項2に記載の建物によれば、鉄骨軸組とブレースとを備えた構造躯体と、前記ブレースに設置された検知手段と、を有する建物であって、前記検知手段は、前記ブレースの所定の変形、または、前記ブレースに発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において検知信号を出力可能に構成され、前記検知信号は、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断するための診断情報として用いられることにより解決される。
【0009】
このように、請求項2に記載の建物は、鉄骨軸組に接合されたブレースを備えており、このブレースに、変形や応力履歴を検知可能な検知部材が設置されている。従って、請求項1と同様に、検知部材の検知信号に基づいてブレースの疲労損傷状態を診断し、この情報に基づいて、構造躯体の耐力低下状態を簡易的かつ迅速に診断することが可能な建物を提供することができる。
【0010】
また、前記課題は、請求項3に記載の簡易診断システムによれば、建物の構造躯体を構成する構造部材に設置される検知手段と、該検知手段と通信または接続可能に構成された診断手段と、を備え、前記検知手段は、前記構造部材の所定の変形、または、前記構造部材に発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において所定の検知信号を出力可能に構成され、前記診断手段は、外部から入力された操作信号に応じて、前記検知手段から前記検知信号を取得すると共に、該検知信号に基づいて前記構造部材の疲労損傷状態を診断することにより解決される。
【0011】
このように、請求項3に記載の簡易診断システムは、構造部材に、その変形や応力履歴を検知可能な検知部材が設置されている。従って、その検知信号に基づいて当該構造部材の疲労損傷状態を診断することができる。また、ブレースだけでなく任意の構造部材を診断することができる。そして、診断者は構造部材単位で疲労損傷状態をチェックすることができる。従って、目的に応じて重要な構造部材のみ疲労損傷状態をチェックすることができ、これにより、より簡易的かつ迅速な構造躯体の耐力低下状態の診断を行うことができる。
【0012】
このとき、請求項4に記載のように、前記診断手段は、前記構造部材の診断結果に基づいて、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断するように構成することができる。このように、各構造部材の診断に基づき、構造躯体の各部位ごとの診断や、構造躯体全体の診断など、目的に応じて様々なレベルで診断することができる。従って、アフターメンテナンス時などに、要望に合わせて様々な目的で診断を行うことができる。また、地盤沈下の診断など、耐力低下以外にも様々な診断項目に応用することが可能となる。
【0013】
また、請求項5に記載のように、前記検知手段は、前記検知状態において通電されると共に前記検知状態でない状態において通電遮断される検知回路を備え、前記検知信号は、前記検知回路が通電されたことに基づき出力され、前記診断手段は、前記検知信号の出力の有無に基づいて、前記構造部材が所定の疲労損傷状態であるか否かを診断することを特徴とする。このように、検知回路は、通電状態か通電遮断状態かを示すオンオフ信号のみを出力するものとされているので、検知回路の構成及び検知信号の処理のための構成を簡易化することができる。従って、低コストで設置することができる。
【0014】
また、請求項6に記載のように、前記検知手段は、前記構造躯体に複数設置され、前記検知信号には、発信元である検知手段を特定可能な識別情報が格納され、前記診断手段には、前記識別情報と、該識別情報により特定される検知手段の前記構造躯体上の位置と、を対応付けるためのマップ情報が格納されるように構成することができる。
このように構成すると、検知信号に基づき、構造躯体上におけるどの位置の構造部材が疲労損傷状態となっているかの分布を自動で作成して診断を行うことができる。従って、簡易診断を自動化することができ、迅速かつ容易に診断を行うことができる。
【0015】
そして、請求項7に記載のように、前記診断手段は、前記建物に設置された監視盤、または、前記建物の維持管理を請け負う事業者の事業所に設置された端末または監視盤に診断結果を表示させることを特徴とする。
このように、建物に設置された監視盤に構造躯体の診断結果を表示することにより、建物の使用者あるいは居住者自身による構造耐力のチェックが可能となる。また、維持管理を請け負う事業者が、オンラインで構造耐力の正常、異常を監視することができる。従って、建物の使用者あるいは居住者の構造安全性に対する不安を除去することができる。
【0016】
また、請求項8に記載のように、より具体的には、前記構造部材はブレースからなる構成とすることができる。請求項1について説明したように、ブレースの変形や応力履歴に着目して建物の構造躯体の耐力低下状態を簡易的かつ迅速に診断することができる。
また、請求項9に記載のように、より具体的には、前記構造躯体は鉄骨軸組と耐力壁とを備え、前記ブレースは前記耐力壁を構成する耐力パネルのフレームに掛け渡された鉛直ブレースからなるように構成することができる。このように、鉄骨軸組と耐力パネルとを併用した構造とすることにより、耐力パネルという部品の製造の段階で、予めブレースに検知部材を設置しておくことができる。従って、現場で検知部材の設置作業を行う必要がなく、施工工程が短縮化される。また、検知部材の設置ミスが防止され、診断精度が向上される。
