説明

耐噴出水蒸気防護服用複合材料

【課題】
防護服として着用した際の噴出水蒸気に対する優れた身体保護効果と優れた着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)を兼ね備えた耐噴出水蒸気防護服用複合材料を提供する。
【解決手段】
基材の裏面に透湿防水性皮膜が配されてなる複合材料であって、基材は、合成繊維布帛からなり、透湿防水性皮膜は、融点が100℃以上、水膨潤率が0〜2%であるポリウレタン樹脂を基材の裏面に塗布することにより形成されてなり、複合材料の透湿度が1000〜15000g/m・24時間、耐水圧が1000〜30000mmHO、通気度が0〜0.1cc/cm・秒、目付が33〜300g/mであることを特徴とする、耐噴出水蒸気防護服用複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧の水蒸気設備から噴出される可能性のある水蒸気から、身体を保護するための防護服に適した複合材料に関する。詳しくは、防護服として着用した際に、噴出水蒸気に対する身体保護効果に優れるとともに、着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)にも優れ、日常的に着用し通常作業を行うのに適した耐噴出水蒸気防護服用複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種産業分野では、多くの事業所で高温高圧の水蒸気が用いられている。例えば、原子力発電所や火力発電所では、高温高圧の水蒸気にて発電タービンを回し電力を作り出している。また、染色工場や食品工場、船上動力室などにおいても、ボイラーにより高温高圧の水蒸気を作り、加熱処理の熱源や動力源として用いられている。これら事業所にとって、設備の安全を維持することが最優先であることは言うまでもないが、万一、設備が破損し、噴出した水蒸気を作業員が被った場合には、その被害を最小限に抑える必要がある。従来、消防服などの耐熱防護服は多数提案されているが、噴出水蒸気に対する防護服の提案は極めて少ない。
【0003】
消防服などの耐熱防護服は、通常、耐熱性や耐火性を有する外衣と、防水性や断熱性を有する内衣との組合せからなり、さらに、中間衣を設けたものや、これらを一体化したものなどが提案されている。そして、外衣用の材料としては、アラミド繊維などの難燃性有機繊維からなる布帛と、アルミニウムなどの金属蒸着層とを基本の構成とし(輻射熱の反射を目的とする)、さらに保護層など複数の層を設けたものが広く用いられている(例えば、特許文献1)。しかしながら、消防服などの耐熱防護服は、非常時を想定した重厚な装備であるため、動き難く、一般の作業員が日常的に着用し作業するには適さないものであった。また、断熱性を有するが故に、着用者が体内で発生した熱を防護服の外部に放出し難い構造であるとともに、透湿性がないため、発汗による湿気がこもって蒸れ易く、快適性に欠けるものであった。そして、熱気や湿気などから熱疲労を起こし易く、作業ミスにつながるという問題も孕んでいた。さらには、耐噴出水蒸気防護服に求められる、高度な耐湿熱性を備えたものではなかった。
【0004】
一方、耐噴出水蒸気防護服用の材料として、特許文献2には、外殻層と断熱性内側裏張りとからなる材料であって;外殻層は目付けが少なくとも230g/mであるアラミド繊維織布層とその外側に接着層を介して積層されるアルミニウム層(好ましくは、ポリエチレンテレフタレートフィルムを間に挟んだ2層のアルミニウムからなるラミネートフィルム)とからなり、合計の目付けが約300〜400g/mであり;断熱性内側裏張りは1対の織布層とその間に挟まれた複数の不織布層および少なくとも1層、好ましくは1対のフィルム層とからなり、キルティング加工により固定され、合計の目付けが約300〜750g/mである;約2670〜6030kPaの噴出水蒸気で破壊されず、しかも軽量性に優れた材料が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、アラミド繊維織物の表面に耐熱防水被膜をコーティングしてなる表地層と、耐熱性繊維フェルトとその上下に極薄の不織布を配置してなる断熱中間層と、織物からなる裏地層とを、好ましくはキルティング加工により固定し、適切な厚みに形成してなる、過熱水蒸気が吹きつけられても熱劣化することなく、熱貫流による温度上昇を抑制する効果に優れた材料が開示されている。
【0006】
しかしながら、これら耐噴出水蒸気防護服用の材料も、何層もの積層構造をとっており、上記した耐熱防護服用の材料における問題点を解決するものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特許第3828945号公報