【0017】
また、前記課題は、請求項10に記載の建物の簡易診断方法によれば、請求項3乃至請求項9のいずれか一項に記載の建物の簡易診断システムにより、建物の構造躯体を構成する構造部材の疲労損傷状態を診断する建物の簡易診断方法であって、建物の構造躯体を構成する構造部材に設置される検知手段が、前記構造部材の所定の変形または前記構造部材に発生した所定の応力履歴を検出したことに基づいて出力する検知信号を、前記検知手段と通信又は接続可能に構成された診断手段が、外部から入力される操作信号に応じて取得する検知信号収集工程と、前記診断手段が、前記検知信号収集工程において収集した検知信号に基づいて前記構造部材の疲労損傷状態を診断する構造部材診断工程と、前記診断手段が、前記構造部材診断工程における診断結果に基づいて、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断する構造躯体診断工程と、を行うことにより解決される。
このように構成すると、構造部材の疲労損傷状態を診断するための情報を出力可能な検知手段を予め構造部材に設置して建物を建設しておき、必要に応じて診断手段によりその情報を収集して、建物の構造躯体の耐力低下状態を診断することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、以下のような効果を奏する。
(イ)本発明によれば、ブレースなどの構造部材の変形や応力履歴に着目して建物の構造躯体の耐力低下状態を簡易的かつ迅速に診断することができる。すなわち、疲労損傷状態を診断するための情報を出力可能な検知手段を、予めブレースなどの構造部材に設置して建物を建設しておき、必要に応じて診断手段により検知情報を収集して診断を行う。これにより、目的に応じて、構造部材あるいは建物の構造躯体の一部または全体の耐力低下状態を、簡易的かつ迅速に診断することができる。
【0019】
(ロ)また、本発明によれば、耐力パネルという部品化された部材の製造の段階で、予めブレースに検知部材を設置しておくことができるので、現場で検知部材の設置作業を行う必要がない。従って、施工工程が短縮化される。また、検知部材の設置ミスが防止され、診断精度が向上される。
【0020】
(ハ)また、本発明によれば、建物に設置された監視盤に構造躯体の診断結果を表示することにより、建物の使用者あるいは居住者によるチェックが可能となる。また、維持管理を請け負う事業者が、オンラインで構造耐力の正常、異常をチェックすることができる。従って、建物の使用者あるいは居住者の構造安全性に対する不安を除去することができる。
【0021】
(ニ)また、本発明によれば、検知回路は、検知信号として通電状態か通電遮断状態かを示すオンオフ信号のみを出力するものとされているので、検知回路の構成及び検知信号の処理のための構成を簡易化することができる。従って、低コストで設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。また、以下に説明する配置、形状等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0023】
図1乃至図7は本発明の一実施形態を示す図で、図1は実施例の建物とその構造躯体を示す説明図、図2は実施例のブレース及び耐力フレームを示す説明図、図3は実施例の水平ブレースを示す斜視図、図4及び図5は実施例のセンサの構成を示す説明図、図6は実施例の建物の簡易診断システムの構成を示す説明図、図7は実施例の建物の簡易診断システムによる処理の流れを示すフローチャートである。
【0024】
(ブレースを有する構造躯体の構成)
本実施形態における建物Hは、例えば、図1及び図2に示すように、柱部材S1、梁部材S2、トラスS3等によって構築された軸組構造の所定部位の構面に、構造躯体の一部を構成する耐力フレーム11を備えた耐力パネル10が設置された、いわゆるパネル軸組併用構造の構造躯体Sを備えている。
本実施形態では、建物Hは住宅や集合住宅として使用されるものであるが、後述するセンサ20が設置されたブレースを有する耐力フレーム11を構造躯体の一部として使用するものであれば、どのような建物であってもよい。例えば、オフィスビル、商業施設、工場施設、倉庫、医療施設、教育施設、公共建築物などにも適用することができる。
【0025】
耐力パネル10は、耐力フレーム11を構成する枠材12(上枠材12a、下枠材12b、縦枠材12c等からなる)及び鉛直ブレース13を備えており、この耐力フレーム11の両面には、板状の下地ボードが張設されている。
この耐力パネル10は、建物の外壁または間仕切壁の一部をなすように立設されるものである。外壁として設置される場合には、例えば、建物外部側の面に、下地ボードに所定ピッチで固定された桟木(横桟あるいは縦桟)と、この桟木の外側に取り付けられた外壁仕上材と、が設けられている。そして、建物内部側の面には、下地ボードの表面に種々の室内仕上材を設けることができる。また、間仕切壁として設置される場合には、両面にそれぞれ室内仕上材が設けられる。また、下地ボードと外壁仕上材または室内仕上材の間には、断熱材、防火材、防湿材、通気部材などの層を設けてもよい。
【0026】