【特許文献2】特許第2847220号公報
【特許文献3】特開2007−9380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、防護服として着用した際の噴出水蒸気に対する優れた身体保護効果と優れた着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)を兼ね備えた耐噴出水蒸気防護服用複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材の裏面に透湿防水性皮膜が配されてなる複合材料であって、
基材は、合成繊維布帛からなり、
透湿防水性皮膜は、融点が100℃以上、水膨潤率が0〜2%であるポリウレタン樹脂を基材の裏面に塗布することにより形成されてなり、
複合材料の透湿度が1000〜15000g/m・24時間、耐水圧が1000〜30000mmHO、通気度が0〜0.1cc/cm・秒、目付が33〜300g/mであることを特徴とする、
耐噴出水蒸気防護服用複合材料である。
【0010】
前記耐噴出水蒸気防護服用複合材料において、基材である合成繊維布帛の形態は織物であることが好ましく、そのカバーファクターは1700〜3000であることが好ましい。
また、透湿防水性皮膜の面に裏地が配されてなることが好ましい。
【0011】
さらに、前記耐噴出水蒸気防護服用複合材料の表面に、100℃の水蒸気が連続して直接吹き付けられた場合に、裏面の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間は5秒以上であることが好ましい。
同じく、前記耐噴出水蒸気防護服用複合材料の表面に、97℃の熱水が連続して直接注がれた場合に、裏面の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間は5秒以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防護服として着用した際の噴出水蒸気に対する優れた身体保護効果と優れた着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)を兼ね備えた耐噴出水蒸気防護服用複合材料が提供される。本発明の耐噴出水蒸気防護服用複合材料を用いて製造した耐噴出水蒸気防護服は、着用者の身体から発散される熱気や湿気が蓄積されることなく、熱疲労の原因を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
はじめに、高温高圧の水蒸気が用いられる配管現場について説明する。一般的な工場では、0.3MPa程度の低圧水蒸気と1MPa程度の高圧水蒸気の2種類が用いられることが多い。一方、原子力発電所や火力発電所では、超高圧の、例えば6MPa程度の水蒸気が用いられている。この超高圧飽和水蒸気は、原子力発電所の原子炉蒸気発生器や、火力発電所のボイラーにて作り出され、その温度は約270℃にも達する。そして、水蒸気配管を通して発電タービンに送られ、電力を作り出している。
【0014】
高温高圧水蒸気の噴出事故は、この水蒸気配管が長年の使用により腐食して配管の厚みが薄くなり、破損して起こると推定されている。そこで、配管に小孔があいた場合を想定し、噴出する水蒸気の状態をシミュレーション解析した。具体的には、例えば、床面から垂直方向にのびる、配管内温度270℃、配管内圧力6MPaの水蒸気配管(直径60cm)の、床面から150cmの位置に直径1〜10mmの孔があき、その孔から水平方向に水蒸気が噴出したと仮定し、50〜200cmの距離における状況をシミュレーション解析した。その結果、作業員が通常近づく距離(50cm)での水蒸気の温度は最高でも85.7℃、圧力は0.102MPaであると予測された。これは、配管内の高温高圧水蒸気が噴出する際、水蒸気が持つ圧力エネルギーや熱エネルギーが急激な減圧に伴い運動エネルギーに変換されるためである。そこで、耐噴出水蒸気防護服用複合材料の開発に際し、耐湿熱性、特に耐水蒸気性については、試験体表面での水蒸気温度を85℃に安全率約1.2倍をかけた100℃に設定した。その際の圧力については、通常の気圧約0.1MPaとほとんど変わらないため、考慮しないこととした。
【0015】
また、配管内の高温高圧水蒸気が噴出した場合、水蒸気が凝縮して熱水となることが推定される。そのため、耐噴出水蒸気防護服用複合材料には、耐水蒸気性とともに耐熱水性が求められる。
【0016】
本発明の耐噴出水蒸気防護服用複合材料は、防護服として着用した際に、100℃の水蒸気が直接吹き付けられた場合にも、水蒸気の急激な侵入を防ぎ、着用者が水蒸気の影響を受けない安全な距離まで退避するのに、何秒かの時間的余裕を確保することができるよう設計されたものである。また、本発明の耐噴出水蒸気防護服用複合材料は、防護服として着用した際に、97℃の熱水が直接注がれた場合にも、熱水の急激な侵入を防ぎ、着用者が熱水の影響を受けない安全な距離まで退避するのに、何秒かの時間的余裕を確保することができるよう設計されたものである。さらに、本発明の耐噴出水蒸気防護服用複合材料は、防護服として作業員が日常的に着用し通常作業を行うに際しストレスを感じることがないよう、着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)を考慮して設計されたものである。
【0017】
本発明において耐水蒸気性を有する材料とは、100℃の水蒸気が連続して直接吹き付けられた場合に、材料裏面の温度が、40℃から人体に対し危険となる60℃まで昇温するのに5秒以上要する材料を意味する。
また、本発明において耐熱水性を有する材料とは、97℃の熱水が連続して直接注がれた場合に、材料裏面の温度が、40℃から人体に対し危険となる60℃まで昇温するのに5秒以上要する材料を意味する。
【0018】
本発明の耐噴出水蒸気防護服用複合材料は、基材の裏面に透湿防水性皮膜が配されてなる複合材料であって、
基材は、合成繊維布帛からなり、
透湿防水性皮膜は、融点が100℃以上、水膨潤率が0〜2%であるポリウレタン樹脂を基材の裏面に塗布することにより形成されてなり、
複合材料の透湿度が1000〜15000g/m・24時間、耐水圧が1000〜30000mmHO、通気度が0〜0.1cc/cm・秒、目付が33〜300g/mであることを特徴とする。
ここで基材の裏面とは、耐噴出水蒸気防護服とした際、外側から見えない裏側の部分であり、身体と接する側の面をいう。
以下、耐噴出水蒸気防護服用複合材料を単に複合材料という場合がある。
【0019】
本発明においては、複合材料の基材として、繊維物性全般に優れた合成繊維からなる布帛が用いられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ポリオレフィンなどを挙げることができ、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、吸湿性が低く、かつ、耐熱性に優れた(軟化点や融点が高い)ポリエステルが好ましい。
【0020】
ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどを挙げることができるが、これに限定されるものでなく、第3成分として、例えば、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸、イソフタル酸、ポリエチレングリコールなどを共重合して得られる繊維であってもよい。これらは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐熱性、柔軟性、耐加水分解性のバランスに優れたポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0021】
布帛の形態としては、織物、編物、不織布などを挙げることができる。なかでも、緻密性、引張強度、耐摩耗性の点から織物が好ましい。織物の基本組織としては、平織り、綾織り、繻子織りがあり、そのいずれであっても構わないが、平織りがより好ましい。
なお、本発明において合成繊維布帛とは、合成繊維を主体とする布帛を意味し、その物性に影響を及ぼさない範囲内で、合成繊維以外の繊維を混紡、混繊、交撚、交織、交編などの手法により組み合わせたものであっても構わない。
【0022】
布帛の目付は、30〜270g/mであることが好ましい。目付が30g/m未満であると、布帛の強度が低下し、防護服として着用した際に破れが生じる虞がある。目付が270g/mを超えると、重く、防護服として着用した際に作業性が損なわれる虞がある。作業性を考慮すると、目付を50〜150g/mとすることがより好ましい。
【0023】
一般に、布帛の構造が緻密であるほど、全般的に強度の高い布帛となる。布帛の形態が織物である場合、緻密性はカバーファクターを指標として表すことができる。カバーファクターは、1700〜3000であることが好ましい。カバーファクターが1700未満であると、引張強度や耐摩耗性が不十分となったり、水蒸気抜け(織物の隙間を通して水蒸気が裏面の透湿防水性皮膜に強く当たり、布帛と透湿防水皮膜が剥離する現象)が生じたりする虞がある。カバーファクターが3000を超えると、製織性が損なわれたり、目付が大きくなって、防護服として着用した際に作業性が損なわれたりする虞がある。緻密性や風合いを考慮すると、カバーファクターを1900〜2600とすることがより好ましい。