耐力フレーム11は、図2に示すように、所定断面の上枠材12a及び下枠材12bと、左右の縦枠材12cと、を組み付けて構成された方形状の枠材12の構面に、対角線状に鉛直ブレース13を掛け渡して構成されている。なお、上枠材12aと下枠材12bの間、あるいは左右の縦枠材12cの間には、鉛直ブレース13と交差しないように中桟12d等の部材が配置されていてもよい。例えば、図2に示す中桟12dは、鉛直ブレース13と重なるように設けられている。
【0027】
上枠材12a、下枠材12b、及び縦枠材12cは、例えば、溝形鋼などの鋼材により構成することができる。なお、断面形状は、溝形断面以外にもC形断面、H形断面、角柱形断面、等としても良い。また、鋼材でなくアルミ材を使用しても良い。要するに、壁体としての形状を維持することができ、かつ、構造部材として所定の荷重を支持可能な断面性能を有する部材であれば、どのようなものであっても良い。
【0028】
鉛直ブレース13は、フラットバー(平鋼)13aの両端に鋼材のプレート13bを溶接等により接合して構成されたもので、両端のプレート13bを、枠材12の対向する角部にそれぞれ溶接又はボルト等の接合部材を用いて接合することにより、耐力フレーム11の対角線方向に掛け渡されている。なお、フラットバー(平鋼)の代わりにL型鋼等を用いることもできる。また、材質は、枠材と同様にアルミ材とすることもできる。
【0029】
そして、図1に示す耐力パネル10を構成する耐力フレーム11は、柱部材S1と梁部材S2によって構築された軸組構造の所定部位の構面に、以下のように接合される。
まず、図2に示すように、耐力フレーム11の左右の縦枠材12cがそれぞれ柱部材S1にボルトT等により接合される。これにより、柱部材S1は、接合された縦枠材12cと一体となって柱部材としての構造性能を発揮する。また、上枠材12aは必要に応じて梁部材S2(不図示)に接合され、下枠材12bもまた必要に応じて土台部材S4、または、上階に設置する場合は梁部材S2に接合される。このように構成すると、鉛直ブレース13は、柱部材S1と梁部材S2によって構築された軸組構造の所定の構面に、対角線上に掛け渡された構成となる。
【0030】
また、本実施形態の建物Hでは、図3に示すように、大梁や小梁などの梁部材S2を架構して水平方向の構面を構成している。そして、この構面の所定位置には、構造躯体に所定の水平面剛性を付与するために、水平ブレース40が掛け渡されている。
水平ブレース40は、例えば、丸鋼40a、40bをターンバックル41で連結して長さ調整可能としたターンバックル付ブレースとすることができる。ターンバックル付ブレースは、通常、両端にいわゆる羽子板プレート42が設けられている。そして、この羽子板プレート42を梁部材S2により囲まれる構面の対向する角部にそれぞれ接合した後、ターンバックル41を締め付ける。これにより、ターンバックル付ブレースは、梁部材S2により囲まれる構面の対角線方向に緊張される。
なお、耐力フレーム11の鉛直ブレース13として上記のようなターンバックル付ブレースを用いても良いし、水平ブレース40として、フラットバー(平鋼)やL型鋼等を用いてもよい。
【0031】
(センサの構成)
次に、構造躯体の鉛直ブレースあるいは水平ブレースに設置するセンサ20について説明する。
本実施形態のような柱部材S1と梁部材S2からなる軸組と、鉛直ブレース13を有する耐力パネル10と、を主要構成とするいわゆるパネル軸組併用構造の構造躯体では、地震や風などによる水平荷重は、鉛直ブレース13が設けられた耐力フレーム11により負担され、主として鉛直ブレース13が負担する引っ張り荷重として作用する。従って、鉛直ブレース13の耐力低下状態を診断することにより、構造躯体の耐力低下状態を簡易かつ容易に診断することができる。
【0032】
本願出願人等は、このことに着目し、鉛直ブレース13の耐力低下状態を監視するために、鉛直ブレース13の所定位置にセンサ20を設置して、建物における構造躯体の簡易的な耐力低下診断を行うことが可能となるように構成した。
なお、水平荷重の方向によっては水平ブレース40にも引っ張り荷重が生じているため、水平ブレース40にもセンサ20を設置して、水平ブレース40についての情報を加味して構造躯体の診断を行ってもよい。
【0033】
本実施形態では、建物Hには耐力パネル10が複数箇所設置されており、従って鉛直ブレース13は複数箇所設置されている。また、水平ブレース40も複数箇所設置されている。センサ20は、これらのブレースの全てに設置して全ての耐力低下状態をチェックすることもできるが、より簡易には、構造上荷重の分担が大きい部位に設けられたブレースにのみセンサ20をセットするように構成する。
なお、後述するように、各ブレースに設置された複数のセンサ20について、その配置と検知信号とを対応付けるために、各センサに識別情報、例えばIDを付与することができる。このIDは、例えば、後述する検知信号を出力するために各センサ20に接続される無線ICタグに格納することができる。
【0034】
本実施形態では、耐力壁が耐力パネル10という部品に部品化されており、予め工場で鉛直ブレース13を耐力フレーム11に接合しておくことができる。従って、工場における耐力パネル10の製造の段階で、予め鉛直ブレース13にセンサ20を設置しておくことにより、現場でセンサ20の設置作業を行う必要がない。従って、施工工程が短縮化される。また、センサ20の設置ミスが防止され、診断精度が向上される。