なお、本発明でいうカバーファクター(CF)は、以下の式で算出される。
CF=(D1×0.9)1/2×M1+(D2×0.9)1/2×M2
D1:経糸の繊度(dtex)
M1:経糸の密度(本/inch)
D2:緯糸の繊度(dtex)
M2:緯糸の密度(本/inch)
【0024】
糸条の形態としては、例えば、紡績糸、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸などを挙げることができる。なかでも、布帛の緻密性や風合いを考慮すると、マルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0025】
糸条の繊度(単糸繊度に対して総繊度という場合もある)は、15〜170detxであることが好ましい。繊度が15dtex未満であると、引張強度や耐摩耗性が不十分となったり、製織性が損なわれたりする虞がある。繊度が170dtexを超えると、密度が粗く水蒸気抜けが生じる虞がある。布帛の軽量性を高めるには、繊度を15〜120dtexとすることがより好ましい。
【0026】
また、単糸繊度は、0.3〜4dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.3dtex未満であると、耐摩耗性が不十分となり、特にはピリングやスナッグなどの見栄え上の不具合を生じたり、布帛の強度が不十分となったりする虞がある。単糸繊度が4dtexを超えると、柔軟性が損なわれる虞がある。布帛の軽量性を高めるには、単糸繊度を0.3〜3.6dtexとすることがより好ましい。
【0027】
布帛には、必要に応じて、撥水処理、帯電防止処理、難燃処理などが施されていてもよい。なかでも、撥水処理を施しておくと、水分の浸透を防止することができ、好ましい。
【0028】
本発明の複合材料は、上記合成繊維布帛からなる基材の裏面に、ポリウレタン樹脂を塗布することにより形成されてなる透湿防水性皮膜が配されてなる積層構造を有する。基材にポリウレタン樹脂からなる透湿防水性皮膜を積層する方法としては、ポリウレタン樹脂の溶液または分散液を基材に直接塗布する方法(コーティング法)や、離型紙にポリウレタン樹脂の溶液または分散液を塗布して形成した透湿防水性皮膜を、接着剤を用いて、基材にラミネートする方法(ラミネート法)、熱溶融したポリウレタン樹脂を基材に直接塗布する方法(Tダイ法)があるが、基材である布帛との密着性や、軽量性の点から、本発明においてはコーティング法を採用するものとする。塗布方式としては、フローティングナイフコーティング方式、ロールオンナイフコーティング方式、リバースコーティング方式などを採用することができる。なお、ポリウレタン樹脂からなる皮膜とは、ポリウレタン樹脂を主成分として構成される皮膜を意味し、その物性に影響を及ぼさない範囲内で、他の成分を含んでいても構わない。
【0029】
ポリウレタン樹脂からなる皮膜に透湿性を付与するには、皮膜に多数の微細孔を形成して微多孔質膜とするか、あるいは透湿性を有するポリウレタン樹脂を用いて無孔質膜を形成することにより達成される。
【0030】
基材と微多孔質膜の積層品は、ポリウレタン樹脂を水に可溶な溶媒に溶解または分散させてなるポリウレタン樹脂液を、基材の裏面に塗布し、これを湿式凝固させることにより製造することができる。微多孔質膜は、例えば、径0.0004μmの水蒸気は透過し、径100μm以上の水滴は透過しない程度の径の微細孔を多数有している。そして、着用者の発汗による湿気を透過する一方、高温の水蒸気が吹き付けられた場合には、水蒸気が表面に凝縮して水滴となり、微細孔を塞いで、水蒸気の急激な侵入を防ぐことができる。このように、微多孔質膜は透湿性と防水性を併せ持つ。微細孔の平均孔径は、0.0004〜1μmであることが好ましく、0.001〜0.5μmであることがより好ましい。平均孔径が0.0004μm未満であると、透湿性が不十分となり、防護服として着用した際に快適性(蒸れ感のなさ)が損なわれる虞がある。平均孔径が1μmを超えると、防水性が不十分となる虞がある。
【0031】
微多孔質膜の形成に用いられるポリウレタン樹脂としては、ポリエステル系ポリウレタンを含んだポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
ポリウレタン樹脂の融点は、100℃以上であることが求められ、さらには130℃以上であることが好ましい。融点が100℃未満であると、水蒸気や熱水により溶融する虞がある。また、複合材料を製造する際に加工温度の制限が多くなり、製造コストの高騰を招く虞がある。
【0033】