【0035】
本実施形態の構造躯体のように鋼材等の金属からなる構造部材は、外力により発生した応力履歴に応じて、疲労損傷状態すなわち耐力低下状態となる。また、所定以上の応力が加えられた場合には、構造部材に残留変形が発生する。
本実施形態のセンサ20は、地震により引張応力が生じる鉛直ブレース13あるいは水平ブレース40に設置され、これらの部材に生じた応力履歴や変形状態を検出し、これにより、構造躯体が耐力低下状態すなわち疲労損傷状態となったことを検知するものである。
【0036】
センサ20は、例えば、図4に示すように、略中央部に切り欠き部21aが形成された検知部材21と、この検知部材21と検知対象である鉛直ブレース13との間に設けられるベース部材22と、を備えて構成されている。図4(a)はセンサ20の斜視図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。このセンサ20は、センサ20が設置された長さ範囲に作用する力を、検知部材21の切り欠き部21aに集中的に作用させる。そして、切り欠き部21aに発生する亀裂の進展長さに応じて、設置された部材の疲労損傷状態を測定可能に構成されている。
【0037】
検知部材21は、切り欠き部21aが他の部位よりも薄く、脆弱に形成されている。従って、この検知部材21は、切り欠き部21aを横断する方向に引張力が加えられると、切り欠き部21aの先端21aaに亀裂Gが発生する。
つまり、外力により鉛直ブレース13に生じた変形に基づいて所定の引張力が検知部材21に加えられると、検知部材21に亀裂Gが発生する。そして、その後もさらに鉛直ブレース13に外力が加えられると、鉛直ブレース13に発生する応力履歴に対応して亀裂Gがさらに進展し、亀裂Gの長さが伸長される。そして、このとき、鉛直ブレース13の応力履歴と亀裂Gの進展長さとが略比例する関係となっている。従って、亀裂Gが所定の進展長さとなったか否かを検出することにより、ブレースが所定の疲労損傷状態となっているか否かを検知することができる。
【0038】
ベース部材22は、鉛直ブレース13の表面の所定位置に固定可能とされており、中央付近に凹部22aが形成されている。固定手段は、図示を省略しているが、例えば接着あるいはビス等の固着部材によるものとすることができる。検知部材21の切り欠き部21aはこの凹部22aをまたぐように配設されており、検知部材21の両端とベース部材22の両端とが接合されている。また、このベース部材22は、鉛直ブレース13の変形に追従して変形可能な素材から構成されている。
このような構成により、鉛直ブレース13に応力が発生して変形すると、その表面の所定範囲(ベース部材22の貼設領域)に発生した変形が、ベース部材22を介して検知部材21に伝達される。
【0039】
亀裂Gの進展長さの検出は、例えば、公知の亀裂進展ゲージあるいはクラックゲージと同様な構成により行うことができる。すなわち、図5(a)に示すように、亀裂発生面に、亀裂発生方向と交差する方向に細かな抵抗線Rを密に張っておく。これにより、亀裂発生時には、亀裂発生部分のみ抵抗線Rが切断されることになる。従って、この抵抗線Rの束の両端間における抵抗値の変化を計測することにより、亀裂長さを計測することができる。そして、抵抗値が所定の値を超えている場合に検知信号を出力する検知回路30(例えば、図6参照)を設け、抵抗線の両端に接続された導線R1、R2をこの検知回路30に接続する。
【0040】
なお、検知部材21そのものを導電性のある部材により形成し、亀裂Gが発生すべき部位の両側に端子を設けて検知回路30に接続することもできる。この場合には、検知部材21そのものを抵抗線として回路を形成したことになる。このような構成であっても、抵抗線Rを設けた場合と同様に亀裂Gの長さ変化に基づいて抵抗値が変化するので、亀裂Gが、所定の進展長さを超えて伸長された場合に、検知信号が出力されるようにすることができる。
【0041】
また、例えば、図5(b)に示すように、検知部材21の表面に、所定の亀裂長さ位置を横切るように、検知端子C1及び接点C2を設けた構成としてもよい。検知端子C1及び接点C2は、それぞれ検知回路30に接続される導線R1、R2に接続されている。この構成では、亀裂Gが所定の接点位置に到達していないときは検知端子C1が接点C2に接触して検知回路30が通電される。一方、亀裂Gがこの接点位置よりも先まで進展すると、検知端子C1が接点C2から離れて非接触となり、検知回路30が通電遮断される。そして、検知回路30において、通電状態では検知信号を外部に出力せず、通電遮断状態で検知信号を外部に出力するように構成すれば、亀裂Gが、所定の進展長さを超えて伸長された場合に、検知信号を出力することができる。
【0042】
検知回路30は、以上のように、センサ20が設置された部材が所定の耐力低下状態となったときに、外部に検出信号を出力するように構成されている。この検知回路30は、センサ20と一体化させることができる。また、導線R1、R2により接続可能な所望の位置に設置することができる。
なお、予め検知回路30を設置せず、導線R1、R2の端部を外部から接続可能な端子として構成してもよい。この場合には、テスター等により、直接各センサの通電確認や抵抗値の確認を行って、耐力低下状態の診断を行うこともできる。
【0043】
検知回路30から出力された検知信号は、電灯線や各種信号線を介して外部に出力することができる。しかし、構造躯体上のセンサ20にそれぞれ配線を接続すると、構成が煩雑となり好ましくない。そこで、公知の無線ICタグのように電波により管理装置と情報を送受信可能な手段を利用して、無線電波により検知信号を出力するように構成することもできる。
【0044】
例えば、無線ICタグ31(図6参照)の半導体チップに、検知回路30を接続あるいは一体化する。無線ICタグ31は、外部から無線信号により送信されたコマンドを受信して、そのコマンドに基づき、検知回路30から検知信号が出力されていれば、その検知信号を外部に送信することができる。また、このとき、無線ICタグ31に格納された各センサのIDと共に送信することができる。これにより、センサ20の配置と検知信号が対応付けられる。
【0045】
また、検知回路30には電力の供給が必要とされるが、外部電源と接続せずに電池などの内部電源により長期間にわたって作動させるために、検知回路30を省電力回路として構成してもよい。すなわち、通常時は微弱な電力で平衡を保ち、変化を検出したときのみ信号を発信するように構成することができる。また、内部電源として、例えば、長期間電力供給を持続することができるリチウム電池等を使用する。また、無線ICタグ31と同様に外部からの電磁波の照射によって電流を発生させ、内部電源が全く不要となるように構成してもよい。
【0046】
また、検知信号は、上述のように、通電の有無や、抵抗値が所定の値を越えたか否かのみを識別するものでよいから、信号の有無のみを識別できればよく、オンオフ信号であればよい。従って、検知回路の構成及び検知信号の処理のための構成を簡易化することができる。従って、低コストで設置することができる。但し、構造部材の状態についてより詳細な情報を含む信号であってもよいのは勿論である。例えば変形量や疲労損傷の程度に応じてレベルが変化するアナログ信号であってもよい。
【0047】
そして、検知回路30から出力された検知信号は、例えばアフターメンテナンスや被災時に耐震診断に訪れた検査員が持参する診断装置により受信してチェックすることができる。また、インターネットや専用回線などの通信回線を介して、住宅会社や建物の管理を請け負う管理委託会社等の管理センターにおいて所定の端末あるいは監視盤によって受信して表示し、チェックすることもできる。また、建物H内に設置されたホームセキュリティ、エネルギーモニタリング等のコントロール盤により受信して表示し、建物使用者自身によりチェック可能に構成することもできる。
【0048】
これらの診断装置、端末、監視盤、コントロール盤等は、受信した検知信号に基づき、センサが設置された構造部材や建物の構造耐力低下について診断するための診断プログラムが格納された制御装置を備えた構成とすることができる。これにより、受信した検知信号をそのまま表示するだけでなく、検知信号に基づいて、個々の構造部材や建物の一部又は全体の構造耐力低下状態についての診断を行い、診断結果を表示させることができる。また、これらの装置を通信回線に接続し、所定の構造耐力低下状態と診断された場合に、自動的に携帯電話などの端末に情報を送信したり、インターネット上のサーバに情報を送信して、居住者等が診断結果を確認することができるようにしてもよい。
【0049】
上記各装置における検知信号の処理及び表示については、例えば、以下のように行うことが考えられる。
例えば、センサが設置された構造部材のリストや構造躯体の図面において、検知信号が出力された部材のみに「検知」マークを表示し、検知信号が出力されなかった部材には「検知」マークを表示しないとする表示方法が考えられる。このとき、検知信号として変形量や疲労損傷の程度の情報を含むアナログ信号を受信していた場合には、その信号の内容に応じて、変形や損傷の度合いを診断し、変形や損傷の程度を示すマークを表示することができる。これにより、所定の変形や損傷が生じた部材を迅速にチェックすることができる。
【0050】
また、構造躯体の全体または一部についての構造耐力の低下状態について診断するには、例えば、診断プログラムにより、この建物Hの構造躯体から、検知信号により所定の変形または損傷が生じたと判定された構造部材を削除した構造躯体を仮定して、削除後の構造躯体に対して構造計算を行ってチェックすることが考えられる。その結果、想定した設計荷重に対して安全でないと判定された場合にはその旨表示すること等が考えられる。
なお、構造躯体上の変形や損傷に関するデータに基づき、所定のプログラムにより、例えば地盤沈下などの発生状況について診断し、チェックを行うこともできる。また、これ以外にも、種々の目的に利用することができる。
【0051】
なお、検知信号は、上述のように、無線ICタグ31に格納された各センサのIDと共に送信することができる。従って、診断装置、端末、監視盤、コントロール盤等の制御装置に、予め、センサのIDと、その設置位置あるいは設置された構造部材の識別情報と、を対応付けたマップ情報を格納しておくことにより、構造躯体上におけるどの位置の構造部材が疲労損傷状態となっているかの分布を自動で作成して診断を行うことができる。従って、簡易診断を自動化することができ、迅速かつ容易に診断を行うことができる。
【0052】
本実施形態では、各構造部材の診断に基づき、構造躯体の各部位ごとの診断や、構造躯体全体の診断など、目的に応じて様々なレベルで診断することができる。従って、アフターメンテナンス時などに、要望に合わせて様々な目的で診断を行うことができる。