ポリウレタン樹脂の水膨潤率は、0〜2%であることが求められ、さらには0〜1%であることが好ましい。水膨潤率が2%を超えると、水蒸気が吹き付けられた場合に即座に膨潤し、膜強度、特には引張強度や、布帛との剥離強度が低下する結果、防水性が不十分となる虞がある。
【0034】
微多孔質膜の通気度は、0〜0.2cc/cm・秒であることが好ましく、0〜0.1cc/cm・秒であることがより好ましい。通気度が0.2cc/cm・秒を超えると、防水性が不十分となる虞がある。
【0035】
微多孔質膜の厚みは、3〜30μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。厚みが3μm未満であると、膜強度、特には引張強度や、布帛との剥離強度が低下し、防護服として着用した際に破れが生じたり、防水性が低下したりする虞や、熱が伝わりやすく、耐水蒸気性や耐熱水性が不十分となる虞がある。厚みが30μmを超えると、嵩張ったり硬くなったりして、防護服として着用した際に作業性が損なわれる虞がある。
【0036】
一方、基材と無孔質膜の積層品は、透湿性を有するポリウレタン樹脂を溶媒に溶解または分散させてなるポリウレタン樹脂液を、基材の裏面に塗布し、これを乾燥させることにより製造することができる。無孔質膜では、分子間の結合が弱い非晶質部分に水蒸気が入り込んでいくことにより透湿性を発揮する。また、無孔質であるため高い防水性を有する。そして、着用者の発汗による湿気を透過する一方、高温の水蒸気が吹き付けられた場合には、水蒸気が表面に凝縮して水滴となり、水蒸気の急激な侵入を防ぐことができる。
【0037】
無孔質膜の形成に用いられるポリウレタン樹脂としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの親水性成分を含有させたポリエーテル系ポリウレタンを含んだポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0038】
無孔質膜の形成に用いられるポリウレタン樹脂の融点および水膨潤率、ならびに、無孔質膜の通気度および厚みに関しては、微多孔質膜の場合と同様である。
【0039】
本発明において、透湿防水性皮膜は、微多孔質膜または無孔質膜のいずれであっても構わないが、防護服として着用した際の快適性(蒸れ感のなさ)の点から微多孔質膜が好ましい。
【0040】
かくして、本発明の複合材料を得ることができる。
本発明の複合材料の透湿度は、1000〜15000g/m・24時間であることが求められ、さらには2000〜15000g/m・24時間であることが好ましい。透湿度が1000g/m・24時間未満であると、防護服として着用した際に快適性(蒸れ感のなさ)が損なわれる虞がある。透湿度が15000g/m・24時間を超えると、耐水圧の条件を満足することができず防水性が不十分となる虞がある。
【0041】
複合材料の耐水圧は、1000〜30000mmHOであることが求められ、さらには2000〜30000mmHOであることが好ましい。耐水圧が1000mmHO未満であると、防水性が不十分となる虞がある。耐水圧が30000mmHOを超えると、透湿度の条件を満足することができず、防護服として着用した際に快適性(蒸れ感のなさ)が損なわれる虞がある。
【0042】
複合材料の通気度は、0〜0.1cc/cm・秒であることが求められ、さらには0〜0.05cc/cm・秒であることが好ましい。通気度が0.1cc/cm・秒を超えると、防水性が不十分となる虞がある。
【0043】
複合材料の目付は、33〜300g/mであることが求められ、さらには55〜170g/mであることが好ましい。目付が33g/m未満であると、強度が低下したり、熱が伝わりやすく、耐水蒸気性や耐熱水性が不十分となったりする虞がある。目付が300g/mを超えると、重く、防護服として着用した際に作業性が損なわれる虞がある。
【0044】
複合材料の厚みは、0.05〜1mmであることが好ましく、0.1〜0.7mmであることがより好ましい。厚みが0.05mm未満であると、強度が低下したり、熱が伝わりやすく、耐水蒸気性や耐熱水性が不十分となったりする虞がある。厚みが1mmを超えると、嵩張ったり硬くなったりして、防護服として着用した際に作業性が損なわれる虞がある。
【0045】
かかる構成を有する本発明の複合材料は、防護服として着用した際の噴出水蒸気に対する優れた身体保護効果と優れた着用感、特には作業性および快適性(蒸れ感のなさ)を兼ね備えている。具体的には、100℃の水蒸気が直接吹き付けられたり、97℃の熱水が直接注がれたりした場合にも、水蒸気や熱水の急激な侵入を防ぎ、着用者が水蒸気や熱水の影響を受けない安全な距離まで退避するのに、何秒かの時間的余裕を確保することができる。しかも、単純な積層品であるため軽量で、また、透湿性を有するため蒸れることがなく、作業員が日常的に着用し通常作業を行うに際しストレスを感じることがない。