また、上記のような診断装置、端末、監視盤、コントロール盤等に、構造部材や構造躯体の診断結果を表示することにより、建物の使用者あるいは居住者自身による構造耐力のチェックが可能となる。また、維持管理を請け負う事業者が、オンラインで構造耐力の正常、異常を監視することができる。従って、建物の使用者あるいは居住者の構造安全性に対する不安を除去することができる。
【0053】
なお、センサ20は、上記各構成に限定されるものではなく、変位スイッチや変位センサを用いたものであってもよい。上述のセンサ20は、応力履歴に応じて亀裂Gが進展するため、構造部材に発生した応力履歴に基づく耐力低下の診断が可能とされている。しかし、より簡易には、変位スイッチや変位センサにより構造部材の一時的な変位量や残留変形を検出してこれに基づき耐力低下診断を行うこともできる。変位スイッチまたは変位センサは、構造部材の所定以上の変形に応じて検知信号を出力可能なものであればよく、例えば、公知の断線検知スイッチや、接点同士が当接または離間されてオンオフが切り替わるリミットスイッチや、磁気による近接スイッチなどを使用することができる。
【0054】
(建物の簡易診断システム)
次に、以上説明した各構成により、建物の構造躯体の簡易的な耐力低下診断を行うためのシステムの構成及び動作について説明する。
【0055】
(第1の形態:訪問診断システム)
本実施形態の簡易診断システムU1は、建物使用者から依頼を受けた検査担当者が、受信装置を建物Hに持参して現地を訪問して診断を行うものである。この簡易診断システムは、図6に示すように、センサ20と、検知回路30と、診断装置50と、を主要構成とする。
診断装置50は、検知回路30からの信号を受信することが可能な通信部51と、各種の処理を行うためのCPUなどの制御手段52aを備えた制御部52と、液晶パネルなどの表示部53と、各種の入力を行うためのキーボードや入力パネルなどの入力手段を備えた操作部54と、を主要構成とするものである。
【0056】
通信部51は、検知回路30からの信号の出力態様に合わせて構成される。例えば、検知信号が、無線ICタグ31を介して所定の周波数帯域の無線電波として出力される場合には、当該周波数帯域の無線電波を所定のフィールド範囲で受信可能なアンテナを備えて構成される。また、この通信部51は、検知回路30に接続された無線ICタグ31に対して無線電波による検知信号要求コマンドを送信することができる。
なお、検知信号が電灯線や各種信号線などの配線を介して出力される場合には、通信部51は、その配線に接続可能な端子を備えた構成とすることができる。
【0057】
制御部52は、操作部54からの操作信号に基づいて、通信部51から検知信号を受信する処理を行う。また、受信した信号や診断の結果を所定の態様で表示部53に表示させる処理を行う。
また、制御部52は、各種のデータ及びプログラムを格納したROM、RAM、HDD等の記憶手段52bを備えており、これらのデータやプログラムに基づく処理を行うことができる。例えば、記憶手段52bには、複数のセンサ20にそれぞれ付与されたIDと、構造躯体上における配置と、を対応付けて登録したマップデータが格納されている。また、記憶手段52bには、検知信号に基づき耐力低下診断を行うための所定のプログラムが格納されている。
【0058】
次に、上記各構成を用いたシステムによる簡易診断の手順について、図7に示すフローチャートに従って説明する。
まず、各センサ20に接続された検知回路30が出力する検知信号を収集する。
すなわち、通信部51のアンテナを、建物Hの所定部位がフィールド範囲内となるように送受信可能にセットし、検査担当者が操作部54からの操作入力を行う。これに基づき、制御部52は、検知回路30に接続あるいは一体化された無線ICタグ31に対して、検知信号要求データを送信する(ステップS1)。次に、検知信号要求データを受信した無線ICタグ31は、検知回路30から検知信号が出力されていた場合に、この検知信号が診断装置50に返信され、診断装置50はこの検知信号を受信する処理を行う(ステップS2)。このとき、検知信号にセンサ20のIDを付加した情報を送信することもできる。
なお、このステップS1及びS2が、本発明の検知信号収集工程に相当する。
【0059】
続いて、制御部52は、通信部51が受信した検知信号に基づき、センサ20を設置した各ブレースの疲労損傷状態を診断する処理を行う(ステップS3)。本実施形態では、検知信号は、亀裂Gが所定の長さ以上であるとき、すなわち所定以上の疲労損傷状態であるときにのみ送信されるオンオフ情報であるので、この判定では、検知信号を受信すればブレースが疲労損傷状態であると判断し、検知信号を受信しなければ疲労損傷状態でないと判断される。なお、このステップS3が、本発明の構造部材診断工程に相当する。
【0060】
本実施形態ではセンサ20は複数箇所のブレースに設置されている。その全てに対するデータを収集して疲労損傷状態の判定を行う場合には全てのセンサ20をフィールド範囲とするように、あるいはフィールド範囲を移動しながらデータを収集することになるが、例えば一部の部位のみ診断を行いたい場合には、必要なセンサ20に対応するデータのみ収集すればよい。
【0061】
続いて、制御部52は、ステップS3の診断結果と、建物Hの建設時の構造設計データと、各々のセンサが設置されたブレースの配置を示すマップ情報等に基づき、予め作成した耐力低下診断プログラムに従って、建物Hの構造躯体の耐力低下について、目的に応じて診断する処理を行う(ステップS4)。なお、このステップS4が、本発明の構造躯体診断工程に相当する。
【0062】
続いて、制御部52は、ステップS4の診断結果を表示部53に表示する処理を行う(ステップS5)。診断結果は、例えば、補修工事の要不要の区分により表示することができる。また、補修不要、補修で修理可能、建替必要、などの区分により表示することができる。また、次にどの程度の地震力を受けたら崩壊するかなどの区分により表示することができる。また、ステップS3で判定した各ブレースの疲労損傷状態のマップを表示することもできる。また、補修に必要な期間や費用などの見積もりと共に表示することもできる。
【0063】
以上のように、建物の構造躯体のブレースに予めセンサ20と、そのセンサの状態変化を検知して検知信号を出力する検知回路30とを設置しておき、この検知回路30が出力する検知信号を収集可能に構成することにより、地震などの被災時や定期点検時に、容易かつ迅速に、建物の構造躯体の疲労損傷状態のデータを必要な箇所についてのみ収集することができる。そして、このデータに基づき簡易診断を行うことができるので、容易かつ迅速に、建物の耐力低下状況に関する簡易診断を行うことができる。
【0064】
なお、本例では診断装置50を一体に構成しているが、通信部51及び操作部54に相当する構成を備えた公知のタグコードリーダ等のような読取装置をデータ収集装置として使用し、このデータ収集装置からノートパソコン等の携帯端末に収集したデータを送信し、診断及び結果表示は、携帯端末にインストールされたプログラムにより行うように構成してもよい。
【0065】
(第2の形態:オンライン診断システム)
本実施形態の簡易診断システムU2は、建物使用者から依頼を受けた住宅会社や管理委託会社が、オンラインで耐震診断を行うものである。以下、上記第1の形態で説明した訪問診断を行う簡易診断システムU1と異なる点のみ説明する。
この簡易診断システムU2は、図8に示すように、診断装置150と検知回路30とが、建物Hに設置された通信装置60及び通信回線Iを介して通信するように構成されている。すなわち、この簡易診断システムU2は、センサ20と、検知回路30と、診断装置150と、通信装置60と、を主要構成とするものである。
【0066】
本例の診断装置150は、住宅会社や建物の管理を請け負う管理委託会社等の管理センターに設置されている。通信装置60は、通信回線Iを介して診断装置150からの検知信号収集指示コマンドの入力を受け付ける。そして、検知信号収集指示コマンドが入力されたことに応じて、通信装置60から各センサ20に対して、上記第1の形態において説明した検知信号要求データを送信する処理を行う。そして、通信装置60は、検知信号要求データを受信したセンサ20から返信された検知信号を受信する処理を行う。
【0067】
続いて、通信装置60は、受信した検知信号を、通信回線Iを介して診断装置150へ送信する。診断装置150は、モデム等からなる通信部151を介して、このデータを受信する。そして、受信した検知信号に基づき、各種診断及び表示を行う点は上記簡易診断システムU1と同様である。
なお、診断装置150は、診断結果を管理センター内のサーバに送信し、インターネットなどの通信回線を介して診断情報を確認することができるように構成してもよい。また、所定の診断結果となった場合には、このサーバを介して、建物所有者や居住者の携帯電話などの端末に情報を発信するように構成しても良い。また、通信装置60は、診断装置150から検知信号収集指示コマンドを受信するほか、あらかじめプログラムされた診断スケジュールに基づいて検知情報を収集し、診断装置150に送信してもよい。
【0068】
本例の構成により、管理センターにおいて定期的に構造安全性のチェックを行うことができ、建物の使用者あるいは所有者にその情報を提供することができる。従って、構造安全性に対する不安を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例の建物とその構造躯体を示す説明図である。
【図2】実施例のブレース及び耐力フレームを示す説明図である。
【図3】実施例の水平ブレースを示す斜視図である。
【図4】実施例のセンサの構成を示す説明図である。
【図5】実施例のセンサの構成を示す説明図である。
【図6】実施例の建物の簡易診断システムの構成を示す説明図である。
【図7】実施例の建物の簡易診断システムによる処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】他の実施例の建物の簡易診断システムの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
10……耐力パネル
11……耐力フレーム
12……枠材
12a…上枠材
12b…下枠材
12c…縦枠材
12d…中桟
13……鉛直ブレース
13a…フラットバー
13b…プレート
20……センサ
21……検知部材
21a…切り欠き部
21aa…先端
22……ベース部材
22a…凹部
30……検出回路
31……無線ICタグ
40……水平ブレース
40a,40b…丸鋼
41……ターンバックル
42……羽子板プレート
50,150…診断装置
51,151…通信部
52……制御部
52a…制御手段
52b…記憶手段
53……表示部