【0046】
本発明の複合材料は、基材と透湿防水性皮膜の2層構造を必須の構成とするが、噴出水蒸気に対する身体保護効果を高めるため、上記した透湿度や耐水圧、通気度の条件を満足する限りにおいて、2層品同士を積層して貼り合わせ4層品としてもよい。
【0047】
貼り合わせに用いられる接着剤としては、耐湿熱性を有する接着剤が好ましく用いられる。さらには、透湿性を有するものであるとより好ましい。
透湿性を有する接着剤を用いる場合には全面接着であっても構わないが、透湿性を有さない接着剤を用いる場合や、透湿性を有する接着剤を用いる場合にあっても、点状や線状、市松模様、亀甲模様などの部分接着とすることが好ましい。接着剤の塗布方式としては、フローティングナイフコーティング方式、ロールオンナイフコーティング方式、リバースコーティング方式、グラビアプリント方式、スクリーンプリント方式などを採用することができ、特に、部分接着とする場合には、グラビアプリント方式、スクリーンプリント方式を採用することが好ましい。
積層する1組の2層品は、それぞれ同一の構成のものであっても(それぞれ同一の基材と同一の透湿防水性皮膜からなる2層品)、異なる構成のものであっても構わない。
【0048】
さらに、透湿防水性皮膜の面に裏地を積層し、3層品あるいは5層品としてもよい。裏地として、吸水性繊維からなる布帛を選択することにより、肌触りなどの着用感をより良くすることができる。吸水性繊維としては、例えば、綿(天然繊維)、レーヨン(再生繊維)、アセテート、プロミックス(以上、半合成繊維)、ナイロン、ビニロン(以上、合成繊維)などを挙げることができ、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、吸水性の高さから綿が好ましい。また、布帛の形態としては、織物、編物、不織布などを挙げることができ、そのいずれであっても構わないが、なかでも、柔軟性の点から編物が好ましい。
【0049】
基材と透湿防水性皮膜の2層品あるいは4層品と、裏地との積層は、接着剤を介して貼り合わせるか、あるいは、耐噴出水蒸気防護服を仕立てる際に、前記積層品と重ねてともに縫い合わせることにより行われる。
【0050】
貼り合わせに用いられる接着剤は、耐湿熱性を有し、かつ、透湿防水性皮膜(ポリウレタン樹脂からなる)との接着性に優れるという理由により、ポリウレタン系接着剤が好ましく、溶剤可溶型、湿気硬化性ホットメルト型のいずれも使用可能である。また、透湿性を有するものであるとより好ましい。
【0051】
透湿性を有する接着剤を用いる場合には全面接着であっても構わないが、透湿性を有さない接着剤を用いる場合や、透湿性を有する接着剤を用いる場合にあっても、点状や線状、市松模様、亀甲模様などの部分接着とすることが好ましい。接着剤の塗布方式としては、フローティングナイフコーティング方式、ロールオンナイフコーティング方式、リバースコーティング方式、グラビアプリント方式、スクリーンプリント方式などを採用することができ、特に、部分接着とする場合には、グラビアプリント方式、スクリーンプリント方式を採用することが好ましい。
【0052】
裏地を積層して3層品あるいは5層品とする場合も、上記した透湿度や耐水圧、通気度の条件を満足する必要があるのは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例における物性値の測定、および着用感の評価は以下のように行った。
【0054】
ポリウレタン樹脂
(1)融点
示差走差熱量計(DSC)を用いて、融解熱発生温度を測定した。
(2)水膨潤率
ポリウレタン樹脂溶液(任意成分を含まない)を、得られる皮膜の厚みが15μmとなるように、アプリケーターを用いて離型紙上に塗布後、乾燥させた。離型紙を剥離後、得られた皮膜より、10cm×10cmの大きさの試料を切り出し、24℃の蒸留水に1時間浸漬した。その後、取り出して余分な水分を取り除いた後、重量変化率を求めた。
【0055】
透湿防水性皮膜(微多孔質膜)
(3)微細孔の平均孔径
走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、平均孔径を求めた。
(4)通気度
実施例と同じ組成のポリウレタン樹脂溶液を、得られる微多孔質膜の厚みが実施例と同じになるように、ロールオンコーターを用いて離型布上に塗布後、24℃の水中に1分間浸漬して凝固させ、次いで乾燥させた。離型布を剥離後、得られた微多孔質膜について、JIS L−1096 A法(フラジール法)に従い、通気度を測定した。
【0056】
複合材料
(5)透湿度