54……操作部
60……通信装置
C1……検知端子
C2……接点
G……亀裂
H……建物
I……通信回線
R……抵抗線
R1,R2…導線
S……構造躯体
S1…柱部材
S2…梁部材
S3…トラス
S4…土台部材
T……ボルト
U1,U2…簡易診断システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨軸組に接合され、該鉄骨軸組と共に建物の構造躯体を構成する耐力パネルであって、
ブレースと、該ブレースに設置された検知手段と、を備え、
前記検知手段は、前記ブレースの所定の変形、または、前記ブレースに発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において検知信号を出力可能に構成され、
前記検知信号は、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断するための診断情報として用いられることを特徴とする耐力パネル。
【請求項2】
鉄骨軸組とブレースとを備えた構造躯体と、前記ブレースに設置された検知手段と、を有する建物であって、
前記検知手段は、前記ブレースの所定の変形、または、前記ブレースに発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において検知信号を出力可能に構成され、
前記検知信号は、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断するための診断情報として用いられることを特徴とする建物。
【請求項3】
建物の構造躯体を構成する構造部材に設置される検知手段と、該検知手段と通信または接続可能に構成された診断手段と、を備え、
前記検知手段は、前記構造部材の所定の変形、または、前記構造部材に発生した所定の応力履歴、を検出したことに基づいて所定の検知状態となり、該検知状態において所定の検知信号を出力可能に構成され、
前記診断手段は、外部から入力された操作信号に応じて、前記検知手段から前記検知信号を取得すると共に、該検知信号に基づいて前記構造部材の疲労損傷状態を診断することを特徴とする建物の簡易診断システム。
【請求項4】
前記診断手段は、前記構造部材の診断結果に基づいて、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断することを特徴とする請求項3に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項5】
前記検知手段は、前記検知状態において通電されると共に前記検知状態でない状態において通電遮断される検知回路を備え、
前記検知信号は、前記検知回路が通電されたことに基づき出力され、
前記診断手段は、前記検知信号の出力の有無に基づいて、前記構造部材が所定の疲労損傷状態であるか否かを診断することを特徴とする請求項3に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項6】
前記検知手段は、前記構造躯体に複数設置され、
前記検知信号には、発信元である検知手段を特定可能な識別情報が格納され、
前記診断手段には、前記識別情報と、該識別情報により特定される検知手段の前記構造躯体上の位置と、を対応付けるためのマップ情報が格納されたことを特徴とする請求項3に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項7】
前記診断手段は、前記建物に設置された監視盤、または、前記建物の維持管理を請け負う事業者の事業所に設置された端末または監視盤に診断結果を表示させることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか一項に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項8】
前記構造部材はブレースからなることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項9】
前記構造躯体は鉄骨軸組と耐力壁とを備え、
前記ブレースは前記耐力壁を構成する耐力パネルのフレームに掛け渡された鉛直ブレースからなることを特徴とする請求項8に記載の建物の簡易診断システム。
【請求項10】
請求項3乃至請求項9のいずれか一項に記載の建物の簡易診断システムにより、建物の構造躯体を構成する構造部材の疲労損傷状態を診断する建物の簡易診断方法であって、
建物の構造躯体を構成する構造部材に設置される検知手段が、前記構造部材の所定の変形または前記構造部材に発生した所定の応力履歴を検出したことに基づいて出力する検知信号を、前記検知手段と通信又は接続可能に構成された診断手段が、外部から入力される操作信号に応じて取得する検知信号収集工程と、
前記診断手段が、前記検知信号収集工程において収集した検知信号に基づいて前記構造部材の疲労損傷状態を診断する構造部材診断工程と、
前記診断手段が、前記構造部材診断工程における診断結果に基づいて、前記構造躯体の一部または全体が所定の耐力低下状態であるか否かを診断する構造躯体診断工程と、を行うことを特徴とする建物の簡易診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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