JIS L−1099 A−1法(塩化カルシウム法)に従った。
(6)耐水圧
JIS L−1092 B法(高水圧法)に従った。
(7)通気度
JIS L−1096 A法(フラジール法)に従った。
(8)耐摩耗性
JIS L−1096 C法(テーバー形法)に従った。摩耗後の試験体を目視にて観察し、○:良好、△:問題なし、×:問題あり、の3段階で評価した。
【0057】
(9)耐水蒸気性
35℃(体温を想定)の温水で満たした600mLのポリ容器を、20cm×30cmの大きさの試験体で覆い、試験体の外側と内側に熱電対式温度センサーを取り付けた。
配管内温度130℃、配管内圧力0.4MPaの水蒸気配管(直径2cm)が接続され、所定位置において100℃の水蒸気が吹き付けられるように調整された、約6.5Lの金属製円柱状容器(直径218cm、高さ181cm)内の所定位置に、試験体を、センサー感知部分に水蒸気が直接吹き付けられるように設置した。
容器の上部を開放した状態で、試験体に100℃の水蒸気を連続して30秒間吹き付け、試験体の外側と内側の温度変化を測定した。試験体内側の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間を求め、耐水蒸気性とした。
【0058】
(10)耐熱水性
35℃(体温を想定)の温水で満たした600mLのポリ容器を、20cm×30cmの大きさの試験体で覆い、試験体の外側と内側に熱電対式温度センサーを取り付けた。
給湯器の吐出口から10cmの位置に、試験体を、センサー感知部分に熱水が直接当たるように設置した。
試験体に97℃の熱水を4L/分の流量で連続して30秒間注ぎ、試験体の外側と内側の温度変化を測定した。試験体内側の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間を求め、耐熱水性とした。
【0059】
防護服
(11)柔軟性
(12)肌触り
(13)蒸れ感
(14)重量感
(15)作業性
複合材料を用いて防護服を製造した。7名のモニターによる着用試験を行い、柔軟性、肌触り、蒸れ感、重量感、作業性について、○:良好、△:問題なし、×:問題あり、の3段階で官能評価し、その平均を採用した。
【0060】
[実施例1]
経糸、緯糸ともに84dtex/36フィラメント(単糸繊度2.33dtex)のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸で構成された平織物の生機を準備した。常法により精練、染色を行った後、処方1に示す組成の水分散液に浸漬し、マングルにて絞り(絞り率80%)、乾燥後、160℃で1分間の熱処理を行うことにより、撥水処理を施した。得られた撥水処理平織物の経糸密度は175本/inch、緯糸密度は105本/inch、カバーファクターは2425、厚みは0.15mm、目付は117g/mであった。この撥水処理平織物を基材として用いた。
処方1
アサヒガードAG−7000 6重量%
(フッ素系撥水剤、旭硝子化学工業株式会社製)
ベッカミンJ−101 0.3重量%
(メラミン系架橋剤、大日本インキ化学工業株式会社製)
塩化アンモニウム(触媒) 0.01重量%
水 93.69重量%
【0061】
次いで、基材の裏面に、処方2に示す組成のポリウレタン樹脂溶液を、得られる微多孔質膜の厚みが20μmとなるように、ロールオンコーターを用いて塗布量20g/mで塗布後、24℃の水中に1分間浸漬して凝固させ、次いで乾燥させることにより、基材と微多孔質膜の2層品を得た。得られた2層品の厚みは0.2mm、目付は137g/mであった。
処方2
クリスボンMP−829 65重量%
(透湿性ポリウレタン樹脂、融点200℃以上、水膨潤率0.5%、大日本インキ化学工業株式会社製)
クリスボンアシスターSD−17B 5重量%
(微多孔調整剤、大日本インキ化学工業株式会社製)
コロネートHX 1重量%
(イソシアネート系架橋剤、日本ポリウレタン工業株式会社製)
DMF 29重量%
【0062】
[実施例2]
基材として、撥水処理を施していない平織物を用いた以外は、実施例1と同様にして基材と微多孔質膜の2層品を得た。得られた2層品の厚みは0.2mm、目付は136g/mであった。
【0063】
[実施例3]
綿天竺編物の生機を準備し、常法により精練、染色を行った。得られた天竺編物の厚みは0.43mm、目付は112g/mであった。この天竺編物を裏地として用いた。
実施例1で得られた2層品の微多孔質膜の面に、湿気硬化性ホットメルト型ポリウレタン系接着剤タイフォースNH−300(大日本インキ化学工業株式会社製)を、グラビアロールを用いて直径0.6mmの点状に塗布量25g/mで塗布した。次いで、裏地を重ね、ニップロールを用いて圧着することにより、基材と微多孔質膜と裏地の3層品を得た。得られた3層品の厚みは0.6mm、目付は274g/mであった。
【0064】
[実施例4]
実施例1で得られた2層品の微多孔質膜の面に、実施例3の裏地を重ね、3層品として評価した。3層品としての厚みは0.59mm、目付は249g/mであった。物性値を測定するにあたっては、必要に応じて、その周辺部を縫い合わせた。また、防護服を製造するにあたっては、所定の箇所を縫い合わせた。
【0065】
[実施例5]
ポリエチレンテレフタレートの混率が65重量%、レーヨンの混率が35重量%であるツイル織物の生機を準備し、常法により精練、染色を行った。得られたツイル織物の厚みは0.36mm、目付は100g/mであった。このツイル織物を裏地として用いた。
これ以外は実施例4と同様にして3層品として評価した。3層品としての厚みは0.54mm、目付は237g/mであった。
【0066】
[実施例6]
基材として、経糸密度が100本/inch、緯糸密度が90本/inch、カバーファクターが1645、厚みが0.14mm、目付が80g/mである撥水処理平織物を用いた以外は、実施例3と同様にして基材と微多孔質膜と裏地の3層品を得た。得られた3層品の厚みは0.54mm、目付は237g/mであった。
【0067】
[比較例1]
実施例1の基材を、そのまま用いた。
【0068】
[比較例2]
微多孔質膜の厚みを1.5μm、塗布量を1.5g/mとした以外は、実施例3と同様にして基材と微多孔質膜と裏地の3層品を得た。得られた3層品の厚みは0.58mm、目付は256g/mであった。
【0069】
[比較例3]
微多孔質膜の厚みを50μm、塗布量を50g/mとした以外は、実施例3と同様にして基材と微多孔質膜と裏地の3層品を得た。得られた3層品の厚みは0.63mm、目付は304g/mであった。
【0070】
[比較例4]
基材として、経糸、緯糸ともに167dtex/48フィラメント(単糸繊度3.48dtex)のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸で構成され、経糸密度が143本/inch、緯糸密度が107本/inch、カバーファクターが3061、厚みが0.3mm、目付が155g/mである撥水処理平織物を用いた以外は、実施例3と同様にして基材と微多孔質膜と裏地の3層品を得た。得られた3層品の厚みは0.75mm、目付は312g/mであった。
【0071】
上記実施例および比較例の積層品について、物性値等を測定した結果を表1および表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の裏面に透湿防水性皮膜が配されてなる複合材料であって、
基材は、合成繊維布帛からなり、
透湿防水性皮膜は、融点が100℃以上、水膨潤率が0〜2%であるポリウレタン樹脂を基材の裏面に塗布することにより形成されてなり、
複合材料の透湿度が1000〜15000g/m・24時間、耐水圧が1000〜30000mmHO、通気度が0〜0.1cc/cm・秒、目付が33〜300g/mであることを特徴とする、
耐噴出水蒸気防護服用複合材料。
【請求項2】
合成繊維布帛の形態が織物であることを特徴とする、請求項1に記載の耐噴出水蒸気防護服用複合材料。
【請求項3】
カバーファクターが1700〜3000であることを特徴とする、請求項2に記載の耐噴出水蒸気防護服用複合材料。
【請求項4】
透湿防水性皮膜の面に裏地が配されてなることを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項に記載の耐噴出水蒸気防護服用複合材料。
【請求項5】
表面に100℃の水蒸気が連続して直接吹き付けられた場合に、裏面の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間が5秒以上であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか一項に記載の耐噴出水蒸気防護服用複合材料。
【請求項6】
表面に97℃の熱水が連続して直接注がれた場合に、裏面の温度が40℃から60℃まで昇温するのに要する時間が5秒以上であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか一項に記載の耐噴出水蒸気防護服用複合材料。

【公開番号】特開2010−84258(P2010−84258A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253625(P2008−253625)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】